2018/11/26

ヤミ の エマキ

 ヤミ の エマキ

 カジイ モトジロウ

 サイキン トウキョウ を さわがした ユウメイ な ゴウトウ が つかまって かたった ところ に よる と、 カレ は なにも みえない ヤミ の ナカ でも、 1 ポン の ボウ さえ あれば ナンリ でも はしる こと が できる と いう。 その ボウ を カラダ の マエ へ つきだし つきだし して、 ハタケ でも なんでも メクラメッポウ に はしる の だ そう で ある。
 ワタシ は この キジ を シンブン で よんだ とき、 そぞろ に ソウカイ な センリツ を きんじる こと が できなかった。
 ヤミ! その ナカ では ワレワレ は ナニ を みる こと も できない。 より ふかい アンコク が、 いつも たえない ハドウ で こっこく と シュウイ に せまって くる。 こんな ナカ では シコウ する こと さえ できない。 ナニ が ある か わからない ところ へ、 どうして ふみこんで ゆく こと が できよう。 もちろん ワレワレ は スリアシ でも して すすむ ホカ は ない だろう。 しかし それ は クジュウ や フアン や キョウフ の カンジョウ で いっぱい に なった イッポ だ。 その イッポ を かんぜん と ふみだす ため には、 ワレワレ は アクマ を よばなければ ならない だろう。 ハダシ で アザミ を ふんづける! その ゼツボウ への ジョウネツ が なくて は ならない の で ある。
 ヤミ の ナカ では、 しかし、 もし ワレワレ が そうした イシ を すてて しまう なら、 なんと いう ふかい アンド が ワレワレ を つつんで くれる だろう。 この カンジョウ を おもいうかべる ため には、 ワレワレ が トカイ で ケイケン する テイデン を おもいだして みれば いい。 テイデン して ヘヤ が マックラ に なって しまう と、 ワレワレ は サイショ なんとも いえない フカイ な キモチ に なる。 しかし ちょっと キ を かえて ノンキ で いて やれ と おもう と ドウジ に、 その クラヤミ は デントウ の シタ では あじわう こと の できない さわやか な アンソク に ヘンカ して しまう。
 ふかい ヤミ の ナカ で あじわう この アンソク は いったい ナニ を イミ して いる の だろう。 イマ は ダレ の メ から も かくれて しまった―― イマ は キョダイ な ヤミ と イチニョ に なって しまった―― それ が この カンジョウ なの だろう か。
 ワタシ は ながい アイダ ある サンカン の リョウヨウチ に くらして いた。 ワタシ は そこ で ヤミ を あいする こと を おぼえた。 ヒルマ は キンモウ の ウサギ が あそんで いる よう に みえる タニムコウ の カレカヤヤマ が、 ヨル に なる と くろぐろ と した イフ に かわった。 ヒルマ キ の つかなかった ジュモク が イギョウ な スガタ を ソラ に あらわした。 ヨル の ガイシュツ には チョウチン を もって ゆかなければ ならない。 ――ツキヨ と いう もの は チョウチン の いらない ヨル と いう こと を イミ する の だ。 ――こうした ハッケン は トカイ から フイ に サンカン へ いった モノ の ヤミ を しる ダイイチ カイテイ で ある。
 ワタシ は このんで ヤミ の ナカ へ でかけた。 タニギワ の おおきな シイ の キ の シタ に たって とおい カイドウ の コドク な デントウ を ながめた。 ふかい ヤミ の ナカ から とおい ちいさな ヒカリ を ながめる ほど カンショウテキ な もの は ない だろう。 ワタシ は その ヒカリ が はるばる やって きて、 ヤミ の ナカ の ワタシ の キモノ を ほのか に そめて いる の を しった。 また ある ところ では タニ の ヤミ へ むかって イッシン に イシ を なげた。 ヤミ の ナカ には 1 ポン の ユズ の キ が あった の で ある。 イシ が ハ を わけて かつかつ と ガケ へ あたった。 ひとしきり する と ヤミ の ナカ から は ホウレツ な ユズ の ニオイ が たちのぼって きた。
 こうした こと は リョウヨウチ の ミ を かむ よう な コドク と きりはなせる もの では ない。 ある とき は ミサキ の ミナトマチ へ ゆく ジドウシャ に のって、 わざと ハクボ の トウゲ へ ワタシ ジシン を イキ された。 ふかい ケイコク が ヤミ の ナカ へ しずむ の を みた。 ヨ が ふけて くる に したがって くろい ヤマヤマ の オネ が ふるい チキュウ の ホネ の よう に みえて きた。 カレラ は ワタシ の いる の も しらない で はなしだした。
「おい。 いつまで オレタチ は こんな こと を して いなきゃ ならない ん だ」
 ワタシ は その リョウヨウチ の 1 ポン の ヤミ の カイドウ を イマ も あたらしい インショウ で おもいだす。 それ は タニ の カリュウ に あった 1 ケン の リョカン から ジョウリュウ の ワタシ の リョカン まで かえって くる ミチ で あった。 タニ に そって ミチ は すこし ノボリ に なって いる。 3~4 チョウ も あった で あろう か。 その アイダ には ごく まれ に しか デントウ が ついて いなかった。 イマ でも その カズ が かぞえられる よう に おもう くらい だ。 サイショ の デントウ は リョカン から カイドウ へ でた ところ に あった。 ナツ は それ に ムシ が たくさん あつまって きて いた。 1 ピキ の アオガエル が いつも そこ に いた。 デントウ の マシタ の デンチュウ に いつも ぴたり と ミ を つけて いる の で ある。 しばらく みて いる と、 その アオガエル は きまった よう に アトアシ を ヘン な ふう に まげて、 セナカ を かく マネ を した。 デントウ から おちて くる コムシ が ひっつく の かも しれない。 いかにも うるさそう に それ を やる の で ある。 ワタシ は よく それ を ながめて たちどまって いた。 いつも ヨフケ で いかにも しずか な ナガメ で あった。
 しばらく ゆく と ハシ が ある。 その ウエ に たって タニ の ジョウリュウ の ほう を ながめる と、 くろぐろ と した ヤマ が ソラ の ショウメン に たちふさがって いた。 その チュウフク に 1 コ の デントウ が ついて いて、 その ヒカリ が なんとなし に キョウフ を よびおこした。 ばあーん と シンバル を たたいた よう な カンジ で ある。 ワタシ は その ハシ を わたる たび に ワタシ の メ が いつも なんとなく それ を みる の を さけたがる の を かんじて いた。
 カリュウ の ほう を ながめる と、 タニ が セ を なして ごうごう と げきして いた。 セ の イロ は ヤミ の ナカ でも しろい。 それ は また シッポ の よう に ほそく なって カリュウ の ヤミ の ナカ へ きえて ゆく の で ある。 タニ の キシ には スギバヤシ の ナカ に スミヤキゴヤ が あって、 しろい ケムリ が きりたった ヤマ の ヤミ を はいのぼって いた。 その ケムリ は ときとして カイドウ の ウエ へ おもくるしく ながれて きた。 だから カイドウ は ヒ に よって は その ジュシ-くさい ニオイ や、 また ヒ に よって は バリキ の とおった ヒルマ の ニオイ を のこして いたり する の だった。
 ハシ を わたる と ミチ は タニ に そって のぼって ゆく。 ヒダリ は タニ の ガケ。 ミギ は ヤマ の ガケ。 ユクテ に しろい デントウ が ついて いる。 それ は ある リョカン の ウラモン で、 それ まで の マッスグ な ミチ で ある。 この ヤミ の ナカ では なにも かんがえない。 それ は ユクテ の しろい デントウ と ミチ の ほんの わずか の コウバイ の ため で ある。 これ は ニクタイ に かせられた シゴト を イミ して いる。 めざす しろい デントウ の ところ まで ゆきつく と、 いつも ワタシ は イキギレ が して オウライ の ウエ で たちどまった。 コキュウ コンナン。 これ は じっと して いなければ いけない の で ある。 ヨウジ も ない のに ヨフケ の ミチ に たって ぼんやり ハタケ を ながめて いる よう な フウ を して いる。 しばらく する と また あるきだす。
 カイドウ は そこ から ミギ へ まがって いる。 タニゾイ に おおきな シイ の キ が ある。 その キ の ヤミ は いたって キョダイ だ。 その シタ に たって みあげる と、 ふかい おおきな ドウクツ の よう に みえる。 フクロウ の コエ が その オク に して いる こと が ある。 ミチ の カタワラ には ちいさな アザ が あって、 そこ から さして くる ヒカリ が、 ミチ の ウエ に おしかぶさった タケヤブ を しろく ひからせて いる。 タケ と いう もの は ジュモク の ナカ で もっとも ヒカリ に かんじやすい。 ヤマ の ナカ の トコロドコロ に むれたって いる タケヤブ。 カレラ は ヤミ の ナカ でも その アリカ を ほのじろく ひからせる。
 そこ を すぎる と ミチ は きりたった ガケ を まがって、 とつじょ ひろびろ と した テンボウ の ナカ へ でる。 ガンカイ と いう もの が こう も ヒト の ココロ を かえて しまう もの だろう か。 そこ へ くる と ワタシ は いつも イマ が イマ まで ワタシ の ココロ を しめて いた にえきらない カンガエ を ふるいおとして しまった よう に かんじる の だ。 ワタシ の ココロ には あたらしい ケツイ が うまれて くる。 ひめやか な ジョウネツ が しずか に ワタシ を みたして くる。
 この ヤミ の フウケイ は タンジュン な ちからづよい コウセイ を もって いる。 ヒダリテ には タニ の ムコウ を ヨゾラ を くぎって ハチュウ の セ の よう な オネ が えんえん と はって いる。 くろぐろ と した スギバヤシ が パノラマ の よう に めぐって ワタシ の ユクテ を ふかい ヤミ で つつんで しまって いる。 その ゼンケイ の ナカ へ、 ミギテ から も スギヤマ が かたむきかかる。 この ヤマ に そって カイドウ が ゆく。 ユクテ は いかん とも する こと の できない ヤミ で ある。 この ヤミ へ たっする まで の キョリ は 100 メートル あまり も あろう か。 その トチュウ に たった 1 ケン だけ ジンカ が あって、 カエデ の よう な キ が ゲントウ の よう に ヒカリ を あびて いる。 おおきな ヤミ の フウケイ の ナカ で ただ そこ だけ が こんもり あかるい。 カイドウ も その マエ では すこし あかるく なって いる。 しかし ゼンポウ の ヤミ は その ため に なお いっそう くらく なり カイドウ を のみこんで しまう。
 ある ヨ の こと、 ワタシ は ワタシ の マエ を ワタシ と おなじ よう に チョウチン なし で あるいて ゆく ヒトリ の オトコ が ある の に キ が ついた。 それ は とつぜん その イエ の マエ の アカルミ の ナカ へ スガタ を あらわした の だった。 オトコ は アカルミ を セ に して だんだん ヤミ の ナカ へ はいって いって しまった。 ワタシ は それ を イッシュ イヨウ な カンドウ を もって ながめて いた。 それ は、 あらわ に いって みれば、 「ジブン も しばらく すれば あの オトコ の よう に ヤミ の ナカ へ きえて ゆく の だ。 ダレ か が ここ に たって みて いれば やはり あんな ふう に きえて ゆく の で あろう」 と いう カンドウ なの で あった が、 きえて ゆく オトコ の スガタ は そんな にも カンジョウテキ で あった。
 その イエ の マエ を すぎる と、 ミチ は タニ に そった スギバヤシ に さしかかる。 ミギテ は きりたった ガケ で ある。 それ が ヤミ の ナカ で ある。 なんと いう くらい ミチ だろう。 そこ は ツキヨ でも くらい。 あるく に したがって クラサ が まして ゆく。 フアン が たかまって くる。 それ が ある キョクテン に まで たっしよう と する とき、 とつじょ ごおっ と いう オト が アシモト から おこる。 それ は スギバヤシ の キレメ だ。 ちょうど マシタ に あたる セ の オト が にわか に その キレメ から おしよせて くる の だ。 その オト は すさまじい。 キモチ には ある コンラン が おこって くる。 ダイク とか サカン とか そういった レンチュウ が タニ の ナカ で フカシギ な サカモリ を して いて、 その タカワライ が わっはっは、 わっはっは と きこえて くる よう な キ の する こと が ある。 ココロ が ねじきれそう に なる。 すると その トタン、 ミチ の ユクテ に ぱっと 1 コ の デントウ が みえる。 ヤミ は そこ で おわった の だ。
 もう そこ から は ワタシ の ヘヤ は ちかい。 デントウ の みえる ところ が ガケ の マガリカド で、 そこ を まがれば すぐ ワタシ の リョカン だ。 デントウ を みながら ゆく ミチ は こころやすい。 ワタシ は サイゴ の アンド と ともに その ミチ を あいて ゆく。 しかし キリ の ヨル が ある。 キリ に かすんで しまって デントウ が トオク に みえる。 いって も いって も そこ まで ゆきつけない よう な フシギ な キモチ に なる の だ。 イツモ の アンド が きえて しまう。 とおい とおい キモチ に なる。
 ヤミ の フウケイ は いつ みて も かわらない。 ワタシ は この ミチ を ナンド と いう こと なく あるいた。 いつも おなじ クウソウ を くりかえした。 インショウ が ココロ に きざみつけられて しまった。 カイドウ の ヤミ、 ヤミ より も こい ジュモク の ヤミ の スガタ は イマ も ワタシ の メ に のこって いる。 それ を おもいうかべる たび に、 ワタシ は イマ いる トカイ の どこ へ いって も デントウ の ヒカリ の ながれて いる ヨル を うすっきたなく おもわない では いられない の で ある。

ある オンナ (ゼンペン)

 ある オンナ  (ゼンペン)  アリシマ タケオ  1  シンバシ を わたる とき、 ハッシャ を しらせる 2 バンメ の ベル が、 キリ と まで は いえない 9 ガツ の アサ の、 けむった クウキ に つつまれて きこえて きた。 ヨウコ は ヘイキ で それ ...