2005/01/18

ワガハイ は ネコ で ある (1)

 ワガハイ は ネコ で ある

 ナツメ ソウセキ

 1

 ワガハイ は ネコ で ある。 ナマエ は まだ ない。
 どこ で うまれた か とんと ケントウ が つかぬ。 なんでも うすぐらい じめじめ した ところ で にゃーにゃー ないて いた こと だけ は キオク して いる。 ワガハイ は ここ で はじめて ニンゲン と いう もの を みた。 しかも アト で きく と それ は ショセイ と いう ニンゲン-チュウ で いちばん ドウアク な シュゾク で あった そう だ。 この ショセイ と いう の は ときどき ワレワレ を つかまえて にて くう と いう ハナシ で ある。 しかし その トウジ は なんと いう カンガエ も なかった から べつだん おそろしい とも おもわなかった。 ただ カレ の テノヒラ に のせられて すーと もちあげられた とき なんだか ふわふわ した カンジ が あった ばかり で ある。 テノヒラ の ウエ で すこし おちついて ショセイ の カオ を みた の が いわゆる ニンゲン と いう もの の ミハジメ で あろう。 この とき ミョウ な もの だ と おもった カンジ が イマ でも のこって いる。 だいいち ケ を もって ソウショク され べき はず の カオ が つるつる して まるで ヤカン だ。 ソノゴ ネコ にも だいぶ あった が こんな カタワ には イチド も でくわした こと が ない。 のみならず カオ の マンナカ が あまり に トッキ して いる。 そうして その アナ の ナカ から ときどき ぷうぷう と ケムリ を ふく。 どうも むせぽくて じつに よわった。 これ が ニンゲン の のむ タバコ と いう もの で ある こと は ようやく コノゴロ しった。
 この ショセイ の テノヒラ の ウチ で しばらく は よい ココロモチ に すわって おった が、 しばらく する と ヒジョウ な ソクリョク で ウンテン しはじめた。 ショセイ が うごく の か ジブン だけ が うごく の か わからない が むやみ に メ が まわる。 ムネ が わるく なる。 とうてい たすからない と おもって いる と、 どさり と オト が して メ から ヒ が でた。 それまで は キオク して いる が アト は なんの こと やら いくら かんがえだそう と して も わからない。
 ふと キ が ついて みる と ショセイ は いない。 たくさん おった キョウダイ が 1 ピキ も みえぬ。 カンジン の ハハオヤ さえ スガタ を かくして しまった。 そのうえ イマ まで の ところ とは ちがって むやみ に あかるい。 メ を あいて いられぬ くらい だ。 はてな なんでも ヨウス が おかしい と、 のそのそ はいだして みる と ヒジョウ に いたい。 ワガハイ は ワラ の ウエ から キュウ に ササハラ の ナカ へ すてられた の で ある。
 ようやく の オモイ で ササハラ を はいだす と ムコウ に おおきな イケ が ある。 ワガハイ は イケ の マエ に すわって どう したら よかろう と かんがえて みた。 べつに これ と いう フンベツ も でない。 しばらく して ないたら ショセイ が また むかい に きて くれる か と かんがえついた。 にゃー、 にゃー と こころみに やって みた が ダレ も こない。 そのうち イケ の ウエ を さらさら と カゼ が わたって ヒ が くれかかる。 ハラ が ヒジョウ に へって きた。 なきたくて も コエ が でない。 シカタ が ない、 なんでも よい から クイモノ の ある ところ まで あるこう と ケッシン を して そろり そろり と イケ を ヒダリ に まわりはじめた。 どうも ヒジョウ に くるしい。 そこ を ガマン して むりやり に はって ゆく と ようやく の こと で なんとなく にんげんくさい ところ へ でた。 ここ へ はいったら、 どうにか なる と おもって タケガキ の くずれた アナ から、 とある テイナイ に もぐりこんだ。 エン は フシギ な もの で、 もし この タケガキ が やぶれて いなかった なら、 ワガハイ は ついに ロボウ に ガシ した かも しれん の で ある。 イチジュ の カゲ とは よく いった もの だ。 この カキネ の アナ は コンニチ に いたる まで ワガハイ が トナリ の ミケ を ホウモン する とき の ツウロ に なって いる。 さて ヤシキ へは しのびこんだ ものの これから サキ どうして いい か わからない。 その うち に くらく なる、 ハラ は へる、 サムサ は さむし、 アメ が ふって くる と いう シマツ で もう イッコク の ユウヨ が できなく なった。 シカタ が ない から とにかく あかるくて あたたかそう な ほう へ ほう へ と あるいて ゆく。 イマ から かんがえる と その とき は すでに イエ の ウチ に はいって おった の だ。 ここ で ワガハイ は かの ショセイ イガイ の ニンゲン を ふたたび みる べき キカイ に ソウグウ した の で ある。 ダイイチ に あった の が オサン で ある。 これ は マエ の ショセイ より いっそう ランボウ な ほう で ワガハイ を みる や いなや いきなり クビスジ を つかんで オモテ へ ほうりだした。 いや これ は ダメ だ と おもった から メ を ねぶって ウン を テン に まかせて いた。 しかし ひもじい の と さむい の には どうしても ガマン が できん。 ワガハイ は ふたたび オサン の スキ を みて ダイドコロ へ はいあがった。 すると まもなく また なげだされた。 ワガハイ は なげだされて は はいあがり、 はいあがって は なげだされ、 なんでも おなじ こと を 4~5 ヘン くりかえした の を キオク して いる。 その とき に オサン と いう モノ は つくづく いや に なった。 このあいだ オサン の サンマ を ぬすんで この ヘンポウ を して やって から、 やっと ムネ の ツカエ が おりた。 ワガハイ が サイゴ に つまみだされよう と した とき に、 この ウチ の シュジン が そうぞうしい ナン だ と いいながら でて きた。 ゲジョ は ワガハイ を ぶらさげて シュジン の ほう へ むけて この ヤドナシ の コネコ が いくら だして も だして も オダイドコロ へ あがって きて こまります と いう。 シュジン は ハナ の シタ の くろい ケ を ひねりながら ワガハイ の カオ を しばらく ながめて おった が、 やがて そんなら ウチ へ おいて やれ と いった まま オク へ はいって しまった。 シュジン は あまり クチ を きかぬ ヒト と みえた。 ゲジョ は くやしそう に ワガハイ を ダイドコロ へ ほうりだした。 かくして ワガハイ は ついに この ウチ を ジブン の スミカ と きめる こと に した の で ある。
 ワガハイ の シュジン は めった に ワガハイ と カオ を あわせる こと が ない。 ショクギョウ は キョウシ だ そう だ。 ガッコウ から かえる と シュウジツ ショサイ に はいった ぎり ほとんど でて くる こと が ない。 ウチ の モノ は タイヘン な ベンキョウカ だ と おもって いる。 トウニン も ベンキョウカ で ある か の ごとく みせて いる。 しかし ジッサイ は ウチ の モノ が いう よう な キンベンカ では ない。 ワガハイ は ときどき シノビアシ に カレ の ショサイ を のぞいて みる が、 カレ は よく ヒルネ を して いる こと が ある。 ときどき よみかけて ある ホン の ウエ に ヨダレ を たらして いる。 カレ は イジャク で ヒフ の イロ が タンコウショク を おびて ダンリョク の ない フカッパツ な チョウコウ を あらわして いる。 その くせ に オオメシ を くう。 オオメシ を くった アト で タカ-ジヤスターゼ を のむ。 のんだ アト で ショモツ を ひろげる。 2~3 ページ よむ と ねむく なる。 ヨダレ を ホン の ウエ へ たらす。 これ が カレ の マイヨ くりかえす ニッカ で ある。 ワガハイ は ネコ ながら ときどき かんがえる こと が ある。 キョウシ と いう もの は じつに ラク な もの だ。 ニンゲン と うまれたら キョウシ と なる に かぎる。 こんな に ねて いて つとまる もの なら ネコ に でも できぬ こと は ない と。 それでも シュジン に いわせる と キョウシ ほど つらい もの は ない そう で カレ は トモダチ が くる たび に なんとか かんとか フヘイ を ならして いる。
 ワガハイ が この ウチ へ すみこんだ トウジ は、 シュジン イガイ の モノ には はなはだ フジンボウ で あった。 どこ へ いって も はねつけられて アイテ に して クレテ が なかった。 いかに チンチョウ されなかった か は、 コンニチ に いたる まで ナマエ さえ つけて くれない の でも わかる。 ワガハイ は シカタ が ない から、 できうる かぎり ワガハイ を いれて くれた シュジン の ソバ に いる こと を つとめた。 アサ シュジン が シンブン を よむ とき は かならず カレ の ヒザ の ウエ に のる。 カレ が ヒルネ を する とき は かならず その セナカ に のる。 これ は あながち シュジン が すき と いう わけ では ない が ベツ に カマイテ が なかった から やむ を えん の で ある。 ソノゴ いろいろ ケイケン の うえ、 アサ は メシビツ の ウエ、 ヨル は コタツ の ウエ、 テンキ の よい ヒル は エンガワ へ ねる こと と した。 しかし いちばん ココロモチ の いい の は ヨ に いって ここ の ウチ の コドモ の ネドコ へ もぐりこんで イッショ に ねる こと で ある。 この コドモ と いう の は イツツ と ミッツ で ヨル に なる と フタリ が ヒトツトコ へ はいって ヒトマ へ ねる。 ワガハイ は いつでも カレラ の チュウカン に オノレ を いる べき ヨチ を みいだして どうにか、 こうにか わりこむ の で ある が、 ウン わるく コドモ の ヒトリ が メ を さます が サイゴ タイヘン な こと に なる。 コドモ は ――ことに ちいさい ほう が タチ が わるい―― ネコ が きた ネコ が きた と いって ヨナカ でも なんでも おおきな コエ で なきだす の で ある。 すると レイ の シンケイ イジャクセイ の シュジン は かならず メ を さまして ツギ の ヘヤ から とびだして くる。 げんに センダッテ など は モノサシ で シリペタ を ひどく たたかれた。
 ワガハイ は ニンゲン と ドウキョ して カレラ を カンサツ すれば する ほど、 カレラ は ワガママ な もの だ と ダンゲン せざる を えない よう に なった。 ことに ワガハイ が ときどき ドウキン する コドモ の ごとき に いたって は ゴンゴ ドウダン で ある。 ジブン の カッテ な とき は ヒト を サカサ に したり、 アタマ へ フクロ を かぶせたり、 ほうりだしたり、 ヘッツイ の ナカ へ おしこんだり する。 しかも ワガハイ の ほう で すこし でも テダシ を しよう もの なら カナイ ソウガカリ で おいまわして ハクガイ を くわえる。 コノアイダ も ちょっと タタミ で ツメ を といだら サイクン が ヒジョウ に おこって それから ヨウイ に ザシキ へ いれない。 ダイドコロ の イタノマ で ヒト が ふるえて いて も いっこう ヘイキ な もの で ある。 ワガハイ の ソンケイ する スジムコウ の シロ クン など は あう たび ごと に ニンゲン ほど フニンジョウ な もの は ない と いって おらるる。 シロ クン は センジツ タマ の よう な コネコ を 4 ヒキ うまれた の で ある。 ところが そこ の ウチ の ショセイ が ミッカ-メ に そいつ を ウラ の イケ へ もって いって 4 ヒキ ながら すてて きた そう だ。 シロ クン は ナミダ を ながして その イチブ シジュウ を はなした うえ、 どうしても ワレラ ネコ-ゾク が オヤコ の アイ を まったく して うつくしい カゾクテキ セイカツ を する には ニンゲン と たたかって これ を ソウメツ せねば ならぬ と いわれた。 いちいち もっとも の ギロン と おもう。 また トナリ の ミケ クン など は ニンゲン が ショユウケン と いう こと を かいして いない と いって おおいに フンガイ して いる。 がんらい ワレワレ ドウゾク-カン では メザシ の アタマ でも ボラ の ヘソ でも いちばん サキ に みつけた モノ が これ を くう ケンリ が ある もの と なって いる。 もし アイテ が この キヤク を まもらなければ ワンリョク に うったえて よい くらい の もの だ。 しかるに カレラ ニンゲン は ごうも この カンネン が ない と みえて ワレラ が みつけた ゴチソウ は かならず カレラ の ため に リャクダツ せらるる の で ある。 カレラ は その キョウリョク を たのんで セイトウ に ゴジン が くいう べき もの を うばって すまして いる。 シロ クン は グンジン の イエ に おり ミケ クン は ダイゲン の シュジン を もって いる。 ワガハイ は キョウシ の ウチ に すんで いる だけ、 こんな こと に かんする と リョウクン より も むしろ ラクテン で ある。 ただ その ヒ その ヒ が どうにか こうにか おくられれば よい。 いくら ニンゲン だって、 そう いつまでも さかえる こと も あるまい。 まあ キ を ながく ネコ の ジセツ を まつ が よかろう。
 ワガママ で おもいだした から ちょっと ワガハイ の ウチ の シュジン が この ワガママ で シッパイ した ハナシ を しよう。 がんらい この シュジン は ナニ と いって ヒト に すぐれて できる こと も ない が、 ナン に でも よく テ を だしたがる。 ハイク を やって ホトトギス へ トウショ を したり、 シンタイシ を ミョウジョウ へ だしたり、 マチガイ-だらけ の エイブン を かいたり、 トキ に よる と ユミ に こったり、 ウタイ を ならったり、 また ある とき は ヴァイオリン など を ぶーぶー ならしたり する が、 キノドク な こと には、 どれ も これ も モノ に なって おらん。 そのくせ やりだす と イジャク の くせ に いやに ネッシン だ。 コウカ の ナカ で ウタイ を うたって、 キンジョ で コウカ センセイ と アダナ を つけられて いる にも かんせず いっこう ヘイキ な もの で、 やはり これ は タイラ ノ ムネモリ にて そうろう を くりかえして いる。 ミンナ が そら ムネモリ だ と ふきだす くらい で ある。 この シュジン が どういう カンガエ に なった もの か ワガハイ の すみこんで から ヒトツキ ばかり ノチ の ある ツキ の ゲッキュウビ に、 おおきな ツツミ を さげて あわただしく かえって きた。 ナニ を かって きた の か と おもう と スイサイ エノグ と モウヒツ と ワットマン と いう カミ で キョウ から ウタイ や ハイク を やめて エ を かく ケッシン と みえた。 はたして ヨクジツ から トウブン の アイダ と いう もの は マイニチ マイニチ ショサイ で ヒルネ も しない で エ ばかり かいて いる。 しかし その かきあげた もの を みる と ナニ を かいた もの やら ダレ にも カンテイ が つかない。 トウニン も あまり うまく ない と おもった もの か、 ある ヒ その ユウジン で ビガク とか を やって いる ヒト が きた とき に シモ の よう な ハナシ を して いる の を きいた。
「どうも うまく かけない もの だね。 ヒト の を みる と なんでも ない よう だ が みずから フデ を とって みる と いまさら の よう に むずかしく かんずる」 これ は シュジン の ジュッカイ で ある。 なるほど イツワリ の ない ところ だ。 カレ の トモ は キンブチ の メガネゴシ に シュジン の カオ を みながら、 「そう ハジメ から ジョウズ には かけない さ、 だいいち シツナイ の ソウゾウ ばかり で エ が かける ワケ の もの では ない。 ムカシ イタリー の タイカ アンドレア デル サルト が いった こと が ある。 エ を かく なら なんでも シゼン ソノモノ を うつせ。 テン に セイシン あり。 チ に ロカ あり。 とぶ に トリ あり。 はしる に ケモノ あり。 イケ に キンギョ あり。 コボク に カンア あり。 シゼン は これ イップク の ダイカツガ なり と。 どう だ キミ も エ-らしい エ を かこう と おもう なら ちと シャセイ を したら」
「へえ アンドレア デル サルト が そんな こと を いった こと が ある かい。 ちっとも しらなかった。 なるほど こりゃ もっとも だ。 じつに その とおり だ」 と シュジン は むやみ に カンシン して いる。 キンブチ の ウラ には あざける よう な ワライ が みえた。
 その ヨクジツ ワガハイ は レイ の ごとく エンガワ に でて ココロモチ よく ヒルネ を して いたら、 シュジン が レイ に なく ショサイ から でて きて ワガハイ の ウシロ で ナニ か しきり に やって おる。 ふと メ が さめて ナニ を して いる か と 1 ブ ばかり ホソメ に メ を あけて みる と、 カレ は ヨネン も なく アンドレア デル サルト を きめこんで いる。 ワガハイ は この アリサマ を みて おぼえず シッショウ する の を きんじえなかった。 カレ は カレ の トモ に ヤユ せられたる ケッカ と して まず テハジメ に ワガハイ を シャセイ しつつ ある の で ある。 ワガハイ は すでに じゅうぶん ねた。 アクビ が したくて たまらない。 しかし せっかく シュジン が ネッシン に フデ を とって いる の を うごいて は キノドク だ と おもうて、 じっと シンボウ して おった。 カレ は イマ ワガハイ の リンカク を かきあげて カオ の アタリ を いろどって いる。 ワガハイ は ジハク する。 ワガハイ は ネコ と して けっして ジョウジョウ の デキ では ない。 セ と いい ケナミ と いい カオ の ゾウサク と いい あえて タ の ネコ に まさる とは けっして おもって おらん。 しかし いくら ブキリョウ の ワガハイ でも、 イマ ワガハイ の シュジン に えがきだされつつ ある よう な ミョウ な スガタ とは、 どうしても おもわれない。 だいいち イロ が ちがう。 ワガハイ は ペルシャ-サン の ネコ の ごとく キ を ふくめる タンカイショク に ウルシ の ごとき フイリ の ヒフ を ゆうして いる。 これ だけ は ダレ が みて も うたがう べからざる ジジツ と おもう。 しかるに イマ シュジン の サイシキ を みる と、 キ でも なければ クロ でも ない、 ハイイロ でも なければ トビイロ でも ない、 されば とて これら を まぜた イロ でも ない。 ただ イッシュ の イロ で ある と いう より ホカ に ヒョウシカタ の ない イロ で ある。 そのうえ フシギ な こと は メ が ない。 もっとも これ は ねて いる ところ を シャセイ した の だ から ムリ も ない が メ らしい ところ さえ みえない から メクラ だ か ねて いる ネコ だ か ハンゼン しない の で ある。 ワガハイ は シンチュウ ひそか に いくら アンドレア デル サルト でも これ では シヨウ が ない と おもった。 しかし その ネッシン には カンプク せざる を えない。 なるべく なら うごかず に おって やりたい と おもった が、 サッキ から ショウベン が もよおして いる。 ミウチ の キンニク は むずむず する。 もはや 1 プン も ユウヨ が できぬ シギ と なった から、 やむ を えず シッケイ して リョウアシ を マエ へ ぞんぶん のして、 クビ を ひくく おしだして あーあ と ダイ なる アクビ を した。 さて こう なって みる と、 もう おとなしく して いて も シカタ が ない。 どうせ シュジン の ヨテイ は ぶちこわした の だ から、 ついでに ウラ へ いって ヨウ を たそう と おもって のそのそ はいだした。 すると シュジン は シツボウ と イカリ を かきまぜた よう な コエ を して、 ザシキ の ナカ から 「この バカヤロウ」 と どなった。 この シュジン は ヒト を ののしる とき は かならず バカヤロウ と いう の が クセ で ある。 ホカ に ワルクチ の イイヨウ を しらない の だ から シカタ が ない が、 イマ まで シンボウ した ヒト の キ も しらない で、 むやみ に バカヤロウ ヨバワリ は シッケイ だ と おもう。 それ も ヘイゼイ ワガハイ が カレ の セナカ へ のる とき に すこし は いい カオ でも する なら この マンバ も あまんじて うける が、 こっち の ベンリ に なる こと は なにひとつ こころよく して くれた こと も ない のに、 ショウベン に たった の を バカヤロウ とは ひどい。 がんらい ニンゲン と いう もの は ジコ の リキリョウ に まんじて ミンナ ゾウチョウ して いる。 すこし ニンゲン より つよい モノ が でて きて いじめて やらなくて は このさき どこ まで ゾウチョウ する か わからない。
 ワガママ も この くらい なら ガマン する が ワガハイ は ニンゲン の フトク に ついて これ より も スウバイ かなしむ べき ホウドウ を ミミ に した こと が ある。
 ワガハイ の イエ の ウラ に トツボ ばかり の チャエン が ある。 ひろく は ない が さっぱり と した ココロモチ よく ヒ の あたる ところ だ。 ウチ の コドモ が あまり さわいで らくらく ヒルネ の できない とき や、 あまり タイクツ で ハラカゲン の よく ない オリ など は、 ワガハイ は いつでも ここ へ でて コウゼン の キ を やしなう の が レイ で ある。 ある コハル の おだやか な ヒ の 2 ジ-ゴロ で あった が、 ワガハイ は チュウハン-ゴ こころよく イッスイ した ノチ、 ウンドウ-かたがた この チャエン へ と ホ を はこばした。 チャ の キ の ネ を 1 ポン 1 ポン かぎながら、 ニシガワ の スギガキ の ソバ まで くる と、 カレギク を おしたおして その ウエ に おおきな ネコ が ゼンゴ フカク に ねて いる。 カレ は ワガハイ の ちかづく の も いっこう こころづかざる ごとく、 また こころづく も ムトンジャク なる ごとく、 おおきな イビキ を して ながなが と カラダ を よこたえて ねむって いる。 ヒト の テイナイ に しのびいりたる モノ が かくまで ヘイキ に ねむられる もの か と、 ワガハイ は ひそか に その ダイタン なる ドキョウ に おどろかざる を えなかった。 カレ は ジュンスイ の クロネコ で ある。 わずか に ゴ を すぎたる タイヨウ は、 トウメイ なる コウセン を カレ の ヒフ の ウエ に なげかけて、 きらきら する ニコゲ の アイダ より メ に みえぬ ホノオ でも もえいずる よう に おもわれた。 カレ は ネコ-チュウ の ダイオウ とも いう べき ほど の イダイ なる タイカク を ゆうして いる。 ワガハイ の バイ は たしか に ある。 ワガハイ は タンショウ の ネン と、 コウキ の ココロ に ゼンゴ を わすれて カレ の マエ に チョリツ して ヨネン も なく ながめて いる と、 しずか なる コハル の カゼ が、 スギガキ の ウエ から でたる ゴトウ の エダ を かろく さそって ばらばら と 2~3 マイ の ハ が カレギク の シゲミ に おちた。 ダイオウ は かっと その マンマル の メ を ひらいた。 イマ でも キオク して いる。 その メ は ニンゲン の チンチョウ する コハク と いう もの より も はるか に うつくしく かがやいて いた。 カレ は ミウゴキ も しない。 ソウボウ の オク から いる ごとき ヒカリ を ワガハイ の ワイショウ なる ヒタイ の ウエ に あつめて、 オメエ は いったい ナン だ と いった。 ダイオウ に して は しょうしょう コトバ が いやしい と おもった が なにしろ その コエ の ソコ に イヌ をも ひしぐ べき チカラ が こもって いる ので ワガハイ は すくなからず オソレ を いだいた。 しかし アイサツ を しない と けんのん だ と おもった から 「ワガハイ は ネコ で ある。 ナマエ は まだ ない」 と なるべく ヘイキ を よそおって れいぜん と こたえた。 しかし この とき ワガハイ の シンゾウ は たしか に ヘイジ より も はげしく コドウ して おった。 カレ は おおいに ケイベツ せる チョウシ で 「なに、 ネコ だ? ネコ が きいて あきれらあ。 ぜんてえ どこ に すんでる ん だ」 ずいぶん ボウジャク ブジン で ある。 「ワガハイ は ここ の キョウシ の ウチ に いる の だ」 「どうせ そんな こと だろう と おもった。 いやに やせてる じゃ ねえ か」 と ダイオウ だけ に キエン を ふきかける。 コトバツキ から さっする と どうも リョウカ の ネコ とも おもわれない。 しかし その あぶらぎって ヒマン して いる ところ を みる と ゴチソウ を くってる らしい、 ゆたか に くらして いる らしい。 ワガハイ は 「そう いう キミ は いったい ダレ だい」 と きかざる を えなかった。 「オレ あ クルマヤ の クロ よ」 こうぜん たる もの だ。 クルマヤ の クロ は この キンペン で しらぬ モノ なき ランボウ ネコ で ある。 しかし クルマヤ だけ に つよい ばかり で ちっとも キョウイク が ない から あまり ダレ も コウサイ しない。 ドウメイ ケイエン シュギ の マト に なって いる ヤツ だ。 ワガハイ は カレ の ナ を きいて しょうしょう しりこそばゆき カンジ を おこす と ドウジ に、 イッポウ では しょうしょう ケイブ の ネン も しょうじた の で ある。 ワガハイ は まず カレ が どの くらい ムガク で ある か を ためして みよう と おもって サ の モンドウ を して みた。
「いったい クルマヤ と キョウシ とは どっち が えらい だろう」
「クルマヤ の ほう が つよい に きまって いらあ な。 オメエ の ウチ の シュジン を みねえ、 まるで ホネ と カワ ばかり だぜ」
「キミ も クルマヤ の ネコ だけ に だいぶ つよそう だ。 クルマヤ に いる と ゴチソウ が くえる と みえる ね」
「なあに オレ なんざ、 どこ の クニ へ いったって クイモノ に フジユウ は しねえ つもり だ。 オメエ なんか も チャバタケ ばかり ぐるぐる まわって いねえ で、 ちっと オレ の アト へ くっついて きて みねえ。 ヒトツキ と たたねえ うち に みちがえる よう に ふとれる ぜ」
「おって そう ねがう こと に しよう。 しかし ウチ は キョウシ の ほう が クルマヤ より おおきい の に すんで いる よう に おもわれる」
「べらぼうめ、 ウチ なんか いくら おおきくたって ハラ の タシ に なる もんか」
 カレ は おおいに カンシャク に さわった ヨウス で、 カンチク を そいだ よう な ミミ を しきり と ぴくつかせて あららか に たちさった。 ワガハイ が クルマヤ の クロ と チキ に なった の は これから で ある。
 ソノゴ ワガハイ は たびたび クロ と カイコウ する。 カイコウ する ごと に カレ は クルマヤ ソウトウ の キエン を はく。 さきに ワガハイ が ミミ に した と いう フトク ジケン も じつは クロ から きいた の で ある。
 ある ヒ レイ の ごとく ワガハイ と クロ は あたたかい チャバタケ の ナカ で ねころびながら いろいろ ザツダン を して いる と、 カレ は イツモ の ジマンバナシ を さも あたらしそう に くりかえした アト で、 ワガハイ に むかって シモ の ごとく シツモン した。 「オメエ は イマ まで に ネズミ を ナンビキ とった こと が ある」 チシキ は クロ より も よほど ハッタツ して いる つもり だ が ワンリョク と ユウキ と に いたって は とうてい クロ の ヒカク には ならない と カクゴ は して いた ものの、 この トイ に せっしたる とき は、 さすが に キマリ が よく は なかった。 けれども ジジツ は ジジツ で いつわる わけ には ゆかない から、 ワガハイ は 「じつは とろう とろう と おもって まだ とらない」 と こたえた。 クロ は カレ の ハナ の サキ から ぴんと つっぱって いる ながい ヒゲ を びりびり と ふるわせて ヒジョウ に わらった。 がんらい クロ は ジマン を する だけ に どこ か たりない ところ が あって、 カレ の キエン を カンシン した よう に ノド を ころころ ならして キンチョウ して いれば はなはだ ぎょしやすい ネコ で ある。 ワガハイ は カレ と チカヅキ に なって から すぐに この コキュウ を のみこんだ から この バアイ にも なまじい オノレ を ベンゴ して ますます ケイセイ を わるく する の も グ で ある、 いっそ の こと カレ に ジブン の テガラバナシ を しゃべらして オチャ を にごす に しく は ない と シアン を さだめた。 そこで おとなしく 「キミ など は トシ が トシ で ある から だいぶん とったろう」 と そそのかして みた。 かぜん カレ は ショウヘキ の ケッショ に トッカン して きた。 「たんと でも ねえ が 30~40 は とったろう」 とは トクイゲ なる カレ の コタエ で あった。 カレ は なお ゴ を つづけて 「ネズミ の 100 や 200 は ヒトリ で いつでも ひきうける が イタチ ってえ ヤツ は テ に あわねえ。 イチド イタチ に むかって ひどい メ に あった」 「へえ なるほど」 と アイヅチ を うつ。 クロ は おおきな メ を ぱちつかせて いう。 「キョネン の オオソウジ の とき だ。 ウチ の テイシュ が イシバイ の フクロ を もって エン の シタ へ はいこんだら オメエ おおきな イタチ の ヤロウ が めんくらって とびだした と おもいねえ」 「ふん」 と カンシン して みせる。 「イタチ って けども なに ネズミ の すこし おおきい ぐれえ の もの だ。 コンチキショウ って キ で おっかけて とうとう ドブ の ナカ へ おいこんだ と おもいねえ」 「うまく やった ね」 と カッサイ して やる。 「ところが オメエ いざ ってえ ダン に なる と ヤツメ サイゴッペ を こきやがった。 くせえ の くせく ねえ の って それから ってえ もの は イタチ を みる と ムネ が わるく ならあ」 カレ は ここ に いたって あたかも キョネン の シュウキ を いまなお かんずる ごとく マエアシ を あげて ハナ の アタマ を 2~3 ベン なでまわした。 ワガハイ も しょうしょう キノドク な カンジ が する。 ちっと ケイキ を つけて やろう と おもって 「しかし ネズミ なら キミ に にらまれて は ヒャクネンメ だろう。 キミ は あまり ネズミ を とる の が メイジン で ネズミ ばかり くう もの だ から そんな に ふとって イロツヤ が いい の だろう」 クロ の ゴキゲン を とる ため の この シツモン は フシギ にも ハンタイ の ケッカ を テイシュツ した。 カレ は きぜん と して タイソク して いう。 「かんげえる と つまらねえ。 いくら かせいで ネズミ を とったって―― いってえ ニンゲン ほど ふてえ ヤツ は ヨノナカ に いねえ ぜ。 ヒト の とった ネズミ を みんな とりあげやがって コウバン へ もって ゆきあがる。 コウバン じゃ ダレ が とった か わからねえ から その たんび に 5 セン ずつ くれる じゃ ねえ か。 ウチ の テイシュ なんか オレ の おかげ で もう 1 エン 50 セン くらい もうけて いやがる くせ に、 ろく な もの を くわせた こと も ありゃ しねえ。 おい ニンゲン て もの あ テイ の いい ドロボウ だぜ」 さすが ムガク の クロ も この くらい の リクツ は わかる と みえて すこぶる おこった ヨウス で セナカ の ケ を さかだてて いる。 ワガハイ は しょうしょう キミ が わるく なった から イイカゲン に その バ を ごまかして ウチ へ かえった。 この とき から ワガハイ は けっして ネズミ を とるまい と ケッシン した。 しかし クロ の コブン に なって ネズミ イガイ の ゴチソウ を あさって あるく こと も しなかった。 ゴチソウ を くう より も ねて いた ほう が キラク で いい。 キョウシ の ウチ に いる と ネコ も キョウシ の よう な セイシツ に なる と みえる。 ヨウジン しない と いまに イジャク に なる かも しれない。
 キョウシ と いえば ワガハイ の シュジン も チカゴロ に いたって は とうてい スイサイガ に おいて ノゾミ の ない こと を さとった もの と みえて 12 ガツ イチジツ の ニッキ に こんな こと を かきつけた。

 ○○ と いう ヒト に キョウ の カイ で はじめて であった。 あの ヒト は だいぶ ホウトウ を した ヒト だ と いう が なるほど ツウジン-らしい フウサイ を して いる。 こういう タチ の ヒト は オンナ に すかれる もの だ から ○○ が ホウトウ を した と いう より も ホウトウ を する べく よぎなく せられた と いう の が テキトウ で あろう。 あの ヒト の サイクン は ゲイシャ だ そう だ、 うらやましい こと で ある。 がんらい ホウトウカ を わるく いう ヒト の ダイブブン は ホウトウ を する シカク の ない モノ が おおい。 また ホウトウカ を もって ジニン する レンジュウ の ウチ にも、 ホウトウ する シカク の ない モノ が おおい。 これら は よぎなく されない のに ムリ に すすんで やる の で ある。 あたかも ワガハイ の スイサイガ に おける が ごとき もの で とうてい ソツギョウ する キヅカイ は ない。 しかる にも かんせず、 ジブン だけ は ツウジン だ と おもって すまして いる。 リョウリヤ の サケ を のんだり マチアイ へ はいる から ツウジン と なりうる と いう ロン が たつ なら、 ワガハイ も ヒトカド の スイサイ ガカ に なりうる リクツ だ。 ワガハイ の スイサイガ の ごとき は かかない ほう が まし で ある と おなじ よう に、 グマイ なる ツウジン より も ヤマダシ の オオヤボ の ほう が はるか に ジョウトウ だ。

 ツウジンロン は ちょっと シュコウ しかねる。 また ゲイシャ の サイクン を うらやましい など と いう ところ は キョウシ と して は クチ に す べからざる グレツ の カンガエ で ある が、 ジコ の スイサイガ に おける ヒヒョウガン だけ は たしか な もの だ。 シュジン は かく の ごとく ジチ の メイ ある にも かんせず その ウヌボレシン は なかなか ぬけない。 ナカ フツカ おいて 12 ガツ ヨッカ の ニッキ に こんな こと を かいて いる。

 ユウベ は ボク が スイサイガ を かいて とうてい モノ に ならん と おもって、 そこら に ほうって おいた の を ダレ か が リッパ な ガク に して ランマ に かけて くれた ユメ を みた。 さて ガク に なった ところ を みる と われながら キュウ に ジョウズ に なった。 ヒジョウ に うれしい。 これ なら リッパ な もの だ と ヒトリ で ながめくらして いる と、 ヨ が あけて メ が さめて やはり モト の とおり ヘタ で ある こと が アサヒ と ともに メイリョウ に なって しまった。

 シュジン は ユメ の ウチ まで スイサイガ の ミレン を しょって あるいて いる と みえる。 これ では スイサイ ガカ は むろん フウシ の いわゆる ツウジン にも なれない タチ だ。
 シュジン が スイサイガ を ユメ に みた ヨクジツ レイ の キンブチ メガネ の ビガクシャ が ヒサシブリ で シュジン を ホウモン した。 カレ は ザ に つく と ヘキトウ ダイイチ に 「エ は どう かね」 と クチ を きった。 シュジン は ヘイキ な カオ を して 「キミ の チュウコク に したがって シャセイ を つとめて いる が、 なるほど シャセイ を する と イマ まで キ の つかなかった モノ の カタチ や、 イロ の セイサイ な ヘンカ など が よく わかる よう だ。 セイヨウ では ムカシ から シャセイ を シュチョウ した ケッカ コンニチ の よう に ハッタツ した もの と おもわれる。 さすが アンドレア デル サルト だ」 と ニッキ の こと は オクビ にも ださない で、 また アンドレア デル サルト に カンシン する。 ビガクシャ は わらいながら 「じつは キミ、 あれ は デタラメ だよ」 と アタマ を かく。 「ナニ が」 と シュジン は まだ いつわられた こと に キ が つかない。 「ナニ が って キミ の しきり に カンプク して いる アンドレア デル サルト さ。 あれ は ボク の ちょっと ネツゾウ した ハナシ だ。 キミ が そんな に マジメ に しんじよう とは おもわなかった はははは」 と ダイキエツ の テイ で ある。 ワガハイ は エンガワ で この タイワ を きいて カレ の キョウ の ニッキ には いかなる こと が しるさるる で あろう か と あらかじめ ソウゾウ せざる を えなかった。 この ビガクシャ は こんな イイカゲン な こと を ふきちらして ヒト を かつぐ の を ユイイツ の タノシミ に して いる オトコ で ある。 カレ は アンドレア デル サルト ジケン が シュジン の ジョウセン に いかなる ヒビキ を つたえた か を ごうも コリョ せざる もの の ごとく トクイ に なって シモ の よう な こと を しゃべった。 「いや ときどき ジョウダン を いう と ヒト が マ に うける ので おおいに コッケイテキ ビカン を チョウハツ する の は おもしろい。 せんだって ある ガクセイ に ニコラス ニックルベー が ギボン に チュウコク して カレ の イッセイ の ダイチョジュツ なる フツコク カクメイシ を フツゴ で かく の を ヤメ に して エイブン で シュッパン させた と いったら、 その ガクセイ が また バカ に キオク の よい オトコ で、 ニホン ブンガクカイ の エンゼツカイ で マジメ に ボク の はなした とおり を くりかえした の は コッケイ で あった。 ところが その とき の ボウチョウシャ は ヤク 100 メイ ばかり で あった が、 ミナ ネッシン に それ を ケイチョウ して おった。 それから まだ おもしろい ハナシ が ある。 せんだって ある ブンガクシャ の いる セキ で ハリソン の レキシ ショウセツ セオファーノ の ハナシ が でた から ボク は あれ は レキシ ショウセツ の ウチ で ハクビ で ある。 ことに ジョ-シュジンコウ が しぬ ところ は キキ ヒト を おそう よう だ と ひょうしたら、 ボク の ムコウ に すわって いる しらん と いった こと の ない センセイ が、 そうそう あすこ は じつに メイブン だ と いった。 それで ボク は この オトコ も やはり ボク ドウヨウ この ショウセツ を よんで おらない と いう こと を しった」 シンケイ イジャクセイ の シュジン は メ を まるく して といかけた。 「そんな デタラメ を いって もし アイテ が よんで いたら どう する つもり だ」 あたかも ヒト を あざむく の は さしつかえない、 ただ バケ の カワ が あらわれた とき は こまる じゃ ない か と かんじた もの の ごとく で ある。 ビガクシャ は すこしも どうじない。 「なに その ときゃ ベツ の ホン と まちがえた とか なんとか いう ばかり さ」 と いって けらけら わらって いる。 この ビガクシャ は キンブチ の メガネ は かけて いる が その セイシツ が クルマヤ の クロ に にた ところ が ある。 シュジン は だまって ヒノデ を ワ に ふいて ワガハイ には そんな ユウキ は ない と いわん ばかり の カオ を して いる。 ビガクシャ は それだから エ を かいて も ダメ だ と いう メツキ で 「しかし ジョウダン は ジョウダン だ が エ と いう もの は じっさい むずかしい もの だよ、 レオナルド ダ ヴィンチ は モンカセイ に ジイン の カベ の シミ を うつせ と おしえた こと が ある そう だ。 なるほど セツイン など に はいって アメ の もる カベ を ヨネン なく ながめて いる と、 なかなか うまい モヨウガ が シゼン に できて いる ぜ。 キミ チュウイ して シャセイ して みたまえ きっと おもしろい もの が できる から」 「また だます の だろう」 「いえ これ だけ は たしか だよ。 じっさい キケイ な ゴ じゃ ない か、 ダ ヴィンチ でも いいそう な こと だあね」 「なるほど キケイ には ソウイ ない な」 と シュジン は ハンブン コウサン を した。 しかし カレ は まだ セツイン で シャセイ は せぬ よう だ。
 クルマヤ の クロ は ソノゴ ビッコ に なった。 カレ の コウタク ある ケ は だんだん イロ が さめて ぬけて くる。 ワガハイ が コハク より も うつくしい と ひょうした カレ の メ には メヤニ が いっぱい たまって いる。 ことに いちじるしく ワガハイ の チュウイ を ひいた の は カレ の ゲンキ の ショウチン と その タイカク の わるく なった こと で ある。 ワガハイ が レイ の チャエン で カレ に あった サイゴ の ヒ、 どう だ と いって たずねたら 「イタチ の サイゴッペ と サカナヤ の テンビンボウ には こりごり だ」 と いった。
 アカマツ の アイダ に 2~3 ダン の コウ を つづった コウヨウ は ムカシ の ユメ の ごとく ちって ツクバイ に ちかく かわるがわる ハナビラ を こぼした コウハク の サザンカ も のこりなく おちつくした。 3 ゲン ハン の ミナミムキ の エンガワ に フユ の ヒアシ が はやく かたむいて コガラシ の ふかない ヒ は ほとんど まれ に なって から ワガハイ の ヒルネ の ジカン も せばめられた よう な キ が する。
 シュジン は マイニチ ガッコウ へ ゆく。 かえる と ショサイ へ たてこもる。 ヒト が くる と、 キョウシ が いや だ いや だ と いう。 スイサイガ も めった に かかない。 タカ-ジヤスターゼ も コウノウ が ない と いって やめて しまった。 コドモ は カンシン に やすまない で ヨウチエン へ かよう。 かえる と ショウカ を うたって、 マリ を ついて、 ときどき ワガハイ を シッポ で ぶらさげる。
 ワガハイ は ゴチソウ も くわない から べつだん ふとり も しない が、 まずまず ケンコウ で ビッコ にも ならず に その ヒ その ヒ を くらして いる。 ネズミ は けっして とらない。 オサン は いまだに きらい で ある。 ナマエ は まだ つけて くれない が、 ヨク を いって も サイゲン が ない から ショウガイ この キョウシ の ウチ で ムメイ の ネコ で おわる つもり だ。

【型日名・平日名併用単語分かち書き方式】

ある オンナ (ゼンペン)

 ある オンナ  (ゼンペン)  アリシマ タケオ  1  シンバシ を わたる とき、 ハッシャ を しらせる 2 バンメ の ベル が、 キリ と まで は いえない 9 ガツ の アサ の、 けむった クウキ に つつまれて きこえて きた。 ヨウコ は ヘイキ で それ ...