2014/02/11

ショウジョ-ビョウ

 ショウジョ-ビョウ

 タヤマ カタイ

 1

 ヤマノテ セン の アサ の 7 ジ 20 プン の ノボリ キシャ が、 ヨヨギ の デンシャ テイリュウジョウ の ガケシタ を ジヒビキ させて とおる コロ、 センダガヤ の タンボ を てくてく と あるいて ゆく オトコ が ある。 この オトコ の とおらぬ こと は いかな ヒ にも ない ので、 アメ の ヒ には デイネイ の ふかい タンボミチ に ふるい ナガグツ を ひきずって ゆく し、 カゼ の ふく アサ には ボウシ を アミダ に かぶって ホコリ を さける よう に して とおる し、 エンドウ の イエイエ の ヒト は、 トオク から その スガタ を みしって、 もう あの ヒト が とおった から、 アナタ オヤクショ が おそく なります など と シュンミン いぎたなき シュジン を ゆりおこす グンジン の サイクン も ある くらい だ。
 この オトコ の スガタ の この タンボミチ に あらわれだした の は、 イマ から フタツキ ほど マエ、 キンコウ の チ が ひらけて、 あたらしい カサク が かなた の モリ の カド、 こなた の オカ の ウエ に できあがって、 ナニガシ ショウショウ の テイタク、 ナニガシ カイシャ ジュウヤク の テイタク など の おおきな カマエ が、 ムサシノ の ナゴリ の クヌギ の オオナミキ の アイダ から ちらちら と エ の よう に みえる コロ で あった が、 その クヌギ の ナミキ の かなた に、 カシヤダテ の カオク が 5~6 ケン ならんで ある と いう から、 なんでも そこら に イテン して きた ヒト だろう との もっぱら の ヒョウバン で あった。
 なにも ニンゲン が とおる の に、 ヒョウバン を たてる ほど の こと も ない の だ が、 さびしい イナカ で ひとめずらしい の と、 それに この オトコ の スガタ が いかにも トクショク が あって、 そして アヒル の あるく よう な へんてこ な カタチ を する ので、 なんとも いえぬ フチョウワ―― その フチョウワ が ロボウ の ヒトビト の ヒマ な メ を ひく モト と なった。
 トシ の コロ 37~38、 ネコゼ で、 シシバナ で、 ソッパ で、 イロ が あさぐろくって、 ホオヒゲ が うるさそう に カオ の ハンメン を おおって、 ちょっと みる と おそろしい ヨウボウ、 わかい オンナ など は ヒルマ であって も きみわるく おもう ほど だ が、 それ にも にあわず、 メ には ニュウワ な やさしい ところ が あって、 たえず ナニモノ を か みて あこがれて いる か の よう に みえた。 アシ の コンパス は おもいきって ひろく、 とっとと コキザミ に あるく その ハヤサ! エンシュウ に アサ でる ヘイタイ さん も これ には いつも サンシャ を さけた。
 たいてい ヨウフク で、 それ も スコッチ の ケ の すれて なくなった トビイロ の フルセビロ、 ウエ に はおった インバネス も ヨウカンイロ に きばんで、 ミギ の テ には イヌ の アタマ の すぐ とれる ヤス-ステッキ を つき、 ガラ に ない エビチャイロ の フロシキヅツミ を かかえながら、 ヒダリ の テ は ポッケット に いれて いる。
 ヨツメガキ の ソト を とおりかかる と、
「イマ オデカケ だ!」
 と、 イナカ の カド の ウエキヤ の カミサン が クチ の ナカ で ひとりごちた。
 その ウエキヤ も シンダチ の イッケンヤ で、 ウリモノ の ヒョロマツ やら カシ やら ツゲ やら ヤツデ やら が その マワリ に だらしなく うえつけられて ある が、 その ムコウ には センダガヤ の カイドウ を もって いる シンカイ の ヤシキマチ が しんし と して つらなって、 2 カイ の ガラスマド には アサヒ の ヒカリ が きらきら と かがやきわたった。 ヒダリ は ツノハズ の コウジョウ の イクムネ、 ほそい エントツ から は もう ロウドウ に とりかかった アサ の ケムリ が くろく ひくく なびいて いる。 はれた ソラ には ハヤシ を こして デンシンバシラ が アタマ だけ みえる。
 オトコ は てくてく と あるいて ゆく。
 タンボ を こす と、 2 ケン ハバ の イシコロミチ、 シバガキ、 カシガキ、 カナメガキ、 その タエマ タエマ に ガラス ショウジ、 カブキモン、 ガス-トウ と ジュンジョ よく ならんで いて、 ニワ の マツ に シモヨケ の ナワ の まだ とられず に ついて いる の も みえる。 1~2 チョウ ゆく と、 センダガヤ-ドオリ で、 マイアサ、 エンシュウ の ヘイタイ が カケアシ で とおって ゆく の に カイコウ する。 セイヨウジン の おおきな ヨウカン、 シンチク の イシャ の カマエ の おおきな モン、 ダガシ を うる ふるい カヤブキ の イエ、 ここ まで くる と、 もう ヨヨギ の テイリュウジョウ の たかい センロ が みえて、 シンジュク アタリ で、 ぽー と デンテキ の なる オト でも ミミ に はいる と、 オトコ は その おおきな カラダ を サキ へ のめらせて、 ミエ も なにも かまわず に、 イッサン に はしる の が レイ だ。
 キョウ も そこ に きて ミミ を そばだてた が、 デンシャ の きた よう な ケハイ も ない ので、 おなじ ホチョウ で すたすた と あるいて いった が、 たかい センロ に つきあたって まがる カド で、 ふと クリウメ の チリメン の ハオリ を ぞろり と きた カッコウ の よい ヒサシガミ の オンナ の ウシロスガタ を みた。 ウグイスイロ の リボン、 シュチン の ハナオ、 オロシタテ の シロタビ、 それ を みる と、 もう その ムネ は なんとなく ときめいて、 そのくせ どうの こうの と いう の でも ない が、 ただ うれしく、 そわそわ して、 その サキ へ おいこす の が なんだか おしい よう な キ が する ヨウス で ある。 オトコ は この オンナ を すでに みしって いる ので、 すくなくとも 5~6 ド は その オンナ と おなじ デンシャ に のった こと が ある。 それ どころ か、 フユ の さむい ユウグレ、 わざわざ マワリミチ を して その オンナ の イエ を つきとめた こと が ある。 センダガヤ の タンボ の ニシ の スミ で、 カシ の キ で とりかこんだ オク の おおきな イエ、 その ソウリョウ ムスメ で ある こと を よく しって いる。 マユ の うつくしい、 イロ の しろい、 ホオ の ゆたか な、 わらう とき いう に いわれぬ ヒョウジョウ を その マユ と メ との アイダ に あらわす コ だ。
「もう どうしても 22~23、 ガッコウ に かよって いる の では なし…… それ は マイアサ あわぬ の でも わかる が、 それにしても どこ へ ゆく の だろう」 と おもった が、 その おもった の が すでに ユカイ なので、 メノマエ に ちらつく うつくしい キモノ の シキサイ が いいしらず ムネ を そそる。 「もう ヨメ に ゆく ん だろう?」 と つづいて おもった が、 コンド は それ が なんだか わびしい よう な おしい よう な キ が して、 「オレ も いますこし わかければ……」 と ニノヤ を ついだ が、 「ナン だ ばかばかしい、 オレ は イクツ だ、 ニョウボウ も あれば コドモ も ある」 と おもいかえした。 おもいかえした が、 なんとなく かなしい、 なんとなく うれしい。
 ヨヨギ の テイリュウジョウ に のぼる カイダン の ところ で、 それでも おいこして、 キヌズレ の オト、 オシロイ の ニオイ に ムネ を おどらした が、 コンド は ふりかえり も せず、 オオアシ に、 しかも かける よう に して、 カイダン を のぼった。
 テイリュウジョウ の エキチョウ が あかい カイスウ キップ を きって かえした。 この エキチョウ も ソノタ の エキフ も ミナ この オオオトコ に じゅくして いる。 セッカチ で、 アワテモノ で、 ハヤクチ で ある と いう こと をも しって いる。
 イタガコイ の マチアイジョ に はいろう と して、 オトコ は また その マエ に かねて ミシリゴシ の ジョガクセイ の たって いる の を めざとく も みた。
 ニクヅキ の いい、 ホオ の モモイロ の、 リンカク の まるい、 それ は かわいい コ だ。 ハデ な シマモノ に、 エビチャ の ハカマ を はいて、 ミギ の テ に オンナモチ の ほそい コウモリガサ、 ヒダリ の テ に、 ムラサキ の フロシキヅツミ を かかえて いる が、 キョウ は リボン が イツモ の と ちがって しろい と オトコ は すぐ おもった。
 この ムスメ は ジブン を わすれ は すまい、 むろん しってる! と つづいて おもった。 そして ムスメ の ほう を みた が、 ムスメ は しらぬ カオ を して、 あっち を むいて いる。 あの くらい の うち は はずかしい ん だろう、 と おもう と たまらなく かわいく なった らしい。 みぬ よう な フリ を して イクド と なく みる、 しきり に みる。 ――そして また メ を そらして、 コンド は カイダン の ところ で おいこした オンナ の ウシロスガタ に みいった。
 デンシャ の くる の も しらぬ と いう よう に――。

 2

 この ムスメ は ジブン を わすれ は すまい と この オトコ が おもった の は、 リユウ の ある こと で、 それ には おもしろい エピソード が ある の だ。 この ムスメ とは いつでも ドウジコク に ヨヨギ から デンシャ に のって、 ウシゴメ まで ゆく ので、 イゼン から よく その スガタ を みしって いた が、 それ と いって あえて クチ を きいた と いう の では ない。 ただ あいたいして のって いる、 よく ふとった ムスメ だなあ と おもう。 あの ホオ の ニク の ゆたか な こと、 チチ の おおきな こと、 リッパ な ムスメ だ など と つづいて おもう。 それ が たびかさなる と、 エガオ の うつくしい こと も、 ミミ の シタ に ちいさい ホクロ の ある こと も、 こみあった デンシャ の ツリカワ に すらり と のべた カイナ の しろい こと も、 シナノマチ から おなじ ガッコウ の ジョガクセイ と おりおり でっくわして ハスッパ に カイワ を まじゆる こと も、 なにもかも よく しる よう に なって、 どこ の ムスメ かしらん? など と、 その イエ、 その カテイ が しりたく なる。
 でも アト を つける ほど キ にも いらなかった と みえて、 あえて それ を しろう とも しなかった が、 ある ヒ の こと、 オトコ は レイ の ボウシ、 レイ の インバネス、 レイ の セビロ、 レイ の クツ で、 レイ の ミチ を レイ の ごとく センダガヤ の タンボ に かかって くる と、 ふと マエ から その ふとった ムスメ が、 ハオリ の ウエ に しろい マエカケ を だらしなく しめて、 なかば ときかけた カミ を ミギ の テ で おさえながら、 トモダチ らしい ムスメ と ナニゴト を か かたりあいながら あるいて きた。 いつも あう カオ に ちがった ところ で あう と、 なんだか タニン で ない よう な キ が する もの だ が、 オトコ も そう おもった と みえて、 もうすこし で エシャク を する よう な タイド を して、 いそいだ ホチョウ を はたと とめた。 ムスメ も ちらと こっち を みて、 これ も、 「ああ あの ヒト だな、 いつも デンシャ に のる ヒト だな」 と おもった らしかった が、 エシャク を する ワケ も ない ので、 だまって すれちがって しまった。 オトコ は スレチガイザマ に、 「キョウ は ガッコウ に ゆかぬ の かしらん? そう か、 シケン ヤスミ か ハルヤスミ か」 と われしらず クチ に だして いって、 5~6 ケン ムイシキ に てくてく と あるいて ゆく と、 ふと くろい やわらかい うつくしい ハル の ツチ に、 ちょうど キンビョウブ に ギン で かいた マツ の ハ の よう に そっと おちて いる アルミニウム の ピン。
 ムスメ の だ!
 いきなり、 ふりかえって、 おおきな コエ で、
「もし、 もし、 もし」
 と レンコ した。
 ムスメ は まだ 10 ケン ほど いった ばかり だ から、 むろん この コエ は ミミ に はいった の で ある が、 イマ すれちがった オオオトコ に コエ を かけられる とは おもわぬ ので、 ふりかえり も せず に、 トモダチ の ムスメ と カタ を ならべて しずか に かたりながら あるいて ゆく。 アサヒ が うつくしく ノ の ノウフ の スキ の ハ に ひかる。
「もし、 もし、 もし」
 と オトコ は イン を ふんだ よう に ふたたび さけんだ。
 で、 ムスメ も ふりかえる。 みる と その オトコ は リョウテ を たかく あげて、 こっち を むいて おもしろい カッコウ を して いる。 ふと、 キ が ついて、 アタマ に テ を やる と、 ピン が ない。 はっと おもって、 「あら、 ワタシ、 いや よ、 ピン を おとして よ」 と トモダチ に いう でも なく いって、 そのまま、 ばたばた と かけだした。
 オトコ は テ を あげた まま、 その アルミニウム の ピン を もって まって いる。 ムスメ は いきせき かけて くる。 やがて ソバ に ちかよった。
「どうも ありがとう……」
 と、 ムスメ は はずかしそう に カオ を あかく して、 レイ を いった。 シカク の リンカク を した おおきな カオ は、 さも うれしそう に にこにこ と わらって、 ムスメ の しろい うつくしい テ に その ピン を わたした。
「どうも ありがとう ございました」
 と、 ふたたび テイネイ に ムスメ は レイ を のべて、 そして クビス を めぐらした。
 オトコ は うれしくて シカタ が ない。 ユカイ で たまらない。 これ で あの ムスメ、 オレ の カオ を みおぼえた な…… と おもう。 これから デンシャ で でっくわして も、 あの ヒト が ワタシ の ピン を ひろって くれた ヒト だ と おもう に ソウイ ない。 もし オレ が トシ が わかくって、 ムスメ が いますこし ベッピン で、 それで こういう マク を えんずる と、 おもしろい ショウセツ が できる ん だ など と、 トリトメ も ない こと を イロイロ に かんがえる。 レンソウ は レンソウ を うんで、 その ミ の いたずらに セイネン ジダイ を ロウヒ して しまった こと や、 コイビト で めとった サイクン の おいて しまった こと や、 コドモ の おおい こと や、 ジブン の セイカツ の こうりょう と して いる こと や、 ジセイ に おくれて ショウライ に ハッタツ の ミコミ の ない こと や、 イロイロ な こと が みだれた イト の よう に もつれあって、 こんがらがって、 ほとんど サイゲン が ない。 ふと、 その つとめて いる ボウ-ザッシシャ の むずかしい ヘンシュウチョウ の カオ が クウソウ の ウチ に ありあり と うかんだ。 と、 キュウ に クウソウ を すてて ミチ を いそぎだした。

 3

 この オトコ は どこ から くる か と いう と、 センダガヤ の タンボ を こして、 クヌギ の ナミキ の ムコウ を とおって、 シンダチ の リッパ な テイタク の モン を つらねて いる アイダ を ぬけて、 ウシ の ナキゴエ の きこえる ボクジョウ、 カシ の タイジュ の つらなって いる コミチ―― その ムコウ を だらだら と くだった オカ の カゲ の イッケンヤ、 マイアサ カレ は そこ から でて くる ので、 タケ の ひくい カナメガキ を マワリ に とりまわして、 ミマ ぐらい と おもわれる イエ の ツクリ、 ユカ の ひくい の と ヤネ の ひくい の を みて も、 カシヤダテ の ぞんざい な フシン で ある こと が わかる。 ちいさな モン を ナカ に はいらなく とも、 ミチ から ニワ や ザシキ が すっかり みえて、 シノダケ の 5~6 ポン はえて いる シタ に、 ジンチョウゲ の ちいさい の が 2~3 カブ さいて いる が、 その ソバ には ハチウエ の ハナモノ が イツツ ムッツ だらしなく ならべられて ある。 サイクン らしい 25~26 の オンナ が かいがいしく タスキガケ に なって はたらいて いる と、 ヨッツ ぐらい の オトコ の コ と ムッツ ぐらい の オンナ の コ と が、 ザシキ の ツギノマ の エンガワ の ヒアタリ の いい ところ に でて、 しきり に ナニゴト を か いって あそんで いる。
 イエ の ミナミガワ に、 ツルベ を ふせた イド が ある が、 10 ジ-ゴロ に なる と、 テンキ さえ よければ、 サイクン は そこ に タライ を もちだして、 しきり に センタク を やる。 キモノ を あらう ミズ の オト が ざぶざぶ と のどか に きこえて、 トナリ の ビャクレン の うつくしく ハル の ヒ に ひかる の が、 なんとも いえぬ ヘイワ な オモムキ を アタリ に ひろげる。 サイクン は なるほど もう イロ は おとろえて いる が、 ムスメザカリ には これ でも ジュウニンナミ イジョウ で あったろう と おもわれる。 やや キュウハ の ソクハツ に ゆって、 ふっくり と した マエガミ を とって ある が、 キモノ は モメン の シマモノ を きて、 エビチャイロ の オビ の スエ が チ に ついて、 オビアゲ の ところ が、 センタク の テ を うごかす たび に かすか に うごく。 しばらく する と、 スエ の オトコ の コ が、 カアチャン カアチャン と トオク から よんで きて、 ソバ に くる と、 いきなり フトコロ の チチ を さぐった。 まあ おまち よ と いった が、 なかなか いう こと を ききそう にも ない ので、 センタク の テ を マエダレ で そそくさ と ふいて、 マエ の エンガワ に コシ を かけて、 コドモ を だいて やった。 そこ へ ソウリョウ の オンナ の コ も きて たって いる。
 キャクマ ケンタイ の ショサイ は 6 ジョウ で、 ガラス の はまった ちいさい ホンバコ が ニシ の カベ に つけて おかれて あって、 クリ の キ の ツクエ が それ と ハンタイ の ガワ に すえられて ある。 トコノマ には シュンラン の ハチ が おかれて、 フクモノ は ニセモノ の ブンチョウ の サンスイ だ。 ハル の ヒ が ヘヤ の ナカ まで さしこむ ので、 じつに あたたかい、 キモチ が いい。 ツクエ の ウエ には 2~3 の ザッシ、 スズリバコ は ノシロヌリ の きいろい キジ の モクメ が でて いる もの、 そして そこ に シャ の ゲンコウシ らしい カミ が ハルカゼ に ふかれて いる。
 この シュジンコウ は ナ を スギタ コジョウ と いって、 いう まで も なく ブンガクシャ。 わかい コロ には、 ソウオウ に ナ も でて、 2~3 の サクヒン は ずいぶん カッサイ された こと も ある。 いや、 37 サイ の コンニチ、 こうして つまらぬ ザッシシャ の シャイン に なって、 マイニチ マイニチ かよって いって、 つまらぬ ザッシ の コウセイ まで して、 ヘイボン に ブンダン の チヘイセン イカ に チンボツ して しまおう とは ミズカラ も おもわなった で あろう し、 ヒト も おもわなかった。 けれど こう なった の には ゲンイン が ある。 この オトコ は ムカシ から そう だ が、 どうも わかい オンナ に あこがれる と いう わるい クセ が ある。 わかい うつくしい オンナ を みる と、 ヘイゼイ は わりあい に するどい カンサツガン も すっかり ケンイ を うしなって しまう。 わかい ジブン、 さかん に いわゆる ショウジョ ショウセツ を かいて、 イチジ は ずいぶん セイネン を みせしめた もの だ が、 カンサツ も シソウ も ない アクガレ ショウセツ が そう いつまで ヒト に あきられず に いる こと が できよう。 ついには この オトコ と ショウジョ と いう こと が ブンダン の ワライグサ の タネ と なって、 かく ショウセツ も ブンショウ も みな ワライゴエ の ウチ に ボッキャク されて しまった。 それに、 その ヨウボウ が マエ にも いった とおり、 コノウエ も なく バンカラ なので、 いよいよ それ が いい コントラスト を なして、 あの カオ で、 どうして ああ だろう、 うちみた ところ は、 いかな モウジュウ と でも たたかう と いう よう な フウサイ と タイカク と を もって いる のに……。 これ も ゾウカ の タワムレ の ヒトツ で あろう と いう ヒョウバン で あった。
 ある とき、 ユウジン-カン で その ウワサ が あった とき、 ヒトリ は いった。
「どうも フシギ だ。 イッシュ の ビョウキ かも しれん よ。 センセイ の は ただ、 あくがれる と いう ばかり なの だ から ね。 うつくしい と おもう、 ただ それ だけ なの だ。 ワレワレ なら、 そういう とき には、 すぐ ホンノウ の チカラ が クビ を だして きて、 ただ、 あくがれる くらい では どうしても マンゾク が できん がね」
「そう とも、 セイリテキ に、 どこ か ロスト して いる ん じゃ ない かしらん」
 と いった モノ が ある。
「セイリテキ と いう より も セイシツ じゃ ない かしらん」
「いや、 ボク は そう は おもわん。 センセイ、 わかい ジブン、 あまり に ほしいまま な こと を した ん じゃ ない か と おもう ね」
「ほしいまま とは?」
「いわず とも わかる じゃ ない か……。 ヒトリ で あまり ミ を きずつけた のさ。 その シュウカン が ながく つづく と、 セイリテキ に、 ある ホウメン が ロスト して しまって、 ニク と レイ と が しっくり あわん そう だ」
「バカ な……」
 と わらった モノ が ある。
「だって、 コドモ が できる じゃ ない か」
 と タレ か が いった。
「それ は コドモ は できる さ……」 と マエ の オトコ は うけて、 「ボク は イシャ に きいた ん だ が、 その ケッカ は いろいろ ある そう だ。 はげしい の は、 セイショク の ミチ が たたれて しまう そう だ が、 ナカ には センセイ の よう に なる の も ある と いう こと だ。 よく レイ が ある って…… ボク に いろいろ おしえて くれた よ。 ボク は きっと そう だ と おもう。 ボク の カンテイ は あやまらん さ」
「ボク は セイシツ だ と おもう がね」
「いや、 ビョウキ です よ、 すこし カイガン に でも いって いい クウキ でも すって、 セツヨク しなければ いかん と おもう」
「だって、 あまり おかしい、 それ も 18~19 とか 22~23 とか なら、 そういう こと も ある かも しれん が、 サイクン が あって、 コドモ が フタリ まで あって、 そして トシ は 38 にも なろう と いう ん じゃ ない か。 キミ の いう こと は セイリガク バンノウ で、 どうも ダンテイ-すぎる よ」
「いや、 それ は セツメイ が できる。 18~19 で なければ そういう こと は あるまい と いう けれど、 それ は いくらも ある。 センセイ、 きっと イマ でも やって いる に ソウイ ない。 わかい とき、 ああいう ふう で、 むやみ に レンアイ シンセイロンシャ を きどって、 クチ では きれい な こと を いって いて も、 ホンノウ が ショウチ しない から、 つい みずから きずつけて カイ を とる と いう よう な こと に なる。 そして それ が シュウカン に なる と、 ビョウテキ に なって、 ホンノウ の ジュウブン の ハタラキ を する こと が できなく なる。 センセイ の は きっと それ だ。 つまり、 マエ にも いった が、 ニク と レイ と が しっくり チョウワ する こと が できん の だよ。 それにしても おもしろい じゃ ない か、 ケンゼン を もって ミズカラ も にんじ、 ヒト も ゆるして いた モノ が、 イマ では フケンゼン も フケンゼン、 デカダン の ヒョウホン に なった の は。 これ と いう の も ホンノウ を ないがしろ に した から だ。 キミタチ は ボク が ホンノウ バンノウセツ を いだいて いる の を いつも コウゲキ する けれど、 じっさい、 ニンゲン は ホンノウ が タイセツ だよ。 ホンノウ に したがわん ヤツ は セイゾン して おられん さ」 と とうとう と して べんじた。

 4

 デンシャ は ヨヨギ を でた。
 ハル の アサ は ココチ が いい。 ヒ が うらうら と てりわたって、 クウキ は めずらしく くっきり と すきとおって いる。 フジ の うつくしく かすんだ シタ に おおきい クヌギバヤシ が くろく ならんで、 センダガヤ の クボチ に シンチク の カオク の しんし と して つらなって いる の が マワリドウロウ の よう に はやく ゆきすぎる。 けれど この ムゴン の シゼン より も うつくしい ショウジョ の スガタ の ほう が いい ので、 オトコ は マエ に あいたいした フタリ の ムスメ の カオ と スガタ と に ほとんど タマシイ を うちこんで いた。 けれど ムゴン の シゼン を みる より も いきた ニンゲン を ながめる の は コンナン な もの で、 あまり しげしげ みて、 さとられて は と いう キ が ある ので、 ワキ を みて いる よう な カオ を して、 そして イナズマ の よう に はやく するどく ナガシメ を つかう。 タレ だ か いった、 デンシャ で オンナ を みる の は ショウメン では あまり まばゆくって いけない、 そう か と いって、 あまり はなれて も きわだって ヒト に あやしまれる オソレ が ある、 7 ブ ぐらい に ハス に たいして ザ を しめる の が いちばん ベンリ だ と。 オトコ は ショウジョ に あくがれる の が ヤマイ で ある ほど で ある から、 むろん、 この くらい の ヒケツ は ヒト に おそわる まで も なく、 シゼン に その コキュウ を ジカク して いて、 いつでも その ベンリ な キカイ を つかむ こと を あやまらない。
 トシウエ の ほう の ムスメ の メ の ヒョウジョウ が いかにも うつくしい。 ホシ―― テンジョウ の ホシ も これ に くらべた なら その ヒカリ を うしなう で あろう と おもわれた。 チリメン の すらり と した ヒザ の アタリ から、 きゃしゃ な フジイロ の スソ、 シロタビ を つまだてた サンマイガサネ の セッタ、 ことに イロ の しろい エリクビ から、 あの むっちり と ムネ が たかく なって いる アタリ が うつくしい チブサ だ と おもう と、 ソウミ が かきむしられる よう な キ が する。 ヒトリ の ふとった ほう の ムスメ は フトコロ から ノートブック を だして、 しきり に それ を よみはじめた。
 すぐ センダガヤ エキ に きた。
 カレ の しりおる カギリ に おいて は、 ここ から、 すくなくとも 3 ニン の ショウジョ が のる の が レイ だ。 けれど キョウ は、 どうした の か、 ジコク が おくれた の か はやい の か、 みしって いる 3 ニン の ヒトリ だも のらぬ。 その カワリ に、 それ は フキリョウ な、 フタメ とは みられぬ よう な わかい オンナ が のった。 この オトコ は わかい オンナ なら、 タイテイ な みにくい カオ にも、 メ が いい とか、 ハナ が いい とか、 イロ が しろい とか、 エリクビ が うつくしい とか、 ヒザ の フトリグアイ が いい とか、 なにかしら の ビ を ハッケン して、 それ を みて たのしむ の で ある が、 イマ のった オンナ は、 さがして も、 ハッケン される よう な ビ は 1 カショ も もって おらなかった。 ソッパ、 チヂレゲ、 イログロ、 みた だけ でも フユカイ なの が、 いきなり カレ の トナリ に きて ザ を とった。
 シナノマチ の テイリュウジョウ は、 わりあい に のる ショウジョ の すくない ところ で、 かつて イチド すばらしく うつくしい、 カゾク の レイジョウ か と おもわれる よう な ショウジョ と ヒザ を ならべて ウシゴメ まで のった キオク が ある ばかり、 ソノゴ、 いま イチド どうか して あいたい もの、 みたい もの と ねがって いる けれど、 キョウ まで ついぞ カレ の ノゾミ は とげられなかった。 デンシャ は シンシ やら グンジン やら ショウニン やら ガクセイ やら を おおく のせて、 そして ヒリュウ の ごとく はしりだした。
 トンネル を でて、 デンシャ の ソクリョク が やや ゆるく なった コロ から、 カレ は しきり に クビ を テイシャジョウ の マチアイジョ の ほう に そそいで いた が、 ふと みなれた リボン の イロ を みえた と みえて、 その カオ は はればれしく かがやいて ムネ は おどった。 ヨツヤ から オチャノミズ の コウトウ ジョガッコウ に かよう 18 サイ ぐらい の ショウジョ、 ミナリ も きれい に、 ことに あでやか な キリョウ、 うつくしい と いって これほど うつくしい ムスメ は トウキョウ にも タクサン は あるまい と おもわれる。 セイ は すらり と して いる し、 メ は スズ を はった よう に ぱっちり と して いる し、 クチ は しまって ニク は やせず ふとらず、 はればれ した カオ には つねに クレナイ が みなぎって いる。 キョウ は あいにく ジョウキャク が おおい ので、 そのまま トビラ の ソバ に たった が、 「こみあいます から マエ の ほう へ つめて ください」 と シャショウ の コトバ に よぎなく されて、 オトコ の すぐ マエ の ところ に きて、 サゲカワ に しろい カイナ を のべた。 オトコ は たって かわって やりたい とは おもわぬ では ない が、 そう する と その しろい カイナ が みられぬ ばかり では なく、 ウエ から みおろす の は、 いかにも フベン なので、 そのまま セキ を たとう とも しなかった。
 こみあった デンシャ の ナカ の うつくしい ムスメ、 これほど カレ に シュミ-ぶかく うれしく かんぜられる もの は ない ので、 イマ まで にも すでに イクタビ と なく その ウレシサ を ケイケン した。 やわらかい キモノ が さわる。 えならぬ コウスイ の カオリ が する。 あたたかい ニク の ショッカン が いう に いわれぬ オモイ を そそる。 ことに、 オンナ の カミ の ニオイ と いう もの は、 イッシュ の はげしい ノゾミ を オトコ に おこさせる もの で、 それ が なんとも メイジョウ せられぬ ユカイ を カレ に あたえる の で あった。
 イチガヤ、 ウシゴメ、 イイダマチ と はやく すぎた。 ヨヨギ から のった ムスメ は フタリ とも ウシゴメ で おりた。 デンシャ は シンチン タイシャ して、 ますます コンザツ を きわめる。 それ にも かかわらず、 カレ は タマシイ を うしなった ヒト の よう に、 マエ の うつくしい カオ に のみ あくがれわたって いる。
 やがて オチャノミズ に つく。

 5

 この オトコ の つとめて いる ザッシシャ は、 カンダ の ニシキチョウ で、 セイネンシャ と いう、 セイソク エイゴ ガッコウ の すぐ ツギ の トオリ で、 カイドウ に めんした ガラスド の マエ には、 シンカン の ショセキ の カンバン が イイツ ムッツ も ならべられて あって、 ト を あけて ナカ に はいる と、 ザッシ ショセキ の ラチ も なく とりちらされた ヘヤ の チョウバ には シャシュ の むずかしい カオ が ひかえて いる。 ヘンシュウシツ は オク の 2 カイ で、 10 ジョウ の 1 シツ、 ニシ と ミナミ と が ふさがって いる ので、 インキ な こと おびただしい。 ヘンシュウイン の ツクエ が 5 キャク ほど ならべられて ある が、 カレ の ツクエ は その もっとも カベ に ちかい くらい ところ で、 アメ の ふる ヒ など は、 ランプ が ほしい くらい で ある。 それに、 デンワ が すぐ ソバ に ある ので、 しっきりなし に なって くる ベル が じつに うるさい。 センセイ、 オチャノミズ から ソトボリ セン に のりかえて ニシキチョウ 3 チョウメ の カド まで きて おりる と、 たのしかった クウソウ は すっかり さめて しまった よう な わびしい キ が して、 ヘンシュウチョウ と その インキ な ツクエ と が すぐ メ に うかぶ。 キョウ も イチニチ くるしまなければ ならぬ かなあ と おもう。 セイカツ と いう もの は つらい もの だ と すぐ アト を つづける。 と、 コノヨ も なにも ない よう な いや な キ に なって、 カイドウ の ホコリ が きいろく メノマエ に まう。 コウセイ の アナウメ の いや な こと、 ザッシ の ヘンシュウ の ムイミ なる こと が ありあり と アタマ に うかんで くる。 ほとんど トメド が ない。 それ ばかり なら まだ いい が、 なかば さめて まだ さめきらない デンシャ の うつくしい カゲ が、 その わびしい きいろい ホコリ の アイダ に おぼつかなく みえて、 それ が なんだか こう ジブン の ユイイツ の タノシミ を ハカイ して しまう よう に おもわれる ので、 いよいよ つらい。
 ヘンシュウチョウ が また ヒニク な いや な オトコ で、 ヒト を ひやかす こと を なんとも おもわぬ。 ほねおって ビブン でも かく と、 スギタ クン、 また オノロケ が でました ね と つっこむ。 なんぞ と いう と、 ショウジョ を もちだして わらわれる。 で、 おりおり は むっと して、 オレ は コドモ じゃ ない、 37 だ、 ヒト を バカ に する にも ホド が ある と フンガイ する。 けれど それ は すぐ きえて しまう ので、 こりる こと も なく、 つやっぽい ウタ を よみ、 シンタイシ を つくる。
 すなわち カレ の カイラク と いう の は デンシャ の ナカ の うつくしい スガタ と、 ビブン シンタイシ を つくる こと で、 シャ に いる アイダ は、 ヨウジ さえ ない と、 ゲンコウシ を のべて、 イッショウ ケンメイ に うつくしい ブン を かいて いる。 ショウジョ に かんする カンソウ の おおい の は むろん の こと だ。
 その ヒ は コウセイ が おおい ので、 センセイ ヒトリ それ に ボウサツ された が、 ゴゴ 2 ジ-ゴロ、 すこし かたづいた ので ヒトイキ ついて いる と、
「スギタ クン」
 と ヘンシュウチョウ が よんだ。
「え?」
 と そっち を むく と、
「キミ の キンサク を よみました よ」 と いって、 わらって いる。
「そう です か」
「あいかわらず、 うつくしい ねえ、 どうして ああ きれい に かける だろう。 じっさい、 キミ を コウダンシ と おもう の は ムリ は ない よ。 なんとか いう キシャ は、 キミ の おおきな タイカク を みて、 その ヨソウガイ なの に おどろいた と いう から ね」
「そう です かな」
 と、 スギタ は しかたなし に わらう。
「ショウジョ バンザイ です な!」
 と ヘンシュウイン の ヒトリ が アイヅチ を うって ひやかした。
 スギタ は むっと した が、 くだらん ヤツ を アイテ に して も と おもって、 ワキ を むいて しまった。 じつに シャク に さわる、 37 の オレ を ひやかす キ が しれぬ と おもった。
 うすぐらい インキ な ヘヤ は どう かんがえて みて も ワビシサ に たえかねて タバコ を すう と、 あおい ムラサキ の ケムリ が すうと ながく なびく。 みつめて いる と、 ヨヨギ の ムスメ、 ジョガクセイ、 ヨツヤ の うつくしい スガタ など が、 ごっちゃ に なって、 もつれあって、 それ が ヒトリ の スガタ の よう に おもわれる。 ばかばかしい と おもわぬ では ない が、 しかし ユカイ で ない こと も ない ヨウス だ。
 ゴゴ 3 ジ-スギ、 タイシュツ ジコク が ちかく なる と、 ウチ の こと を おもう。 ツマ の こと を おもう。 つまらん な、 トシ を とって しまった と つくづく ガイタン する。 わかい セイネン ジダイ を くだらなく すごして、 イマ に なって コウカイ した とて なんの ヤク に たつ、 ホントウ に つまらん なあ と くりかえす。 わかい とき に、 なぜ はげしい コイ を しなかった? なぜ ジュウブン に ニク の カオリ をも かがなかった? イマジブン おもった とて、 なんの ハンキョウ が ある? もう 37 だ。 こう おもう と、 キ が いらいら して、 カミノケ を むしりたく なる。
 シャ の ガラスド を あけて オモテ に でる。 シュウジツ の ロウドウ で アタマ は すっかり つかれて、 なんだか ノウテン が いたい よう な キ が する。 ニシカゼ に まいあがる きいろい ホコリ、 わびしい、 わびしい。 なぜか キョウ は ことさら に わびしく つらい。 いくら うつくしい ショウジョ の カミ の カ に あこがれた から って、 もう ジブン ら が コイ を する ジダイ では ない。 また コイ を したい たって、 うつくしい トリ を いざなう ハネ を もう もって おらない。 と おもう と、 もう いきて いる ネウチ が ない、 しんだ ほう が いい、 しんだ ほう が いい、 しんだ ほう が いい、 と カレ は おおきな タイカク を はこびながら かんがえた。
 カオツキ が わるい。 メ の にごって いる の は その ココロ の くらい こと を しめして いる。 ツマ や コドモ や ヘイワ な カテイ の こと を ネントウ に おかぬ では ない が、 そんな こと は もう ヒジョウ に エンコ が とおい よう に おもわれる。 しんだ ほう が いい? しんだら、 ツマ や コ は どう する? この ネン は もう かすか に なって、 ハンキョウ を あたえぬ ほど その ココロ は シンケイテキ に ロスト して しまった。 サビシサ、 サビシサ、 サビシサ、 この サビシサ を すくって くれる もの は ない か、 うつくしい スガタ の ただ ヒトツ で いい から、 しろい カイナ に この ミ を まいて くれる もの は ない か。 そう したら、 きっと フッカツ する。 キボウ、 フントウ、 ベンレイ、 かならず そこ に セイメイ を ハッケン する。 この にごった チ が あたらしく なれる と おもう。 けれど この オトコ は じっさい それ に よって、 あたらしい ユウキ を カイフク する こと が できる か どう か は もちろん ギモン だ。
 ソトボリ の デンシャ が きた ので カレ は のった。 ビンショウ な メ は すぐ うつくしい キモノ の イロ を もとめた が、 あいにく それ には カレ の ネガイ を マンゾク させる よう な モノ は のって おらなかった。 けれど デンシャ に のった と いう こと だけ で ココロ が おちついて、 これから が―― ウチ に かえる まで が、 ジブン の パラダイス の よう に、 キ が ゆったり と なる。 ミチバタ の サマザマ の ショウテン やら カンバン やら が マワリドウロウ の よう に メノマエ を とおる が、 それ が サマザマ の うつくしい キオク を おもいおこさせる ので いい ココチ が する の で あった。
 オチャノミズ から コウブ セン に のりかえる と、 オリカラ の ハクランカイ で デンシャ は ほとんど マンイン、 それ を ムリ に シャショウ の いる ところ に わりこんで、 とにかくに ミギ の トビラ の ソト に たって、 しっかり と シンチュウ の マルボウ を つかんだ。 ふと シャチュウ を みた カレ は はっと して おどろいた。 その ガラスマド を へだてて すぐ そこ に、 シナノマチ で ドウジョウ した、 いま イチド ぜひ あいたい、 みたい と ねがって いた うつくしい レイジョウ が、 ナカオレボウ や カクボウ や インバネス に ほとんど おしつけられる よう に なって、 ちょうど カラス の ムレ に とりまかれた ハト と いった よう な ふう に なって のって いる。
 うつくしい メ、 うつくしい テ、 うつくしい カミ、 どうして ゾクアク な この ヨノナカ に、 こんな きれい な コ が いる か と すぐ おもった。 タレ の サイクン に なる の だろう、 タレ の ウデ に まかれる の で あろう と おもう と、 たまらなく くやしく なさけなく なって、 その ケッコン の ヒ は いつ だ か しらぬ が、 その ヒ は のろう べき ヒ だ と おもった。 しろい エリクビ、 くろい カミ、 ウグイスチャ の リボン、 シラウオ の よう な きれい な ユビ、 ホウセキ-イリ の キン の ユビワ―― ジョウキャク が こみあって いる の と ガラスゴシ に なって いる の と を ツゴウ の いい こと に して、 カレ は こころゆく まで その うつくしい スガタ に タマシイ を うちこんで しまった。
 スイドウバシ、 イイダマチ、 ジョウキャク は いよいよ おおい。 ウシゴメ に くる と、 ほとんど シャダイ の ソト に おしだされそう に なった。 カレ は シンチュウ の ボウ に つかまって、 しかも メ を レイジョウ の スガタ から はなさず、 うっとり と して みずから ワレ を わすれる と いう ふう で あった が、 イチガヤ に きた とき、 また 5~6 の ジョウキャク が あった ので、 おしつけて おしかえして は いる けれど、 ややともすると、 ミ が シャガイ に つきだされそう に なる。 デンセン の ウナリ が トオク から きこえて きて、 なんとなく アタリ が そうぞうしい。 ぴー と ハッシャ の フエ が なって、 シャダイ が 1~2 ケン ほど でて、 キュウ に また その ソクリョク が はやめられた とき、 どうした ハズミ か、 すくなくとも ヨコ に いた ジョウキャク の 2~3 が チュウシン を うしなって たおれかかって きた ため でも あろう が、 レイジョウ の ビ に うっとり と して いた カレ の テ が シンチュウ の ボウ から はなれた と ドウジ に、 その おおきな カラダ は みごと に トンボガエリ を うって、 なんの こと は ない おおきな マリ の よう に、 ころころ と センロ の ウエ に ころがりおちた。 あぶない と シャショウ が ゼッキョウ した の も おそし はやし、 ノボリ の デンシャ が ウン わるく チ を うごかして やって きた ので、 たちまち その くろい おおきい イッカイブツ は、 あなや と いう マ に、 3~4 ケン ずるずる と ひきずられて、 あかい チ が ヒトスジ ながく レール を そめた。
 ヒジョウ ケイテキ が クウキ を つんざいて けたたましく なった。

ある オンナ (ゼンペン)

 ある オンナ  (ゼンペン)  アリシマ タケオ  1  シンバシ を わたる とき、 ハッシャ を しらせる 2 バンメ の ベル が、 キリ と まで は いえない 9 ガツ の アサ の、 けむった クウキ に つつまれて きこえて きた。 ヨウコ は ヘイキ で それ ...