2017/02/10

カッパ

 カッパ
   どうか Kappa と ハツオン して ください。

 アクタガワ リュウノスケ

 ジョ

 これ は ある セイシン ビョウイン の カンジャ、 ――ダイ 23 ゴウ が ダレ に でも しゃべる ハナシ で ある。 カレ は もう 30 を こして いる で あろう。 が、 イッケン した ところ は いかにも わかわかしい キョウジン で ある。 カレ の ハンセイ の ケイケン は、 ――いや、 そんな こと は どうでも よい。 カレ は ただ じっと リョウヒザ を かかえ、 ときどき マド の ソト へ メ を やりながら、 (テツゴウシ を はめた マド の ソト には カレハ さえ みえない カシ の キ が 1 ポン、 ユキグモリ の ソラ に エダ を はって いた。) インチョウ の S ハカセ や ボク を アイテ に ながなが と この ハナシ を しゃべりつづけた。 もっとも ミブリ は しなかった わけ では ない。 カレ は たとえば 「おどろいた」 と いう とき には キュウ に カオ を のけぞらせたり した。……
 ボク は こういう カレ の ハナシ を かなり セイカク に うつした つもり で ある。 もし また ダレ か ボク の ヒッキ に あきたりない ヒト が ある と すれば、 トウキョウ シガイ ×× ムラ の S セイシン ビョウイン を たずねて みる が よい。 トシ より も わかい ダイ 23 ゴウ は まず テイネイ に アタマ を さげ、 フトン の ない イス を ゆびさす で あろう。 それから ユウウツ な ビショウ を うかべ、 しずか に この ハナシ を くりかえす で あろう。 サイゴ に、 ――ボク は この ハナシ を おわった とき の カレ の カオイロ を おぼえて いる。 カレ は サイゴ に ミ を おこす が はやい か、 たちまち ゲンコツ を ふりまわしながら、 ダレ に でも こう どなりつける で あろう。 ―― 「でて いけ! この アクトウ め が! キサマ も バカ な、 シット-ぶかい、 ワイセツ な、 ずうずうしい、 うぬぼれきった、 ザンコク な、 ムシ の いい ドウブツ なん だろう。 でて いけ! この アクトウ め が!」

 1

 3 ネン マエ の ナツ の こと です。 ボク は ヒトナミ に リュックサック を せおい、 あの カミコウチ の オンセンヤド から ホタカヤマ へ のぼろう と しました。 ホタカヤマ へ のぼる の には ゴショウチ の とおり アズサガワ を さかのぼる ホカ は ありません。 ボク は マエ に ホタカヤマ は もちろん、 ヤリガタケ にも のぼって いました から、 アサギリ の おりた アズサガワ の タニ を アンナイシャ も つれず に のぼって ゆきました。 アサギリ の おりた アズサガワ の タニ を―― しかし その キリ は いつまで たって も はれる ケシキ は みえません。 のみならず かえって ふかく なる の です。 ボク は 1 ジカン ばかり あるいた ノチ、 イチド は カミコウチ の オンセンヤド へ ひきかえす こと に しよう か と おもいました。 けれども カミコウチ へ ひきかえす に して も、 とにかく キリ の はれる の を まった うえ に しなければ なりません。 と いって キリ は イッコク ごと に ずんずん ふかく なる ばかり なの です。 「ええ、 いっそ のぼって しまえ」 ――ボク は こう かんがえました から、 アズサガワ の タニ を はなれない よう に クマザサ の ナカ を わけて ゆきました。
 しかし ボク の メ を さえぎる もの は やはり ふかい キリ ばかり です。 もっとも ときどき キリ の ナカ から ふとい ブナ や モミ の エダ が あおあお と ハ を たらした の も みえなかった わけ では ありません。 それから また ホウボク の ウマ や ウシ も とつぜん ボク の マエ へ カオ を だしました。 けれども それら は みえた と おもう と、 たちまち また もうもう と した キリ の ナカ に かくれて しまう の です。 その うち に アシ も くたびれて くれば、 ハラ も だんだん へりはじめる、 ――おまけに キリ に ぬれとおった トザンフク や モウフ など も ナミタイテイ の オモサ では ありません。 ボク は とうとう ガ を おりました から、 イワ に せかれて いる ミズ の オト を タヨリ に アズサガワ の タニ へ おりる こと に しました。
 ボク は ミズギワ の イワ に こしかけ、 とりあえず ショクジ に とりかかりました。 コーンド ビーフ の カン を きったり、 カレエダ を あつめて ヒ を つけたり、 ――そんな こと を して いる うち に かれこれ 10 プン は たった でしょう。 その アイダ に どこまでも イジ の わるい キリ は いつか ほのぼの と はれかかりました。 ボク は パン を かじりながら、 ちょっと ウデドケイ を のぞいて みました。 ジコク は もう 1 ジ 20 プン-スギ です。 が、 それ より も おどろいた の は ナニ か キミ の わるい カオ が ヒトツ、 まるい ウデドケイ の ガラス の ウエ へ ちらり と カゲ を おとした こと です。 ボク は おどろいて ふりかえりました。 すると、 ――ボク が カッパ と いう もの を みた の は じつに この とき が はじめて だった の です。 ボク の ウシロ に ある イワ の ウエ には エ に ある とおり の カッパ が 1 ピキ、 カタテ は シラカバ の ミキ を かかえ、 カタテ は メ の ウエ に かざした なり、 めずらしそう に ボク を みおろして いました。
 ボク は アッケ に とられた まま、 しばらく は ミウゴキ も しず に いました。 カッパ も やはり おどろいた と みえ、 メ の ウエ の テ さえ うごかしません。 その うち に ボク は とびたつ が はやい か、 イワ の ウエ の カッパ へ おどりかかりました。 ドウジ に また カッパ も にげだしました。 いや、 おそらくは にげだした の でしょう。 じつは ひらり と ミ を かわした と おもう と、 たちまち どこ か へ きえて しまった の です。 ボク は いよいよ おどろきながら、 クマザサ の ナカ を みまわしました。 すると カッパ は ニゲゴシ を した なり、 2~3 メートル へだたった ムコウ に ボク を ふりかえって みて いる の です。 それ は フシギ でも なんでも ありません。 しかし ボク に イガイ だった の は カッパ の カラダ の イロ の こと です。 イワ の ウエ に ボク を みて いた カッパ は イチメン に ハイイロ を おびて いました。 けれども イマ は カラダジュウ すっかり ミドリイロ に かわって いる の です。 ボク は 「チクショウ!」 と オオゴエ を あげ、 もう イチド カッパ へ とびかかりました。 カッパ が にげだした の は もちろん です。 それから ボク は 30 プン ばかり、 クマザサ を つきぬけ、 イワ を とびこえ、 しゃにむに カッパ を おいつづけました。
 カッパ も また アシ の はやい こと は けっして サル など に おとりません。 ボク は ムチュウ に なって おいかける アイダ に ナンド も その スガタ を みうしなおう と しました。 のみならず アシ を すべらして ころがった こと も たびたび です。 が、 おおきい トチノキ が 1 ポン、 ふとぶと と エダ を はった シタ へ くる と、 サイワイ にも ホウボク の ウシ が 1 ピキ、 カッパ の ゆく サキ へ たちふさがりました。 しかも それ は ツノ の ふとい、 メ を ちばしらせた オウシ なの です。 カッパ は この オウシ を みる と、 ナニ か ヒメイ を あげながら、 ひときわ たかい クマザサ の ナカ へ モンドリ を うつ よう に とびこみました。 ボク は、 ――ボク も 「しめた」 と おもいました から、 いきなり その アト へ おいすがりました。 すると そこ には ボク の しらない アナ でも あいて いた の でしょう。 ボク は なめらか な カッパ の セナカ に やっと ユビサキ が さわった と おもう と、 たちまち ふかい ヤミ の ナカ へ マッサカサマ に ころげおちました。 が、 ワレワレ ニンゲン の ココロ は こういう キキ イッパツ の サイ にも トホウ も ない こと を かんがえる もの です。 ボク は 「あっ」 と おもう ヒョウシ に あの カミコウチ の オンセンヤド の ソバ に 「カッパバシ」 と いう ハシ が ある の を おもいだしました。 それから、 ――それから サキ の こと は おぼえて いません。 ボク は ただ メノマエ に イナズマ に にた もの を かんじた ぎり、 いつのまにか ショウキ を うしなって いました。

 2

 その うち に やっと キ が ついて みる と、 ボク は アオムケ に たおれた まま、 オオゼイ の カッパ に とりかこまれて いました。 のみならず ふとい クチバシ の ウエ に ハナメガネ を かけた カッパ が 1 ピキ、 ボク の ソバ へ ひざまずきながら、 ボク の ムネ へ チョウシンキ を あてて いました。 その カッパ は ボク が メ を あいた の を みる と、 ボク に 「しずか に」 と いう テマネ を し、 それから ダレ か ウシロ に いる カッパ へ Quax, quax と コエ を かけました。 すると どこ から か カッパ が 2 ヒキ、 タンカ を もって あるいて きました。 ボク は この タンカ に のせられた まま、 オオゼイ の カッパ の むらがった ナカ を しずか に ナンチョウ か すすんで ゆきました。 ボク の リョウガワ に ならんで いる マチ は すこしも ギンザ-ドオリ と チガイ ありません。 やはり ブナ の ナミキ の カゲ に イロイロ の ミセ が ヒヨケ を ならべ、 その また ナミキ に はさまれた ミチ を ジドウシャ が ナンダイ も はしって いる の です。
 やがて ボク を のせた タンカ は ほそい ヨコチョウ を まがった と おもう と、 ある ウチ の ナカ へ かつぎこまれました。 それ は ノチ に しった ところ に よれば、 あの ハナメガネ を かけた カッパ の ウチ、 ――チャック と いう イシャ の ウチ だった の です。 チャック は ボク を こぎれい な ベッド の ウエ へ ねかせました。 それから ナニ か トウメイ な ミズグスリ を 1 パイ のませました。 ボク は ベッド の ウエ に よこたわった なり、 チャック の する まま に なって いました。 じっさい また ボク の カラダ は ろくに ミウゴキ も できない ほど、 フシブシ が いたんで いた の です から。
 チャック は 1 ニチ に 2~3 ド は かならず ボク を シンサツ に きました。 また ミッカ に イチド ぐらい は ボク の サイショ に みかけた カッパ、 ――バッグ と いう リョウシ も たずねて きました。 カッパ は ワレワレ ニンゲン が カッパ の こと を しって いる より も はるか に ニンゲン の こと を しって います。 それ は ワレワレ ニンゲン が カッパ を ホカク する こと より も ずっと カッパ が ニンゲン を ホカク する こと が おおい ため でしょう。 ホカク と いう の は あたらない まで も、 ワレワレ ニンゲン は ボク の マエ にも たびたび カッパ の クニ へ きて いる の です。 のみならず イッショウ カッパ の クニ に すんで いた モノ も おおかった の です。 なぜ と いって ごらんなさい。 ボクラ は ただ カッパ では ない、 ニンゲン で ある と いう トッケン の ため に はたらかず に くって いられる の です。 げんに バッグ の ハナシ に よれば、 ある わかい ドウロ コウフ など は やはり ぐうぜん この クニ へ きた ノチ、 メス の カッパ を ツマ に めとり、 しぬ まで すんで いた と いう こと です。 もっとも その また メス の カッパ は この クニ ダイイチ の ビジン だった うえ、 オット の ドウロ コウフ を ごまかす の にも ミョウ を きわめて いた と いう こと です。
 ボク は 1 シュウカン ばかり たった ノチ、 この クニ の ホウリツ の さだめる ところ に より、 「トクベツ ホゴ ジュウミン」 と して チャック の トナリ に すむ こと に なりました。 ボク の ウチ は ちいさい わり に いかにも しょうしゃ と できあがって いました。 もちろん この クニ の ブンメイ は ワレワレ ニンゲン の クニ の ブンメイ―― すくなくとも ニホン の ブンメイ など と あまり タイサ は ありません。 オウライ に めんした キャクマ の スミ には ちいさい ピアノ が 1 ダイ あり、 それから また カベ には ガクブチ へ いれた エッティング など も かかって いました。 ただ カンジン の ウチ を ハジメ、 テーブル や イス の スンポウ も カッパ の シンチョウ に あわせて あります から、 コドモ の ヘヤ に いれられた よう に それ だけ は フベン に おもいました。
 ボク は いつも ヒグレガタ に なる と、 この ヘヤ に チャック や バッグ を むかえ、 カッパ の コトバ を ならいました。 いや、 カレラ ばかり では ありません。 トクベツ ホゴ ジュウミン だった ボク に ダレ も ミナ コウキシン を もって いました から、 マイニチ ケツアツ を しらべて もらい に、 わざわざ チャック を よびよせる ゲエル と いう ガラス-ガイシャ の シャチョウ など も やはり この ヘヤ へ カオ を だした もの です。 しかし サイショ の ハンツキ ほど の アイダ に いちばん ボク と したしく した の は やはり あの バッグ と いう リョウシ だった の です。
 ある なまあたたかい ヒノクレ です。 ボク は この ヘヤ の テーブル を ナカ に リョウシ の バッグ と むかいあって いました。 すると バッグ は どう おもった か、 キュウ に だまって しまった うえ、 おおきい メ を いっそう おおきく して じっと ボク を みつめました。 ボク は もちろん ミョウ に おもいました から、 「Quax, Bag, quo quel, quan?」 と いいました。 これ は ニホンゴ に ホンヤク すれば、 「おい、 バッグ、 どうした ん だ」 と いう こと です。 が、 バッグ は ヘンジ を しません。 のみならず いきなり たちあがる と、 べろり と シタ を だした なり、 ちょうど カエル の はねる よう に とびかかる ケシキ さえ しめしました。 ボク は いよいよ ブキミ に なり、 そっと イス から たちあがる と、 イッソクトビ に トグチ へ とびだそう と しました。 ちょうど そこ へ カオ を だした の は サイワイ にも イシャ の チャック です。
「こら、 バッグ、 ナニ を して いる の だ?」
 チャック は ハナメガネ を かけた まま、 こういう バッグ を にらみつけました。 すると バッグ は おそれいった と みえ、 ナンド も アタマ へ テ を やりながら、 こう いって チャック に あやまる の です。
「どうも まことに あいすみません。 じつは この ダンナ の きみわるがる の が おもしろかった もの です から、 つい チョウシ に のって イタズラ を した の です。 どうか ダンナ も カンニン して ください」

 3

 ボク は コノサキ を はなす マエ に ちょっと カッパ と いう もの を セツメイ して おかなければ なりません。 カッパ は いまだに ジツザイ する か どう か も ギモン に なって いる ドウブツ です。 が、 それ は ボク ジシン が カレラ の アイダ に すんで いた イジョウ、 すこしも うたがう ヨチ は ない はず です。 では また どういう ドウブツ か と いえば、 アタマ に みじかい ケ の ある の は もちろん、 テアシ に ミズカキ の ついて いる こと も 「スイコ コウリャク」 など に でて いる の と いちじるしい チガイ は ありません。 シンチョウ も ざっと 1 メートル を こえる か こえぬ くらい でしょう。 タイジュウ は イシャ の チャック に よれば、 20 ポンド から 30 ポンド まで、 ――まれ には 50 ナン-ポンド ぐらい の オオカッパ も いる と いって いました。 それから アタマ の マンナカ には ダエンケイ の サラ が あり、 その また サラ は ネンレイ に より、 だんだん カタサ を くわえる よう です。 げんに トシ を とった バッグ の サラ は わかい チャック の サラ など とは ぜんぜん テザワリ も ちがう の です。 しかし いちばん フシギ なの は カッパ の ヒフ の イロ の こと でしょう。 カッパ は ワレワレ ニンゲン の よう に イッテイ の ヒフ の イロ を もって いません。 なんでも その シュウイ の イロ と おなじ イロ に かわって しまう、 ――たとえば クサ の ナカ に いる とき には クサ の よう に ミドリイロ に かわり、 イワ の ウエ に いる とき には イワ の よう に ハイイロ に かわる の です。 これ は もちろん カッパ に かぎらず、 カメレオン にも ある こと です。 あるいは カッパ は ヒフ ソシキ の ウエ に ナニ か カメレオン に ちかい ところ を もって いる の かも しれません。 ボク は この ジジツ を ハッケン した とき、 サイコク の カッパ は ミドリイロ で あり、 トウホク の カッパ は あかい と いう ミンゾクガクジョウ の キロク を おもいだしました。 のみならず バッグ を おいかける とき、 とつぜん どこ へ いった の か、 みえなく なった こと を おもいだしました。 しかも カッパ は ヒフ の シタ に よほど あつい シボウ を もって いる と みえ、 この チカ の クニ の オンド は ヒカクテキ ひくい の にも かかわらず、 (ヘイキン カシ 50 ド ゼンゴ です。) キモノ と いう もの を しらず に いる の です。 もちろん どの カッパ も メガネ を かけたり、 マキタバコ の ハコ を たずさえたり、 カネイレ を もったり は して いる でしょう。 しかし カッパ は カンガルー の よう に ハラ に フクロ を もって います から、 それら の もの を しまう とき にも かくべつ フベン は しない の です。 ただ ボク に おかしかった の は コシ の マワリ さえ おおわない こと です。 ボク は ある とき この シュウカン を なぜか と バッグ に たずねて みました。 すると バッグ は のけぞった まま、 いつまでも げらげら わらって いました。 おまけに 「ワタシ は オマエサン の かくして いる の が おかしい」 と ヘンジ を しました。

 4

 ボク は だんだん カッパ の つかう ニチジョウ の コトバ を おぼえて きました。 したがって カッパ の フウゾク や シュウカン も のみこめる よう に なって きました。 その ナカ でも いちばん フシギ だった の は カッパ は ワレワレ ニンゲン の マジメ に おもう こと を おかしがる、 ドウジ に ワレワレ ニンゲン の おかしがる こと を マジメ に おもう―― こういう トンチンカン な シュウカン です。 たとえば ワレワレ ニンゲン は セイギ とか ジンドウ とか いう こと を マジメ に おもう、 しかし カッパ は そんな こと を きく と、 ハラ を かかえて わらいだす の です。 つまり カレラ の コッケイ と いう カンネン は ワレワレ の コッケイ と いう カンネン と ぜんぜん ヒョウジュン を コト に して いる の でしょう。 ボク は ある とき イシャ の チャック と サンジ セイゲン の ハナシ を して いました。 すると チャック は オオグチ を あいて、 ハナメガネ の おちる ほど わらいだしました。 ボク は もちろん ハラ が たちました から、 ナニ が おかしい か と キツモン しました。 なんでも チャック の ヘントウ は だいたい こう だった よう に おぼえて います。 もっとも たしょう こまかい ところ は まちがって いる かも しれません。 なにしろ まだ その コロ は ボク も カッパ の つかう コトバ を すっかり リカイ して いなかった の です から。
「しかし リョウシン の ツゴウ ばかり かんがえて いる の は おかしい です から ね。 どうも あまり テマエ-ガッテ です から ね」
 その カワリ に ワレワレ ニンゲン から みれば、 じっさい また カッパ の オサン ぐらい、 おかしい もの は ありません。 げんに ボク は しばらく たって から、 バッグ の サイクン の オサン を する ところ を バッグ の コヤ へ ケンブツ に ゆきました。 カッパ も オサン を する とき には ワレワレ ニンゲン と おなじ こと です。 やはり イシャ や サンバ など の タスケ を かりて オサン を する の です。 けれども オサン を する と なる と、 チチオヤ は デンワ でも かける よう に ハハオヤ の セイショクキ に クチ を つけ、 「オマエ は この セカイ へ うまれて くる か どう か、 よく かんがえた うえ で ヘンジ を しろ」 と おおきな コエ で たずねる の です。 バッグ も やはり ヒザ を つきながら、 ナンド も くりかえして こう いいました。 それから テーブル の ウエ に あった ショウドクヨウ の スイヤク で ウガイ を しました。 すると サイクン の ハラ の ナカ の コ は たしょう キガネ でも して いる と みえ、 こう コゴエ に ヘンジ を しました。
「ボク は うまれたく は ありません。 だいいち ボク の オトウサン の イデン は セイシンビョウ だけ でも タイヘン です。 そのうえ ボク は カッパ-テキ ソンザイ を わるい と しんじて います から」
 バッグ は この ヘンジ を きいた とき、 てれた よう に アタマ を かいて いました。 が、 そこ に いあわせた サンバ は たちまち サイクン の セイショクキ へ ふとい ガラス の カン を つきこみ、 ナニ か エキタイ を チュウシャ しました。 すると サイクン は ほっと した よう に ふとい イキ を もらしました。 ドウジ に また イマ まで おおきかった ハラ は スイソ ガス を ぬいた フウセン の よう に へたへた と ちぢんで しまいました。
 こういう ヘンジ を する くらい です から、 カッパ の コドモ は うまれる が はやい か、 もちろん あるいたり しゃべったり する の です。 なんでも チャック の ハナシ では シュッサンゴ 26 ニチ-メ に カミ の ウム に ついて コウエン を した コドモ も あった とか いう こと です。 もっとも その コドモ は フタツキ-メ には しんで しまった と いう こと です が。
 オサン の ハナシ を した ツイデ です から、 ボク が この クニ へ きた ミツキ-メ に ぐうぜん ある マチ の カド で みかけた、 おおきい ポスター の ハナシ を しましょう。 その おおきい ポスター の シタ には ラッパ を ふいて いる カッパ だの ケン を もって いる カッパ だの が 12~13 ビキ かいて ありました。 それから また ウエ には カッパ の つかう、 ちょうど トケイ の ゼンマイ に にた ラセン モジ が イチメン に ならべて ありました。 この ラセン モジ を ホンヤク する と、 だいたい こういう イミ に なる の です。 これ も あるいは こまかい ところ は まちがって いる かも しれません。 が、 とにかく ボク と して は ボク と イッショ に あるいて いた、 ラップ と いう カッパ の ガクセイ が オオゴエ に よみあげて くれる コトバ を いちいち ノート に とって おいた の です。

   イデンテキ ギユウタイ を つのる!!!
   ケンゼン なる ダンジョ の カッパ よ!!!
   アクイデン を ボクメツ する ため に
   フケンゼン なる ダンジョ の カッパ と ケッコン せよ!!!

 ボク は もちろん その とき にも そんな こと の おこなわれない こと を ラップ に はなして きかせました。 すると ラップ ばかり では ない、 ポスター の キンジョ に いた カッパ は ことごとく げらげら わらいだしました。
「おこなわれない? だって アナタ の ハナシ では アナタガタ も やはり ワレワレ の よう に おこなって いる と おもいます がね。 アナタ は レイソク が ジョチュウ に ほれたり、 レイジョウ が ウンテンシュ に ほれたり する の は なんの ため だ と おもって いる の です? あれ は みな ムイシキテキ に アクイデン を ボクメツ して いる の です よ。 だいいち このあいだ アナタ の はなした アナタガタ ニンゲン の ギユウタイ より も、 ――1 ポン の テツドウ を うばう ため に たがいに ころしあう ギユウタイ です ね、 ――ああいう ギユウタイ に くらべれば、 ずっと ボクタチ の ギユウタイ は コウショウ では ない か と おもいます がね」
 ラップ は マジメ に こう いいながら、 しかも ふとい ハラ だけ は おかしそう に たえず なみだたせて いました。 が、 ボク は わらう どころ か、 あわてて ある カッパ を つかまえよう と しました。 それ は ボク の ユダン を みすまし、 その カッパ が ボク の マンネンヒツ を ぬすんだ こと に キ が ついた から です。 しかし ヒフ の なめらか な カッパ は ヨウイ に ワレワレ には つかまりません。 その カッパ も ぬらり と すべりぬける が はやい か イッサン に にげだして しまいました。 ちょうど カ の よう に やせた カラダ を たおれる か と おもう くらい のめらせながら。

 5

 ボク は この ラップ と いう カッパ に バッグ にも おとらぬ セワ に なりました。 が、 その ナカ でも わすれられない の は トック と いう カッパ に ショウカイ された こと です。 トック は カッパ ナカマ の シジン です。 シジン が カミ を ながく して いる こと は ワレワレ ニンゲン と かわりません。 ボク は ときどき トック の ウチ へ タイクツ シノギ に あそび に ゆきました。 トック は いつも せまい ヘヤ に コウザン ショクブツ の ハチウエ を ならべ、 シ を かいたり タバコ を のんだり、 いかにも キラク そう に くらして いました。 その また ヘヤ の スミ には メス の カッパ が 1 ピキ、 (トック は ジユウ レンアイカ です から、 サイクン と いう もの は もたない の です。) アミモノ か ナニ か して いました。 トック は ボク の カオ を みる と、 いつも ビショウ して こう いう の です。 (もっとも カッパ の ビショウ する の は あまり いい もの では ありません。 すくなくとも ボク は サイショ の うち は むしろ ブキミ に かんじた もの です。)
「やあ、 よく きた ね。 まあ、 その イス に かけたまえ」
 トック は よく カッパ の セイカツ だの カッパ の ゲイジュツ だの の ハナシ を しました。 トック の しんずる ところ に よれば、 アタリマエ の カッパ の セイカツ ぐらい、 ばかげて いる もの は ありません。 オヤコ フウフ キョウダイ など と いう の は ことごとく たがいに くるしめあう こと を ユイイツ の タノシミ に して くらして いる の です。 ことに カゾク セイド と いう もの は ばかげて いる イジョウ にも ばかげて いる の です。 トック は ある とき マド の ソト を ゆびさし、 「みたまえ。 あの バカゲサ カゲン を!」 と はきだす よう に いいました。 マド の ソト の オウライ には まだ トシ の わかい カッパ が 1 ピキ、 リョウシン らしい カッパ を ハジメ、 7~8 ヒキ の メスオス の カッパ を クビ の マワリ へ ぶらさげながら、 イキ も たえだえ に あるいて いました。 しかし ボク は トシ の わかい カッパ の ギセイテキ セイシン に カンシン しました から、 かえって その ケナゲサ を ほめたてました。
「ふん、 キミ は この クニ でも シミン に なる シカク を もって いる。 ……ときに キミ は シャカイ シュギシャ かね?」
 ボク は もちろん qua (これ は カッパ の つかう コトバ では 「しかり」 と いう イミ を あらわす の です。) と こたえました。
「では 100 ニン の ボンジン の ため に あまんじて ヒトリ の テンサイ を ギセイ に する こと も かえりみない はず だ」
「では キミ は ナニ シュギシャ だ? ダレ か トック クン の シンジョウ は ムセイフ シュギ だ と いって いた が、……」
「ボク か? ボク は チョウジン (チョクヤク すれば チョウ-カッパ です。) だ」
 トック は こうぜん と いいはなちました。 こういう トック は ゲイジュツ の ウエ にも ドクトク な カンガエ を もって います。 トック の しんずる ところ に よれば、 ゲイジュツ は ナニモノ の シハイ をも うけない、 ゲイジュツ の ため の ゲイジュツ で ある。 したがって ゲイジュツカ たる モノ は ナニ より も サキ に ゼンアク を ぜっした チョウジン で なければ ならぬ と いう の です。 もっとも これ は かならずしも トック 1 ピキ の イケン では ありません。 トック の ナカマ の シジン たち は たいてい ドウイケン を もって いる よう です。 げんに ボク は トック と イッショ に たびたび チョウジン クラブ へ あそび に ゆきました。 チョウジン クラブ に あつまって くる の は シジン、 ショウセツカ、 ギキョクカ、 ヒヒョウカ、 ガカ、 オンガクカ、 チョウコクカ、 ゲイジュツジョウ の シロウト-トウ です。 しかし いずれ も チョウジン です。 カレラ は デントウ の あかるい サロン に いつも カイカツ に はなしあって いました。 のみならず ときには とくとく と カレラ の チョウジン-ブリ を しめしあって いました。 たとえば ある チョウコクカ など は おおきい オニシダ の ハチウエ の アイダ に トシ の わかい カッパ を つかまえながら、 しきり に ダンショク を もてあそんで いました。 また ある メス の ショウセツカ など は テーブル の ウエ に たちあがった なり アブサント を 60 ポン のんで みせました。 もっとも これ は 60 ポン-メ に テーブル の シタ へ ころげおちる が はやい か、 たちまち オウジョウ して しまいました が。
 ボク は ある ツキ の いい バン、 シジン の トック と ヒジ を くんだ まま、 チョウジン クラブ から かえって きました。 トック は いつ に なく しずみこんで ヒトコト も クチ を きかず に いました。 その うち に ボクラ は ホカゲ の さした、 ちいさい マド の マエ を とおりかかりました。 その また マド の ムコウ には フウフ らしい メスオス の カッパ が 2 ヒキ、 3 ビキ の コドモ の カッパ と イッショ に バンサン の テーブル に むかって いる の です。 すると トック は タメイキ を しながら、 とつぜん こう ボク に はなしかけました。
「ボク は チョウジンテキ レンアイカ だ と おもって いる がね、 ああいう カテイ の ヨウス を みる と、 やはり ウラヤマシサ を かんじる ん だよ」
「しかし それ は どう かんがえて も、 ムジュン して いる とは おもわない かね?」
 けれども トック は ツキアカリ の シタ に じっと ウデ を くんだ まま、 あの ちいさい マド の ムコウ を、 ――ヘイワ な 5 ヒキ の カッパ たち の バンサン の テーブル を みまもって いました。 それから しばらく して こう こたえました。
「あすこ に ある タマゴヤキ は なんと いって も、 レンアイ など より も エイセイテキ だ から ね」

 6

 じっさい また カッパ の レンアイ は ワレワレ ニンゲン の レンアイ とは よほど オモムキ を コト に して います。 メス の カッパ は これ ぞ と いう オス の カッパ を みつける が はやい か、 オス の カッパ を とらえる の に いかなる シュダン も かえりみません。 いちばん ショウジキ な メス の カッパ は しゃにむに オス の カッパ を おいかける の です。 げんに ボク は キチガイ の よう に オス の カッパ を おいかけて いる メス の カッパ を みかけました。 いや、 それ ばかり では ありません。 わかい メス の カッパ は もちろん、 その カッパ の リョウシン や キョウダイ まで イッショ に なって おいかける の です。 オス の カッパ こそ みじめ です。 なにしろ さんざん にげまわった アゲク、 ウン よく つかまらず に すんだ と して も、 2~3 カゲツ は トコ に ついて しまう の です から。 ボク は ある とき ボク の イエ に トック の シシュウ を よんで いました。 すると そこ へ かけこんで きた の は あの ラップ と いう ガクセイ です。 ラップ は ボク の イエ へ ころげこむ と、 ユカ の ウエ へ たおれた なり、 イキ も きれぎれ に こう いう の です。
「タイヘン だ! とうとう ボク は だきつかれて しまった!」
 ボク は トッサ に シシュウ を なげだし、 トグチ の ジョウ を おろして しまいました。 しかし カギアナ から のぞいて みる と、 イオウ の フンマツ を カオ に ぬった、 セ の ひくい メス の カッパ が 1 ピキ、 まだ トグチ に うろついて いる の です。 ラップ は その ヒ から ナン-シュウカン か ボク の トコ の ウエ に ねて いました。 のみならず いつか ラップ の クチバシ は すっかり くさって おちて しまいました。
 もっとも また ときには メス の カッパ を イッショウ ケンメイ に おいかける オス の カッパ も ない では ありません。 しかし それ も ホントウ の ところ は おいかけず には いられない よう に メス の カッパ が しむける の です。 ボク は やはり キチガイ の よう に メス の カッパ を おいかけて いる オス の カッパ も みかけました。 メス の カッパ は にげて ゆく うち にも、 ときどき わざと たちどまって みたり、 ヨツンバイ に なったり して みせる の です。 おまけに ちょうど いい ジブン に なる と、 さも がっかり した よう に らくらく と つかませて しまう の です。 ボク の みかけた オス の カッパ は メス の カッパ を だいた なり、 しばらく そこ に ころがって いました。 が、 やっと おきあがった の を みる と、 シツボウ と いう か、 コウカイ と いう か、 とにかく なんとも ケイヨウ できない、 キノドク な カオ を して いました。 しかし それ は まだ いい の です。 これ も ボク の みかけた ナカ に ちいさい オス の カッパ が 1 ピキ、 メス の カッパ を おいかけて いました。 メス の カッパ は レイ の とおり、 ユウワクテキ トンソウ を して いる の です。 すると そこ へ ムコウ の マチ から おおきい オス の カッパ が 1 ピキ、 ハナイキ を ならせて あるいて きました。 メス の カッパ は ナニ か の ヒョウシ に ふと この オス の カッパ を みる と 「タイヘン です! たすけて ください! あの カッパ は ワタシ を ころそう と する の です!」 と カナキリゴエ を だして さけびました。 もちろん おおきい オス の カッパ は たちまち ちいさい カッパ を つかまえ、 オウライ の マンナカ へ ねじふせました。 ちいさい カッパ は ミズカキ の ある テ に 2~3 ド クウ を つかんだ なり、 とうとう しんで しまいました。 けれども もう その とき には メス の カッパ は にやにや しながら、 おおきい カッパ の クビッタマ へ しっかり しがみついて しまって いた の です。
 ボク の しって いた オス の カッパ は ダレ も ミナ いいあわせた よう に メス の カッパ に おいかけられました。 もちろん サイシ を もって いる バッグ でも やはり おいかけられた の です。 のみならず 2~3 ド は つかまった の です。 ただ マッグ と いう テツガクシャ だけ は (これ は あの トック と いう シジン の トナリ に いる カッパ です。) イチド も つかまった こと は ありません。 これ は ヒトツ には マッグ ぐらい、 みにくい カッパ も すくない ため でしょう。 しかし また ヒトツ には マッグ だけ は あまり オウライ へ カオ を ださず に ウチ に ばかり いる ため です。 ボク は この マッグ の ウチ へも ときどき はなし に でかけました。 マッグ は いつも うすぐらい ヘヤ に ナナイロ の イロガラス の ランターン を ともし、 アシ の たかい ツクエ に むかいながら、 あつい ホン ばかり よんで いる の です。 ボク は ある とき こういう マッグ と カッパ の レンアイ を ろんじあいました。
「なぜ セイフ は メス の カッパ が オス の カッパ を おいかける の を もっと ゲンジュウ に とりしまらない の です?」
「それ は ヒトツ には カンリ の ナカ に メス の カッパ の すくない ため です よ。 メス の カッパ は オス の カッパ より も いっそう シットシン は つよい もの です から ね。 メス の カッパ の カンリ さえ ふえれば、 きっと イマ より も オス の カッパ は おいかけられず に くらせる でしょう。 しかし その コウリョク も しれた もの です ね。 なぜ と いって ごらんなさい。 カンリ ドウシ でも メス の カッパ は オス の カッパ を おいかけます から ね」
「じゃあ アナタ の よう に くらして いる の は いちばん コウフク な わけ です ね」
 すると マッグ は イス を はなれ、 ボク の リョウテ を にぎった まま、 タメイキ と イッショ に こう いいました。
「アナタ は ワレワレ カッパ では ありません から、 おわかり に ならない の も もっとも です。 しかし ワタシ も どうか する と、 あの おそろしい メス の カッパ に おいかけられたい キ も おこる の です よ」

 7

 ボク は また シジン の トック と たびたび オンガクカイ へも でかけました。 が、 いまだに わすれられない の は 3 ド-メ に きき に いった オンガクカイ の こと です。 もっとも カイジョウ の ヨウス など は あまり ニホン と かわって いません。 やはり だんだん せりあがった セキ に メスオス の カッパ が 300~400 ピキ、 いずれ も プログラム を テ に しながら、 イッシン に ミミ を すませて いる の です。 ボク は この 3 ド-メ の オンガクカイ の とき には トック や トック の メス の カッパ の ホカ にも テツガクシャ の マッグ と イッショ に なり、 いちばん マエ の セキ に すわって いました。 すると セロ の ドクソウ が おわった ノチ、 ミョウ に メ の ほそい カッパ が 1 ピキ、 ムゾウサ に フホン を かかえた まま、 ダン の ウエ へ あがって きました。 この カッパ は プログラム の おしえる とおり、 なだかい クラバック と いう サッキョクカ です。 プログラム の おしえる とおり、 ――いや、 プログラム を みる まで も ありません。 クラバック は トック が ぞくして いる チョウジン クラブ の カイイン です から、 ボク も また カオ だけ は しって いる の です。
「Lied――Craback」 (この クニ の プログラム も タイテイ は ドイツ-ゴ を ならべて いました。)
 クラバック は さかん な ハクシュ の ウチ に ちょっと ワレワレ へ イチレイ した ノチ、 しずか に ピアノ の マエ へ あゆみよりました。 それから やはり ムゾウサ に ジサク の リード を ひきはじめました。 クラバック は トック の コトバ に よれば、 この クニ の うんだ オンガクカ-チュウ、 ゼンゴ に ヒルイ の ない テンサイ だ そう です。 ボク は クラバック の オンガク は もちろん、 その また ヨギ の ジョジョウシ にも キョウミ を もって いました から、 おおきい ユミナリ の ピアノ の オト に ネッシン に ミミ を かたむけて いました。 トック や マッグ も こうこつ と して いた こと は あるいは ボク より も まさって いた でしょう。 が、 あの うつくしい (すくなくとも カッパ たち の ハナシ に よれば) メス の カッパ だけ は しっかり プログラム を にぎった なり、 ときどき さも いらだたしそう に ながい シタ を べろべろ だして いました。 これ は マッグ の ハナシ に よれば、 なんでも かれこれ 10 ネン-ゼン に クラバック を つかまえそこなった もの です から、 いまだに この オンガクカ を メノカタキ に して いる の だ とか いう こと です。
 クラバック は ゼンシン に ジョウネツ を こめ、 たたかう よう に ピアノ を ひきつづけました。 すると とつぜん カイジョウ の ナカ に カミナリ の よう に ひびきわたった の は 「エンソウ キンシ」 と いう コエ です。 ボク は この コエ に びっくり し、 おもわず ウシロ を ふりかえりました。 コエ の ヌシ は マギレ も ない、 いちばん ウシロ の セキ に いる ミノタケ バツグン の ジュンサ です。 ジュンサ は ボク が ふりむいた とき、 ゆうぜん と コシ を おろした まま、 もう イチド マエ より も オオゴエ に 「エンソウ キンシ」 と どなりました。 それから、――
 それから サキ は ダイコンラン です。 「ケイカン オウボウ!」 「クラバック、 ひけ! ひけ!」 「バカ!」 「チクショウ!」 「ひっこめ!」 「まけるな!」 ――こういう コエ の わきあがった ナカ に イス は たおれる、 プログラム は とぶ、 おまけに ダレ が なげる の か、 サイダー の アキビン や イシコロ や カジリカケ の キュウリ さえ ふって くる の です。 ボク は アッケ に とられました から、 トック に その リユウ を たずねよう と しました。 が、 トック も コウフン した と みえ、 イス の ウエ に つったちながら、 「クラバック、 ひけ! ひけ!」 と わめきつづけて います。 のみならず トック の メス の カッパ も いつのまに テキイ を わすれた の か、 「ケイカン オウボウ」 と さけんで いる こと は すこしも トック に かわりません。 ボク は やむ を えず マッグ に むかい、
「どうした の です?」 と たずねて みました。
「これ です か? これ は この クニ では よく ある こと です よ。 がんらい エ だの ブンゲイ だの は……」
 マッグ は ナニ か とんで くる たび に ちょっと クビ を ちぢめながら、 あいかわらず しずか に セツメイ しました。
「がんらい エ だの ブンゲイ だの は ダレ の メ にも ナニ を あらわして いる か は とにかく ちゃんと わかる はず です から、 この クニ では けっして ハツバイ キンシ や テンラン キンシ は おこなわれません。 その カワリ に ある の が エンソウ キンシ です。 なにしろ オンガク と いう もの だけ は どんな に フウゾク を カイラン する キョク でも、 ミミ の ない カッパ には わかりません から ね」
「しかし あの ジュンサ は ミミ が ある の です か?」
「さあ、 それ は ギモン です ね。 たぶん イマ の センリツ を きいて いる うち に サイクン と イッショ に ねて いる とき の シンゾウ の コドウ でも おもいだした の でしょう」
 こういう アイダ にも オオサワギ は いよいよ さかん に なる ばかり です。 クラバック は ピアノ に むかった まま、 ごうぜん と ワレワレ を ふりかえって いました。 が、 いくら ごうぜん と して いて も、 イロイロ の もの の とんで くる の は よけない わけ に ゆきません。 したがって つまり 2~3 ビョウ-オキ に せっかく の タイド も かわった わけ です。 しかし とにかく ダイタイ と して は ダイ オンガクカ の イゲン を たもちながら、 ほそい メ を すさまじく かがやかせて いました。 ボク は―― ボク も もちろん キケン を さける ため に トック を コダテ に とって いた もの です。 が、 やはり コウキシン に かられ、 ネッシン に マッグ と はなしつづけました。
「そんな ケンエツ は ランボウ じゃ ありません か?」
「なに、 どの クニ の ケンエツ より も かえって シンポ して いる くらい です よ。 たとえば ×× を ごらんなさい。 げんに つい ヒトツキ ばかり マエ にも、……」
 ちょうど こう いいかけた トタン です。 マッグ は あいにく ノウテン に アキビン が おちた もの です から、 quack (これ は ただ カントウシ です) と ヒトコエ さけんだ ぎり、 とうとう キ を うしなって しまいました。

 8

 ボク は ガラス-ガイシャ の シャチョウ の ゲエル に フシギ にも コウイ を もって いました。 ゲエル は シホンカ-チュウ の シホンカ です。 おそらくは この クニ の カッパ の ナカ でも、 ゲエル ほど おおきい ハラ を した カッパ は 1 ピキ も いなかった の に チガイ ありません。 しかし レイシ に にた サイクン や キュウリ に にた コドモ を サユウ に しながら、 アンラク イス に すわって いる ところ は ほとんど コウフク ソノモノ です。 ボク は ときどき サイバンカン の ペップ や イシャ の チャック に つれられて ゲエル-ケ の バンサン へ でかけました。 また ゲエル の ショウカイジョウ を もって ゲエル や ゲエル の ユウジン たち が タショウ の カンケイ を もって いる イロイロ の コウジョウ も みて あるきました。 その イロイロ の コウジョウ の ナカ でも ことに ボク に おもしろかった の は ショセキ セイゾウ-ガイシャ の コウジョウ です。 ボク は トシ の わかい カッパ の ギシ と この コウジョウ の ナカ へ はいり、 スイリョク デンキ を ドウリョク に した、 おおきい キカイ を ながめた とき、 いまさら の よう に カッパ の クニ の キカイ コウギョウ の シンポ に キョウタン しました。 なんでも そこ では 1 ネン-カン に 700 マン-ブ の ホン を セイゾウ する そう です。 が、 ボク を おどろかした の は ホン の ブスウ では ありません。 それ だけ の ホン を セイゾウ する の に すこしも テスウ の かからない こと です。 なにしろ この クニ では ホン を つくる の に ただ キカイ の ジョウゴガタ の クチ へ カミ と インク と ハイイロ を した フンマツ と を いれる だけ なの です から。 それら の ゲンリョウ は キカイ の ナカ へ はいる と、 ほとんど 5 フン と たたない うち に キクバン、 シロクバン、 キクハンサイバン など の ムスウ の ホン に なって でて くる の です。 ボク は タキ の よう に ながれおちる イロイロ の ホン を ながめながら、 ソリミ に なった カッパ の ギシ に その ハイイロ の フンマツ は なんと いう もの か と たずねて みました。 すると ギシ は クロビカリ に ひかった キカイ の マエ に たたずんだ まま、 つまらなそう に こう ヘンジ を しました。
「これ です か? これ は ロバ の ノウズイ です よ。 ええ、 イチド カンソウ させて から、 ざっと フンマツ に した だけ の もの です。 ジカ は 1 トン 2~3 セン です がね」
 もちろん こういう コウギョウジョウ の キセキ は ショセキ セイゾウ-ガイシャ に ばかり おこって いる わけ では ありません。 カイガ セイゾウ-ガイシャ にも、 オンガク セイゾウ-ガイシャ にも、 おなじ よう に おこって いる の です。 じっさい また ゲエル の ハナシ に よれば、 この クニ では ヘイキン 1 カゲツ に 700~800 シュ の キカイ が シンアン され、 なんでも ずんずん ヒトデ を またず に タイリョウ セイサン が おこなわれる そう です。 したがって また ショッコウ の カイコ される の も 4~5 マン-ビキ を くだらない そう です。 そのくせ まだ この クニ では マイアサ シンブン を よんで いて も、 イチド も ヒギョウ と いう ジ に であいません。 ボク は これ を ミョウ に おもいました から、 ある とき また ペップ や チャック と ゲエル-ケ の バンサン に まねかれた キカイ に この こと を なぜか と たずねて みました。
「それ は ミンナ くって しまう の です よ」
 ショクゴ の ハマキ を くわえた ゲエル は いかにも ムゾウサ に こう いいました。 しかし 「くって しまう」 と いう の は なんの こと だ か わかりません。 すると ハナメガネ を かけた チャック は ボク の フシン を さっした と みえ、 ヨコアイ から セツメイ を くわえて くれました。
「その ショッコウ を ミンナ ころして しまって、 ニク を ショクリョウ に つかう の です。 ここ に ある シンブン を ごらんなさい。 コンゲツ は ちょうど 6 マン 4769 ヒキ の ショッコウ が カイコ されました から、 それだけ ニク の ネダン も さがった わけ です よ」
「ショッコウ は だまって ころされる の です か?」
「それ は さわいで も シカタ は ありません。 ショッコウ トサツ ホウ が ある の です から」
 これ は ヤマモモ の ハチウエ を ウシロ に にがい カオ を して いた ペップ の コトバ です。 ボク は もちろん フカイ を かんじました。 しかし シュジンコウ の ゲエル は もちろん、 ペップ や チャック も そんな こと は トウゼン と おもって いる らしい の です。 げんに チャック は わらいながら、 あざける よう に ボク に はなしかけました。
「つまり ガシ したり ジサツ したり する テスウ を コッカテキ に ショウリャク して やる の です ね。 ちょっと ユウドク ガス を かがせる だけ です から、 たいした クツウ は ありません よ」
「けれども その ニク を くう と いう の は、……」
「ジョウダン を いって は いけません。 あの マッグ に きかせたら、 さぞ オオワライ に わらう でしょう。 アナタ の クニ でも ダイヨン カイキュウ の ムスメ たち は バイショウフ に なって いる では ありません か? ショッコウ の ニク を くう こと など に フンガイ したり する の は カンショウ シュギ です よ」
 こういう モンドウ を きいて いた ゲエル は てぢかい テーブル の ウエ に あった サンドウィッチ の サラ を すすめながら、 てんぜん と ボク に こう いいました。
「どう です? ひとつ とりません か? これ も ショッコウ の ニク です がね」
 ボク は もちろん ヘキエキ しました。 いや、 それ ばかり では ありません。 ペップ や チャック の ワライゴエ を ウシロ に ゲエル-ケ の キャクマ を とびだしました。 それ は ちょうど イエイエ の ソラ に ホシアカリ も みえない アレモヨウ の ヨル です。 ボク は その ヤミ の ナカ を ボク の スマイ へ かえりながら、 のべつまくなし に ヘド を はきました。 ヨメ にも しらじら と ながれる ヘド を。

 9

 しかし ガラス-ガイシャ の シャチョウ の ゲエル は ひとなつこい カッパ だった の に チガイ ありません。 ボク は たびたび ゲエル と イッショ に ゲエル の ぞくして いる クラブ へ ゆき、 ユカイ に ヒトバン を くらしました。 これ は ヒトツ には その クラブ は トック の ぞくして いる チョウジン クラブ より も はるか に イゴコロ の よかった ため です。 のみならず また ゲエル の ハナシ は テツガクシャ の マッグ の ハナシ の よう に フカミ を もって いなかった に せよ、 ボク には ぜんぜん あたらしい セカイ を、 ――ひろい セカイ を のぞかせました。 ゲエル は、 いつも ジュンキン の サジ に カッフェ の チャワン を かきまわしながら、 カイカツ に イロイロ の ハナシ を した もの です。
 なんでも ある キリ の ふかい バン、 ボク は フユバラ を もった カビン を ナカ に ゲエル の ハナシ を きいて いました。 それ は たしか ヘヤ ゼンタイ は もちろん、 イス や テーブル も しろい うえ に ほそい キン の フチ を とった セセッション-フウ の ヘヤ だった よう に おぼえて います。 ゲエル は フダン より も トクイ そう に カオジュウ に ビショウ を みなぎらせた まま、 ちょうど その コロ テンカ を とって いた Quorax トウ ナイカク の こと など を はなしました。 クオラックス と いう コトバ は ただ イミ の ない カントウシ です から、 「おや」 と でも やくす ホカ は ありません。 が、 とにかく ナニ より も サキ に 「カッパ ゼンタイ の リエキ」 と いう こと を ヒョウボウ して いた セイトウ だった の です。
「クオラックス トウ を シハイ して いる モノ は なだかい セイジカ の ロッペ です。 『ショウジキ は サイリョウ の ガイコウ で ある』 とは ビスマルク の いった コトバ でしょう。 しかし ロッペ は ショウジキ を ナイチ の ウエ にも およぼして いる の です。……」
「けれども ロッペ の エンゼツ は……」
「まあ、 ワタシ の いう こと を おききなさい。 あの エンゼツ は もちろん ことごとく ウソ です。 が、 ウソ と いう こと は ダレ でも しって います から、 ひっきょう ショウジキ と かわらない でしょう、 それ を イチガイ に ウソ と いう の は アナタガタ だけ の ヘンケン です よ。 ワレワレ カッパ は アナタガタ の よう に、 ……しかし それ は どうでも よろしい。 ワタシ の はなしたい の は ロッペ の こと です。 ロッペ は クオラックス トウ を シハイ して いる、 その また ロッペ を シハイ して いる モノ は Pou-Fou シンブン の (この 『プウ-フウ』 と いう コトバ も やはり イミ の ない カントウシ です。 もし しいて やくすれば、 『ああ』 と でも いう ホカ は ありません。) シャチョウ の クイクイ です。 が、 クイクイ も カレ ジシン の シュジン と いう わけ には いきません。 クイクイ を シハイ して いる モノ は アナタ の マエ に いる ゲエル です」
「けれども―― これ は シツレイ かも しれません けれども、 プウ-フウ シンブン は ロウドウシャ の ミカタ を する シンブン でしょう。 その シャチョウ の クイクイ も アナタ の シハイ を うけて いる と いう の は、……」
「プウ-フウ シンブン の キシャ たち は もちろん ロウドウシャ の ミカタ です。 しかし キシャ たち を シハイ する モノ は クイクイ の ホカ は ありますまい。 しかも クイクイ は この ゲエル の コウエン を うけず には いられない の です」
 ゲエル は あいかわらず ビショウ しながら、 ジュンキン の サジ を オモチャ に して います。 ボク は こういう ゲエル を みる と、 ゲエル ジシン を にくむ より も、 プウ-フウ シンブン の キシャ たち に ドウジョウ の おこる の を かんじました。 すると ゲエル は ボク の ムゴン に たちまち この ドウジョウ を かんじた と みえ、 おおきい ハラ を ふくらませて こう いう の です。
「なに、 プウ-フウ シンブン の キシャ たち も ゼンブ ロウドウシャ の ミカタ では ありません よ。 すくなくとも ワレワレ カッパ と いう もの は ダレ の ミカタ を する より も サキ に ワレワレ ジシン の ミカタ を します から ね。 ……しかし さらに ヤッカイ な こと には この ゲエル ジシン さえ やはり タニン の シハイ を うけて いる の です。 アナタ は それ を ダレ だ と おもいます か? それ は ワタシ の ツマ です よ。 うつくしい ゲエル フジン です よ」
 ゲエル は オオゴエ に わらいました。
「それ は むしろ シアワセ でしょう」
「とにかく ワタシ は マンゾク して います。 しかし これ も アナタ の マエ だけ に、 ――カッパ で ない アナタ の マエ だけ に テバナシ で フイチョウ できる の です」
「すると つまり クオラックス ナイカク は ゲエル フジン が シハイ して いる の です ね」
「さあ そう も いわれます かね。 ……しかし 7 ネン マエ の センソウ など は たしか に ある メス の カッパ の ため に はじまった もの に チガイ ありません」
「センソウ? この クニ にも センソウ は あった の です か?」
「ありました とも。 ショウライ も いつ ある か わかりません。 なにしろ リンゴク の ある カギリ は、……」
 ボク は じっさい この とき はじめて カッパ の クニ も コッカテキ に コリツ して いない こと を しりました。 ゲエル の セツメイ する ところ に よれば、 カッパ は いつも カワウソ を カセツテキ に して いる と いう こと です。 しかも カワウソ は カッパ に まけない グンビ を そなえて いる と いう こと です。 ボク は この カワウソ を アイテ に カッパ の センソウ した ハナシ に すくなからず キョウミ を かんじました。 (なにしろ カッパ の キョウテキ に カワウソ の いる など と いう こと は 「スイコ コウリャク」 の チョシャ は もちろん、 「サントウ ミンタンシュウ」 の チョシャ ヤナギタ クニオ さん さえ しらず に いたらしい シンジジツ です から。)
「あの センソウ の おこる マエ には もちろん リョウコク とも ユダン せず に じっと アイテ を うかがって いました。 と いう の は どちら も おなじ よう に アイテ を キョウフ して いた から です。 そこ へ この クニ に いた カワウソ が 1 ピキ、 ある カッパ の フウフ を ホウモン しました。 その また メス の カッパ と いう の は テイシュ を ころす つもり で いた の です。 なにしろ テイシュ は ドウラクモノ でした から ね。 おまけに セイメイ ホケン の ついて いた こと も タショウ の ユウワク に なった かも しれません」
「アナタ は その フウフ を ゴゾンジ です か?」
「ええ、 ――いや、 オス の カッパ だけ は しって います。 ワタシ の ツマ など は この カッパ を アクニン の よう に いって います がね。 しかし ワタシ に いわせれば、 アクニン より も むしろ メス の カッパ に つかまる こと を おそれて いる ヒガイ モウソウ の おおい キョウジン です。 ……そこで その メス の カッパ は テイシュ の ココア の チャワン の ナカ へ セイカ カリ を いれて おいた の です。 それ を また どう まちがえた か、 キャク の カワウソ に のませて しまった の です。 カワウソ は もちろん しんで しまいました。 それから……」
「それから センソウ に なった の です か?」
「ええ、 あいにく その カワウソ は クンショウ を もって いた もの です から ね」
「センソウ は どちら の カチ に なった の です か?」
「もちろん この クニ の カチ に なった の です。 36 マン 9500 ピキ の カッパ たち は その ため に けなげ にも センシ しました。 しかし テキコク に くらべれば、 その くらい の ソンガイ は なんとも ありません。 この クニ に ある ケガワ と いう ケガワ は たいてい カワウソ の ケガワ です。 ワタシ も あの センソウ の とき には ガラス を セイゾウ する ホカ にも セキタンガラ を センチ へ おくりました」
「セキタンガラ を ナニ に する の です か?」
「もちろん ショクリョウ に する の です。 ワレワレ は、 カッパ は ハラ さえ へれば、 なんでも くう の に きまって います から ね」
「それ は―― どうか おこらず に ください。 それ は センチ に いる カッパ たち には…… ワレワレ の クニ では シュウブン です がね」
「この クニ でも シュウブン には チガイ ありません。 しかし ワタシ ジシン こう いって いれば、 ダレ も シュウブン には しない もの です。 テツガクシャ の マッグ も いって いる でしょう。 『ナンジ の アク は ナンジ みずから いえ。 アク は おのずから ショウメツ す べし』 ……しかも ワタシ は リエキ の ホカ にも アイコクシン に もえたって いた の です から ね」
 ちょうど そこ へ はいって きた の は この クラブ の キュウジ です。 キュウジ は ゲエル に オジギ を した ノチ、 ロウドク でも する よう に こう いいました。
「オタク の オトナリ に カジ が ございます」
「カ―― カジ!」
 ゲエル は おどろいて たちあがりました。 ボク も たちあがった の は もちろん です。 が、 キュウジ は おちつきはらって ツギ の コトバ を つけくわえました。
「しかし もう けしとめました」
 ゲエル は キュウジ を みおくりながら、 ナキワライ に ちかい ヒョウジョウ を しました。 ボク は こういう カオ を みる と、 いつか この ガラス-ガイシャ の シャチョウ を にくんで いた こと に きづきました。 が、 ゲエル は もう イマ では ダイシホンカ でも なんでも ない タダ の カッパ に なって たって いる の です。 ボク は カビン の ナカ の フユバラ の ハナ を ぬき、 ゲエル の テ へ わたしました。
「しかし カジ は きえた と いって も、 オクサン は さぞ オオドロキ でしょう。 さあ、 これ を もって おかえりなさい」
「ありがとう」
 ゲエル は ボク の テ を にぎりました。 それから キュウ に にやり と わらい、 コゴエ に こう ボク に はなしかけました。
「トナリ は ワタシ の カサク です から ね。 カサイ ホケン の カネ だけ は とれる の です よ」
 ボク は この とき の ゲエル の ビショウ を―― ケイベツ する こと も できなければ、 ゾウオ する こと も できない ゲエル の ビショウ を いまだに ありあり と おぼえて います。

 10

「どうした ね? キョウ は また ミョウ に ふさいで いる じゃ ない か?」
 その カジ の あった ヨクジツ です。 ボク は マキタバコ を くわえながら、 ボク の キャクマ の イス に コシ を おろした ガクセイ の ラップ に こう いいました。 じっさい また ラップ は ミギ の アシ の ウエ へ ヒダリ の アシ を のせた まま、 くさった クチバシ も みえない ほど、 ぼんやり ユカ の ウエ ばかり みて いた の です。
「ラップ クン、 どうした ね と いえば」
「いや、 なに、 つまらない こと なの です よ。――」
 ラップ は やっと アタマ を あげ、 かなしい ハナゴエ を だしました。
「ボク は キョウ マド の ソト を みながら、 『おや ムシトリ スミレ が さいた』 と なにげなし に つぶやいた の です。 すると ボク の イモウト は キュウ に カオイロ を かえた と おもう と、 『どうせ ワタシ は ムシトリ スミレ よ』 と あたりちらす じゃ ありません か? おまけに また ボク の オフクロ も だいの イモウト-ビイキ です から、 やはり ボク に くって かかる の です」
「ムシトリ スミレ が さいた と いう こと は どうして イモウト さん には フカイ なの だね?」
「さあ、 たぶん オス の カッパ を つかまえる と いう イミ に でも とった の でしょう。 そこ へ オフクロ と ナカ わるい オバ も ケンカ の ナカマイリ を した の です から、 いよいよ オオソウドウ に なって しまいました。 しかも ネンジュウ よっぱらって いる オヤジ は この ケンカ を ききつける と、 タレカレ の サベツ なし に なぐりだした の です。 それ だけ でも シマツ の つかない ところ へ ボク の オトウト は その アイダ に オフクロ の サイフ を ぬすむ が はやい か、 キネマ か ナニ か を み に いって しまいました。 ボク は…… ホントウ に ボク は もう、……」
 ラップ は リョウテ に カオ を うずめ、 なにも いわず に ないて しまいました。 ボク の ドウジョウ した の は もちろん です。 ドウジ に また カゾク セイド に たいする シジン の トック の ケイベツ を おもいだした の も もちろん です。 ボク は ラップ の カタ を たたき、 イッショウ ケンメイ に なぐさめました。
「そんな こと は どこ でも ありがち だよ。 まあ ユウキ を だしたまえ」
「しかし…… しかし クチバシ でも くさって いなければ、……」
「それ は あきらめる ホカ は ない さ。 さあ、 トック クン の ウチ へ でも いこう」
「トック さん は ボク を ケイベツ して います。 ボク は トック さん の よう に ダイタン に カゾク を すてる こと が できません から」
「じゃ クラバック クン の ウチ へ いこう」
 ボク は あの オンガクカイ イライ、 クラバック にも トモダチ に なって いました から、 とにかく この ダイ オンガクカ の ウチ へ ラップ を つれだす こと に しました。 クラバック は トック に くらべれば、 はるか に ゼイタク に くらして います。 と いう の は シホンカ の ゲエル の よう に くらして いる と いう イミ では ありません。 ただ イロイロ の コットウ を、 ――タナグラ の ニンギョウ や ペルシア の トウキ を ヘヤ いっぱい に ならべた ナカ に トルコ-フウ の ナガイス を すえ、 クラバック ジシン の ショウゾウガ の シタ に いつも コドモ たち と あそんで いる の です。 が、 キョウ は どうした の か リョウウデ を ムネ へ くんだ まま、 にがい カオ を して すわって いました。 のみならず その また アシモト には カミクズ が イチメン に ちらばって いました。 ラップ も シジン トック と イッショ に たびたび クラバック には あって いる はず です。 しかし この ヨウス に おそれた と みえ、 キョウ は テイネイ に オジギ を した なり、 だまって ヘヤ の スミ に コシ を おろしました。
「どうした ね? クラバック クン」
 ボク は ほとんど アイサツ の カワリ に こう ダイ オンガクカ へ といかけました。
「どう する もの か? ヒヒョウカ の アホウ め! ボク の ジョジョウシ は トック の ジョジョウシ と クラベモノ に ならない と いやがる ん だ」
「しかし キミ は オンガクカ だし、……」
「それ だけ ならば ガマン も できる。 ボク は ロック に くらべれば、 オンガクカ の ナ に あたいしない と いやがる じゃ ない か?」
 ロック と いう の は クラバック と たびたび くらべられる オンガクカ です。 が、 あいにく チョウジン クラブ の カイイン に なって いない カンケイジョウ、 ボク は イチド も はなした こと は ありません。 もっとも クチバシ の そりあがった、 ヒトクセ ある らしい カオ だけ は たびたび シャシン でも みかけて いました。
「ロック も テンサイ には ちがいない。 しかし ロック の オンガク は キミ の オンガク に あふれて いる キンダイテキ ジョウネツ を もって いない」
「キミ は ホントウ に そう おもう か?」
「そう おもう とも」
 すると クラバック は たちあがる が はやい か、 タナグラ の ニンギョウ を ひっつかみ、 いきなり ユカ の ウエ に たたきつけました。 ラップ は よほど おどろいた と みえ、 ナニ か コエ を あげて にげよう と しました。 が、 クラバック は ラップ や ボク には ちょっと 「おどろくな」 と いう テマネ を した うえ、 コンド は ひややか に こう いう の です。
「それ は キミ も また ゾクジン の よう に ミミ を もって いない から だ。 ボク は ロック を おそれて いる。……」
「キミ が? ケンソンカ を きどる の は やめたまえ」
「ダレ が ケンソンカ を きどる もの か? だいいち キミタチ に きどって みせる くらい ならば、 ヒヒョウカ たち の マエ に きどって みせて いる。 ボク は―― クラバック は テンサイ だ。 その テン では ロック を おそれて いない」
「では ナニ を おそれて いる の だ?」
「ナニ か ショウタイ の しれない もの を、 ――いわば ロック を シハイ して いる ホシ を」
「どうも ボク には フ に おちない がね」
「では こう いえば わかる だろう。 ロック は ボク の エイキョウ を うけない。 が、 ボク は いつのまにか ロック の エイキョウ を うけて しまう の だ」
「それ は キミ の カンジュセイ の……」
「まあ、 ききたまえ。 カンジュセイ など の モンダイ では ない。 ロック は いつも やすんじて アイツ だけ に できる シゴト を して いる。 しかし ボク は いらいら する の だ。 それ は ロック の メ から みれば、 あるいは イッポ の サ かも しれない。 けれども ボク には 10 マイル も ちがう の だ」
「しかし センセイ の エイユウ キョク は……」
 クラバック は ほそい メ を いっそう ほそめ、 いまいましそう に ラップ を にらみつけました。
「だまりたまえ。 キミ など に ナニ が わかる? ボク は ロック を しって いる の だ。 ロック に ヘイシン テイトウ する イヌ ども より も ロック を しって いる の だ」
「まあ すこし しずか に したまえ」
「もし しずか に して いられる ならば、 ……ボク は いつも こう おもって いる。 ――ボクラ の しらない ナニモノ か は ボク を、 ――クラバック を あざける ため に ロック を ボク の マエ に たたせた の だ。 テツガクシャ の マッグ は こういう こと を なにもかも ショウチ して いる。 いつも あの イロガラス の ランターン の シタ に ふるぼけた ホン ばかり よんで いる くせ に」
「どうして?」
「この チカゴロ マッグ の かいた 『アホウ の コトバ』 と いう ホン を みたまえ。――」
 クラバック は ボク に 1 サツ の ホン を わたす―― と いう より も なげつけました。 それから また ウデ を くんだ まま、 つっけんどん に こう いいはなちました。
「じゃ キョウ は シッケイ しよう」
 ボク は しょげかえった ラップ と イッショ に もう イチド オウライ へ でる こと に しました。 ヒトドオリ の おおい オウライ は あいかわらず ブナ の ナミキ の カゲ に イロイロ の ミセ を ならべて います。 ボクラ は なんと いう こと も なし に だまって あるいて ゆきました。 すると そこ へ とおりかかった の は カミ の ながい シジン の トック です。 トック は ボクラ の カオ を みる と、 ハラ の フクロ から ハンケチ を だし、 ナンド も ヒタイ を ぬぐいました。
「やあ、 しばらく あわなかった ね。 ボク は キョウ は ヒサシブリ に クラバック を たずねよう と おもう の だ が、……」
 ボク は この ゲイジュツカ たち を ケンカ させて は わるい と おもい、 クラバック の いかにも フキゲン だった こと を エンキョク に トック に はなしました。
「そう か。 じゃ ヤメ に しよう。 なにしろ クラバック は シンケイ スイジャク だ から ね。 ……ボク も この 2~3 シュウカン は ねむられない の に よわって いる の だ」
「どう だね、 ボクラ と イッショ に サンポ を して は?」
「いや、 キョウ は ヤメ に しよう。 おや!」
 トック は こう さけぶ が はやい か、 しっかり ボク の ウデ を つかみました。 しかも いつか カラダジュウ に ヒヤアセ を ながして いる の です。
「どうした の だ?」
「どうした の です?」
「なに あの ジドウシャ の マド の ナカ から ミドリイロ の サル が 1 ピキ クビ を だした よう に みえた の だよ」
 ボク は たしょう シンパイ に なり、 とにかく あの イシャ の チャック に シンサツ して もらう よう に すすめました。 しかし トック は なんと いって も、 ショウチ する ケシキ さえ みせません。 のみならず ナニ か うたがわしそう に ボクラ の カオ を みくらべながら、 こんな こと さえ いいだす の です。
「ボク は けっして ムセイフ シュギシャ では ない よ。 それ だけ は きっと わすれず に いて くれたまえ。 ――では さようなら。 チャック など は マッピラ ゴメン だ」
 ボクラ は ぼんやり たたずんだ まま、 トック の ウシロスガタ を みおくって いました。 ボクラ は―― いや、 「ボクラ」 では ありません。 ガクセイ の ラップ は いつのまにか オウライ の マンナカ に アシ を ひろげ、 しっきりない ジドウシャ や ヒトドオリ を マタメガネ に のぞいて いる の です。 ボク は この カッパ も ハッキョウ した か と おもい、 おどろいて ラップ を ひきおこしました。
「ジョウダン じゃ ない。 ナニ を して いる?」
 しかし ラップ は メ を こすりながら、 イガイ にも おちついて ヘンジ を しました。
「いえ、 あまり ユウウツ です から、 サカサマ に ヨノナカ を ながめて みた の です。 けれども やはり おなじ こと です ね」

 11

 これ は テツガクシャ の マッグ の かいた 「アホウ の コトバ」 の ナカ の ナンショウ か です。――
     ×
 アホウ は いつも カレ イガイ の モノ を アホウ で ある と しんじて いる。
     ×
 ワレワレ の シゼン を あいする の は シゼン は ワレワレ を にくんだり シット したり しない ため も ない こと は ない。
     ×
 もっとも かしこい セイカツ は イチジダイ の シュウカン を ケイベツ しながら、 しかも その また シュウカン を すこしも やぶらない よう に くらす こと で ある。
     ×
 ワレワレ の もっとも ほこりたい もの は ワレワレ の もって いない もの だけ で ある。
     ×
 ナンビト も グウゾウ を ハカイ する こと に イゾン を もって いる モノ は ない。 ドウジ に また ナンビト も グウゾウ に なる こと に イゾン を もって いる モノ は ない。 しかし グウゾウ の ダイザ の ウエ に やすんじて すわって いられる モノ は もっとも カミガミ に めぐまれた モノ、 ――アホウ か、 アクニン か、 エイユウ か で ある。 (クラバック は この ショウ の ウエ へ ツメ の アト を つけて いました。)
     ×
 ワレワレ の セイカツ に ヒツヨウ な シソウ は 3000 ネン-ゼン に つきた かも しれない。 ワレワレ は ただ ふるい タキギ に あたらしい ホノオ を くわえる だけ で あろう。
     ×
 ワレワレ の トクショク は ワレワレ ジシン の イシキ を チョウエツ する の を ツネ と して いる。
     ×
 コウフク は クツウ を ともない、 ヘイワ は ケンタイ を ともなう と すれば、――?
     ×
 ジコ を ベンゴ する こと は タニン を ベンゴ する こと より も コンナン で ある。 うたがう モノ は ベンゴシ を みよ。
     ×
 キョウカ、 アイヨク、 ギワク―― あらゆる ツミ は 3000 ネン-ライ、 この 3 シャ から はっして いる。 ドウジ に また おそらくは あらゆる トク も。
     ×
 ブッシツテキ ヨクボウ を げんずる こと は かならずしも ヘイワ を もたらさない。 ワレワレ は ヘイワ を うる ため には セイシンテキ ヨクボウ も げんじなければ ならぬ。 (クラバック は この ショウ の ウエ にも ツメ の アト を のこして いました。)
     ×
 ワレワレ は ニンゲン より も フコウ で ある。 ニンゲン は カッパ ほど シンカ して いない。 (ボク は この ショウ を よんだ とき おもわず わらって しまいました。)
     ×
 なす こと は なしうる こと で あり、 なしうる こと は なす こと で ある。 ひっきょう ワレワレ の セイカツ は こういう ジュンカン ロンポウ を だっする こと は できない。 ――すなわち フゴウリ に シュウシ して いる。
     ×
 ボードレール は ハクチ に なった ノチ、 カレ の ジンセイカン を たった イチゴ に、 ――ジョイン の イチゴ に ヒョウハク した。 しかし カレ ジシン を かたる もの は かならずしも こう いった こと では ない。 むしろ カレ の テンサイ に、 ――カレ の セイカツ を イジ する に たる シテキ テンサイ に シンライ した ため に イブクロ の イチゴ を わすれた こと で ある。 (この ショウ にも やはり クラバック の ツメ の アト は のこって いました。)
     ×
 もし リセイ に シュウシ する と すれば、 ワレワレ は とうぜん ワレワレ ジシン の ソンザイ を ヒテイ しなければ ならぬ。 リセイ を カミ に した ヴォルテール の コウフク に イッショウ を おわった の は すなわち ニンゲン の カッパ より も シンカ して いない こと を しめす もの で ある。

 12

 ある わりあい に さむい ゴゴ です。 ボク は 「アホウ の コトバ」 を よみあきました から、 テツガクシャ の マッグ を たずね に でかけました。 すると ある さびしい マチ の カド に カ の よう に やせた カッパ が 1 ピキ、 ぼんやり カベ に よりかかって いました。 しかも それ は マギレ も ない、 いつか ボク の マンネンヒツ を ぬすんで いった カッパ なの です。 ボク は しめた と おもいました から、 ちょうど そこ へ とおりかかった、 たくましい ジュンサ を よびとめました。
「ちょっと あの カッパ を とりしらべて ください。 あの カッパ は ちょうど ヒトツキ ばかり マエ に ワタシ の マンネンヒツ を ぬすんだ の です から」
 ジュンサ は ミギテ の ボウ を あげ、 (この クニ の ジュンサ は ケン の カワリ に イチイ の ボウ を もって いる の です。) 「おい、 キミ」 と その カッパ へ コエ を かけました。 ボク は あるいは その カッパ は にげだし は しない か と おもって いました。 が、 ぞんがい おちつきはらって ジュンサ の マエ へ あゆみよりました。 のみならず ウデ を くんだ まま、 いかにも ごうぜん と ボク の カオ や ジュンサ の カオ を じろじろ みて いる の です。 しかし ジュンサ は おこり も せず、 ハラ の フクロ から テチョウ を だして さっそく ジンモン に とりかかりました。
「オマエ の ナ は?」
「グルック」
「ショクギョウ は?」
「つい 2~3 ニチ マエ まで は ユウビン ハイタツフ を して いました」
「よろしい。 そこで この ヒト の モウシタテ に よれば、 キミ は この ヒト の マンネンヒツ を ぬすんで いった と いう こと だ がね」
「ええ、 ヒトツキ ばかり マエ に ぬすみました」
「なんの ため に?」
「コドモ の オモチャ に しよう と おもった の です」
「その コドモ は?」
 ジュンサ は はじめて アイテ の カッパ へ するどい メ を そそぎました。
「1 シュウカン マエ に しんで しまいました」
「シボウ ショウメイショ を もって いる かね?」
 やせた カッパ は ハラ の フクロ から 1 マイ の カミ を とりだしました。 ジュンサ は その カミ へ メ を とおす と、 キュウ に にやにや わらいながら、 アイテ の カタ を たたきました。
「よろしい。 どうも ゴクロウ だった ね」
 ボク は アッケ に とられた まま、 ジュンサ の カオ を ながめて いました。 しかも その うち に やせた カッパ は ナニ か ぶつぶつ つぶやきながら、 ボクラ を ウシロ に して いって しまう の です。 ボク は やっと キ を とりなおし、 こう ジュンサ に たずねて みました。
「どうして あの カッパ を つかまえない の です?」
「あの カッパ は ムザイ です よ」
「しかし ボク の マンネンヒツ を ぬすんだ の は……」
「コドモ の オモチャ に する ため だった の でしょう。 けれども その コドモ は しんで いる の です。 もし ナニ か ゴフシン だったら、 ケイホウ 1285 ジョウ を おしらべなさい」
 ジュンサ は こう いいすてた なり、 さっさと どこ か へ いって しまいました。 ボク は シカタ が ありません から、 「ケイホウ 1285 ジョウ」 を クチ の ナカ に くりかえし、 マッグ の ウチ へ いそいで ゆきました。 テツガクシャ の マッグ は キャクズキ です。 げんに キョウ も うすぐらい ヘヤ には サイバンカン の ペップ や イシャ の チャック や ガラス-ガイシャ の シャチョウ の ゲエル など が あつまり、 ナナイロ の イロガラス の ランターン の シタ に タバコ の ケムリ を たちのぼらせて いました。 そこ に サイバンカン の ペップ が きて いた の は ナニ より も ボク には コウツゴウ です。 ボク は イス に かける が はやい か、 ケイホウ ダイ 1285 ジョウ を しらべる カワリ に さっそく ペップ へ といかけました。
「ペップ クン、 はなはだ シツレイ です が、 この クニ では ザイニン を ばっしない の です か?」
 ペップ は キングチ の タバコ の ケムリ を まず ゆうゆう と ふきあげて から、 いかにも つまらなそう に ヘンジ を しました。
「ばっします とも。 シケイ さえ おこなわれる くらい です から ね」
「しかし ボク は ヒトツキ ばかり マエ に、……」
 ボク は イサイ を はなした ノチ、 レイ の ケイホウ 1285 ジョウ の こと を たずねて みました。
「ふむ、 それ は こういう の です。 ―― 『いかなる ハンザイ を おこないたり と いえど も、 ガイ-ハンザイ を おこなわしめたる ジジョウ の ショウシツ したる ノチ は ガイ-ハンザイシャ を ショバツ する こと を えず』 つまり アナタ の バアイ で いえば、 その カッパ は かつて は オヤ だった の です が、 イマ は もう オヤ では ありません から、 ハンザイ も しぜん と ショウメツ する の です」
「それ は どうも フゴウリ です ね」
「ジョウダン を いって は いけません。 オヤ だった カッパ も オヤ で ある カッパ も ドウイツ に みる の こそ フゴウリ です。 そうそう、 ニホン の ホウリツ では ドウイツ に みる こと に なって いる の です ね。 それ は どうも ワレワレ には コッケイ です。 ふふふふふふふふふふ」
 ペップ は マキタバコ を ほうりだしながら、 キ の ない ウスワライ を もらして いました。 そこ へ クチ を だした の は ホウリツ には エン の とおい チャック です。 チャック は ちょっと ハナメガネ を なおし、 こう ボク に シツモン しました。
「ニホン にも シケイ は あります か?」
「あります とも。 ニホン では コウザイ です」
 ボク は れいぜん と かまえこんだ ペップ に たしょう ハンカン を かんじて いました から、 この キカイ に ヒニク を あびせて やりました。
「この クニ の シケイ は ニホン より も ブンメイテキ に できて いる でしょう ね?」
「それ は もちろん ブンメイテキ です」
 ペップ は やはり おちついて いました。
「この クニ では コウザイ など は もちいません。 まれ には デンキ を もちいる こと も あります。 しかし タイテイ は デンキ も もちいません。 ただ その ハンザイ の ナ を いって きかせる だけ です」
「それ だけ で カッパ は しぬ の です か?」
「しにます とも。 ワレワレ カッパ の シンケイ サヨウ は アナタガタ の より も ビミョウ です から ね」
「それ は シケイ ばかり では ありません。 サツジン にも その テ を つかう の が あります――」
 シャチョウ の ゲエル は イロガラス の ヒカリ に カオジュウ ムラサキ に そまりながら、 ひとなつこい エガオ を して みせました。
「ワタシ は コノアイダ も ある シャカイ シュギシャ に 『キサマ は ヌスビト だ』 と いわれた ため に シンゾウ マヒ を おこしかかった もの です」
「それ は あんがい おおい よう です ね。 ワタシ の しって いた ある ベンゴシ など は やはり その ため に しんで しまった の です から ね」
 ボク は こう クチ を いれた カッパ、 ――テツガクシャ の マッグ を ふりかえりました。 マッグ は やはり イツモ の よう に ヒニク な ビショウ を うかべた まま、 ダレ の カオ も みず に しゃべって いる の です。
「その カッパ は ダレ か に カエル だ と いわれ、 ――もちろん アナタ も ゴショウチ でしょう、 この クニ で カエル だ と いわれる の は ニンピニン と いう イミ に なる こと ぐらい は。 ――オレ は カエル かな? カエル では ない かな? と マイニチ かんがえて いる うち に とうとう しんで しまった もの です」
「それ は つまり ジサツ です ね」
「もっとも その カッパ を カエル だ と いった ヤツ は ころす つもり で いった の です がね。 アナタガタ の メ から みれば、 やはり それ も ジサツ と いう……」
 ちょうど マッグ が こう いった とき です。 とつぜん その ヘヤ の カベ の ムコウ に、 ――たしか に シジン の トック の イエ に するどい ピストル の オト が 1 パツ、 クウキ を はねかえす よう に ひびきわたりました。

 13

 ボクラ は トック の イエ へ かけつけました。 トック は ミギ の テ に ピストル を にぎり、 アタマ の サラ から チ を だした まま、 コウザン ショクブツ の ハチウエ の ナカ に アオムケ に なって たおれて いました。 その また ソバ には メス の カッパ が 1 ピキ、 トック の ムネ に カオ を うずめ、 オオゴエ を あげて ないて いました。 ボク は メス の カッパ を だきおこしながら、 (いったい ボク は ぬらぬら する カッパ の ヒフ に テ を ふれる こと を あまり このんで は いない の です が。) 「どうした の です?」 と たずねました。
「どうした の だ か、 わかりません。 ただ ナニ か かいて いた と おもう と、 いきなり ピストル で アタマ を うった の です。 ああ、 ワタシ は どう しましょう? qur-r-r-r-r, qur-r-r-r-r」 (これ は カッパ の ナキゴエ です。)
「なにしろ トック クン は ワガママ だった から ね」
 ガラス-ガイシャ の シャチョウ の ゲエル は かなしそう に アタマ を ふりながら、 サイバンカン の ペップ に こう いいました。 しかし ペップ は なにも いわず に キングチ の マキタバコ に ヒ を つけて いました。 すると イマ まで ひざまずいて、 トック の キズグチ など を しらべて いた チャック は いかにも イシャ-らしい タイド を した まま、 ボクラ 5 ニン に センゲン しました。 (じつは ヒトリ と 4 ヒキ と です。)
「もう ダメ です。 トック クン は がんらい イビョウ でした から、 それ だけ でも ユウウツ に なりやすかった の です」
「ナニ か かいて いた と いう こと です が」
 テツガクシャ の マッグ は ベンカイ する よう に こう ヒトリゴト を もらしながら、 ツクエ の ウエ の カミ を とりあげました。 ボクラ は ミナ クビ を のばし、 (もっとも ボク だけ は レイガイ です。) ハバ の ひろい マッグ の カタゴシ に 1 マイ の カミ を のぞきこみました。
 「いざ、 たちて ゆかん。 シャバカイ を へだつる タニ へ。
  イワムラ は こごしく、 ヤマミズ は きよく、
  ヤクソウ の ハナ は におえる タニ へ」
 マッグ は ボクラ を ふりかえりながら、 ビクショウ と イッショ に こう いいました。
「これ は ゲーテ の 『ミニヨン の ウタ』 の ヒョウセツ です よ。 すると トック クン の ジサツ した の は シジン と して も つかれて いた の です ね」
 そこ へ ぐうぜん ジドウシャ を のりつけた の は あの オンガクカ の クラバック です。 クラバック は こういう コウケイ を みる と、 しばらく トグチ に たたずんで いました。 が、 ボクラ の マエ へ あゆみよる と、 どなりつける よう に マッグ に はなしかけました。
「それ は トック の ユイゴンジョウ です か?」
「いや、 サイゴ に かいて いた シ です」
「シ?」
 やはり すこしも さわがない マッグ は カミ を さかだてた クラバック に トック の シコウ を わたしました。 クラバック は アタリ には メ も やらず に ネッシン に その シコウ を よみだしました。 しかも マッグ の コトバ には ほとんど ヘンジ さえ しない の です。
「アナタ は トック クン の シ を どう おもいます か?」
「いざ、 たちて、 ……ボク も また いつ しぬ か わかりません。 ……シャバカイ を へだつる タニ へ。……」
「しかし アナタ は トック クン とは やはり シンユウ の ヒトリ だった の でしょう?」
「シンユウ? トック は いつも コドク だった の です。 ……シャバカイ を へだつる タニ へ、 ……ただ トック は フコウ にも、 ……イワムラ は こごしく……」
「フコウ にも?」
「ヤマミズ は きよく、 ……アナタガタ は コウフク です。 ……イワムラ は こごしく。……」
 ボク は いまだに ナキゴエ を たたない メス の カッパ に ドウジョウ しました から、 そっと カタ を かかえる よう に し、 ヘヤ の スミ の ナガイス へ つれて ゆきました。 そこ には 2 サイ か 3 サイ か の カッパ が 1 ピキ、 なにも しらず に わらって いる の です。 ボク は メス の カッパ の カワリ に コドモ の カッパ を あやして やりました。 すると いつか ボク の メ にも ナミダ の たまる の を かんじました。 ボク が カッパ の クニ に すんで いる うち に ナミダ と いう もの を こぼした の は マエ にも アト にも この とき だけ です。
「しかし こういう ワガママ な カッパ と イッショ に なった カゾク は キノドク です ね」
「なにしろ アト の こと も かんがえない の です から」
 サイバンカン の ペップ は あいかわらず、 あたらしい マキタバコ に ヒ を つけながら、 シホンカ の ゲエル に ヘンジ を して いました。 すると ボクラ を おどろかせた の は オンガクカ の クラバック の オオゴエ です。 クラバック は シコウ を にぎった まま、 ダレ に とも なし に よびかけました。
「しめた! すばらしい ソウソウキョク が できる ぞ」
 クラバック は ほそい メ を かがやかせた まま、 ちょっと マッグ の テ を にぎる と、 いきなり トグチ へ とんで ゆきました。 もちろん もう この とき には トナリキンジョ の カッパ が オオゼイ、 トック の イエ の トグチ に あつまり、 めずらしそう に イエ の ナカ を のぞいて いる の です。 しかし クラバック は この カッパ たち を しゃにむに サユウ へ おしのける が はやい か、 ひらり と ジドウシャ へ とびのりました。 ドウジ に また ジドウシャ は バクオン を たてて たちまち どこ か へ いって しまいました。
「こら、 こら、 そう のぞいて は いかん」
 サイバンカン の ペップ は ジュンサ の カワリ に オオゼイ の カッパ を おしだした ノチ、 トック の イエ の ト を しめて しまいました。 ヘヤ の ナカ は その せい か キュウ に ひっそり なった もの です。 ボクラ は こういう シズカサ の ナカ に、 ――コウザン ショクブツ の ハナ の カ に まじった トック の チ の ニオイ の ナカ に アトシマツ の こと など を ソウダン しました。 しかし あの テツガクシャ の マッグ だけ は トック の シガイ を ながめた まま、 ぼんやり ナニ か かんがえて います。 ボク は マッグ の カタ を たたき、 「ナニ を かんがえて いる の です?」 と たずねました。
「カッパ の セイカツ と いう もの を ね」
「カッパ の セイカツ が どう なる の です?」
「ワレワレ カッパ は なんと いって も、 カッパ の セイカツ を まっとうする ため には、……」
 マッグ は たしょう はずかしそう に こう コゴエ で つけくわえました。
「とにかく ワレワレ カッパ イガイ の ナニモノ か の チカラ を しんずる こと です ね」

 14

 ボク に シュウキョウ と いう もの を おもいださせた の は こういう マッグ の コトバ です。 ボク は もちろん ブッシツ シュギシャ です から、 マジメ に シュウキョウ を かんがえた こと は イチド も なかった の に チガイ ありません。 が、 この とき は トック の シ に ある カンドウ を うけて いた ため に いったい カッパ の シュウキョウ は ナン で ある か と かんがえだした の です。 ボク は さっそく ガクセイ の ラップ に この モンダイ を たずねて みました。
「それ は キリスト-キョウ、 ブッキョウ、 モハメット-キョウ、 ハイカキョウ など も おこなわれて います。 まず いちばん セイリョク の ある もの は なんと いって も キンダイキョウ でしょう。 セイカツキョウ とも いいます がね」 (「セイカツキョウ」 と いう ヤクゴ は あたって いない かも しれません。 この ゲンゴ は Quemoocha です。 Cha は イギリス-ゴ の ism と いう イミ に あたる でしょう。 Quemoo の ゲンケイ quemal の ヤク は たんに 「いきる」 と いう より も 「メシ を くったり、 サケ を のんだり、 コウゴウ を おこなったり」 する イミ です。)
「じゃ この クニ にも キョウカイ だの ジイン だの は ある わけ なの だね?」
「ジョウダン を いって は いけません。 キンダイキョウ の ダイジイン など は この クニ ダイイチ の ダイケンチク です よ。 どう です、 ちょっと ケンブツ に いって は?」
 ある なまあたたかい ドンテン の ゴゴ、 ラップ は とくとく と ボク と イッショ に この ダイジイン へ でかけました。 なるほど それ は ニコライ ドウ の 10 バイ も ある ダイケンチク です。 のみならず あらゆる ケンチク ヨウシキ を ヒトツ に くみあげた ダイケンチク です。 ボク は この ダイジイン の マエ に たち、 たかい トウ や マルヤネ を ながめた とき、 ナニ か ブキミ に さえ かんじました。 じっさい それら は テン に むかって のびた ムスウ の ショクシュ の よう に みえた もの です。 ボクラ は ゲンカン の マエ に たたずんだ まま、 (その また ゲンカン に くらべて みて も、 どの くらい ボクラ は ちいさかった の でしょう!) しばらく この ケンチク より も むしろ トホウ も ない カイブツ に ちかい キダイ の ダイジイン を みあげて いました。
 ダイジイン の ナイブ も また コウダイ です。 その コリント-フウ の エンチュウ の たった ナカ には サンケイニン が ナンニン も あるいて いました。 しかし それら は ボクラ の よう に ヒジョウ に ちいさく みえた もの です。 その うち に ボクラ は コシ の まがった 1 ピキ の カッパ に であいました。 すると ラップ は この カッパ に ちょっと アタマ を さげた うえ、 テイネイ に こう はなしかけました。
「チョウロウ、 ゴタッシャ なの は ナニ より も です」
 アイテ の カッパ も オジギ を した ノチ、 やはり テイネイ に ヘンジ を しました。
「これ は ラップ さん です か? アナタ も あいかわらず、 ―― (と いいかけながら、 ちょっと コトバ を つがなかった の は ラップ の クチバシ の くさって いる の に やっと キ が ついた ため だった でしょう。) ――ああ、 とにかく ゴジョウブ らしい よう です ね。 が、 キョウ は どうして また……」
「キョウ は この カタ の オトモ を して きた の です。 この カタ は たぶん ゴショウチ の とおり、――」
 それから ラップ は とうとう と ボク の こと を はなしました。 どうも また それ は この ダイジイン へ ラップ が めった に こない こと の ベンカイ にも なって いた らしい の です。
「ついては どうか この カタ の ゴアンナイ を ねがいたい と おもう の です が」
 チョウロウ は おおよう に ビショウ しながら、 まず ボク に アイサツ を し、 しずか に ショウメン の サイダン を ゆびさしました。
「ゴアンナイ と もうして も、 なにも オヤク に たつ こと は できません。 ワレワレ シント の ライハイ する の は ショウメン の サイダン に ある 『セイメイ の キ』 です。 『セイメイ の キ』 には ゴラン の とおり、 キン と ミドリ との ミ が なって います。 あの キン の ミ を 『ゼン の ミ』 と いい、 あの ミドリ の ミ を 『アク の ミ』 と いいます。……」
 ボク は こういう セツメイ の うち に もう タイクツ を かんじだしました。 それ は せっかく の チョウロウ の コトバ も ふるい ヒユ の よう に きこえた から です。 ボク は もちろん ネッシン に きいて いる ヨウス を よそおって いました。 が、 ときどき は ダイジイン の ナイブ へ そっと メ を やる の を わすれず に いました。
 コリント-フウ の ハシラ、 ゴシック-フウ の キュウリュウ、 アラビア-じみた イチマツ モヨウ の ユカ、 セセッション マガイ の キトウヅクエ、 ――こういう もの の つくって いる チョウワ は ミョウ に ヤバン な ビ を そなえて いました。 しかし ボク の メ を ひいた の は ナニ より も リョウガワ の ガン の ナカ に ある ダイリセキ の ハンシンゾウ です。 ボク は ナニ か それら の ゾウ を みしって いる よう に おもいました。 それ も また フシギ では ありません。 あの コシ の まがった カッパ は 「セイメイ の キ」 の セツメイ を おわる と、 コンド は ボク や ラップ と イッショ に ミギガワ の ガン の マエ へ あゆみより、 その ガン の ナカ の ハンシンゾウ に こういう セツメイ を くわえだしました。
「これ は ワレワレ の セイト の ヒトリ、 ――あらゆる もの に ハンギャク した セイト ストリントベリー です。 この セイト は さんざん くるしんだ アゲク、 スウェデンボルグ の テツガク の ため に すくわれた よう に いわれて います。 が、 じつは すくわれなかった の です。 この セイト は ただ ワレワレ の よう に セイカツキョウ を しんじて いました。 ――と いう より も しんじる ホカ は なかった の でしょう。 この セイト の ワレワレ に のこした 『デンセツ』 と いう ホン を よんで ごらんなさい。 この セイト も ジサツ ミスイシャ だった こと は セイト ジシン コクハク して います」
 ボク は ちょっと ユウウツ に なり、 ツギ の ガン へ メ を やりました。 ツギ の ガン に ある ハンシンゾウ は クチヒゲ の ふとい ドイツジン です。
「これ は ツァラトストラ の シジン ニーチェ です。 その セイト は セイト ジシン の つくった チョウジン に スクイ を もとめました。 が、 やはり すくわれず に キチガイ に なって しまった の です。 もし キチガイ に ならなかった と すれば、 あるいは セイト の カズ へ はいる こと も できなかった かも しれません。……」
 チョウロウ は ちょっと だまった ノチ、 ダイサン の ガン の マエ へ アンナイ しました。
「3 バンメ に ある の は トルストイ です。 この セイト は ダレ より も クギョウ を しました。 それ は がんらい キゾク だった ため に コウキシン の おおい コウシュウ に クルシミ を みせる こと を きらった から です。 この セイト は ジジツジョウ しんぜられない キリスト を しんじよう と ドリョク しました。 いや、 しんじて いる よう に さえ コウゲン した こと も あった の です。 しかし とうとう バンネン には ヒソウ な ウソツキ だった こと に たえられない よう に なりました。 この セイト も ときどき ショサイ の ハリ に キョウフ を かんじた の は ユウメイ です。 けれども セイト の カズ に はいって いる くらい です から、 もちろん ジサツ した の では ありません」
 ダイシ の ガン の ナカ の ハンシンゾウ は ワレワレ ニホンジン の ヒトリ です。 ボク は この ニホンジン の カオ を みた とき、 さすが に ナツカシサ を かんじました。
「これ は クニキダ ドッポ です。 レキシ する ニンソク の ココロモチ を はっきり しって いた シジン です。 しかし それ イジョウ の セツメイ は アナタ には フヒツヨウ に チガイ ありません。 では 5 バンメ の ガン の ナカ を ゴラン ください。――」
「これ は ワグネル では ありません か?」
「そう です。 コクオウ の トモダチ だった カクメイカ です。 セイト ワグネル は バンネン には ショクゼン の キトウ さえ して いました。 しかし もちろん キリスト-キョウ より も セイカツキョウ の シント の ヒトリ だった の です。 ワグネル の のこした テガミ に よれば、 シャバク は ナンド この セイト を シ の マエ に かりやった か わかりません」
 ボクラ は もう その とき には ダイロク の ガン の マエ に たって いました。
「これ は セイト ストリントベリー の トモダチ です。 コドモ の オオゼイ ある サイクン の カワリ に 13~14 の タイティ の オンナ を めとった ショウバイニン アガリ の フランス の ガカ です。 この セイト は ふとい ケッカン の ナカ に スイフ の チ を ながして いました。 が、 クチビル を ごらんなさい。 ヒソ か ナニ か の アト が のこって います。 ダイシチ の ガン の ナカ に ある の は…… もう アナタ は オツカレ でしょう。 では どうか こちら へ おいで ください」
 ボク は じっさい つかれて いました から、 ラップ と イッショ に チョウロウ に したがい、 コウ の ニオイ の する ロウカヅタイ に ある ヘヤ へ はいりました。 その また ちいさい ヘヤ の スミ には くろい ヴェヌス の ゾウ の シタ に ヤマブドウ が ヒトフサ けんじて ある の です。 ボク は なんの ソウショク も ない ソウボウ を ソウゾウ して いた だけ に ちょっと イガイ に かんじました。 すると チョウロウ は ボク の ヨウス に こういう キモチ を かんじた と みえ、 ボクラ に イス を すすめる マエ に なかば キノドク そう に セツメイ しました。
「どうか ワレワレ の シュウキョウ の セイカツキョウ で ある こと を わすれず に ください。 ワレワレ の カミ、 ―― 『セイメイ の キ』 の オシエ は 『オウセイ に いきよ』 と いう の です から。 ……ラップ さん、 アナタ は この カタ に ワレワレ の セイショ を ゴラン に いれました か?」
「いえ、 ……じつは ワタシ ジシン も ほとんど よんだ こと は ない の です」
 ラップ は アタマ の サラ を かきながら、 ショウジキ に こう ヘンジ を しました。 が、 チョウロウ は あいかわらず しずか に ビショウ して はなしつづけました。
「それでは おわかり なりますまい。 ワレワレ の カミ は イチニチ の うち に この セカイ を つくりました。 (『セイメイ の キ』 は キ と いう ものの、 なしあたわない こと は ない の です。) のみならず メス の カッパ を つくりました。 すると メス の カッパ は タイクツ の あまり、 オス の カッパ を もとめました。 ワレワレ の カミ は この ナゲキ を あわれみ、 メス の カッパ の ノウズイ を とり、 オス の カッパ を つくりました。 ワレワレ の カミ は この 2 ヒキ の カッパ に 『くえ よ、 コウゴウ せよ、 オウセイ に いきよ』 と いう シュクフク を あたえました。……」
 ボク は チョウロウ の コトバ の ウチ に シジン の トック を おもいだしました。 シジン の トック は フコウ にも ボク の よう に ムシンロンシャ です。 ボク は カッパ では ありません から、 セイカツキョウ を しらなかった の も ムリ は ありません。 けれども カッパ の クニ に うまれた トック は もちろん 「セイメイ の キ」 を しって いた はず です。 ボク は この オシエ に したがわなかった トック の サイゴ を あわれみました から、 チョウロウ の コトバ を さえぎる よう に トック の こと を はなしだしました。
「ああ、 あの キノドク な シジン です ね」
 チョウロウ は ボク の ハナシ を きき、 ふかい イキ を もらしました。
「ワレワレ の ウンメイ を さだめる もの は シンコウ と キョウグウ と グウゼン と だけ です。 (もっとも アナタガタ は その ホカ に イデン を おかぞえ なさる でしょう。) トック さん は フコウ にも シンコウ を おもち に ならなかった の です」
「トック は アナタ を うらやんで いた でしょう。 いや、 ボク も うらやんで います。 ラップ クン など は トシ も わかい し、……」
「ボク も クチバシ さえ ちゃんと して いれば あるいは ラクテンテキ だった かも しれません」
 チョウロウ は ボクラ に こう いわれる と、 もう イチド ふかい イキ を もらしました。 しかも その メ は なみだぐんだ まま、 じっと くろい ヴェヌス を みつめて いる の です。
「ワタシ も じつは、 ――これ は ワタシ の ヒミツ です から、 どうか ダレ にも おっしゃらず に ください。 ――ワタシ も じつは ワレワレ の カミ を しんずる わけ に いかない の です。 しかし いつか ワタシ の キトウ は、――」
 ちょうど チョウロウ の こう いった とき です。 とつぜん ヘヤ の ト が あいた と おもう と、 おおきい メス の カッパ が 1ピキ、 いきなり チョウロウ へ とびかかりました。 ボクラ が この メス の カッパ を だきとめよう と した の は もちろん です。 が、 メス の カッパ は トッサ の アイダ に ユカ の ウエ へ チョウロウ を なげたおしました。
「この オヤジ め! キョウ も また ワタシ の サイフ から イッパイ やる カネ を ぬすんで いった な!」
 10 プン ばかり たった ノチ、 ボクラ は じっさい にげださない ばかり に チョウロウ フウフ を アト に のこし、 ダイジイン の ゲンカン を おりて ゆきました。
「あれ では あの チョウロウ も 『セイメイ の キ』 を しんじない はず です ね」
 しばらく だまって あるいた ノチ、 ラップ は ボク に こう いいました。 が、 ボク は ヘンジ を する より も おもわず ダイジイン を ふりかえりました。 ダイジイン は どんより くもった ソラ に やはり たかい トウ や マルヤネ を ムスウ の ショクシュ の よう に のばして います。 ナニ か サバク の ソラ に みえる シンキロウ の ブキミサ を ただよわせた まま。……

 15

 それから かれこれ 1 シュウカン の ノチ、 ボク は ふと イシャ の チャック に めずらしい ハナシ を ききました。 と いう の は あの トック の ウチ に ユウレイ の でる と いう ハナシ なの です。 その コロ には もう メス の カッパ は どこ か ホカ へ いって しまい、 ボクラ の トモダチ の シジン の ウチ も シャシンシ の ステュディオ に かわって いました。 なんでも チャック の ハナシ に よれば、 この ステュディオ では シャシン を とる と、 トック の スガタ も いつのまにか かならず もうろう と キャク の ウシロ に うつって いる とか いう こと です。 もっとも チャック は ブッシツ シュギシャ です から、 シゴ の セイメイ など を しんじて いません。 げんに その ハナシ を した とき にも アクイ の ある ビショウ を うかべながら、 「やはり レイコン と いう もの も ブッシツテキ ソンザイ と みえます ね」 など と チュウシャク-めいた こと を つけくわえて いました。 ボク も ユウレイ を しんじない こと は チャック と あまり かわりません。 けれども シジン の トック には シタシミ を かんじて いました から、 さっそく ホンヤ の ミセ へ かけつけ、 トック の ユウレイ に かんする キジ や トック の ユウレイ の シャシン の でて いる シンブン や ザッシ を かって きました。 なるほど それら の シャシン を みる と、 どこ か トック らしい カッパ が 1 ピキ、 ロウニャク ナンニョ の カッパ の ウシロ に ぼんやり と スガタ を あらわして いました。 しかし ボク を おどろかせた の は トック の ユウレイ の シャシン より も トック の ユウレイ に かんする キジ、 ――ことに トック の ユウレイ に かんする シンレイガク キョウカイ の ホウコク です。 ボク は かなり チクゴテキ に その ホウコク を やくして おきました から、 シモ に タイリャク を かかげる こと に しましょう。 ただし カッコ の ナカ に ある の は ボク ジシン の くわえた チュウシャク なの です。――
 シジン トック クン の ユウレイ に かんする ホウコク。 (シンレイガク キョウカイ ザッシ ダイ 8274 ゴウ ショサイ)
 わが シンレイガク キョウカイ は センパン ジサツ したる シジン トック クン の キュウキョ に して ゲンザイ は ×× シャシンシ の ステュディオ なる □□-ガイ ダイ 251 ゴウ に リンジ チョウサカイ を カイサイ せり。 レッセキ せる カイイン は シモ の ごとし。 (シメイ を りゃくす。)
 ワレラ 17 メイ の カイイン は シンレイ キョウカイ カイチョウ ペック シ と ともに 9 ガツ 17 ニチ ゴゼン 10 ジ 30 プン、 ワレラ の もっとも シンライ する メディアム、 ホップ フジン を ドウハン し、 ガイ-ステュディオ の イッシツ に サンシュウ せり。 ホップ フジン は ガイ-ステュディオ に いる や、 すでに シンレイテキ クウキ を かんじ、 ゼンシン に ケイレン を もよおしつつ、 オウト する こと スウカイ に およべり。 フジン の かたる ところ に よれば、 こ は シジン トック クン の キョウレツ なる タバコ を あいしたる ケッカ、 その シンレイテキ クウキ も また ニコティン を ガンユウ する ため なり と いう。
 ワレラ カイイン は ホップ フジン と ともに エンタク を めぐりて モクザ したり。 フジン は 3 プン 25 ビョウ の ノチ、 きわめて キュウゲキ なる ムユウ ジョウタイ に おちいり、 かつ シジン トック クン の シンレイ の ヒョウイ する ところ と なれり。 ワレラ カイイン は ネンレイジュン に したがい、 フジン に ヒョウイ せる トック クン の シンレイ と サ の ごとき モンドウ を カイシ したり。
 トイ、 キミ は なにゆえに ユウレイ に いずる か?
 コタエ、 シゴ の メイセイ を しらん が ため なり。
 トイ、 キミ―― あるいは シンレイ ショクン は シゴ も なお メイセイ を ほっする や?
 コタエ、 すくなくとも ヨ は ほっせざる あたわず。 しかれども ヨ の カイコウ したる ニホン の イチ シジン の ごとき は シゴ の メイセイ を ケイベツ しいたり。
 トイ、 キミ は その シジン の セイメイ を しれり や?
 コタエ、 ヨ は フコウ にも わすれたり。 ただ カレ の このんで つくれる ジュウシチジシ の イッショウ を キオク する のみ。
 トイ、 その シ は いかん?
 コタエ、 「フルイケ や カワズ とびこむ ミズ の オト」
 トイ、 キミ は その シ を カサク なり と なす や?
 コタエ、 ヨ は かならずしも アクサク なり と なさず。 ただ 「カワズ」 を 「カッパ」 と せん か、 さらに コウサイ りくり たる べし。
 トイ、 しからば その リユウ は いかん?
 コタエ、 ワレラ カッパ は いかなる ゲイジュツ にも カッパ を もとむる こと ツウセツ なれば なり。
 カイチョウ ペック シ は この とき に あたり、 ワレラ 17 メイ の カイイン に こ は シンレイガク キョウカイ の リンジ チョウサカイ に して ガッピョウカイ に あらざる を チュウイ したり。
 トイ、 シンレイ ショクン の セイカツ は いかん?
 コタエ、 ショクン の セイカツ と ことなる こと なし。
 トイ、 しからば キミ は キミ ジシン の ジサツ せし を コウカイ する や?
 コタエ、 かならずしも コウカイ せず。 ヨ は シンレイテキ セイカツ に うまば、 さらに ピストル を とりて ジカツ す べし。
 トイ、 ジカツ する は ヨウイ なり や いなや?
 トック クン の シンレイ は この トイ に こたうる に さらに トイ を もって したり。 こ は トック クン を しれる モノ には すこぶる シゼン なる オウシュウ なる べし。
 コタエ、 ジサツ する は ヨウイ なり や いなや?
 トイ、 ショクン の セイメイ は エイエン なり や?
 コタエ、 ワレラ の セイメイ に かんして は ショセツ ふんぷん と して しんず べからず。 サイワイ に ワレラ の アイダ にも キリスト-キョウ、 ブッキョウ、 モハメット-キョウ、 ハイカキョウ-トウ の ショシュウ ある こと を わするる なかれ。
 トイ、 キミ ジシン の しんずる ところ は?
 コタエ、 ヨ は つねに カイギ シュギシャ なり。
 トイ、 しかれども キミ は すくなくとも シンレイ の ソンザイ を うたがわざる べし?
 コタエ、 ショクン の ごとく カクシン する あたわず。
 トイ、 キミ の コウユウ の タショウ は いかん?
 コタエ、 ヨ の コウユウ は ココン トウザイ に わたり、 300 ニン を くだらざる べし。 その チョメイ なる モノ を あぐれば、 クライスト、 マインレンデル、 ワイニンゲル……
 トイ、 キミ の コウユウ は ジサツシャ のみ なり や?
 コタエ、 かならずしも しかり と せず。 ジサツ を ベンゴ せる モンテーニュ の ごとき は ヨ が イユウ の 1 ニン なり。 ただ ヨ は ジサツ せざりし エンセイ シュギシャ、 ――ショーペンハウエル の ハイ とは コウサイ せず。
 トイ、 ショーペンハウエル は ケンザイ なり や?
 コタエ、 カレ は モッカ シンレイテキ エンセイ シュギ を ジュリツ し、 ジカツ する カヒ を ろんじつつ あり。 しかれども コレラ も バイキンビョウ なりし を しり、 すこぶる アンド せる もの の ごとし。
 ワレラ カイイン は あいついで ナポレオン、 コウシ、 ドストエフスキー、 ダーウィン、 クレオパトラ、 シャカ、 デモステネス、 ダンテ、 セン ノ リキュウ-トウ の シンレイ の ショウソク を シツモン したり。 しかれども トック クン は フコウ にも ショウサイ に こたうる こと を なさず、 かえって トック クン ジシン に かんする シュジュ の ゴシップ を シツモン したり。
 トイ、 ヨ の シゴ の メイセイ は いかん?
 コタエ、 ある ヒヒョウカ は 「グンショウ シジン の ヒトリ」 と いえり。
 トイ、 カレ は ヨ が シシュウ を おくらざりし に エンコン を ふくめる ヒトリ なる べし。 ヨ の ゼンシュウ は シュッパン せられし や?
 コタエ、 キミ の ゼンシュウ は シュッパン せられたれど も、 ウレユキ はなはだ ふるわざる が ごとし。
 トイ、 ヨ の ゼンシュウ は 300 ネン の ノチ、 ――すなわち チョサクケン の うしなわれたる ノチ、 バンジン の あがなう ところ と なる べし。 ヨ の ドウセイ せる オンナ トモダチ は いかん?
 コタエ、 カノジョ は ショシ ラック クン の フジン と なれり。
 トイ、 カノジョ は いまだ フコウ にも ラック の ギガン なる を しらざる なる べし。 ヨ が コ は いかん?
 コタエ、 コクリツ コジイン に あり と きけり。
 トック クン は しばらく チンモク せる ノチ、 あらた に シツモン を カイシ したり。
 トイ、 ヨ が イエ は いかん?
 コタエ、 ボウ-シャシンシ の ステュディオ と なれり。
 トイ、 ヨ の ツクエ は いかに なれる か?
 コタエ、 いかなれる か を しる モノ なし。
 トイ、 ヨ は ヨ の ツクエ の ヒキダシ に ヨ の ヒゾウ せる ヒトタバ の テガミ を―― しかれども こ は サイワイ にも タボウ なる ショクン の かんする ところ に あらず。 いまや わが シンレイカイ は おもむろに ハクボ に しずまん と す。 ヨ は ショクン と ケツベツ す べし。 さらば。 ショクン。 さらば。 わが ゼンリョウ なる ショクン。
 ホップ フジン は サイゴ の コトバ と ともに ふたたび キュウゲキ に カクセイ したり。 ワレラ 17 メイ の カイイン は この モンドウ の シン なりし こと を ジョウテン の カミ に ちかって ホショウ せん と す。 (なおまた ワレラ の シンライ する ホップ フジン に たいする ホウシュウ は かつて フジン が ジョユウ たりし とき の ニットウ に したがいて シベン したり。)

 16

 ボク は こういう キジ を よんだ ノチ、 だんだん この クニ に いる こと も ユウウツ に なって きました から、 どうか ワレワレ ニンゲン の クニ へ かえる こと に したい と おもいました。 しかし いくら さがして あるいて も、 ボク の おちた アナ は みつかりません。 その うち に あの バッグ と いう リョウシ の カッパ の ハナシ には、 なんでも この クニ の マチハズレ に ある トシ を とった カッパ が 1 ピキ、 ホン を よんだり、 フエ を ふいたり、 しずか に くらして いる と いう こと です。 ボク は この カッパ に たずねて みれば、 あるいは この クニ を にげだす ミチ も わかり は しない か と おもいました から、 さっそく マチハズレ へ でかけて ゆきました。 しかし そこ へ いって みる と、 いかにも ちいさい イエ の ナカ に トシ を とった カッパ どころ か、 アタマ の サラ も かたまらない、 やっと 12~13 の カッパ が 1 ピキ、 ゆうゆう と フエ を ふいて いました。 ボク は もちろん まちがった イエ へ はいった では ない か と おもいました。 が、 ネン の ため に ナ を きいて みる と、 やはり バッグ の おしえて くれた トシヨリ の カッパ に ちがいない の です。
「しかし アナタ は コドモ の よう です が……」
「オマエサン は まだ しらない の かい? ワタシ は どういう ウンメイ か、 ハハオヤ の ハラ を でた とき には シラガアタマ を して いた の だよ。 それから だんだん トシ が わかく なり、 イマ では こんな コドモ に なった の だよ。 けれども トシ を カンジョウ すれば うまれる マエ を 60 と して も、 かれこれ 115~116 には なる かも しれない」
 ボク は ヘヤ の ナカ を みまわしました。 そこ には ボク の キ の せい か、 シッソ な イス や テーブル の アイダ に ナニ か きよらか な コウフク が ただよって いる よう に みえる の です。
「アナタ は どうも ホカ の カッパ より も シアワセ に くらして いる よう です ね?」
「さあ、 それ は そう かも しれない。 ワタシ は わかい とき は トシヨリ だった し、 トシ を とった とき は わかい モノ に なって いる。 したがって トシヨリ の よう に ヨク にも かわかず、 わかい モノ の よう に イロ にも おぼれない。 とにかく ワタシ の ショウガイ は たとい シアワセ では ない にも しろ、 やすらか だった の には チガイ あるまい」
「なるほど それ では やすらか でしょう」
「いや、 まだ それ だけ では やすらか には ならない。 ワタシ は カラダ も ジョウブ だった し、 イッショウ くう に こまらぬ くらい の ザイサン を もって いた の だよ。 しかし いちばん シアワセ だった の は やはり うまれて きた とき に トシヨリ だった こと だ と おもって いる」
 ボク は しばらく この カッパ と ジサツ した トック の ハナシ だの マイニチ イシャ に みて もらって いる ゲエル の ハナシ だの を して いました。 が、 なぜか トシ を とった カッパ は あまり ボク の ハナシ など に キョウミ の ない よう な カオ を して いました。
「では アナタ は ホカ の カッパ の よう に かくべつ いきて いる こと に シュウチャク を もって は いない の です ね?」
 トシ を とった カッパ は ボク の カオ を みながら、 しずか に こう ヘンジ を しました。
「ワタシ も ホカ の カッパ の よう に この クニ へ うまれて くる か どう か、 いちおう チチオヤ に たずねられて から ハハオヤ の タイナイ を はなれた の だよ」
「しかし ボク は ふとした ヒョウシ に、 この クニ へ ころげおちて しまった の です。 どうか ボク に この クニ から でて ゆかれる ミチ を おしえて ください」
「でて ゆかれる ミチ は ヒトツ しか ない」
「と いう の は?」
「それ は オマエサン の ここ へ きた ミチ だ」
 ボク は この コタエ を きいた とき に なぜか ミノケ が よだちました。
「その ミチ が あいにく みつからない の です」
 トシ を とった カッパ は みずみずしい メ に じっと ボク の カオ を みつめました。 それから やっと カラダ を おこし、 ヘヤ の スミ へ あゆみよる と、 テンジョウ から そこ に さがって いた 1 ポン の ツナ を ひきました。 すると イマ まで キ の つかなかった テンマド が ヒトツ ひらきました。 その また まるい テンマド の ソト には マツ や ヒノキ が エダ を はった ムコウ に オオゾラ が あおあお と はれわたって います。 いや、 おおきい ヤジリ に にた ヤリガタケ の ミネ も そびえて います。 ボク は ヒコウキ を みた コドモ の よう に じっさい とびあがって よろこびました。
「さあ、 あすこ から でて ゆく が いい」
 トシ を とった カッパ は こう いいながら、 サッキ の ツナ を ゆびさしました。 イマ まで ボク の ツナ と おもって いた の は じつは ツナバシゴ に できて いた の です。
「では あすこ から ださして もらいます」
「ただ ワタシ は まえもって いう がね。 でて いって コウカイ しない よう に」
「だいじょうぶ です。 ボク は コウカイ など は しません」
 ボク は こう ヘンジ を する が はやい か、 もう ツナバシゴ を よじのぼって いました。 トシ を とった カッパ の アタマ の サラ を はるか シタ に ながめながら。

 17

 ボク は カッパ の クニ から かえって きた ノチ、 しばらく は ワレワレ ニンゲン の ヒフ の ニオイ に ヘイコウ しました。 ワレワレ ニンゲン に くらべれば、 カッパ は じつに セイケツ な もの です。 のみならず ワレワレ ニンゲン の アタマ は カッパ ばかり みて いた ボク には いかにも キミ の わるい もの に みえました。 これ は あるいは アナタ には おわかり に ならない かも しれません。 しかし メ や クチ は ともかくも、 この ハナ と いう もの は ミョウ に おそろしい キ を おこさせる もの です。 ボク は もちろん できる だけ、 ダレ にも あわない サンダン を しました。 が、 ワレワレ ニンゲン にも いつか しだいに なれだした と みえ、 ハントシ ばかり たつ うち に どこ へ でも でる よう に なりました。 ただ それでも こまった こと は ナニ か ハナシ を して いる うち に うっかり カッパ の クニ の コトバ を クチ に だして しまう こと です。
「キミ は アシタ は ウチ に いる かね?」
「Qua」
「なんだって?」
「いや、 いる と いう こと だよ」
 だいたい こういう チョウシ だった もの です。
 しかし カッパ の クニ から かえって きた ノチ、 ちょうど 1 ネン ほど たった とき、 ボク は ある ジギョウ の シッパイ した ため に……
(S ハカセ は カレ が こう いった とき、 「その ハナシ は およしなさい」 と チュウイ を した。 なんでも ハカセ の ハナシ に よれば、 カレ は この ハナシ を する たび に カンゴニン の テ にも おえない くらい、 ランボウ に なる とか いう こと で ある。)
 では その ハナシ は やめましょう。 しかし ある ジギョウ の シッパイ した ため に ボク は また カッパ の クニ へ かえりたい と おもいだしました。 そう です。 「ゆきたい」 の では ありません。 「かえりたい」 と おもいだした の です。 カッパ の クニ は トウジ の ボク には コキョウ の よう に かんぜられました から。
 ボク は そっと ウチ を ぬけだし、 チュウオウ セン の キシャ へ のろう と しました。 そこ を あいにく ジュンサ に つかまり、 とうとう ビョウイン へ いれられた の です。 ボク は この ビョウイン へ はいった トウザ も カッパ の クニ の こと を おもいつづけました。 イシャ の チャック は どうして いる でしょう? テツガクシャ の マッグ も あいかわらず ナナイロ の イロガラス の ランターン の シタ に ナニ か かんがえて いる かも しれません。 ことに ボク の シンユウ だった、 クチバシ の くさった ガクセイ の ラップ は、 ――ある キョウ の よう に くもった ゴゴ です。 こんな ツイオク に ふけって いた ボク は おもわず コエ を あげよう と しました。 それ は いつのまに はいって きた か、 バッグ と いう リョウシ の カッパ が 1 ピキ、 ボク の マエ に たたずみながら、 ナンド も アタマ を さげて いた から です。 ボク は ココロ を とりなおした ノチ、 ――ないた か わらった か も おぼえて いません。 が、 とにかく ヒサシブリ に カッパ の クニ の コトバ を つかう こと に カンドウ して いた こと は たしか です。
「おい、 バッグ、 どうして きた?」
「へい、 オミマイ に あがった の です。 なんでも ゴビョウキ だ とか いう こと です から」
「どうして そんな こと を しって いる?」
「ラディオ の ニウス で しった の です」
 バッグ は トクイ そう に わらって いる の です。
「それにしても よく こられた ね?」
「なに、 ゾウサ は ありません。 トウキョウ の カワ や ホリワリ は カッパ には オウライ も ドウヨウ です から」
 ボク は カッパ も カエル の よう に スイリク リョウセイ の ドウブツ だった こと に いまさら の よう に キ が つきました。
「しかし この ヘン には カワ は ない がね」
「いえ、 こちら へ あがった の は スイドウ の テッカン を ぬけて きた の です。 それから ちょっと ショウカセン を あけて……」
「ショウカセン を あけて?」
「ダンナ は おわすれ なすった の です か? カッパ にも キカイヤ の いる と いう こと を」
 それから ボク は 2~3 ニチ ごと に イロイロ の カッパ の ホウモン を うけました。 ボク の ヤマイ は S ハカセ に よれば ソウハツセイ チホウショウ と いう こと です。 しかし あの イシャ の チャック は (これ は はなはだ アナタ にも シツレイ に あたる の に チガイ ありません。) ボク は ソウハツセイ チホウショウ カンジャ では ない、 ソウハツセイ チホウショウ カンジャ は S ハカセ を ハジメ、 アナタガタ ジシン だ と いって いました。 イシャ の チャック も くる くらい です から、 ガクセイ の ラップ や テツガクシャ の マッグ の ミマイ に きた こと は もちろん です。 が、 あの リョウシ の バッグ の ホカ に ヒルマ は ダレ も たずねて きません。 ことに 2~3 ビキ イッショ に くる の は ヨル、 ――それ も ツキ の ある ヨル です。 ボク は ユウベ も ツキアカリ の ナカ に ガラス-ガイシャ の シャチョウ の ゲエル や テツガクシャ の マッグ と ハナシ を しました。 のみならず オンガクカ の クラバック にも ヴァイオリン を 1 キョク ひいて もらいました。 そら、 ムコウ の ツクエ の ウエ に クロユリ の ハナタバ が のって いる でしょう? あれ も ユウベ クラバック が ミヤゲ に もって きて くれた もの です。……
(ボク は ウシロ を ふりかえって みた。 が、 もちろん ツクエ の ウエ には ハナタバ も なにも のって いなかった。)
 それから この ホン も テツガクシャ の マッグ が わざわざ もって きて くれた もの です。 ちょっと サイショ の シ を よんで ごらんなさい。 いや、 アナタ は カッパ の クニ の コトバ を ゴゾンジ に なる はず は ありません。 では カワリ に よんで みましょう。 これ は チカゴロ シュッパン に なった トック の ゼンシュウ の 1 サツ です。――
(カレ は ふるい デンワチョウ を ひろげ、 こういう シ を オオゴエ に よみはじめた。)

 ――ヤシ の ハナ や タケ の ナカ に
   ブッダ は とうに ねむって いる。

   ミチバタ に かれた イチジク と イッショ に
   キリスト も もう しんだ らしい。

   しかし ワレワレ は やすまなければ ならぬ
   たとい シバイ の ハイケイ の マエ にも。

  (その また ハイケイ の ウラ を みれば、 ツギハギ-だらけ の カンヴァス ばかり だ?)――

 けれども ボク は この シジン の よう に エンセイテキ では ありません。 カッパ たち の ときどき きて くれる カギリ は、 ――ああ、 この こと は わすれて いました。 アナタ は ボク の トモダチ だった サイバンカン の ペップ を おぼえて いる でしょう。 あの カッパ は ショク を うしなった ノチ、 ホントウ に ハッキョウ して しまいました。 なんでも イマ は カッパ の クニ の セイシン ビョウイン に いる と いう こと です。 ボク は S ハカセ さえ ショウチ して くれれば、 ミマイ に いって やりたい の です がね……。

ある オンナ (ゼンペン)

 ある オンナ  (ゼンペン)  アリシマ タケオ  1  シンバシ を わたる とき、 ハッシャ を しらせる 2 バンメ の ベル が、 キリ と まで は いえない 9 ガツ の アサ の、 けむった クウキ に つつまれて きこえて きた。 ヨウコ は ヘイキ で それ ...