2013/06/22

ハナビ

 ハナビ

 ナガイ カフウ

 ヒルメシ の ハシ を とろう と した とき ぽん と どこ か で ハナビ の オト が した。 ツユ も ようやく アケ-ぢかい くもった ヒ で ある。 すずしい カゼ が たえず マド の スダレ を うごかして いる。 みれば せまい ロジウラ の イエイエ には ノキナミ に コッキ が だして あった。 コッキ の ない の は ワガヤ の コウシド ばかり で ある。 ワタシ は はじめて キョウ は トウキョウ シ オウシュウ センソウ コウワ キネンサイ の トウジツ で ある こと を おもいだした。
 ヒルメシ を すます と ワタシ は キノウ から はりかけた オシイレ の カベ を はって しまおう と、 テヌグイ で ナナメ に カタソデ を むすびあげて ハケ を とった。
 キョネン の クレ おしつまって、 しかも ユキ の ちらほら ふりだした ヒ で あった。 この ロジウラ に ひっこした その ヒ から オシイレ の カベツチ の ざらざら おちる の が キ に なって ならなかった が、 いつか そのまま ハントシ たって しまった の だ。
 すぐる トシ まだ イエ には ハハ も すこやか に ツマ も あった コロ、 ひろい 2 カイ の エンガワ で おだやか な コハル の ヒ を あびながら ゾウショ の ウラウチ を した こと が あった。 それから いつ とも なく ワタシ は ヨウ の ない タイクツ な オリオリ ノリシゴト を する よう に なった。 トシ を とる と だんだん ミョウ な クセ が でる。
 ワタシ は ヒゴロ テナライ した カミキレ や いつ かきすてた とも しれぬ ソウコウ の キレハシ、 また トモダチ の フミホゴ なぞ、 1 マイ 1 マイ ナニ が かいて ある か と ネッシン に よみかえしながら オシイレ の カベ を はって いった。 ハナビ は つづいて あがる。
 しかし ロジ の ウチ は フシギ な ほど しずか で ある。 オモテドオリ に ナニ か コト あれば たちまち あっちこっち の コウシド の あく オト と ともに かけだす ゲタ の オト の する のに、 キョウ に かぎって コドモ の さわぐ コエ も せず キンジョ の ニョウボウ の ハナシゴエ も きこえない。 ロジ の ツキアタリ に ある メッキヤ の ヤスリ の ヒビキ も しない。 ミンナ ヒビヤ か ウエノ へ でも でかけた に ちがいない。 ハナビ の オト に つれて ミミ を すます と かすか に ヒト の さけぶ コエ も きこえる。 ワタシ は カベ に はった ソウコウ を よみながら、 ふと ジブン の ミノウエ が いかに セケン から かけはなれて いる か を かんじた。 われながら おかしい。 また かなしい よう な さびしい よう な キ も する。 なぜ と いう に ワタシ は キョウコ な イシ が あって ことさら セケン から かけはなれよう と おもった わけ でも ない。 いつ と なく しらずしらず こういう コドク の ミ に なって しまった から で ある。 セケン と ジブン との アイダ には イマ なにひとつ チョクセツ の レンラク も ない。
 すずしい カゼ は たえず よごれた スダレ を うごかして いる。 くもった ソラ は スダレゴシ に、 ひときわ ゆめみる が ごとく どんより と して いる。 ハナビ の ヒビキ は だんだん ケイキ が よく なった。 ワタシ は ガッコウ や コウジョウ が ヤスミ に なって、 マチ の カドカド に スギ の ハ を むすびつけた リョクモン が たち、 オモテドオリ の ショウテン に コウハク の マンマク が ひかれ、 コッキ と チョウチン が かかげられ、 シンブン の ダイ 1 メン に よみにくい カンブンチョウ の シュクジ が のせられ、 ヒト が ぞろぞろ ヒビヤ か ウエノ へ でかける。 どうか する と ゲイシャ が ギョウレツ する。 ヨル に なる と チョウチン ギョウレツ が ある。 そして コドモ や バアサン が ふみころされる…… そういう サイジツ の サマ を おもいうかべた。 これ は メイジ の シンジダイ が セイヨウ から モホウ して あらた に つくりだした ゲンショウ の ヒトツ で ある。 トウキョウ シミン が ムジャキ に エド ジダイ から デンショウ して きた ウジガミ の サイレイ や ブツジ の カイチョウ とは まったく その ガイケイ と セイシン と を コト に した もの で ある。 ウジガミ の サイレイ には チョウナイ の ワカモノ が たらふく サケ に よい コゾウ や ホウコウニン が セキハン の チソウ に ありつく。 あたらしい ケイシキ の マツリ には しばしば セイジテキ サクリャク が ひそんで いる。
 ワタシ は コドモ の とき から みおぼえて いる あたらしい サイジツ の こと を おもいかえす とも なく おもいかえした。
 メイジ 23 ネン の 2 ガツ に ケンポウ ハップ の シュクガサイ が あった。 おそらく これ が ワタシ の キオク する シャカイテキ サイジツ の サイショ の もの で あろう。 かぞえて みる と 12 サイ の ハル、 コイシカワ の イエ に いた とき で ある。 さむい ので どこ へも ソト へは でなかった が しかし チョウチン ギョウレツ と いう もの の ハジマリ は この サイジツ から で ある こと を ワタシ は しって いる。 また コクミン が コッカ に たいして 「バンザイ」 と よぶ コトバ を おぼえた の も たしか この とき から はじまった よう に キオク して いる。 なぜ と いう に、 その コロ ワタシ の チチオヤ は テイコク ダイガク に つとめて おられた が、 その ヒ の ユウガタ ワラジバキ で あかい タスキ を ヨウフク の カタ に むすび あかい チョウチン を もって でて ゆかれ ヨル おそく かえって こられた。 チチ は その とき コンヤ は ダイガク の ショセイ を オオゼイ ひきつれ ニジュウバシ へ ねりだして バンザイ を サンコ した ハナシ を された。 バンザイ と いう の は エイゴ の なんとやら いう ゴ を とった もの で、 ガクシャ や ショセイ が ギョウレツ して ナニ か する の は セイヨウ には よく ある こと だ と とおい クニ の ハナシ を された。 しかし ワタシ には なんとなく おかしい よう な キ が して よく その イミ が わからなかった。
 もっとも その ヒ の アサ ワタシ は タカダイ の ガケ の ウエ に たって いる コイシカワ の イエ の エンガワ から、 イロイロ な ハタ や ノボリ が ヘイソト の オウライ を とおって ゆく の を みた。 そして ハタ や ノボリ に かいて ある モジ に よって、 ワタシ は その コロ みなれた フジコウ や オオヤマ マイリ なぞ と その ヒ の ギョウレツ とは まったく セイシツ の ことなった もの で ある こと だけ は、 どうやら わかって いた らしい。

 オオツ の マチ で、 ロシア の コウタイシ が ジュンサ に きられた。 この サワギ には イッコク を あげて チョウヤ ともに シンガイ した の は ジジツ らしい。 コドモ ながら ワタシ は なんとも しらぬ キョウフ を かんじた こと を キオク して いる。 その コロ カトウ キヨマサ が まだ チョウセン に いきて いる とか、 サイゴウ タカモリ が ホッカイドウ に かくれて いて ニホン を たすけ に くる とか いう ウワサ が あった。 しかも かく の ごとき リュウゲン ヒゴ が なんとも しれず そらおそろしく やはり ワタシタチ コドモ の ココロ を うごかした。 イマ から カイソウ する と その コロ の トウキョウ は、 クロフネ の ウワサ を した エド ジダイ と おなじ よう に、 ひっそり して うすぐらく、 ミチ ゆく ヒト の セッタ の オト しずか に イヌ の コエ さびしく、 ニシカゼ の キ を うごかす オト ばかり して いた よう な キ が する。

 マツリ と ソウドウ とは セケン の がやがや する こと に おいて にかよって いる。
 16 の トシ の ナツ オオカワバタ の スイレンバ に かよって いた。 ある ヒ の ユウガタ カワ の ナカ から ワタシ は ゴウガイウリ が カシドオリ をば オオゴエ に よびながら かけて ゆく の を みた。 これ が ニッシン センソウ の カイシ で あった。 ヨクネン オダワラ の オオニシ ビョウイン と いう に テンチ リョウヨウ して いた とき バカン ジョウヤク が なりたった。 しかし シュト を はなれた ビョウイン の ナイブ には かの リョウトウ カンプ に たいする ヒフン の コエ も さらに ハンキョウ を つたえなかった。 ワタシ は ただ ヤッキョク の ショセイ が ある アサ おおきな コエ で シンブン の シャセツ を ロウドク して いる の を きいた ばかり で ある。 ワタシ は その コロ から ハクブンカン が シュッパン しだした テイコク ブンコ をば ダイ 1 カン の タイコウキ から ひきつづいて ネッシン に よみふけって いた。 ナツ は ウメ の ミ じゅくし フユ は ミカン の いろづく かの オダワラ の コエキ は ワタシ には イッショウ の うち もっとも ヘイワ コウフク なる キオク を のこす ばかり で ある。

 メイジ 31 ネン に テント 30 ネン-サイ が ウエノ に ひらかれた。 サクラ の さいて いた こと を おぼえて いる ので 4 ガツ ハジメ に ちがいない。 シキジョウ-ガイ の ヒロコウジ で ヒト が オオゼイ ふみころされた と いう ウワサ が あった。

 メイジ 37 ネン ニチロ の カイセン を しった の は ベイコク タコマ に いた とき で ある。 ワタシ は ゴウガイ を テ に した とき むろん ヒジョウ に カンゲキ した。 しかし それ は はなはだ コウフク なる カンゲキ で あった。 ワタシ は ゲンコウ の とき の よう に ガイテキ が コキョウ の ノ を あらし ドウホウ を ほふり に くる もの とは おもわなかった。 まんまんいち ヒジョウ に フコウ な バアイ に なった と して も キンセイ ブンメイ の セイシン と セカイ コクサイ の カンケイ とは ひとり イッコク を して かく の ごとき ヒキョウ に たちいたらしめる こと は あるまい と いう よう な キ が した。 キリスト-キョウ の シンコウ と ローマ イコウ の ホウリツ の セイシン には まだまだ ヒョウキョ する に たる べき チカラ が ある もの の よう に おもいなして いた の だ。 いかに センソウ だ とて ヒト と うまれた から には このたび ドイツジン が ベルギー に おいて なした よう な ザイアク を あえて しうる もの では ない と おもって いた の だ。 つまり ワタシ は ゴウガイ を みて カンゲキ した けれど、 しかし ただちに フボ の ミノウエ を ううる ほど セッパク した カンジョウ を いだかなかった の で ある。 ましてや ホウドウ は ことごとく ショウリ で ある。 センショウ の ヨエイ は ワタシ の ミ を ながく やすらか に イキョウ の テンチ に あそばせて くれた ので、 ワタシ は 38 ネン の マナツ トウキョウ シ の シミン が いかに して シナイ の ケイサツショ と キリスト-キョウ の キョウカイ を やいた か、 また ジュンサ が いかに して シミン を きった か それら の こと は まったく しらず に トシ を すごした。
 メイジ 44 ネン ケイオウ ギジュク に ツウキン する コロ、 ワタシ は その みちすがら おりおり イチガヤ の トオリ で シュウジン バシャ が 5~6 ダイ も ひきつづいて ヒビヤ の サイバンショ の ほう へ はしって ゆく の を みた。 ワタシ は これまで ケンブン した セジョウ の ジケン の ナカ で、 この オリ ほど いう に いわれない いや な ココロモチ の した こと は なかった。 ワタシ は ブンガクシャ たる イジョウ この シソウ モンダイ に ついて もくして いて は ならない。 ショウセツカ ゾラ は ドレフュー ジケン に ついて セイギ を さけんだ ため コクガイ に ボウメイ した では ない か。 しかし ワタシ は ヨ の ブンガクシャ と ともに なにも いわなかった。 ワタシ は なんとなく リョウシン の クツウ に たえられぬ よう な キ が した。 ワタシ は みずから ブンガクシャ たる こと に ついて はなはだしき シュウチ を かんじた。 イライ ワタシ は ジブン の ゲイジュツ の ヒンイ を エド ゲサクシャ の なした テイド まで ひきさげる に しく は ない と シアン した。 その コロ から ワタシ は タバコイレ を さげ ウキヨエ を あつめ シャミセン を ひきはじめた。 ワタシ は エド マツダイ の ゲサクシャ や ウキヨエシ が ウラガ へ クロフネ が こよう が サクラダ ゴモン で タイロウ が アンサツ されよう が そんな こと は ゲミン の あずかりしった こと では ない―― いな とやかく もうす の は かえって おそれおおい こと だ と、 すまして シュンポン や シュンガ を かいて いた その シュンカン の キョウチュウ をば あきれる より は むしろ ソンケイ しよう と おもいたった の で ある。
 かくて タイショウ 2 ネン 3 ガツ の ある ヒ、 ワタシ は ヤマシロガシ の ロジ に いた ある オンナ の イエ で シャミセン を ケイコ して いた。 (ロジ の ウチ ながら ささやか な クグリモン が あり、 コニワ が あり、 チョウズバチ の ホトリ には おもいがけない ツバキ の コボク が あって シジュウカラ や ヤブウグイス が くる。 たてこんだ シチュウ の ロジウラ には おりおり おもいがけない ところ に ひとしれぬ しずか な インタク と イナリ の ホコラ が ある。) その とき にわか に ロジ の ウチ が さわがしく なった。 ドブイタ の ウエ を かけぬける ヒト の アシオト に つづいて ジュンサ の ハイケン の オト も きこえた。 それ が ため か チュウオウ シンブンシャ の インサツ キカイ の ヒビキ も ひとしきり うちけされた よう に きこえなく なった。 ワタシ は クグリモン を あけて そっと クビ を だして みた。 ギュウニュウ ハイタツフ の よう な タビハダシ に メリヤス の シャツ を きて テヌグイ で ハチマキ を した オトコ が 4~5 ニン ホリバタ の ほう へ と ロジ を かけぬけて いった。 その アト から キンジョ の デマエモチ が スジムコウ の イエ の カッテグチ で コクミン シンブン ヤキウチ の ウワサ を つたえて いた。 ワタシ は セノビ を して みた。 しかし ケムリ も みえぬ ので ウチ へ はいる と そのまま ごろり と ヒルネ を して しまった。 オキゴタツ が まことに グアイ よく あたたか で あった から で ある。 ユウメシ を すまして ヨル も 8 ジ-スギ あまり さむく ならぬ うち イエ へ かえろう と スキヤバシ へ でた とき ジュンサ ハシュツジョ の もえて いる の を みた。 デンシャ は ない。 ヤジウマ で ギンザ-ドオリ は トシ の イチ より も にぎやか で ある。 ツジツジ の コウバン が さかん に もえて いる サイチュウ で ある。 ドウロ の マンナカ には セキユ の カン が なげだされて あった。
 ヒビヤ へ くる と ジュンサ が クロベイ を たてた よう に オウライ を さえぎって いる。 ボウト が いましがた ケイシチョウ へ イシ を なげた とか いう こと で ある。 ワタシ は サクラダ ホンゴウ-チョウ の ほう へ ミチ を てんじた。 38 ネン の サワギ の とき ジュンサ に きられた モノ が たくさん あった と いう ハナシ を おもいだした から で ある。 トラノモン ソト で やっと クルマ を みつけて のった。 マックラ な カスミガセキ から ナガタ-チョウ へ でよう と する と カクショウ の ダイジン カンシャ を ケイゴ する グンタイ で ここ も また オウライドメ で ある。 ミヤケザカ へ もどって コウジマチ の オオドオリ へ まわり ウシゴメ の ハズレ の イエ へ ついた の は ヤハンスギ で あった。
 ヨノナカ は ソノゴ しずか で あった。
 タイショウ 4 ネン に なって 11 ガツ も ナカバゴロ と おぼえて いる。 トカ の シンブンシ は トウキョウ カクチ の ゲイシャ が ソクイシキ シュクガサイ の トウジツ おもいおもい の カソウ を して ニジュウバシ へ ねりだし バンザイ を レンコ する ヨシ を つたえて いた。 かかる コッカテキ ならびに シャカイテキ サイジツ に さいして ショウガッコウ の セイト が かならず ニジュウバシ へ ギョウレツ する よう に なった の も おもえば ワタシラ が すでに チュウガッコウ へ すすんで から アト の こと で ある。 クヤクショ が メイレイ して ロジ の ウラダナ にも コッキ を かかげさせる よう に した の も また 20 ネン を いでまい。 この カンリョウテキ シドウ の セイコウ は ついに コウフン バイショク の フジョ をも かって ハクジツ ダイドウ を ねりゆかせる に いたった。 ゲンダイ シャカイ の スウセイ は ただただ フカシギ と いう の ホカ は ない。 この ヒ ゲイシャ の ギョウレツ は これ を みん が ため に あつまりくる ヤジウマ に おしかえされ ケイゴ の ジュンサ シゴトシ も ヤク に たたず ついに めちゃめちゃ に なった。 その ヨ ワタシ は その バ に のぞんだ ヒト から イロイロ な ハナシ を きいた。 サイショ ケンブツ の グンシュウ は しずか に ミチ の リョウガワ に たって ゲイシャ の ギョウレツ の くる の を まって いた が、 イッコク イッコク あつまりくる ヒトデ に だんだん マエ の ほう に おしだされ、 やがて ギョウレツ の すすんで きた コロ には、 グンシュウ は ミチ の リョウガワ から おされ おされて イチド に どっと ギョウレツ の ゲイシャ に ニクハク した。 ギョウレツ と ケンブツニン と が めちゃめちゃ に いりみだれる や、 ヒゴロ ゲイシャ の エイガ を うらやむ ミンシュウ の ギフン は また ヤバン なる レツジョウ と こんじて ここ に キカイ シュウレツ なる ボウコウ が ハクジツ ザットウ の ナカ に エンリョ なく おこなわれた。 ゲイシャ は ヒメイ を あげて テイコク ゲキジョウ ソノタ フキン の カイシャ に いのちからがら にげこんだ の を グンシュウ は オオカミ の よう に おいかけ おしよせて タテモノ の ト を こわし マド に イシ を なげた。 その ヒ ゲイシャ の ユクエ フメイ に なった モノ や リョウジョク の ケッカ ハッキョウ シッシン した モノ も スウメイ に およんだ と やら。 しかし ゲイシャ クミアイ は かたく この こと を ひし ひそか に ナカマ から ギエンキン を チョウシュウ して それら の ギセイシャ を なぐさめた とか いう ハナシ で あった。
 ムカシ の オマツリ には バクト の ケンカ が ある。 ゲンダイ の マツリ には オンナ が ふみころされる。
 タイショウ 7 ネン 8 ガツ ナカバ、 セツ は リッシュウ を すぎて 4~5 ニチ たった。 ネンジュウ エンショ の もっとも はげしい とき で ある。 イノウエ アア クン と その コロ ハッコウ して いた ザッシ カゲツ の ヘンシュウ を おわり ドウクン の カエリ を おくりながら カグラザカ まで すずみ に でた。 サカナマチ で デンシャ を おりる と オオドオリ は イツモ の よう に スズミ の ヒトデ で にぎわって いた が ヨミセ の ショウニン は なにやら うろたえた ヨウス で イマガタ ならべた ばかり の ミセ を しまいかけて いる。 ユウダチ が きそう だ と いう の でも ない。 こころづけば ジュンサ が しきり に いったり きたり して いる。 ヨコチョウ へ まがって みる と ノキ を ならべた ゲイシャヤ は ことごとく ト を しめ ヒ を けし ひっそり と ナリ を しずめて いる。 ふたたび オモテドオリ へ でて ビーヤ ホール に やすむ と ショセイ-フウ の オトコ が ギンザ の ショウテン や シンバシ ヘン の ゲイシャヤ の うちこわされた ハナシ を して いた。
 ワタシ は はじめて ベイカ トウキ の ソウドウ を しった の で ある。 しかし ツギ の ヒ シンブン の キジ は サシトメ に なった。 アト に なって ハナシ を きく と ソウドウ は いつも ユウガタ すずしく なって から はじまる。 その コロ は マイヨ ツキ が よかった。 ワタシ は ボウト が ユウガタ すずしく なって ツキ が でて から フゴウ の イエ を おびやかす と きいた とき なんとなく そこ に ある ヨユウ が ある よう な キ が して ならなかった。 ソウドウ は 5~6 ニチ つづいて ヘイテイ した。 ちょうど アメ が ふった。 ワタシ は すみふるした ウシゴメ の イエ をば まだ さらず に いた ので、 ヒサシブリ の アメ と ともに ニワ には ムシ の ネ が イチド に しげく なり ウエコミ に ふきいる カゼ の ヒビキ に いよいよ その トシ の アキ も ふかく なった こと を しった。
 やがて 11 ガツ も スエ ちかく ワタシ は すでに イエ を うしない、 これから サキ いずこ に ビョウク を かくそう か と メアテ も なく カシヤ を さがし に でかけた。 ヒビヤ の コウエン-ガイ を とおる とき 1 タイ の ショッコウ が アサギ の シゴトギ を つけ クミアイ の ハタ を サキ に たてて、 タイゴ せいぜん と ねりゆく の を みた。 その ヒ は オウシュウ キュウセン キネン の シュクジツ で あった の だ。 ビョウライ ひさしく セケン を みなかった ワタシ は、 この ヒ とつぜん トウキョウ の ガイトウ に かつて フランス で みなれた よう な アサギ の ロウドウフク を つけた ショッコウ の ギョウレツ を メ に して、 ヨノナカ は かくまで かわった の か と いう よう な キ が した。 メ の さめた よう な キ が した。
 コメソウドウ の ウワサ は めずらしからぬ セイトウ の キョウサ に よった もの の よう な キ が して ならなかった が、 ヨウソウ した ショッコウ の ダンタイ の しずか に ねりゆく スガタ には うごかしがたい ジダイ の チカラ と セイカツ の ヒアイ と が あらわれて いた よう に おもわれた。 ワタシ は すでに ヒトムカシ も マエ ヒサシブリ に コキョウ の テンチ を みた コロ かんがえる とも なく かんがえた イロイロ な モンダイ をば、 ここ に ふたたび おもいだす とも なく おもいだす よう に なった。 メ に みる ゲンジツ の ジショウ は この トシツキ ひたり に ひたった エド カイコ の ユメ から ついに ワタシ を よびさます とき が きた の で あろう か。 もし しかり と すれば ワタシ は みずから その フコウ なる を たんじなければ ならぬ。

 ハナビ は しきり に あがって いる。 ワタシ は ハケ を シタ に おいて タバコ を イップク しながら ソト を みた。 ナツ の ヒ は くもりながら ヒル の まま に あかるい。 ツユバレ の しずか な ゴゴ と アキ の スエ の うすく くもった ユウガタ ほど モノ おもう に よい とき は あるまい……。

2013/06/12

ヒトフサ の ブドウ

 ヒトフサ の ブドウ

 アリシマ タケオ

 ボク は ちいさい とき に エ を かく こと が すき でした。 ボク の かよって いた ガッコウ は ヨコハマ の ヤマノテ と いう ところ に ありました が、 そこいら は セイヨウジン ばかり すんで いる マチ で、 ボク の ガッコウ も キョウシ は セイヨウジン ばかり でした。 そして その ガッコウ の ユキカエリ には、 いつでも ホテル や セイヨウジン の カイシャ など が、 ならんで いる カイガン の トオリ を とおる の でした。 トオリ の ウミゾイ に たって みる と、 マッサオ な ウミ の ウエ に グンカン だの ショウセン だの が いっぱい ならんで いて、 エントツ から ケムリ の でて いる の や、 ホバシラ から ホバシラ へ バンコクキ を かけわたした の や が あって、 メ が いたい よう に きれい でした。 ボク は よく キシ に たって その ケシキ を みわたして、 イエ に かえる と、 おぼえて いる だけ を できる だけ うつくしく エ に かいて みよう と しました。 けれども あの すきとおる よう な ウミ の アイイロ と、 しろい ホマエセン など の ミズギワ チカク に ぬって ある ヨウコウショク とは、 ボク の もって いる エノグ では どうしても うまく だせません でした。 いくら かいて も かいて も ホントウ の ケシキ で みる よう な イロ には かけません でした。
 ふと ボク は ガッコウ の トモダチ の もって いる セイヨウ エノグ を おもいだしました。 その トモダチ は やはり セイヨウジン で、 しかも ボク より フタツ くらい トシ が ウエ でした から、 セイ は みあげる よう に おおきい コ でした。 ジム と いう その コ の もって いる エノグ は ハクライ の ジョウトウ の もの で、 かるい キ の ハコ の ナカ に、 12 シュ の エノグ が、 ちいさな スミ の よう に シカク な カタチ に かためられて、 2 レツ に ならんで いました。 どの イロ も うつくしかった が、 とりわけて アイ と ヨウコウ とは びっくり する ほど うつくしい もの でした。 ジム は ボク より セイ が たかい くせ に、 エ は ずっと ヘタ でした。 それでも その エノグ を ぬる と、 ヘタ な エ さえ なんだか みちがえる よう に うつくしく なる の です。 ボク は いつでも それ を うらやましい と おもって いました。 あんな エノグ さえ あれば、 ボク だって ウミ の ケシキ を、 ホントウ に ウミ に みえる よう に かいて みせる のに なあ と、 ジブン の わるい エノグ を うらみながら かんがえました。 そう したら、 その ヒ から ジム の エノグ が ほしくって ほしくって たまらなく なりました。 けれども ボク は なんだか オクビョウ に なって、 パパ にも ママ にも かって ください と ねがう キ に なれない ので、 マイニチ マイニチ その エノグ の こと を ココロ の ナカ で おもいつづける ばかり で イクニチ か ヒ が たちました。
 イマ では いつ の コロ だった か おぼえて は いません が、 アキ だった の でしょう。 ブドウ の ミ が じゅくして いた の です から。 テンキ は フユ が くる マエ の アキ に よく ある よう に、 ソラ の オク の オク まで みすかされそう に はれわたった ヒ でした。 ボクタチ は センセイ と イッショ に ベントウ を たべました が、 その タノシミ な ベントウ の サイチュウ でも、 ボク の ココロ は なんだか おちつかない で、 その ヒ の ソラ とは ウラハラ に くらかった の です。 ボク は ジブン ヒトリ で かんがえこんで いました。 ダレ か が キ が ついて みたら、 カオ も きっと あおかった かも しれません。 ボク は ジム の エノグ が ほしくって ほしくって たまらなく なって しまった の です。 ムネ が いたむ ほど ほしく なって しまった の です。 ジム は ボク の ムネ の ナカ で かんがえて いる こと を しって いる に ちがいない と おもって、 そっと その カオ を みる と、 ジム は なんにも しらない よう に、 おもしろそう に わらったり して、 ワキ に すわって いる セイト と ハナシ を して いる の です。 でも その わらって いる の が ボク の こと を しって いて わらって いる よう にも おもえる し、 ナニ か ハナシ を して いる の が、 「いまに みろ、 あの ニホンジン が ボク の エノグ を とる に ちがいない から」 と いって いる よう にも おもえる の です。 ボク は いや な キモチ に なりました。 けれども、 ジム が ボク を うたがって いる よう に みえれば みえる ほど、 ボク は その エノグ が ほしくて ならなく なる の です。
 ボク は かわいい カオ は して いた かも しれない が、 カラダ も ココロ も よわい コ でした。 そのうえ オクビョウモノ で、 いいたい こと も いわず に すます よう な タチ でした。 だから あんまり ヒト から は、 かわいがられなかった し、 トモダチ も ない ほう でした。 ヒルゴハン が すむ と ホカ の コドモ たち は カッパツ に ウンドウジョウ に でて はしりまわって あそびはじめました が、 ボク だけ は なおさら その ヒ は へんに ココロ が しずんで、 ヒトリ だけ キョウジョウ に はいって いました。 ソト が あかるい だけ に キョウジョウ の ナカ は くらく なって、 ボク の ココロ の ナカ の よう でした。 ジブン の セキ に すわって いながら、 ボク の メ は ときどき ジム の テーブル の ほう に はしりました。 ナイフ で イロイロ な イタズラガキ が ほりつけて あって、 テアカ で マックロ に なって いる あの フタ を あげる と、 その ナカ に ホン や ザッキチョウ や セキバン と イッショ に なって、 アメ の よう な キ の イロ の エノグバコ が ある ん だ。 そして その ハコ の ナカ には ちいさい スミ の よう な カタチ を した アイ や ヨウコウ の エノグ が…… ボク は カオ が あかく なった よう な キ が して、 おもわず ソッポ を むいて しまう の です。 けれども すぐ また ヨコメ で ジム の テーブル の ほう を みない では いられません でした。 ムネ の ところ が どきどき と して くるしい ほど でした。 じっと すわって いながら、 ユメ で オニ に でも おいかけられた とき の よう に キ ばかり せかせか して いました。
 キョウジョウ に はいる カネ が かんかん と なりました。 ボク は おもわず ぎょっと して たちあがりました。 セイト たち が おおきな コエ で わらったり どなったり しながら、 センメンジョ の ほう に テ を あらい に でかけて いく の が マド から みえました。 ボク は キュウ に アタマ の ナカ が コオリ の よう に つめたく なる の を きみわるく おもいながら、 ふらふら と ジム の テーブル の ところ に いって、 ハンブン ユメ の よう に そこ の フタ を あげて みました。 そこ には ボク が かんがえて いた とおり、 ザッキチョウ や エンピツバコ と まじって、 ミオボエ の ある エノグバコ が しまって ありました。 なんの ため だ か しらない が ボク は あっちこち を むやみ に みまわして から、 てばやく その ハコ の フタ を あけて アイ と コウヨウ との 2 ショク を とりあげる が はやい か、 ポッケット の ナカ に おしこみました。 そして いそいで いつも セイレツ して センセイ を まって いる ところ に はしって いきました。
 ボクタチ は わかい オンナ の センセイ に つれられて キョウジョウ に はいり メイメイ の セキ に すわりました。 ボク は ジム が どんな カオ を して いる か みたくって たまらなかった けれども、 どうしても そっち の ほう を ふりむく こと が できません でした。 でも ボク の した こと を ダレ も キ の ついた ヨウス が ない ので、 キミ が わるい よう な アンシン した よう な ココロモチ で いました。 ボク の だいすき な わかい オンナ の センセイ の おっしゃる こと なんか は ミミ に はいり は はいって も、 なんの こと だ か ちっとも わかりません でした。 センセイ も ときどき フシギ そう に ボク の ほう を みて いる よう でした。
 ボク は しかし センセイ の メ を みる の が その ヒ に かぎって なんだか いや でした。 そんな ふう で 1 ジカン が たちました。 なんだか ミンナ ミミコスリ でも して いる よう だ と おもいながら 1 ジカン が たちました。
 キョウジョウ を でる カネ が なった ので ボク は ほっと アンシン して タメイキ を つきました。 けれども センセイ が いって しまう と、 ボク は ボク の キュウ で いちばん おおきな、 そして よく できる セイト に 「ちょっと こっち に おいで」 と ヒジ の ところ を つかまれて いました。 ボク の ムネ は、 シュクダイ を なまけた のに センセイ に ナ を さされた とき の よう に、 おもわず どきん と ふるえはじめました。 けれども ボク は できる だけ しらない フリ を して いなければ ならない と おもって、 わざと ヘイキ な カオ を した つもり で、 しかたなし に ウンドウジョウ の スミ に つれて いかれました。
「キミ は ジム の エノグ を もって いる だろう。 ここ に だしたまえ」
 そう いって その セイト は ボク の マエ に おおきく ひろげた テ を つきだしました。 そう いわれる と ボク は かえって ココロ が おちついて、
「そんな もの、 ボク もって や しない」 と、 つい デタラメ を いって しまいました。 そう する と 3~4 ニン の トモダチ と イッショ に ボク の ソバ に きて いた ジム が、
「ボク は ヒルヤスミ の マエ に ちゃんと エノグバコ を しらべて おいた ん だよ。 ヒトツ も なくなって は いなかった ん だよ。 そして ヒルヤスミ が すんだら フタツ なくなって いた ん だよ。 そして ヤスミ の ジカン に キョウジョウ に いた の は キミ だけ じゃ ない か」 と すこし コトバ を ふるわしながら いいかえしました。
 ボク は もう ダメ だ と おもう と キュウ に アタマ の ナカ に チ が ながれこんで きて カオ が マッカ に なった よう でした。 すると ダレ だった か そこ に たって いた ヒトリ が いきなり ボク の ポッケット に テ を さしこもう と しました。 ボク は イッショウ ケンメイ に そう は させまい と しました けれども、 タゼイ に ブゼイ で とても かないません。 ボク の ポッケット の ナカ から は、 みるみる マーブル-ダマ (イマ の ビーダマ の こと です) や ナマリ の メンコ など と イッショ に、 フタツ の エノグ の カタマリ が つかみだされて しまいました。 「それ みろ」 と いわん ばかり の カオ を して、 コドモ たち は にくらしそう に ボク の カオ を にらみつけました。 ボク の カラダ は ひとりでに ぶるぶる ふるえて、 メノマエ が マックラ に なる よう でした。 いい オテンキ なのに、 ミンナ ヤスミ ジカン を おもしろそう に あそびまわって いる のに、 ボク だけ は ホントウ に ココロ から しおれて しまいました。 あんな こと を なぜ して しまった ん だろう。 トリカエシ の つかない こと に なって しまった。 もう ボク は ダメ だ。 そんな に おもう と ヨワムシ だった ボク は さびしく かなしく なって きて、 しくしく と なきだして しまいました。
「ないて おどかしたって ダメ だよ」 と よく できる おおきな コ が バカ に する よう な、 にくみきった よう な コエ で いって、 うごくまい と する ボク を ミンナ で よって たかって 2 カイ に ひっぱって いこう と しました。 ボク は できる だけ いくまい と した けれども、 とうとう チカラマカセ に ひきずられて、 ハシゴダン を のぼらせられて しまいました。 そこ に ボク の すき な ウケモチ の センセイ の ヘヤ が ある の です。
 やがて その ヘヤ の ト を ジム が ノック しました。 ノック する とは はいって も いい か と ト を たたく こと なの です。 ナカ から は やさしく 「おはいり」 と いう センセイ の コエ が きこえました。 ボク は その ヘヤ に はいる とき ほど いや だ と おもった こと は またと ありません。
 ナニ か カキモノ を して いた センセイ は、 どやどや と はいって きた ボクタチ を みる と、 すこし おどろいた よう でした。 が、 オンナ の くせ に オトコ の よう に クビ の ところ で ぶつり と きった カミノケ を ミギ の テ で なであげながら、 イツモ の とおり の やさしい カオ を こちら に むけて、 ちょっと クビ を かしげた だけ で なんの ゴヨウ と いう フウ を しなさいました。 そう する と よく できる おおきな コ が マエ に でて、 ボク が ジム の エノグ を とった こと を くわしく センセイ に いいつけました。 センセイ は すこし くもった カオツキ を して マジメ に ミンナ の カオ や、 ハンブン なきかかって いる ボク の カオ を みくらべて いなさいました が、 ボク に 「それ は ホントウ です か」 と きかれました。 ホントウ なん だ けれども、 ボク が そんな いや な ヤツ だ と いう こと を、 どうしても ボク の すき な センセイ に しられる の が つらかった の です。 だから ボク は こたえる カワリ に ホントウ に なきだして しまいました。
 センセイ は しばらく ボク を みつめて いました が、 やがて セイト たち に むかって しずか に 「もう いって も よう ございます」 と いって、 ミンナ を かえして しまわれました。 セイト たち は すこし ものたらなそう に どやどや と シタ に おりて いって しまいました。
 センセイ は すこし の アイダ なんとも いわず に、 ボク の ほう も むかず に、 ジブン の テ の ツメ を みつめて いました が、 やがて しずか に たって きて、 ボク の カタ の ところ を だきすくめる よう に して 「エノグ は もう かえしました か」 と ちいさな コエ で おっしゃいました。 ボク は かえした こと を しっかり センセイ に しって もらいたい ので ふかぶか と うなずいて みせました。
「アナタ は ジブン の した こと を いや な こと だった と おもって います か」
 もう イチド そう センセイ が しずか に おっしゃった とき には、 ボク は もう たまりません でした。 ぶるぶる と ふるえて シカタ が ない クチビル を、 かみしめて も かみしめて も ナキゴエ が でて、 メ から は ナミダ が むやみ に ながれて くる の です。 もう センセイ に だかれた まま しんで しまいたい よう な ココロモチ に なって しまいました。
「アナタ は もう なく ん じゃ ない。 よく わかったら それ で いい から なく の を やめましょう、 ね。 ツギ の ジカン には キョウジョウ に でない でも よろしい から、 ワタシ の この オヘヤ に いらっしゃい。 しずか に して ここ に いらっしゃい。 ワタシ が キョウジョウ から かえる まで ここ に いらっしゃい よ。 いい」 と おっしゃりながら ボク を ナガイス に すわらせて、 その とき また ベンキョウ の カネ が なった ので、 ツクエ の ウエ の ショモツ を とりあげて、 ボク の ほう を みて いられました が、 2 カイ の マド まで たかく はいあがった ブドウヅル から、 ヒトフサ の セイヨウ ブドウ を もぎって、 しくしく と なきつづけて いた ボク の ヒザ の ウエ に それ を おいて、 しずか に ヘヤ を でて いきなさいました。
 イチジ がやがや と やかましかった セイト たち は ミンナ キョウジョウ に はいって、 キュウ に しんと する ほど アタリ が しずか に なりました。 ボク は さびしくって さびしくって シヨウ が ない ほど かなしく なりました。 あの くらい すき な センセイ を くるしめた か と おもう と、 ボク は ホントウ に わるい こと を して しまった と おもいました。 ブドウ など は とても たべる キ に なれない で、 いつまでも ないて いました。
 ふと ボク は カタ を かるく ゆすぶられて メ を さましました。 ボク は センセイ の ヘヤ で いつのまにか ナキネイリ を して いた と みえます。 すこし やせて セイ の たかい センセイ は、 エガオ を みせて ボク を みおろして いられました。 ボク は ねむった ため に キブン が よく なって イマ まで あった こと は わすれて しまって、 すこし はずかしそう に わらいかえしながら、 あわてて ヒザ の ウエ から すべりおちそう に なって いた ブドウ の フサ を つまみあげました が、 すぐ かなしい こと を おもいだして、 ワライ も なにも ひっこんで しまいました。
「そんな に かなしい カオ を しない でも よろしい。 もう ミンナ は かえって しまいました から、 アナタ も おかえりなさい。 そして アシタ は どんな こと が あって も ガッコウ に こなければ いけません よ。 アナタ の カオ を みない と ワタシ は かなしく おもいます よ。 きっと です よ」
 そう いって センセイ は ボク の カバン の ナカ に そっと ブドウ の フサ を いれて くださいました。 ボク は イツモ の よう に カイガンドオリ を、 ウミ を ながめたり フネ を ながめたり しながら、 つまらなく イエ に かえりました。 そして ブドウ を おいしく たべて しまいました。
 けれども ツギ の ヒ が くる と ボク は なかなか ガッコウ に いく キ には なれません でした。 オナカ が いたく なれば いい と おもったり、 ズツウ が すれば いい と おもったり した けれども、 その ヒ に かぎって ムシバ 1 ポン いたみ も しない の です。 しかたなし に いやいや ながら イエ は でました が、 ぶらぶら と かんがえながら あるきました。 どうしても ガッコウ の モン を はいる こと は できない よう に おもわれた の です。 けれども センセイ の ワカレ の とき の コトバ を おもいだす と、 ボク は センセイ の カオ だけ は なんと いって も みたくて シカタ が ありません でした。 ボク が いかなかったら センセイ は きっと かなしく おもわれる に ちがいない。 もう イチド センセイ の やさしい メ で みられたい。 ただ その ヒトコト が ある ばかり で ボク は ガッコウ の モン を くぐりました。
 そう したら どう でしょう、 まず ダイイチ に まちきって いた よう に ジム が とんで きて、 ボク の テ を にぎって くれました。 そして キノウ の こと なんか わすれて しまった よう に、 シンセツ に ボク の テ を ひいて、 どぎまぎ して いる ボク を センセイ の ヘヤ に つれて いく の です。 ボク は なんだか ワケ が わかりません でした。 ガッコウ に いったら ミンナ が トオク の ほう から ボク を みて 「みろ ドロボウ の ウソツキ の ニホンジン が きた」 と でも ワルクチ を いう だろう と おもって いた のに、 こんな ふう に される と キミ が わるい ほど でした。
 フタリ の アシオト を ききつけて か、 センセイ は ジム が ノック しない マエ に ト を あけて くださいました。 フタリ は ヘヤ の ナカ に はいりました。
「ジム、 アナタ は いい コ、 よく ワタシ の いった こと が わかって くれました ね。 ジム は もう アナタ から あやまって もらわなくって も いい と いって います。 フタリ は イマ から いい オトモダチ に なれば それ で いい ん です。 フタリ とも ジョウズ に アクシュ を なさい」 と センセイ は にこにこ しながら ボクタチ を むかいあわせました。 ボク は でも あんまり カッテ-すぎる よう で もじもじ して います と、 ジム は ぶらさげて いる ボク の テ を いそいそ と ひっぱりだして かたく にぎって くれました。 ボク は もう なんと いって この ウレシサ を あらわせば いい の か わからない で、 ただ はずかしく わらう ほか ありません でした。 ジム も キモチ よさそう に、 エガオ を して いました。 センセイ は にこにこ しながら ボク に、
「キノウ の ブドウ は おいしかった の」 と とわれました。 ボク は カオ を マッカ に して 「ええ」 と ハクジョウ する より シカタ が ありません でした。
「そんなら また あげましょう ね」
 そう いって、 センセイ は マッシロ な リンネル の キモノ に つつまれた カラダ を マド から のびださせて、 ブドウ の ヒトフサ を もぎとって、 まっしろい ヒダリ の テ の ウエ に コ の ふいた ムラサキイロ の フサ を のせて、 ほそながい ギンイロ の ハサミ で マンナカ から ぷつり と フタツ に きって、 ジム と ボク と に くださいました。 まっしろい テノヒラ に ムラサキイロ の ブドウ の ツブ が かさなって のって いた その ウツクシサ を ボク は イマ でも はっきり と おもいだす こと が できます。
 ボク は その とき から マエ より すこし いい コ に なり、 すこし ハニカミヤ で なくなった よう です。
 それにしても ボク の だいすき な あの いい センセイ は どこ に いかれた でしょう。 もう ニド とは あえない と しりながら、 ボク は イマ でも あの センセイ が いたら なあ と おもいます。 アキ に なる と いつでも ブドウ の フサ は ムラサキイロ に いろづいて うつくしく コ を ふきます けれども、 それ を うけた ダイリセキ の よう な しろい うつくしい テ は どこ にも みつかりません。

ある オンナ (ゼンペン)

 ある オンナ  (ゼンペン)  アリシマ タケオ  1  シンバシ を わたる とき、 ハッシャ を しらせる 2 バンメ の ベル が、 キリ と まで は いえない 9 ガツ の アサ の、 けむった クウキ に つつまれて きこえて きた。 ヨウコ は ヘイキ で それ ...