2013/07/04

ノビジタク

 ノビジタク

 シマザキ トウソン

 14~15 に なる タイガイ の イエ の ムスメ が そう で ある よう に、 ソデコ も その トシゴロ に なって みたら、 ニンギョウ の こと なぞ は しだいに わすれた よう に なった。
 ニンギョウ に きせる キモノ だ ジュバン だ と いって オオサワギ した コロ の ソデコ は、 イクツ その ため に ちいさな キモノ を つくり、 イクツ ちいさな ズキン なぞ を つくって、 それ を おさない ヒ の タノシミ と して きた か しれない。 マチ の オモチャヤ から ヤスモノ を かって きて すぐに クビ の とれた もの、 カオ が よごれ ハナ が かけ する うち に オバケ の よう に きみわるく なって すてて しまった もの―― ソデコ の ふるい ニンギョウ にも いろいろ あった。 その ナカ でも、 トウサン に つれられて シンサイ マエ の マルゼン へ いった とき に かって もらって きた ニンギョウ は、 いちばん ながく あった。 あれ は ドイツ の ほう から シンニ が ついた ばかり だ と いう イロイロ な オモチャ と イッショ に、 あの マルゼン の 2 カイ に ならべて あった もの で、 イコク の コドモ の ナリ ながら に あいらしく、 カクヤス で、 しかも ジョウブ に できて いた。 チャイロ な カミ を かぶった よう な オトコ の コ の ニンギョウ で、 それ を ねかせば メ を つぶり、 おこせば ぱっちり と かわいい メ を みひらいた。 ソデコ が あの ニンギョウ に はなしかける の は、 いきて いる コドモ に はなしかける の と ほとんど カワリ が ない くらい で あった。 それほど に すき で、 だき、 かかえ、 なで、 もちあるき、 マイニチ の よう に キモノ を きせなおし など して、 あの ニンギョウ の ため には ちいさな フトン や ちいさな マクラ まで も つくった。 ソデコ が カゼ でも ひいて ガッコウ を やすむ よう な ヒ には、 カノジョ の マクラモト に アシ を なげだし、 いつでも わらった よう な カオ を しながら オトギバナシ の アイテ に なって いた の も、 あの ニンギョウ だった。
「ソデコ さん、 おあそびなさい な」
と いって、 ヒトコロ は よく カノジョ の ところ へ あそび に かよって きた キンジョ の コムスメ も ある。 ミツコ さん と いって、 ヨウチエン へ でも あがろう と いう トシゴロ の コムスメ の よう に、 ヒタイ の ところ へ カミ を きりさげて いる コ だ。 ソデコ の ほう でも よく その ミツコ さん を み に いって、 ヒマ さえ あれば イッショ に オリガミ を たたんだり、 オテダマ を ついたり して あそんだ もの だ。 そういう とき の フタリ の アイテ は、 いつでも あの ニンギョウ だった。 そんな に ホウアイ の マト で あった もの が、 しだいに ソデコ から わすれられた よう に なって いった。 それ ばかり で なく、 ソデコ が ニンギョウ の こと なぞ を イゼン の よう に オオサワギ しなく なった コロ には、 ミツコ さん とも そう あそばなく なった。
 しかし、 ソデコ は まだ ようやく コウトウ ショウガク の 1 ガクネン を おわる か おわらない ぐらい の トシゴロ で あった。 カノジョ とて も ナニ か なし には いられなかった。 コドモ の すき な ソデコ は、 いつのまにか キンジョ の イエ から ベツ の コドモ を だいて きて、 ジブン の ヘヤ で あそばせる よう に なった。 カゾエドシ の フタツ に しか ならない オトコ の コ で ある が、 あの きかない キ の ミツコ さん に くらべたら、 これ は また なんと いう おとなしい もの だろう。 キンノスケ さん と いう ナマエ から して オトコ の コ-らしく、 シモブクレ の した その カオ に エミ の うかぶ とき は、 ちいさな エクボ が あらわれて、 あいらしかった。 それに、 この コ の よい こと には、 ソデコ の イウナリ に なった。 どうして あの すこしも じっと して いない で、 どうか する と ソデコ の テ に おえない こと が おおかった ミツコ さん を あそばせる とは オオチガイ だ。 ソデコ は ニンギョウ を だく よう に キンノスケ さん を だいて、 どこ へ でも すき な ところ へ つれて ゆく こと が できた。 ジブン の ソバ に おいて あそばせたければ、 それ も できた。
 この キンノスケ さん は ショウガツ ウマレ の フタツ でも、 まだ いくらも ヒト の コトバ を しらない。 ツボミ の よう な その クチビル から は 「ウマウマ」 ぐらい しか もれて こない。 ハハオヤ イガイ の したしい モノ を よぶ にも、 「チャアチャン」 と しか まだ いいえなかった。 こんな おさない コドモ が ソデコ の イエ へ つれられて きて みる と、 ソデコ の トウサン が いる、 フタリ ある ニイサン たち も いる、 しかし キンノスケ さん は そういう ヒトタチ まで も 「チャアチャン」 と いって よぶ わけ では なかった。 やはり この おさない コドモ の よびかける コトバ は したしい モノ に かぎられて いた。 もともと キンノスケ さん を ソデコ の イエ へ、 はじめて だいて きて みせた の は ゲジョ の オハツ で、 オハツ の コボンノウ と きたら、 ソデコ に おとらなかった。
「チャアチャン」
 それ が チャノマ へ ソデコ を さがし に ゆく とき の コドモ の コエ だ。
「チャアチャン」
 それ が また ダイドコロ で はたらいて いる オハツ を さがす とき の コドモ の コエ でも ある の だ。 キンノスケ さん は、 まだ よちよち した おぼつかない アシモト で、 チャノマ と ダイドコロ の アイダ を いったり きたり して、 ソデコ や オハツ の カタ に つかまったり、 フタリ の スソ に まといついたり して たわむれた。
 3 ガツ の ユキ が ワタ の よう に マチ へ きて、 ヒトバン の うち に みごと に とけて ゆく コロ には、 ソデコ の イエ では もう ミツコ さん を よぶ コエ が おこらなかった。 それ が 「キンノスケ さん、 キンノスケ さん」 に かわった。
「ソデコ さん、 どうして おあそび に ならない ん です か。 ワタシ を おわすれ に なった ん です か」
 キンジョ の イエ の 2 カイ の マド から、 ミツコ さん の コエ が きこえて いた。 その ませた、 コムスメ-らしい コエ は、 ハルサキ の マチ の クウキ に たかく ひびけて きこえて いた。 ちょうど ソデコ は ある コウトウ ジョガッコウ への ジュケン の ジュンビ に いそがしい コロ で、 おそく なって イマ まで の ガッコウ から かえって きた とき に、 その ミツコ さん の コエ を きいた。 カノジョ は べつに わるい カオ も せず、 ただ それ を ききながした まま で イエ へ もどって みる と、 チャノマ の ショウジ の ワキ には オハツ が ハリシゴト しながら キンノスケ さん を あそばせて いた。
 どうした ハズミ から か、 その ヒ、 ソデコ は キンノスケ さん を おこらして しまった。 コドモ は ソデコ の ほう へ こない で、 オハツ の ほう へ ばかり いった。
「チャアチャン」
「はあい―― キンノスケ さん」
 オハツ と コドモ は、 ソデコ の マエ で、 こんな コトバ を かわして いた。 コドモ から よびかけられる たび に、 オハツ は 「まあ、 かわいい」 と いう ヨウス を して、 おなじ こと を ナンド も ナンド も くりかえした。
「チャアチャン」
「はあい―― キンノスケ さん」
「チャアチャン」
「はあい―― キンノスケ さん」
 あまり オハツ の コエ が たかかった ので、 そこ へ ソデコ の トウサン が エガオ を みせた。
「えらい サワギ だなあ。 オレ は ジブン の ヘヤ で きいて いた が、 まるで、 オマエタチ の は カケアイ じゃ ない か」
「ダンナサン」 と オハツ は ジブン でも おかしい よう に わらって、 やがて ソデコ と キンノスケ さん の カオ を みくらべながら、 「こんな に キンノスケ さん は ワタシ に ばかり ついて しまって…… ソデコ さん と キンノスケ さん とは、 キョウ は ケンカ です」
 この 「ケンカ」 が トウサン を わらわせた。
 ソデコ は テモチ ブサタ で、 オハツ の ソバ を はなれない で いる コドモ の カオ を みまもった。 オンナ にも して みたい ほど の イロ の しろい コ で、 やさしい マユ、 すこし ひらいた クチビル、 みじかい ウブゲ の まま の カミ、 こどもらしい オデコ―― すべて あいらしかった。 なんとなく ソデコ に むかって すねて いる よう な ムジャキサ は、 いっそう その こどもらしい ヨウス を あいらしく みせた。 こんな イジラシサ は、 あの セイメイ の ない ニンギョウ には なかった もの だ。
「なんと いって も、 キンノスケ さん は ソデ ちゃん の オニンギョウ さん だね」
と いって トウサン は わらった。
 そういう ソデコ の トウサン は ヤモメ で、 チュウネン で ツレアイ に しにわかれた ヒト に ある よう に、 オトコ の テ ヒトツ で どうにか こうにか ソデコ たち を おおきく して きた。 この トウサン は、 キンノスケ さん を ニンギョウ アツカイ に する ソデコ の こと を わらえなかった。 なぜかなら、 そういう ソデコ が、 じつは トウサン の ニンギョウ ムスメ で あった から で。 トウサン は、 ソデコ の ため に ニンギョウ まで も ジブン で みたて、 おなじ マルゼン の 2 カイ に あった ドイツ-デキ の ニンギョウ の ナカ でも ジブン の キ に いった よう な もの を もとめて、 それ を ソデコ に あてがった。 ちょうど ソデコ が あの ニンギョウ の ため に イクツ か の ちいさな キモノ を つくって きせた よう に、 トウサン は また ソデコ の ため に ジブン の コノミ に よった もの を えらんで きせて いた。
「ソデコ さん は かわいそう です。 イマ の うち に あかい ハデ な もの でも きせなかったら、 いつ きせる とき が ある ん です」
 こんな こと を いって ソデコ を かばう よう に する フジン の キャク なぞ が ない でも なかった が、 しかし トウサン は ききいれなかった。 ムスメ の ナリ は なるべく セイソ に。 その ジブン の コノミ から トウサン は わりだして、 ソデコ の きる もの でも、 モチモノ でも、 すべて ジブン で みたてて やった。 そして、 いつまでも ジブン の ニンギョウ ムスメ に して おきたかった。 いつまでも コドモ で、 ジブン の イウナリ に、 ジユウ に なる もの の よう に……
 ある アサ、 オハツ は ダイドコロ の ナガシモト に はたらいて いた。 そこ へ ソデコ が きて たった。 ソデコ は シキフ を かかえた まま モノ も いわない で、 あおざめた カオ を して いた。
「ソデコ さん、 どうした の」
 サイショ の うち こそ オハツ も フシギ そう に して いた が、 ソデコ から シキフ を うけとって みて、 すぐに その イミ を よんだ。 オハツ は タイカク も おおきく、 チカラ も ある オンナ で あった から、 ソデコ の ふるえる カラダ へ ウシロ から テ を かけて、 ハンブン だきかかえる よう に チャノマ の ほう へ つれて いった。 その ヘヤ の カタスミ に ソデコ を ねかした。
「そんな に シンパイ しない でも いい ん です よ。 ワタシ が よい よう に して あげる から―― ダレ でも ある こと なん だ から―― キョウ は ガッコウ を おやすみなさい ね」
と オハツ は ソデコ の マクラモト で いった。
 オバアサン も なく、 カアサン も なく、 ダレ も いって きかせる モノ の ない よう な カテイ で、 うまれて はじめて ソデコ の ケイケン する よう な こと が、 おもいがけない とき に やって きた。 めった に ガッコウ を やすんだ こと の ない ムスメ が、 しかも ジュケン マエ で いそがしがって いる とき で あった。 3 ガツ-らしい ハル の アサヒ が チャノマ の ショウジ に さして くる コロ には、 トウサン は ソデコ を み に きた。 その ヨウス を オハツ に といたずねた。
「ええ、 すこし……」
と オハツ は アイマイ な ヘンジ ばかり した。
 ソデコ は モノ も いわず に ねぐるしがって いた。 そこ へ トウサン が シンパイ して のぞき に くる たび に、 シマイ には オハツ の ほう でも かくしきれなかった。
「ダンナサン、 ソデコ さん の は ビョウキ では ありません」
 それ を きく と、 トウサン は ハンシン ハンギ の まま で、 ムスメ の ソバ を はなれた。 ヒゴロ カアサン の ヤク まで かねて キモノ の セワ から ナニ から イッサイ を ひきうけて いる トウサン でも、 その ヒ ばかり は まったく トウサン の ハタケ に ない こと で あった。 オトコオヤ の カナシサ には、 トウサン は それ イジョウ の こと を オハツ に たずねる こと も できなかった。
「もう ナンジ だろう」
と いって トウサン が チャノマ に かかって いる ハシラドケイ を み に きた コロ は、 その トケイ の ハリ が 10 ジ を さして いた。
「オヒル には ニイサン たち も かえって くる な」 と トウサン は チャノマ の ナカ を みまわして いった。 「オハツ、 オマエ に たのんで おく がね、 ミンナ ガッコウ から かえって きて きいたら、 そう いって おくれ―― キョウ は トウサン が ソデ ちゃん を やすませた から って―― もしか したら、 すこし アタマ が いたい から って」
 トウサン は ソデコ の ニイサン たち が ガッコウ から かえって くる バアイ を ヨソウ して、 ムスメ の ため に いろいろ コウジツ を かんがえた。
 ヒル すこし マエ には もう フタリ の ニイサン が ゼンゴ して イセイ よく かえって きた。 ヒトリ の ニイサン の ほう は ソデコ の ねて いる の を みる と だまって いなかった。
「おい、 どうした ん だい」
 その ケンマク に おそれて、 ソデコ は なきだしたい ばかり に なった。 そこ へ オハツ が とんで きて、 いろいろ イイワケ を した が、 なにも しらない ニイサン は ワケ の わからない と いう カオツキ で、 しきり に ソデコ を せめた。
「アタマ が いたい ぐらい で ガッコウ を やすむ なんて、 そんな ヤツ が ある かい。 ヨワムシ め」
「まあ、 そんな ひどい こと を いって、」 と オハツ は ニイサン を なだめる よう に した。 「ソデコ さん は ワタシ が やすませた ん です よ―― キョウ は ワタシ が やすませた ん です よ」
 フシギ な チンモク が つづいた。 トウサン で さえ それ を ときあかす こと が できなかった。 ただただ トウサン は だまって、 ソデコ の ねて いる ヘヤ の ソト の ロウカ を いったり きたり した。 あだかも ソデコ の コドモ の ヒ が もはや オワリ を つげた か の よう に―― いつまでも そう トウサン の ニンギョウ ムスメ では いない よう な、 ある まちうけた ヒ が、 とうとう トウサン の メノマエ へ やって きた か の よう に。
「オハツ、 ソデ ちゃん の こと は オマエ に よく たのんだ ぜ」
 トウサン は それ だけ の こと を いいにくそう に いって、 また ジブン の ヘヤ の ほう へ もどって いった。 こんな なやましい、 いう に いわれぬ イチニチ を ソデコ は トコ の ウエ に おくった。 ユウガタ には オオゼイ の ちいさな コドモ の コエ に まじって レイ の ミツコ さん の かんだかい コエ も イエ の ソト に ひびいた が、 ソデコ は それ を ねながら きいて いた。 ニワ の ワカクサ の メ も ヒトバン の うち に のびる よう な あたたかい ハル の ヨイ ながら に かなしい オモイ は、 ちょうど ソノママ の よう に ソデコ の ちいさな ムネ を なやましく した。
 ヨクジツ から ソデコ は オハツ に おしえられた とおり に して、 レイ の よう に ガッコウ へ でかけよう と した。 その トシ の 3 ガツ に うけそこなったら また 1 ネン またねば ならない よう な、 ダイジ な ジュケン の ジュンビ が カノジョ を まって いた。 その とき、 オハツ は ジブン が オンナ に なった とき の こと を いいだして、
「ワタシ は 17 の とき でした よ。 そんな に ジブン が おそかった もの です から ね。 もっと はやく アナタ に はなして あげる と よかった。 そのくせ ワタシ は はなそう はなそう と おもいながら、 まだ ソデコ さん には はやかろう と おもって、 イマ まで いわず に あった ん です よ…… つい、 ジブン が おそかった もの です から ね…… ガッコウ の タイソウ や なんか は、 その アイダ、 やすんだ ほう が いい ん です よ」
 こんな ハナシ を ソデコ に して きかせた。
 フアン やら、 シンパイ やら、 おもいだした ばかり でも キマリ の わるく、 カオ の あかく なる よう な オモイ で、 ソデコ は ガッコウ への ミチ を たどった。 この キュウゲキ な ヘンカ―― それ を しって しまえば、 シンパイ も なにも なく、 ありふれた こと だ と いう この ヘンカ を、 なんの ユエ で ある の か、 なんの ため で ある の か、 それ を ソデコ は しりたかった。 ジジツジョウ の こまかい チュウイ を のこりなく オハツ から おしえられた に して も、 こんな とき に カアサン でも いきて いて、 その ヒザ に だかれたら、 と しきり に こいしく おもった。 イツモ の よう に ガッコウ へ いって みる と、 ソデコ は もう イゼン の ジブン では なかった。 ことごとに ジユウ を うしなった よう で、 アタリ が せまかった。 キノウ まで の アソビ の トモダチ から は にわか に とおのいて、 オオゼイ の トモダチ が センセイ たち と ナワトビ に マリナゲ に キギ する サマ を ウンドウジョウ の スミ に さびしく ながめつくした。
 それから 1 シュウカン ばかり アト に なって、 ようやく ソデコ は アタリマエ の カラダ に かえる こと が できた。 あふれて くる もの は、 すべて きよい。 あだかも ハル の ユキ に ぬれて かえって のびる チカラ を ます ワカクサ の よう に、 シトナリザカリ の ソデコ は いっそう いきいき と した ケンコウ を カイフク した。
「まあ、 よかった」
と いって、 アタリ を みまわした とき の ソデコ は なにがなし に かなしい オモイ に うたれた。 その カナシミ は おさない ヒ に ワカレ を つげて ゆく カナシミ で あった。 カノジョ は もはや イマ まで の よう な メ で もって、 キンジョ の コドモ たち を みる こと も できなかった。 あの ミツコ さん なぞ が くろい ふさふさ した カミノケ を ふって、 さも ムジャキ に、 イエ の マワリ を かけまわって いる の を みる と、 ソデコ は ジブン でも、 もう イチド なにも しらず に ねむって みたい と おもった。
 オトコ と オンナ の ソウイ が、 イマ は あきらか に ソデコ に みえて きた。 さも ノンキ そう な ニイサン たち と ちがって、 カノジョ は ジブン を まもらねば ならなかった。 オトナ の セカイ の こと は すっかり わかって しまった とは いえない まで も、 すくなくも それ を のぞいて みた。 その ココロ から、 ソデコ は いいあらわしがたい オドロキ をも さそわれた。
 ソデコ の カアサン は、 カノジョ が うまれる と まもなく はげしい サンゴ の シュッケツ で なくなった ヒト だ。 その カアサン が なくなる とき には、 ヒト の カラダ に さしたり ひいたり する シオ が 3 マイ も 4 マイ も の カアサン の ヒトエ を シズク の よう に した。 それほど おそろしい イキオイ で カアサン から ひいて いった シオ が ――15 ネン の ノチ に なって―― あの カアサン と セイメイ の トリカエッコ を した よう な ニンギョウ ムスメ に さして きた。 ソラ に ある ツキ が みちたり かけたり する たび に、 それ と コキュウ を あわせる よう な、 キセキ で ない キセキ は、 まだ ソデコ には よく のみこめなかった。 それ が ヒト の いう よう に キソクテキ に あふれて こよう とは、 しんじられ も しなかった。 ユエ も ない フアン は まだ つづいて いて、 たえず カノジョ を おびやかした。 ソデコ は、 その シンパイ から、 コドモ と オトナ の フタツ の セカイ の トチュウ の ミチバタ に いきづき ふるえて いた。
 コドモ の すき な オハツ は あいかわらず キンジョ の イエ から キンノスケ さん を だいて きた。 がんぜない コドモ は、 イゼン にも まさる かわいげ な ヒョウジョウ を みせて、 ソデコ の カタ に すがったり、 その アト を おったり した。
「チャアチャン」
 したしげ に よぶ キンノスケ さん の コエ に カワリ は なかった。 しかし ソデコ は もう イゼン と おなじ よう には この オトコ の コ を だけなかった。

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