2014/01/14

ゲンダン

 ゲンダン

 コウダ ロハン

 こう あつく なって は ミナサンガタ が あるいは たかい ヤマ に ゆかれたり、 あるいは すずしい ウミベ に ゆかれたり しまして、 そうして この なやましい ヒ を ジュウジツ した セイカツ の イチブブン と して おくろう と なさる の も ごもっとも です。 が、 もう おいくちて しまえば ヤマ へも ゆかれず、 ウミ へも でられない で います が、 そのかわり コニワ の アサツユ、 エンガワ の ユウカゼ ぐらい に マンゾク して、 ブナン に ヘイワ な ヒ を すごして ゆける と いう もの で、 まあ トシヨリ は そこいら で おちついて ゆかなければ ならない の が シゼン なの です。 ヤマ へ のぼる の も ごく いい こと で あります。 シンザン に はいり、 コウザン、 ケンザン なんぞ へ のぼる と いう こと に なる と、 イッシュ の シンピテキ な キョウミ も おおい こと です。 そのかわり また キケン も しょうじます わけ で、 おそろしい ハナシ が つたえられて おります。 ウミ も また おなじ こと です。 イマ おはなし いたそう と いう の は ウミ の ハナシ です が、 サキ に ヤマ の ハナシ を イチド もうして おきます。

 それ は セイレキ 1865 ネン の 7 ガツ の 13 ニチ の ゴゼン 5 ジ ハン に ツェルマット と いう ところ から シュッパツ して、 なだかい アルプス の マッターホルン を セカイ はじまって イライ サイショ に セイフク いたしましょう と こころざし、 その ヨク 10 ヨッカ の ヨアケマエ から ホネ を おって、 そうして ゴゴ 1 ジ 40 プン に チョウジョウ へ つきました の が、 あの なだかい アルプス トウハンキ の チョシャ の ウィンパー イッコウ で ありました。 その イッコウ 8 ニン が アルプス の マッターホルン を はじめて セイフク した ので、 それから だんだん と アルプス も ひらけた よう な わけ です。
 それ は ミナサマ が マッターホルン の セイフク の キコウ に よって ゴショウチ の とおり で あります から、 イマ ワタクシ が もうさなくて も つとに ゴガテン の こと です が、 さて その とき に、 その マエ から タ の イッコウ すなわち イタリー の カレル と いう ヒト の イチグン が やはり そこ を セイフク しよう と して、 リョウシャ は しぜん と キョウソウ の カタチ に なって いた の で あります。 しかし カレル の ほう は フコウ に して ミチ の トリカタ が ちがって いた ため に、 ウィンパー の イッコウ には まけて しまった の で あります。 ウィンパー の イッコウ は のぼる とき には、 クロス、 それから ツギ に トシ を とった ほう の ペーテル、 それから その セガレ が フタリ、 それから フランシス ダグラス-キョウ と いう これ は ミブン の ある ヒト です。 それから ハドウ、 それから ハドス、 それから ウィンパー と いう の が いちばん シマイ で、 つまり 8 ニン が その ジュンジョ で のぼりました。
 10 ヨッカ の 1 ジ 40 プン に とうとう さしも の おそろしい マッターホルン の チョウジョウ、 テン にも とどく よう な チョウジョウ へ のぼりえて おおいに よろこんで、 それから ゲザン に かかりました。 ゲザン に かかる とき には、 いちばん サキ へ クロス、 その ツギ が ハドウ、 その ツギ が ハドス、 それから フランシス ダグラス-キョウ、 それから トシ を とった ところ の ペーテル、 いちばん シマイ が ウィンパー、 それ で だんだん おりて きた の で あります が、 それ だけ の ゼンゴ ミゾウ の ダイセイコウ を おさめえた 8 ニン は、 ノボリ に くらべて は なお イチバイ おそろしい ヒョウセツ の キケン の ミチ を ヨウジン-ぶかく たどりました の です。 ところが、 ダイ 2 バンメ の ハドウ、 それ は すこし ヤマ の ケイケン が たりなかった せい も ありましょう し、 また ヒロウ した せい も ありましたろう し、 いや、 むしろ ウンメイ の せい と もうしたい こと で、 あやまって すべって、 いちばん サキ に いた クロス へ ぶつかりました。 そう する と、 ユキ や コオリ の おおって いる アシガカリ も ない よう な ケンシュン の ところ で、 そういう こと が おこった ので、 たちまち クロス は ミ を さらわれ、 フタリ は ヒトツ に なって おちて ゆきました わけ。 あらかじめ ロープ を もって メイメイ の ミ を つないで、 ヒトリ が おちて も タ が ふみとどまり、 そして ココ の キケン を すくう よう に して あった の で あります けれども、 なんせ ゼッペキ の ところ で おちかかった の です から たまりません、 フタリ に まけて ダイ 3 バンメ も おちて ゆく。 それから フランシス ダグラス-キョウ は 4 バンメ に いた の です が、 3 ニン の シタ へ おちて ゆく イキオイ で、 この ヒト も シタ へ つれて ゆかれました。 ダグラス-キョウ と アト の 4 ニン との アイダ で ロープ は ぴんと はられました。 4 ニン は うんと ふみこらえました。 おちる 4 ニン と こらえる 4 ニン との アイダ で、 ロープ は チカラ たらず して ぷつり と きれて しまいました。 ちょうど ゴゴ 3 ジ の こと で ありました が、 マエ の 4 ニン は 4000 ジャク ばかり の ヒョウセツ の ところ を サカオトシ に ラッカ した の です。 アト の ヒト は そこ へ のこった けれども、 みるみる ジブン たち の イッコウ の ハンブン は サカオトシ に なって ふかい ふかい タニソコ へ おちて ゆく の を メ に した その ココロモチ は どんな でしたろう。 それで ウエ に のこった モノ は キョウジン の ごとく コウフン し、 シニン の ごとく ゼツボウ し、 テアシ も うごかせぬ よう に なった けれども、 さて ある べき では ありませぬ から、 ジブン たち も コンド は すべって しぬ ばかり か、 フソク の ウンメイ に のぞんで いる ミ と おもいながら だんだん おりて まいりまして、 そうして ようやく ゴゴ の 6 ジ-ゴロ に いくらか キケン の すくない ところ まで おりて きました。
 おりて は きました が、 つい サッキ まで イッショ に いた ヒトビト が もう ワケ も わからぬ ヤマ の マノテ に さらわれて しまった と おもう と、 フシギ な シンリ ジョウタイ に なって いた に ソウイ ありません。 で、 ワレワレ は そういう バアイ へ いった こと が なくて、 ただ ハナシ のみ を きいた だけ では、 それら の ヒト の ココロ の ウチ が どんな もの で あったろう か と いう こと は、 まず ほとんど ソウゾウ できぬ の で ありまする が、 その ウィンパー の しるした もの に よりまする と、 その とき ユウガタ 6 ジ-ゴロ です、 ペーテル イチゾク の モノ は ヤマノボリ に なれて いる ヒト です が、 その ヒトリ が ふと みる と いう と、 リスカン と いう ほう に、 ぼうっと した アーチ の よう な もの が みえました ので、 はてな と メ を とめて おりまする と、 ホカ の モノ も その みて いる ほう を みました。 すると やがて その アーチ の ところ へ セイヨウ ショコク の ヒト に とって は トウヨウ の ワレワレ が おもう の とは ちがった カンジョウ を もつ ところ の ジュウジカ の カタチ が、 それ も ちいさい の では ない、 おおきな ジュウジカ の カタチ が フタツ、 ありあり クウチュウ に みえました。 それで ミナ も ナニ か コノヨ の カンジ で ない カンジ を もって それ を みました、 と しるして ありまする。 それ が ヒトリ みた の では ありませぬ、 のこって いた ヒト に ミナ みえた と もうす の です。 ジュウジカ は ワレワレ の ゴリン ノ トウ ドウヨウ な もの です。 それ は ときに ヤマ の キショウ で もって ナニ か の カタチ が みえる こと も ある もの で あります が、 とにかく イマ の サキ まで いきて おった イッコウ の モノ が なくなって、 そうして その アト へ もって きて 4 ニン が ミナ そういう ジュウジカ を みた、 それ も ヒトリ フタリ に みえた の で なく、 4 ニン に みえた の でした。 ヤマ には よく ジブン の カラダ の カゲ が コウセン の なげられる ジョウタイ に よって、 ムコウガワ へ あらわれる こと が ありまする。 4 ニン の ウチ には そういう ゲンエイ か と おもった モノ も あった でしょう、 そこで ジブン たち が テ を うごかしたり カラダ を うごかして みた ところ が、 それ には なんら の カンケイ が なかった と もうします。
 これ で この ハナシ は オシマイ に いたします。 ふるい キョウモン の コトバ に、 ココロ は たくみ なる エシ の ごとし、 と ございます。 なんとなく おもいうかめらるる コトバ では ござりませぬ か。

 さて おはなし いたします の は、 ジブン が ウオツリ を たのしんで おりました コロ、 ある センパイ から うけたまわりました オハナシ です。 トクガワ-キ も まだ ひどく スエ に ならない ジブン の こと で ございます。 エド は ホンジョ の カタ に すんで おられました ヒト で―― ホンジョ と いう ところ は あまり イチ の たかく ない ブシ ども が おおく いた ところ で、 よく ホンジョ の コッパタモト など と エド の コトワザ で もうした くらい で、 1000 ゴク と まで は ならない よう な ナンビャッコク と いう よう な ちいさな ミブン の ヒトタチ が すんで おりました。 これ も やはり そういう ミブン の ヒト で、 モノゴト が よく できる ので もって、 イットキ は ヤク-づいて おりました。 ヤク-づいて おりますれば、 つまり シュッセ の ミチ も ひらけて、 よろしい わけ でした が、 どうも ヨノナカ と いう もの は むずかしい もの で、 その ヒト が よい から シュッセ する と いう ふう には きまって いない もの で、 かえって ホカ の モノ の ソネミ や ニクミ をも うけまして、 そうして ヤク を とりあげられまする、 そう する と たいがい コブシン と いう の に はいる。 でる クイ が うたれて すんで オコブシン、 など と もうしまして、 コブシンイリ と いう の は、 つまり ヒヤク に なった と いう ほど の イミ に なります。 この ヒト も よい ヒト で あった けれども コブシンイリ に なって、 コブシン に なって みれば ヒマ な もの です から、 ゴヨウ は ほとんど ない ので、 ツリ を タノシミ に して おりました。 べつに クラシ に こまる わけ じゃ なし、 おごり も いたさず、 ヘンクツ でも なく、 モノ は よく わかる、 オトコ も よし、 ダレ が メ にも よい ヒト。 そういう ヒト でした から、 タ の ヒト に メンドウ な カンケイ なんか を およぼさない ツリ を たのしんで いた の は ごく ケッコウ な オハナシ でした。
 そこで この ヒト、 ヒマグアイ さえ よければ ツリ に でて おりました。 カンダガワ の ほう に フナヤド が あって、 ヒドリ すなわち ヤクソク の ヒ には センドウ が ホンジョ-ガワ の ほう に フネ を もって きて いる から、 そこ から その フネ に のって、 そうして ツリ に でて ゆく。 かえる とき も フネ から じきに ホンジョ-ガワ に あがって、 ジブン の ヤシキ へ ゆく、 まことに ツゴウ よく なって おりました。 そして シオ の よい とき には マイニチ の よう に ケイズ を つって おりました。 ケイズ と もうします と、 ワタクシ が エド ナマリ を いう もの と おおもい に なる カタ も ありましょう が、 イマ は ミナサマ カイズ カイズ と おっしゃいます が、 カイズ は ナマリ で、 ケイズ が ホントウ です。 ケイズ を いえば タイ の ウチ、 と いう ので、 ケイズダイ を りゃくして ケイズ と いう くろい タイ で、 あの エビスサマ が だいて いらっしゃる もの です。 いや、 かよう に もうします と、 エビスサマ の だいて いらっしゃる の は あかい タイ では ない か、 ヘン な こと ばかり いう ヒト だ と、 また しかられます か しれません が、 これ は ヤ ヒツダイ と もうす ハクブツ の センセイ が もうされた こと です。 だいいち エビスサマ が もって いられる よう な ああいう サオ では あかい タイ は つりませぬ もの です。 クロダイ なら ああいう サオ で ちょうど つれます の です。 ツリザオ の ダン に なります ので、 ヨケイ な こと です が ちょっと もうしそえます。
 ある ヒ の こと、 この ヒト が レイ の ごとく フネ に のって でました。 センドウ の キチ と いう の は もう 50 すぎて、 センドウ の トシヨリ なぞ と いう もの は キャク が よろこばない もん で あります が、 この ヒト は なにも そう あせって サカナ を むやみ に とろう と いう の では なし、 キチ と いう の は トシ は とって いる けれども、 まだ それでも そんな に ぼけて いる ほど トシ を とって いる の じゃ なし、 モノ は いろいろ よく しって いる し、 この ヒト は キチ を よい センドウ と して しじゅう つかって いた の です。 ツリセンドウ と いう もの は ウオツリ の シナンバン か アンナイニン の よう に おもう カタ も ある かも しれませぬ けれども、 がんらい そういう もの じゃ ない ので、 ただ ウオツリ を して あそぶ ヒト の アイテ に なる まで で、 つまり キャク を あつかう もの なん です から、 ながく センドウ を して いた モノ なんぞ と いう もの は よく ヒト を のみこみ、 そうして ヒト が ユカイ と おもう こと、 フユカイ と おもう こと を のみこんで、 ユカイ と おもう よう に ジカン を おくらせる こと が できれば、 それ が よい センドウ です。 アミセンドウ なぞ と いう もの は なお の こと そう です。 アミ は オキャク ジシン うつ ヒト も ある けれども まずは アミウチ が うって サカナ を とる の です。 と いって サカナ を とって クラシ を たてる リョウシ とは ちがう。 キャク に サカナ を あたえる こと を おおく する より、 キャク に アミリョウ に でた と いう キョウミ を あたえる の が シュ です。 ですから アミウチ だの ツリセンドウ だの と いう もの は、 シャレ が わからない よう な モノ じゃ それ に なって いない。 ユウカク も ゲイシャ の カオ を みれば シャミ を ひき ウタ を うたわせ、 オシャク には センス を とって たって まわせる、 むやみ に おおく カブ を テイキョウ させる の が よい と おもって いる よう な ヒト は、 まだ まるで アソビ を しらない の と おなじく、 サカナ に ばかり こだわって いる の は、 いわゆる ニサイキャク です。 と いって ツリ に でて つらなくて も よい と いう リクツ は ありません が、 あこぎ に センドウ を つかって ムリ に でも サカナ を とろう と いう よう な ところ は とおりこして いる ヒト です から、 ロウセンドウ の キチ でも、 かえって それ を よい と して いる の でした。
 ケイズツリ と いう の は ツリ の ナカ でも また ホカ の ツリ と ヨウス が ちがう。 なぜか と いいます と、 ホカ の、 たとえば キスツリ なんぞ と いう の は タチコミ と いって ミズ の ナカ へ はいって いたり、 あるいは キャタツツリ と いって たかい キャタツ を ウミ の ナカ へ たて、 その ウエ に あがって つる ので、 サカナ の オトオリ を まって いる の です から、 これ を わるく いう モノ は コジキヅリ なんぞ と いう くらい で、 サカナ が とおって くれなければ シヨウ が ない、 みじめ な ザマ だ から です。 それから また ボラツリ なんぞ と いう もの は、 ボラ と いう サカナ が あまり ジョウトウ の サカナ で ない、 ムレウオ です から とれる とき は おもたくて シカタ が ない、 になわなくて は もてない ほど とれたり なんぞ する うえ に、 これ を つる とき には フネ の トモ の ほう へ でまして、 そうして おおきな ながい イタゴ や カジ なんぞ を フネ の コベリ から コベリ へ わたして、 それ に コシ を かけて、 カゼ の フキサラシ に ヤタイチ の キャク より わるい カッコウ を して つる の で ありまする から、 もう アソビ では ありません、 ホンショク の リョウシ みたい な スガタ に なって しまって、 まことに あわれ な もの で あります。 が、 それ は また それ で ちょうど そういう チョウシアイ の こと の すき な ライラク な ヒト が、 ボラツリ は ゴウソウ で よい など と ショウビ する ツリ で あります。 が、 ワチュウ の ヒト は そんな ツリ は しませぬ。 ケイズツリ と いう の は そういう の と ちがいまして、 その ジブン、 エド の マエ の サカナ は ずっと オオカワ へ おくふかく はいりました もの で ありまして、 エイタイバシ シン オオハシ より カミ の ほう でも つった もの です。 それ です から ゼンニョ が クドク の ため に ジゾウソン の ゴエイ を すった ショウシヘン を リョウゴクバシ の ウエ から はらはら と ながす、 それ が ケイズ の メダマ へ かぶさる など と いう イマ から は ソウゾウ も できない よう な ウガチ さえ ありました くらい です。
 で、 カワ の ケイズツリ は カワ の ふかい ところ で つる バアイ は テヅリ を ひいた もの で、 サオ など を ふりまわして つかわず とも すむ よう な わけ でした。 ながい ツリイト を ワッカ から だして、 そうして ニホンユビ で アタリ を かんがえて つる。 つかれた とき には フネ の コベリ へ もって いって キリ を たてて、 その キリ の ウエ に クジラ の ヒゲ を すえて、 その ヒゲ に もたせた マタ に イト を くいこませて やすむ。 これ を 「イトカケ」 と もうしました。 ノチ には シンポ して、 その クジラ の ヒゲ の ウエ へ スズ なんぞ つける よう に なり、 ミャクスズ と もうす よう に なりました。 ミャクスズ は イマ も もちいられて います。 しかし イマ では カワ の ヨウス が まったく ちがいまして、 オオカワ の ツリ は ゼンブ なくなり、 ケイズ の ミャクヅリ なんぞ と いう もの は ドナタ も ゴショウチ ない よう に なりました。 ただし その ジブン でも ミャクヅリ じゃ そう つれない。 そうして マイニチ でて ホンジョ から すぐ ハナ の サキ の オオカワ の エイタイ の カミ アタリ で もって つって いて は キョウ も つきる わけ です から、 ワチュウ の ヒト は、 カワ の ミャクヅリ で なく ウミ の サオヅリ を たのしみました。 サオヅリ にも いろいろ ありまして、 メイジ の スエゴロ は ハタキ なんぞ いう ツリ も ありました。 これ は フネ の ウエ に たって いて、 オダイバ に うちつける ナミ の あれくるう よう な ところ へ ハリ を ほうって いれて つる の です。 つよい ミナミ に ふかれながら、 ランセキ に あたる ナミ の しらあわだつ ナカ へ サオ を ふって エサ を うちこむ の です から、 つれる こと は つれて も ずいぶん ロウドウテキ の ツリ で あります。 そんな ツリ は その ジブン には なかった、 オダイバ も なかった の で ある。 それから また イマ は ドウリュウサク なんぞ で ながして つる ナガシヅリ も あります が、 これ も なかなか くたびれる ツリ で あります。 ツリ は どうも サカナ を とろう と する サンマイ に なります と、 ジョウヒン でも なく、 アソビ も くるしく なる よう で ございます。
 そんな ツリ は ふるい ジブン には なくて、 ミヨ の ウチ だ とか ミヨガラミ で つる の を ミヨヅリ と もうしました。 これ は ウミ の ナカ に おのずから ミズ の ながれる スジ が あります から、 その スジ を たよって フネ を シオナリ に ちゃんと とめまして、 オキャク は ショウゲン ――つまり フネ の カシラ の ほう から の ダイイチ の マ―― に ムコウ を むいて しゃんと すわって、 そうして ツリザオ を ミギ と ヒダリ と へ ハチ の ジ の よう に ふりこんで、 ミヨシ ちかく、 カッパ の サキ の ほう に わたって いる カンコ の ミギ の ほう へ ミギ の サオ、 ヒダリ の ほう へ ヒダリ の サオ を もたせ、 その サオジリ を ちょっと なんとか した メイメイ の ズイイ の シュコウ で ちょいと かるく とめて おく の で あります。 そうして キャク は たんぜん と して サオサキ を みて いる の です。 センドウ は キャク より も ウシロ の ツギノマ に いまして、 ちょうど オトモ の よう な カタチ に、 まずは すこし ウゲン に よって ひかえて おります。 ヒ が さす、 アメ が ふる、 いずれ にも むろん の こと トマ と いう もの を ふきます。 それ は オモテ の フナバリ と その ツギ の フナバリ と に あいて いる アナ に、 「タテジ」 を たて、 ニ の タテジ に ムネ を わたし、 ヒジキ を サユウ に はねださせて、 ヒジキ と ヒジキ と を キザオ で つらねて トマ を うけさせます。 トマ 1 マイ と いう の は およそ タタミ 1 マイ より すこし おおきい もの、 ゼイタク に します と シャクナガ の トマ は タタミ 1 マイ の より よほど ながい の です。 それ を 4 マイ、 フネ の オモテ の マ の ヤネ の よう に ふく の で あります から、 まことに グアイ よく、 ナガ-4 ジョウ の ヘヤ の テンジョウ の よう に ひいて しまえば、 トマ は ジュウブン に ヒ も アメ も ふせぎます から、 ちゃんと ザシキ の よう に なる ので、 それで その トマ の シタ すなわち オモテ の マ―― ツリブネ は おおく アミブネ と ちがって オモテ の マ が ふかい の で あります から、 まことに チョウシ が よろしい。 そこ へ ゴザ なんぞ しきまして、 その ウエ に シキモノ を おき、 アグラ なんぞ かかない で ただしく すわって いる の が シキ です。 コジン ナリタヤ が イマ の コウシロウ、 トウジ の ソメゴロウ を つれて ツリ に でた とき、 ゲイドウ ブタイ-ジョウ では サシズ を あおいで も、 カッテ に しなせい と つっぱなして おしえて くれなかった くせ に、 フネ では ソメゴロウ の スワリヨウ を とがめて、 そんな バカ な スワリヨウ が ある か と きびしく しかった と いう こと を、 コウシロウ さん から チョクセツ に ききました が、 メナダツリ、 ケイズツリ、 スズキツリ、 ゲヒン で ない ツリ は すべて そんな もの です。
 それで サカナ が きまして も、 また、 タイ の タグイ と いう もの は、 まことに そういう ツリ を する ヒトビト に グアイ の よく できて いる もの で、 タイ の ニダンビキ と もうしまして、 たまに は イチド に がぶっと たべて ツリザオ を もって ゆく と いう よう な こと も あります けれども、 それ は むしろ ケウ の レイ で、 ケイズ は タイテイ は イチド ツリザオ の サキ へ アタリ を みせて、 それから ちょっと して ホントウ に くう もの で ありまする から、 サオサキ の うごいた とき に、 きた な と こころづきましたら、 ゆっくり と テ を サオジリ に かけて、 ツギ の アタリ を まって いる。 ツギ に サカナ が ぎゅっと しめる とき に、 ミギ の サオ なら ミギ の テ で あわせて サオ を おこし、 ジブン の すぐと ウシロ の ほう へ そのまま もって ゆく ので、 そう する と ウシロ に センドウ が います から、 これ が タマ を しゃんと もって いまして すくいとります。 おおきく ない サカナ を つって も、 そこ が アソビ です から サオ を ぐっと あげて まわして、 ウシロ の センドウ の ほう に やる。 センドウ は サカナ を すくって、 ハリ を はずして、 フネ の ちょうど マンナカ の ところ に イケマ が あります から サカナ を そこ へ いれる。 それから センドウ が また エサ を つける。 「ダンナ、 つきました」 と いう と、 サオ を また モト へ もどして ねらった ところ へ ふりこむ と いう わけ で あります。 ですから、 キャク は ジョウフ の キモノ を きて いて も つる こと が できます わけ で、 まことに キレイゴト に トノサマ-らしく やって いられる ツリ です。 そこで チャ の すき な ヒト は ギョクロ など いれて、 チャボン を ソバ に おいて チャ を のんで いて も、 アイテ が ニダンビキ の タイ です から、 なれて くれば しずか に チャワン を シタ に おいて、 そうして つって いられる。 サケ の すき な ヒト は シオマ など は サケ を のみながら も つる。 おおく ナツ の ツリ で あります から、 アワモリ だ とか、 ヤナギカゲ など と いう もの が よろこばれた もの で、 オキミズヤ ほど おおきい もの では ありません が ジョウゲバコ と いう の に チャキ シュキ、 ショッキ も そなえられ、 ちょっと した サカナ、 そんな もの も しこまれて ある よう な わけ です。 バンジ が そういう チョウシ なの です から、 しんに アソビ に なります。 しかも フネ は ジョウダナ ヒノキ で あらいたてて ありますれば、 セイケツ このうえなし です。 しかも すずしい カゼ の すいすい ながれる カイジョウ に、 カタトマ を きった フネ なんぞ、 トオク から みる と ヨソメ から みて も いかにも すずしい もの です。 あおい ソラ の ナカ へ うきあがった よう に ひろびろ と シオ が はって いる その ウエ に、 カゼ の つきぬける ヒカゲ の ある イチヨウ の フネ が、 テン から おちた オオトリ の 1 マイ の ハネ の よう に ふわり と して いる の です から。
 それから また、 ミヨヅリ で ない ツリ も ある の です。 それ は ミヨ で もって うまく くわなかったり なんか した とき に、 サカナ と いう もの は かならず ナニ か の カゲ に いる もの です から、 それ を つる の です。 トリ は キ に より、 サカナ は カカリ、 ヒト は ナサケ の カゲ に よる、 なんぞ と いう 「ヨシコノ」 が あります が、 カカリ と いう の は ミズ の ナカ に もさもさ した もの が あって、 そこ に アミ を うつ こと も コンナン で あり、 ツリバリ を いれる こと も コンナン な よう な ヒッカカリ が ある から、 カカリ と もうします。 その カカリ には とかくに サカナ が よる もの で あります。 その カカリ の マエ へ でかけて いって、 そうして カカリ と スレスレ に ハリ を うちこむ、 それ が カカリマエ の ツリ と いいます。 ミヨ だの ヒラバ だの で つれない とき に カカリマエ に ゆく と いう こと は ダレ も する こと。 また わざわざ カカリ へ ゆきたがる ヒト も ある くらい。 ふるい ミヨグイ、 ボッカ、 ワレブネ、 ヒビガラミ、 シカケ を うしなう の を カクゴ の マエ に して、 おおよう に ソレゾレ の シュコウ で あそびます。 いずれ に して も ダイミョウヅリ と いわれる だけ に、 ケイズツリ は いかにも ゼイタク に おこなわれた もの です。
 ところで ツリ の アジ は それ で いい の です が、 やはり ツリ は ネ が サカナ を とる と いう こと に ある もの です から、 あまり つれない と アソビ の セカイ も せまく なります。 ある ヒ の こと、 ちっとも つれません。 つれない と いう と ミジュク な キャク は とかくに ぶつぶつ センドウ に むかって グチ を こぼす もの です が、 この ヒト は そういう こと を いう ほど あさはか では ない ヒト でした から、 つれなくて も イツモ の とおり の キゲン で その ヒ は かえった。 その ヨクジツ も ヒドリ だった から、 ヨクジツ も その ヒト は また キチコウ を つれて でた。 ところが サカナ と いう の は、 それ は サカナ だ から い さえ すれば エサ が あれば くいそう な もの だ けれども、 そう も ゆかない もの で、 トキ に よる と ナニ か を きらって、 たとえば ミズ を きらう とか カゼ を きらう とか、 あるいは ナニ か フメイ な ゲンイン が あって それ を きらう と いう と、 いて も くわない こと が ある もん です。 シカタ が ない。 フツカ とも さっぱり つれない。 そこで いくら なんでも ちっとも つれない ので、 キチコウ は よわりました。 コジオ の とき なら しらん こと、 いい シオ に でて いる のに、 フツカ とも ちっとも つれない と いう の は、 キャク は それほど に おもわない に した ところ で、 センドウ に とって は おもしろく ない。 それ も オキャク が、 ツリ も できて いれば ニンゲン も できて いる ヒト で、 ぶつり とも いわない で いて くれる ので かえって キ が すくみます。 どうも シヨウ が ない。 が、 どうしても キョウ は ミヤゲ を もたせて かえそう と おもう もの です から、 さあ イロイロ な シオユキ と バショ と を かんがえて、 あれ も やり、 これ も やった けれども、 どうしても つれない。 それ が また つれる べき はず の、 ツキ の ない オオシオ の ヒ。 どうしても つれない から、 キチ も とうとう へたばって しまって、
「やあ ダンナ、 どうも フツカ とも なげられちゃって モウシワケ が ございません なあ」 と いう。 キャク は わらって、
「なあに オマエ、 モウシワケ が ございません なんて、 そんな ヤボカタギ の こと を いう はず の ショウバイ じゃ ねえ じゃ ねえ か。 ははは。 いい やな。 もう かえる より シカタ が ねえ、 そろそろ いこう じゃ ない か」
「へい、 もう 1 カショ やって みて、 そうして かえりましょう」
「もう 1 カショ たって、 もう そろそろ マヅミ に なって くる じゃ ねえ か」
 マヅミ と いう の は、 アサ の を アサマヅミ、 バン の を ユウマヅミ と もうします。 だんだん と ヒル に なったり ヨル に なったり する せりつめた とき を いう の で あって、 とかくに サカナ は イマ まで ちっとも でて こなかった の が、 マヅミ に なって キュウ に でて きたり なんか する もの です。 キチ の ハラ の ナカ では、 マヅミ に あてたい の です が、 キャク は わざと その ハンタイ を いった の でした。
「ケイズツリ に きて、 こんな に おそく なって、 オマエ、 もう 1 カショ なんて、 そんな ブイキ な こと を いいだして。 もう よそう よ」
「すみません が ダンナ、 もう 1 カショ ちょいと あてて」
と、 キャク と センドウ と いう こと が アベコベ に なりまして、 キチ は ジブン の おもう ほう へ フネ を やりました。
 キチ は ゼンパイ に おわらせたく ない イジ から、 フネ を キョウ まで かかった こと の ない バショ へ もって いって、 「カシ」 を きめる の に シンチョウ な タイド を とりながら、 やがて、
「ダンナ、 サオ は 1 ポン に して、 ミヨシ の マショウメン へ うまく ふりこんで ください」 と もうしました。 これ は その ツボ イガイ は、 サユウ も ゼンメン も、 おそろしい カカリ で ある こと を かたって いる の です。 キャク は ガテン して、 「あいよ」 と その コトバドオリ に じつに うまく ふりこみました が、 シンチュウ では キノリウス で あった こと も あらそえません でした。 すると イマ テ に して いた サオ を おく か おかぬ か に、 サカナ の アタリ か ゴミ の アタリ か わからぬ アタリ、 ――タイギョ に オオゴミ の よう な アタリ が あり、 オオゴミ に タイギョ の よう な アタリ が ある もの で、 そういう アタリ が みえます と ドウジ に、 ニダンビキ どころ では ない、 イト は ぴんと はり、 サオ は ずいと ひかれて ゆきそう に なりました から、 キャク は サオジリ を とって ちょいと あてて、 すぐに サオ を たて に かかりました。 が、 こっち の ハタラキ は すこしも ムコウ へは つうじません で、 ムコウ の チカラ ばかり が モギドウ に つよう ございました。 サオ は ニホンツギ の、 フツウ の ジョウモノ でした が、 ツギテ の モトギワ が みちり と ちいさな オト が して、 そして イト は あえなく きれて しまいました。 サカナ が きて カカリ へ くわえこんだ の か、 オオゴミ が もって いった の か、 もとより みぬ もの の ショウタイ は わかりません が、 キチ は また ヒトツ ここ で クロボシ が ついて、 しかも サオ が ダメ に なった の を みのがし は しません で、 いっそう シンチュウ は くらく なりました。 こういう こと も ない レイ では ありません が、 あくまでも ねれた キャク で、 「アトオイ コゴト」 など は なにも いわず に キチ の ほう を むいて、
「かえれ って いう こと だよ」 と わらいました の は、 イッサイ の こと を 「もう かえれ」 と いう シゼン の メイレイ の イミアイ だ と かるく ながして しまった の です。 「へい」 と いう より ホカ は ない、 キチ は すなお に カシ を ぬいて、 こぎだしながら、
「アッシ の チョボイチ が コケ だった ん です」 と シゴテキ に いって、 ちょいと カタテ で ジブン の カシラ を うつ マネ を して わらった。 「ははは」 「ははは」 と かるい ワライ で、 ソウホウ とも ヤクシャ が わるく ない から あじ な マクギレ を みせた の でした。
 ウミ には ユウセン は もとより、 なんの フネ も みわたす かぎり みえない よう に なって いました。 キチ は ぐいぐい と こいで ゆく。 あまり おそく まで やって いた から、 まずい シオ に なって きた。 それ を エド の ほう に むかって こいで ゆく。 そうして だんだん やって くる と、 オカ は もう くらく なって エド の カタ はるか に ちらちら と ヒ が みえる よう に なりました。 キチ は おいて も うまい もん で、 しきり と カラダ に チョウシ を のせて こぎます。 トマ は すでに とりのけて ある し、 フネ は ずんずん と でる。 キャク は する こと も ない から、 しゃんと して、 ただ ぽかん と ウミヅラ を みて いる と、 もう ウミ の サザナミ の チラツキ も だんだん と みえなく なって、 あまずった ソラ が ハジメ は すこし アカミ が あった が、 ぼうっと ウスズミ に なって まいりました。 そういう とき は ソラ と ミズ が イッショ には ならない けれども、 ソラ の アカルサ が ウミ へ とけこむ よう に なって、 ハンシャ する キミ が ヒトツ も ない よう に なって くる から、 ミズギワ が そうぼう と うすぐらくて、 ただ ミズギワ だ と いう こと が わかる くらい の ハナシ、 それでも ミズ の ウエ は あかるい もの です。 キャク は なんにも ショザイ が ない から エド の あの ヒ は どこ の ヒ だろう など と、 エド が ちかく なる に つけて エド の カタ を み、 それから ずいと ヒガシ の カタ を みます と、 ――イマ こいで いる の は すこし でも シオ が カミ から おす の です から、 ミヨ を はずれた、 つまり ミズ の テイコウ の すくない ところ を こいで いる の でした が、 ミヨ の ほう を ひょいっと みる と いう と、 くらい と いう ほど じゃ ない が、 よほど こい ネズミ に くれて きた、 その ミズ の ナカ から ふっと ナニ か でました。 はてな と おもって、 そのまま みて いる と また ナニ か が ひょいっと でて、 コンド は すこし ジカン が あって また ひっこんで しまいました。 ヨシ か アシ の よう な タグイ の もの に みえた が、 そんな もの なら たいら に ミズ を ういて ながれる はず だし、 どうしても ほそい ボウ の よう な もの が、 ミョウ な チョウシ で もって、 ついと でて は また ひっこみます。 なんの ヒツヨウ が ある では ない が、 ガテン が ゆきませぬ から、
「キチ や、 どうも あすこ の ところ に ヘン な もの が みえる な」 と ちょっと コエ を かけました。 キャク が じっと みて いる その メ の ユクエ を みます と、 ちょうど その とき また ひょいっと ほそい もの が でました。 そして また ひっこみました。 キャク は もう イクド も みました ので、
「どうも ツリザオ が ウミ の ナカ から でた よう に おもえる が、 ナン だろう」
「そう で ござんす ね、 どうも ツリザオ の よう に みえました ね」
「しかし ツリザオ が ウミ の ナカ から でる わけ は ねえ じゃ ねえ か」
「だが ダンナ、 タダ の タケザオ が シオ の ナカ を ころがって いく の とは ちがった チョウシ が ある ので、 ツリザオ の よう に おもえる の です ね」
 キチ は キャク の ココロ に いくらでも ナニ か の キョウミ を あたえたい と おもって いた とき です から、 フネ を うごかして その ヘン な もの が でた ほう に むける。
「なに、 そんな もの を、 オマエ、 みた から って シヨウ が ねえ じゃ ねえ か」
「だって、 アッシ にも わからねえ おかしな もん だ から ちょっと コウガク の ため に」
「ははは、 コウガク の ため に は よかった な、 ははは」
 キチ は キャク に かまわず、 フネ を そっち へ もって ゆく と、 ちょうど トタン に その ほそながい もの が イキオイ よく おおきく でて、 キチ の マッコウ を うたん ばかり に あらわれた。 キチ は ちゃっと カタテ に うけとめた が、 シブキ が さっと カオ へ かかった。 みる と たしか に それ は ツリザオ で、 シタ に ナニ か いて ぐいと もって ゆこう と する よう なので、 なやす よう に して テ を はなさず に、 それ を すかして みながら、
「ダンナ これ は ツリザオ です、 ノボテイ です、 いい もん の よう です」
「ふむ、 そう かい」 と いいながら、 その サオ の ネ の ほう を みて、
「や、 オキャクサン じゃ ねえ か」
 オキャクサン と いう の は デキシシャ の こと を もうします ので、 それ は リョウ や なんか に でる モノ は ときどき は そういう ホウモンシャ に であいます から もうしだした コトバ です。 イマ の バアイ、 それ と みさだめました から、 なにも うれしく も ない こと ゆえ、 「オキャクサン じゃ ねえ か」 と、 「はなして しまえ」 と いわぬ ばかり に もうしました の です。 ところが キチ は、
「ええ、 ですが、 いい サオ です ぜ」 と、 たらぬ アカルサ の ナカ で ためつ すかしつ みて いて、
「ノボテイ の マル でさあ」 と つけたした。 マル と いう の は ツナギザオ に なって いない もの の こと。 ノボテイダケ と いう の は もうす まで も なく ツリザオ-ヨウ の よい もの で、 タイガイ の ツリザオ は ノボテイ の グアイ の いい の を ホカ の タケ の サキ に つないで ホダケ と して つかいます。 マル と いう と、 ヒトサオ ゼンブ が それ なの です。 マル が よい わけ は ない の です が、 マル で いて チョウシ の よい、 つかえる よう な もの は、 マレモノ で、 つまり よい もの と いう わけ に なる の です。
「そんな こと いったって ほしかあ ねえ」 と とりあいません でした。
 が、 キチ には さっき キャク の サオ を ラリ に させた こと も ふくんで いる から でしょう か、 サオ を とろう と おもいまして、 おらぬ よう に カゲン を しながら ぐいと ひきました。 すると チュウウキ に なって いた オキャクサマ は でて こない わけ には ゆきません でした。 チュウウキ と もうします の は、 スイシシャ に 3 タイ あります、 スイメン に うかぶ の が ヒトツ、 ミナソコ に しずむ の が ヒトツ、 リョウシャ の アイダ が すなわち チュウウキ です。 ひかれて シタイ は ちょうど キャク の ザ の すぐ マエ に でて きました。
「つまらねえ こと を するな よ、 おかえし もうせ と いった のに」 と いいながら、 ソバ に きた もの です から、 その サオ を みまする と いう と、 いかにも グアイ の よさそう な もの です。 サオ と いう もの は、 フシ と フシ と が グアイ よく じゅんじゅん に、 いい ワリアイ を もって のびて いった の が つまり よい サオ の イチ ジョウケン です。 イマ テモト から ずっと あらわれた サオ を みます と、 ヒトメ にも わかる じつに よい もの でした から、 その ブシ も、 おもわず サオ を にぎりました。 キチ は キャク が サオ へ テ を かけた の を みます と、 ジブン の ほう では もちきれません ので、
「はなします よ」 と いって テ を はなして しまった。 サオジリ より ウエ の 1 シャク ばかり の ところ を もつ と、 サオ は ミズ の ウエ に ゼンシン を りん と あらわして、 あたかも メイトウ の サヤ を はらった よう に うつくしい スガタ を みせた。
 もたない うち こそ なんでも なかった が、 テ に して みる と その サオ に たいして ゆうぜん と して アイネン が おこった。 とにかく サオ を はなそう と して 2~3 ド こづいた が、 スイチュウ の ヒト が かたく にぎって いて はなれない。 もう イッスン イッスン に くらく なって ゆく とき、 よく は わからない が、 オキャクサン と いう の は でっぷり ふとった、 マユ の ほそくて ながい きれい なの が わずか に みえる、 ミミタブ が はなはだ おおきい、 アタマ は よほど はげて いる、 まあ 60 ちかい オトコ。 きて いる もの は アサギ の ムモン の モメンチヂミ と おもわれる、 それ に ほそい アサ の エリ の ついた アセトリ を シタ に つけ、 オビ は なんだか よく わからない けれども、 ぐるり と カラダ が うごいた とき に しろい タビ を はいて いた の が メ に しみて みえた。 ヨウス を みる と、 たとえば ボクトウ に せよ 1 ポン さして、 インロウ の ヒトツ も コシ に して いる ヒト の ヨウス でした。
「どう しよう な」 と おもわず コゴエ で いった とき、 ユウカゼ が ヒトスジ さっと ながれて、 キャク は カラダ の どこ か が さむい よう な キ が した。 すてて しまって も もったいない、 とろう か と すれば スイチュウ の ヌシ が イノチガケ で シュウネン-ぶかく にぎって いる の でした。 チュウチョ の サマ を みて キチ は また コエ を かけました。
「それ は ダンナ、 オキャクサン が もって いったって サンズ の カワ で ツリ を する わけ でも ありますまい し、 おとり なすったら どんな もの でしょう」
 そこで また こづいて みた けれども、 どうして なかなか しっかり つかんで いて はなしません。 しんで も はなさない くらい なの です から、 とても しっかり にぎって いて とれない。 と いって ハモノ を とりだして とる わけ にも ゆかない。 コユビ で しっかり サオジリ を つかんで、 ちょうど それ も ホテイダケ の フシ の ところ を にぎって いる から なかなか とれません。 シカタ が ない から シブカワリュウ と いう わけ でも ない が、 わが オヤユビ を かけて、 ぎくり と やって しまった。 ユビ が はなれる、 トタン に センシュジン は シオシモ に ながれて いって しまい、 サオ は こちら に のこりました。 カリソメ ながら たたかった わが テ を ジュウブン に あらって、 フトコロガミ 3~4 マイ で それ を ぬぐい、 そのまま ウミ へ すてます と、 しろい カミダマ は タマシイ で でも ある よう に ふわふわ と ユウヤミ の ナカ を ながれさりまして、 やがて みえなく なりました。 キチ は カエリ を いそぎました。
「ナム アミダブツ、 ナム アミダブツ、 なあ、 いったい どういう の だろう。 ナン に して も オカヅリ の ヒト には ちがいねえ な」
「ええ、 そう です、 どうも みた こと も ねえ ヒト だ。 オカヅリ でも ホンジョ、 フカガワ、 マナベガシ や マンネン の アタリ で まごまご した ヒト とも おもわれねえ、 あれ は カミ の ほう の ムコウジマ か、 もっと カミ の ほう の オカヅリシ です な」
「なるほど カン が いい、 どうも オマエ うまい こと を いう、 そして」
「なあに、 あれ は なんでも ございません よ、 チュウキ に きまって います よ。 オカヅリ を して いて、 ヘン な ところ に しゃがみこんで つって いて、 でかい サカナ を ひっかけた トタン に チュウキ が でる、 ころげこんで しまえば それまで でしょう ね。 だから チュウキ の でそう な ヒト には ヒラバ で ない ところ の オカヅリ は いけねえ と ムカシ から いいまさあ。 もちろん どんな ところ だって チュウキ に いい こと は ありません がね、 ははは」
「そう かなあ」
 それで その ヒ は かえりました。
 イツモ の カシ に ついて、 キャク は サオ だけ もって イエ に かえろう と する。 キチ が、
「ダンナ は アス は?」
「アス も でる はず に なってる ん だ が、 やすませて も いい や」
「いや バカアメ で さえ なければ アッシャア むかえ に まいります から」
「そう かい」 と いって わかれた。
 あくる アサ おきて みる と アメ が しよしよ と ふって いる。
「ああ この アメ を はらんで やがった んで 2~3 ニチ リョウ が まずかった ん だな。 それとも アカシオ でも さして いた の かな」
 ヤクソク は した が、 こんな に アメ が ふっちゃ ヤツ も でて こない だろう と、 その ヒト は ウチ に いて、 しょうことなし の ショケン など して いる と、 ヒル ちかく なった ジブン に キチ は やって きた。 ニワグチ から まわらせる。
「どうも ダンナ、 おで に なる か ならない か あやふや だった けれども、 アッシャア フネ を もって きて おりました。 この アメ は もう じき あがる に ちげえねえ の です から まいりました。 オトモ を したい とも いいだせねえ よう な、 まずい アト です が」
「ああ そう か、 よく きて くれた。 いや、 2~3 ニチ オマエ に ムダボネ を おらした が、 オシマイ に サオ が テ に はいる なんて まあ ヘン な こと だなあ」
「サオ が テ に はいる てえ の は ツリシ にゃ キッチョウ でさあ」
「ははは、 だが まあ アメ が ふって いる うち あ でたく ねえ、 アメ を やませる アイダ あそんで いねえ」
「へい。 ときに ダンナ、 あれ は?」
「あれ かい。 みなさい、 ソトガモイ の ウエ に おいて ある」
 キチ は カッテ の ほう へ いって、 ゾウキンダライ に ミズ を もって くる。 すっかり サオ を それ で あらって から、 みる と いう と いかにも よい サオ。 じっと フタリ は アラタメギミ に くわしく みます。 だいいち あんな に ぬれて いた ので、 おもく なって いる べき はず だ が、 それ が ちっとも ミズ が しみて いない よう に その とき も おもった が、 イマ も おなじく かるい。 だから これ は まったく ミズ が しみない よう に クフウ が して ある と しか おもわれない。 それから フシマワリ の よい こと は ムルイ。 そうして ヘビクチ の ところ を みる と いう と、 シロウト-ザイク に ちがいない が、 まあ ジョウズ に できて いる。 それから いちばん ふとい テモト の ところ を みる と ちょいと サイク が ある。 サイク と いったって なんでも ない が、 ちょっと した アナ を あけて、 その ナカ に ナニ か いれ でも した の か また ふさいで ある。 シッテナワ が ついて いた アト でも ない。 ナニ か わからない。 その ホカ には なんの かわった こと も ない。
「ずいぶん めずらしい いい サオ だな、 そして こんな グアイ の いい かるい ノボテイ は みた こと が ない」
「そう です な、 ノボテイ と いう やつ は がんらい おもい ん で ございます、 そいつ を おもくちゃ いや だ から、 それで クフウ を して、 タケ が まだ ノ に いきて いる うち に すこし キリメ なんか いれましたり、 いためたり しまして、 ジュウブン に そだたない よう に カタッポウ を そういう よう に いためる、 ミギ なら ミギ、 ヒダリ なら ヒダリ の カタホウ を そうした の を カタウキス、 リョウホウ から せめる やつ を モロウキス と いいます。 そうして こしらえる と タケ が じゅくした とき に ヤシナイ が ジュウブン で ない から かるい タケ に なる の です」
「それ は オマエ オレ も しって いる が、 ウキス の タケ は それだから しなびた よう に なって おもしろく ない カオツキ を して いる じゃ ない か。 これ は そう じゃ ない。 どういう こと を して できた の だろう、 シゼン に こういう タケ が あった の かなあ」
 サオ と いう もの の よい の を ほしい と おもう と、 ツリシ は タケ の はえて いる ヤブ に いって ジブン で もって さがしたり えらんだり して、 カイヤクソク を して、 ジブン の ココロ の まま に そだてたり します もの です。 そういう タケ を ダレ でも さがし に ゆく。 すこし ツリ が コウ を へて くる と そういう こと にも なりまする。 トウ の とき に オン テイイン と いう シジン、 これ が どうも ドウラクモノ で コウマン で、 ヒンコウ が わるくて シヨウ が ない ヒト でした が、 ツリ に かけて は コドモ ドウヨウ、 ジブン で もって ツリザオ を えよう と おもって ハイ シ と いう ヒト の ハヤシ に はいりこんで よい タケ を さがした シ が ありまする。 イッケイ たがいに ウチョク し、 ボウキョク また すでに しげし、 と いう ク が ありまする から、 まがりくねった ホソミチ の カヤ や イバラ を わけて、 むぐりこむ の です。 レキジン す センエン の フシ、 センパ す ソウロウコン、 と ありまする から、 いちいち この タケ、 あの タケ と しらべまわった わけ です。 トウ の とき は ツリ が ヒジョウ に おこなわれて、 セツ シ の イケ と いう コンニチ まで ナ の のこる くらい の ツリボリ さえ あった くらい です から、 サオヤ だ とて たくさん ありましたろう に、 トウジ もてはやされた シジン の ミ で、 ジブン で ヤブクグリ なんぞ を して まで も キ に いった サオ を えたがった の も、 スキ の ミチ なら ミ を やつす ドウリ で ございます。 ナカライ ボクヨウ と いう キョウカシ の キョウカ に、 ウラシマ が ツリ の サオ とて クレタケ の フシ は ろくろく のびず ちぢまず、 と いう の が ありまする が、 クレタケ の サオ など あまり カンシン できぬ もの です が、 36 フシ あった とか で おおいに フシ の こと を ほめて いまする、 そんな よう な もの です。 それで シュミ が こうじて くる と いう と、 よい の を さがす の に ウキミ を やつす の も シゼン の イキオイ です。
 フタリ は だんだん と サオ を みいって いる うち に、 あの ロウジン が しんで も はなさず に いた ココロモチ が しだいに わかって きました。
「どうも こんな タケ は ここいら に みかけねえ です から、 ヨソ の クニ の もの か しれません ね。 それ に しろ 2 ケン の ヨ も ある もの を もって くる の も タイヘン な ハナシ だし。 ロウニン の ラク な ヒト だ か なんだか しらない けれども、 カッテ な こと を やって あそんで いる うち に チュウキ が おこった の でしょう が、 ナン に しろ いい サオ だ」 と キチ は いいました。
「ときに オマエ、 ヘビクチ を みて いた とき に、 ナン じゃ ない か、 サキ に ついて いた イト を くるくるっ と まいて ハラガケ の ドンブリ に いれちゃった じゃ ねえ か」
「ええ じゃまっけ でした から。 それに、 ケサ それ を みまして、 それで ワッチ が こっち の ヒト じゃ ねえ だろう と おもった ん です」
「どうして」
「どうして ったって、 ダンダンボソ に つないで ありました。 ダンダンボソ に つなぐ と いう の は、 ハジマリ の ところ が ふとい、 それから しだいに ほそい の また それ より ほそい の と だんだん ほそく して いく。 この メンドウ な ホウ は カシュウ や なんぞ の よう な クニ に いく と、 アユ を つる の に カバリ など つかって つる、 その とき カバリ が うまく ミズ の ウエ に おちなければ まずい んで、 イト が サキ に おちて アト から カバリ が おちて は いけない、 それ じゃ サカナ が よらない、 そこで ダンダンボソ の イト を こしらえる ん です。 どうして こしらえます か と いう と、 ハサミ を もって いって よい ハクバ の オ の グアイ の いい、 コバ に ならない やつ の を チョウダイ して くる。 そうして それ を トウフ の カス で もって ウエ から ぎゅうぎゅう と しだいしだい に こく。 そう する と すきとおる よう に きれい に なる。 それ を 16 ポン、 ミギヨリ なら ミギヨリ に、 サイショ は できない けれども すこし なれる と わけなく できます こと で、 カタヨリ に よる。 そうして ヒトツ こしらえる。 その ツギ に コンド は ホンスウ を へらして、 マエ に ミギヨリ なら コンド は ヒダリヨリ に カタヨリ に よります。 じゅんじゅん に ホンスウ を へらして、 ミギヒダリ を ちがえて、 いちばん シマイ には 1 ポン に なる よう に つなぎます。 アッシ あ カシュウ の オキャク に きいて おぼえました がね、 ニシ の ヒト は カンガエ が こまかい。 それ が ジョウセキ です。 この サオ は アユ を ねらう の では ない、 テグス で やって ある けれども、 うまく コキ が ついて ジュンベラシ に ほそく なって いく よう に して あります。 この ヒト も ソウトウ に ツリ に クロウ して います ね、 きれる ところ を きめて おきたい から そういう こと を する ので、 オカヅリ じゃ なお の こと です、 どこ でも かまわない で ぶっこむ の です から、 ぶちこんだ ところ に カカリ が あれば ひっかかって しまう。 そこで サオ を いたわって、 しかも はやく ラチ の あく よう に する には、 サオ の おれそう に なる マエ に キレドコ から イト の きれる よう に して おく の です。 いちばん サキ の ほそい ところ から きれる わけ だ から それ を サオ の チカラ で わりだして いけば、 サオ に とって は こわい こと も なにも ない。 どんな ところ へ でも ぶちこんで、 ひっかかって いけなく なったら サオ は おれず に イト が きれて しまう。 アト は また すぐ ハリ を くっつければ それ で いい の です。 この ヒト が サオ を ダイジ に した こと は、 ジョウズ に ダンダンボソ に した ところ を みて も はっきり よめました よ。 どうも コユビ で あんな に チカラ を いれて はなさない で、 まあ サオ と シンジュウ した よう な もん だ が、 それだけ ダイジ に して いた の だ から、 ムリ も ねえ でさあ」
など と いって いる うち に アメ が キレカカリ に なりました。 シュジン は ザシキ、 キチ は ダイドコロ へ さがって ヒル の ショクジ を すませ、 おそい けれども 「おでなさい」 「でよう」 と いう ので もって、 フタリ は でました。 むろん その サオ を もって、 そして バショ に ゆく まで に シュジン は あたらしく ジョウズ に ジブン で シカケ を ダンダンボソ に こしらえました。
 さあ でて つりはじめる と、 ときどき アメ が きました が、 マエ の とき と ちがって つれる わ、 つれる わ、 むやみ に チョウシ の よい ツリ に なりました。 とうとう あまり つれる ため に おそく なって しまいまして、 キノウ と おなじ よう な クレガタ に なりました。 それで、 もう ツリ も オシマイ に しよう なあ と いう ので、 ヘビクチ から イト を はずして、 そうして それ を しまって、 サオ は トマウラ に あげました。 だんだん と かえって くる と いう と、 また エド の カタ に ヒ が ちょいちょい みえる よう に なりました。 キャク は キノウ から の こと を おもって、 この サオ を ユビ を おって とった から 「ユビオリ」 と なづけよう か など と かんがえて いました。 キチ は ぐいぐい こいで きました が、 せっせと こいだ ので、 ロベソ が かわいて きました。 かわく と こぎづらい から、 ジブン の マエ の ところ に ある ヒシャク を とって シオ を くんで、 ミ を ミョウ に ねじって、 ぱっさり と ロ の ヘソ の ところ に かけました。 こいつ が エドマエ の センドウ は かならず そういう よう に する ので、 イナカ センドウ の せぬ こと です。 ミ を ねじって たかい ところ から そこ を ねらって しゃっと ミズ を かける、 ちょうど その とき には ヘソ が ウエ を むいて います。 うまく やる もの で、 ウキヨエ-ゴノミ の イキ な スガタ です。 それで キチ が イマ カラダ を ミョウ に ひねって しゃっと かける、 ミ の ムキ を モト に かえして、 ひょっと みる と いう と、 ちょうど キノウ と おなじ くらい の クラサ に なって いる とき、 ヒガシ の カタ に キノウ と おなじ よう に ヨシ の よう な もの が ひょいひょい と みえる。 おや、 と いって センドウ が そっち の ほう を じっと みる、 オモテ の マ に すわって いた オキャク も、 センドウ が おや と いって あっち の ほう を みる ので、 その ほう を みる と、 うすぐらく なって いる ミズ の ナカ から ひょいひょい と、 キノウ と おなじ よう に タケ が でたり ひっこんだり しまする。 はて、 これ は と おもって、 ガテン しかねて いる と いう と、 センドウ も おどろきながら、 ダンナ は キ が ついた か と おもって みる と、 ダンナ も センドウ を みる。 おたがいに なんだか ワケ の わからない キモチ が して いる ところ へ、 キョウ は すこし なまあたたかい ウミ の ユウカゼ が ヒガシ から ふいて きました。 が、 キチ は たちまち つよがって、
「ナン でえ、 コノマエ の とおり の もの が そこ に でて くる わけ は あり あ しねえ、 サオ は こっち に ある ん だ から。 ねえ ダンナ、 サオ は こっち に ある ん じゃ ありません か」
 カイ を みて カイ と せざる ユウキ で、 ヘン な もの が みえて も 「こっち に サオ が ある ん だ から ね、 なんでも ない」 と いう イミ を いった の で あった が、 センドウ も ちょっと ミ を かがめて、 サオ の ほう を のぞく。 キャク も アタマ の ウエ の ヤミ を のぞく。 と、 もう くらく なって トマウラ の ところ だ から サオ が ある か ない か ほとんど わからない。 かえって キャク は センドウ の おかしな カオ を みる、 センドウ は キャク の おかしな カオ を みる。 キャク も センドウ も コノヨ で ない セカイ を アイテ の メ の ナカ から みいだしたい よう な メツキ に ソウゴ に みえた。
 サオ は もとより そこ に あった が、 キャク は サオ を とりだして、 ナム アミダブツ、 ナム アミダブツ と いって ウミ へ かえして しまった。

2014/01/08

ミカン

 ミカン

 アクタガワ リュウノスケ

 ある くもった フユ の ヒグレ で ある。 ワタクシ は ヨコスカ ハツ ノボリ ニトウ キャクシャ の スミ に コシ を おろして、 ぼんやり ハッシャ の フエ を まって いた。 とうに デントウ の ついた キャクシャ の ナカ には、 めずらしく ワタクシ の ホカ に ヒトリ も ジョウキャク は いなかった。 ソト を のぞく と、 うすぐらい プラットフォーム にも、 キョウ は めずらしく ミオクリ の ヒトカゲ さえ アト を たって、 ただ、 オリ に いれられた コイヌ が 1 ピキ、 ときどき かなしそう に、 ほえたてて いた。 これら は その とき の ワタクシ の ココロモチ と、 フシギ な くらい につかわしい ケシキ だった。 ワタクシ の アタマ の ナカ には イイヨウ の ない ヒロウ と ケンタイ と が、 まるで ユキグモリ の ソラ の よう な どんより した カゲ を おとして いた。 ワタクシ は ガイトウ の ポッケット へ じっと リョウテ を つっこんだ まま、 そこ に はいって いる ユウカン を だして みよう と いう ゲンキ さえ おこらなかった。
 が、 やがて ハッシャ の フエ が なった。 ワタクシ は かすか な ココロ の クツロギ を かんじながら、 ウシロ の マドワク へ アタマ を もたせて、 メノマエ の テイシャジョウ が ずるずる と アトズサリ を はじめる の を まつ とも なく まちかまえて いた。 ところが それ より も サキ に けたたましい ヒヨリ ゲタ の オト が、 カイサツグチ の ほう から きこえだした と おもう と、 まもなく シャショウ の ナニ か いいののしる コエ と ともに、 ワタクシ の のって いる ニトウシツ の ト が がらり と あいて、 13~14 の コムスメ が ヒトリ、 あわただしく ナカ へ はいって きた、 と ドウジ に ヒトツ ずしり と ゆれて、 おもむろに キシャ は うごきだした。 1 ポン ずつ メ を くぎって ゆく プラットフォーム の ハシラ、 おきわすれた よう な ウンスイシャ、 それから シャナイ の ダレ か に シュウギ の レイ を いって いる アカボウ―― そういう スベテ は、 マド へ ふきつける バイエン の ナカ に、 みれんがましく ウシロ へ たおれて いった。 ワタクシ は ようやく ほっと した ココロモチ に なって、 マキタバコ に ヒ を つけながら、 はじめて ものうい マブタ を あげて、 マエ の セキ に コシ を おろして いた コムスメ の カオ を イチベツ した。
 それ は アブラケ の ない カミ を ヒッツメ の イチョウガエシ に ゆって、 ヨコナデ の アト の ある ヒビ-だらけ の リョウホオ を キモチ の わるい ほど あかく ほてらせた、 いかにも イナカモノ-らしい ムスメ だった。 しかも あかじみた モエギイロ の ケイト の エリマキ が だらり と たれさがった ヒザ の ウエ には、 おおきな フロシキヅツミ が あった。 その また ツツミ を だいた シモヤケ の テ の ナカ には、 サントウ の アカギップ が ダイジ そう に しっかり にぎられて いた。 ワタクシ は この コムスメ の ゲヒン な カオダチ を このまなかった。 それから カノジョ の フクソウ が フケツ なの も やはり フカイ だった。 サイゴ に その ニトウ と サントウ との クベツ さえ も わきまえない グドン な ココロ が はらだたしかった。 だから マキタバコ に ヒ を つけた ワタクシ は、 ヒトツ には この コムスメ の ソンザイ を わすれたい と いう ココロモチ も あって、 コンド は ポッケット の ユウカン を まんぜん と ヒザ の ウエ へ ひろげて みた。 すると その とき ユウカン の シメン に おちて いた ガイコウ が、 とつぜん デントウ の ヒカリ に かわって、 スリ の わるい ナニラン か の カツジ が イガイ な くらい あざやか に ワタクシ の メノマエ へ うかんで きた。 いう まで も なく キシャ は イマ、 ヨコスカ セン に おおい トンネル の サイショ の それ へ はいった の で ある。
 しかし その デントウ の ヒカリ に てらされた ユウカン の シメン を みわたして も、 やはり ワタクシ の ユウウツ を なぐさむ べく、 セケン は あまり に ヘイボン な デキゴト ばかり で もちきって いた。 コウワ モンダイ、 シンプ シンロウ、 トクショク ジケン、 シボウ コウコク―― ワタクシ は トンネル へ はいった イッシュンカン、 キシャ の はしって いる ホウコウ が ギャク に なった よう な サッカク を かんじながら、 それら の さくばく と した キジ から キジ へ ほとんど キカイテキ に メ を とおした。 が、 その アイダ も もちろん あの コムスメ が、 あたかも ヒゾク な ゲンジツ を ニンゲン に した よう な オモモチ で、 ワタクシ の マエ に すわって いる こと を たえず イシキ せず には いられなかった。 この トンネル の ナカ の キシャ と、 この イナカモノ の コムスメ と、 そうして また この ヘイボン な キジ に うずまって いる ユウカン と、 ――これ が ショウチョウ で なくて ナン で あろう。 フカカイ な、 カトウ な、 タイクツ な ジンセイ の ショウチョウ で なくて ナン で あろう。 ワタクシ は イッサイ が くだらなく なって、 よみかけた ユウカン を ほうりだす と、 また マドワク に アタマ を もたせながら、 しんだ よう に メ を つぶって、 うつらうつら しはじめた。
 それから イクフン か すぎた ノチ で あった。 ふと ナニ か に おびやかされた よう な ココロモチ が して、 おもわず アタリ を みまわす と、 いつのまにか レイ の コムスメ が、 ムコウガワ から セキ を ワタクシ の トナリ へ うつして、 しきり に マド を あけよう と して いる。 が、 おもい ガラスド は なかなか おもう よう に あがらない らしい。 あの ヒビ-だらけ の ホオ は いよいよ あかく なって、 ときどき ハナ を すすりこむ オト が、 ちいさな イキ の きれる コエ と イッショ に、 せわしなく ミミ へ はいって くる。 これ は もちろん ワタクシ にも、 イクブン ながら ドウジョウ を ひく に たる もの には ソウイ なかった。 しかし キシャ が イマ まさに トンネル の クチ へ さしかかろう と して いる こと は、 ボショク の ナカ に カレクサ ばかり あかるい リョウガワ の サンプク が、 まぢかく マドガワ に せまって きた の でも、 すぐに ガテン の ゆく こと で あった。 にもかかわらず この コムスメ は、 わざわざ しめて ある マド の ト を おろそう と する、 ――その リユウ が ワタクシ には のみこめなかった。 いや、 それ が ワタクシ には、 たんに この コムスメ の キマグレ だ と しか かんがえられなかった。 だから ワタクシ は ハラ の ソコ に いぜん と して けわしい カンジョウ を たくわえながら、 あの シモヤケ の テ が ガラスド を もたげよう と して アクセン クトウ する ヨウス を、 まるで それ が エイキュウ に セイコウ しない こと でも いのる よう な レイコク な メ で ながめて いた。 すると まもなく すさまじい オト を はためかせて、 キシャ が トンネル へ なだれこむ と ドウジ に、 コムスメ の あけよう と した ガラスド は、 とうとう ばたり と シタ へ おちた。 そうして その シカク な アナ の ナカ から、 スス を とかした よう な どすぐろい クウキ が、 にわか に いきぐるしい ケムリ に なって、 もうもう と シャナイ へ みなぎりだした。 がんらい ノド を がいして いた ワタクシ は、 ハンケチ を カオ に あてる ヒマ さえ なく、 この ケムリ を マンメン に あびせられた おかげ で、 ほとんど イキ も つけない ほど せきこまなければ ならなかった。 が、 コムスメ は ワタクシ に トンジャク する ケシキ も みえず、 マド から ソト へ クビ を のばして、 ヤミ を ふく カゼ に イチョウガエシ の ビン の ケ を そよがせながら、 じっと キシャ の すすむ ホウコウ を みやって いる。 その スガタ を バイエン と デントウ の ヒカリ との ナカ に ながめた とき、 もう マド の ソト が みるみる あかるく なって、 そこ から ツチ の ニオイ や カレクサ の ニオイ や ミズ の ニオイ が ひややか に ながれこんで こなかった なら、 ようやく せきやんだ ワタクシ は、 この みしらない コムスメ を アタマゴナシ に しかりつけて でも、 また モト の とおり マド の ト を しめさせた の に ソウイ なかった の で ある。
 しかし キシャ は その ジブン には、 もう やすやす と トンネル を すべりぬけて、 カレクサ の ヤマ と ヤマ との アイダ に はさまれた、 ある まずしい マチハズレ の フミキリ に とおりかかって いた。 フミキリ の チカク には、 いずれ も みすぼらしい ワラヤネ や カワラヤネ が ごみごみ と せまくるしく たてこんで、 フミキリバン が ふる の で あろう、 ただ 1 リュウ の うすじろい ハタ が ものうげ に ボショク を ゆすって いた。 やっと トンネル を でた と おもう―― その とき その しょうさく と した フミキリ の サク の ムコウ に、 ワタクシ は ホオ の あかい 3 ニン の オトコ の コ が、 メジロオシ に ならんで たって いる の を みた。 カレラ は ミナ、 この ドンテン に おしすくめられた か と おもう ほど、 そろって セ が ひくかった。 そうして また この マチハズレ の インサン たる フウブツ と おなじ よう な イロ の キモノ を きて いた。 それ が キシャ の とおる の を あおぎみながら、 イッセイ に テ を あげる が はやい か、 いたいけ な ノド を たかく そらせて、 なんとも イミ の わからない カンセイ を イッショウ ケンメイ に ほとばしらせた。 すると その シュンカン で ある。 マド から ハンシン を のりだして いた レイ の ムスメ が、 あの シモヤケ の テ を つと のばして、 イキオイ よく サユウ に ふった と おもう と、 たちまち ココロ を おどらす ばかり あたたか な ヒ の イロ に そまって いる ミカン が およそ イツツ ムツ、 キシャ を みおくった コドモ たち の ウエ へ ばらばら と ソラ から ふって きた。 ワタクシ は おもわず イキ を のんだ。 そうして セツナ に イッサイ を リョウカイ した。 コムスメ は、 おそらくは これから ホウコウサキ へ おもむこう と して いる コムスメ は、 その フトコロ に ぞうして いた イクカ の ミカン を マド から なげて、 わざわざ フミキリ まで ミオクリ に きた オトウト たち の ロウ に むくいた の で ある。
 ボショク を おびた マチハズレ の フミキリ と、 コトリ の よう に コエ を あげた 3 ニン の コドモ たち と、 そうして その ウエ に ランラク する あざやか な ミカン の イロ と―― スベテ は キシャ の マド の ソト に、 またたく ヒマ も なく とおりすぎた。 が、 ワタクシ の ココロ の ウエ には、 せつない ほど はっきり と、 この コウケイ が やきつけられた。 そうして そこ から、 ある エタイ の しれない ほがらか な ココロモチ が わきあがって くる の を イシキ した。 ワタクシ は こうぜん と アタマ を あげて、 まるで ベツジン を みる よう に あの コムスメ を チュウシ した。 コムスメ は いつか もう ワタクシ の マエ の セキ に かえって、 あいかわらず ヒビ-だらけ の ホオ を モエギイロ の ケイト の エリマキ に うずめながら、 おおきな フロシキヅツミ を かかえた テ に、 しっかり と サントウ キップ を にぎって いる。…………
 ワタクシ は この とき はじめて、 イイヨウ の ない ヒロウ と ケンタイ と を、 そうして また フカカイ な、 カトウ な、 タイクツ な ジンセイ を わずか に わすれる こと が できた の で ある。

ある オンナ (ゼンペン)

 ある オンナ  (ゼンペン)  アリシマ タケオ  1  シンバシ を わたる とき、 ハッシャ を しらせる 2 バンメ の ベル が、 キリ と まで は いえない 9 ガツ の アサ の、 けむった クウキ に つつまれて きこえて きた。 ヨウコ は ヘイキ で それ ...