ギンガ テツドウ の ヨル
ミヤザワ ケンジ
1、 ゴゴ の ジュギョウ
「では ミナサン は、 そういう ふう に カワ だ と いわれたり、 チチ の ながれた アト だ と いわれたり して いた この ぼんやり と しろい もの が ホントウ は ナニ か ゴショウチ です か」 センセイ は、 コクバン に つるした おおきな くろい セイザ の ズ の、 ウエ から シタ へ しろく けぶった ギンガタイ の よう な ところ を さしながら、 ミンナ に トイ を かけました。
カムパネルラ が テ を あげました。 それから 4~5 ニン テ を あげました。 ジョバンニ も テ を あげよう と して、 いそいで そのまま やめました。 たしか に あれ が みんな ホシ だ と、 いつか ザッシ で よんだ の でした が、 コノゴロ は ジョバンニ は まるで マイニチ キョウシツ でも ねむく、 ホン を よむ ヒマ も よむ ホン も ない ので、 なんだか どんな こと も よく わからない と いう キモチ が する の でした。
ところが センセイ は はやくも それ を みつけた の でした。
「ジョバンニ さん。 アナタ は わかって いる の でしょう」
ジョバンニ は イキオイ よく たちあがりました が、 たって みる と もう はっきり と それ を こたえる こと が できない の でした。 ザネリ が マエ の セキ から ふりかえって、 ジョバンニ を みて くすっと わらいました。 ジョバンニ は もう どぎまぎ して マッカ に なって しまいました。 センセイ が また いいました。
「おおきな ボウエンキョウ で ギンガ を よっく しらべる と ギンガ は だいたい ナン でしょう」
やっぱり ホシ だ と ジョバンニ は おもいました が、 コンド も すぐに こたえる こと が できません でした。
センセイ は しばらく こまった ヨウス でした が、 メ を カムパネルラ の ほう へ むけて、
「では カムパネルラ さん」 と なざしました。 すると あんな に ゲンキ に テ を あげた カムパネルラ が、 やはり もじもじ たちあがった まま やはり コタエ が できません でした。
センセイ は イガイ な よう に しばらく じっと カムパネルラ を みて いました が、 いそいで 「では。 よし」 と いいながら、 ジブン で セイズ を さしました。
「この ぼんやり と しろい ギンガ を おおきな いい ボウエンキョウ で みます と、 もう タクサン の ちいさな ホシ に みえる の です。 ジョバンニ さん そう でしょう」
ジョバンニ は マッカ に なって うなずきました。 けれども いつか ジョバンニ の メ の ナカ には ナミダ が いっぱい に なりました。 そう だ ボク は しって いた の だ、 もちろん カムパネルラ も しって いる、 それ は いつか カムパネルラ の オトウサン の ハカセ の ウチ で、 カムパネルラ と イッショ に よんだ ザッシ の ナカ に あった の だ。 それ どこ で なく カムパネルラ は、 その ザッシ を よむ と、 すぐ オトウサン の ショサイ から おおきな ホン を もって きて、 ギンガ と いう ところ を ひろげ、 マックロ な ページ いっぱい に しろい テンテン の ある うつくしい シャシン を フタリ で いつまでも みた の でした。 それ を カムパネルラ が わすれる はず も なかった のに、 すぐに ヘンジ を しなかった の は、 コノゴロ ボク が、 アサ にも ゴゴ にも シゴト が つらく、 ガッコウ に でて も もう ミンナ とも はきはき あそばず、 カムパネルラ とも あんまり モノ を いわない よう に なった ので、 カムパネルラ が それ を しって キノドク-がって わざと ヘンジ を しなかった の だ、 そう かんがえる と たまらない ほど、 ジブン も カムパネルラ も あわれ な よう な キ が する の でした。
センセイ は また いいました。
「ですから もしも この アマノガワ が ホントウ に カワ だ と かんがえる なら、 その ヒトツヒトツ の ちいさな ホシ は みんな その カワ の ソコ の スナ や ジャリ の ツブ にも あたる わけ です。 また これ を おおきな チチ の ナガレ と かんがえる なら もっと アマノガワ と よく にて います。 つまり その ホシ は みな、 チチ の ナカ に まるで こまか に うかんで いる アブラ の タマ にも あたる の です。 そんなら ナニ が その カワ の ミズ に あたる か と いいます と、 それ は シンクウ と いう ヒカリ を ある ハヤサ で つたえる もの で、 タイヨウ や チキュウ も やっぱり その ナカ に うかんで いる の です。 つまり は ワタシドモ も アマノガワ の ミズ の ナカ に すんで いる わけ です。 そして その アマノガワ の ミズ の ナカ から シホウ を みる と、 ちょうど ミズ が ふかい ほど あおく みえる よう に、 アマノガワ の ソコ の ふかく とおい ところ ほど ホシ が たくさん あつまって みえ、 したがって しろく ぼんやり みえる の です。 この モケイ を ごらんなさい」
センセイ は ナカ に たくさん ひかる スナ の ツブ の はいった おおきな リョウメン の トツ-レンズ を さしました。
「アマノガワ の カタチ は ちょうど こんな なの です。 この イチイチ の ひかる ツブ が みんな ワタシドモ の タイヨウ と おなじ よう に ジブン で ひかって いる ホシ だ と かんがえます。 ワタシドモ の タイヨウ が この ほぼ ナカゴロ に あって チキュウ が その すぐ チカク に ある と します。 ミナサン は ヨル に この マンナカ に たって、 この レンズ の ナカ を みまわす と して ごらんなさい。 こっち の ほう は レンズ が うすい ので わずか の ひかる ツブ、 すなわち ホシ しか みえない の でしょう。 こっち や こっち の ほう は ガラス が あつい ので、 ひかる ツブ、 すなわち ホシ が たくさん みえ、 その とおい の は ぼうっと しろく みえる と いう、 これ が つまり コンニチ の ギンガ の セツ なの です。 そんなら この レンズ の オオキサ が どれ くらい ある か、 また その ナカ の サマザマ の ホシ に ついて は もう ジカン です から、 この ツギ の リカ の ジカン に おはなし します。 では キョウ は その ギンガ の オマツリ なの です から、 ミナサン は ソト へ でて よく ソラ を ごらんなさい。 では ここ まで です。 ホン や ノート を おしまいなさい」
そして キョウシツ-ジュウ は しばらく ツクエ の フタ を あけたり しめたり ホン を かさねたり する オト が いっぱい でした が、 まもなく ミンナ は きちんと たって レイ を する と キョウシツ を でました。
2、 カッパンジョ
ジョバンニ が ガッコウ の モン を でる とき、 おなじ クミ の 7~8 ニン は イエ へ かえらず カムパネルラ を マンナカ に して コウテイ の スミ の サクラ の キ の ところ に あつまって いました。 それ は コンヤ の ホシマツリ に あおい アカリ を こしらえて カワ へ ながす カラスウリ を とり に いく ソウダン らしかった の です。
けれども ジョバンニ は テ を おおきく ふって どしどし ガッコウ の モン を でて きました。 すると マチ の イエイエ では コンヤ の ギンガ の マツリ に イチイ の ハ の タマ を つるしたり、 ヒノキ の エダ に アカリ を つけたり、 いろいろ シタク を して いる の でした。
イエ へは かえらず ジョバンニ が マチ を ミッツ まがって ある おおきな カッパンジョ に はいって、 すぐ イリグチ の ケイサンダイ に いた だぶだぶ の しろい シャツ を きた ヒト に オジギ を して ジョバンニ は クツ を ぬいで あがります と、 ツキアタリ の おおきな ト を あけました。 ナカ には まだ ヒル なのに デントウ が ついて タクサン の リンテンキ が ばたり ばたり と まわり、 キレ で アタマ を しばったり ラムプシェード を かけたり した ヒトタチ が、 ナニ か うたう よう に よんだり かぞえたり しながら たくさん はたらいて おりました。
ジョバンニ は すぐ イリグチ から 3 バンメ の たかい テーブル に すわった ヒト の ところ へ いって オジギ を しました。 その ヒト は しばらく タナ を さがして から、
「これだけ ひろって いける かね」 と いいながら、 1 マイ の カミキレ を わたしました。 ジョバンニ は その ヒト の テーブル の アシモト から ヒトツ の ちいさな ひらたい ハコ を とりだして ムコウ の デントウ の たくさん ついた、 たてかけて ある カベ の スミ の ところ へ しゃがみこむ と、 ちいさな ピンセット で まるで アワツブ ぐらい の カツジ を ツギ から ツギ と ひろいはじめました。 あおい ムネアテ を した ヒト が ジョバンニ の ウシロ を とおりながら、
「よう、 ムシメガネ くん、 おはよう」 と いいます と、 チカク の 4~5 ニン の ヒトタチ が コエ も たてず こっち も むかず に つめたく わらいました。
ジョバンニ は ナンベン も メ を ぬぐいながら カツジ を だんだん ひろいました。
6 ジ が うって しばらく たった コロ、 ジョバンニ は ひろった カツジ を いっぱい に いれた ひらたい ハコ を もう イチド テ に もった カミキレ と ひきあわせて から、 サッキ の テーブル の ヒト へ もって きました。 その ヒト は だまって それ を うけとって かすか に うなずきました。
ジョバンニ は オジギ を する と ト を あけて サッキ の ケイサンダイ の ところ に きました。 すると サッキ の シロフク を きた ヒト が やっぱり だまって ちいさな ギンカ を ヒトツ ジョバンニ に わたしました。 ジョバンニ は にわか に カオイロ が よく なって イセイ よく オジギ を する と、 ダイ の シタ に おいた カバン を もって オモテ へ とびだしました。 それから ゲンキ よく クチブエ を ふきながら パン-ヤ へ よって パン の カタマリ を ヒトツ と カクザトウ を ヒトフクロ かいます と イチモクサン に はしりだしました。
3、 イエ
ジョバンニ が イキオイ よく かえって きた の は、 ある ウラマチ の ちいさな イエ でした。 その ミッツ ならんだ イリグチ の いちばん ヒダリガワ には、 アキバコ に ムラサキイロ の ケール や アスパラガス が うえて あって、 ちいさな フタツ の マド には ヒオオイ が おりた まま に なって いました。
「オカアサン。 イマ かえった よ。 グアイ わるく なかった の」 ジョバンニ は クツ を ぬぎながら いいました。
「ああ、 ジョバンニ、 オシゴト が ひどかったろう。 キョウ は すずしくて ね。 ワタシ は ずうっと グアイ が いい よ」
ジョバンニ は ゲンカン を あがって いきます と、 ジョバンニ の オカアサン が すぐ イリグチ の ヘヤ に しろい キレ を かぶって やすんで いた の でした。 ジョバンニ は マド を あけました。
「オカアサン。 キョウ は カクザトウ を かって きた よ。 ギュウニュウ に いれて あげよう と おもって」
「ああ、 オマエ サキ に おあがり。 アタシ は まだ ほしく ない ん だ から」
「オカアサン。 ネエサン は いつ かえった の」
「ああ 3 ジ コロ かえった よ。 みんな そこら を して くれて ね」
「オカアサン の ギュウニュウ は きて いない ん だろう か」
「こなかったろう かねえ」
「ボク いって とって こよう」
「ああ、 アタシ は ゆっくり で いい ん だ から オマエ サキ に おあがり、 ネエサン が ね、 トマト で ナニ か こしらえて そこ へ おいて いった よ」
「では ボク たべよう」
ジョバンニ は マド の ところ から トマト の サラ を とって パン と イッショ に しばらく むしゃむしゃ たべました。
「ねえ オカアサン。 ボク オトウサン は きっと まもなく かえって くる と おもう よ」
「ああ アタシ も そう おもう。 けれども オマエ は どうして そう おもう の」
「だって ケサ の シンブン に コトシ は キタ の ほう の リョウ は たいへん よかった と かいて あった よ」
「ああ だけど ねえ、 オトウサン は リョウ へ でて いない かも しれない」
「きっと でて いる よ。 オトウサン が カンゴク へ はいる よう な そんな わるい こと を した はず が ない ん だ。 このまえ オトウサン が もって きて ガッコウ へ キゾウ した おおきな カニ の コウラ だの、 トナカイ の ツノ だの イマ だって みんな ヒョウホンシツ に ある ん だ。 6 ネンセイ なんか ジュギョウ の とき センセイ が かわるがわる キョウシツ へ もって いく よ。 イッサクネン シュウガク リョコウ で 〔イカ スウ-モジ ブン クウハク〕
「オトウサン は この ツギ は オマエ に ラッコ の ウワギ を もって くる と いった ねえ」
「ミンナ が ボク に あう と それ を いう よ。 ひやかす よう に いう ん だ」
「オマエ に ワルクチ を いう の」
「うん、 けれども カムパネルラ なんか けっして いわない。 カムパネルラ は ミンナ が そんな こと を いう とき は キノドク そう に して いる よ」
「あの ヒト は ウチ の オトウサン とは ちょうど オマエタチ の よう に ちいさい とき から の オトモダチ だった そう だよ」
「ああ、 だから オトウサン は ボク を つれて カムパネルラ の ウチ へも つれて いった よ。 あの コロ は よかった なあ。 ボク は ガッコウ から かえる トチュウ たびたび カムパネルラ の ウチ に よった。 カムパネルラ の ウチ には アルコール ラムプ で はしる キシャ が あった ん だ。 レール を ナナツ くみあわせる と まるく なって、 それ に デンチュウ や シンゴウヒョウ も ついて いて、 シンゴウヒョウ の アカリ は キシャ が とおる とき だけ あおく なる よう に なって いた ん だ。 いつか アルコール が なくなった とき セキユ を つかったら、 カマ が すっかり すすけた よ」
「そう かねえ」
「イマ も マイアサ シンブン を まわし に いく よ。 けれども いつでも イエジュウ まだ しぃん と して いる から な」
「はやい から ねえ」
「ザウエル と いう イヌ が いる よ。 シッポ が まるで ホウキ の よう だ。 ボク が いく と ハナ を ならして ついて くる よ。 ずうっと マチ の カド まで ついて くる。 もっと ついて くる こと も ある よ。 コンヤ は ミンナ で カラスウリ の アカリ を カワ へ ながし に いく ん だって。 きっと イヌ も ついて いく よ」
「そう だ。 コンバン は ギンガ の オマツリ だねえ」
「うん。 ボク ギュウニュウ を とりながら みて くる よ」
「ああ いって おいで。 カワ へは はいらないで ね」
「ああ ボク キシ から みる だけ なん だ。 1 ジカン で いって くる よ」
「もっと あそんで おいで。 カムパネルラ さん と イッショ なら シンパイ は ない から」
「ああ きっと イッショ だよ。 オカアサン、 マド を しめて おこう か」
「ああ、 どう か。 もう すずしい から ね」
ジョバンニ は たって マド を しめ オサラ や パン の フクロ を かたづける と イキオイ よく クツ を はいて、
「では 1 ジカン ハン で かえって くる よ」 と いいながら くらい トグチ を でました。
4、 ケンタウル-サイ の ヨル
ジョバンニ は、 クチブエ を ふいて いる よう な さびしい クチツキ で、 ヒノキ の マックロ に ならんだ マチ の サカ を おりて きた の でした。
サカ の シタ に おおきな ヒトツ の ガイトウ が、 あおじろく リッパ に ひかって たって いました。 ジョバンニ が、 どんどん デントウ の ほう へ おりて いきます と、 イマ まで バケモノ の よう に、 ながく ぼんやり、 ウシロ へ ひいて いた ジョバンニ の カゲボウシ は、 だんだん こく くろく はっきり なって、 アシ を あげたり テ を ふったり、 ジョバンニ の ヨコ の ほう へ まわって くる の でした。
(ボク は リッパ な キカンシャ だ。 ここ は コウバイ だ から はやい ぞ。 ボク は イマ その デントウ を とおりこす。 そうら、 コンド は ボク の カゲボウシ は コムパス だ。 あんな に くるっと まわって、 マエ の ほう へ きた。)
と ジョバンニ が おもいながら、 オオマタ に その ガイトウ の シタ を とおりすぎた とき、 いきなり ヒルマ の ザネリ が、 あたらしい エリ の とがった シャツ を きて デントウ の ムコウガワ の くらい コウジ から でて きて、 ひらっと ジョバンニ と すれちがいました。
「ザネリ、 カラスウリ ながし に いく の」 ジョバンニ が まだ そう いって しまわない うち に、
「ジョバンニ、 オトウサン から、 ラッコ の ウワギ が くる よ」 その コ が なげつける よう に ウシロ から さけびました。
ジョバンニ は、 ばっと ムネ が つめたく なり、 そこらじゅう きぃん と なる よう に おもいました。
「ナン だい。 ザネリ」 と ジョバンニ は たかく さけびかえしました が、 もう ザネリ は ムコウ の ヒバ の うわった イエ の ナカ へ はいって いました。
「ザネリ は どうして ボク が なんにも しない のに あんな こと を いう の だろう。 はしる とき は まるで ネズミ の よう な くせ に。 ボク が なんにも しない のに あんな こと を いう の は ザネリ が バカ な から だ」
ジョバンニ は、 せわしく イロイロ の こと を かんがえながら、 サマザマ の アカリ や キ の エダ で、 すっかり きれい に かざられた マチ を とおって いきました。 トケイヤ の ミセ には あかるく ネオン-トウ が ついて、 1 ビョウ ごと に イシ で こさえた フクロウ の あかい メ が、 くるっくるっ と うごいたり、 イロイロ な ホウセキ が ウミ の よう な イロ を した あつい ガラス の バン に のって、 ホシ の よう に ゆっくり めぐったり、 また ムコウガワ から、 ドウ の ジンバ が ゆっくり こっち へ まわって きたり する の でした。 その マンナカ に まるい くろい セイザ ハヤミ が あおい アスパラガス の ハ で かざって ありました。
ジョバンニ は ワレ を わすれて、 その セイザ の ズ に みいりました。
それ は ヒル ガッコウ で みた あの ズ より は ずうっと ちいさかった の です が、 その ヒ と ジカン に あわせて バン を まわす と、 その とき でて いる ソラ が そのまま ダエンケイ の ナカ に めぐって あらわれる よう に なって おり、 やはり その マンナカ には ウエ から シタ へ かけて ギンガ が ぼうと けむった よう な オビ に なって、 その シタ の ほう では かすか に バクハツ して ユゲ でも あげて いる よう に みえる の でした。 また その ウシロ には 3 ボン の アシ の ついた ちいさな ボウエンキョウ が キイロ に ひかって たって いました し、 いちばん ウシロ の カベ には ソラジュウ の セイザ を フシギ な ケモノ や ヘビ や サカナ や ビン の カタチ に かいた おおきな ズ が かかって いました。 ホントウ に こんな よう な サソリ だの ユウシ だの ソラ に ぎっしり いる だろう か、 ああ ボク は その ナカ を どこまでも あるいて みたい、 と おもってたり して しばらく ぼんやり たって いました。
それから にわか に オカアサン の ギュウニュウ の こと を おもいだして ジョバンニ は その ミセ を はなれました。 そして キュウクツ な ウワギ の カタ を キ に しながら、 それでも わざと ムネ を はって おおきく テ を ふって マチ を とおって いきました。
クウキ は すみきって、 まるで ミズ の よう に トオリ や ミセ の ナカ を ながれました し、 ガイトウ は みな マッサオ な モミ や ナラ の エダ で つつまれ、 デンキ-ガイシャ の マエ の 6 ポン の プラタヌス の キ など は、 ナカ に タクサン の マメデントウ が ついて、 ホントウ に そこら は ニンギョ の ミヤコ の よう に みえる の でした。 コドモ ら は、 ミンナ あたらしい オリ の ついた キモノ を きて、 ホシメグリ の クチブエ を ふいたり、
「ケンタウルス、 ツユ を ふらせ」 と さけんで はしったり、 あおい マグネシヤ の ハナビ を もしたり して、 たのしそう に あそんで いる の でした。 けれども ジョバンニ は、 いつか また ふかく クビ を たれて、 そこら の ニギヤカサ とは まるで ちがった こと を かんがえながら、 ギュウニュウヤ の ほう へ いそぐ の でした。
ジョバンニ は、 いつか マチハズレ の ポプラ の キ が イクホン も イクホン も、 たかく ホシゾラ に うかんで いる ところ に きて いました。 その ギュウニュウヤ の くろい モン を はいり、 ウシ の ニオイ の する うすくらい ダイドコロ の マエ に たって、 ジョバンニ は ボウシ を ぬいで 「こんばんわ、」 と いいましたら、 イエ の ナカ は しぃん と して ダレ も いた よう では ありません でした。
「こんばんわ、 ごめんなさい」 ジョバンニ は マッスグ に たって また さけびました。 すると しばらく たって から、 としとった オンナ の ヒト が、 どこ か グアイ が わるい よう に そろそろ と でて きて ナニ か ヨウ か と クチ の ナカ で いいました。
「あの、 キョウ、 ギュウニュウ が ボク ん とこ へ こなかった ので、 もらい に あがった ん です」 ジョバンニ が イッショウ ケンメイ イキオイ よく いいました。
「イマ ダレ も いない で わかりません。 アシタ に して ください」
その ヒト は、 あかい メ の シタ の とこ を こすりながら、 ジョバンニ を みおろして いいました。
「オッカサン が ビョウキ なん です から コンバン で ない と こまる ん です」
「では もうすこし たって から きて ください」 その ヒト は もう いって しまいそう でした。
「そう です か。 では ありがとう」 ジョバンニ は、 オジギ を して ダイドコロ から でました。
ジュウジ に なった マチ の カド を、 まがろう と しましたら、 ムコウ の ハシ へ いく ほう の ザッカテン の マエ で、 くろい カゲ や ぼんやり しろい シャツ が いりみだれて、 6~7 ニン の セイト ら が、 クチブエ を ふいたり わらったり して、 めいめい カラスウリ の アカリ を もって やって くる の を みました。 その ワライゴエ も クチブエ も、 みんな キキオボエ の ある もの でした。 ジョバンニ の ドウキュウ の コドモ ら だった の です。 ジョバンニ は おもわず どきっと して もどろう と しました が、 おもいなおして、 いっそう イキオイ よく そっち へ あるいて いきました。
「カワ へ いく の」 ジョバンニ が いおう と して、 すこし ノド が つまった よう に おもった とき、
「ジョバンニ、 ラッコ の ウワギ が くる よ」 サッキ の ザネリ が また さけびました。
「ジョバンニ、 ラッコ の ウワギ が くる よ」 すぐ ミンナ が、 つづいて さけびました。 ジョバンニ は マッカ に なって、 もう あるいて いる か も わからず、 いそいで いきすぎよう と しましたら、 その ナカ に カムパネルラ が いた の です。 カムパネルラ は キノドク そう に、 だまって すこし わらって、 おこらない だろう か と いう よう に ジョバンニ の ほう を みて いました。
ジョバンニ は、 にげる よう に その メ を さけ、 そして カムパネルラ の セイ の たかい カタチ が すぎて いって まもなく、 ミンナ は てんでに クチブエ を ふきました。 マチカド を まがる とき、 ふりかえって みましたら、 ザネリ が やはり ふりかえって みて いました。 そして カムパネルラ も また、 たかく クチブエ を ふいて ムコウ に ぼんやり みえる ハシ の ほう へ あるいて いって しまった の でした。 ジョバンニ は、 なんとも いえず さびしく なって、 いきなり はしりだしました。 すると ミミ に テ を あてて、 わああ と いいながら カタアシ で ぴょんぴょん とんで いた ちいさな コドモ ら は、 ジョバンニ が おもしろくて かける の だ と おもって わあい と さけびました。 まもなく ジョバンニ は くろい オカ の ほう へ いそぎました。
5、 テンキリン の ハシラ
ボクジョウ の ウシロ は ゆるい オカ に なって、 その くろい たいら な チョウジョウ は、 キタ の オオグマボシ の シタ に、 ぼんやり フダン より も ひくく つらなって みえました。
ジョバンニ は、 もう ツユ の ふりかかった ちいさな ハヤシ の コミチ を、 どんどん のぼって いきました。 マックラ な クサ や、 イロイロ な カタチ に みえる ヤブ の シゲミ の アイダ を、 その ちいさな ミチ が、 ヒトスジ しろく ホシアカリ に てらしだされて あった の です。 クサ の ナカ には、 ぴかぴか アオビカリ を だす ちいさな ムシ も いて、 ある ハ は あおく すかしだされ、 ジョバンニ は、 さっき ミンナ の もって いった カラスウリ の アカリ の よう だ とも おもいました。
その マックロ な、 マツ や ナラ の ハヤシ を こえる と、 にわか に がらん と ソラ が ひらけて、 アマノガワ が しらしら と ミナミ から キタ へ わたって いる の が みえ、 また イタダキ の、 テンキリン の ハシラ も みわけられた の でした。 ツリガネソウ か ノギク か の ハナ が、 そこら イチメン に、 ユメ の ナカ から でも かおりだした と いう よう に さき、 トリ が 1 ピキ、 オカ の ウエ を なきつづけながら とおって いきました。
ジョバンニ は、 イタダキ の テンキリン の ハシラ の シタ に きて、 どかどか する カラダ を、 つめたい クサ に なげました。
マチ の アカリ は、 ヤミ の ナカ を まるで ウミ の ソコ の オミヤ の ケシキ の よう に ともり、 コドモ ら の うたう コエ や クチブエ、 きれぎれ の サケビゴエ も かすか に きこえて くる の でした。 カゼ が トオク で なり、 オカ の クサ も しずか に そよぎ、 ジョバンニ の アセ で ぬれた シャツ も つめたく ひやされました。 ジョバンニ は マチ の ハズレ から とおく くろく ひろがった ノハラ を みわたしました。
そこ から キシャ の オト が きこえて きました。 その ちいさな レッシャ の マド は イチレツ ちいさく あかく みえ、 その ナカ には タクサン の タビビト が、 リンゴ を むいたり、 わらったり、 イロイロ な ふう に して いる と かんがえます と、 ジョバンニ は、 もう なんとも いえず かなしく なって、 また メ を ソラ に あげました。
ああ あの しろい ソラ の オビ が みんな ホシ だ と いう ぞ。
ところが いくら みて いて も、 その ソラ は ヒル センセイ の いった よう な、 がらん と した つめたい とこ だ とは おもわれません でした。 それ どころ で なく、 みれば みる ほど、 そこ は ちいさな ハヤシ や ボクジョウ やら ある ノハラ の よう に かんがえられて しかたなかった の です。 そして ジョバンニ は あおい コト の ホシ が、 ミッツ にも ヨッツ にも なって、 ちらちら またたき、 アシ が ナンベン も でたり ひっこんだり して、 とうとう キノコ の よう に ながく のびる の を みました。 また すぐ メノシタ の マチ まで が やっぱり ぼんやり した タクサン の ホシ の アツマリ か、 ヒトツ の おおきな ケムリ か の よう に みえる よう に おもいました。
6、 ギンガ ステーション
そして ジョバンニ は すぐ ウシロ の テンキリン の ハシラ が いつか ぼんやり した サンカクヒョウ の カタチ に なって、 しばらく ホタル の よう に、 ぺかぺか きえたり ともったり して いる の を みました。 それ は だんだん はっきり して、 とうとう りん と うごかない よう に なり、 こい コウセイ の ソラ の ノハラ に たちました。 イマ あたらしく やいた ばかり の あおい ハガネ の イタ の よう な、 ソラ の ノハラ に、 マッスグ に すきっと たった の です。
すると、 どこ か で、 フシギ な コエ が、 ギンガ ステーション、 ギンガ ステーション と いう コエ が した と おもう と いきなり メノマエ が、 ぱっと あかるく なって、 まるで オクマン の ホタルイカ の ヒ を イッペン に カセキ させて、 ソラジュウ に しずめた と いう グアイ、 また ダイアモンド-ガイシャ で、 ネダン が やすく ならない ため に、 わざと とれない フリ を して、 かくして おいた コンゴウセキ を、 ダレ か が いきなり ひっくりかえして、 ばらまいた と いう ふう に、 メノマエ が さあっと あかるく なって、 ジョバンニ は、 おもわず ナンベン も メ を こすって しまいました。
キ が ついて みる と、 サッキ から、 ごとごと ごとごと、 ジョバンニ の のって いる ちいさな レッシャ が はしりつづけて いた の でした。 ホントウ に ジョバンニ は、 ヨル の ケイベン テツドウ の、 ちいさな キイロ の デントウ の ならんだ シャシツ に、 マド から ソト を みながら すわって いた の です。 シャシツ の ナカ は、 あおい ビロウド を はった コシカケ が、 まるで ガラアキ で、 ムコウ の ネズミイロ の ワニス を ぬった カベ には、 シンチュウ の おおきな ボタン が フタツ ひかって いる の でした。
すぐ マエ の セキ に、 ぬれた よう に マックロ な ウワギ を きた、 セイ の たかい コドモ が、 マド から アタマ を だして ソト を みて いる の に キ が つきました。 そして その コドモ の カタ の アタリ が、 どうも みた こと の ある よう な キ が して、 そう おもう と、 もう どうしても ダレ だ か わかりたくて、 たまらなく なりました。 いきなり こっち も マド から カオ を だそう と した とき、 にわか に その コドモ が アタマ を ひっこめて、 こっち を みました。
それ は カムパネルラ だった の です。
ジョバンニ が、 カムパネルラ、 キミ は マエ から ここ に いた の と いおう と おもった とき、 カムパネルラ が、
「ミンナ は ね、 ずいぶん はしった けれども おくれて しまった よ。 ザネリ も ね、 ずいぶん はしった けれども おいつかなかった」 と いいました。
ジョバンニ は、 (そう だ、 ボクタチ は イマ、 イッショ に さそって でかけた の だ。) と おもいながら、
「どこ か で まって いよう か」 と いいました。 すると カムパネルラ は、
「ザネリ は もう かえった よ。 オトウサン が むかい に きた ん だ」
カムパネルラ は、 なぜか そう いいながら、 すこし カオイロ が あおざめて、 どこ か くるしい と いう ふう でした。 すると ジョバンニ も、 なんだか どこ か に、 ナニ か わすれた もの が ある と いう よう な、 おかしな キモチ が して だまって しまいました。
ところが カムパネルラ は、 マド から ソト を のぞきながら、 もう すっかり ゲンキ が なおって、 イキオイ よく いいました。
「ああ しまった。 ボク、 スイトウ を わすれて きた。 スケッチ-チョウ も わすれて きた。 けれど かまわない。 もう じき ハクチョウ の テイシャバ だ から。 ボク、 ハクチョウ を みる なら、 ホントウ に すき だ。 カワ の トオク を とんで いたって、 ボク は きっと みえる」
そして、 カムパネルラ は、 まるい イタ の よう に なった チズ を、 しきり に ぐるぐる まわして みて いました。 まったく その ナカ に、 しろく あらわされた アマノガワ の ヒダリ の キシ に そって イチジョウ の テツドウ センロ が、 ミナミ へ ミナミ へ と たどって いく の でした。 そして その チズ の リッパ な こと は、 ヨル の よう に マックロ な バン の ウエ に、 イチイチ の テイシャバ や サンカクヒョウ、 センスイ や モリ が、 アオ や ダイダイ や ミドリ や、 うつくしい ヒカリ で ちりばめられて ありました。 ジョバンニ は なんだか その チズ を どこ か で みた よう に おもいました。
「この チズ は どこ で かった の。 コクヨウセキ で できてる ねえ」
ジョバンニ が いいました。
「ギンガ ステーション で、 もらった ん だ。 キミ もらわなかった の」
「ああ、 ボク ギンガ ステーション を とおったろう か。 イマ ボクタチ の いる とこ、 ここ だろう」
ジョバンニ は、 ハクチョウ と かいて ある テイシャバ の シルシ の、 すぐ キタ を さしました。
「そう だ。 おや、 あの カワラ は ツキヨ だろう か」
そっち を みます と、 あおじろく ひかる ギンガ の キシ に、 ギンイロ の ソラ の ススキ が、 もう まるで イチメン、 カゼ に さらさら さらさら、 ゆられて うごいて、 ナミ を たてて いる の でした。
「ツキヨ で ない よ。 ギンガ だ から ひかる ん だよ」 ジョバンニ は いいながら、 まるで はねあがりたい くらい ユカイ に なって、 アシ を こつこつ ならし、 マド から カオ を だして、 たかく たかく ホシメグリ の クチブエ を ふきながら イッショウ ケンメイ のびあがって、 その アマノガワ の ミズ を、 みきわめよう と しました が、 ハジメ は どうしても それ が、 はっきり しません でした。 けれども だんだん キ を つけて みる と、 その きれい な ミズ は、 ガラス より も スイソ より も すきとおって、 ときどき メ の カゲン か、 ちらちら ムラサキイロ の こまか な ナミ を たてたり、 ニジ の よう に ぎらっと ひかったり しながら、 コエ も なく どんどん ながれて いき、 ノハラ には あっち にも こっち にも、 リンコウ の サンカクヒョウ が、 うつくしく たって いた の です。 とおい もの は ちいさく、 ちかい もの は おおきく、 とおい もの は ダイダイ や キイロ で はっきり し、 ちかい もの は あおじろく すこし かすんで、 あるいは サンカクケイ、 あるいは シヘンケイ、 あるいは イナズマ や クサリ の カタチ、 サマザマ に ならんで、 ノハラ いっぱい ひかって いる の でした。 ジョバンニ は、 まるで どきどき して、 アタマ を やけに ふりました。 すると ホントウ に、 その きれい な ノハラ-ジュウ の アオ や ダイダイ や、 いろいろ かがやく サンカクヒョウ も、 てんでに イキ を つく よう に、 ちらちら ゆれたり ふるえたり しました。
「ボク は もう、 すっかり テン の ノハラ に きた」 ジョバンニ は いいました。
「それに この キシャ、 セキタン を たいて いない ねえ」 ジョバンニ が ヒダリテ を つきだして マド から マエ の ほう を みながら いいました。
「アルコール か デンキ だろう」 カムパネルラ が いいました。
ごとごと ごとごと、 その ちいさな きれい な キシャ は、 ソラ の ススキ の カゼ に ひるがえる ナカ を、 アマノガワ の ミズ や、 サンカクテン の あおじろい ビコウ の ナカ を、 どこまでも どこまでも と、 はしって いく の でした。
「ああ、 リンドウ の ハナ が さいて いる。 もう すっかり アキ だねえ」 カムパネルラ が、 マド の ソト を ゆびさして いいました。
センロ の ヘリ に なった みじかい シバクサ の ナカ に、 ゲッチョウセキ で でも きざまれた よう な、 すばらしい ムラサキ の リンドウ の ハナ が さいて いました。
「ボク、 とびおりて、 あいつ を とって、 また とびのって みせよう か」 ジョバンニ は ムネ を おどらせて いいました。
「もう ダメ だ。 あんな に ウシロ へ いって しまった から」
カムパネルラ が、 そう いって しまう か しまわない うち、 ツギ の リンドウ の ハナ が、 いっぱい に ひかって すぎて いきました。
と おもったら、 もう ツギ から ツギ から、 タクサン の キイロ な ソコ を もった リンドウ の ハナ の コップ が、 わく よう に、 アメ の よう に、 メノマエ を とおり、 サンカクヒョウ の レツ は、 けむる よう に もえる よう に、 いよいよ ひかって たった の です。
7、 キタ ジュウジ と プリオシン カイガン
「オッカサン は、 ボク を ゆるして くださる だろう か」
いきなり、 カムパネルラ が、 おもいきった と いう よう に、 すこし どもりながら、 せきこんで いいました。
ジョバンニ は、
(ああ、 そう だ、 ボク の オッカサン は、 あの とおい ヒトツ の チリ の よう に みえる ダイダイイロ の サンカクヒョウ の アタリ に いらっしゃって、 イマ ボク の こと を かんがえて いる ん だった。) と おもいながら、 ぼんやり して だまって いました。
「ボク は オッカサン が、 ホントウ に サイワイ に なる なら、 どんな こと でも する。 けれども、 いったい どんな こと が、 オッカサン の イチバン の サイワイ なん だろう」 カムパネルラ は、 なんだか、 なきだしたい の を、 イッショウ ケンメイ こらえて いる よう でした。
「キミ の オッカサン は、 なんにも ひどい こと ない じゃ ない の」 ジョバンニ は びっくり して さけびました。
「ボク わからない。 けれども、 ダレ だって、 ホントウ に いい こと を したら、 いちばん サイワイ なん だねえ。 だから、 オッカサン は、 ボク を ゆるして くださる と おもう」 カムパネルラ は、 ナニ か ホントウ に ケッシン して いる よう に みえました。
にわか に、 クルマ の ナカ が、 ぱっと しろく あかるく なりました。 みる と、 もう じつに、 コンゴウセキ や クサ の ツユ や あらゆる リッパサ を あつめた よう な、 きらびやか な ギンガ の カワドコ の ウエ を ミズ は コエ も なく カタチ も なく ながれ、 その ナガレ の マンナカ に、 ぼうっと あおじろく ゴコウ の さした ヒトツ の シマ が みえる の でした。 その シマ の たいら な イタダキ に、 リッパ な メ も さめる よう な、 しろい ジュウジカ が たって、 それ は もう こおった ホッキョク の クモ で いた と いったら いい か、 すきっと した キンイロ の エンコウ を いただいて、 しずか に エイキュウ に たって いる の でした。
「ハルレヤ、 ハルレヤ」 マエ から も ウシロ から も コエ が おこりました。 ふりかえって みる と、 シャシツ の ナカ の タビビト たち は、 ミナ マッスグ に キモノ の ヒダ を たれ、 くろい バイブル を ムネ に あてたり、 スイショウ の ジュズ を かけたり、 どの ヒト も つつましく ユビ を くみあわせて、 そっち に いのって いる の でした。 おもわず フタリ も マッスグ に たちあがりました。 カムパネルラ の ホオ は、 まるで じゅくした リンゴ の アカシ の よう に うつくしく かがやいて みえました。
そして シマ と ジュウジカ とは、 だんだん ウシロ の ほう へ うつって いきました。
ムコウギシ も、 あおじろく ぽうっと ひかって けむり、 ときどき、 やっぱり ススキ が カゼ に ひるがえる らしく、 さっと その ギンイロ が けむって、 イキ でも かけた よう に みえ、 また、 タクサン の リンドウ の ハナ が、 クサ を かくれたり でたり する の は、 やさしい キツネビ の よう に おもわれました。
それ も ほんの ちょっと の アイダ、 カワ と キシャ との アイダ は、 ススキ の レツ で さえぎられ、 ハクチョウ の シマ は、 2 ド ばかり、 ウシロ の ほう に みえました が、 じき もう ずうっと とおく ちいさく、 エ の よう に なって しまい、 また ススキ が ざわざわ なって、 とうとう すっかり みえなく なって しまいました。 ジョバンニ の ウシロ には、 いつから のって いた の か、 セイ の たかい、 くろい カツギ を した カトリック-フウ の アマ さん が、 マンマル な ミドリ の ヒトミ を、 じっと マッスグ に おとして、 まだ ナニ か コトバ か コエ か が、 そっち から つたわって くる の を、 つつしんで きいて いる と いう よう に みえました。 タビビト たち は しずか に セキ に もどり、 フタリ も ムネイッパイ の カナシミ に にた あたらしい キモチ を、 なにげなく ちがった コトバ で、 そっと はなしあった の です。
「もう じき ハクチョウ の テイシャバ だねえ」
「ああ、 11 ジ かっきり には つく ん だよ」
はやくも、 シグナル の ミドリ の アカリ と、 ぼんやり しろい ハシラ と が、 ちらっと マド の ソト を すぎ、 それから イオウ の ホノオ の よう な くらい ぼんやり した テンテツキ の マエ の アカリ が マド の シタ を とおり、 キシャ は だんだん ゆるやか に なって、 まもなく プラットホーム の イチレツ の デントウ が、 うつくしく キソク ただしく あらわれ、 それ が だんだん おおきく なって ひろがって、 フタリ は ちょうど ハクチョウ テイシャバ の、 おおきな トケイ の マエ に きて とまりました。
さわやか な アキ の トケイ の ダイアル には、 あおく やかれた ハガネ の 2 ホン の ハリ が、 くっきり 11 ジ を さしました。 ミンナ は、 イッペン に おりて、 シャシツ の ナカ は がらん と なって しまいました。
〔20 プン テイシャ〕 と トケイ の シタ に かいて ありました。
「ボクタチ も おりて みよう か」 ジョバンニ が いいました。
「おりよう」
フタリ は イチド に はねあがって ドア を とびだして カイサツグチ へ かけて いきました。 ところが カイサツグチ には、 あかるい むらさきがかった デントウ が、 ヒトツ ついて いる ばかり、 ダレ も いません でした。 そこらじゅう を みて も、 エキチョウ や アカボウ らしい ヒト の、 カゲ も なかった の です。
フタリ は、 テイシャバ の マエ の、 スイショウ-ザイク の よう に みえる イチョウ の キ に かこまれた、 ちいさな ヒロバ に でました。 そこ から ハバ の ひろい ミチ が、 マッスグ に ギンガ の アオビカリ の ナカ へ とおって いました。
サキ に おりた ヒトタチ は、 もう どこ へ いった か ヒトリ も みえません でした。 フタリ が その しろい ミチ を、 カタ を ならべて いきます と、 フタリ の カゲ は、 ちょうど シホウ に マド の ある ヘヤ の ナカ の、 2 ホン の ハシラ の カゲ の よう に、 また フタツ の シャリン の ヤ の よう に イクホン も イクホン も シホウ へ でる の でした。 そして まもなく、 あの キシャ から みえた きれい な カワラ に きました。
カムパネルラ は、 その きれい な スナ を ヒトツマミ、 テノヒラ に ひろげ、 ユビ で きしきし させながら、 ユメ の よう に いって いる の でした。
「この スナ は みんな スイショウ だ。 ナカ で ちいさな ヒ が もえて いる」
「そう だ」 どこ で ボク は、 そんな こと ならったろう と おもいながら、 ジョバンニ も ぼんやり こたえて いました。
カワラ の コイシ は、 みんな すきとおって、 たしか に スイショウ や トパース や、 また くしゃくしゃ の シュウキョク を あらわした の や、 また カド から キリ の よう な あおじろい ヒカリ を だす コウギョク やら でした。 ジョバンニ は、 はしって その ナギサ に いって、 ミズ に テ を ひたしました。 けれども あやしい その ギンガ の ミズ は、 スイソ より も もっと すきとおって いた の です。 それでも たしか に ながれて いた こと は、 フタリ の テクビ の、 ミズ に ひたった とこ が、 すこし スイギンイロ に ういた よう に みえ、 その テクビ に ぶっつかって できた ナミ は、 うつくしい リンコウ を あげて、 ちらちら と もえる よう に みえた の でも わかりました。
カワカミ の ほう を みる と、 ススキ の いっぱい に はえて いる ガケ の シタ に、 しろい イワ が、 まるで ウンドウジョウ の よう に たいら に カワ に そって でて いる の でした。 そこ に ちいさな 5~6 ニン の ヒトカゲ が、 ナニ か ほりだす か うめる か して いる らしく、 たったり かがんだり、 ときどき ナニ か の ドウグ が、 ぴかっと ひかったり しました。
「いって みよう」 フタリ は、 まるで イチド に さけんで、 そっち の ほう へ はしりました。 その しろい イワ に なった ところ の イリグチ に、
〔プリオシン カイガン〕 と いう、 セトモノ の つるつる した ヒョウサツ が たって、 ムコウ の ナギサ には、 ところどころ、 ほそい テツ の ランカン も うえられ、 モクセイ の きれい な ベンチ も おいて ありました。
「おや、 ヘン な もの が ある よ」 カムパネルラ が、 フシギ そう に たちどまって、 イワ から くろい ほそながい サキ の とがった クルミ の ミ の よう な もの を ひろいました。
「クルミ の ミ だよ。 そら、 たくさん ある。 ながれて きた ん じゃ ない。 イワ の ナカ に はいってる ん だ」
「おおきい ね、 この クルミ、 バイ ある ね。 こいつ は すこしも いたんで ない」
「はやく あすこ へ いって みよう。 きっと ナニ か ほってる から」
フタリ は、 ギザギザ の くろい クルミ の ミ を もちながら、 また サッキ の ほう へ ちかよって いきました。 ヒダリテ の ナギサ には、 ナミ が やさしい イナズマ の よう に もえて よせ、 ミギテ の ガケ には、 イチメン ギン や カイガラ で こさえた よう な ススキ の ホ が ゆれた の です。
だんだん ちかづいて みる と、 ヒトリ の セイ の たかい、 ひどい キンガンキョウ を かけ、 ナガグツ を はいた ガクシャ らしい ヒト が、 テチョウ に ナニ か せわしそう に かきつけながら、 ツルハシ を ふりあげたり、 スコープ を つかったり して いる、 3 ニン の ジョシュ らしい ヒトタチ に ムチュウ で いろいろ サシズ を して いました。
「そこ の その トッキ を こわさない よう に。 スコープ を つかいたまえ、 スコープ を。 おっと、 もすこし トオク から ほって。 いけない、 いけない。 なぜ そんな ランボウ を する ん だ」
みる と、 その しろい やわらか な イワ の ナカ から、 おおきな おおきな あおじろい ケモノ の ホネ が、 ヨコ に たおれて つぶれた と いう ふう に なって、 ハンブン イジョウ ほりだされて いました。 そして キ を つけて みる と、 そこら には、 ヒヅメ の フタツ ある アシアト の ついた イワ が、 シカク に トオ ばかり、 きれい に きりとられて バンゴウ が つけられて ありました。
「キミタチ は サンカン かね」 その ダイガクシ らしい ヒト が、 メガネ を きらっと させて、 こっち を みて はなしかけました。
「クルミ が たくさん あったろう。 それ は まあ、 ざっと 120 マン-ネン ぐらい マエ の クルミ だよ。 ごく あたらしい ほう さ。 ここ は 120 マン-ネン マエ、 ダイ 3 キ の アト の コロ は カイガン で ね、 この シタ から は カイガラ も でる。 イマ カワ の ながれて いる とこ に、 そっくり シオミズ が よせたり ひいたり も して いた の だ。 この ケモノ かね、 これ は ボス と いって ね、 おいおい、 そこ ツルハシ は よしたまえ。 テイネイ に ノミ で やって くれたまえ。 ボス と いって ね、 イマ の ウシ の センゾ で、 ムカシ は たくさん いた さ」
「ヒョウホン に する ん です か」
「いや、 ショウメイ する に いる ん だ。 ボクラ から みる と、 ここ は あつい リッパ な チソウ で、 120 マン-ネン ぐらい マエ に できた と いう ショウコ も いろいろ あがる けれども、 ボクラ と ちがった ヤツ から みて も やっぱり こんな チソウ に みえる か どう か、 あるいは カゼ か ミズ や がらん と した ソラ か に みえ や しない か と いう こと なの だ。 わかった かい。 けれども、 おいおい。 そこ も スコープ では いけない。 その すぐ シタ に ロッコツ が うもれてる はず じゃ ない か」 ダイガクシ は あわてて はしって いきました。
「もう ジカン だよ。 いこう」 カムパネルラ が チズ と ウデドケイ と を くらべながら いいました。
「ああ、 では ワタクシドモ は シツレイ いたします」 ジョバンニ は、 テイネイ に ダイガクシ に オジギ しました。
「そう です か。 いや、 さよなら」 ダイガクシ は、 また いそがしそう に、 あちこち あるきまわって カントク を はじめました。 フタリ は、 その しろい イワ の ウエ を、 イッショウ ケンメイ キシャ に おくれない よう に はしりました。 そして ホントウ に、 カゼ の よう に はしれた の です。 イキ も きれず ヒザ も あつく なりません でした。
こんな に して かける なら、 もう セカイジュウ だって かけれる と、 ジョバンニ は おもいました。
そして フタリ は、 マエ の あの カワラ を とおり、 カイサツグチ の デントウ が だんだん おおきく なって、 まもなく フタリ は、 モト の シャシツ の セキ に すわって、 イマ いって きた ほう を、 マド から みて いました。
8、 トリ を とる ヒト
「ここ へ かけて も よう ございます か」
がさがさ した、 けれども シンセツ そう な、 オトナ の コエ が、 フタリ の ウシロ で きこえました。
それ は、 チャイロ の すこし ぼろぼろ の ガイトウ を きて、 しろい キレ で つつんだ ニモツ を、 フタツ に わけて カタ に かけた、 アカヒゲ の セナカ の かがんだ ヒト でした。
「ええ、 いい ん です」 ジョバンニ は、 すこし カタ を すぼめて アイサツ しました。 その ヒト は、 ヒゲ の ナカ で かすか に わらいながら、 ニモツ を ゆっくり アミダナ に のせました。 ジョバンニ は、 ナニ か たいへん さびしい よう な かなしい よう な キ が して、 だまって ショウメン の トケイ を みて いましたら、 ずうっと マエ の ほう で、 ガラス の フエ の よう な もの が なりました。 キシャ は もう、 しずか に うごいて いた の です。 カムパネルラ は、 シャシツ の テンジョウ を、 あちこち みて いました。 その ヒトツ の アカリ に くろい カブトムシ が とまって その カゲ が おおきく テンジョウ に うつって いた の です。 アカヒゲ の ヒト は、 ナニ か なつかしそう に わらいながら、 ジョバンニ や カムパネルラ の ヨウス を みて いました。 キシャ は もう だんだん はやく なって、 ススキ と カワ と、 かわるがわる マド の ソト から ひかりました。
アカヒゲ の ヒト が、 すこし おずおず しながら、 フタリ に ききました。
「アナタガタ は、 どちら へ いらっしゃる ん です か」
「どこまでも いく ん です」 ジョバンニ は、 すこし きまりわるそう に こたえました。
「それ は いい ね。 この キシャ は、 じっさい、 どこ まで でも いきます ぜ」
「アナタ は どこ へ いく ん です」 カムパネルラ が、 いきなり、 ケンカ の よう に たずねました ので、 ジョバンニ は、 おもわず わらいました。 すると、 ムコウ の セキ に いた、 とがった ボウシ を かぶり、 おおきな カギ を コシ に さげた ヒト も、 ちらっと こっち を みて わらいました ので、 カムパネルラ も、 つい カオ を あかく して わらいだして しまいました。 ところが その ヒト は べつに おこった でも なく、 ホオ を ぴくぴく しながら ヘンジ しました。
「ワッシ は すぐ そこ で おります。 ワッシ は、 トリ を つかまえる ショウバイ で ね」
「ナニドリ です か」
「ツル や ガン です。 サギ も ハクチョウ も です」
「ツル は たくさん います か」
「います とも、 サッキ から ないて まさあ。 きかなかった の です か」
「いいえ」
「イマ でも きこえる じゃ ありません か。 そら、 ミミ を すまして きいて ごらんなさい」
フタリ は メ を あげ、 ミミ を すましました。 ごとごと なる キシャ の ヒビキ と、 ススキ の カゼ との アイダ から、 ころん ころん と ミズ の わく よう な オト が きこえて くる の でした。
「ツル、 どうして とる ん です か」
「ツル です か、 それとも サギ です か」
「サギ です」 ジョバンニ は、 どっち でも いい と おもいながら こたえました。
「そいつ は な、 ぞうさない。 サギ と いう もの は、 みんな アマノガワ の スナ が こごって、 ぼおっと できる もん です から ね、 そして しじゅう カワ へ かえります から ね、 カワラ で まって いて、 サギ が みんな、 アシ を こういう ふう に して おりて くる とこ を、 そいつ が ジベタ へ つく か つかない うち に、 ぴたっと おさえちまう ん です。 すると もう サギ は、 かたまって アンシン して しんじまいます。 アト は もう、 わかりきって まさあ。 オシバ に する だけ です」
「サギ を オシバ に する ん です か。 ヒョウホン です か」
「ヒョウホン じゃ ありません。 ミンナ たべる じゃ ありません か」
「おかしい ねえ」 カムパネルラ が クビ を かしげました。
「おかしい も フシン も ありません や。 そら」 その オトコ は たって、 アミダナ から ツツミ を おろして、 てばやく くるくる と ときました。
「さあ、 ごらんなさい。 イマ とって きた ばかり です」
「ホントウ に サギ だねえ」 フタリ は おもわず さけびました。 マッシロ な、 あの サッキ の キタ の ジュウジカ の よう に ひかる サギ の カラダ が、 トオ ばかり、 すこし ひらべったく なって、 くろい アシ を ちぢめて、 ウキボリ の よう に ならんで いた の です。
「メ を つぶってる ね」 カムパネルラ は、 ユビ で そっと、 サギ の ミカヅキガタ の しろい つぶった メ に さわりました。 アタマ の ウエ の ヤリ の よう な しろい ケ も ちゃんと ついて いました。
「ね、 そう でしょう」 トリトリ は フロシキ を かさねて、 また くるくる と つつんで ヒモ で くくりました。 ダレ が いったい ここら で サギ なんぞ たべる だろう と ジョバンニ は おもいながら ききました。
「サギ は おいしい ん です か」
「ええ、 マイニチ チュウモン が あります。 しかし ガン の ほう が、 もっと うれます。 ガン の ほう が ずっと ガラ が いい し、 だいいち テスウ が ありません から な。 そら」 トリトリ は、 また ベツ の ほう の ツツミ を ときました。 すると キ と アオジロ と マダラ に なって、 ナニ か の アカリ の よう に ひかる ガン が、 ちょうど サッキ の サギ の よう に、 クチバシ を そろえて、 すこし ひらべったく なって、 ならんで いました。
「こっち は すぐ たべられます。 どう です、 すこし おあがりなさい」 トリトリ は、 キイロ な ガン の アシ を、 かるく ひっぱりました。 すると それ は、 チョコレート で でも できて いる よう に、 すっと きれい に はなれました。
「どう です。 すこし たべて ごらんなさい」 トリトリ は、 それ を フタツ に ちぎって わたしました。 ジョバンニ は、 ちょっと たべて みて、 (ナン だ、 やっぱり こいつ は オカシ だ。 チョコレート より も、 もっと おいしい けれども、 こんな ガン が とんで いる もん か。 この オトコ は、 どこ か そこら の ノハラ の カシヤ だ。 けれども ボク は、 この ヒト を バカ に しながら、 この ヒト の オカシ を たべて いる の は、 たいへん キノドク だ。) と おもいながら、 やっぱり ぽくぽく それ を たべて いました。
「もすこし おあがりなさい」 トリトリ が また ツツミ を だしました。 ジョバンニ は、 もっと たべたかった の です けれども、
「ええ、 ありがとう」 と いって エンリョ しましたら、 トリトリ は、 コンド は ムコウ の セキ の、 カギ を もった ヒト に だしました。
「いや、 ショウバイモノ を もらっちゃ すみません な」 その ヒト は、 ボウシ を とりました。
「いいえ、 どう いたしまして。 どう です、 コトシ の ワタリドリ の ケイキ は」
「いや、 すてき な もん です よ。 オトトイ の ダイ 2 ゲン コロ なんか、 なぜ トウダイ の ヒ を、 キソク イガイ に カン 〔1 ジ ブン クウハク〕 させる か って、 あっち から も こっち から も、 デンワ で コショウ が きました が、 なあに、 こっち が やる ん じゃ なくて、 ワタリドリ ども が、 マックロ に かたまって、 アカシ の マエ を とおる の です から シカタ ありません や。 ワタシャ、 べらぼうめ、 そんな クジョウ は、 オレ の とこ へ もって きたって シカタ が ねえ や、 ばさばさ の マント を きて アシ と クチ との トホウ も なく ほそい タイショウ へ やれ って、 こう いって やりました がね、 はっは」
ススキ が なくなった ため に、 ムコウ の ノハラ から、 ぱっと アカリ が さして きました。
「サギ の ほう は なぜ テスウ なん です か」 カムパネルラ は、 サッキ から、 きこう と おもって いた の です。
「それ は ね、 サギ を たべる には、」 トリトリ は、 こっち に むきなおりました。
「アマノガワ の ミズアカリ に、 トオカ も つるして おく かね、 そう で なきゃ、 スナ に サン、 ヨッカ うずめなきゃ いけない ん だ。 そう する と、 スイギン が みんな ジョウハツ して、 たべられる よう に なる よ」
「こいつ は トリ じゃ ない。 タダ の オカシ でしょう」 やっぱり おなじ こと を かんがえて いた と みえて、 カムパネルラ が、 おもいきった と いう よう に、 たずねました。 トリトリ は、 ナニ か たいへん あわてた ふう で、
「そうそう、 ここ で おりなきゃ」 と いいながら、 たって ニモツ を とった と おもう と、 もう みえなく なって いました。
「どこ へ いった ん だろう」
フタリ は カオ を みあわせましたら、 トウダイモリ は、 にやにや わらって、 すこし のびあがる よう に しながら、 フタリ の ヨコ の マド の ソト を のぞきました。 フタリ も そっち を みましたら、 タッタイマ の トリトリ が、 キイロ と アオジロ の、 うつくしい リンコウ を だす、 イチメン の カワラ ハハコグサ の ウエ に たって、 マジメ な カオ を して リョウテ を ひろげて、 じっと ソラ を みて いた の です。
「あすこ へ いってる。 ずいぶん キタイ だねえ。 きっと また トリ を つかまえる とこ だねえ。 キシャ が はしって いかない うち に、 はやく トリ が おりる と いい な」 と いった トタン、 がらん と した キキョウイロ の ソラ から、 さっき みた よう な サギ が、 まるで ユキ の ふる よう に、 ぎゃあぎゃあ さけびながら、 いっぱい に まいおりて きました。 すると あの トリトリ は、 すっかり チュウモンドオリ だ と いう よう に ほくほく して、 リョウアシ を かっきり 60 ド に ひらいて たって、 サギ の ちぢめて おりて くる くろい アシ を リョウテ で カタッパシ から おさえて、 ヌノ の フクロ の ナカ に いれる の でした。 すると サギ は、 ホタル の よう に、 フクロ の ナカ で しばらく、 あおく ぺかぺか ひかったり きえたり して いました が、 オシマイ とうとう、 みんな ぼんやり しろく なって、 メ を つぶる の でした。 ところが、 つかまえられる トリ より は、 つかまえられない で ブジ に アマノガワ の スナ の ウエ に おりる もの の ほう が おおかった の です。 それ は みて いる と、 アシ が スナ へ つく や いなや、 まるで ユキ の とける よう に、 ちぢまって ひらべったく なって、 まもなく ヨウコウロ から でた ドウ の シル の よう に、 スナ や ジャリ の ウエ に ひろがり、 しばらく は トリ の カタチ が、 スナ に ついて いる の でした が、 それ も 2~3 ド あかるく なったり くらく なったり して いる うち に、 もう すっかり マワリ と おなじ イロ に なって しまう の でした。
トリトリ は 20 ピキ ばかり、 フクロ に いれて しまう と、 キュウ に リョウテ を あげて、 ヘイタイ が テッポウダマ に あたって、 しぬ とき の よう な カタチ を しました。 と おもったら、 もう そこ に トリトリ の カタチ は なくなって、 かえって、
「ああ せいせい した。 どうも カラダ に ちょうど あう ほど かせいで いる くらい、 いい こと は ありません な」 と いう キキオボエ の ある コエ が、 ジョバンニ の トナリ に しました。 みる と トリトリ は、 もう そこ で とって きた サギ を、 きちんと そろえて、 ヒトツ ずつ かさねなおして いる の でした。
「どうして あすこ から、 イッペン に ここ へ きた ん です か」 ジョバンニ が、 なんだか アタリマエ の よう な、 アタリマエ で ない よう な、 おかしな キ が して といました。
「どうして って、 こよう と した から きた ん です。 ぜんたい アナタガタ は、 どちら から オイデ です か」
ジョバンニ は、 すぐ ヘンジ しよう と おもいました けれども、 さあ、 ぜんたい どこ から きた の か、 もう どうしても かんがえつきません でした。 カムパネルラ も、 カオ を マッカ に して ナニ か おもいだそう と して いる の でした。
「ああ、 トオク から です ね」 トリトリ は、 わかった と いう よう に ぞうさなく うなずきました。
9、 ジョバンニ の キップ
「もう ここら は ハクチョウ-ク の オシマイ です。 ごらんなさい。 あれ が なだかい アルビレオ の カンソクジョ です」
マド の ソト の、 まるで ハナビ で いっぱい の よう な、 アマノガワ の マンナカ に、 くろい おおきな タテモノ が 4 ムネ ばかり たって、 その ヒトツ の ヒラヤネ の ウエ に、 メ も さめる よう な、 サファイア と トパース の おおきな フタツ の すきとおった タマ が、 ワ に なって しずか に くるくる と まわって いました。 キイロ の が だんだん ムコウ へ まわって いって、 あおい ちいさい の が こっち へ すすんで き、 まもなく フタツ の ハジ は、 かさなりあって、 きれい な ミドリイロ の リョウメン トツ-レンズ の カタチ を つくり、 それ も だんだん、 マンナカ が ふくらみだして、 とうとう あおい の は、 すっかり トパース の ショウメン に きました ので、 ミドリ の チュウシン と キイロ な あかるい ワ と が できました。 それ が また だんだん ヨコ へ それて、 マエ の レンズ の カタチ を ギャク に くりかえし、 とうとう すっと はなれて、 サファイア は ムコウ へ めぐり、 キイロ の は こっち へ すすみ、 また ちょうど サッキ の よう な ふう に なりました。 ギンガ の、 カタチ も なく オト も ない ミズ に かこまれて、 ホントウ に その くろい ソッコウジョ が、 ねむって いる よう に、 しずか に よこたわった の です。
「あれ は、 ミズ の ハヤサ を はかる キカイ です。 ミズ も……」 トリトリ が いいかけた とき、
「キップ を ハイケン いたします」 3 ニン の セキ の ヨコ に、 あかい ボウシ を かぶった セイ の たかい シャショウ が、 いつか マッスグ に たって いて いいました。 トリトリ は、 だまって カクシ から、 ちいさな カミキレ を だしました。 シャショウ は ちょっと みて、 すぐ メ を そらして、 (アナタガタ の は?) と いう よう に、 ユビ を うごかしながら、 テ を ジョバンニ たち の ほう へ だしました。
「さあ、」 ジョバンニ は こまって、 もじもじ して いましたら、 カムパネルラ は、 ワケ も ない と いう ふう で、 ちいさな ネズミイロ の キップ を だしました。 ジョバンニ は、 すっかり あわてて しまって、 もしか ウワギ の ポケット に でも、 はいって いた か と おもいながら、 テ を いれて みましたら、 ナニ か おおきな たたんだ カミキレ に あたりました。 こんな もの はいって いたろう か と おもって、 いそいで だして みましたら、 それ は ヨッツ に おった ハガキ ぐらい の オオキサ の ミドリイロ の カミ でした。 シャショウ が テ を だして いる もん です から なんでも かまわない、 やっちまえ と おもって わたしましたら、 シャショウ は マッスグ に たちなおって テイネイ に それ を ひらいて みて いました。 そして よみながら ウワギ の ボタン や なんか しきり に なおしたり して いました し、 トウダイ カンシュ も シタ から それ を ネッシン に のぞいて いました から、 ジョバンニ は たしか に あれ は ショウメイショ か ナニ か だった と かんがえて すこし ムネ が あつく なる よう な キ が しました。
「これ は サンジ クウカン の ほう から おもち に なった の です か」 シャショウ が たずねました。
「なんだか わかりません」 もう だいじょうぶ だ と アンシン しながら ジョバンニ は そっち を みあげて くつくつ わらいました。
「よろしゅう ございます。 サウザン クロス へ つきます の は、 ツギ の ダイ 3 ジ コロ に なります」 シャショウ は カミ を ジョバンニ に わたして ムコウ へ いきました。
カムパネルラ は、 その カミキレ が ナン だった か まちかねた と いう よう に いそいで のぞきこみました。 ジョバンニ も まったく はやく みたかった の です。 ところが それ は イチメン くろい カラクサ の よう な モヨウ の ナカ に、 おかしな トオ ばかり の ジ を インサツ した もの で、 だまって みて いる と なんだか その ナカ へ すいこまれて しまう よう な キ が する の でした。 すると トリトリ が ヨコ から ちらっと それ を みて あわてた よう に いいました。
「おや、 こいつ は たいした もん です ぜ。 こいつ は もう、 ホントウ の テンジョウ へ さえ いける キップ だ。 テンジョウ どこ じゃ ない、 どこ でも カッテ に あるける ツウコウケン です。 こいつ を おもち に なりゃ、 なるほど、 こんな フカンゼン な ゲンソウ ダイ 4 ジ の ギンガ テツドウ なんか、 どこ まで でも いける はず でさあ、 アナタガタ たいした もん です ね」
「なんだか わかりません」 ジョバンニ が あかく なって こたえながら それ を また たたんで カクシ に いれました。 そして キマリ が わるい ので カムパネルラ と フタリ、 また マド の ソト を ながめて いました が、 その トリトリ の ときどき たいした もん だ と いう よう に ちらちら こっち を みて いる の が ぼんやり わかりました。
「もう じき ワシ の テイシャバ だよ」 カムパネルラ が ムコウギシ の、 ミッツ ならんだ ちいさな あおじろい サンカクヒョウ と チズ と を みくらべて いいました。
ジョバンニ は なんだか ワケ も わからず に、 にわか に トナリ の トリトリ が キノドク で たまらなく なりました。 サギ を つかまえて せいせい した と よろこんだり、 しろい キレ で それ を くるくる つつんだり、 ヒト の キップ を びっくり した よう に ヨコメ で みて あわてて ほめだしたり、 そんな こと を いちいち かんがえて いる と、 もう その ミズシラズ の トリトリ の ため に、 ジョバンニ の もって いる もの でも たべる もの でも なんでも やって しまいたい、 もう この ヒト の ホントウ の サイワイ に なる なら、 ジブン が あの ひかる アマノガワ の カワラ に たって 100 ネン つづけて たって トリ を とって やって も いい と いう よう な キ が して、 どうしても もう だまって いられなく なりました。 ホントウ に アナタ の ほしい もの は いったい ナン です か、 と きこう と して、 それ では あんまり だしぬけ だ から、 どう しよう か と かんがえて ふりかえって みましたら、 そこ には もう あの トリトリ が いません でした。 アミダナ の ウエ には しろい ニモツ も みえなかった の です。 また マド の ソト で アシ を ふんばって ソラ を みあげて サギ を とる シタク を して いる の か と おもって、 いそいで そっち を みました が、 ソト は イチメン の うつくしい スナゴ と しろい ススキ の ナミ ばかり、 あの トリトリ の ひろい セナカ も とがった ボウシ も みえません でした。
「あの ヒト どこ へ いったろう」 カムパネルラ も ぼんやり そう いって いました。
「どこ へ いったろう。 いったい どこ で また あう の だろう。 ボク は どうして もすこし あの ヒト に モノ を いわなかったろう」
「ああ、 ボク も そう おもって いる よ」
「ボク は あの ヒト が ジャマ な よう な キ が した ん だ。 だから ボク は たいへん つらい」 ジョバンニ は こんな へんてこ な キモチ は、 ホントウ に はじめて だし、 こんな こと イマ まで いった こと も ない と おもいました。
「なんだか リンゴ の ニオイ が する。 ボク イマ リンゴ の こと かんがえた ため だろう か」 カムパネルラ が フシギ そう に アタリ を みまわしました。
「ホントウ に リンゴ の ニオイ だよ。 それから ノイバラ の ニオイ も する」 ジョバンニ も そこら を みました が やっぱり それ は マド から でも はいって くる らしい の でした。 イマ アキ だ から ノイバラ の ハナ の ニオイ の する はず は ない と ジョバンニ は おもいました。
そしたら にわか に そこ に、 つやつや した くろい カミ の ムッツ ばかり の オトコ の コ が あかい ジャケツ の ボタン も かけず、 ひどく びっくり した よう な カオ を して がたがた ふるえて ハダシ で たって いました。 トナリ には くろい ヨウフク を きちんと きた セイ の たかい セイネン が いっぱい に カゼ に ふかれて いる ケヤキ の キ の よう な シセイ で、 オトコ の コ の テ を しっかり ひいて たって いました。
「あら、 ここ どこ でしょう。 まあ、 きれい だわ」 セイネン の ウシロ にも ヒトリ 12 ばかり の メ の チャイロ な かわいらしい オンナ の コ が くろい ガイトウ を きて、 セイネン の ウデ に すがって フシギ そう に マド の ソト を みて いる の でした。
「ああ、 ここ は ランカシャイヤ だ。 いや、 コンネクテカット シュウ だ。 いや、 ああ、 ボクタチ は ソラ へ きた の だ。 ワタシタチ は テン へ いく の です。 ごらんなさい。 あの シルシ は テンジョウ の シルシ です。 もう なんにも こわい こと ありません。 ワタクシタチ は カミサマ に めされて いる の です」 クロフク の セイネン は ヨロコビ に かがやいて その オンナ の コ に いいました。 けれども なぜか また ヒタイ に ふかく シワ を きざんで、 それに たいへん つかれて いる らしく、 ムリ に わらいながら オトコ の コ を ジョバンニ の トナリ に すわらせました。
それから オンナ の コ に やさしく カムパネルラ の トナリ の セキ を ゆびさしました。 オンナ の コ は すなお に そこ へ すわって、 きちんと リョウテ を くみあわせました。
「ボク、 オオネエサン の とこ へ いく ん だよう」 こしかけた ばかり の オトコ の コ は カオ を ヘン に して トウダイ カンシュ の ムコウ の セキ に すわった ばかり の セイネン に いいました。 セイネン は なんとも いえず かなしそう な カオ を して、 じっと その コ の、 ちぢれて ぬれた アタマ を みました。 オンナ の コ は、 いきなり リョウテ を カオ に あてて しくしく ないて しまいました。
「オトウサン や キクヨ ネエサン は まだ いろいろ オシゴト が ある の です。 けれども もう すぐ アト から いらっしゃいます。 それ より も、 オッカサン は どんな に ながく まって いらっしゃった でしょう。 ワタシ の ダイジ な タダシ は イマ どんな ウタ を うたって いる だろう、 ユキ の ふる アサ に ミンナ と テ を つないで ぐるぐる ニワトコ の ヤブ を まわって あそんで いる だろう か と かんがえたり ホントウ に まって シンパイ して いらっしゃる ん です から、 はやく いって オッカサン に オメ に かかりましょう ね」
「うん、 だけど ボク、 フネ に のらなきゃ よかった なあ」
「ええ、 けれど、 ごらんなさい、 そら、 どう です、 あの リッパ な カワ、 ね、 あすこ は あの ナツジュウ、 ツインクル、 ツインクル、 リトル スター を うたって やすむ とき、 いつも マド から ぼんやり しろく みえて いた でしょう。 あすこ です よ。 ね、 きれい でしょう。 あんな に ひかって います」
ないて いた アネ も ハンケチ で メ を ふいて ソト を みました。 セイネン は おしえる よう に そっと キョウダイ に また いいました。
「ワタシタチ は もう なんにも かなしい こと ない の です。 ワタシタチ は こんな いい とこ を たびして、 じき カミサマ の とこ へ いきます。 そこ なら もう ホントウ に あかるくて ニオイ が よくて リッパ な ヒトタチ で いっぱい です。 そして ワタシタチ の カワリ に ボート へ のれた ヒトタチ は、 きっと ミンナ たすけられて、 シンパイ して まって いる メイメイ の オトウサン や オカアサン や ジブン の オウチ へ やら いく の です。 さあ、 もう じき です から ゲンキ を だして おもしろく うたって いきましょう」 セイネン は オトコ の コ の ぬれた よう な くろい カミ を なで、 ミンナ を なぐさめながら、 ジブン も だんだん カオイロ が かがやいて きました。
「アナタガタ は どちら から いらっしゃった の です か。 どう なすった の です か」 サッキ の トウダイ カンシュ が やっと すこし わかった よう に セイネン に たずねました。 セイネン は かすか に わらいました。
「いえ、 ヒョウザン に ぶっつかって フネ が しずみまして ね、 ワタシタチ は こちら の オトウサン が キュウ な ヨウ で 2 カゲツ マエ ヒトアシ サキ に ホンゴク へ おかえり に なった ので アト から たった の です。 ワタシ は ダイガク へ はいって いて、 カテイ キョウシ に やとわれて いた の です。 ところが ちょうど 12 ニチ-メ、 キョウ か キノウ の アタリ です、 フネ が ヒョウザン に ぶっつかって イッペン に かたむき もう しずみかけました。 ツキ の アカリ は どこ か ぼんやり ありました が、 キリ が ヒジョウ に ふかかった の です。 ところが ボート は サゲン の ほう ハンブン は もう ダメ に なって いました から、 とても ミンナ は のりきらない の です。 もう その うち にも フネ は しずみます し、 ワタシ は ヒッシ と なって、 どうか ちいさな ヒトタチ を のせて ください と さけびました。 チカク の ヒトタチ は すぐ ミチ を ひらいて、 そして コドモ たち の ため に いのって くれました。 けれども そこ から ボート まで の ところ には まだまだ ちいさな コドモ たち や オヤ たち や なんか いて、 とても おしのける ユウキ が なかった の です。 それでも ワタクシ は どうしても この カタタチ を おたすけ する の が ワタシ の ギム だ と おもいました から、 マエ に いる コドモ ら を おしのけよう と しました。 けれども また そんな に して たすけて あげる より は、 このまま カミ の オマエ に ミンナ で いく ほう が ホントウ に この カタタチ の コウフク だ とも おもいました。 それから また その カミ に そむく ツミ は ワタクシ ヒトリ で しょって、 ぜひとも たすけて あげよう と おもいました。 けれども どうして みて いる と それ が できない の でした。 コドモ ら ばかり ボート の ナカ へ はなして やって、 オカアサン が キョウキ の よう に キス を おくり、 オトウサン が かなしい の を じっと こらえて マッスグ に たって いる など、 とても もう ハラワタ も ちぎれる よう でした。 そのうち フネ は もう ずんずん しずみます から、 ワタシ は もう すっかり カクゴ して この ヒトタチ フタリ を だいて、 うかべる だけ は うかぼう と かたまって フネ の しずむ の を まって いました。 ダレ が なげた か ライフブイ が ヒトツ とんで きました けれども、 すべって ずうっと ムコウ へ いって しまいました。 ワタシ は イッショウ ケンメイ で カンパン の コウシ に なった とこ を はなして、 3 ニン それ に しっかり とりつきました。 どこ から とも なく 〔ヤク 2 ジ ブン クウハク〕 バン の コエ が あがりました。 たちまち ミンナ は イロイロ な コクゴ で イッペン に それ を うたいました。 その とき にわか に おおきな オト が して ワタシタチ は ミズ に おち、 もう ウズ に はいった と おもいながら しっかり この ヒトタチ を だいて、 それから ぼうっと した と おもったら もう ここ へ きて いた の です。 この カタタチ の オカアサン は イッサクネン なくなられました。 ええ ボート は きっと たすかった に チガイ ありません。 なにせ よほど ジュクレン な スイフ たち が こいで すばやく フネ から はなれて いました から」
そこら から ちいさな イノリ の コエ が きこえ ジョバンニ も カムパネルラ も イマ まで わすれて いた イロイロ の こと を ぼんやり おもいだして メ が あつく なりました。
(ああ、 その おおきな ウミ は パシフィック と いう の では なかったろう か。 その ヒョウザン の ながれる キタ の ハテ の ウミ で、 ちいさな フネ に のって、 カゼ や こおりつく シオミズ や、 はげしい サムサ と たたかって、 ダレ か が イッショウ ケンメイ はたらいて いる。 ボク は その ヒト に ホントウ に キノドク で そして すまない よう な キ が する。 ボク は その ヒト の サイワイ の ため に いったい どう したら いい の だろう。) ジョバンニ は クビ を たれて、 すっかり ふさぎこんで しまいました。
「ナニ が シアワセ か わからない です。 ホントウ に どんな つらい こと でも それ が ただしい ミチ を すすむ ナカ での デキゴト なら、 トウゲ の ノボリ も クダリ も みんな ホントウ の コウフク に ちかづく ヒトアシ ずつ です から」
トウダイモリ が なぐさめて いました。
「ああ そう です。 ただ イチバン の サイワイ に いたる ため に イロイロ の カナシミ も みんな オボシメシ です」
セイネン が いのる よう に そう こたえました。
そして あの キョウダイ は もう つかれて めいめい ぐったり セキ に よりかかって ねむって いました。 サッキ の あの ハダシ だった アシ には いつか しろい やわらか な クツ を はいて いた の です。
ごとごと ごとごと キシャ は きらびやか な リンコウ の カワ の キシ を すすみました。 ムコウ の ほう の マド を みる と、 ノハラ は まるで ゲントウ の よう でした。 100 も 1000 も の ダイショウ サマザマ の サンカクヒョウ、 その おおきな もの の ウエ には あかい テンテン を うった ソクリョウキ も みえ、 ノハラ の ハテ は それら が イチメン、 たくさん たくさん あつまって ぼおっと あおじろい キリ の よう、 そこ から か、 または もっと ムコウ から か、 ときどき サマザマ の カタチ の ぼんやり した ノロシ の よう な もの が、 かわるがわる きれい な キキョウイロ の ソラ に うちあげられる の でした。 じつに その すきとおった きれい な カゼ は、 バラ の ニオイ で いっぱい でした。
「いかが です か。 こういう リンゴ は おはじめて でしょう」 ムコウ の セキ の トウダイ カンシュ が いつか キン と ベニ で うつくしく いろどられた おおきな リンゴ を おとさない よう に リョウテ で ヒザ の ウエ に かかえて いました。
「おや、 どっから きた の です か。 リッパ です ねえ。 ここら では こんな リンゴ が できる の です か」 セイネン は ホントウ に びっくり した らしく トウダイ カンシュ の リョウテ に かかえられた ヒトモリ の リンゴ を、 メ を ほそく したり クビ を まげたり しながら ワレ を わすれて ながめて いました。
「いや、 まあ おとり ください。 どうか、 まあ おとり ください」
セイネン は ヒトツ とって ジョバンニ たち の ほう を ちょっと みました。
「さあ、 ムコウ の ボッチャン がた。 いかが です か。 おとり ください」
ジョバンニ は ボッチャン と いわれた ので すこし シャク に さわって だまって いました が、 カムパネルラ は、
「ありがとう、」 と いいました。 すると セイネン は ジブン で とって ヒトツ ずつ フタリ に おくって よこしました ので ジョバンニ も たって ありがとう と いいました。
トウダイ カンシュ は やっと リョウウデ が あいた ので、 コンド は ジブン で ヒトツ ずつ ねむって いる キョウダイ の ヒザ に そっと おきました。
「どうも ありがとう。 どこ で できる の です か。 こんな リッパ な リンゴ は」
セイネン は つくづく みながら いいました。
「この ヘン では もちろん ノウギョウ は いたします けれども たいてい ひとりでに いい もの が できる よう な ヤクソク に なって おります。 ノウギョウ だって そんな に ホネ は おれ は しません。 たいてい ジブン の のぞむ タネ さえ まけば ひとりでに どんどん できます。 コメ だって パシフィック ヘン の よう に カラ も ない し 10 バイ も おおきくて ニオイ も いい の です。 けれども アナタガタ の いらっしゃる ほう なら ノウギョウ は もう ありません。 リンゴ だって オカシ だって カス が すこしも ありません から、 みんな その ヒト その ヒト に よって、 ちがった わずか の いい カオリ に なって ケアナ から ちらけて しまう の です」
にわか に オトコ の コ が ぱっちり メ を あいて いいました。
「ああ ボク イマ オカアサン の ユメ を みて いた よ。 オカアサン が ね、 リッパ な トダナ や ホン の ある とこ に いて ね、 ボク の ほう を みて テ を だして にこにこ にこにこ わらった よ。 ボク オッカサン。 リンゴ を ひろって きて あげましょう か、 いったら メ が さめちゃった。 ああ ここ サッキ の キシャ の ナカ だねえ」
「その リンゴ が そこ に あります。 この オジサン に いただいた の です よ」 セイネン が いいました。
「ありがとう オジサン。 おや、 カオル ネエサン まだ ねてる ねえ、 ボク おこして やろう。 ネエサン。 ごらん、 リンゴ を もらった よ。 おきて ごらん」
アネ は わらって メ を さまし、 まぶしそう に リョウテ を メ に あてて それから リンゴ を みました。 オトコ の コ は まるで パイ を たべる よう に もう それ を たべて いました。 また せっかく むいた その きれい な カワ も、 くるくる コルク-ヌキ の よう な カタチ に なって ユカ へ おちる まで の アイダ には すうっと、 ハイイロ に ひかって ジョウハツ して しまう の でした。
フタリ は リンゴ を タイセツ に ポケット に しまいました。
カワシモ の ムコウギシ に あおく しげった おおきな ハヤシ が みえ、 その エダ には じゅくして マッカ に ひかる まるい ミ が いっぱい、 その ハヤシ の マンナカ に たかい たかい サンカクヒョウ が たって、 モリ の ナカ から は オーケストラ ベル や ジロフォン に まじって なんとも いえず きれい な ネイロ が、 とける よう に しみる よう に カゼ に つれて ながれて くる の でした。
セイネン は ぞくっと して カラダ を ふるう よう に しました。
だまって その フ を きいて いる と、 そこら に イチメン キイロ や うすい ミドリ の あかるい ノハラ か シキモノ か が ひろがり、 また マッシロ な ロウ の よう な ツユ が タイヨウ の オモテ を かすめて いく よう に おもわれました。
「まあ、 あの カラス」 カムパネルラ の トナリ の カオル と よばれた オンナ の コ が さけびました。
「カラス で ない。 みんな カササギ だ」 カムパネルラ が また なにげなく しかる よう に さけびました ので、 ジョバンニ は また おもわず わらい、 オンナ の コ は きまりわるそう に しました。 まったく カワラ の あおじろい アカリ の ウエ に、 くろい トリ が たくさん たくさん いっぱい に レツ に なって とまって じっと カワ の ビコウ を うけて いる の でした。
「カササギ です ねえ、 アタマ の ウシロ の とこ に ケ が ぴんと のびて ます から」 セイネン は とりなす よう に いいました。
ムコウ の あおい モリ の ナカ の サンカクヒョウ は すっかり キシャ の ショウメン に きました。 その とき キシャ の ずうっと ウシロ の ほう から あの ききなれた 〔ヤク 2 ジ ブン クウハク〕 バン の サンビカ の フシ が きこえて きました。 よほど の ニンズウ で ガッショウ して いる らしい の でした。 セイネン は さっと カオイロ が あおざめ、 たって イッペン そっち へ いきそう に しました が おもいかえして また すわりました。 カオルコ は ハンケチ を カオ に あてて しまいました。 ジョバンニ まで なんだか ハナ が ヘン に なりました。 けれども いつ とも なく ダレ とも なく その ウタ は うたいだされ だんだん はっきり つよく なりました。 おもわず ジョバンニ も カムパネルラ も イッショ に うたいだした の です。
そして あおい カンラン の モリ が みえない アマノガワ の ムコウ に さめざめ と ひかりながら だんだん ウシロ の ほう へ いって しまい、 そこ から ながれて くる あやしい ガッキ の オト も もう キシャ の ヒビキ や カゼ の オト に すりへらされて ずうっと かすか に なりました。
「あ、 クジャク が いる よ」
「ええ たくさん いた わ」 オンナ の コ が こたえました。
ジョバンニ は その ちいさく ちいさく なって イマ は もう ヒトツ の ミドリイロ の カイボタン の よう に みえる モリ の ウエ に、 さっさっ と あおじろく ときどき ひかって その クジャク が ハネ を ひろげたり とじたり する ヒカリ の ハンシャ を みました。
「そう だ、 クジャク の コエ だって さっき きこえた」 カムパネルラ が カオルコ に いいました。
「ええ、 30 ピキ ぐらい は たしか に いた わ。 ハープ の よう に きこえた の は みんな クジャク よ」 オンナ の コ が こたえました。 ジョバンニ は にわか に なんとも いえず かなしい キ が して おもわず、
「カムパネルラ、 ここ から はねおりて あそんで いこう よ」 と こわい カオ を して いおう と した くらい でした。
カワ は フタツ に わかれました。 その マックラ な シマ の マンナカ に たかい たかい ヤグラ が ヒトツ くまれて、 その ウエ に ヒトリ の ゆるい フク を きて あかい ボウシ を かぶった オトコ が たって いました。 そして リョウテ に アカ と アオ の ハタ を もって ソラ を みあげて シンゴウ して いる の でした。 ジョバンニ が みて いる アイダ その ヒト は しきり に あかい ハタ を ふって いました が にわか に アカハタ を おろして ウシロ に かくす よう に し、 あおい ハタ を たかく たかく あげて まるで オーケストラ の シキシャ の よう に はげしく ふりました。 すると クウチュウ に ざあっ と アメ の よう な オト が して、 ナニ か マックラ な もの が イクカタマリ も イクカタマリ も テッポウダマ の よう に カワ の ムコウ の ほう へ とんで いく の でした。 ジョバンニ は おもわず マド から カラダ を ハンブン だして そっち を みあげました。 うつくしい うつくしい キキョウイロ の がらん と した ソラ の シタ を じつに ナンマン と いう ちいさな トリ ども が イククミ も イククミ も めいめい せわしく せわしく ないて とおって いく の でした。
「トリ が とんで いく な」 ジョバンニ が マド の ソト で いいました。
「どら、」 カムパネルラ も ソラ を みました。 その とき あの ヤグラ の ウエ の ゆるい フク の オトコ は、 にわか に あかい ハタ を あげて キョウキ の よう に ふりうごかしました。 すると ぴたっと トリ の ムレ は とおらなく なり、 それ と ドウジ に ぴしゃあん と いう つぶれた よう な オト が カワシモ の ほう で おこって、 それから しばらく しいん と しました。 と おもったら あの アカボウ の シンゴウシュ が また あおい ハタ を ふって さけんで いた の です。
「イマ こそ わたれ ワタリドリ、 イマ こそ わたれ ワタリドリ」 その コエ も はっきり きこえました。 それ と イッショ に また イクマン と いう トリ の ムレ が ソラ を マッスグ に かけた の です。 フタリ の カオ を だして いる マンナカ の マド から あの オンナ の コ が カオ を だして うつくしい ホオ を かがやかせながら ソラ を あおぎました。
「まあ、 この トリ、 タクサン です わねえ、 あらまあ ソラ の きれい な こと」 オンナ の コ は ジョバンニ に はなしかけました けれども、 ジョバンニ は ナマイキ な、 いや だい と おもいながら だまって クチ を むすんで ソラ を みあげて いました。 オンナ の コ は ちいさく ほっと イキ を して だまって セキ へ もどりました。 カムパネルラ が キノドク そう に マド から カオ を ひっこめて チズ を みて いました。
「あの ヒト トリ へ おしえてる ん でしょう か」 オンナ の コ が そっと カムパネルラ に たずねました。
「ワタリドリ へ シンゴウ してる ん です。 きっと どこ から か ノロシ が あがる ため でしょう」 カムパネルラ が すこし おぼつかなそう に こたえました。 そして クルマ の ナカ は しぃん と なりました。 ジョバンニ は もう アタマ を ひっこめたかった の です けれども、 あかるい とこ へ カオ を だす の が つらかった ので だまって こらえて そのまま たって クチブエ を ふいて いました。
(どうして ボク は こんな に かなしい の だろう。 ボク は もっと ココロモチ を きれい に おおきく もたなければ いけない。 あすこ の キシ の ずうっと ムコウ に まるで ケムリ の よう な ちいさな あおい ヒ が みえる。 あれ は ホントウ に しずか で つめたい。 ボク は あれ を よく みて ココロモチ を しずめる ん だ。) ジョバンニ は ほてって いたい アタマ を リョウテ で おさえる よう に して そっち の ほう を みました。
(ああ ホントウ に どこまでも どこまでも ボク と イッショ に いく ヒト は ない だろう か。 カムパネルラ だって あんな オンナ の コ と おもしろそう に はなして いる し、 ボク は ホントウ に つらい なあ。) ジョバンニ の メ は また ナミダ で いっぱい に なり アマノガワ も まるで トオク へ いった よう に ぼんやり しろく みえる だけ でした。
その とき キシャ は だんだん カワ から はなれて ガケ の ウエ を とおる よう に なりました。 ムコウギシ も また くろい イロ の ガケ が カワ の キシ を カリュウ に くだる に したがって だんだん たかく なって いく の でした。 そして ちらっと おおきな トウモロコシ の キ を みました。 その ハ は ぐるぐる に ちぢれ ハ の シタ には もう うつくしい ミドリイロ の おおきな ホウ が あかい ケ を はいて シンジュ の よう な ミ も ちらっと みえた の でした。 それ は だんだん カズ を まして きて、 もう イマ は レツ の よう に ガケ と センロ との アイダ に ならび、 おもわず ジョバンニ が マド から カオ を ひっこめて ムコウガワ の マド を みました とき は、 うつくしい ソラ の ノハラ の チヘイセン の ハテ まで、 その おおきな トウモロコシ の キ が ほとんど イチメン に うえられて さやさや カゼ に ゆらぎ、 その リッパ な ちぢれた ハ の サキ から は まるで ヒル の アイダ に いっぱい ニッコウ を すった コンゴウセキ の よう に、 ツユ が いっぱい に ついて アカ や ミドリ や きらきら もえて ひかって いる の でした。
カムパネルラ が 「あれ トウモロコシ だねえ」 と ジョバンニ に いいました けれども ジョバンニ は どうしても キモチ が なおりません でした から、 ただ ブッキリボウ に ノハラ を みた まま 「そう だろう」 と こたえました。 その とき キシャ は だんだん しずか に なって イクツ か の シグナル と テンテツキ の アカリ を すぎ ちいさな テイシャバ に とまりました。
その ショウメン の あおじろい トケイ は かっきり ダイ 2 ジ を しめし、 その フリコ は カゼ も なくなり キシャ も うごかず しずか な しずか な ノハラ の ナカ に かちっかちっ と ただしく トキ を きざんで いく の でした。
そして まったく その フリコ の オト の タエマ を トオク の トオク の ノハラ の ハテ から、 かすか な かすか な センリツ が イト の よう に ながれて くる の でした。 「シンセカイ コウキョウガク だわ」 アネ が ヒトリゴト の よう に こっち を みながら そっと いいました。 まったく もう クルマ の ナカ では あの クロフク の タケ たかい セイネン も ダレ も ミンナ やさしい ユメ を みて いる の でした。
(こんな しずか な いい とこ で ボク は どうして もっと ユカイ に なれない だろう。 どうして こんな に ヒトリ さびしい の だろう。 けれども カムパネルラ なんか あんまり ひどい、 ボク と イッショ に キシャ に のって いながら まるで あんな オンナ の コ と ばかり はなして いる ん だ もの。 ボク は ホントウ に つらい。) ジョバンニ は また リョウテ で カオ を ハンブン かくす よう に して ムコウ の マド の ソト を みつめて いました。 すきとおった ガラス の よう な フエ が なって キシャ は しずか に うごきだし、 カムパネルラ も さびしそう に ホシメグリ の クチブエ を ふきました。
「ええ、 ええ、 もう この ヘン は ひどい コウゲン です から」 ウシロ の ほう で ダレ か トシヨリ らしい ヒト の イマ メ が さめた と いう ふう で はきはき はなして いる コエ が しました。
「トウモロコシ だって ボウ で 2 シャク も アナ を あけて おいて、 そこ へ まかない と はえない ん です」
「そう です か。 カワ まで は よほど ありましょう かねえ、」
「ええ、 ええ、 カワ まで は 2000 ジャク から 6000 ジャク あります。 もう まるで ひどい キョウコク に なって いる ん です」
そうそう ここ は コロラド の コウゲン じゃ なかったろう か、 ジョバンニ は おもわず そう おもいました。 カムパネルラ は まだ さびしそう に ヒトリ クチブエ を ふき、 オンナ の コ は まるで キヌ で つつんだ リンゴ の よう な カオイロ を して ジョバンニ の みる ほう を みて いる の でした。
とつぜん トウモロコシ が なくなって おおきな くろい ノハラ が いっぱい に ひらけました。 シンセカイ コウキョウガク は いよいよ はっきり チヘイセン の ハテ から わき、 その マックロ な ノハラ の ナカ を ヒトリ の インデアン が しろい トリ の ハネ を アタマ に つけ タクサン の イシ を ウデ と ムネ に かざり、 ちいさな ユミ に ヤ を つがえて イチモクサン に キシャ を おって くる の でした。
「あら、 インデアン です よ。 インデアン です よ。 ごらんなさい」
クロフク の セイネン も メ を さましました。 ジョバンニ も カムパネルラ も たちあがりました。
「はしって くる わ、 あら、 はしって くる わ。 おいかけて いる ん でしょう」
「いいえ、 キシャ を おってる ん じゃ ない ん です よ。 リョウ を する か おどる か してる ん です よ」 セイネン は イマ どこ に いる か わすれた と いう ふう に ポケット に テ を いれて たちながら いいました。
まったく インデアン は ハンブン は おどって いる よう でした。 だいいち かける に して も アシ の フミヨウ が もっと ケイザイ も とれ ホンキ にも なれそう でした。 にわか に くっきり しろい その ハネ は マエ の ほう へ たおれる よう に なり、 インデアン は ぴたっと たちどまって すばやく ユミ を ソラ に ひきました。 そこ から 1 ワ の ツル が ふらふら と おちて きて、 また はしりだした インデアン の おおきく ひろげた リョウテ に おちこみました。 インデアン は うれしそう に たって わらいました。 そして その ツル を もって こっち を みて いる カゲ も、 もう どんどん ちいさく とおく なり、 デンシンバシラ の ガイシ が きらっきらっ と つづいて フタツ ばかり ひかって、 また トウモロコシ の ハヤシ に なって しまいました。 コッチガワ の マド を みます と キシャ は ホントウ に たかい たかい ガケ の ウエ を はしって いて、 その タニ の ソコ には カワ が やっぱり はばひろく あかるく ながれて いた の です。
「ええ、 もう この ヘン から クダリ です。 なんせ コンド は イッペン に あの スイメン まで おりて いく ん です から ヨウイ じゃ ありません。 この ケイシャ が ある もん です から キシャ は けっして ムコウ から こっち へは こない ん です。 そら、 もう だんだん はやく なった でしょう」 サッキ の ロウジン らしい コエ が いいました。
どんどん どんどん キシャ は おりて いきました。 ガケ の ハジ に テツドウ が かかる とき は カワ が あかるく シタ に のぞけた の です。 ジョバンニ は だんだん ココロモチ が あかるく なって きました。 キシャ が ちいさな コヤ の マエ を とおって、 その マエ に しょんぼり ヒトリ の コドモ が たって こっち を みて いる とき など は おもわず、 ほう、 と さけびました。
どんどん どんどん キシャ は はしって いきました。 ヘヤジュウ の ヒトタチ は ハンブン ウシロ の ほう へ たおれる よう に なりながら コシカケ に しっかり しがみついて いました。 ジョバンニ は おもわず カムパネルラ と わらいました。 もう そして アマノガワ は キシャ の すぐ ヨコテ を イマ まで よほど はげしく ながれて きた らしく、 ときどき ちらちら ひかって ながれて いる の でした。 うすあかい カワラ ナデシコ の ハナ が あちこち さいて いました。 キシャ は ようやく おちついた よう に ゆっくり と はしって いました。
ムコウ と こっち の キシ に ホシ の カタチ と ツルハシ を かいた ハタ が たって いました。
「あれ なんの ハタ だろう ね」 ジョバンニ が やっと モノ を いいました。
「さあ、 わからない ねえ、 チズ にも ない ん だ もの。 テツ の フネ が おいて ある ねえ」
「ああ」
「ハシ を かける とこ じゃ ない ん でしょう か」 オンナ の コ が いいました。
「ああ あれ コウヘイ の ハタ だねえ。 カキョウ エンシュウ を してる ん だ。 けれど ヘイタイ の カタチ が みえない ねえ」
その とき、 ムコウギシ チカク の すこし カリュウ の ほう で みえない アマノガワ の ミズ が ぎらっと ひかって、 ハシラ の よう に たかく はねあがり、 どぉ と はげしい オト が しました。
「ハッパ だよ、 ハッパ だよ」 カムパネルラ は コオドリ しました。
その ハシラ の よう に なった ミズ は みえなく なり、 おおきな サケ や マス が きらっきらっ と しろく ハラ を ひからせて クウチュウ に ほうりだされて、 まるい ワ を えがいて また ミズ に おちました。 ジョバンニ は もう はねあがりたい くらい キモチ が かるく なって いいました。
「ソラ の コウヘイ ダイタイ だ。 どう だ、 マス や なんか が まるで こんな に なって はねあげられた ねえ。 ボク こんな ユカイ な タビ は した こと ない。 いい ねえ」
「あの マス なら チカク で みたら これ くらい ある ねえ、 たくさん サカナ いる ん だな、 この ミズ の ナカ に」
「ちいさな オサカナ も いる ん でしょう か」 オンナ の コ が ハナシ に つりこまれて いいました。
「いる ん でしょう。 おおきな の が いる ん だ から ちいさい の も いる ん でしょう。 けれど トオク だ から イマ ちいさい の みえなかった ねえ」 ジョバンニ は もう すっかり キゲン が なおって おもしろそう に わらって オンナ の コ に こたえました。
「あれ きっと フタゴ の オホシサマ の オミヤ だよ」 オトコ の コ が いきなり マド の ソト を さして さけびました。
ミギテ の ひくい オカ の ウエ に ちいさな スイショウ で でも こさえた よう な フタツ の オミヤ が ならんで たって いました。
「フタゴ の オホシサマ の オミヤ って ナン だい」
「アタシ マエ に ナンベン も オカアサン から きいた わ。 ちゃんと ちいさな スイショウ の オミヤ で フタツ ならんで いる から きっと そう だわ」
「はなして ごらん。 フタゴ の オホシサマ が ナニ した って の」
「ボク も しってらい。 フタゴ の オホシサマ が ノハラ へ あそび に でて、 カラス と ケンカ した ん だろう」
「そう じゃ ない わよ。 あのね、 アマノガワ の キシ に ね、 オッカサン おはなし なすった わ、……」
「それから ホウキボシ が ぎーぎーふー ぎーぎーふー て いって きた ねえ」
「いや だわ タア ちゃん、 そう じゃ ない わよ。 それ は ベツ の ほう だわ」
「すると あすこ に イマ フエ を ふいて いる ん だろう か」
「イマ ウミ へ いってらあ」
「いけない わよ。 もう ウミ から あがって いらっしゃった のよ」
「そうそう。 ボク しってらあ、 ボク おはなし しよう」
カワ の ムコウギシ が にわか に あかく なりました。 ヤナギ の キ や ナニ か も マックロ に すかしだされ、 みえない アマノガワ の ナミ も ときどき ちらちら ハリ の よう に あかく ひかりました。 まったく ムコウギシ の ノハラ に おおきな マッカ な ヒ が もやされ、 その くろい ケムリ は たかく キキョウイロ の つめたそう な テン をも こがしそう でした。 ルビー より も あかく すきとおり リチウム より も うつくしく よった よう に なって その ヒ は もえて いる の でした。
「あれ は なんの ヒ だろう。 あんな あかく ひかる ヒ は ナニ を もやせば できる ん だろう」 ジョバンニ が いいました。
「サソリ の ヒ だな」 カムパネルラ が また チズ と クビッピキ して こたえました。
「あら、 サソリ の ヒ の こと なら アタシ しってる わ」
「サソリ の ヒ って ナン だい」 ジョバンニ が ききました。
「サソリ が やけて しんだ のよ。 その ヒ が イマ でも もえてる って アタシ ナンベン も オトウサン から きいた わ」
「サソリ って、 ムシ だろう」
「ええ、 サソリ は ムシ よ。 だけど いい ムシ だわ」
「サソリ いい ムシ じゃ ない よ。 ボク ハクブツカン で アルコール に つけて ある の みた。 オ に こんな カギ が あって それ で さされる と しぬ って センセイ が いった よ」
「そう よ。 だけど いい ムシ だわ、 オトウサン こう いった のよ。 ムカシ の バルドラ の ノハラ に 1 ピキ の サソリ が いて ちいさな ムシ や なんか ころして たべて いきて いた ん ですって。 すると ある ヒ イタチ に みつかって たべられそう に なった ん ですって。 サソリ は イッショウ ケンメイ にげて にげた けど、 とうとう イタチ に おさえられそう に なった わ、 その とき、 いきなり マエ に イド が あって その ナカ に おちて しまった わ、 もう どうしても あがられない で サソリ は おぼれはじめた のよ。 その とき サソリ は こう いって おいのり した と いう の。
ああ、 ワタシ は イマ まで イクツ の もの の イノチ を とった か わからない、 そして その ワタシ が コンド イタチ に とられよう と した とき は あんな に イッショウ ケンメイ にげた。 それでも とうとう こんな に なって しまった。 ああ なんにも アテ に ならない。 どうして ワタシ は ワタシ の カラダ を だまって イタチ に くれて やらなかったろう。 そしたら イタチ も 1 ニチ いきのびたろう に。 どうか カミサマ。 ワタシ の ココロ を ゴラン ください。 こんな に むなしく イノチ を すてず、 どうか この ツギ には マコト の ミンナ の サイワイ の ため に ワタシ の カラダ を おつかい ください。 って いった と いう の。 そしたら いつか サソリ は ジブン の カラダ が マッカ な うつくしい ヒ に なって もえて、 ヨル の ヤミ を てらして いる の を みた って。 イマ でも もえてる って オトウサン おっしゃった わ。 ホントウ に あの ヒ それ だわ」
「そう だ。 みたまえ。 そこら の サンカクヒョウ は ちょうど サソリ の カタチ に ならんで いる よ」
ジョバンニ は まったく その おおきな ヒ の ムコウ に ミッツ の サンカクヒョウ が、 ちょうど サソリ の ウデ の よう に、 こっち に イツツ の サンカクヒョウ が サソリ の オ や カギ の よう に ならんで いる の を みました。 そして ホントウ に その マッカ な うつくしい サソリ の ヒ は オト なく あかるく あかるく もえた の です。
その ヒ が だんだん ウシロ の ほう に なる に つれて、 ミンナ は なんとも いえず にぎやか な サマザマ の ガク の ネ や クサバナ の ニオイ の よう な もの、 クチブエ や ヒトビト の ざわざわ いう コエ やら を ききました。 それ は もう じき チカク に マチ か ナニ か が あって そこ に オマツリ でも ある と いう よう な キ が する の でした。
「ケンタウル ツユ を ふらせ」 いきなり イマ まで ねむって いた ジョバンニ の トナリ の オトコ の コ が ムコウ の マド を みながら さけんで いました。
ああ そこ には クリスマス トリー の よう に マッサオ な トウヒ か モミ の キ が たって、 その ナカ には タクサン の タクサン の マメデントウ が まるで セン の ホタル でも あつまった よう に ついて いました。
「ああ、 そう だ、 コンヤ ケンタウル-サイ だねえ」
「ああ、 ここ は ケンタウル の ムラ だよ」 カムパネルラ が すぐ いいました。 〔イカ ゲンコウ 1 マイ? なし〕
「ボール-ナゲ なら ボク けっして はずさない」
オトコ の コ が オオイバリ で いいました。
「もう じき サウザン クロス です。 おりる シタク を して ください」 セイネン が ミンナ に いいました。
「ボク もすこし キシャ へ のってる ん だよ」 オトコ の コ が いいました。 カムパネルラ の トナリ の オンナ の コ は そわそわ たって シタク を はじめました けれども、 やっぱり ジョバンニ たち と わかれたく ない よう な ヨウス でした。
「ここ で おりなきゃ いけない の です」 セイネン は きちっと クチ を むすんで オトコ の コ を みおろしながら いいました。
「いや だい。 ボク もうすこし キシャ へ のって から いく ん だい」
ジョバンニ が こらえかねて いいました。
「ボクタチ と イッショ に のって いこう。 ボクタチ どこ まで だって いける キップ もってる ん だ」
「だけど アタシタチ もう ここ で おりなきゃ いけない のよ。 ここ テンジョウ へ いく とこ なん だ から」 オンナ の コ が さびしそう に いいました。
「テンジョウ へ なんか いかなくたって いい じゃ ない か。 ボクタチ ここ で テンジョウ より も もっと いい とこ を こさえなきゃ いけない って ボク の センセイ が いった よ」
「だって オッカサン も いって らっしゃる し、 それに カミサマ が おっしゃる ん だわ」
「そんな カミサマ ウソ の カミサマ だい」
「アナタ の カミサマ ウソ の カミサマ よ」
「そう じゃ ない よ」
「アナタ の カミサマ って どんな カミサマ です か」 セイネン は わらいながら いいました。
「ボク ホントウ は よく しりません、 けれども そんな ん で なし に ホントウ の たった ヒトリ の カミサマ です」
「ホントウ の カミサマ は もちろん たった ヒトリ です」
「ああ、 そんな ん で なし に たった ヒトリ の ホントウ の ホントウ の カミサマ です」
「だから そう じゃ ありません か。 ワタクシ は アナタガタ が いまに その ホントウ の カミサマ の マエ に ワタクシタチ と おあい に なる こと を いのります」 セイネン は つつましく リョウテ を くみました。 オンナ の コ も ちょうど その とおり に しました。 ミンナ ホントウ に ワカレ が おしそう で その カオイロ も すこし あおざめて みえました。 ジョバンニ は あぶなく コエ を あげて なきだそう と しました。
「さあ もう シタク は いい ん です か。 じき サウザン クロス です から」
ああ その とき でした。 みえない アマノガワ の ずうっと カワシモ に、 アオ や ダイダイ や、 もう あらゆる ヒカリ で ちりばめられた ジュウジカ が まるで 1 ポン の キ と いう ふう に カワ の ナカ から たって かがやき、 その ウエ には あおじろい クモ が まるい ワ に なって ゴコウ の よう に かかって いる の でした。 キシャ の ナカ が まるで ざわざわ しました。 ミンナ あの キタ の ジュウジ の とき の よう に マッスグ に たって オイノリ を はじめました。 あっち にも こっち にも コドモ が ウリ に とびついた とき の よう な ヨロコビ の コエ や、 なんとも イイヨウ ない ふかい つつましい タメイキ の オト ばかり きこえました。 そして だんだん ジュウジカ は マド の ショウメン に なり、 あの リンゴ の ニク の よう な あおじろい ワ の クモ も ゆるやか に ゆるやか に めぐって いる の が みえました。
「ハルレヤ ハルレヤ」 あかるく たのしく ミンナ の コエ は ひびき、 ミンナ は その ソラ の トオク から、 つめたい ソラ の トオク から、 すきとおった なんとも いえず さわやか な ラッパ の コエ を ききました。 そして タクサン の シグナル や デントウ の アカリ の ナカ を キシャ は だんだん ゆるやか に なり、 とうとう ジュウジカ の ちょうど マムカイ に いって すっかり とまりました。
「さあ、 おりる ん です よ」 セイネン は オトコ の コ の テ を ひき、 だんだん ムコウ の デグチ の ほう へ あるきだしました。
「じゃ さよなら」 オンナ の コ が ふりかえって フタリ に いいました。
「さよなら」 ジョバンニ は まるで なきだしたい の を こらえて おこった よう に ブッキリボウ に いいました。 オンナ の コ は いかにも つらそう に メ を おおきく して も イチド こっち を ふりかえって、 それから アト は もう だまって でて いって しまいました。 キシャ の ナカ は もう ハンブン イジョウ も あいて しまい、 にわか に がらん と して さびしく なり カゼ が いっぱい に ふきこみました。
そして みて いる と ミンナ は つつましく レツ を くんで、 あの ジュウジカ の マエ の アマノガワ の ナギサ に ひざまずいて いました。 そして その みえない アマノガワ の ミズ を わたって、 ヒトリ の こうごうしい しろい キモノ の ヒト が テ を のばして こっち へ くる の を フタリ は みました。 けれども その とき は もう ガラス の ヨビコ は ならされ、 キシャ は うごきだし、 と おもう うち に ギンイロ の キリ が カワシモ の ほう から すうっと ながれて きて、 もう そっち は なにも みえなく なりました。 ただ タクサン の クルミ の キ が ハ を さんさん と ひからして その キリ の ナカ に たち、 キン の エンコウ を もった デンキ リス が かわいい カオ を その ナカ から ちらちら のぞいて いる だけ でした。
その とき すうっと キリ が はれかかりました。 どこ か へ いく カイドウ らしく ちいさな デントウ の イチレツ に ついた トオリ が ありました。 それ は しばらく センロ に そって すすんで いました。 そして フタリ が その アカシ の マエ を とおって いく とき は、 その ちいさな マメイロ の ヒ は ちょうど アイサツ でも する よう に ぽかっと きえ、 フタリ が すぎて いく とき また つく の でした。
ふりかえって みる と サッキ の ジュウジカ は すっかり ちいさく なって しまい、 ホントウ に もう そのまま ムネ にも つるされそう に なり、 サッキ の オンナ の コ や セイネン たち が その マエ の しろい ナギサ に まだ ひざまずいて いる の か、 それとも どこ か ホウガク も わからない その テンジョウ へ いった の か ぼんやり して みわけられません でした。
ジョバンニ は ああ と ふかく イキ しました。
「カムパネルラ、 また ボクタチ フタリ きり に なった ねえ、 どこまでも どこまでも イッショ に いこう。 ボク は もう あの サソリ の よう に ホントウ に ミンナ の サイワイ の ため ならば ボク の カラダ なんか 100 ペン やいて も かまわない」
「うん。 ボク だって そう だ」 カムパネルラ の メ には きれい な ナミダ が うかんで いました。
「けれども ホントウ の サイワイ は いったい ナン だろう」 ジョバンニ が いいました。
「ボク わからない」 カムパネルラ が ぼんやり いいました。
「ボクタチ しっかり やろう ねえ」 ジョバンニ が ムネイッパイ あたらしい チカラ が わく よう に ふう と イキ を しながら いいました。
「あ、 あすこ セキタンブクロ だよ。 ソラ の アナ だよ」 カムパネルラ が すこし そっち を さける よう に しながら アマノガワ の ヒトトコ を ゆびさしました。 ジョバンニ は そっち を みて まるで ぎくっと して しまいました。 アマノガワ の ヒトトコ に おおきな マックラ な アナ が どおん と あいて いる の です。 その ソコ が どれほど ふかい か その オク に ナニ が ある か、 いくら メ を こすって のぞいて も なんにも みえず、 ただ メ が しんしん と いたむ の でした。 ジョバンニ が いいました。
「ボク もう あんな おおきな ヤミ の ナカ だって こわく ない。 きっと ミンナ の ホントウ の サイワイ を さがし に いく。 どこまでも どこまでも ボクタチ イッショ に すすんで いこう」
「ああ きっと いく よ。 ああ、 あすこ の ノハラ は なんて きれい だろう。 ミンナ あつまってる ねえ。 あすこ が ホントウ の テンジョウ なん だ。 あっ あすこ に いる の ボク の オカアサン だよ」 カムパネルラ は にわか に マド の トオク に みえる きれい な ノハラ を さして さけびました。
ジョバンニ も そっち を みました けれども そこ は ぼんやり しろく けむって いる ばかり、 どうしても カムパネルラ が いった よう に おもわれません でした。 なんとも いえず さびしい キ が して ぼんやり そっち を みて いましたら、 ムコウ の カワギシ に 2 ホン の デンシンバシラ が ちょうど リョウホウ から ウデ を くんだ よう に あかい ウデギ を つらねて たって いました。
「カムパネルラ、 ボクタチ イッショ に いこう ねえ」 ジョバンニ が こう いいながら ふりかえって みましたら、 その イマ まで カムパネルラ の すわって いた セキ に もう カムパネルラ の カタチ は みえず ただ くろい ビロウド ばかり ひかって いました。 ジョバンニ は まるで テッポウダマ の よう に たちあがりました。 そして ダレ にも きこえない よう に マド の ソト へ カラダ を のりだして、 ちからいっぱい はげしく ムネ を うって さけび、 それから もう ノド いっぱい なきだしました。 もう そこら が イッペン に マックラ に なった よう に おもいました。
ジョバンニ は メ を ひらきました。 モト の オカ の クサ の ナカ に つかれて ねむって いた の でした。 ムネ は なんだか おかしく ほてり、 ホオ には つめたい ナミダ が ながれて いました。
ジョバンニ は バネ の よう に はねおきました。 マチ は すっかり サッキ の とおり に シタ で タクサン の アカリ を つづって は いました が、 その ヒカリ は なんだか サッキ より は ねっした と いう ふう でした。 そして たったいま ユメ で あるいた アマノガワ も やっぱり サッキ の とおり に しろく ぼんやり かかり、 マックロ な ミナミ の チヘイセン の ウエ では ことに けむった よう に なって、 その ミギ には サソリ-ザ の あかい ホシ が うつくしく きらめき、 ソラ ゼンタイ の イチ は そんな に かわって も いない よう でした。
ジョバンニ は イッサン に オカ を はしって くだりました。 まだ ユウゴハン を たべない で まって いる オカアサン の こと が ムネイッパイ に おもいだされた の です。 どんどん くろい マツ の ハヤシ の ナカ を とおって、 それから ほのじろい ボクジョウ の サク を まわって サッキ の イリグチ から くらい ギュウシャ の マエ へ また きました。 そこ には ダレ か が イマ かえった らしく、 さっき なかった ヒトツ の クルマ が ナニ か の タル を フタツ のっけて おいて ありました。
「こんばんわ、」 ジョバンニ は さけびました。
「はい」 しろい ふとい ズボン を はいた ヒト が すぐ でて きて たちました。
「なんの ゴヨウ です か」
「キョウ ギュウニュウ が ボク の ところ へ こなかった の です が」
「あ、 すみません でした」 その ヒト は すぐ オク へ いって 1 ポン の ギュウニュウビン を もって きて ジョバンニ に わたしながら また いいました。
「ホントウ に、 すみません でした。 キョウ は ヒルスギ うっかり して コウシ の サク を あけて おいた もん です から、 タイショウ さっそく オヤウシ の ところ へ いって ハンブン ばかり のんで しまいまして ね……」 その ヒト は わらいました。
「そう です か。 では いただいて いきます」
「ええ、 どうも すみません でした」
「いいえ」
ジョバンニ は まだ あつい チチ の ビン を リョウホウ の テノヒラ で つつむ よう に もって ボクジョウ の サク を でました。
そして しばらく キ の ある マチ を とおって オオドオリ へ でて、 また しばらく いきます と ミチ は ジュウモンジ に なって、 その ミギテ の ほう、 トオリ の ハズレ に さっき カムパネルラ たち の アカリ を ながし に いった カワ へ かかった おおきな ハシ の ヤグラ が、 ヨル の ソラ に ぼんやり たって いました。
ところが その ジュウジ に なった マチカド や ミセ の マエ に、 オンナ たち が 7~8 ニン ぐらい ずつ あつまって ハシ の ほう を みながら、 ナニ か ひそひそ はなして いる の です。 それから ハシ の ウエ にも イロイロ な アカリ が いっぱい なの でした。
ジョバンニ は なぜか さあっと ムネ が つめたく なった よう に おもいました。 そして いきなり チカク の ヒトタチ へ、
「ナニ か あった ん です か」 と さけぶ よう に ききました。
「コドモ が ミズ へ おちた ん です よ」 ヒトリ が いいます と その ヒトタチ は イッセイ に ジョバンニ の ほう を みました。 ジョバンニ は まるで ムチュウ で ハシ の ほう へ はしりました。 ハシ の ウエ は ヒト で いっぱい で カワ が みえません でした。 しろい フク を きた ジュンサ も でて いました。
ジョバンニ は ハシ の タモト から とぶ よう に シタ の ひろい カワラ へ おりました。
その カワラ の ミズギワ に そって タクサン の アカリ が せわしく のぼったり くだったり して いました。 ムコウギシ の くらい ドテ にも ヒ が ナナツ ヤッツ うごいて いました。 その マンナカ を もう カラスウリ の アカリ も ない カワ が、 わずか に オト を たてて ハイイロ に しずか に ながれて いた の でした。
カワラ の いちばん カリュウ の ほう へ ス の よう に なって でた ところ に ヒト の アツマリ が くっきり マックロ に たって いました。 ジョバンニ は どんどん そっち へ はしりました。 すると ジョバンニ は いきなり さっき カムパネルラ と イッショ だった マルソ に あいました。 マルソ が ジョバンニ に はしりよって きました。
「ジョバンニ、 カムパネルラ が カワ へ はいった よ」
「どうして、 いつ」
「ザネリ が ね、 フネ の ウエ から カラスウリ の アカリ を ミズ の ながれる ほう へ おして やろう と した ん だ。 その とき フネ が ゆれた もん だ から ミズ へ おっこったろう。 すると カムパネルラ が すぐ とびこんだ ん だ。 そして ザネリ を フネ の ほう へ おして よこした。 ザネリ は カトウ に つかまった。 けれども アト カムパネルラ が みえない ん だ」
「ミンナ さがしてる ん だろう」
「ああ すぐ ミンナ きた。 カムパネルラ の オトウサン も きた。 けれども みつからない ん だ。 ザネリ は ウチ へ つれられてった」
ジョバンニ は ミンナ の いる そっち の ほう へ いきました。 そこ に ガクセイ たち マチ の ヒトタチ に かこまれて、 あおじろい とがった アゴ を した カムパネルラ の オトウサン が、 くろい フク を きて マッスグ に たって ミギテ に もった トケイ を じっと みつめて いた の です。
ミンナ も じっと カワ を みて いました。 ダレ も ヒトコト も モノ を いう ヒト も ありません でした。 ジョバンニ は わくわく わくわく アシ が ふるえました。 サカナ を とる とき の アセチレン ランプ が たくさん せわしく いったり きたり して、 くろい カワ の ミズ は ちらちら ちいさな ナミ を たてて ながれて いる の が みえる の でした。
カリュウ の ほう は カワハバ いっぱい ギンガ が おおきく うつって、 まるで ミズ の ない ソノママ の ソラ の よう に みえました。
ジョバンニ は、 その カムパネルラ は もう あの ギンガ の ハズレ に しか いない と いう よう な キ が して しかたなかった の です。
けれども ミンナ は まだ、 どこ か の ナミ の アイダ から、
「ボク ずいぶん およいだ ぞ」 と いいながら カムパネルラ が でて くる か、 あるいは カムパネルラ が どこ か の ヒト の しらない ス に でも ついて たって いて、 ダレ か の くる の を まって いる か と いう よう な キ が して しかたない らしい の でした。 けれども にわか に カムパネルラ の オトウサン が きっぱり いいました。
「もう ダメ です。 おちて から 45 フン たちました から」
ジョバンニ は おもわず かけよって ハカセ の マエ に たって、 ボク は カムパネルラ の いった ほう を しって います、 ボク は カムパネルラ と イッショ に あるいて いた の です と いおう と しました が、 もう ノド が つまって なんとも いえません でした。 すると ハカセ は ジョバンニ が アイサツ に きた と でも おもった もの です か、 しばらく しげしげ ジョバンニ を みて いました が、
「アナタ は ジョバンニ さん でした ね。 どうも コンバン は ありがとう」 と テイネイ に いいました。
ジョバンニ は なにも いえず に ただ オジギ を しました。
「アナタ の オトウサン は もう かえって います か」 ハカセ は かたく トケイ を にぎった まま、 また ききました。
「いいえ」 ジョバンニ は かすか に アタマ を ふりました。
「どうした の かなあ、 ボク には オトトイ たいへん ゲンキ な タヨリ が あった ん だ が。 キョウ アタリ もう つく コロ なん だ が。 フネ が おくれた ん だな。 ジョバンニ さん。 アシタ ホウカゴ ミナサン と ウチ へ あそび に きて ください ね」
そう いいながら ハカセ は また カワシモ の ギンガ の いっぱい に うつった ほう へ じっと メ を おくりました。
ジョバンニ は もう イロイロ な こと で ムネ が いっぱい で なんにも いえず に ハカセ の マエ を はなれて、 はやく オカアサン に ギュウニュウ を もって いって、 オトウサン の かえる こと を しらせよう と おもう と、 もう イチモクサン に カワラ を マチ の ほう へ はしりました。