カイメツ の ジョキョク
ハラ タミキ
アサ から コナユキ が ふって いた。 その マチ に とまった タビビト は なんとなし に コナユキ の フゼイ に さそわれて、 カワ の ほう へ あるいて いって みた。 ホンカワバシ は ヤド から すぐ チカク に あった。 ホンカワバシ と いう ナ も カレ は ヒサシブリ に おもいだした の で ある。 ムカシ カレ が チュウガクセイ だった コロ の キオク が まだ そこ に のこって いそう だった。 コナユキ は カレ の センサイ な シカク を さらに するどく して いた。 ハシ の ナカホド に たたずんで、 キシ を みて いる と、 ふと、 「ホンカワ マンジュウ」 と いう ふるびた カンバン が ある の を みつけた。 とつぜん、 カレ は フシギ な ほど しずか な ムカシ の フウケイ の ナカ に ひたって いる よう な サッカク を おぼえた。 が、 つづいて、 ぶるぶる と センリツ が わく の を どう する こと も できなかった。 この コナユキ に つつまれた イッシュン の シズケサ の ナカ に、 もっとも いたましい シュウマツ の ヒ の スガタ が ひらめいた の で ある。 ……カレ は その こと を テガミ に しるして、 その マチ に すんで いる ユウジン に おくった。 そうして、 そこ の マチ を たちさり、 エンポウ へ たびだった。
……その テガミ を うけとった オトコ は、 2 カイ で ぼんやり マド の ソト を ながめて いた。 すぐ メノマエ に リンカ の ちいさな ドゾウ が みえ、 ヤネ ちかく その シラカベ の ヒトトコロ が ハクダツ して いて あらい アカツチ を ロシュツ させた さびしい ナガメ が、 ――そういう ササイ な ブブン だけ が、 むかしながら の オモカゲ を たたえて いる よう で あった。 ……カレ も チカゴロ この マチ へ すむ よう に なった の だ が、 ひさしい アイダ キョウリ を はなれて いた オトコ には、 スベテ が イマ は エン なき シュジョウ の よう で あった。 ショウネン の ヒ の カレ の ムソウ を はぐくんだ ヤマ や カワ は どう なった の だろう か、 ――カレ は アシ の おもむく まま に キョウリ の ケシキ を みて あるいた。 ザンセツ を いただいた チュウゴク サンミャク や、 その シタ を ながれる カワ は、 ぎごちなく ブソウ した、 ざわつく マチ の ため に キハク な インショウ を とどめて いた。 チマタ では、 ゆきあう ヒト から、 キ で ハナ を くくる よう な アツカイ を うけた サッキ-だった ナカ に、 なんとも いえぬ マ の ぬけた もの も かんじられる、 キカイ な セカイ で あった。
……いつのまにか カレ は ユウジン の テガミ に ある センリツ に ついて かんがえめぐらして いた。 ソウゾウ を ぜっした ジゴクヘン、 しかも、 それ は イッシュン に して まきおこる よう に おもえた。 そう する と、 カレ は やがて この マチ と ともに ほろびうせて しまう の だろう か、 それとも、 この ウマレコキョウ の マッキ の スガタ を みとどける ため に カレ は たちもどって きた の で あろう か。 カケ にも ひとしい ウンメイ で あった。 どうか する と、 その マチ が ナニゴト も なく ムキズ の まま のこされる こと、 ――そんな ムシ の いい、 おろかしい こと も、 やはり かんがえうかぶ の では あった。
クロラシャ の リッパ な ジャンパー を コシ の ところ で しめ、 きれい に カミソリ の あたった アゴ を ひからせながら、 セイジ は いそがしげ に ショウゾウ の ヘヤ の イリグチ に たちはだかった。
「おい、 なんとか せよ」
そういう ゴキ に くらべて、 セイジ の メ の イロ は よわかった。 カレ は ショウゾウ が テガミ を かきかけて いる ツクエ の カタワラ に すわりこむ と、 ソバ に あった ヴィンケルマン の 『ギリシャ ゲイジュツ モホウロン』 の サシエ を ぱらぱら と めくった。 ショウゾウ は ペン を おく と、 だまって アニ の シグサ を ながめて いた。 わかい とき イチジ、 ビジュツシ に ネッチュウ した こと の ある この アニ は、 イマ でも そういう もの には ひきつけられる の で あろう か……。 だが、 セイジ は すぐに ぱたん と その ホン を とじて しまった。
それ は サキホド の 「なんとか せよ」 と いう ゴキ の ツヅキ の よう にも ショウゾウ には おもえた。 チョウケイ の ところ へ まいもどって きて から もう 1 カゲツ イジョウ に なる のに、 カレ は なんの ショク に つく でも なし、 ただ アサネ と ヨフカシ を つづけて いた。
カレ に くらべる と、 この ジケイ は マイニチ を キリツ と キンチョウ の ウチ に おくって いる の で あった。 セイサクショ が ひけて から も おそく まで、 ジムショ の ほう に アカリ が ついて いる こと が ある。 そこ の ロジ を とおりかかった ショウゾウ が ジムシツ の ほう へ たちよって みる と、 セイジ は ヒトリ ツクエ に よって、 せっせと カキモノ を して いた。 コウイン に わたす ゲッキュウブクロ の ナツイン とか、 ドウインショ へ テイシュツ する ショルイ とか、 そういう ジムテキ な シゴト に マンゾク して いる こと は、 カレ が かく トクチョウ ある ヒッセキ にも うかがわれた。 ハン で おした よう な カタ に はまった きれい な モジ で、 いろんな ケイジ が ジムシツ の カベ に はりつけて ある。 ……ショウゾウ が ぼんやり その モジ に みとれて いる と、 セイジ は くるり と カイテン イス を きえのこった レンタン ストーブ の ほう へ むけながら、 「タバコ やろう か」 と、 ツクエ の ヒキダシ から ふるびた ホウヨク の フクロ を とりだし、 それから タナ の ウエ の ラジオ に スイッチ を いれる の だった。 ラジオ は イオウジマ の キュウ を つげて いた。 ハナシ は とかく センソウ の ミトオシ に なる の で あった。 セイジ は ぽつん と カイギテキ な こと を クチ に した し、 ショウゾウ は はっきり ゼツボウテキ な コトバ を はいた。 ……ヤカン、 ケイホウ が でる と、 セイジ は たいがい、 ジムショ へ かけつけて きた。 ケイホウ が でて から 5 フン も たたない コロ、 オモテ の ヨビリン が はげしく なる。 ネボケガオ の ショウゾウ が ロジ の ほう から、 ウチガワ の トビラ を あける と、 オモテ には わかい オンナ が フタリ たたずんで いる。 カンシ トウバン の ジョコウイン で あった。 「こんばんわ」 と ヒトリ が ショウゾウ の ほう へ コエ を かける。 ショウゾウ は じかに ムネ を つかれ、 エリ を たださねば ならぬ キモチ が する の で あった。 それから カレ が ジムシツ の ヤミ を てさぐりながら、 ラジオ に アカリ を いれた コロ、 あつい ボウクウ ズキン を かぶった セイジ が そわそわ やって くる。 「ダレ か いる の か」 と セイジ は アカリ の ほう へ コエ を かけ、 イス に コシ を おろす の だ が、 すぐに また たちあがって コウジョウ の ほう を みて まわった。 そうして、 ケイホウ が でた ヨクアサ も、 セイジ は はやく から ジテンシャ で シュッキン した。 オク の 2 カイ で ヒトリ アサネ を して いる ショウゾウ の ところ へ、 「いつまで ねて いる の だ」 と ケイコク し に くる の も カレ で あった。
イマ も ショウゾウ は この アニ の いそがしげ な ヨウス に イツモ の ケイコク を かんじる の で あった が、 セイジ は 『ギリシャ ゲイジュツ モホウロン』 を モト の イチ に おく と、 ふと こう たずねた。
「アニキ は どこ へ いった」
「ケサ デンワ かかって、 タカス の ほう へ でかけた らしい」
すると、 セイジ は かすか に メ に エミ を うかべながら、 ごろり と ヨコ に なり、 「また か、 こまった なあ」 と かるく つぶやく の で あった。 それ は ショウゾウ の クチ から ジュンイチ の コウドウ に ついて、 もっと いろんな こと を しゃべりだす の を まって いる よう で あった。 だが、 ショウゾウ には チョウケイ と アニヨメ との コノゴロ の イキサツ は、 どうも はっきり スジミチ が たたなかった し、 それに、 ジュンイチ は この こと に ついて は ヒツヨウ イガイ の こと は けっして しゃべらない の で あった。
ショウゾウ が ホンケ へ もどって きた その ヒ から、 カレ は そこ の イエ に ただよう クウキ の イジョウサ に かんづいた。 それ は デントウ に かぶせた くろい ヌノ や、 いたる ところ に はりめぐらした アンマク の せい では なく、 また、 ツマ を うしなって しかたなく この フジユウ な ジセツ に まいもどって きた オトウト を カンゲイ しない ソブリ ばかり でも なく、 もっと、 ナニ か やりきれない もの が、 その イエ には ひそんで いた。 ジュンイチ の カオ には ときどき、 けわしい インエイ が えぐられて いた し、 アニヨメ の タカコ の カオ は おもいあまって ぼうと うずく よう な もの が かんじられた。 ミツビシ へ ガクト ドウイン で ツウキン して いる フタリ の チュウガクセイ の オイ も、 ミョウ に だまりこんで インウツ な カオツキ で あった。
……ある ヒ、 アニヨメ の タカコ が その イエ から スガタ を くらました。 すると ジュンイチ の ヒトリ いそがしげ な ガイシュツ が はじまり、 イエ の キリマワシ は、 キンジョ に すんで いる カフ の イモウト に まかせられた。 この ヤスコ は ヨル おそく まで 2 カイ の ショウゾウ の ヘヤ に やって きて は、 のべつまくなし に、 いろんな こと を しゃべった。 アニヨメ の シッソウ は コンド が はじめて では なく、 もう 2 カイ も ヤスコ が イエ の ルス を あずかって いる こと を ショウゾウ は しった。 この 30-スギ の コジュウト の クチ から ビョウシャ される イエ の クウキ は、 いろんな オクソク と ワイキョク に みちて いた が、 それ だけ に ショウゾウ の ズノウ に ねつっぽく こびりつく もの が あった。
……アンマク を はった オクザシキ に、 とびきり ゼイタク な ドンス の コタツ-ブトン が、 スタンド の ヒカリ に いられて あかく もえて いる、 ――その ソバ に、 キ の ぬけた よう な ジュンイチ の スガタ が みかけられる こと が あった。 その コウケイ は ショウゾウ に ナニ か やりきれない もの を つたえた。 だが、 ヨクアサ に なる と ジュンイチ は サギョウフク を きこんで、 せっせと ソカイ の ニヅクリ を はじめて いる。 その カオ は イチズ に ゴウガン な サッキ を ふくんで いた。 ……それから ときどき、 シガイ デンワ が かかって くる と、 チョウケイ は いそがしげ に でかけて ゆく。 タカス には ダレ か チョウテイシャ が いる らしかった――、 が、 それ イジョウ の こと は ショウゾウ には わからなかった。
……イモウト は この スウネン-カン の アニヨメ の ヘンボウブリ を、 ――それ は センソウ の ため あらゆる コンク を しいられて きた ジブン と ヒカク して、―― センソウ に よって エイヨウ エイガ を ほしいまま に して きた モノ の スガタ と して、 そして この ワケ の わからない コンド の シッソウ も、 コウネンキ の セイリテキ ゲンショウ だろう か と、 ナニ か ものおそろしげ に かたる の で あった。 ……だらだら と イモウト が しゃべって いる と、 セイジ が やって きて だまって きいて いる こと が あった。 「ようするに、 キンロウ セイシン が ない の だ。 すこし は コウイン の こと も かんがえて くれたら いい のに」 と ジケイ は ぽつん と クチ を はさむ。 「まあ、 リッパ な ユウカン マダム でしょう」 と イモウト も うなずく。 「だが、 この センソウ の キョギ が、 イマ では スベテ の ニンゲン の セイシン を ハカイ して ゆく の では ない かしら」 と、 ショウゾウ が いいだす と 「ふん、 そんな まわりくどい こと では ない、 だんだん エイヨウ の タネ が つきて ゆく ので、 アニヨメ は ムカッパラ たてだした の だ」 と セイジ は わらう。
タカコ は イエ を とびだして、 1 シュウカン あまり する と、 けろり と イエ に かえって きた。 だが、 ナニ か まだ わりきれない もの が ある らしく、 4~5 ニチ する と、 また ユクエ を くらました。 すると、 また ジュンイチ の ツイキュウ が はじまった。 「コンド は ながい ぞ」 と ジュンイチ は こうぜん と して いいはなった。 「ぐずぐず すれば、 ミナ から バカ に される。 40 にも なって、 ろくに ヒト に アイサツ も できない ヤツ ばかり じゃ ない か」 と オトウト たち に あてこする こと も あった。 ……ショウゾウ は フタリ の アニ の セイカク の ナカ に カレ と おなじ もの を みいだす こと が あって、 ときどき、 いや な キモチ が した。 モリ セイサクショ の シドウイン を して いる ヤスコ は、 アニ たち の セケン に たいする タイド の セツレツサ を シテキ する の だった。 その セツレツサ は ショウゾウ にも あった。 ……しかし、 ながい アイダ、 はなれて いる うち に、 なんと アニ たち は ひどく かわって いった こと だろう。 それでは ショウゾウ ジシン は ちっとも かわらなかった の だろう か。 ……いな。 ミンナ が、 ミンナ、 ヒゴト に せまる キキ に さらされて、 まだまだ かわろう と して いる し、 かわって ゆく に ちがいない。 ぎりぎり の ところ を みとどけなければ ならぬ。 ――これ が、 その コロ の ショウゾウ に シゼン に うかんで くる テーマ で あった。
「きた ぞ」 と いって、 セイジ は ショウゾウ の メノマエ に 1 マイ の シヘン を さしだした。 テンコ レイジョウ で あった。 ショウゾウ は じっと その カミ に メ を おとし、 インサツ の スミズミ まで よみかえした。
「5 ガツ か」 と カレ は そう つぶやいた。 ショウゾウ は サクネン、 コクミンヘイ の キョウイク ショウシュウ を うけた とき ほど には もう おどろかなかった。 が しかし セイジ は カレ の カオ に ただよう クモン の ヒョウジョウ を みてとって、 「なあに、 どっちみち、 イマ と なって は、 ナイチ キンム だ、 たいした こと ない さ」 と かるく うそぶいた。 ……5 ガツ と いえば、 2 カゲツ サキ の こと で あった が、 それまで この センソウ が つづく だろう か、 と ショウゾウ は ひそか に かんがえふけった。
なんと いう こと なし に ショウゾウ は、 ぶらぶら と マチ を よく サンポ した。 イモウト の ムスコ の ケンイチ を つれて、 ヒサシブリ に センテイ へも いって みた。 ムカシ、 カレ が おさなかった とき カレ も よく ダレ か に つれられて おとずれた こと の ある テイエン だ が、 イマ も あわい ソウシュン の ヒザシ の ナカ に ジュモク や ミズ は ひっそり と して いた。 ゼッコウ の ヒナン バショ、 そういう ソウネン が すぐ ひらめく の で あった。 ……エイガカン は ヒルマ から マンイン だった し、 サカリバ の ショクドウ は いつも にぎわって いた。 ショウゾウ は ミオボエ の ある コウジ を えらんで は あるいて みた が、 どこ にも もう コドモゴコロ に しるされて いた なつかしい もの は みいだせなかった。 カシカン に インソツ された ヘイシ の 1 タイ が ヒソウ な ウタ を うたいながら、 とつぜん、 ヨツカド から あらわれる。 トウハツ に シロハチマキ を した ジョシ キンロウ ガクト の 1 タイ が、 ヘイタイ の よう な ホチョウ で やって くる の とも すれちがった。
……ハシ の ウエ に たたずんで、 カワカミ の ほう を ながめる と、 ショウゾウ の メイショウ を しらない ヤマヤマ が あった し、 マチ の ハテ の セト ナイカイ の ホウガク には シマヤマ が、 タテモノ の カゲ から カオ を のぞけた。 この マチ を ホウイ して いる それら の ヤマヤマ に、 ショウゾウ は かすか に ナニ か よびかけたい もの を かんじはじめた。 ……ある ユウガタ、 カレ は ふと マチカド を とおりすぎる フタリ の わかい オンナ に メ が ひきつけられた。 ケンコウ そう な シタイ と、 ゆたか な パーマネント の スガタ は、 アス の あたらしい タイプ か と ちょっと ショウゾウ の コウキシン を そそった。 カレ は カノジョ たち の アト を おい、 その カイワ を もれきこう と こころみた。
「オイモ が あり さえ すりゃあ、 ええ わね」
マ の のびた、 げっそり する よう な コエ で あった。
モリ セイサクショ では 60 メイ ばかり の ジョシ ガクト が、 ホウコウジョウ の ほう へ やって くる こと に なって いた。 ガクト ウケイレシキ の ジュンビ で、 セイジ は はりきって いた し、 その ヒ が ちかづく に つれて、 イマ まで ぶらぶら して いた ショウゾウ も しぜん、 ジムシツ の ほう へ スガタ を あらわし、 ザツヨウ を てつだわされた。 あたらしい サギョウフク を きて、 がらがら と ゲタ を ひきずりながら、 ドゾウ の ほう から イス を はこんで くる ショウゾウ の ヨウス は、 なれない シゴト に テイコウ しよう と する よう な、 ギゴチナサ が あった。 ……イス が はこばれ、 マク が はられ、 それに セイジ の かいた シキジュン の コウモク が ケイジ され、 シキジョウ は すでに ととのって いた。 その ヒ は 9 ジ から シキ が おこなわれる はず で あった。 だが、 ソウチョウ から はっせられた クウシュウ ケイホウ の ため に、 ヨテイ は すっかり くるって しまった。
「……ビゼン オカヤマ、 ビンゴナダ、 マツヤマ ジョウクウ」 と ラジオ は カンサイキ ライシュウ を こっこく と つげて いる。 ショウゾウ の ミジタク が できた コロ、 コウシャホウ が うなりだした。 この マチ では、 はじめて きく コウシャホウ で あった が、 どんより と くもった ソラ が かすか に キンチョウ して きた。 だが、 キエイ は みえず、 クウシュウ ケイホウ は いったん、 ケイカイ ケイホウ に うつったり して、 ヒトビト は ただ そわそわ して いた。 ……ショウゾウ が ジムシツ へ はいって ゆく と、 テツカブト を かぶった ウエダ の カオ と であった。
「とうとう、 やって きました の、 なんちゅう こと かいの」
と、 イナカ から ツウキン して くる ウエダ は カレ に はなしかける。 その たくましい タイク や タンパク な ココロ を あらわして いる アイテ の カオツキ は、 イマ も なんとなし に ショウゾウ に アンド の カン を いだかせる の で あった。 そこ へ セイジ の ジャンパー スガタ が みえた。 カオ は さっそう と エミ を うかべよう と して、 メ は きらきら かがやいて いた。 ……ウエダ と セイジ が オモテ の ほう へ スガタ を けし、 ショウゾウ ヒトリ が イス に コシ を おろして いた とき で あった。 カレ は しばらく ぼんやり と なにも かんがえて は いなかった が、 とつぜん、 ヤネ の ほう を、 びゅん と うなる オト が して、 つづいて、 ばりばり と ナニ か さける ヒビキ が した。 それ は すぐ ズジョウ に おちて きそう な カンジ が して、 ショウゾウ の シカク は ガラスマド の ほう へ つっぱしった。 ムコウ の 2 カイ の ノキ と、 ニワ の マツ の コズエ が、 イッシュン、 イジョウ な ミツド で モウマク に えいじた。 オンキョウ は それきり、 もう きこえなかった。 しばらく する と、 オモテ から どやどや と ヒトビト が かえって きた。 「あ、 たまげた、 ドギモ を ぬかれた わい」 と ミウラ は ゆがんだ エガオ を して いた。 ……ケイホウ カイジョ に なる と、 オウライ を ぞろぞろ と ヒト が とおりだした。 ざわざわ した ナカ に、 どこ か うきうき した クウキ さえ かんじられる の で あった。 すぐ そこ で ひろった の だ と いって ダレ か が ホウダン の ハヘン を もって きた。
その ヨクジツ、 シロハチマキ を した ちいさな ジョガクセイ の ヒト-クラス が コウチョウ と シュニン キョウシ に インソツ されて ぞろぞろ と やって くる と、 すぐに シキジョウ の ほう へ みちびかれ、 コウイン たち も ゼンブ チャクセキ した コロ、 ショウゾウ は ミウラ と イッショ に いちばん アト から シンガリ の イス に コシ を おろして いた。 ケンチョウ ドウイン カ の オトコ の シキジ や、 コウチョウ の クンジ は イイカゲン に ききながして いた が、 やがて、 リッパ な コクミンフク スガタ の ジュンイチ が トウダン する と、 ショウゾウ は キョウミ を もって、 エンゼツ の イチゴン イック を ききとった。 こういう ギョウジ には バ を ふんで きた もの らしく、 コエ も タイド も きびきび して いた。 だが、 かすか に コトバ に ――と いう より も ココロ の ムジュン に―― つかえて いる よう な ところ も あった。 ショウゾウ が じろじろ カンサツ して いる と、 ジュンイチ の シセン と ぴったり でくわした。 それ は ナニ か に いどみかかる よう な、 フシギ な ヒカリ を はなって いた。 ……ガクト の ガッショウ が おわる と、 カノジョ たち は その ヒ から にぎやか に コウジョウ へ ながれて いった。 マイアサ はやく から やって きて、 ユウガタ きちんと セイレツ して センセイ に インソツ されながら かえって ゆく スガタ は、 ここ の セイサクショ に イチミャク の シンセンサ を もたらし、 タショウ の ウルオイ を まじえる の で あった。 その いじらしい スガタ は ショウゾウ の メ にも うつった。
ショウゾウ は ジムシツ の カタスミ で ボタン を かぞえて いた。 タク の ウエ に ちらかった ボタン を 100 コ ずつ まとめれば いい の で ある が、 のろのろ と なれない ユビサキ で ブキヨウ な こと を つづけて いる と、 ライキャク と オウタイ しながら じろじろ ながめて いた ジュンイチ は とうとう たまりかねた よう に、 「そんな カゾエカタ が ある か、 アソビゴト では ない ぞ」 と コエ を かけた。 せっせと テガミ を かきつづけて いた カタヤマ が、 すぐに ペン を おいて、 ショウゾウ の ソバ に やって きた。 「あ、 それ です か、 それ は こうして、 こんな ふう に やって ごらんなさい」 カタヤマ は シンセツ に おしえて くれる の で あった。 この カレ より も トシシタ の、 ゲンキ な カタヤマ は、 おそろしい ほど キ が きいて いて、 いつも カレ を アットウ する の で あった。
カンサイキ が この マチ に あらわれて から ココノカ-メ に、 また クウシュウ ケイホウ が でた。 が、 ブンゴ スイドウ から シンニュウ した ヘンタイ は サダ ミサキ で ウカイ し、 ぞくぞく と キュウシュウ へ むかう の で あった。 コンド は、 この マチ には ナニゴト も なかった ものの、 この コロ に なる と、 にわか に ヒト も マチ も うきあしだって きた。 グンタイ が シュツドウ して、 マチ の タテモノ を つぎつぎ に ハカイ して ゆく と、 チュウヤ なし に ソカイ の バシャ が たえなかった。
ヒルスギ、 ミンナ が ガイシュツ した アト の ジムシツ で、 ショウゾウ は ヒトリ イワナミ シンショ の 『ゼロ の ハッケン』 を よみふけって いた。 ナポレオン センエキ の とき、 ロシア グン の ホリョ に なった フランス の イチ シカン が、 ユウモン の あまり スウガク の ケンキュウ に ボットウ して いた と いう ハナシ は、 ミョウ に カレ の ココロ に ふれる もの が あった。 ……ふと、 そこ へ、 せかせか と セイジ が もどって きた。 ナニ か よほど コウフン して いる らしい こと が、 カオツキ に あらわれて いた。
「アニキ は まだ かえらぬ か」
「まだ らしい な」 ショウゾウ は ぼんやり こたえた。 あいかわらず、 ジュンイチ は ルスガチ の こと が おおく、 タカコ との フンソウ も、 ソノゴ どう なって いる の か、 ダイサンシャ には つかめない の で あった。
「ぐずぐず して は いられない ぞ」 セイジ は ドキ を おびた コエ で はなしだした。 「ソト へ いって みて くる と いい。 タケヤ-チョウ の トオリ も ヒラタヤ-チョウ ヘン も みんな とりはらわれて しまった ぞ。 ヒフク シショウ も いよいよ ソカイ だ」
「ふん、 そういう こと に なった の か。 してみると、 ヒロシマ は トウキョウ より まず ミツキ ほど たちおくれて いた わけ だね」 ショウゾウ が なんの イミ も なく そんな こと を つぶやく と、
「それだけ ヒロシマ が おくれて いた の は ありがたい と おもわねば ならぬ では ない か」 と セイジ は メ を まじまじ させて なおも かたい ヒョウジョウ を して いた。
……オオゼイ の コドモ を かかえた セイジ の イエ は、 チカゴロ は ツギ から ツギ へ と ごったかえす ヨウケン で フンキュウ して いた。 どの ヘヤ にも ソカイ の イルイ が はねくりだされ、 それに フタリ の コドモ は シュウダン ソカイ に くわわって ちかく シュッパツ する こと に なって いた ので、 その ジュンビ だけ でも タイヘン だった。 テギワ の わるい ミツコ は のろのろ と シゴト を かたづけ、 どうか する と ムダバナシ に トキ を ロウヒ して いる。 セイジ は ソト から かえって くる と、 いつも いらいら した キブン で ツマ に あたりちらす の で あった が、 そのくせ、 ユウショク が すむ と、 オク の ヘヤ に ひきこもって、 せっせと ミシン を ふんだ。 リュックサック なら すでに フタツ も カレ の イエ には あった し、 いそぐ シナ でも なさそう で あった。 セイジ は ただ、 それ を こしらえる オモシロサ に ムチュウ だった。 「なあにくそ、 なあにくそ」 と つぶやきながら、 ハリ を はこんだ。 「ショクニン なんか に まけて たまる もの か」 じじつ、 カレ の こしらえた リュック は ヘタ な ショクニン の シナ より か ユウシュウ で あった。
……こうして、 セイジ は セイジ なり に ナニ か キモチ を まぎらしつづけて いた の だ が、 キョウ、 ヒフク シショウ に シュットウ する と、 コウジョウ ソカイ を めいじられた の には、 キュウ に アシモト が ゆれだす オモイ が した。 それから キロ、 タケヤ-チョウ ヘン まで さしかかる と、 キノウ まで 40 ナンネン-カン も みなれた コウジ が、 すっかり ハ の ぬけた よう に なって いて、 ヘイタイ は めちゃくちゃ に ナタ を ふるって いる。 20 ダイ に 2~3 ネン タキョウ に ユウガク した ホカ は、 ほとんど この キョウド を はなれた こと も なく、 あたえられた シゴト を たえしのび、 その チイ も ようやく アンテイ して いた セイジ に とって、 これ は たえがたい こと で あった。 ……いったい ぜんたい どう なる の か。 ショウゾウ など に わかる こと では なかった。 カレ は、 イッコク も はやく ジュンイチ に あって、 コウジョウ ソカイ の こと を つげて おきたかった。 シンミ で アニ と ソウダン したい こと は、 いくらも ある よう な キモチ が した。 それなのに、 ジュンイチ は ジュンイチ で タカコ の こと に キ を うばわれ、 イマ は なんの タヨリ にも ならない よう で あった。
セイジ は ゲートル を とりはずし、 しばらく ぼんやり して いた。 その うち に ウエダ や ミウラ が かえって くる と、 ジムシツ は タテモノ ソカイ の ハナシ で もちきった。 「ランボウ な こと を する のう。 ウチ に、 ノコギリ で ハシラ を ごしごし ひいて、 ナワ かけて えんやさ えんやさ と ひっぱり、 それ で カタッパシ から めいで いく の だ から、 カワラ も なにも わやくちゃ じゃ」 と ウエダ は ヘイタイ の ハヤワザ に カンシン して いた。 「ナガタ の カミヤ なんか かわいそう な もの さ。 あの ウチ は ソト から みて も、 それ は リッパ な フシン だ が、 オヤジサン トコバシラ を なでて わいわい ないた よ」 と ミウラ は みて きた よう に かたる。 すると、 セイジ も イマ は にこにこ しながら、 この ハナシ に くわわる の で あった。 そこ へ さえない カオツキ を して ジュンイチ も もどって きた。
4 ガツ に はいる と、 マチ には そろそろ ワカバ も みえだした が、 カベツチ の ドシャ が カゼ に あおられて、 クウキ は ひどく ざらざら して いた。 シャバ の オウライ は らくえき と つづき、 ニンゲン の セイカツ が イマ は ムキダシ で さらされて いた。
「あんな もの まで はこんで いる」 と、 セイジ は ジムシツ の マド から ソト を ながめて わらった。 ダイハチグルマ に キジ の ハクセイ が ゆれながら みえた。 「なさけない もの じゃ ない か。 チュウゴク が ヒサン だ とか なんとか いいながら、 こちら だって チュウゴク の よう に なって しまった じゃ ない か」 と、 ルテン の スガタ に ココロ を うたれて か、 ジュンイチ も つぶやいた。 この チョウケイ は、 ヨウジン-ぶかく センソウ の ヒハン を さける の で あった が、 イオウジマ が カンラク した とき には、 「トウジョウ なんか ヤツザキ に して も あきたらない」 と もらした。 だが、 セイジ が コウジョウ ソカイ の こと を せかす と、 「ヒフク シショウ から マッサキ に うきあしだったり して どう なる の だ」 と、 あまり サンセイ しない の で あった。
ショウゾウ も ゲートル を まいて ガイシュツ する こと が おおく なった。 ギンコウ、 ケンチョウ、 シヤクショ、 コウツウ コウシャ、 ドウインショ―― どこ へ いって も カンタン な ツカイ で あった し、 カエリ には ぶらぶら と チマタ を みて あるいた。 ……ホリカワ-チョウ の トオリ が ぐいと おもいきり きりひらかれ、 ドゾウ だけ を のこし、 ぎらぎら と ハカイ の アト が エンポウ まで テンボウ される の は、 インショウハ の エ の よう で あった。 これ は これ で オモムキ も ある、 と ショウゾウ は しいて そんな カンソウ を いだこう と した。 すると、 ある ヒ、 その インショウハ の エ の ナカ に マッシロ な カモメ が ムスウ に うごいて いた。 キンロウ ホウシ の ジョガクセイ たち で あった。 カノジョ たち は ぴかぴか と ひかる ハヘン の ウエ に おりたち、 しろい ウワギ に あかるい ヨウコウ を あびながら、 てんでに ベントウ を ひらいて いる の で あった。 ……フルホンヤ へ たちよって みて も、 ショセキ の ヘンドウ が いちじるしく、 ロウバイ と ムチツジョ が ここ にも うかがわれた。 「ナニ か テンモンガク の ホン は ありません か」 そんな こと を たずねて いる セイネン の コエ が ふと カレ の ミミ に のこった。
……デンキ ヤスミ の ヒ、 カレ は ツマ の ハカ を おとずれ、 その ツイデ に ニギツ コウエン の ほう を あるいて みた。 イゼン この ヘン は ハナミ ユサン の ヒトデ で にぎわった もの だ が、 そう おもいながら、 ひっそり と した コカゲ を みやる と、 ロウバ と ちいさな ムスメ が ひそひそ と ベントウ を ひろげて いた。 モモ の ハナ が マンカイ で、 ヤナギ の ミドリ は もえて いた。 だが、 ショウゾウ には どうも、 マトモ に キセツ の カンカク が うつって こなかった。 ナニ か が ずれさがって、 おそろしく チョウシ を くるわして いる。 ――そんな カンソウ を カレ は ユウジン に かきおくった。 イワテ ケン の ほう に ソカイ して いる トモ から も よく タヨリ が あった。 「ゲンキ で いて ください。 サイシン に やって ください」 そういう みじかい コトバ の ハシ にも ショウゾウ は、 ひたすら シュウセン の ヒ を いのって いる モノ の キモチ を かんじた。 だが、 その あたらしい ヒ まで オレ は いきのびる だろう か。……
カタヤマ の ところ に ショウシュウ レイジョウ が やって きた。 セイカン な カレ は、 イツモ の よう に ジョウダン を いいながら、 てきぱき と ジム の アトシマツ を して ゆく の で あった。
「これまで テンコ を うけた こと は ある の です か」 と ショウゾウ は カレ に たずねた。
「それ も コトシ はじめて ある はず だった の です が、 ……いきなり これ でさあ。 なにしろ、 1000 ネン に イチド ある か ない か の オオイクサ です よ」 と カタヤマ は わらった。
ながい アイダ、 ビョウキ の ため スガタ を あらわさなかった ミツイ ロウジン が ジムシツ の カタスミ から、 うれわしげ に カレラ の ヨウス を ながめて いた が、 この とき しずか に カタヤマ の ソバ に ちかよる と、
「ヘイタイ に なられたら、 バカ に なりなさい よ、 モノ を かんがえて は いけません よ」 と、 ムスコ に いいきかす よう に いいだした。
……この ミツイ ロウジン は ショウゾウ の チチ の ジダイ から ミセ に いた ヒト で、 コドモ の とき ショウゾウ は イチド ガッコウ で キブン が わるく なり、 この ヒト に むかえ に きて もらった キオク が ある。 その とき ミツイ は あおざめた カレ を はげましながら、 カワ の ホトリ で オウト する カタ を なでて くれた。 そんな、 とおい、 こまか な こと を、 ムヒョウジョウ に ちかい、 すぼんだ カオ は おぼえて いて くれる の だろう か。 ショウゾウ は この ロウジン が コンニチ の よう な ジダイ を どう おもって いる か、 たずねて みたい キモチ に なる こと も あった。 だが、 ロウジン は いつも ジムシツ の カタスミ で、 ナニ か ヒト を よせつけない かたくな な もの を もって いた。
……ある とき、 ケイリ ブ から、 アンマク に つける ワ を もとめて きた こと が ある。 ウエダ が さっそく、 ソウコ から ワ の ハコ を とりだし、 ジムシツ の タク に ならべる と、 「そいつ は ヒトハコ イクツ はいって います か」 と ケイリ ブ の ヘイ は たずねた。 「1000 コ でさあ」 と ウエダ は ムゾウサ に こたえた。 スミ の ほう で、 じろじろ ながめて いた ロウジン は この とき キュウ に コトバ を さしはさんだ。
「1000 コ? そんな はず は ない」
ウエダ は フシギ そう に ロウジン を ながめ、
「1000 コ でさあ、 これまで いつも そう でした よ」
「いいや、 どうしても ちがう」
ロウジン は たちあがって ハカリ を もって きた。 それから、 100 コ の ワ の メカタ を はかる と、 ツギ に ハコ ゼンタイ の ワ を ハカリ に かけた。 ゼンタイ を 100 で わる と、 700 コ で あった。
モリ セイサクショ では カタヤマ の ソウベツカイ が おこなわれた。 すると、 ショウゾウ の しらぬ ヒトビト が ジムシツ に あらわれ、 いろんな もの を どこ か から ととのえて くる の で あった。 ジュンイチ の くわわって いる、 サマザマ な グループ、 それ が たがいに ブッシ の ユウズウ を しあって いる こと を ショウゾウ は ようやく きづく よう に なった。 ……その コロ に なる と、 タカコ と ジュンイチ の ながい アイダ の カットウ は けっきょく、 アイマイ に なり、 おもいがけぬ ホウガク へ カイケツ されて ゆく の で あった。
ソカイ の イミ で、 タカコ には イツカイチ チョウ の ほう へ 1 ケン、 イエ を もたす、 そして モリ-ケ の ダイドコロ は ちょうど、 ムスコ を ガクドウ ソカイ に だして ヒトリ きり に なって いる ヤスコ に ゆだねる、 ――そういう こと が ケッテイ する と、 タカコ も はれがましく イエ に もどって きて、 イテン の ニゴシラエ を した。 だが、 タカコ にも まして、 この ニヅクリ に ネッチュウ した の は ジュンイチ で あった。 カレ は いろんな シナモノ に テイネイ に ツナ を かけ、 オオイ や ワク を こしらえた。 そんな サギョウ の アイマ には、 ジムシツ に もどり、 チェック プロテクター を つかったり、 ライキャク と オウタイ した。 ヨル は イモウト を アイテ に ヒトリ で バンシャク を した。 サケ は どこ か から はいって きた し、 ジュンイチ の キゲン は よかった……
と、 ある アサ、 B-29 が この マチ の ジョウクウ を かすめて いった。 モリ セイサクショ の ホウコウジョウ に いた ガクト たち は、 イッセイ に マド から のぞき、 ヤネ の ほう へ はいだし、 ソラ に のこる ヒコウキグモ を みとれた。 「きれい だ わね」 「おお はやい こと」 と、 ショウジョ たち は てんでに タンセイ を はなつ。 B-29 も、 ヒコウキグモ も、 この マチ に スガタ を あらわした の は これ が はじめて で あった。 ――サクネンライ、 トウキョウ で みなれて いた ショウゾウ には ヒサシブリ に みる ヒコウキグモ で あった。
その ヨクジツ、 バシャ が きて、 タカコ の ニ は イツカイチ チョウ の ほう へ はこばれて いった。 「ヨメイリ の ヤリナオシ です よ」 と、 タカコ は わらいながら、 キンジョ の ヒトビト に アイサツ して シュッパツ した。 だが、 4~5 ニチ する と、 タカコ は あらためて キンジョ との ソウベツカイ に もどって きた。 デンキ キュウギョウ で、 アサ から ダイドコロ には モチウス が ヨウイ されて、 ジュンイチ や ヤスコ は モチツキ の シタク を した。 その うち に トナリグミ の オンナ たち が ぞろぞろ と ダイドコロ に やって きた。 ……イマ では ショウゾウ も イモウト の クチ から、 この キンリン の ヒトビト の こと も、 うんざり する ほど きかされて いた。 ダレ と ダレ と が ケッタク して いて、 どこ と どこ が タイリツ し、 いかに トウセイ を くぐりぬけて ミンナ それぞれ ヤリクリ を して いる か。 ダイドコロ に スガタ を あらわした オンナ たち は、 ミンナ ヒトスジナワ では ゆかぬ ソウボウ で あった が、 ショウゾウ など の および も つかぬ セイカツリョク と、 キョギ を ムジャキ に ふるまう ホンノウ を さずかって いる らしかった。…… 「イマ の うち に のんで おきましょう や」 と、 その コロ ジュンイチ の ところ には いろんな ナカマ が エンカイ の ソウダン を もちかけ、 モリ-ケ の ダイドコロ は にぎわった。 そんな とき キンジョ の オカミサン たち も やって きて カセイ する の で あった。
ショウゾウ は ユメ の ナカ で、 アラシ に モミクチャ に されて おちて いる の を かんじた。 つづいて、 マドガラス が どしん、 どしん と ひびいた。 その うち に、 「ケムリ が、 ケムリ が……」 と どこ か すぐ チカク で さけんで いる の を ミミ に した。 ふらふら する アシドリ で、 2 カイ の マドギワ へ よる と、 はるか ニシ の ほう の ソラ に コクエン が もうもう と たちのぼって いた。 フクソウ を ととのえ カイカ に いった とき には、 しかし、 もう ヒコウキ は すぎて しまった アト で あった。 ……セイジ の シンパイ そう な カオ が あった。 「アサネ なんか して いる サイ じゃ ない ぞ」 と カレ は ショウゾウ を しかりつけた。 その アサ、 ケイホウ が でた こと も ショウゾウ は まるで しらなかった の だ が、 ラジオ が 1 キ、 ハマダ (ニホンカイ-ガワ、 シマネ ケン の ミナト) へ おもむいた と ほうじた か と おもう と、 まもなく これ で あった。 カミヤ-チョウ スジ に ヒトスジ ぱらぱら と バクダン が まかれて いった の だ。 4 ガツ マツジツ の こと で あった。
5 ガツ に はいる と、 キンジョ の コクミン ガッコウ の コウドウ で マイバン、 テンコ の ヨシュウ が おこなわれて いた。 それ を ショウゾウ は しらなかった の で ある が、 ようやく それ に きづいた の は、 テンコ マエ ヨッカ の こと で あった。 その ヒ から、 カレ も ハヤメ に ユウショク を おえて は、 そこ へ でかけて いった。 その ガッコウ も イマ では すでに ヘイシャ に あてられて いた。 アカリ の うすぐらい コウドウ の イタノマ には、 そうとう ネンパイ の イチグン と、 ぐんと わかい ヒトクミ が いりまじって いた。 ケッショク の いい、 わかい キョウカン は ぴんと ミ を そりかえらす よう な シセイ で、 ぴかぴか の チョウカ の スネ は ゴム の よう に はずんで いた。
「ミンナ が、 こうして ヨシュウ に きて いる の を、 キミ だけ きづかなかった の か」
はじめ キョウカン は おだやか に ショウゾウ に たずね、 ショウゾウ は ぼそぼそ と ベンカイ した。
「コエ が ちいさい!」
とつぜん、 キョウカン は、 びっくり する よう な コエ で どなった。
……そのうち、 ショウゾウ も ここ では ミナ が ミンナ バンセイ の ダシアイ を して いる こと に きづいた。 カレ も クビ を ふるい、 ヤケクソ に できる カギリ の コエ を しぼりだそう と した。 つかれて イエ に もどる と、 ドゴウ の チョウシ が ミウチ に うずまいた。 ……キョウカン は わかい ヒトクミ を あつめて、 ヒトリヒトリ に テンコ の レンシュウ を して いた。 キョウカン の トイ に たいして、 セイネン たち は ゲンキ よく こたえ、 レンシュウ は ジュンチョウ に すすんで いた。 アシ が たしょう ビッコ の セイネン が でて くる と、 キョウカン は ダンジョウ から カレ を みおろした。
「ショクギョウ は シャシンヤ か」
「さよう で ございます」 セイネン は コシ の ひくい ショウニン クチョウ で ひょこん と こたえた。
「よせ よ、 はい、 で ケッコウ だ。 せっかく、 イマ まで いい キブン で いた のに、 そんな ヘンジ されて は げっそり して しまう」 と キョウカン は ニガワライ した。 この コクハク で ショウゾウ は はっと きづいた。 トウスイ だ、 と カレ は おもった。
「ばかばかしい キワミ だ。 ニホン の グンタイ は ただ ケイシキ に トウスイ して いる だけ だ」 イエ に かえる と ショウゾウ は イモウト の マエ で ぺらぺら と しゃべった。
いまにも アメ に なりそう な うすぐらい アサ で あった。 ショウゾウ は その コクミン ガッコウ の ウンドウジョウ の レツ の ナカ に いた。 5 ジ から やって きた の で ある が、 クンジ や セイレツ の クリカエシ ばかり で、 なかなか シュッパツ には ならなかった。 その アサ、 タイド が けしからん と いって、 イチ セイネン の ホオゲタ を はりとばした キョウカン は、 ナニ か まだ はずむ キモチ を もてあまして いる よう で あった。 そこ へ ちょうど、 ひどく あかじみた チュウネン オトコ が やって くる と、 もそもそ と ナニ か うったえはじめた。
「ナン だ と!」 と キョウカン の コエ だけ が マンジョウ に ききとれた。 「イチド も ヨシュウ に でなかった くせ に して、 ケサ だけ でる つもり か」
キョウカン は じろじろ カレ を ながめて いた が、
「ハダカ に なれ!」 と ダイカツ した。 そう いわれて、 アイテ は おずおず と ボタン を はずしだした。 が、 キョウカン は いよいよ たけって きた。
「ハダカ に なる とは、 こう する の だ」 と、 アイテ を ぐんぐん ウンドウジョウ の ショウメン に ひっぱって くる と、 くるり と ウシロムキ に させて、 ぱっと アイテ の シャツ を はぎとった。 すると アオミドリイロ の モヤ が たちこめた うすぐらい コウセン の ナカ に、 カサブタ-だらけ の みにくい セナカ が ロシュツ された。
「これ が ゼッタイ アンセイ を ようした カラダ なの か」 と、 キョウカン は ツギ の ドウサ に うつる ため ちょっと マ を おいた。
「フココロエモノ!」 この コエ と ドウジ に ぴしり と テッケン が ひらめいた。 と、 その とき、 コウテイ に ある サイレン が ケイカイ ケイホウ の ウナリ を はなちだした。 その、 ものがなしげ な ふとい ヒビキ は、 この コウケイ に さらに セイサン な オモムキ を くわえる よう で あった。 やがて サイレン が やむ と、 キョウカン は ジブン の えんじた コウカ に だいぶ マンゾク した らしく、
「イマ から、 この オトコ を ケンペイタイ へ キソ して やる」 と イチドウ に センゲン し、 それから、 はじめて シュッパツ を めいじる の で あった。 ……イチドウ が ニシ レンペイジョウ へ さしかかる と、 アメ が ぽちぽち おちだした。 あらあらしい ホチョウ の オト が ホリ に そって すすんだ。 その ホリ の ムコウ が セイブ 2 ブタイ で あった が、 ほのぐらい ミドリ の ツツミ に イマ ツツジ の ハナ が チ の よう に さきみだれて いる の が、 ふと ショウゾウ の メ に とまった。
ヤスコ の ニモツ は ムスコ の ガクドウ ソカイチ へ すこし おくった の と、 シリアイ の イナカ へ ヒトハコ あずけた ホカ は、 まだ ダイブブン ジュンイチ の イエ の ドゾウ に あった。 ミノマワリ の シナ と シゴト ドウグ は、 ミシン を すえた 6 ジョウ の マ に おかれた が、 ヘヤ いっぱい、 シカカリ の シゴト を ひろげて、 その ナカ で ノボセギミ に はたらく の が すき な カノジョ は、 そこ が ランザツ に なる こと は いっこう キ に ならなかった。 アメガチ の テンキ で、 はやく から ヒ が くれる と ネズミ が ごそごそ はいのぼって、 ボール-バコ の カゲ へ かくれたり した。 キレイズキ の ジュンイチ は ときどき、 イモウト を しかりつける の だ が、 ヤスコ は その とき だけ ちょっと かたづけて みる ものの、 ヘヤ は すぐ マエ イジョウ に みだれた。 シゴト やら、 ダイドコロ やら、 ソウジ やら、 こんな ひろい イエ を アニ の キ に いる とおり に できない、 と、 よく ヤスコ は セイジ に こぼす の で あった。 ……イツカイチ チョウ へ イエ を かりて イライ、 ジュンイチ は つぎつぎ に ソカイ の シナ を おもいつき、 ほとんど マイニチ、 ニヅクリ に ヨネン ない の だった が、 ニ を サンラン した アト は イエ の ウチ を きちんと かたづけて おく シュウカン だった。 ジュンイチ の モチニゲ-ヨウ の リュックサック は ショクリョウヒン が つめられて、 エンガワ の テンジョウ から つるされて いる ツナ に くくりつけて あった。 つまり、 ネズミ の シンガイ を ふせぐ ため で あった。 ……ニシザキ に ナワ を かけさせた ニ を フタリ で セイサクショ の カタスミ へ もちはこぶ と、 ジュンイチ は ジムシツ で ロウガンキョウ を かけ 2~3 の ショルイ を よみ、 それから ふいと フロバ へ スガタ を あらわし、 ごしごし と ナガシバ の ソウジ に とりかかる。
……コノゴロ、 ジュンイチ は ミ も ココロ も コマ の よう に よく カイテン した。 タカコ を ソカイ させた ものの、 チョウカイ では ボウクウ ヨウイン の ソカイ を こばみ、 イドウ ショウメイ を ださなかった。 したがって、 ジュンイチ は ショクリョウ も、 タカコ の ところ へ はこばねば ならなかった。 イツカイチ チョウ まで の テイキ ジョウシャケン も テ に いれた し、 コメ は ことかかない だけ、 たえず ながれこんで くる。 ……フロ ソウジ が すむ コロ、 ジュンイチ には もう アス の ニヅクリ の プラン が できて いる。 そこで、 テアシ を ぬぐい、 ゲタ を つっかけ、 ドゾウ を のぞいて みる の で あった が、 イリグチ の すぐ ソバ に ランザツ に つみかさねて ある ヤスコ の ニモツ―― ナニ か とりだして、 そのまま フタ の あいて いる ハコ や、 フタ から はみだして いる イルイ…… が、 イツモ の こと ながら メ に つく。 しばらく ジュンイチ は それ を れいぜん と みつめて いた が、 ふと、 ここ へは もっと ミズオケ を そなえつけて おいた ほう が いい な、 と、 ヒトリ うなずく の で あった。
30 も ナカバスギ の ヤスコ は、 もう ジョガクセイ の コロ の あかるい アタマ には かえれなかった し、 すんだ タマシイ と いう もの は いつのまにか みうしなわれて いた。 が、 そのかわり ナニ か イマ では ふてぶてしい もの が ミ に そなわって いた。 ビョウジャク な オット と シベツ し、 ヨウジ を かかえて、 ジュンイチ の キンジョ へ うつりすむ よう に なった コロ から、 セケン は フクザツ に なった し、 その アイダ、 1 ネン あまり ヨウサイ シュギョウ の タビ にも でたり した が、 セイカツナン の ソコ で、 シュウトメ や トナリグミ や アニヨメ や アニ たち に こづかれて ゆく うち に、 たしょう モノ の ウラオモテ も わかって きた。 コノゴロ、 ナニ より も カノジョ に とって キョウミ が ある の は、 タニン の こと で、 ヒト の キモチ を あれこれ オクソク したり する こと が、 ほとんど ヤミツキ に なって いた。 それから、 カノジョ は カノジョ-リュウ に、 ヒト を ショウチュウ に まるめる、 と いう より ヒト と おもしろく つきあって、 ささやか な アイジョウ の ヤリトリ を する こと に、 キ を まぎらす の で あった。 ハントシ マエ から シリアイ に なった キンジョ の シンコン の ムジャキ な フサイ も たまらなく コウイ が もてた ので、 ジュンイチ が イツカイチ の ほう へ でかけて いって ルス の ヨル など、 ヤスコ は この フタリ を ショウタイ して、 ドラヤキ を こしらえた。 トウカ カンセイ の モト で、 アス をも しれない キョウイ の ナカ で、 これ は ママゴト アソビ の よう に たのしい ヒトトキ で あった。
……ホンケ の ダイドコロ を あずかる よう に なって から は、 オイ の チュウガクセイ も 「ネエサン、 ネエサン」 と よく なついた。 フタリ の ウチ ちいさい ほう は ハハオヤ に くっついて イツカイチ チョウ へ いった が、 タバコ の アジ も おぼえはじめた、 ウエ の ほう の チュウガクセイ は サカリバ の ヨル の ミリョク に ひかれて か、 やはり、 ここ に ふみとどまって いた。 ユウガタ、 ミツビシ コウジョウ から もどって くる と、 さっそく カレ は ダイドコロ を のぞく。 すると、 トダナ には ムシパン や ドウナッツ が、 カレ の キ に いる よう に いつも メサキ を かえて、 こしらえて あった。 ハライッパイ、 ユウショク を たべる と、 のそり と くらい オウライ へ でかけて ゆき、 それから もどって くる と ヒトフロ あびて アセ を ながす。 ノンキ そう に ユ の ナカ で オオゴエ で うたって いる フシマワシ は、 すっかり ショッコウ キドリ で あった。 まだ、 カオ は こどもっぽかった が、 カラダ は ソウテイ-ナミ に ハッタツ して いた。 ヤスコ は オイ の ウタゴエ を きく と、 いつも くすくす わらう の だった。 ……アン を いれた マンジュウ を こしらえ、 バンシャク の アト だす と、 ジュンイチ は ひどく ほめて くれる。 あおい ワイシャツ を きて わかがえった つもり の ジュンイチ は、 「ふとった では ない か、 ほほう、 ヒビ に ふとって ゆく ぞ」 と キゲン よく ジョウダン を いう こと が あった。 じっさい、 ヤスコ は シタバラ の ほう が でっぱって、 カオ は いつのまにか 20 ダイ の ツヤ を たたえて いた。 だが、 シュウ に イチド ぐらい は イツカイチ チョウ の ほう から アニヨメ が もどって きた。 ハデ な モンペ を きた タカコ は コウリョウ の ニオイ を まきちらしながら、 それとなく ヤスコ の ヤリクチ を カンシ に くる よう で あった。 そういう とき ケイホウ が でる と、 すぐ この タカコ は カオ を しかめる の で あった が、 カイジョ に なる と、 「さあ、 また ケイホウ が でる と うるさい から かえりましょう」 と そそくさ と たちさる の だった。
……ヤスコ が ユウゲ の シタク に とりかかる コロ には たいがい、 ジケイ の セイジ が やって くる。 ソカイ ガクドウ から きた と いって、 うれしそう に ハガキ を みせる こと も あった。 が、 ときどき、 セイジ は 「ふらふら だ」 とか 「メマイ が する」 と うったえる よう に なった。 カオ に セイキ が なく、 ショウソウ の イロ が めだった。 ヤスコ が ニギリメシ を さしだす と、 カレ は だまって うまそう に ぱくついた。 それから、 この イエ の いそがしい ソカイブリ を ながめて、 「ついでに イシドウロウ も ウエキ も みんな もって いく と いい」 など わらう の で あった。
マエ から ヤスコ は ドゾウ の ナカ に ホウリッパナシ に なって いる タンス や キョウダイ が キ に かかって いた。 「この キョウダイ は ワク つくらす と いい」 と ジュンイチ も いって くれた ほど だし、 ヒトコト カレ が ニシザキ に めいじて くれれば すぐ カイケツ する の だった が、 オノレ の ソカイ に かまけて いる ジュンイチ は、 もう そんな こと は わすれた よう な カオツキ だった。 ちょくせつ、 ニシザキ に たのむ の は どうも キ が ひけた。 タカコ の メイレイ なら ムジョウケン に したがう ニシザキ も ヤスコ の こと に なる と、 とかく しぶる よう に おもえた。 ……その アサ、 ヤスコ は ジムシツ から クギヌキ を もって ドゾウ の ほう へ やって きた ジュンイチ の スガタ を チュウイ して みる と、 その カオ は おだやか に ないで いた ので、 たのむ なら この とき と おもって、 さっそく、 キョウダイ の こと を もちかけた。
「キョウダイ?」 と ジュンイチ は ムカンドウ に つぶやいた。
「ええ、 あれ だけ でも はやく ソカイ させて おきたい の」 と ヤスコ は とりすがる よう に アニ の ヒトミ を みつめた。 と、 アニ の シセン は ちらと ワキ へ そらされた。
「あんな、 ガラクタ、 どう なる の だ」 そう いう と ジュンイチ は くるり と ソッポ を むいて いって しまった。 はじめ、 ヤスコ は すとん と クウキョ の ナカ に なげだされた よう な キモチ で あった。 それから、 つぎつぎ に イキドオリ が ゆれ、 もう じっと して いられなかった。 ガラクタ と いって も、 たびかさなる イドウ の ため に あんな ふう に なった ので、 カノジョ が ケッコン する とき まだ いきて いた ハハオヤ が みたてて くれた キネン の シナ で あった。 ジブン の もの に なる と ホウキ 1 ポン に まで アイチャク する ジュンイチ が、 この せつない、 ヒト の キモチ は わかって くれない の だろう か。 ……カノジョ は また あの バン の こわい ジュンイチ の カオツキ を おもいうかべて いた。
それ は タカコ が イツカイチ チョウ に ソカイ する テハズ の できかかった コロ の こと で あった。 ツマ の カワリ に イモウト を この イエ に うつし イッサイ を きりまわさす こと に する と、 ジュンイチ は シュチョウ する の で あった が、 ヤスコ は なかなか ショウダク しなかった。 ヒトツ には ミガッテ な アニヨメ に たいする アテコスリ も あった が、 カケ チョウ の ほう へ ソカイ した コドモ の こと も キ に なり、 いっそ の こと ホボ と なって そこ へ いって しまおう か とも おもいまどった。 アニヨメ と ジュンイチ とは ヤスコ を めぐって なだめたり すかしたり しよう と する の で あった が、 もう ヨ も ふけかかって いた。
「どうしても ショウダク して くれない の か」 と ジュンイチ は きっと なって たずねた。
「ええ、 やっぱし ヒロシマ は キケン だし、 いっそ の こと カケ チョウ の ほう へ……」 と、 ヤスコ は おなじ こと を くりかえした。 とつぜん、 ジュンイチ は ナガヒバチ の ソバ に あった ネーブル の カワ を つかむ と、 ムコウ の カベ へ びしゃり と なげつけた。 キョウボウ な クウキ が さっと みなぎった。
「まあ、 まあ、 もう イッペン アス まで よく かんがえて みて ください」 と アニヨメ は とりなす よう に コトバ を はさんだ が、 けっきょく、 ヤスコ は その ヨル の うち に ショウダク して しまった の で あった。 ……しばらく ヤスコ は メモト が くらくら する よう な ジョウタイ で イエ の ウチ を アテ も なく あるきまわって いた が、 いつのまにか カイダン を のぼる と 2 カイ の ショウゾウ の ヘヤ に きて いた。 そこ には アサッパラ から ヒトリ ひきこもって クツシタ の シュウゼン を して いる ショウゾウ の スガタ が あった。 ジュンイチ の こと を イッキ に しゃべりおわる と、 はじめて ナミダ が あふれながれた。 そして、 いくらか キモチ が おちつく よう で あった。 ショウゾウ は うれわしげ に ただ もくもく と して いた。
テンコ が おわって から の ショウゾウ は、 ジブン でも どうにも ならぬ キョムカン に おちいりがち で あった。 その コロ、 ヨウジ も あまり なかった し、 ジムシツ へも めった に スガタ を あらわさなく なって いた。 たまに でて くれば、 シンブン を よむ ため で あった。 ドイツ は すでに ムジョウケン コウフク を して いた が、 イマ この クニ では ホンド ケッセン が さけばれ、 チクジョウ など と いう コトバ が みえはじめて いた。 ショウゾウ は シャセツ の ウラ に ナニ か シンソウ の ニオイ を かぎとろう と した。 しかし、 どうか する と、 フツカ も ミッカ も シンブン が よめない こと が あった。 これまで ジュンイチ の タクジョウ に おかれて いた はず の もの が、 どういう もの か どこ か に かくされて いた。
たえず ナニ か に おいつめられて ゆく よう な キモチ で いながら、 だらけて ゆく もの を どうにも できず、 ショウゾウ は ミズカラ を もてあます よう に、 ぶらぶら と ひろい イエ の ウチ を あるきまわる こと が おおかった。 ……ヒルドキ に なる と、 ジョセイト が ダイドコロ の ほう へ オチャ を とり に くる。 すると、 クロイタ の ヘイ ヒトエ を へだてて、 コウジョウ の ロジ の ほう で イマ サギョウ から カイホウ された ガクト たち の にぎやか な コエ が きこえる。 ショウゾウ が こちら の ショクドウ の エンガワ に コシ を おろし、 すぐ アシモト の ちいさな イケ に ユウウツ な マナザシ を おとして いる と、 コウジョウ の ほう では ガクト たち の タイソウ が はじまり、 イチ、 ニ、 イチ、 ニ と クミチョウ の はれやか な ゴウレイ が きこえる。 その やさしい ハズミ を もった ショウジョ の コエ だけ が、 キミョウ に ショウゾウ の ココロ を なぐさめて くれる よう で あった。 ……3 ジ-ゴロ に なる と、 カレ は ふと おもいついた よう に、 2 カイ の ジブン の ヘヤ に かえり、 クツシタ の シュウゼン を した。 すると、 ニワ を へだてて、 ムコウ の ジムシツ の 2 カイ では、 せっせと たちはたらいて いる ジョコウ たち の スガタ が みえ、 モーター ミシン の カイテン する オンキョウ も ここ まで きこえて くる。 ショウゾウ は ハリ の メド に ユビサキ を まどわしながら、 「これ を はいて にげる とき」 と そんな ネンソウ が ひらめく の で あった。
……それから ニチボツ の マチ を ぶぜん と あるいて いる カレ の スガタ が よく みかけられた。 マチ は つぎつぎ に タテモノ が とりはらわれて ゆく ので、 おもいがけぬ ところ に ヒロバ が のぞき、 ソマツ な ツチ の ゴウ が うずくまって いた。 めった に デンシャ も とおらない だだびろい ミチ を まがる と、 カワ に そった ツツミ に でて、 くずされた ドベイ の ホトリ に、 イチジク の ハ が おもくるしく しげって いる。 うすぐらく なった まま ヨウイ に ヨル に とけこまない クウカン は、 どろん と した シッケ が あふれて、 ショウゾウ は まるで みしらぬ トチ を あるいて いる よう な キモチ が する の で あった。 ……だが、 カレ の アシ は その ツツミ を とおりすぎる と、 キョウバシ の タモト へ で、 それから さらに カワ に そった ツツミ を あるいて ゆく。 セイジ の イエ の カドグチ まで きかかる と、 ミチバタ で あそんで いた メイ が まず コエ を かけ、 つづいて 1 ネンセイ の オイ が すばやく とびついて くる。 オイ は ぐいぐい カレ の テ を ひっぱり、 かたい ちいさな ツメ で、 ショウゾウ の テクビ を つねる の で あった。
その コロ、 ショウゾウ は モチニゲ-ヨウ の ザツノウ を ほしい と おもいだした。 ケイホウ の たび ごと に カレ は フロシキヅツミ を もちあるいて いた が、 アニ たち は リッパ な リュック を もって いた し、 ヤスコ は カタ から さげる カバン を こしらえて いた。 ヌノジ さえ あれば いつでも ぬって あげる と ヤスコ は うけあった。 そこで、 ショウゾウ は ジュンイチ に ハナシ を もちかける と、 「カバン に する ヌノジ?」 と ジュンイチ は つぶやいて、 そんな もの が ある の か ない の か アイマイ な カオツキ で あった。 その うち には だして くれる の か と まって いた が いっこう はっきり しない ので、 ショウゾウ は また ジュンイチ に サイソク して みた。 すると、 ジュンイチ は イジワル そう に わらいながら、 「そんな もの は いらない よ。 かついで にげたい の だったら、 そこ に つるして ある リュック の ウチ、 どれ でも いい から もって にげて くれ」 と いう の で あった。 その カバン は ジュウヨウ ショルイ と ほんの ミ に つける シナ だけ を いれる ため なの だ と、 ショウゾウ が いくら セツメイ して も、 ジュンイチ は とりあって くれなかった。…… 「ふーん」 と ショウゾウ は おおきな タメイキ を ついた。 カレ には ジュンイチ の シンリ が どうも つかめない の で あった。 「すねて やる と いい のよ。 ワタシ なんか ないたり して こまらして やる」 と、 ヤスコ は ジュンイチ の ソウジュウホウ を セツメイ して くれた。 キョウダイ の ケン に して も、 ソノゴ けろり と して ジュンイチ は ソカイ させて くれた の で あった。 だが、 ショウゾウ には じわじわ した カケヒキ は できなかった。 ……カレ は セイジ の イエ へ いって カバン の こと を はなした。 すると セイジ は ちょうど いい ヌノジ を とりだし、 「これ ぐらい あったら つくれる だろう。 コメ 1 ト と いう ところ だ が、 ナニ か よこす か」 と いう の で あった。 ヌノジ を テ に いれる と ショウゾウ は ヤスコ に カバン の セイサク を たのんだ。 すると、 イモウト は、 「にげる こと ばかり かんがえて どう する の」 と、 これ も また イジ の わるい こと を いう の で あった。
4 ガツ 30 ニチ に バクゲキ が あった きり、 ソノゴ ここ の マチ は まだ クウシュウ を うけなかった。 したがって マチ の ソカイ にも カンキュウ が あり、 ジンシン も キンチョウ と シカン が たえず コウタイ して いた。 ケイホウ は ほとんど レンヤ でた が、 それ は キライ トウカ と きまって いた ので、 モリ セイサクショ でも カンシ トウバンセイ を ハイシ して しまった。 だが、 ホンド ケッセン の ケハイ は しだいに もう ノウコウ に なって いた。
「ハタ ゲンスイ が ヒロシマ に きて いる ぞ」 と、 ある ヒ、 セイジ は ジムシツ で ショウゾウ に いった。 「ヒガシ レンペイジョウ に チクジョウ ホンブ が ある。 ヒロシマ が サイゴ の ガジョウ に なる らしい ぞ」 そういう こと を かたる セイジ は ――タショウ の カイギ も もちながら―― ショウゾウ に くらべる と、 ケッセン の ココログミ に きおって いる ふう にも みえた。…… 「ハタ ゲンスイ が のう」 と、 ウエダ も マノビ した クチョウ で いった。 「ありゃあ、 フタバ の サト で、 マイニチ フタツ ずつ おおきな マンジュウ を たべてん だ そう な」 ……ユウコク、 ジムシツ の ラジオ は ケイヒン チク に B-29 500 キ ライシュウ を ほうじて いた。 シカメツラ して きいて いた ミツイ ロウジン は、
「へーえ、 500 キ!……」
と おもわず キョウタン の コエ を あげた。 すると、 ミナ は くすくす わらいだす の で あった。
……ある ヒ、 ヒガシ ケイサツショ の 2 カイ では、 シナイ の コウジョウシュ を あつめて ナニ か クンジ が おこなわれて いた。 ダイリ で でかけて きた ショウゾウ は、 こういう セキ には はじめて で あった が、 キョウ も なさげ に ヒトリ カッテ な こと を かんがえて いた。 が、 その うち に ふと キ が つく と、 ベンシ が いれかわって、 イマ タイク どうどう たる ジュンサ が しゃべりだそう と する ところ で あった。 ショウゾウ は その フウサイ に ちょっと キョウミ を かんじはじめた。 タイカク と いい、 カオツキ と いい、 いかにも テンケイテキ な ケイサツカン と いう ところ が あった。 「ええ、 これから ボウクウ エンシュウ の ケン に ついて、 いささか もうしあげます」 と、 その コエ は また メイロウ カッタツ で あった。 ……おやおや、 ゼンコク の トシ が イマ ダンウ の シタ に さらされて いる とき、 ここ では エンシュウ を やる と いう の かしら、 と ショウゾウ は あやしみながら ミミ を かたむけた。
「ええ、 ゴショウチ の とおり ゲンザイ、 わが ヒロシマ シ へは トウキョウ を ハジメ、 ナゴヤ、 あるいは オオサカ、 コウベ ホウメン から、 つまり カク-ホウメン の リサイシャ が ぞくぞく と あいついで ながれこんで おります。 それら の リサイシャ が わが シミン ショクン に かたる ところ は ナン で ある か と もうします と、 『いやはや、 クウシュウ は こわかった こわかった。 なんでも かんでも はやく にげだす に かぎる』 と、 ほざく の で あります。 しかし、 ひっきょう する に カレラ は ボウクウジョウ の ザンパイシャ で あり、 あわれむ べき グミン で あります。 みずから たのむ ところ あつき ワレワレ は けっして カレラ の ゲン に ミミ を かたむけて は ならない の で あります。 なるほど センキョク は カレツ で あり、 クウシュウ は ゲキカ の イチロ に あります。 だが、 いかなる キケン と いえど も、 それ に たいする かっこ たる ボウビ さえ あれば、 いささかも おそる には たりない の で あります」
そう いいながら、 カレ は くるり と コクバン の ほう へ むいて、 コンド は ズシ に よって、 ジッサイテキ の セツメイ に はいった。 ……その いささかも フアン も なさげ な、 カレ の ハナシ を きいて いる と、 じっさい、 クウシュウ は カンタン メイリョウ な コトガラ で あり、 ドウジ に ヒト の イノチ も また タンジュン メイカク な ブツリテキ サヨウ の モト に ある だけ の こと の よう に おもえた。 めずらしい オトコ だな、 と ショウゾウ は かんがえた。 だが、 このよう な コウカン ロボット なら、 イマ ニホン には いくらでも いる に ちがいない。
ジュンイチ は テブラ で イツカイチ チョウ の ほう へ でむく こと は なく、 いつも リュックサック に こまごま した ソカイ の シナ を つめこみ、 ユウショク-ゴ ヒトリ いそいそ と でかけて ゆく の で あった が、 ある とき、 ショウゾウ に 「マンイチ の バアイ しって いて くれぬ と こまる から、 これから イッショ に いこう」 と さそった。 ちいさな ニモツ もたされて、 ショウゾウ は ジュンイチ と イッショ に デンシャ の テイシャジョウ へ おもむいた。 コイーユキ は なかなか やって こず、 ショウゾウ は ひろびろ と した ドウロ の ハテ に メ を やって いた。 が、 その うち に、 タテモノ の ムコウ に はっきり と ゴサソウザン が うずくまって いる スガタ が うつった。
それ は イマ、 ナツ の ユウグレ の スイジョウキ を ふくんで あざやか に セイドウ して いた。 その ヤマ に つらなる ホカ の ヤマヤマ も イツモ は カスイ の あわい スガタ しか しめさない のに、 キョウ は おそろしく セイキ に みちて いた。 そこしれない スガタ の ナカ を クモ が ゆるゆる と ながれた。 すると、 いまにも ヤマヤマ は ゆれうごき、 さけびあおう と する よう で あった。 フシギ な コウケイ で あった。 ふと、 この マチ を めぐる、 ある おおきな もの の コウズ が、 この とき ショウゾウ の メ に えがかれて きだした。 ……セイレツ な カセン を イクツ か のりこえ、 デンシャ が シガイ に でて から も、 ショウゾウ の メ は マド の ソト の フウケイ に くいいって いた。 その エンセン は ムカシ カイスイヨクキャク で にぎわった ので、 イマ も マド から ふきこむ カゼ が ふと なつかしい キオク の ニオイ を もたらしたり した。 が、 サキホド から ショウゾウ を おどろかして いる チュウゴク サンミャク の ヒョウジョウ は なおも おとろえなかった。 くれかかった ソラ に ヤマヤマ は いよいよ あざやか な ミドリ を なげだし、 セト ナイカイ の シマカゲ も くっきり と うきあがった。 ナミ が、 あおい おだやか な ナミ が、 ムゲン の アラシ に あおられて、 いまにも くるいまわりそう に おもえた。
ショウゾウ の メ には、 いつも みなれて いる ニホン チズ が うかんだ。 コウボウ はてしない タイヘイヨウ の ハテ に、 はじめ ニホン レットウ は ちいさな テンテン と して うつる。 マリアナ キチ を とびたった B-29 の ヘンタイ が、 クモ の ウラ を ぬって ホシ の よう に ながれて ゆく。 ニホン レットウ が ぐんと こちら に ひきよせられる。 ハチジョウジマ の ウエ で フタツ に わかれた ヘンタイ の ヒトツ は、 まっすぐ フジ-サン の ほう に むかい、 ホカ は、 クマノナダ に そって キイ スイドウ の ほう へ すすむ。 が、 その ヘンタイ から、 いま 1 キ が ふわり と はなれる と、 ムロト ミサキ を こえて、 ぐんぐん トサ ワン に むかって ゆく。 ……あおい ヘイゲン の ウエ に あわだち むらがる サンミャク が みえて くる が、 その ミネ を とびこえる と、 カガミ の よう に しずまった セト ナイカイ だ。 1 キ は その キョウメン に サンプ する シマジマ を テンケン しながら、 ゆうぜん と ヒロシマ ワン-ジョウ を まって いる。 つよすぎる マヒル の コウセン で、 チュウゴク サンミャク も ワンコウ に のぞむ イッカイ の トシ も ウスムラサキ の おぼろ で ある。 ……が、 その うち に、 ウジナ-コウ の リンカク が はっきり と みえ、 そこ から ヒロシマ シ の ゼンボウ が ヒトメ に みおろされる。 サンキョウ に そって ながれて いる オオタガワ が、 この マチ の イリグチ の ところ で ブンキ する と、 ブンキ の カズ は さらに ふえ、 マチ は サンカクス の ウエ に ひろがって いる。 マチ は すぐ ハイゴ に ひくい ヤマヤマ を めぐらし、 レンペイジョウ の シカクケイ が フタツ、 おおきく しろく ひかって いる。 だが、 チカゴロ その カワ に くぎられた マチ には、 いたる ところ に、 ソカイ アト の しろい アキチ が できあがって いる。 これ は ショウイダン コウゲキ に たいして テッペキ の ジン を しいた と いう の で あろう か。 ……ボウエンキョウ の オモテ に、 ふと キョウリョウ が あらわれる。 マメツブ ほど の ニンゲン の ムレ が イマ も いそがしげ に うごきまわって いる。 たしか ヘイタイ に ちがいない。 ヘイタイ、 ――それ が チカゴロ この マチ の いたる ところ を センユウ して いる らしい。 レンペイジョウ に アリ の ごとく うごめく カゲ は もとより、 ちょっと した タテモノ の ホトリ にも、 それ らしい カゲ が テンザイ する。 ……サイレン は なった の だろう か。 ニグルマ が イクツ も マチジュウ を うごいて いる。 マチハズレ の アオタ には オモチャ の キシャ が のろのろ はしって いる。 ……しずか な マチ よ、 さようなら。 B-29 1 キ は くるり と カジ を かえ ゆうぜん と とびさる の で あった。
リュウキュウ レットウ の タタカイ が おわった コロ、 リンケン の オカヤマ シ に ダイクウシュウ が あり、 つづいて、 6 ガツ 30 ニチ の シンコウ から 7 ガツ ツイタチ の ミメイ まで、 クレ シ が エンショウ した。 その ヨ、 ヒロシマ ジョウクウ を よこぎる ヘンタイ バクオン は つぎつぎ に シミン の ミミ を おびやかして いた が、 セイジ も ボウクウ ズキン に メ ばかり ひからせながら、 モリ セイサクショ へ やって きた。 コウジョウ にも ジムシツ にも ヒトカゲ は なく、 イエ の ゲンカン の ところ に、 ヤスコ と ショウゾウ と オイ の チュウガクセイ の 3 ニン が うずくまって いる の だった。 たった これ だけ で、 こんな ひろい バショ を ふせぐ と いう の だろう か、 ――セイジ は すぐに そんな こと を かんがえる の で あった。 と、 オモテ の ほう で ハンショウ が なり 「タイヒ」 と さけぶ コエ が きこえた。 4 ニン は あたふた と ニワ の ゴウ へ ミ を ひそめた。 ミツウン の ソラ は ヨウイ に あけよう とも せず、 バクオン は つぎつぎ に ききとれた。 モノ の カタチ が はっきり みえはじめた コロ ようやく クウシュウ カイジョ と なった。
……その ヘイセイ に かえった マチ を、 ひどく コウフン しながら、 ジュンイチ は オオイソギ で あるいて いた。 カレ は イツカイチ チョウ で イッスイ も しなかった し、 ウミ を へだてて ムコウ に あかあか と もえる カエン を よどおし ながめた の だった。 うかうか して は いられない。 ヒ は もう カカト に もえついて きた の だ、 ――そう つぶやきながら、 イッコク も はやく ジタク に かけつけよう と した。 デンシャ は その アサ も ヨウイ に やって こず、 ジョウキャク は ミンナ ぼうと した カオツキ で あった。 ジュンイチ が ジムシツ に あらわれた の は、 アサ の ヒ も だいぶ たかく なって いた コロ で あった が、 ここ にも ぼうと した カオツキ の ねむそう な ヒトビト ばかり と であった。
「うかうか して いる とき では ない。 さっそく、 コウジョウ は ソカイ させる」
ジュンイチ は セイジ の カオ を みる と、 すぐに そう センコク した。 ミシン の トリハズシ、 ニバシャ の カフ を ケンチョウ へ シンセイ する こと、 カザイ の サイセイリ。 ――ジュンイチ には また キュウ な ヨウケン が ヤマヅミ した。 ソウダン アイテ の セイジ は、 しかし、 マッセツ に ギギ を はさむ ばかり で、 いっこう てきぱき した ところ が なかった。 ジュンイチ は ぴしぴし と ムチ を ふるいたい オモイ に もえたつ の だった。
その ヨクヨクジツ、 コンド は ヒロシマ の ダイクウシュウ だ と いう ウワサ が ぱっと ひろがった。 ウエダ が ユウコク、 リョウマツショウ から の ケイコク を ジュンイチ に つたえる と、 ジュンイチ は イモウト を せかして ユウショク を ハヤメ に すまし、 ショウゾウ と ヤスコ を かえりみて いった。
「ワシ は これから でかけて いく が、 アト は よろしく たのむ」
「クウシュウ ケイホウ が でたら にげる つもり だ が……」 ショウゾウ が ネン を おす と ジュンイチ は うなずいた。
「ダメ らしかったら ミシン を イド へ なげこんで おいて くれ」
「クラ の トビラ を ぬりつぶしたら…… イマ の うち に やって しまおう かしら」
ふと、 ショウゾウ は ソウレツ な キモチ が わいて きた。 それから ドゾウ の マエ に ちかづいた。 かねて アカツチ は ねって あった が、 その ドゾウ の トビラ を ぬりつぶす こと は、 チチ の ダイ には ついに イチド も なかった こと で ある。 ハシゴ を かける と、 ショウゾウ は ぺたぺた と シラカベ の トビラ の スキマ に アカツチ を ねじこんで いった。 それ が おわった コロ ジュンイチ の スガタ は もう そこ には みえなかった。 ショウゾウ は キ に なる ので、 セイジ の イエ に たちよって みた。 「コンヤ が あぶない そう だ が……」 ショウゾウ が いう と、 「ええ、 それ が その ヒミツ なの だ けど キンジョ の コジマ さん も そんな こと を ユウガタ ヤクショ から きいて かえり……」 と、 ナニ か イッショウ ケンメイ、 フクロ に モノ を つめながら ミツコ は だらだら と べんじだした。
ひととおり ヨウイ も できて、 カイカ の 6 ジョウ、 ――その コロ ショウゾウ は カイカ で ねる よう に なって いた、―― の カヤ に もぐりこんだ とき で あった。 ラジオ が トサ オキ カイメン ケイカイ ケイホウ を つげた。 ショウゾウ は カヤ の ナカ で ミミ を すました。 コウチ ケン、 エヒメ ケン が ケイカイ ケイホウ に なり、 つづいて それ は クウシュウ ケイホウ に うつって いた。 ショウゾウ は カヤ の ソト に はいだす と、 ゲートル を まいた。 それから ザツノウ と スイトウ を カタ に コウサク させる と、 その ウエ を バンド で しめた。 ゲンカン で クツ を さがし、 サイゴ に テブクロ を はめた とき、 サイレン が ケイカイ ケイホウ を はなった。 カレ は とっとと オモテ へ とびだす と、 セイジ の イエ の ほう へ いそいだ。 クラヤミ の ナカ を かたい クツゾコ に テイコウ する アスファルト が あった。 ショウゾウ は ぴんと たって うまく あるいて いる オノレ の アシ を イシキ した。 セイジ の イエ の モン は あけはなたれて いた。 ゲンカン の ト を いくら たたいて も なんの テゴタエ も ない。 すでに にげさった アト らしかった。 ショウゾウ は あたふた と ツツミ の ミチ を つっきって サカエバシ の ほう へ すすんだ。 ハシ の チカク まで きた とき、 サイレン は クウシュウ を うなりだす の で あった。
ムチュウ で ハシ を わたる と、 ニギツ コウエン ウラ の ドテ を まわり、 いつのまにか カレ は ウシタ ホウメン へ むかう ツツミ まで きて いた。 この コロ、 ようやく ショウゾウ は カレ の すぐ シュウイ を ぞろぞろ と ひしめいて いる ヒト の ムレ に きづいて いた。 それ は ロウニャク ナンニョ、 あらゆる シミン の ヒッシ の イデタチ で あった。 ナベカマ を マンサイ した リヤカー や、 ロウボ を のせた ウバグルマ が、 ザットウ の ナカ を かきわけて ゆく。 グンヨウケン に ジテンシャ を ひかせながら、 さっそう と テツカブト を かぶって いる オトコ、 ツエ に とりすがり ビッコ を ひいて いる ロウジン。 ……トラック が きた。 ウマ が とおる。 ウスヤミ の せまい ロジョウ が イマ サイジツ の よう に にぎわって いる の だった。 ……ショウゾウ は コカゲ の スイソウ の カタワラ に ある ザイモク の ウエ に コシ を おろした。
「この ヘン なら だいじょうぶ でしょう か」 と トオリガカリ の ロウバ が たずねた。
「だいじょうぶ でしょう、 カワ も すぐ マエ だし、 チカク に イエ も ない し」 そう いって カレ は スイトウ の セン を ひねった。 イマ ヒロシマ の マチ の ソラ は ぼうと しらんで、 それ は もう いつ ヒノテ が あがる かも しれない よう に おもえた。 マチ が ゼンショウ して しまったら、 アス から オレ は どう なる の だろう、 そう おもいながら も、 ショウゾウ は メノマエ の ヒナンミン の ユクエ に キョウミ を かんじる の で あった。
『ヘルマン と ドロテア』 の ハジメ に でて くる ヒナンミン の コウケイ が うかんだ。 だが、 それ に くらべる と なんと これ は おそろしく クウハク な ジョウケイ なの だろう。 ……しばらく する と、 クウシュウ ケイホウ が カイジョ に なり、 つづいて ケイカイ ケイホウ も とかれた。 ヒトビト は ぞろぞろ と ツツミ の ミチ を ひきあげて ゆく。 ショウゾウ も その ミチ を ヒトリ ひきかえして いった。 ミチ は きた オリ より も さらに ザットウ して いた。 ナニ か わめきながら、 タンカ が あいついで やって くる。 ビョウニン を はこぶ カンゴニン たち で あった。
ソラ から サンプ された ビラ は クウシュウ の セッパク を ケイコク して いた し、 おびえた シミン は、 その コロ、 ニチボツ と ドウジ に ぞろぞろ と ヒナン コウドウ を カイシ した。 まだ なんの ケイホウ も ない のに、 カワ の ジョウリュウ や、 コウガイ の ヒロバ や、 ヤマ の フモト は、 そうした ヒトビト で いっぱい に なり、 クサムラ では、 カヤ や、 ヤグ や、 スイジ ドウグ さえ もちだされた。 アサヒル なし に コンザツ する ミヤジマ セン の デンシャ は、 ユウコク に なる と さらに サッキ-だつ。 だが、 こうした シゼン の ホウノウ をも、 すぐに その スジ は きびしく とりしまりだした。 ここ では ボウクウ ヨウイン の ソカイ を みとめない こと は、 すでに マエ から キテイ されて いた が、 コンド は ボウクウ ヨウイン の フザイ をも カンシ しよう と し、 カッコ に セイメイ ネンレイ を キサイ させた カミ を はりださせた。 ヨル は、 ハシ の タモト や ツジツジ に ジュウケン-ツキ の ヘイタイ や ケイカン が がんばった。 カレラ は よわい シミン を キョウハク して、 あくまで この マチ を シシュ させよう と する の で あった が、 キュウソ の ごとく おいつめられた ヒトビト は、 たくみ に また その ウラ を くぐった。 ヤカン、 ショウゾウ が にげて ゆく トジョウ アタリ を チュウイ して みる と、 どうも フザイ らしい イエ の ほう が おおい の で あった。
ショウゾウ も また あの 7 ガツ ミッカ の バン から 8 ガツ イツカ の バン ――それ が サイシュウ の トウボウ だった―― まで、 ヤカン ケイセイ が あやしげ に なる と たちまち にげだす の で あった。 ……トサ オキ カイメン ケイカイ ケイホウ が でる と もう ミジタク に とりかかる。 コウチ ケン、 エヒメ ケン に クウシュウ ケイホウ が はっせられて、 ヒロシマ ケン、 ヤマグチ ケン が ケイカイ ケイホウ に なる の は 10 プン と かからない。 ゲートル は クラヤミ の ナカ でも すぐ まける が、 テヌグイ とか クツベラ とか いう こまか な もの で ショウゾウ は ちょっと てまどる こと が ある。 が、 ケイカイ ケイホウ の サイレン まで には きっと ゲンカンサキ で クツ を はいて いる。 ヤスコ は ヤスコ で ミジタク を ととのえ、 やはり その コロ、 ゲンカンサキ に きて いる。 フタリ は アトサキ に なり、 カドグチ を でて ゆく の で あった。 ……ある マチカド を まがり、 10 ポ ばかり ゆく と ショウゾウ は もう なりだす ぞ と おもう。 はたして、 クウシュウ ケイホウ の ものものしい サイレン が ハッポウ の ヤミ から わめきあう。 おお、 なんと いう、 コウテイ サマザマ の、 いや な ウナリゴエ だ。 これ は きずついた ケモノ の ドウコク と でも いう の で あろう か。 ノチ の レキシカ は これ を なんと ケイヨウ する だろう か。 ――そんな カンソウ や、 それから、 ……それにしても ムカシ、 この ジブン は マチ に やって くる シシ の フエ を エンポウ から きいた だけ でも マッサオ に なって にげて いった が、 あの コロ の キョウフ の ジュンスイサ と、 この イマ の キョウフ と では、 どうも イマ では キョウフ まで が ナニ か ドンジュウ な ワク に はめこまれて いる。 ――そんな ネンソウ が ショウゾウ の アタマ に うかぶ の も スウビョウ で、 カレ は いきせききらせて、 ツツミ に でる イシダン を のぼって いる。 セイジ の イエ の カドグチ に かけつける と、 イッカ そろって シタク を おえて いる こと も あった が、 まだ なんの ミジタク も して いない こと も あった。 ショウゾウ が ここ へ あらわれる と ゼンゴ して ヤスコ は ヤスコ で そこ へ かけつけて くる。…… 「ここ の ヒモ むすんで ちょうだい」 と ちいさな メイ が ショウゾウ に ズキン を さしだす。 カレ は その ヒモ を かたく むすんで やる と、 くるり と メイ を セ に せおい、 ミナ より ヒトアシ サキ に カドグチ を でて ゆく。 サカエバシ を わたって しまう と、 とにかく ほっと して アシドリ も すこし ゆるく なる。 テツドウ の フミキリ を こえ、 ニギツ の ツツミ に でる と、 ショウゾウ は せおって いた メイ を クサムラ に おろす。 カワ の ミズ は ほのじろく、 スギ の タイボク は くろい カゲ を ミチ に なげて いる。 この ちいさな メイ は この ケシキ を キオク する で あろう か。 おさない ヒビ が ヨゴト、 ヨゴト の トウボウ に はじまる 「ある オンナ の ショウガイ」 と いう ショウセツ が、 ふと、 アセマミレ の ショウゾウ の アタマ には うかぶ の で あった。 ……しばらく する と、 セイジ の イッカ が やって くる。 アニヨメ は アカンボウ を せおい、 ジョチュウ は ナニ か ニ を かかえて いる。 ヤスコ は ちいさな オイ の テ を ひいて、 とっとと セントウ に いる。 (カノジョ は ヒトリ で にげて いる と、 ケイボウダン に つかまり ひどく しかられた こと が ある ので、 それ イライ この オイ を かりる よう に なった) セイジ と チュウガクセイ の オイ は ならんで アト から やって くる。 それから、 その ヘン の ジンカ の ラジオ に ミミ を かたむけながら、 ジョウセイ-シダイ に よって は さらに カワカミ に さかのぼって ゆく の だ。 ながい ツツミ を ずんずん ゆく と、 ジンカ も まばら に なり、 タノモ や サンロク が おぼろ に みえて くる。 すると、 カエル の ナキゴエ が イマ アタリ イチメン に きこえて くる。 ひっそり と した ヤイン の ナカ を にげのびて ゆく ヒトカゲ は やはり たえない。 いつのまにか ヨ が あけて、 おびただしい ガス が キロ イチメン に たちこめて いる こと も あった。
ときには ショウゾウ は タンドク で トウボウ する こと も あった。 カレ は 1 カゲツ マエ から ザイゴウ グンジン の クンレン に ときおり、 ひっぱりだされて いた が、 ハジメゴロ 20 ニン あまり シュウゴウ して いた ドウルイ も、 しだいに カズ を げんじ、 イマ では 4~5 メイ に すぎなかった。 「いずれ 8 ガツ には ダイショウシュウ が かかる」 と ブンカイチョウ は いった。 はるか ウジナ の ほう の ソラ では タンショウトウ が ゆれうごいて いる ユウヤミ の コウテイ に たたされて、 ヨビ ショウイ の ハナシ を きかされて いる とき、 ショウゾウ は キ も そぞろ で あった。 クンレン が おえて、 イエ へ もどった か と おもう と、 サイレン が なりだす の だった。 だが、 つづいて クウシュウ ケイホウ が なりだす コロ には、 ショウゾウ は ぴちん と ミジタク を おえて いる。 あわただしい クンレン の ツヅキ の よう に、 カレ は ヤミ の オウライ へ とびだす の だ。 それから、 かっか と なる クツオト を ききながら、 カレ は キタク を いそいで いる モノ の よう な フウ を よそおう。 ハシ の セキショ を ブジ に とおりこす と、 やがて ニギツ ウラ の ツツミ へ くる。 ここ で はじめて、 ショウゾウ は たちどまり、 クサムラ に コシ を おろす の で あった。 すぐ カワシモ の ほう には テッキョウ が あり、 ミズ の ひいた カワ には しろい サス が おぼろ に うきあがって いる。 それ は ショウネン の コロ から よく サンポ して みおぼえて いる ケシキ だ が、 ショウゾウ には、 ズジョウ に かぶさる ホシゾラ が、 ふと ヤセン の アリサマ を ソウゾウ さす の だった。 『センソウ と ヘイワ』 に でて くる、 ある ジンブツ の メ に えいじる うつくしい ダイシゼン の ナガメ、 しずまりかえった シンキョウ、 ――そういった もの が、 この オレ の シニギワ にも、 はたして おとずれて くる だろう か。 すると、 ふと ショウゾウ の うずくまって いる クサムラ の すぐ ウエ の スギ の コズエ の ほう で、 ナニ か ビミョウ な ナキゴエ が した。 おや、 ホトトギス だな、 そう おもいながら ショウゾウ は なんとなく フシギ な キモチ が した。 この センソウ が ホンド ケッセン に うつり、 もしも ヒロシマ が サイゴ の ガジョウ と なる と したら、 その とき、 オレ は けつぜん と イノチ を すてて たたかう こと が できる で あろう か。 ……だが、 この マチ が サイゴ の タテ に なる なぞ、 なんと いう キョウキ イジョウ の モウソウ だろう。 かりに これ を ジョジシ に する と したら、 もっとも ワイショウ で インサン かぎりない もの に なる に ソウイ ない。 ……だが、 ショウゾウ は やはり ズジョウ に かぶさる みえない もの の ハバタキ を、 すぐ ミヂカ に きく よう な オモイ が する の で あった。
ケイホウ が カイジョ に なり、 セイジ の イエ まで ミンナ ひきかえして も、 ショウゾウ は そこ の ゲンカン で しばらく ラジオ を きいて いる こと が あった。 どうか する と、 また にげださなければ ならぬ ので、 オイ も メイ も まだ クツ の まま で いる。 だが、 オトナ たち が ラジオ に キ を とられて いる うち、 サキホド まで コエ の して いた オイ が、 いつのまにか ゲンカン の イシ の ウエ に テアシ を なげだし、 オオイビキ で ねむって いる こと が あった。 この オキフシ つねなき セイカツ に なれて しまった らしい コドモ は、 まるで ヘイシ の よう な イビキ を かいて いる。 (この スガタ を ショウゾウ は なにげなく ながめた の で あった が、 それ が やがて、 ヘイシ の よう な シニカタ を する とは おもえなかった。 まだ 1 ネンセイ の オイ は シュウダン ソカイ へも サンカ できず、 ときたま コクミン ガッコウ へ かよって いた。 8 ガツ ムイカ も ちょうど、 ガッコウ へ ゆく ヒ で、 その アサ、 ニシ レンペイジョウ の チカク で、 この コドモ は あえなき サイゴ を とげた の だった)
……しばらく まって いて も ベツジョウ ない こと が わかる と、 ヤスコ が サキ に かえって ゆき、 つづいて ショウゾウ も セイジ の カドグチ を でて ゆく。 だが、 ホンケ に もどって くる と、 2 マイ かさねて きて いる フク は アセ で びっしょり して いる し、 シャツ も クツシタ も イッコク も はやく ぬぎすてて しまいたい。 フロバ で ミズ を あび、 ダイドコロ の イス に コシ を おろす と、 はじめて ショウゾウ は ヒトゴコチ に かえる よう で あった。 ――コンヤ の マキ も おわった。 だが、 アス は。 ――その アス も、 かならず トサ オキ カイメン から はじまる。 すると、 ゲートル だ、 ザツノウ だ、 クツ だ、 スベテ の ヨウイ が ヤミ の ナカ から とびついて くる し、 トウボウ の ミチ は セイカク に よこたわって いた。…… (この こと を アト に なって カイソウ する と、 ショウゾウ は その コロ ヒカクテキ ケンコウ でも あった が、 よくも あんな に ビンショウ に ふるまえた もの だ と おもえる の で あった。 ヒト は ショウガイ に おいて かならず イガイ な ジキ を もつ もの で あろう か)
モリ セイサクショ の コウジョウ ソカイ は のろのろ と おこなわれて いた。 ミシン の トリハズシ は できて いて も、 バシャ の ワリアテ が まわって くる の が ヨウイ で なかった。 バシャ が やって きた アサ は、 ミンナ ウンパン に いそがしく、 ジュンイチ は とくに カッキ-づいた。 ある とき、 ザシキ に しかれて いた タタミ が そっくり、 この バシャ で はこばれて いった。 タタミ の はがれた ザシキ は、 ザイタ だけ で ひろびろ と し、 ソファ が 1 キャク ぽつん と おかれて いた。 こう なる と、 いよいよ この イエ も サイゴ が ちかい よう な キ が した が、 ショウゾウ は エンガワ に たたずんで、 よく ニワ の スミ の しろい ハナ を ながめた。 それ は ツユ-ゴロ から さきはじめて、 ヒトツ が くちかかる コロ には ヒトツ が さき、 イマ も 6 ベン の、 ひっそり した スガタ を たたえて いる の だった。 ジケイ に その メイショウ を きく と、 クチナシ だ と いった。 そう いえば コドモ の コロ から みなれた ハナ だ が、 ひっそり と した スガタ が イマ は たまらなく なつかしかった。……
「これまで ナンド、 クウシュウ ケイホウ に あった か しれない。 イマ も、 カイガン の ほう が、 あかあか と もえて いる。 ケイホウ が でる たび に、 オレ は ゲンコウ を かかえて、 ゴウ に もぐりこむ コノゴロ。 オレ は コウトウ スウガク の ケンキュウ を して いる の だ。 スウガク は うつくしい。 ニホン の ゲイジュツカ は、 これ が わからぬ から ダメ さ」 こんな ふう な テガミ が トウキョウ の ユウジン から ヒサシブリ に ショウゾウ の テモト に とどいた。 イワテ ケン の ほう に いる トモ から は コノゴロ、 タヨリ が なかった。 カマイシ が カンポウ シャゲキ に あい、 あの ヘン も もう アンゼン では なさそう で あった。
ある アサ、 ショウゾウ が ジムシツ に いる と、 キンジョ の カイシャ に つとめて いる オオタニ が やって きた。 カレ は タカコ の ミウチ の ヒトリ で、 ジュンイチ たち の ゴタゴタ の コロ から、 よく ここ へ たちよる ので、 ショウゾウ にも もう めずらしい カオ では なかった。 ほそい スネ に くろい ゲートル を まき、 ひょろひょろ の ドウ と ほそながい メン は、 ナニ か あぶなかしい インショウ を あたえる の だ が、 それ を ささえよう と する キハク も そなわって いた。 その オオタニ は ジュンイチ の テーブル の マエ に つかつか と ちかよる と、
「どう です、 ヒロシマ は。 サクヤ も まさに やって くる か と おもう と、 ウベ の ほう へ それて しまった。 テキ も よく しって いる よ、 ウベ には ジュウヨウ コウジョウ が あります から な。 それ に くらべる と、 どうも ヒロシマ なんか ヘイタイ が いる だけ で、 コウギョウテキ ケンチ から いわす と ほとんど モンダイ では ない から ね。 きっと だいじょうぶ ここ は たすかる と ボク は コノゴロ おもいだした よ」 と、 たいそう ジョウキゲン で べんじる の で あった。 (この オオタニ は 8 ガツ ムイカ の アサ、 シュッキン の トジョウ ついに ユクエ フメイ に なった の で ある)
……だが、 ヒロシマ が たすかる かも しれない と おもいだした ニンゲン は、 この オオタニ ヒトリ では なかった。 イチジ は あれほど インシン を きわめた ヨル の トウボウ も、 しだいに ヒトアシ が げんじて きた の で ある。 そこ へ もって きて、 コガタキ の ライシュウ が スウカイ あった が、 ハクチュウ、 ヒロシマ ジョウクウ を よこぎる その タイグン は、 なんら この マチ に トウダン する こと が なかった ばかり か、 たまたま ニシ レンペイジョウ の コウシャホウ は チュウガタ 1 キ を うちおとした の で あった。 「ヒロシマ は ふせげる でしょう ね」 と デンシャ の ナカ の イチ シミン が ショウコウ に むかって はなしかける と、 ショウコウ は もくもく と うなずく の で あった。…… 「あ、 おもしろかった。 あんな クウチュウセン たら めった に みられない のに」 と ヤスコ は ショウゾウ に いった。 ショウゾウ は タタミ の ない ザシキ で、 ジード の 『ヒトツブ の ムギ もし しなずば』 を よみふけって いる の で あった。 アフリカ の シャクネツ の ナカ に テンカイ される、 セイシュン と ジガ の、 あやしげ な ズ が、 いつまでも カレ の アタマ に こびりついて いた。
セイジ は この マチ ゼンタイ が たすかる とも かんがえなかった が、 カワバタ に のぞんだ ジブン の イエ は やけない で ほしい と いつも いのって いた。 ミヨシ チョウ に ソカイ した フタリ の コドモ が ブジ で この イエ に もどって きて、 ミンナ で また カワアソビ が できる ヒ を ゆめみる の で あった。 だが、 そういう ヒ が いつ やって くる の か、 つきつめて かんがえれば ぼうと して わからない の だった。
「ちいさい コドモ だけ でも、 どこ か へ ソカイ させたら……」 ヤスコ は ヨゴト の トウボウ イライ、 しきり に キ を もむ よう に なって いた。 「はやく なんとか して ください」 と ツマ の ミツコ も その コロ に なる と ソカイ を クチ に する の で あった が、 「オマエ いって きめて こい」 と、 セイジ は すこぶる フキゲン で あった。 ニョウボウ、 コドモ を ソカイ させて、 この ジブン は ――ジュンイチ の よう に なにもかも うまく ゆく では なし―― この イエ で どうして くらして ゆける の か、 まるで ケントウ が つかなかった。 どこ か イナカ へ イエ を かりて カザイ だけ でも はこんで おきたい、 そんな ソウダン なら マエ から ツマ と して いた。 だが、 イナカ の どこ に そんな イエ が みつかる の か、 セイジ には まるで アテ が なかった。 この コロ に なる と、 セイジ は チョウケイ の コウドウ を かれこれ、 あてこすらない カワリ に、 じっと うらめしげ に、 ヒトリ かんがえこむ の で あった。
ジュンイチ も しかし セイジ の イッカ を みすてて は おけなく なった。 けっきょく、 ジュンイチ の キモイリ で、 イナカ へ 1 ケン、 イエ を かりる こと が できた。 が、 ニ を はこぶ バシャ は すぐに は やとえなかった。 イナカ へ イエ が みつかった と なる と、 セイジ は ほっと して、 ニヅクリ に ボウサツ されて いた。 すると、 ミヨシ の ほう の シュウダン ソカイチ の センセイ から、 フケイ の メンカイビ を ツウチ して きた。 ミヨシ の ほう へ たずねて ゆく と なれば、 フユモノ イッサイ を もって いって やりたい し、 ソカイ の ニヅクリ やら、 ガクドウ へ もって いって やる シナ の ジュンビ で、 イエ の ウチ は また ごったかえした。 それに セイジ は ミョウ な クセ が あって、 ガクドウ へ もって いって やる シナジナ には、 きちんと モウヒツ で ナマエ を キニュウ して おいて やらぬ と キ が すまない の だった。
あれ を かたづけたり、 これ を とりちらかしたり した アゲク、 ユウガタ に なる と セイジ は ふいと キ を かえて、 ツリザオ を もって、 すぐ マエ の カワラ に でた。 コノゴロ あまり つれない の で ある が、 イト を たれて いる と、 いちばん キ が おちつく よう で あった。 ……ふと、 とっと とっと と いう カワ の ドヨメキ に セイジ は びっくり した よう に メ を みひらいた。 ナニ か カワ を みつめながら、 サキホド から ユメ を みて いた よう な キモチ が する。 それ も ムカシ よんだ キュウヤク セイショ の テンペン チイ の コウケイ を うつらうつら たどって いた よう で ある。 すると、 ガケ の ウエ の イエ の ほう から、 「オトウサン、 オトウサン」 と オオゴエ で ミツコ の よぶ スガタ が みえた。 セイジ が ツリザオ を かかえて イシダン を のぼって ゆく と、 ツマ は だしぬけ に、 「ソカイ よ」 と いった。
「それ が どうした」 と セイジ は なんの こと か わからない ので といかえした。
「さっき オオカワ が やって きて、 そう いった の です よ、 ミッカ イナイ に たちのかねば すぐに この ウチ とりこわされて しまいます」
「ふーん」 と セイジ は うめいた が、 「それで、 オマエ は ショウダク した の か」
「だから そう いって いる の じゃ ありません か。 なんとか しなきゃ タイヘン です よ。 このまえ、 オオカワ に あった とき には オタク は この ケイカク の クイキ に はいりません と、 ちゃんと ズメン みせながら セツメイ して くれた くせ に、 コンド は ヤブ から ボウ に、 20 メートル ごと の キテイ です と くる の です」
「マンシュウ ゴロ に イッパイ くわされた か」
「くやしい では ありません か。 なんとか しなきゃ タイヘン です よ」 と、 ミツコ は いらいら しだす。
「オマエ いって きめて こい」 そう セイジ は うそぶいた が、 ぐずぐず して いる バアイ でも なかった。 「ホンケ へ いこう」 と、 フタリ は それから まもなく ジュンイチ の イエ を おとずれた。 しかし、 ジュンイチ は その バン も すでに イツカイチ チョウ の ほう へ でかけた アト で あった。 シガイ デンワ で ジュンイチ を よびだそう と する と、 どうした もの か、 その ヨル は いっこう、 デンワ が つうじない。 ミツコ は ヤスコ を とらえて、 また オオカワ の ヤリクチ を だらだら と ののしりだす。 それ を きいて いる と、 セイジ は ミッカ-ゴ に とりこわされる イエ の スガタ が ムネ に つまり、 イマ は もう ゼッタイ ゼツメイ の キモチ だった。
「どうか カミサマ、 ミッカ イナイ に この ヒロシマ が ダイクウシュウ を うけます よう に」
わかい コロ クリスチャン で あった セイジ は、 ふと クチ を ひらく と こんな イノリ を ささげた の で あった。
その ヨクアサ、 セイジ の ツマ は ジムシツ に ジュンイチ を おとずれて、 ソカイ の こと を だらだら と うったえ、 タテモノ ソカイ の こと は シカイ ギイン の タザキ が ホンケ ホンモト らしい の だ から、 タザキ の ほう へ なんとか たのんで もらいたい と いう の で あった。
ふん、 ふん と ジュンイチ は きいて いた が、 やがて、 イツカイチ へ デンワ を かける と、 タカコ に すぐ かえって こい と めいじた。 それから、 セイジ を かえりみて、 「なんて アリサマ だ。 オタク は タテモノ ソカイ です と いわれて、 はい そう です か、 と、 なす が まま に されて いる の か。 クウシュウ で やかれた ブン なら、 ホケン が もらえる が、 ソカイ で とりはらわれた イエ は、 ホケンキン だって つかない じゃ ない か」 と、 クジョウ いう の で あった。
そのうち しばらく する と、 タカコ が やって きた。 タカコ は コト の ナリユキ を ひととおり きいて から、 「じゃあ、 ちょっと タザキ さん の ところ へ いって きましょう」 と、 キガル に でかけて いった。 1 ジカン も たたぬ うち に、 タカコ は はればれ した カオ で もどって きた。
「あの ヘン の タテモノ ソカイ は あれ で うちきる こと に させる と、 タザキ さん は ヤクソク して くれました」
こうして、 セイジ の イエ の ナンダイ も すらすら カイケツ した。 と、 その とき、 ちょうど、 ケイカイ ケイホウ が カイジョ に なった。
「さあ、 また ケイホウ が でる と うるさい から イマ の うち に かえりましょう」 と タカコ は いそいで ソト に でて ゆく の で あった。
しばらく する と、 ドゾウ ワキ の トリゴヤ で、 2 ワ の ヒナ が てんでに トキ を つげだした。 その チョウシ は まだ ととのって いない ので、 ときに ジュンイチ たち を きょうがらせる の で あった が、 イマ は ダレ も ニワトリ の ナキゴエ に ミミ を かたむけて いる モノ も なかった。 あつい ヒザシ が、 サルスベリ の ウエ の、 しずか な ソラ に みなぎって いた。 ……ゲンシ バクダン が この マチ を おとずれる まで には、 まだ 40 ジカン あまり あった。