2012/11/22

ラショウモン

 ラショウモン

 アクタガワ リュウノスケ

 ある ヒ の クレガタ の こと で ある。 ヒトリ の ゲニン が、 ラショウモン の シタ で アマヤミ を まって いた。
 ひろい モン の シタ には、 この オトコ の ホカ に タレ も いない。 ただ、 ところどころ ニヌリ の はげた、 おおきな マルバシラ に、 キリギリス が 1 ピキ とまって いる。 ラショウモン が、 スザク オオジ に ある イジョウ は、 この オトコ の ホカ にも、 アマヤミ を する イチメガサ や モミエボシ が、 もう 2~3 ニン は ありそう な もの で ある。 それ が、 この オトコ の ホカ には タレ も いない。
 なぜか と いう と、 この 2~3 ネン、 キョウト には、 ジシン とか ツジカゼ とか カジ とか キキン とか いう ワザワイ が つづいて おこった。 そこで ラクチュウ の サビレカタ は ヒトトオリ では ない。 キュウキ に よる と、 ブツゾウ や ブツグ を うちくだいて、 その ニ が ついたり、 キンギン の ハク が ついたり した キ を、 ミチバタ に つみかさねて、 タキギ の シロ に うって いた と いう こと で ある。 ラクチュウ が その シマツ で ある から、 ラショウモン の シュウリ など は、 もとより タレ も すてて かえりみる モノ が なかった。 すると その あれはてた の を よい こと に して、 コリ が すむ。 ヌスビト が すむ。 とうとう シマイ には、 ヒキトリテ の ない シニン を、 この モン へ もって きて、 すてて ゆく と いう シュウカン さえ できた。 そこで、 ヒノメ が みえなく なる と、 タレ でも キミ を わるがって、 この モン の キンジョ へは アシブミ を しない こと に なって しまった の で ある。
 そのかわり また カラス が どこ から か、 たくさん あつまって きた。 ヒルマ みる と、 その カラス が ナンバ と なく ワ を えがいて、 たかい シビ の マワリ を なきながら、 とびまわって いる。 ことに モン の ウエ の ソラ が、 ユウヤケ で あかく なる とき には、 それ が ゴマ を まいた よう に はっきり みえた。 カラス は、 もちろん、 モン の ウエ に ある シニン の ニク を、 ついばみ に くる の で ある。 ――もっとも キョウ は、 コクゲン が おそい せい か、 1 ワ も みえない。 ただ、 ところどころ、 くずれかかった、 そうして その クズレメ に ながい クサ の はえた イシダン の ウエ に、 カラス の クソ が、 てんてん と しろく こびりついて いる の が みえる。 ゲニン は 7 ダン ある イシダン の いちばん ウエ の ダン に、 あらいざらした コン の アオ の シリ を すえて、 ミギ の ホオ に できた、 おおきな ニキビ を キ に しながら、 ぼんやり、 アメ の ふる の を ながめて いた。
 サクシャ は さっき、 「ゲニン が アマヤミ を まって いた」 と かいた。 しかし、 ゲニン は アメ が やんで も、 かくべつ どう しよう と いう アテ は ない。 フダン なら、 もちろん、 シュジン の イエ へ かえる べき はず で ある。 ところが その シュジン から は、 4~5 ニチ マエ に ヒマ を だされた。 マエ にも かいた よう に、 トウジ キョウト の マチ は ヒトトオリ ならず スイビ して いた。 イマ この ゲニン が、 ナガネン、 つかわれて いた シュジン から、 ヒマ を だされた の も、 じつは この スイビ の ちいさな ヨハ に ほかならない。 だから 「ゲニン が アマヤミ を まって いた」 と いう より も 「アメ に ふりこめられた ゲニン が、 ユキドコロ が なくて、 トホウ に くれて いた」 と いう ほう が、 テキトウ で ある。 そのうえ、 キョウ の ソラモヨウ も すくなからず、 この ヘイアンチョウ の ゲニン の センチメンタリズム に エイキョウ した。 サル ノ コク サガリ から ふりだした アメ は、 いまだに あがる ケシキ が ない。 そこで、 ゲニン は、 ナニ を おいて も さしあたり アス の クラシ を どうにか しよう と して―― いわば どうにも ならない こと を、 どうにか しよう と して、 トリトメ も ない カンガエ を たどりながら、 サッキ から スザク オオジ に ふる アメ の オト を、 きく とも なく きいて いた の で ある。
 アメ は、 ラショウモン を つつんで、 トオク から、 ざあっ と いう オト を あつめて くる。 ユウヤミ は しだいに ソラ を ひくく して、 みあげる と、 モン の ヤネ が、 ナナメ に つきだした イラカ の サキ に、 おもたく うすくらい クモ を ささえて いる。
 どうにも ならない こと を、 どうにか する ため には、 シュダン を えらんで いる イトマ は ない。 えらんで いれば、 ツイジ の シタ か、 ミチバタ の ツチ の ウエ で、 ウエジニ を する ばかり で ある。 そうして、 この モン の ウエ へ もって きて、 イヌ の よう に すてられて しまう ばかり で ある。 えらばない と すれば―― ゲニン の カンガエ は、 ナンド も おなじ ミチ を テイカイ した アゲク に、 やっと この キョクショ へ ホウチャク した。 しかし この 「すれば」 は、 いつまで たって も、 けっきょく 「すれば」 で あった。 ゲニン は、 シュダン を えらばない と いう こと を コウテイ しながら も、 この 「すれば」 の カタ を つける ため に、 とうぜん、 その ノチ に きたる べき 「ヌスビト に なる より ホカ に シカタ が ない」 と いう こと を、 セッキョクテキ に コウテイ する だけ の、 ユウキ が でず に いた の で ある。
 ゲニン は、 おおきな クサメ を して、 それから、 タイギ そう に たちあがった。 ユウヒエ の する キョウト は、 もう ヒオケ が ほしい ほど の サムサ で ある。 カゼ は モン の ハシラ と ハシラ との アイダ を、 ユウヤミ と ともに エンリョ なく、 ふきぬける。 ニヌリ の ハシラ に とまって いた キリギリス も、 もう どこ か へ いって しまった。
 ゲニン は、 クビ を ちぢめながら、 ヤマブキ の カザミ に かさねた、 コン の アオ の カタ を たかく して モン の マワリ を みまわした。 アメカゼ の ウレエ の ない、 ヒトメ に かかる オソレ の ない、 ヒトバン ラク に ねられそう な ところ が あれば、 そこ で ともかくも、 ヨ を あかそう と おもった から で ある。 すると、 さいわい モン の ウエ の ロウ へ のぼる、 ハバ の ひろい、 これ も ニ を ぬった ハシゴ が メ に ついた。 ウエ なら、 ヒト が いた に して も、 どうせ シニン ばかり で ある。 ゲニン は そこで、 コシ に さげた ヒジリヅカ の タチ が さやばしらない よう に キ を つけながら、 ワラゾウリ を はいた アシ を、 その ハシゴ の いちばん シタ の ダン へ ふみかけた。
 それから、 ナンプン か の ノチ で ある。 ラショウモン の ロウ の ウエ へ でる、 ハバ の ひろい ハシゴ の チュウダン に、 ヒトリ の オトコ が、 ネコ の よう に ミ を ちぢめて、 イキ を ころしながら、 ウエ の ヨウス を うかがって いた。 ロウ の ウエ から さす ヒ の ヒカリ が、 かすか に、 その オトコ の ミギ の ホオ を ぬらして いる。 みじかい ヒゲ の ナカ に、 あかく ウミ を もった ニキビ の ある ホオ で ある。 ゲニン は、 ハジメ から、 この ウエ に いる モノ は、 シニン ばかり だ と タカ を くくって いた。 それ が、 ハシゴ を 2~3 ダン のぼって みる と、 ウエ では タレ か ヒ を とぼして、 しかも その ヒ を そこここ と うごかして いる らしい。 これ は、 その にごった、 きいろい ヒカリ が、 スミズミ に クモノス を かけた テンジョウウラ に、 ゆれながら うつった ので、 すぐに それ と しれた の で ある。 この アメ の ヨ に、 この ラショウモン の ウエ で、 ヒ を ともして いる から は、 どうせ タダ の モノ では ない。
 ゲニン は、 ヤモリ の よう に アシオト を ぬすんで、 やっと キュウ な ハシゴ を、 いちばん ウエ の ダン まで はう よう に して のぼりつめた。 そうして カラダ を できる だけ、 たいら に しながら、 クビ を できる だけ、 マエ へ だして、 おそるおそる、 ロウ の ウチ を のぞいて みた。
 みる と、 ロウ の ウチ には、 ウワサ に きいた とおり、 イクツ か の シガイ が、 ムゾウサ に すてて ある が、 ヒ の ヒカリ の およぶ ハンイ が、 おもった より せまい ので、 カズ は イクツ とも わからない。 ただ、 おぼろげ ながら、 しれる の は、 その ナカ に ハダカ の シガイ と、 キモノ を きた シガイ と が ある と いう こと で ある。 もちろん、 ナカ には オンナ も オトコ も まじって いる らしい。 そうして、 その シガイ は みな、 それ が、 かつて、 いきて いた ニンゲン だ と いう ジジツ さえ うたがわれる ほど、 ツチ を こねて つくった ニンギョウ の よう に、 クチ を あいたり テ を のばしたり して、 ごろごろ ユカ の ウエ に ころがって いた。 しかも、 カタ とか ムネ とか の たかく なって いる ブブン に、 ぼんやり した ヒ の ヒカリ を うけて、 ひくく なって いる ブブン の カゲ を いっそう くらく しながら、 エイキュウ に オシ の ごとく だまって いた。
 ゲニン は、 それら の シガイ の フラン した シュウキ に おもわず、 ハナ を おおった。 しかし、 その テ は、 ツギ の シュンカン には、 もう ハナ を おおう こと を わすれて いた。 ある つよい カンジョウ が、 ほとんど ことごとく この オトコ の キュウカク を うばって しまった から で ある。
 ゲニン の メ は、 その とき、 はじめて その シガイ の ナカ に うずくまって いる ニンゲン を みた。 ヒワダイロ の キモノ を きた、 セ の ひくい、 やせた、 シラガアタマ の、 サル の よう な ロウバ で ある。 その ロウバ は、 ミギ の テ に ヒ を ともした マツ の キギレ を もって、 その シガイ の ヒトツ の カオ を のぞきこむ よう に ながめて いた。 カミノケ の ながい ところ を みる と、 たぶん オンナ の シガイ で あろう。
 ゲニン は、 6 ブ の キョウフ と 4 ブ の コウキシン と に うごかされて、 ザンジ は イキ を する の さえ わすれて いた。 キュウキ の キシャ の ゴ を かりれば、 「トウシン の ケ も ふとる」 よう に かんじた の で ある。 すると ロウバ は、 マツ の キギレ を、 ユカイタ の アイダ に さして、 それから、 イマ まで ながめて いた シガイ の クビ に リョウテ を かける と、 ちょうど、 サル の オヤ が サル の コ の シラミ を とる よう に、 その ながい カミノケ を 1 ポン ずつ ぬきはじめた。 カミ は テ に したがって ぬける らしい。
 その カミノケ が、 1 ポン ずつ ぬける の に したがって、 ゲニン の ココロ から は、 キョウフ が すこし ずつ きえて いった。 そうして、 それ と ドウジ に、 この ロウバ に たいする はげしい ゾウオ が、 すこし ずつ うごいて きた。 ――いや、 この ロウバ に たいする と いって は、 ゴヘイ が ある かも しれない。 むしろ、 あらゆる アク に たいする ハンカン が、 1 プン ごと に ツヨサ を まして きた の で ある。 この とき、 タレ か が この ゲニン に、 さっき モン の シタ で この オトコ が かんがえて いた、 ウエジニ を する か ヌスビト に なる か と いう モンダイ を、 あらためて もちだしたら、 おそらく ゲニン は、 なんの ミレン も なく、 ウエジニ を えらんだ こと で あろう。 それほど、 この オトコ の アク を にくむ ココロ は、 ロウバ の ユカ に さした マツ の キギレ の よう に、 イキオイ よく もえあがりだして いた の で ある。
 ゲニン には、 もちろん、 なぜ ロウバ が シニン の カミノケ を ぬく か わからなかった。 したがって、 ゴウリテキ には、 それ を ゼンアク の いずれ に かたづけて よい か しらなかった。 しかし ゲニン に とって は、 この アメ の ヨ に、 この ラショウモン の ウエ で、 シニン の カミノケ を ぬく と いう こと が、 それ だけ で すでに ゆるす べからざる アク で あった。 もちろん、 ゲニン は、 サッキ まで ジブン が、 ヌスビト に なる キ で いた こと なぞ は、 とうに わすれて いる の で ある。
 そこで、 ゲニン は、 リョウアシ に チカラ を いれて、 いきなり、 ハシゴ から ウエ へ とびあがった。 そうして ヒジリヅカ の タチ に テ を かけながら、 オオマタ に ロウバ の マエ へ あゆみよった。 ロウバ が おどろいた の は いう まで も ない。
 ロウバ は、 ヒトメ ゲニン を みる と、 まるで イシユミ に でも はじかれた よう に、 とびあがった。
「オノレ、 どこ へ ゆく」
 ゲニン は、 ロウバ が シガイ に つまずきながら、 あわてふためいて にげよう と する ユクテ を ふさいで、 こう ののしった。 ロウバ は、 それでも ゲニン を つきのけて ゆこう と する。 ゲニン は また、 それ を ゆかすまい と して、 おしもどす。 フタリ は シガイ の ナカ で、 しばらく、 ムゴン の まま、 つかみあった。 しかし ショウハイ は、 ハジメ から わかって いる。 ゲニン は とうとう、 ロウバ の ウデ を つかんで、 ムリ に そこ へ ねじたおした。 ちょうど、 トリ の アシ の よう な、 ホネ と カワ ばかり の ウデ で ある。
「ナニ を して いた。 いえ。 いわぬ と、 これ だ ぞよ」
 ゲニン は、 ロウバ を つきはなす と、 いきなり、 タチ の サヤ を はらって、 しろい ハガネ の イロ を その メノマエ へ つきつけた。 けれども、 ロウバ は だまって いる。 リョウテ を わなわな ふるわせて、 カタ で イキ を きりながら、 メ を、 ガンキュウ が マブタ の ソト へ でそう に なる ほど、 みひらいて、 オシ の よう に しゅうねく だまって いる。 これ を みる と、 ゲニン は はじめて メイハク に この ロウバ の セイシ が、 ぜんぜん、 ジブン の イシ に シハイ されて いる と いう こと を イシキ した。 そうして この イシキ は、 イマ まで けわしく もえて いた ゾウオ の ココロ を、 いつのまにか さまして しまった。 アト に のこった の は、 ただ、 ある シゴト を して、 それ が エンマン に ジョウジュ した とき の、 やすらか な トクイ と マンゾク と が ある ばかり で ある。 そこで、 ゲニン は、 ロウバ を みおろしながら、 すこし コエ を やわらげて こう いった。
「オレ は ケビイシ ノ チョウ の ヤクニン など では ない。 いましがた この モン の シタ を とおりかかった タビ の モノ だ。 だから オマエ に ナワ を かけて、 どう しよう と いう よう な こと は ない。 ただ イマジブン、 この モン の ウエ で、 ナニ を して いた の だ か、 それ を オレ に はなし さえ すれば いい の だ」
 すると、 ロウバ は、 みひらいて いた メ を、 いっそう おおきく して、 じっと その ゲニン の カオ を みまもった。 マブタ の あかく なった、 ニクショクチョウ の よう な、 するどい メ で みた の で ある。 それから、 シワ で、 ほとんど、 ハナ と ヒトツ に なった クチビル を、 ナニ か モノ でも かんで いる よう に うごかした。 ほそい ノド で、 とがった ノドボトケ の うごいて いる の が みえる。 その とき、 その ノド から、 カラス の なく よう な コエ が、 あえぎあえぎ、 ゲニン の ミミ へ つたわって きた。
「この カミ を ぬいて な、 この カミ を ぬいて な、 カズラ に しょう と おもうた の じゃ」
 ゲニン は、 ロウバ の コタエ が ぞんがい、 ヘイボン なの に シツボウ した。 そうして シツボウ する と ドウジ に、 また マエ の ゾウオ が、 ひややか な ブベツ と イッショ に、 ココロ の ナカ へ はいって きた。 すると、 その ケシキ が、 センポウ へも つうじた の で あろう。 ロウバ は、 カタテ に、 まだ シガイ の アタマ から とった ながい ヌケゲ を もった なり、 ヒキ の つぶやく よう な コエ で、 くちごもりながら、 こんな こと を いった。
「なるほど な、 シビト の カミノケ を ぬく と いう こと は、 なんぼう わるい こと かも しれぬ。 じゃが、 ここ に いる シビト ども は、 ミナ、 その くらい な こと を、 されて も いい ニンゲン ばかり だ ぞよ。 げんに、 ワシ が イマ、 カミ を ぬいた オンナ など は な、 ヘビ を 4 スン ばかり ずつ に きって ほした の を、 ホシウオ だ と いうて、 タテワキ の ジン へ うり に いんだ わ。 エヤミ に かかって しななんだら、 イマ でも うり に いんで いた こと で あろ。 それ も よ、 この オンナ の うる ホシウオ は、 アジ が よい と いうて、 タテワキ ども が、 かかさず サイリョウ に かって いた そう な。 ワシ は、 この オンナ の した こと が わるい とは おもうて いぬ。 せねば、 ウエジニ を する の じゃ て、 シカタ が なく した こと で あろ。 されば、 イマ また、 ワシ の して いた こと も わるい こと とは おもわぬ ぞよ。 これ とて も やはり せねば、 ウエジニ を する じゃ て、 シカタ が なく する こと じゃ わいの。 じゃて、 その シカタ が ない こと を、 よく しって いた この オンナ は、 おおかた ワシ の する こと も オオメ に みて くれる で あろ」
 ロウバ は、 だいたい こんな イミ の こと を いった。
 ゲニン は、 タチ を サヤ に おさめて、 その タチ の ツカ を ヒダリ の テ で おさえながら、 れいぜん と して、 この ハナシ を きいて いた。 もちろん、 ミギ の テ では、 あかく ホオ に ウミ を もった おおきな ニキビ を キ に しながら、 きいて いる の で ある。 しかし、 これ を きいて いる うち に、 ゲニン の ココロ には、 ある ユウキ が うまれて きた。 それ は、 さっき モン の シタ で、 この オトコ には かけて いた ユウキ で ある。 そうして、 また さっき この モン の ウエ へ あがって、 この ロウバ を とらえた とき の ユウキ とは、 ぜんぜん、 ハンタイ な ホウコウ に うごこう と する ユウキ で ある。 ゲニン は、 ウエジニ を する か ヌスビト に なる か に、 まよわなかった ばかり では ない。 その とき の この オトコ の ココロモチ から いえば、 ウエジニ など と いう こと は、 ほとんど、 かんがえる こと さえ できない ほど、 イシキ の ソト に おいだされて いた。
「きっと、 そう か」
 ロウバ の ハナシ が おわる と、 ゲニン は あざける よう な コエ で ネン を おした。 そうして、 ヒトアシ マエ へ でる と、 フイ に ミギ の テ を ニキビ から はなして、 ロウバ の エリガミ を つかみながら、 かみつく よう に こう いった。
「では、 オレ が ヒハギ を しよう と うらむまい な。 オレ も そう しなければ、 ウエジニ を する カラダ なの だ」
 ゲニン は、 すばやく、 ロウバ の キモノ を はぎとった。 それから、 アシ に しがみつこう と する ロウバ を、 てあらく シガイ の ウエ へ けたおした。 ハシゴ の クチ まで は、 わずか に 5 ホ を かぞえる ばかり で ある。 ゲニン は、 はぎとった ヒワダイロ の キモノ を ワキ に かかえて、 またたく マ に キュウ な ハシゴ を ヨル の ソコ へ かけおりた。
 しばらく、 しんだ よう に たおれて いた ロウバ が、 シガイ の ナカ から、 その ハダカ の カラダ を おこした の は、 それから まもなく の こと で ある。 ロウバ は つぶやく よう な、 うめく よう な コエ を たてながら、 まだ もえて いる ヒ の ヒカリ を タヨリ に、 ハシゴ の クチ まで、 はって いった。 そうして、 そこ から、 みじかい シラガ を サカサマ に して、 モン の シタ を のぞきこんだ。 ソト には、 ただ、 こくとうとう たる ヨル が ある ばかり で ある。
 ゲニン の ユクエ は、 タレ も しらない。

2012/11/11

はしれ メロス

 はしれ メロス

 ダザイ オサム

 メロス は ゲキド した。 かならず、 かの ジャチ ボウギャク の オウ を のぞかなければ ならぬ と ケツイ した。 メロス には セイジ が わからぬ。 メロス は、 ムラ の ボクジン で ある。 フエ を ふき、 ヒツジ と あそんで くらして きた。 けれども ジャアク に たいして は、 ヒトイチバイ に ビンカン で あった。 キョウ ミメイ メロス は ムラ を シュッパツ し、 ノ を こえ ヤマ こえ、 10 リ はなれた この シラクス の マチ に やって きた。 メロス には チチ も、 ハハ も ない。 ニョウボウ も ない。 16 の、 ウチキ な イモウト と フタリグラシ だ。 この イモウト は、 ムラ の ある リチギ な イチ ボクジン を、 ちかぢか、 ハナムコ と して むかえる こと に なって いた。 ケッコンシキ も マヂカ なの で ある。 メロス は、 それゆえ、 ハナヨメ の イショウ やら シュクエン の ゴチソウ やら を かい に、 はるばる マチ に やって きた の だ。 まず、 その シナジナ を かいあつめ、 それから ミヤコ の オオジ を ぶらぶら あるいた。 メロス には チクバ の トモ が あった。 セリヌンティウス で ある。 イマ は この シラクス の マチ で、 イシク を して いる。 その トモ を、 これから たずねて みる つもり なの だ。 ひさしく あわなかった の だ から、 たずねて ゆく の が タノシミ で ある。 あるいて いる うち に メロス は、 マチ の ヨウス を あやしく おもった。 ひっそり して いる。 もう すでに ヒ も おちて、 マチ の くらい の は アタリマエ だ が、 けれども、 なんだか、 ヨル の せい ばかり では なく、 マチ ゼンタイ が、 やけに さびしい。 ノンキ な メロス も、 だんだん フアン に なって きた。 ミチ で あった ワカイシュ を つかまえて、 ナニ か あった の か、 2 ネン マエ に この マチ に きた とき は、 ヨル でも ミナ が ウタ を うたって、 マチ は にぎやか で あった はず だ が、 と シツモン した。 ワカイシュ は、 クビ を ふって こたえなかった。 しばらく あるいて ロウヤ に あい、 コンド は もっと、 ゴセイ を つよく して シツモン した。 ロウヤ は こたえなかった。 メロス は リョウテ で ロウヤ の カラダ を ゆすぶって シツモン を かさねた。 ロウヤ は、 アタリ を はばかる コゴエ で、 わずか こたえた。
「オウサマ は、 ヒト を ころします」
「なぜ ころす の だ」
「アクシン を いだいて いる、 と いう の です が、 ダレ も そんな、 アクシン を もって は おりませぬ」
「タクサン の ヒト を ころした の か」
「はい、 ハジメ は オウサマ の イモウトムコ サマ を。 それから、 ゴジシン の オヨツギ を。 それから、 イモウト サマ を。 それから、 イモウト サマ の オコサマ を。 それから、 コウゴウ サマ を。 それから、 ケンシン の アレキス サマ を」
「おどろいた。 コクオウ は ランシン か」
「いいえ、 ランシン では ございませぬ。 ヒト を、 しんずる こと が できぬ、 と いう の です。 コノゴロ は、 シンカ の ココロ をも、 おうたがい に なり、 すこしく ハデ な クラシ を して いる モノ には、 ヒトジチ ヒトリ ずつ さしだす こと を めいじて おります。 ゴメイレイ を こばめば ジュウジカ に かけられて、 ころされます。 キョウ は、 6 ニン ころされました」
 きいて、 メロス は ゲキド した。 「あきれた オウ だ。 いかして おけぬ」
 メロス は、 タンジュン な オトコ で あった。 カイモノ を、 せおった まま で、 のそのそ オウジョウ に はいって いった。 たちまち カレ は、 ジュンラ の ケイリ に ホバク された。 しらべられて、 メロス の カイチュウ から は タンケン が でて きた ので、 サワギ が おおきく なって しまった。 メロス は、 オウ の マエ に ひきだされた。
「この タントウ で ナニ を する つもり で あった か。 いえ!」 ボウクン ディオニス は しずか に、 けれども イゲン を もって といつめた。 その オウ の カオ は ソウハク で、 ミケン の シワ は、 きざみこまれた よう に ふかかった。
「マチ を ボウクン の テ から すくう の だ」 と メロス は わるびれず に こたえた。
「オマエ が か?」 オウ は、 ビンショウ した。 「シカタ の ない ヤツ じゃ。 オマエ には、 ワシ の コドク が わからぬ」
「いうな!」 と メロス は、 いきりたって ハンバク した。 「ヒト の ココロ を うたがう の は、 もっとも はず べき アクトク だ。 オウ は、 タミ の チュウセイ を さえ うたがって おられる」
「うたがう の が、 セイトウ の ココロガマエ なの だ と、 ワシ に おしえて くれた の は、 オマエタチ だ。 ヒト の ココロ は、 アテ に ならない。 ニンゲン は、 もともと シヨク の カタマリ さ。 しんじて は、 ならぬ」 ボウクン は おちついて つぶやき、 ほっと タメイキ を ついた。 「ワシ だって、 ヘイワ を のぞんで いる の だ が」
「なんの ため の ヘイワ だ。 ジブン の チイ を まもる ため か」 コンド は メロス が チョウショウ した。 「ツミ の ない ヒト を ころして、 ナニ が ヘイワ だ」
「だまれ、 ゲセン の モノ」 オウ は、 さっと カオ を あげて むくいた。 「クチ では、 どんな きよらか な こと でも いえる。 ワシ には、 ヒト の ハラワタ の オクソコ が みえすいて ならぬ。 オマエ だって、 いまに、 ハリツケ に なって から、 ないて わびたって きかぬ ぞ」
「ああ、 オウ は リコウ だ。 うぬぼれて いる が よい。 ワタシ は、 ちゃんと しぬる カクゴ で いる のに。 イノチゴイ など けっして しない。 ただ、――」 と いいかけて、 メロス は アシモト に シセン を おとし シュンジ ためらい、 「ただ、 ワタシ に ナサケ を かけたい つもり なら、 ショケイ まで に ミッカ-カン の ニチゲン を あたえて ください。 たった ヒトリ の イモウト に、 テイシュ を もたせて やりたい の です。 ミッカ の うち に、 ワタシ は ムラ で ケッコンシキ を あげさせ、 かならず、 ここ へ かえって きます」
「バカ な」 と ボウクン は、 しわがれた コエ で ひくく わらった。 「とんでもない ウソ を いう わい。 にがした コトリ が かえって くる と いう の か」
「そう です。 かえって くる の です」 メロス は ヒッシ で いいはった。 「ワタシ は ヤクソク を まもります。 ワタシ を、 ミッカ-カン だけ ゆるして ください。 イモウト が、 ワタシ の カエリ を まって いる の だ。 そんな に ワタシ を しんじられない ならば、 よろしい、 この マチ に セリヌンティウス と いう イシク が います。 ワタシ の ムニ の ユウジン だ。 あれ を、 ヒトジチ と して ここ に おいて いこう。 ワタシ が にげて しまって、 ミッカ-メ の ヒグレ まで、 ここ に かえって こなかったら、 あの ユウジン を しめころして ください。 たのむ。 そうして ください」
 それ を きいて オウ は、 ザンギャク な キモチ で、 そっと ほくそえんだ。 ナマイキ な こと を いう わい。 どうせ かえって こない に きまって いる。 この ウソツキ に だまされた フリ して、 はなして やる の も おもしろい。 そうして ミガワリ の オトコ を、 ミッカ-メ に ころして やる の も キミ が いい。 ヒト は、 これ だ から しんじられぬ と、 ワシ は かなしい カオ して、 その ミガワリ の オトコ を タッケイ に しょして やる の だ。 ヨノナカ の、 ショウジキモノ とか いう ヤツバラ に うんと みせつけて やりたい もの さ。
「ネガイ を、 きいた。 その ミガワリ を よぶ が よい。 ミッカ-メ には ニチボツ まで に かえって こい。 おくれたら、 その ミガワリ を、 きっと ころす ぞ。 ちょっと おくれて くる が いい。 オマエ の ツミ は、 エイエン に ゆるして やろう ぞ」
「なに、 ナニ を おっしゃる」
「はは。 イノチ が ダイジ だったら、 おくれて こい。 オマエ の ココロ は、 わかって いる ぞ」
 メロス は くやしく、 ジダンダ ふんだ。 モノ も いいたく なくなった。
 チクバ の トモ、 セリヌンティウス は、 シンヤ、 オウジョウ に めされた。 ボウクン ディオニス の メンゼン で、 よき トモ と よき トモ は、 2 ネン-ぶり で あいおうた。 メロス は、 トモ に イッサイ の ジジョウ を かたった。 セリヌンティウス は ムゴン で うなずき、 メロス を ひしと だきしめた。 トモ と トモ の アイダ は、 それ で よかった。 セリヌンティウス は、 ナワ うたれた。 メロス は、 すぐに シュッパツ した。 ショカ、 マンテン の ホシ で ある。
 メロス は その ヨル、 イッスイ も せず 10 リ の ミチ を いそぎ に いそいで、 ムラ へ トウチャク した の は、 あくる ヒ の ゴゼン、 ヒ は すでに たかく のぼって、 ムラビト たち は ノ に でて シゴト を はじめて いた。 メロス の 16 の イモウト も、 キョウ は アニ の カワリ に ヨウグン の バン を して いた。 よろめいて あるいて くる アニ の、 ヒロウ コンパイ の スガタ を みつけて おどろいた。 そうして、 うるさく アニ に シツモン を あびせた。
「なんでも ない」 メロス は ムリ に わらおう と つとめた。 「マチ に ヨウジ を のこして きた。 また すぐ マチ に いかなければ ならぬ。 アス、 オマエ の ケッコンシキ を あげる。 はやい ほう が よかろう」
 イモウト は ホオ を あからめた。
「うれしい か。 きれい な イショウ も かって きた。 さあ、 これから いって、 ムラ の ヒトタチ に しらせて こい。 ケッコンシキ は、 アス だ と」
 メロス は、 また、 よろよろ と あるきだし、 イエ へ かえって カミガミ の サイダン を かざり、 シュクエン の セキ を ととのえ、 まもなく トコ に たおれふし、 イキ も せぬ くらい の ふかい ネムリ に おちて しまった。
 メ が さめた の は ヨル だった。 メロス は おきて すぐ、 ハナムコ の イエ を おとずれた。 そうして、 すこし ジジョウ が ある から、 ケッコンシキ を アス に して くれ、 と たのんだ。 ムコ の ボクジン は おどろき、 それ は いけない、 こちら には まだ なんの シタク も できて いない、 ブドウ の キセツ まで まって くれ、 と こたえた。 メロス は、 まつ こと は できぬ、 どうか アス に して くれたまえ、 と さらに おして たのんだ。 ムコ の ボクジン も ガンキョウ で あった。 なかなか ショウダク して くれない。 ヨアケ まで ギロン を つづけて、 やっと、 どうにか ムコ を なだめ、 すかして、 ときふせた。 ケッコンシキ は、 マヒル に おこなわれた。 シンロウ シンプ の、 カミガミ への センセイ が すんだ コロ、 クロクモ が ソラ を おおい、 ぽつり ぽつり アメ が ふりだし、 やがて シャジク を ながす よう な オオアメ と なった。 シュクエン に レッセキ して いた ムラビト たち は、 ナニ か フキツ な もの を かんじた が、 それでも、 めいめい キモチ を ひきたて、 せまい イエ の ナカ で、 むんむん むしあつい の も こらえ、 ヨウキ に ウタ を うたい、 テ を うった。 メロス も、 マンメン に キショク を たたえ、 しばらく は、 オウ との あの ヤクソク を さえ わすれて いた。 シュクエン は、 ヨル に はいって いよいよ みだれ はなやか に なり、 ヒトビト は、 ソト の ゴウウ を まったく キ に しなく なった。 メロス は、 イッショウ このまま ここ に いたい、 と おもった。 この よい ヒトタチ と ショウガイ くらして ゆきたい と ねがった が、 イマ は、 ジブン の カラダ で、 ジブン の もの では ない。 ままならぬ こと で ある。 メロス は、 ワガミ に むちうち、 ついに シュッパツ を ケツイ した。 アス の ニチボツ まで には、 まだ ジュウブン の トキ が ある。 ちょっと ヒトネムリ して、 それから すぐに シュッパツ しよう、 と かんがえた。 その コロ には、 アメ も コブリ に なって いよう。 すこし でも ながく この イエ に ぐずぐず とどまって いたかった。 メロス ほど の オトコ にも、 やはり ミレン の ジョウ と いう もの は ある。 コヨイ ぼうぜん、 カンキ に よって いる らしい ハナヨメ に ちかより、
「おめでとう。 ワタシ は つかれて しまった から、 ちょっと ゴメン こうむって ねむりたい。 メ が さめたら、 すぐに マチ に でかける。 タイセツ な ヨウジ が ある の だ。 ワタシ が いなくて も、 もう オマエ には やさしい テイシュ が ある の だ から、 けっして さびしい こと は ない。 オマエ の アニ の、 いちばん きらい な もの は、 ヒト を うたがう こと と、 それから、 ウソ を つく こと だ。 オマエ も、 それ は、 しって いる ね。 テイシュ との アイダ に、 どんな ヒミツ でも つくって は ならぬ。 オマエ に いいたい の は、 それ だけ だ。 オマエ の アニ は、 たぶん えらい オトコ なの だ から、 オマエ も その ホコリ を もって いろ」
 ハナヨメ は、 ユメミ-ゴコチ で うなずいた。 メロス は、 それから ハナムコ の カタ を たたいて、
「シタク の ない の は オタガイサマ さ。 ワタシ の イエ にも、 タカラ と いって は、 イモウト と ヒツジ だけ だ。 ホカ には、 なにも ない。 ゼンブ あげよう。 もう ヒトツ、 メロス の オトウト に なった こと を ほこって くれ」
 ハナムコ は モミデ して、 てれて いた。 メロス は わらって ムラビト たち にも エシャク して、 エンセキ から たちさり、 ヒツジゴヤ に もぐりこんで、 しんだ よう に ふかく ねむった。
 メ が さめた の は あくる ヒ の ハクメイ の コロ で ある。 メロス は はねおき、 なむさん、 ねすごした か、 いや、 まだまだ だいじょうぶ、 これから すぐに シュッパツ すれば、 ヤクソク の コクゲン まで には じゅうぶん まにあう。 キョウ は ぜひとも、 あの オウ に、 ヒト の シンジツ の そんする ところ を みせて やろう。 そうして わらって ハリツケ の ダイ に あがって やる。 メロス は、 ゆうゆう と ミジタク を はじめた。 アメ も、 いくぶん コブリ に なって いる ヨウス で ある。 ミジタク は できた。 さて、 メロス は、 ぶるん と リョウウデ を おおきく ふって、 ウチュウ、 ヤ の ごとく はしりでた。
 ワタシ は、 コヨイ、 ころされる。 ころされる ため に はしる の だ。 ミガワリ の トモ を すくう ため に はしる の だ。 オウ の カンネイ ジャチ を うちやぶる ため に はしる の だ。 はしらなければ ならぬ。 そうして、 ワタシ は ころされる。 わかい とき から メイヨ を まもれ。 さらば、 フルサト。 わかい メロス は、 つらかった。 イクド か、 たちどまりそう に なった。 えい、 えい と オオゴエ あげて ジシン を しかりながら はしった。 ムラ を でて、 ノ を よこぎり、 モリ を くぐりぬけ、 トナリムラ に ついた コロ には、 アメ も やみ、 ヒ は たかく のぼって、 そろそろ あつく なって きた。 メロス は ヒタイ の アセ を コブシ で はらい、 ここ まで くれば だいじょうぶ、 もはや コキョウ への ミレン は ない。 イモウト たち は、 きっと よい フウフ に なる だろう。 ワタシ には、 イマ、 なんの キガカリ も ない はず だ。 マッスグ に オウジョウ に ゆきつけば、 それ で よい の だ。 そんな に いそぐ ヒツヨウ も ない。 ゆっくり あるこう、 と モチマエ の ノンキサ を とりかえし、 すき な コウタ を いい コエ で うたいだした。 ぶらぶら あるいて 2 リ ゆき 3 リ ゆき、 そろそろ ゼンリテイ の ナカバ に トウタツ した コロ、 ふって わいた サイナン、 メロス の アシ は、 はたと、 とまった。 みよ、 ゼンポウ の カワ を。 キノウ の ゴウウ で ヤマ の スイゲンチ は ハンラン し、 ダクリュウ とうとう と カリュウ に あつまり、 モウセイ イッキョ に ハシ を ハカイ し、 どうどう と ヒビキ を あげる ゲキリュウ が、 コッパ ミジン に ハシゲタ を はねとばして いた。 カレ は ぼうぜん と、 たちすくんだ。 あちこち と ながめまわし、 また、 コエ を カギリ に よびたてて みた が、 ケイシュウ は のこらず ナミ に さらわれて カゲ なく、 ワタシモリ の スガタ も みえない。 ナガレ は いよいよ、 ふくれあがり、 ウミ の よう に なって いる。 メロス は カワギシ に うずくまり、 オトコナキ に なきながら ゼウス に テ を あげて アイガン した。 「ああ、 しずめたまえ、 あれくるう ナガレ を! トキ は こっこく に すぎて いきます。 タイヨウ も すでに マヒルドキ です。 あれ が しずんで しまわぬ うち に、 オウジョウ に いきつく こと が できなかったら、 あの よい トモダチ が、 ワタシ の ため に しぬ の です」
 ダクリュウ は、 メロス の サケビ を せせらわらう ごとく、 ますます はげしく おどりくるう。 ナミ は ナミ を のみ、 まき、 あおりたて、 そうして トキ は、 こくいっこく と きえて ゆく。 イマ は メロス も カクゴ した。 およぎきる より ホカ に ない。 ああ、 カミガミ も ショウラン あれ! ダクリュウ にも まけぬ アイ と マコト の イダイ な チカラ を、 イマ こそ ハッキ して みせる。 メロス は、 ざんぶ と ナガレ に とびこみ、 100 ピキ の ダイジャ の よう に のたうち あれくるう ナミ を アイテ に、 ヒッシ の トウソウ を カイシ した。 マンシン の チカラ を ウデ に こめて、 おしよせ うずまき ひきずる ナガレ を、 なんの コレシキ と かきわけ かきわけ、 メクラメッポウ シシフンジン の ヒト の コ の スガタ には、 カミ も あわれ と おもった か、 ついに レンビン を たれて くれた。 おしながされつつ も、 みごと、 タイガン の ジュモク の ミキ に、 すがりつく こと が できた の で ある。 ありがたい。 メロス は ウマ の よう に おおきな ドウブルイ を ヒトツ して、 すぐに また サキ を いそいだ。 イッコク と いえど も、 ムダ には できない。 ヒ は すでに ニシ に かたむきかけて いる。 ぜいぜい あらい イキ を しながら トウゲ を のぼり、 のぼりきって、 ほっと した とき、 とつぜん、 メノマエ に 1 タイ の サンゾク が おどりでた。
「まて」
「ナニ を する の だ。 ワタシ は ヒ の しずまぬ うち に オウジョウ へ いかなければ ならぬ。 はなせ」
「どっこい はなさぬ。 モチモノ ゼンブ を おいて いけ」
「ワタシ には イノチ の ホカ には なにも ない。 その、 たった ヒトツ の イノチ も、 これから オウ に くれて やる の だ」
「その、 イノチ が ほしい の だ」
「さては、 オウ の メイレイ で、 ここ で ワタシ を マチブセ して いた の だな」
 サンゾク たち は、 モノ も いわず イッセイ に コンボウ を ふりあげた。 メロス は ひょいと、 カラダ を おりまげ、 ヒチョウ の ごとく ミヂカ の ヒトリ に おそいかかり、 その コンボウ を うばいとって、
「キノドク だ が セイギ の ため だ!」 と もうぜん イチゲキ、 たちまち、 3 ニン を なぐりたおし、 のこる モノ の ひるむ スキ に、 さっさと はしって トウゲ を くだった。 イッキ に トウゲ を かけおりた が、 さすが に ヒロウ し、 おりから ゴゴ の シャクネツ の タイヨウ が マトモ に、 かっと てって きて、 メロス は イクド と なく メマイ を かんじ、 これ では ならぬ、 と キ を とりなおして は、 よろよろ 2~3 ポ あるいて、 ついに、 がくり と ヒザ を おった。 たちあがる こと が できぬ の だ。 テン を あおいで、 クヤシナキ に なきだした。 ああ、 あ、 ダクリュウ を およぎきり、 サンゾク を 3 ニン も うちたおし イダテン、 ここ まで トッパ して きた メロス よ。 シン の ユウシャ、 メロス よ。 イマ、 ここ で、 つかれきって うごけなく なる とは なさけない。 あいする トモ は、 オマエ を しんじた ばかり に、 やかで ころされなければ ならぬ。 オマエ は、 キタイ の フシン の ニンゲン、 まさしく オウ の おもう ツボ だぞ、 と ジブン を しかって みる の だ が、 ゼンシン なえて、 もはや イモムシ ほど にも ゼンシン かなわぬ。 ロボウ の クサハラ に ごろり と ねころがった。 シンタイ ヒロウ すれば、 セイシン も ともに やられる。 もう、 どうでも いい と いう、 ユウシャ に フニアイ な ふてくされた コンジョウ が、 ココロ の スミ に すくった。 ワタシ は、 これほど ドリョク した の だ。 ヤクソク を やぶる ココロ は、 ミジン も なかった。 カミ も ショウラン、 ワタシ は せいいっぱい に つとめて きた の だ。 うごけなく なる まで はしって きた の だ。 ワタシ は フシン の ト では ない。 ああ、 できる こと なら ワタシ の ムネ を たちわって、 シンク の シンゾウ を オメ に かけたい。 アイ と シンジツ の ケツエキ だけ で うごいて いる この シンゾウ を みせて やりたい。 けれども ワタシ は、 この ダイジ な とき に、 セイ も コン も つきた の だ。 ワタシ は、 よくよく フコウ な オトコ だ。 ワタシ は、 きっと わらわれる。 ワタシ の イッカ も わらわれる。 ワタシ は トモ を あざむいた。 チュウト で たおれる の は、 ハジメ から なにも しない の と おなじ こと だ。 ああ、 もう、 どうでも いい。 これ が、 ワタシ の さだまった ウンメイ なの かも しれない。 セリヌンティウス よ、 ゆるして くれ。 キミ は、 いつでも ワタシ を しんじた。 ワタシ も キミ を、 あざむかなかった。 ワタシタチ は、 ホントウ に よい トモ と トモ で あった の だ。 イチド だって、 くらい ギワク の クモ を、 おたがい ムネ に やどした こと は なかった。 イマ だって、 キミ は ワタシ を ムシン に まって いる だろう。 ああ、 まって いる だろう。 ありがとう、 セリヌンティウス。 よくも ワタシ を しんじて くれた。 それ を おもえば、 たまらない。 トモ と トモ の アイダ の シンジツ は、 コノヨ で いちばん ほこる べき タカラ なの だ から な。 セリヌンティウス、 ワタシ は はしった の だ。 キミ を あざむく つもり は、 ミジン も なかった。 しんじて くれ! ワタシ は いそぎ に いそいで ここ まで きた の だ。 ダクリュウ を トッパ した。 サンゾク の カコミ から も、 するり と ぬけて イッキ に トウゲ を かけおりて きた の だ。 ワタシ だ から、 できた の だよ。 ああ、 このうえ、 ワタシ に のぞみたもうな。 ほうって おいて くれ。 どうでも、 いい の だ。 ワタシ は まけた の だ。 ダラシ が ない。 わらって くれ。 オウ は ワタシ に、 ちょっと おくれて こい、 と ミミウチ した。 おくれたら、 ミガワリ を ころして、 ワタシ を たすけて くれる と ヤクソク した。 ワタシ は オウ の ヒレツ を にくんだ。 けれども、 イマ に なって みる と、 ワタシ は オウ の いう まま に なって いる。 ワタシ は、 おくれて ゆく だろう。 オウ は、 ヒトリガテン して ワタシ を わらい、 そうして コト も なく ワタシ を ホウメン する だろう。 そう なったら、 ワタシ は、 しぬ より つらい。 ワタシ は、 エイエン に ウラギリモノ だ。 チジョウ で もっとも、 フメイヨ の ジンシュ だ。 セリヌンティウス よ、 ワタシ も しぬ ぞ。 キミ と イッショ に しなせて くれ。 キミ だけ は ワタシ を しんじて くれる に ちがいない。 いや、 それ も ワタシ の、 ヒトリヨガリ か? ああ、 もう いっそ、 アクトクシャ と して いきのびて やろう か。 ムラ には ワタシ の イエ が ある。 ヒツジ も いる。 イモウト フウフ は、 まさか ワタシ を ムラ から おいだす よう な こと は しない だろう。 セイギ だの、 シンジツ だの、 アイ だの、 かんがえて みれば、 くだらない。 ヒト を ころして ジブン が いきる。 それ が ニンゲン セカイ の ジョウホウ では なかった か。 ああ、 なにもかも、 ばかばかしい。 ワタシ は、 みにくい ウラギリモノ だ。 どうとも、 カッテ に する が よい。 やんぬるかな。 ――シシ を なげだして、 うとうと、 まどろんで しまった。
 ふと ミミ に、 せんせん、 ミズ の ながれる オト が きこえた。 そっと アタマ を もたげ、 イキ を のんで ミミ を すました。 すぐ アシモト で、 ミズ が ながれて いる らしい。 よろよろ おきあがって、 みる と、 イワ の サケメ から こんこん と、 ナニ か ちいさく ささやきながら シミズ が わきでて いる の で ある。 その イズミ に すいこまれる よう に メロス は ミ を かがめた。 ミズ を リョウテ で すくって、 ヒトクチ のんだ。 ほう と ながい タメイキ が でて、 ユメ から さめた よう な キ が した。 あるける。 ゆこう。 ニクタイ の ヒロウ カイフク と ともに、 わずか ながら キボウ が うまれた。 ギム スイコウ の キボウ で ある。 ワガミ を ころして、 メイヨ を まもる キボウ で ある。 シャヨウ は あかい ヒカリ を、 キギ の ハ に とうじ、 ハ も エダ も もえる ばかり に かがやいて いる。 ニチボツ まで には、 まだ マ が ある。 ワタシ を、 まって いる ヒト が ある の だ。 すこしも うたがわず、 しずか に キタイ して くれて いる ヒト が ある の だ。 ワタシ は、 しんじられて いる。 ワタシ の イノチ なぞ は、 モンダイ では ない。 しんで オワビ、 など と キ の いい こと は いって おられぬ。 ワタシ は、 シンライ に むくいなければ ならぬ。 イマ は ただ その イチジ だ。 はしれ! メロス。
 ワタシ は シンライ されて いる。 ワタシ は シンライ されて いる。 センコク の、 あの アクマ の ササヤキ は、 あれ は ユメ だ。 わるい ユメ だ。 わすれて しまえ。 ゴゾウ が つかれて いる とき は、 ふいと あんな わるい ユメ を みる もの だ。 メロス、 オマエ の ハジ では ない。 やはり、 オマエ は シン の ユウシャ だ。 ふたたび たって はしれる よう に なった では ない か。 ありがたい! ワタシ は、 セイギ の シ と して しぬ こと が できる ぞ。 ああ、 ヒ が しずむ。 ずんずん しずむ。 まって くれ、 ゼウス よ。 ワタシ は うまれた とき から ショウジキ な オトコ で あった。 ショウジキ な オトコ の まま に して しなせて ください。
 ミチ ゆく ヒト を おしのけ、 はねとばし、 メロス は くろい カゼ の よう に はしった。 ノハラ で シュエン の、 その エンセキ の マッタダナカ を かけぬけ、 シュエン の ヒトタチ を ギョウテン させ、 イヌ を けとばし、 オガワ を とびこえ、 すこし ずつ しずんで ゆく タイヨウ の、 10 バイ も はやく はしった。 イチダン の タビビト と さっと すれちがった シュンカン、 フキツ な カイワ を コミミ に はさんだ。 「イマゴロ は、 あの オトコ も、 ハリツケ に かかって いる よ」 ああ、 その オトコ、 その オトコ の ため に ワタシ は、 イマ こんな に はしって いる の だ。 その オトコ を しなせて は ならない。 いそげ、 メロス。 おくれて は ならぬ。 アイ と マコト の チカラ を、 イマ こそ しらせて やる が よい。 フウテイ なんか は、 どうでも いい。 メロス は、 イマ は、 ほとんど ゼンラタイ で あった。 イキ も できず、 2 ド、 3 ド、 クチ から チ が ふきでた。 みえる。 はるか ムコウ に ちいさく、 シラクス の マチ の トウロウ が みえる。 トウロウ は、 ユウヒ を うけて きらきら ひかって いる。
「ああ、 メロス サマ」 うめく よう な コエ が、 カゼ と ともに きこえた。
「ダレ だ」 メロス は はしりながら たずねた。
「フィロストラトス で ございます。 アナタ の オトモダチ セリヌンティウス サマ の デシ で ございます」 その わかい イシク も、 メロス の アト に ついて はしりながら さけんだ。 「もう、 ダメ で ございます。 ムダ で ございます。 はしる の は、 やめて ください。 もう、 あの カタ を おたすけ に なる こと は できません」
「いや、 まだ ヒ は しずまぬ」
「ちょうど イマ、 あの カタ が シケイ に なる ところ です。 ああ、 アナタ は おそかった。 おうらみ もうします。 ほんの すこし、 もう ちょっと でも、 はやかった なら!」
「いや、 まだ ヒ は しずまぬ」 メロス は ムネ の はりさける オモイ で、 あかく おおきい ユウヒ ばかり を みつめて いた。 はしる より ホカ は ない。
「やめて ください。 はしる の は、 やめて ください。 イマ は ゴジブン の オイノチ が ダイジ です。 あの カタ は、 アナタ を しんじて おりました。 ケイジョウ に ひきだされて も、 ヘイキ で いました。 オウサマ が、 さんざん あの カタ を からかって も、 メロス は きます、 と だけ こたえ、 つよい シンネン を もちつづけて いる ヨウス で ございました」
「それだから、 はしる の だ。 しんじられて いる から はしる の だ。 まにあう、 まにあわぬ は モンダイ で ない の だ。 ヒト の イノチ も モンダイ で ない の だ。 ワタシ は、 なんだか、 もっと おそろしく おおきい もの の ため に はしって いる の だ。 ついて こい! フィロストラトス」
「ああ、 アナタ は キ が くるった か。 それでは、 うんと はしる が いい。 ひょっと したら、 まにあわぬ もの でも ない。 はしる が いい」
 いう にや およぶ。 まだ ヒ は しずまぬ。 サイゴ の シリョク を つくして、 メロス は はしった。 メロス の アタマ は、 カラッポ だ。 なにひとつ かんがえて いない。 ただ、 ワケ の わからぬ おおきな チカラ に ひきずられて はしった。 ヒ は、 ゆらゆら チヘイセン に ぼっし、 まさに サイゴ の イッペン の ザンコウ も、 きえよう と した とき、 メロス は シップウ の ごとく ケイジョウ に トツニュウ した。 まにあった。
「まて。 その ヒト を ころして は ならぬ。 メロス が かえって きた。 ヤクソク の とおり、 イマ、 かえって きた」 と オオゴエ で ケイジョウ の グンシュウ に むかって さけんだ つもり で あった が、 ノド が つぶれて しわがれた コエ が かすか に でた ばかり、 グンシュウ は、 ヒトリ と して カレ の トウチャク に キ が つかない。 すでに ハリツケ の ハシラ が たかだか と たてられ、 ナワ を うたれた セリヌンティウス は、 じょじょ に つりあげられて ゆく。 メロス は それ を モクゲキ して サイゴ の ユウ、 センコク、 ダクリュウ を およいだ よう に グンシュウ を かきわけ、 かきわけ、
「ワタシ だ、 ケイリ! ころされる の は、 ワタシ だ。 メロス だ。 カレ を ヒトジチ に した ワタシ は、 ここ に いる!」 と、 かすれた コエ で せいいっぱい に さけびながら、 ついに ハリツケダイ に のぼり、 つりあげられて ゆく トモ の リョウアシ に、 かじりついた。 グンシュウ は、 どよめいた。 あっぱれ。 ゆるせ、 と クチグチ に わめいた。 セリヌンティウス の ナワ は、 ほどかれた の で ある。
「セリヌンティウス」 メロス は メ に ナミダ を うかべて いった。 「ワタシ を なぐれ。 ちからいっぱい に ホオ を なぐれ。 ワタシ は、 トチュウ で イチド、 わるい ユメ を みた。 キミ が もし ワタシ を なぐって くれなかったら、 ワタシ は キミ と ホウヨウ する シカク さえ ない の だ。 なぐれ」
 セリヌンティウス は、 スベテ を さっした ヨウス で うなずき、 ケイジョウ いっぱい に なりひびく ほど オト たかく メロス の ミギホオ を なぐった。 なぐって から やさしく ほほえみ、
「メロス、 ワタシ を なぐれ。 おなじ くらい オト たかく ワタシ の ホオ を なぐれ。 ワタシ は この ミッカ の アイダ、 たった イチド だけ、 ちらと キミ を うたがった。 うまれて、 はじめて キミ を うたがった。 キミ が ワタシ を なぐって くれなければ、 ワタシ は キミ と ホウヨウ できない」
 メロス は ウデ に ウナリ を つけて セリヌンティウス の ホオ を なぐった。
「ありがとう、 トモ よ」 フタリ ドウジ に いい、 ひしと だきあい、 それから ウレシナキ に おいおい コエ を はなって ないた。
 グンシュウ の ナカ から も、 キョキ の コエ が きこえた。 ボウクン ディオニス は、 グンシュウ の ハイゴ から フタリ の サマ を、 まじまじ と みつめて いた が、 やがて しずか に フタリ に ちかづき、 カオ を あからめて、 こう いった。
「オマエラ の ノゾミ は かなった ぞ。 オマエラ は、 ワシ の ココロ に かった の だ。 シンジツ とは、 けっして クウキョ な モウソウ では なかった。 どうか、 ワシ をも ナカマ に いれて くれまい か。 どうか、 ワシ の ネガイ を ききいれて、 オマエラ の ナカマ の ヒトリ に して ほしい」
 どっと グンシュウ の アイダ に、 カンセイ が おこった。
「バンザイ、 オウサマ バンザイ」
 ヒトリ の ショウジョ が、 ヒ の マント を メロス に ささげた。 メロス は、 まごついた。 よき トモ は、 キ を きかせて おしえて やった。
「メロス、 キミ は、 マッパダカ じゃ ない か。 はやく その マント を きる が いい。 この かわいい ムスメ さん は、 メロス の ラタイ を、 ミナ に みられる の が、 たまらなく くやしい の だ」
 ユウシャ は、 ひどく セキメン した。
                      (コデンセツ と、 シルレル の シ から。)

2012/11/03

ブンチョウ

 ブンチョウ

 ナツメ ソウセキ

 10 ガツ ワセダ に うつる。 ガラン の よう な ショサイ に ただ ヒトリ、 かたづけた カオ を ホオヅエ で ささえて いる と、 ミエキチ が きて、 トリ を おかいなさい と いう。 かって も いい と こたえた。 しかし ネン の ため だ から、 ナニ を かう の かね と きいたら、 ブンチョウ です と いう ヘンジ で あった。
 ブンチョウ は ミエキチ の ショウセツ に でて くる くらい だ から きれい な トリ に ちがいなかろう と おもって、 じゃ かって くれたまえ と たのんだ。 ところが ミエキチ は ぜひ おかいなさい と、 おなじ よう な こと を くりかえして いる。 うむ かう よ かう よ と やはり ホオヅエ を ついた まま で、 むにゃむにゃ いってる うち に ミエキチ は だまって しまった。 おおかた ホオヅエ に アイソウ を つかした ん だろう と、 この とき はじめて キ が ついた。
 すると 3 プン ばかり して、 コンド は カゴ を おかいなさい と いいだした。 これ も よろしい と こたえる と、 ぜひ おかいなさい と ネン を おす カワリ に、 トリカゴ の コウシャク を はじめた。 その コウシャク は だいぶ こみいった もの で あった が、 キノドク な こと に、 みんな わすれて しまった。 ただ いい の は 20 エン ぐらい する と いう ダン に なって、 キュウ に そんな たかい の で なくって も よかろう と いって おいた。 ミエキチ は にやにや して いる。
 それから ぜんたい どこ で かう の か と きいて みる と、 なに どこ の トリヤ に でも あります と、 じつに ヘイボン な コタエ を した。 カゴ は と ききかえす と、 カゴ です か、 カゴ は その ナン です よ、 なに どこ に か ある でしょう、 と まるで クモ を つかむ よう な カンダイ な こと を いう。 でも キミ アテ が なくっちゃ いけなかろう と、 あたかも いけない よう な カオ を して みせたら、 ミエキチ は ホッペタ へ テ を あてて、 なんでも コマゴメ に カゴ の メイジン が ある そう です が、 トシヨリ だ そう です から、 もう しんだ かも しれません と、 ヒジョウ に こころぼそく なって しまった。
 なにしろ いいだした モノ に セキニン を おわせる の は トウゼン の こと だ から、 さっそく バンジ を ミエキチ に イライ する こと に した。 すると、 すぐ カネ を だせ と いう。 カネ は たしか に だした。 ミエキチ は どこ で かった か、 ナナコ の ミツオレ の カミイレ を カイチュウ して いて、 ヒト の カネ でも ジブン の カネ でも しっかい この カミイレ の ナカ に いれる クセ が ある。 ジブン は ミエキチ が 5 エン サツ を たしか に この カミイレ の ソコ へ おしこんだ の を モクゲキ した。
 かよう に して カネ は たしか に ミエキチ の テ に おちた。 しかし トリ と カゴ とは ヨウイ に やって こない。
 そのうち アキ が コハル に なった。 ミエキチ は たびたび くる。 よく オンナ の ハナシ など を して かえって ゆく。 ブンチョウ と カゴ の コウシャク は まったく でない。 ガラスド を すかして 5 シャク の エンガワ には ヒ が よく あたる。 どうせ ブンチョウ を かう なら、 こんな あたたかい キセツ に、 この エンガワ へ トリカゴ を すえて やったら、 ブンチョウ も さだめし なきよかろう と おもう くらい で あった。
 ミエキチ の ショウセツ に よる と、 ブンチョウ は ちよちよ と なく そう で ある。 その ナキゴエ が だいぶん キ に いった と みえて、 ミエキチ は ちよちよ を ナンド と なく つかって いる。 あるいは チヨ と いう オンナ に ほれて いた こと が ある の かも しれない。 しかし トウニン は いっこう そんな こと を いわない。 ジブン も きいて みない。 ただ エンガワ に ヒ が よく あたる。 そうして ブンチョウ が なかない。
 そのうち シモ が ふりだした。 ジブン は マイニチ ガラン の よう な ショサイ に、 さむい カオ を かたづけて みたり、 とりみだして みたり、 ホオヅエ を ついたり やめたり して くらして いた。 ト は ニジュウ に しめきった。 ヒバチ に スミ ばかり ついで いる。 ブンチョウ は ついに わすれた。
 ところへ ミエキチ が カドグチ から イセイ よく はいって きた。 トキ は ヨイ の クチ で あった。 さむい から ヒバチ の ウエ へ ムネ から ウエ を かざして、 うかぬ カオ を わざと ほてらして いた の が、 キュウ に ヨウキ に なった。 ミエキチ は ホウリュウ を したがえて いる。 ホウリュウ は いい メイワク で ある。 フタリ が カゴ を ヒトツ ずつ もって いる。 その うえ に ミエキチ が おおきな ハコ を アニキブン に かかえて いる。 5 エン サツ が ブンチョウ と カゴ と ハコ に なった の は この ハツフユ の バン で あった。
 ミエキチ は ダイトクイ で ある。 まあ ごらんなさい と いう。 ホウリュウ その ランプ を もっと こっち へ だせ など と いう。 そのくせ さむい ので ハナ の アタマ が すこし ムラサキイロ に なって いる。
 なるほど リッパ な カゴ が できた。 ダイ が ウルシ で ぬって ある。 タケ は ほそく けずった うえ に、 イロ が つけて ある。 それ で 3 エン だ と いう。 やすい なあ ホウリュウ と いって いる。 ホウリュウ は うん やすい と いって いる。 ジブン は やすい か たかい か はんぜん と わからない が、 まあ やすい なあ と いって いる。 いい の に なる と 20 エン も する そう です と いう。 20 エン は これ で 2 ヘン-メ で ある。 20 エン に くらべて やすい の は むろん で ある。
 この ウルシ は ね、 センセイ、 ヒナタ へ だして さらして おく うち に クロミ が とれて だんだん シュ の イロ が でて きます から、 ――そうして この タケ は イッペン よく にた ん だ から だいじょうぶ です よ など と、 しきり に セツメイ を して くれる。 ナニ が だいじょうぶ なの かね と ききかえす と、 まあ トリ を ごらんなさい、 きれい でしょう と いって いる。
 なるほど きれい だ。 ツギノマ へ カゴ を すえて 4 シャク ばかり こっち から みる と すこしも うごかない。 うすぐらい ナカ に マッシロ に みえる。 カゴ の ナカ に うずくまって いなければ トリ とは おもえない ほど しろい。 なんだか さむそう だ。
 さむい だろう ね と きいて みる と、 その ため に ハコ を つくった ん だ と いう。 ヨル に なれば この ハコ に いれて やる ん だ と いう。 カゴ が フタツ ある の は どう する ん だ と きく と、 この ソマツ な ほう へ いれて ときどき ギョウズイ を つかわせる の だ と いう。 これ は すこし テスウ が かかる な と おもって いる と、 それから フン を して カゴ を よごします から、 ときどき ソウジ を して おやりなさい と つけくわえた。 ミエキチ は ブンチョウ の ため には なかなか キョウコウ で ある。
 それ を はいはい ひきうける と、 コンド は ミエキチ が タモト から アワ を ヒトフクロ だした。 これ を マイニチ くわせなくっちゃ いけません。 もし エ を かえて やらなければ、 エツボ を だして カラ だけ ふいて おやんなさい。 そう しない と ブンチョウ が ミ の ある アワ を いちいち ひろいださなくっちゃ なりません から。 ミズ も マイアサ かえて おやんなさい。 センセイ は ネボウ だ から ちょうど いい でしょう と たいへん ブンチョウ に シンセツ を きわめて いる。 そこで ジブン も よろしい と バンジ うけあった。 ところへ ホウリュウ が タモト から エツボ と ミズイレ を だして ギョウギ よく ジブン の マエ に ならべた。 こう イッサイ バンジ を ととのえて おいて、 ジッコウ を せまられる と、 ギリ にも ブンチョウ の セワ を しなければ ならなく なる。ナイシン では よほど おぼつかなかった が、 まず やって みよう と まで は ケッシン した。 もし できなければ ウチ の モノ が、 どうか する だろう と おもった。
 やがて ミエキチ は トリカゴ を テイネイ に ハコ の ナカ へ いれて、 エンガワ へ もちだして、 ここ へ おきます から と いって かえった。 ジブン は ガラン の よう な ショサイ の マンナカ に トコ を のべて ひややか に ねた。 ゆめに ブンチョウ を しょいこんだ ココロモチ は、 すこし さむかった が ねぶって みれば フダン の ヨル の ごとく おだやか で ある。
 ヨクアサ メ が さめる と ガラスド に ヒ が さして いる。 たちまち ブンチョウ に エ を やらなければ ならない な と おもった。 けれども おきる の が タイギ で あった。 いまに やろう、 いまに やろう と かんがえて いる うち に、 とうとう 8 ジ-スギ に なった。 シカタ が ない から カオ を あらう ツイデ を もって、 つめたい エン を スアシ で ふみながら、 ハコ の フタ を とって トリカゴ を アカルミ へ だした。 ブンチョウ は メ を ぱちつかせて いる。 もっと はやく おきたかったろう と おもったら キノドク に なった。
 ブンチョウ の メ は マックロ で ある。 マブタ の マワリ に ほそい トキイロ の キヌイト を ぬいつけた よう な スジ が はいって いる。 メ を ぱちつかせる たび に キヌイト が キュウ に よって 1 ポン に なる。 と おもう と また まるく なる。 カゴ を ハコ から だす や いなや、 ブンチョウ は しろい クビ を ちょっと かたぶけながら この くろい メ を うつして はじめて ジブン の カオ を みた。 そうして ちち と ないた。
 ジブン は しずか に トリカゴ を ハコ の ウエ に すえた。 ブンチョウ は ぱっと トマリギ を はなれた。 そうして また トマリギ に のった。 トマリギ は 2 ホン ある。 くろみがかった アオジク を ほどよき キョリ に ハシ と わたして ヨコ に ならべた。 その 1 ポン を かるく ふまえた アシ を みる と いかにも きゃしゃ に できて いる。 ほそながい ウスクレナイ の ハシ に シンジュ を けずった よう な ツメ が ついて、 テゴロ な トマリギ を うまく かかえこんで いる。 すると、 ひらり と メサキ が うごいた。 ブンチョウ は すでに トマリギ の ウエ で ムキ を かえて いた。 しきり に クビ を サユウ に かたぶける。 かたぶけかけた クビ を ふと もちなおして、 こころもち マエ へ のした か と おもったら、 しろい ハネ が また ちらり と うごいた。 ブンチョウ の アシ は ムコウ の トマリギ の マンナカ アタリ に グアイ よく おちた。 ちち と なく。 そうして トオク から ジブン の カオ を のぞきこんだ。
 ジブン は カオ を あらい に フロバ へ いった。 カエリ に ダイドコロ へ まわって、 トダナ を あけて、 ユウベ ミエキチ の かって きて くれた アワ の フクロ を だして、 エツボ の ナカ へ エ を いれて、 もう ヒトツ には ミズ を 1 パイ いれて、 また ショサイ の エンガワ へ でた。
 ミエキチ は ヨウイ シュウトウ な オトコ で、 ユウベ テイネイ に エ を やる とき の ココロエ を セツメイ して いった。 その セツ に よる と、 むやみ に カゴ の ト を あける と ブンチョウ が にけだして しまう。 だから ミギ の テ で カゴ の ト を あけながら、 ヒダリ の テ を その シタ へ あてがって、 ソト から デグチ を ふさぐ よう に しなくって は キケン だ。 エツボ を だす とき も おなじ ココロエ で やらなければ ならない。 と その テツキ まで して みせた が、 こう リョウホウ の テ を つかって、 エツボ を どうして カゴ の ナカ へ いれる こと が できる の か、 つい きいて おかなかった。
 ジブン は やむ を えず エツボ を もった まま テノコウ で カゴ の ト を そろり と ウエ へ おしあげた。 ドウジ に ヒダリ の テ で あいた クチ を すぐ ふさいだ。 トリ は ちょっと ふりかえった。 そうして、 ちち と ないた。 ジブン は デグチ を ふさいだ ヒダリ の テ の ショチ に きゅうした。 ヒト の スキ を うかがって にげる よう な トリ とも みえない ので、 なんとなく キノドク に なった。 ミエキチ は わるい こと を おしえた。
 おおきな テ を そろそろ カゴ の ナカ へ いれた。 すると ブンチョウ は キュウ に ハバタキ を はじめた。 ほそく けずった タケ の メ から あたたかい ムクゲ が、 しろく とぶ ほど に ツバサ を ならした。 ジブン は キュウ に ジブン の おおきな テ が いや に なった。 アワ の ツボ と ミズ の ツボ を トマリギ の アイダ に ようやく おく や いなや、 テ を ひきこました。 カゴ の ト は はたり と ひとりでに おちた。 ブンチョウ は トマリギ の ウエ に もどった。 しろい クビ を なかば ヨコ に むけて、 カゴ の ソト に いる ジブン を みあげた。 それから まげた クビ を マッスグ に して アシ の モト に ある アワ と ミズ を ながめた。 ジブン は ショクジ を し に チャノマ へ いった。
 その コロ は ニッカ と して ショウセツ を かいて いる ジブン で あった。 メシ と メシ の アイダ は たいてい ツクエ に むかって フデ を にぎって いた。 しずか な とき は ジブン で カミ の ウエ を はしる ペン の オト を きく こと が できた。 ガラン の よう な ショサイ へは ダレ も はいって こない シュウカン で あった。 フデ の オト に サビシサ と いう イミ を かんじた アサ も ヒル も バン も あった。 しかし ときどき は この フデ の オト が ぴたり と やむ、 また やめねば ならぬ、 オリ も だいぶ あった。 その とき は ユビ の マタ に フデ を はさんだ まま テノヒラ へ アゴ を のせて ガラスゴシ に ふきあれた ニワ を ながめる の が クセ で あった。 それ が すむ と のせた アゴ を いちおう つまんで みる。 それでも フデ と カミ が イッショ に ならない とき は、 つまんだ アゴ を 2 ホン の ユビ で のして みる。 すると エンガワ で ブンチョウ が たちまち ちよちよ と フタコエ ないた。
 フデ を おいて、 そっと でて みる と、 ブンチョウ は ジブン の ほう を むいた まま、 トマリギ の ウエ から、 のめりそう に しろい ムネ を つきだして、 たかく ちよ と いった。 ミエキチ が きいたら さぞ よろこぶ だろう と おもう ほど な いい コエ で ちよ と いった。 ミエキチ は いまに なれる と ちよ と なきます よ、 きっと なきます よ、 と うけあって かえって いった。
 ジブン は また カゴ の ソバ へ しゃがんだ。 ブンチョウ は ふくらんだ クビ を 2~3 ド タテヨコ に むけなおした。 やがて ヒトカタマリ の しろい カラダ が ぽいと トマリギ の ウエ を ぬけだした。 と おもう と きれい な アシ の ツメ が ハンブン ほど エツボ の フチ から ウシロ へ でた。 コユビ を かけて も すぐ ひっくりかえりそう な エツボ は ツリガネ の よう に しずか で ある。 さすが に ブンチョウ は かるい もの だ。 なんだか アワユキ の セイ の よう な キ が した。
 ブンチョウ は つと クチバシ を エツボ の マンナカ に おとした。 そうして 2~3 ド サユウ に ふった。 きれい に ならして いれて あった アワ が はらはら と カゴ の ソコ に こぼれた。 ブンチョウ は クチバシ を あげた。 ノド の ところ で かすか な オト が する。 また クチバシ を アワ の マンナカ に おとす。 また かすか な オト が する。 その オト が おもしろい。 しずか に きいて いる と、 まるくて こまやか で、 しかも ヒジョウ に すみやか で ある。 スミレ ほど な ちいさい ヒト が、 コガネ の ツチ で メノウ の ゴイシ でも ツヅケザマ に たたいて いる よう な キ が する。
 クチバシ の イロ を みる と ムラサキ を うすく まぜた ベニ の よう で ある。 その ベニ が しだいに ながれて、 アワ を つつく クチサキ の アタリ は しろい。 ゾウゲ を ハントウメイ に した シロサ で ある。 この クチバシ が アワ の ナカ へ はいる とき は ヒジョウ に はやい。 サユウ に ふりまく アワ の タマ も ヒジョウ に かるそう だ。 ブンチョウ は ミ を サカサマ に しない ばかり に とがった クチバシ を きいろい ツブ の ナカ に さしこんで は、 ふくらんだ クビ を オシゲ も なく ミギヒダリ へ ふる。 カゴ の ソコ に とびちる アワ の カズ は イクツブ だ か わからない。 それでも エツボ だけ は せきぜん と して しずか で ある。 おもい もの で ある。 エツボ の チョッケイ は 1 スン 5 ブ ほど だ と おもう。
 ジブン は そっと ショサイ へ かえって さびしく ペン を カミ の ウエ に はしらして いた。 エンガワ では ブンチョウ が ちち と なく。 おりおり は ちよちよ とも なく。 ソト では コガラシ が ふいて いた。
 ユウガタ には ブンチョウ が ミズ を のむ ところ を みた。 ほそい アシ を ツボ の フチ へ かけて、 ちいさい クチバシ に うけた ヒトシズク を ダイジ そう に、 あおむいて のみくだして いる。 この ブン では 1 パイ の ミズ が トオカ ぐらい つづく だろう と おもって また ショサイ へ かえった。 バン には ハコ へ しまって やった。 ねる とき ガラスド から ソト を のぞいたら、 ツキ が でて、 シモ が ふって いた。 ブンチョウ は ハコ の ナカ で ことり とも しなかった。
 あくる ヒ も また キノドク な こと に おそく おきて、 ハコ から カゴ を だして やった の は、 やっぱり 8 ジ-スギ で あった。 ハコ の ナカ では とうから メ が さめて いた ん だろう。 それでも ブンチョウ は いっこう フヘイ-らしい カオ も しなかった。 カゴ が あかるい ところ へ でる や いなや、 いきなり メ を しばたたいて、 こころもち クビ を すくめて、 ジブン の カオ を みた。
 ムカシ うつくしい オンナ を しって いた。 この オンナ が ツクエ に もたれて ナニ か かんがえて いる ところ を、 ウシロ から、 そっと いって、 ムラサキ の オビアゲ の フサ に なった サキ を、 ながく たらして、 クビスジ の ほそい アタリ を、 ウエ から なでまわしたら、 オンナ は ものうげ に ウシロ を むいた。 その とき オンナ の マユ は こころもち ハチ の ジ に よって いた。 それ で メジリ と クチモト には ワライ が きざして いた。 ドウジ に カッコウ の よい クビ を カタ まで すくめて いた。 ブンチョウ が ジブン を みた とき、 ジブン は ふと この オンナ の こと を おもいだした。 この オンナ は イマ ヨメ に いった。 ジブン が ムラサキ の オビアゲ で イタズラ を した の は エンダン の きまった 2~3 ニチ アト で ある。
 エツボ には まだ アワ が 8 ブ-ドオリ はいって いる。 しかし カラ も だいぶ まじって いた。 ミズイレ には アワ の カラ が イチメン に ういて、 いたく にごって いた。 かえて やらなければ ならない。 また おおきな テ を カゴ の ナカ へ いれた。 ヒジョウ に ヨウジン して いれた にも かかわらず、 ブンチョウ は しろい ツバサ を みだして さわいだ。 ちいさい ハネ が 1 ポン ぬけて も、 ジブン は ブンチョウ に すまない と おもった。 カラ は きれい に ふいた。 ふかれた カラ は コガラシ が どこ か へ もって いった。 ミズ も かえて やった。 スイドウ の ミズ だ から たいへん つめたい。
 その ヒ は イチニチ さびしい ペン の オト を きいて くらした。 その アイダ には おりおり ちよちよ と いう コエ も きこえた。 ブンチョウ も さびしい から なく の では なかろう か と かんがえた。 しかし エンガワ へ でて みる と、 2 ホン の トマリギ の アイダ を、 あちら へ とんだり、 こちら へ とんだり、 たえまなく ゆきつ もどりつ して いる。 すこしも フヘイ-らしい ヨウス は なかった。
 ヨル は ハコ へ いれた。 あくる アサ メ が さめる と、 ソト は しろい シモ だ。 ブンチョウ も メ が さめて いる だろう が、 なかなか おきる キ に ならない。 マクラモト に ある シンブン を テ に とる さえ ナンギ だ。 それでも タバコ は 1 ポン ふかした。 この 1 ポン を ふかして しまったら、 おきて カゴ から だして やろう と おもいながら、 クチ から でる ケブリ の ユクエ を みつめて いた。 すると この ケブリ の ナカ に、 クビ を すくめた、 メ を ほそく した、 しかも こころもち マユ を よせた ムカシ の オンナ の カオ が ちょっと みえた。 ジブン は トコ の ウエ に おきなおった。 ネマキ の ウエ へ ハオリ を ひっかけて、 すぐ エンガワ へ でた。 そうして ハコ の フタ を はずして、 ブンチョウ を だした。 ブンチョウ は ハコ から でながら、 ちよちよ と フタコエ ないた。
 ミエキチ の セツ に よる と、 なれる に したがって、 ブンチョウ が ヒト の カオ を みて なく よう に なる ん だ そう だ。 げんに ミエキチ の かって いた ブンチョウ は、 ミエキチ が ソバ に い さえ すれば、 しきり に ちよちよ と なきつづけた そう だ。 のみならず ミエキチ の ユビ の サキ から エ を たべる と いう。 ジブン も いつか ユビ の サキ で エ を やって みたい と おもった。
 ツギ の アサ は また なまけた。 ムカシ の オンナ の カオ も つい おもいださなかった。 カオ を あらって、 ショクジ を すまして、 はじめて、 キ が ついた よう に エンガワ へ でて みる と、 いつのまにか カゴ が ハコ の ウエ に のって いる。 ブンチョウ は もう トマリギ の ウエ を おもしろそう に あちら、 こちら と とびうつって いる。 そうして ときどき は クビ を のして カゴ の ソト を シタ の ほう から のぞいて いる。 その ヨウス が なかなか ムジャキ で ある。 ムカシ ムラサキ の オビアゲ で イタズラ を した オンナ は エリ の ながい、 セイ の すらり と した、 ちょっと クビ を まげて ヒト を みる クセ が あった。
 アワ は まだ ある。 ミズ も まだ ある。 ブンチョウ は マンゾク して いる。 ジブン は アワ も ミズ も かえず に ショサイ へ ひっこんだ。
 ヒルスギ また エンガワ へ でた。 ショクゴ の ウンドウ-かたがた、 5~6 ケン の マワリエン を、 あるきながら ショケン する つもり で あった。 ところが でて みる と アワ が もう 7 ブ-ガタ つきて いる。 ミズ も まったく にごって しまった。 ショモツ を エンガワ へ ほうりだして おいて、 いそいで エ と ミズ を かえて やった。
 ツギ の ヒ も また おそく おきた。 しかも カオ を あらって メシ を くう まで は エンガワ を のぞかなかった。 ショサイ に かえって から、 あるいは キノウ の よう に、 ウチ の モノ が カゴ を だして おき は せぬ か と、 ちょっと エン へ カオ だけ だして みたら、 はたして だして あった。 そのうえ エ も ミズ も あたらしく なって いた。 ジブン は やっと アンシン して クビ を ショサイ に いれた。 トタン に ブンチョウ は ちよちよ と ないた。 それで ひっこめた クビ を また だして みた。 けれども ブンチョウ は ふたたび なかなかった。 ケゲン な カオ を して ガラスゴシ に ニワ の シモ を ながめて いた。 ジブン は とうとう ツクエ の マエ に かえった。
 ショサイ の ナカ では あいかわらず ペン の オト が さらさら する。 かきかけた ショウセツ は だいぶん はかどった。 ユビ の サキ が つめたい。 ケサ いけた サクラズミ は しろく なって、 サツマ ゴトク に かけた テツビン が ほとんど さめて いる。 スミトリ は カラ だ。 テ を たたいた が ちょっと ダイドコロ まで きこえない。 たって ト を あける と、 ブンチョウ は レイ に にず トマリギ の ウエ に じっと とまって いる。 よく みる と アシ が 1 ポン しか ない。 ジブン は スミトリ を エン に おいて、 ウエ から こごんで カゴ の ナカ を のぞきこんだ。 いくら みて も アシ は 1 ポン しか ない。 ブンチョウ は この きゃしゃ な 1 ポン の ほそい アシ に ソウミ を たくして もくねん と して、 カゴ の ナカ に かたづいて いる。
 ジブン は フシギ に おもった。 ブンチョウ に ついて バンジ を セツメイ した ミエキチ も この こと だけ は ぬいた と みえる。 ジブン が スミトリ に スミ を いれて かえった とき、 ブンチョウ の アシ は まだ 1 ポン で あった。 しばらく さむい エンガワ に たって ながめて いた が、 ブンチョウ は うごく ケシキ も ない。 オト を たてない で みつめて いる と、 ブンチョウ は まるい メ を しだいに ほそく しだした。 おおかた ねむたい の だろう と おもって、 そっと ショサイ へ はいろう と して、 イッポ アシ を うごかす や いなや、 ブンチョウ は また メ を あいた。 ドウジ に マッシロ な ムネ の ナカ から ほそい アシ を 1 ポン だした。 ジブン は ト を たてて ヒバチ へ スミ を ついだ。
 ショウセツ は しだいに いそがしく なる。 アサ は いぜん と して ネボウ を する。 イチド ウチ の モノ が ブンチョウ の セワ を して くれて から、 なんだか ジブン の セキニン が かるく なった よう な ココロモチ が する。 ウチ の モノ が わすれる とき は、 ジブン が エ を やる ミズ を やる。 カゴ の ダシイレ を する。 しない とき は、 ウチ の モノ を よんで させる こと も ある。 ジブン は ただ ブンチョウ の コエ を きく だけ が ヤクメ の よう に なった。
 それでも エンガワ へ でる とき は、 かならず カゴ の マエ へ たちどまって ブンチョウ の ヨウス を みた。 タイテイ は せまい カゴ を ク にも しない で、 2 ホン の トマリギ を マンゾク そう に オウフク して いた。 テンキ の いい とき は うすい ヒ を ガラスゴシ に あびて、 しきり に なきたてて いた。 しかし ミエキチ の いった よう に、 ジブン の カオ を みて ことさら に なく ケシキ は さらに なかった。
 ジブン の ユビ から じかに エ を くう など と いう こと は むろん なかった。 おりおり キゲン の いい とき は パン の コ など を ヒトサシユビ の サキ へ つけて タケ の アイダ から ちょっと だして みる こと が ある が ブンチョウ は けっして ちかづかない。 すこし ブエンリョ に つきこんで みる と、 ブンチョウ は ユビ の ふとい の に おどろいて しろい ツバサ を みだして カゴ の ナカ を さわぎまわる のみ で あった。 2~3 ド こころみた ノチ、 ジブン は キノドク に なって、 この ゲイ だけ は エイキュウ に ダンネン して しまった。 イマ の ヨ に こんな こと の できる モノ が いる か どう だ か はなはだ うたがわしい。 おそらく コダイ の セイント の シゴト だろう。 ミエキチ は ウソ を ついた に ちがいない。
 ある ヒ の こと、 ショサイ で レイ の ごとく ペン の オト を たてて わびしい こと を かきつらねて いる と、 ふと ミョウ な オト が ミミ に はいった。 エンガワ で さらさら、 さらさら いう。 オンナ が ながい キヌ の スソ を さばいて いる よう にも うけとられる が、 タダ の オンナ の それ と して は、 あまり に ぎょうさん で ある。 ヒナダン を あるく、 ダイリビナ の ハカマ の ヒダ の すれる オト と でも ケイヨウ したら よかろう と おもった。 ジブン は かきかけた ショウセツ を ヨソ に して、 ペン を もった まま エンガワ へ でて みた。 すると ブンチョウ が ギョウズイ を つかって いた。
 ミズ は ちょうど カエタテ で あった。 ブンチョウ は かるい アシ を ミズイレ の マンナカ に ムナゲ まで ひたして、 ときどき は しろい ツバサ を サユウ に ひろげながら、 こころもち ミズイレ の ナカ に しゃがむ よう に ハラ を おしつけつつ、 ソウミ の ケ を イチド に ふって いる。 そうして ミズイレ の フチ に ひょいと とびあがる。 しばらく して また とびこむ。 ミズイレ の チョッケイ は 1 スン 5 ブ ぐらい に すぎない。 とびこんだ とき は オ も あまり、 アタマ も あまり、 セ は むろん あまる。 ミズ に つかる の は アシ と ムネ だけ で ある。 それでも ブンチョウ は きんぜん と して ギョウズイ を つかって いる。
 ジブン は キュウ に カエカゴ を とって きた。 そうして ブンチョウ を この ほう へ うつした。 それから ジョロ を もって フロバ へ いって、 スイドウ の ミズ を くんで、 カゴ の ウエ から さあさあ と かけて やった。 ジョロ の ミズ が つきる コロ には しろい ハネ から おちる ミズ が タマ に なって ころがった。 ブンチョウ は たえず メ を ぱちぱち させて いた。
 ムカシ ムラサキ の オビアゲ で イタズラ を した オンナ が、 ザシキ で シゴト を して いた とき、 ウラニカイ から フトコロカガミ で オンナ の カオ へ ハル の コウセン を ハンシャ させて たのしんだ こと が ある。 オンナ は うすあかく なった ホオ を あげて、 ほそい テ を ヒタイ の マエ に かざしながら、 フシギ そう に マバタキ を した。 この オンナ と この ブンチョウ とは おそらく おなじ ココロモチ だろう。
 ヒカズ が たつ に したがって ブンチョウ は よく さえずる。 しかし よく わすれられる。 ある とき は エツボ が アワ の カラ だけ に なって いた こと が ある。 ある とき は カゴ の ソコ が フン で いっぱい に なって いた こと が ある。 ある バン エンカイ が あって おそく かえったら、 フユ の ツキ が ガラスゴシ に さしこんで、 ひろい エンガワ が ほのあかるく みえる ナカ に、 トリカゴ が しんと して、 ハコ の ウエ に のって いた。 その スミ に ブンチョウ の カラダ が うすしろく ういた まま トマリギ の ウエ に、 ある か なき か に おもわれた。 ジブン は ガイトウ の ハネ を かえして、 すぐ トリカゴ を ハコ の ナカ へ いれて やった。
 ヨクジツ ブンチョウ は レイ の ごとく ゲンキ よく さえずって いた。 それから は ときどき さむい ヨル も ハコ に しまって やる の を わすれる こと が あった。 ある バン イツモ の とおり ショサイ で センネン に ペン の オト を きいて いる と、 とつぜん エンガワ の ほう で がたり と モノ の くつがえった オト が した。 しかし ジブン は たたなかった。 いぜん と して いそぐ ショウセツ を かいて いた。 わざわざ たって いって、 なんでも ない と いまいましい から、 キ に かからない では なかった が、 やはり ちょっと キキミミ を たてた まま しらぬ カオ で すまして いた。 その バン ねた の は 12 ジ-スギ で あった。 ベンジョ に いった ツイデ、 キガカリ だ から、 ネン の ため いちおう エンガワ へ まわって みる と――
 カゴ は ハコ の ウエ から おちて いる。 そうして ヨコ に たおれて いる。 ミズイレ も エツボ も ひっくりかえって いる。 アワ は イチメン に エンガワ に ちらばって いる。 トマリギ は ぬけだして いる。 ブンチョウ は しのびやか に トリカゴ の サン に かじりついて いた。 ジブン は アシタ から ちかって この エンガワ に ネコ を いれまい と ケッシン した。
 あくる ヒ ブンチョウ は なかなかった。 アワ を ヤマモリ いれて やった。 ミズ を みなぎる ほど いれて やった。 ブンチョウ は イッポンアシ の まま ながらく トマリギ の ウエ を うごかなかった。 ヒルメシ を くって から、 ミエキチ に テガミ を かこう と おもって、 2~3 ギョウ かきだす と、 ブンチョウ が ちち と ないた。 ジブン は テガミ の フデ を とめた。 ブンチョウ が また ちち と ないた。 でて みたら アワ も ミズ も だいぶん へって いる。 テガミ は それぎり に して さいて すてた。
 ヨクジツ ブンチョウ が また なかなく なった。 トマリギ を おりて カゴ の ソコ へ ハラ を おしつけて いた。 ムネ の ところ が すこし ふくらんで、 ちいさい ケ が サザナミ の よう に みだれて みえた。 ジブン は この アサ、 ミエキチ から レイ の ケン で ボウショ まで きて くれ と いう テガミ を うけとった。 10 ジ まで に と いう イライ で ある から、 ブンチョウ を ソノママ に して おいて でた。 ミエキチ に あって みる と レイ の ケン が いろいろ ながく なって、 イッショ に ヒルメシ を くう。 イッショ に バンメシ を くう。 そのうえ アス の カイゴウ まで ヤクソク して ウチ へ かえった。 かえった の は ヨル の 9 ジ-ゴロ で ある。 ブンチョウ の こと は すっかり わすれて いた。 つかれた から、 すぐ トコ へ はいって ねて しまった。
 あくる ヒ メ が さめる や いなや、 すぐ レイ の ケン を おもいだした。 いくら トウニン が ショウチ だって、 そんな ところ へ ヨメ に やる の は ユクスエ よく あるまい、 まだ コドモ だ から どこ へ でも ゆけ と いわれる ところ へ ゆく キ に なる ん だろう。 いったん ゆけば むやみ に でられる もの じゃ ない。 ヨノナカ には マンゾク しながら フコウ に おちいって ゆく モノ が たくさん ある。 など と かんがえて ヨウジ を つかって、 アサメシ を すまして また レイ の ケン を カタヅケ に でかけて いった。
 かえった の は ゴゴ 3 ジ-ゴロ で ある。 ゲンカン へ ガイトウ を かけて ロウカヅタイ に ショサイ へ はいる つもり で レイ の エンガワ へ でて みる と、 トリカゴ が ハコ の ウエ に だして あった。 けれども ブンチョウ は カゴ の ソコ に そっくりかえって いた。 2 ホン の アシ を かたく そろえて、 ドウ と チョクセン に のばして いた。 ジブン は カゴ の ワキ に たって、 じっと ブンチョウ を みまもった。 くろい メ を ねぶって いる。 マブタ の イロ は うすあおく かわった。
 エツボ には アワ の カラ ばかり たまって いる。 ついばむ べき は ヒトツブ も ない。 ミズイレ は ソコ の ひかる ほど かれて いる。 ニシ へ まわった ヒ が ガラスド を もれて ナナメ に カゴ に おちかかる。 ダイ に ぬった ウルシ は、 ミエキチ の いった ごとく、 いつのまにか クロミ が ぬけて、 シュ の イロ が でて きた。
 ジブン は フユ の ヒ に いろづいた シュ の ダイ を ながめた。 カラ に なった エツボ を ながめた。 むなしく ハシ を わたして いる 2 ホン の トマリギ を ながめた。 そうして その シタ に よこたわる かたい ブンチョウ を ながめた。
 ジブン は こごんで リョウテ に トリカゴ を かかえた。 そうして、 ショサイ へ もって はいった。 10 ジョウ の マンナカ へ トリカゴ を おろして、 その マエ へ かしこまって、 カゴ の ト を ひらいて、 おおきな テ を いれて、 ブンチョウ を にぎって みた。 やわらかい ハネ は ひえきって いる。
 コブシ を カゴ から ひきだして、 にぎった テ を あける と、 ブンチョウ は しずか に テノヒラ の ウエ に ある。 ジブン は テ を あけた まま、 しばらく しんだ トリ を みつめて いた。 それから、 そっと ザブトン の ウエ に おろした。 そうして、 はげしく テ を ならした。
 16 に なる コオンナ が、 はい と いって シキイギワ に テ を つかえる。 ジブン は いきなり フトン の ウエ に ある ブンチョウ を にぎって、 コオンナ の マエ へ ほうりだした。 コオンナ は うつむいて タタミ を ながめた まま だまって いる。 ジブン は、 エ を やらない から、 とうとう しんで しまった と いいながら、 ゲジョ の カオ を にらめつけた。 ゲジョ は それでも だまって いる。
 ジブン は ツクエ の ほう へ むきなおった。 そうして ミエキチ へ ハガキ を かいた。 「ウチ の モノ が エ を やらない もの だ から、 ブンチョウ は とうとう しんで しまった。 たのみ も せぬ もの を カゴ へ いれて、 しかも エ を やる ギム さえ つくさない の は ザンコク の イタリ だ」 と いう モンク で あった。
 ジブン は、 これ を だして こい、 そうして その トリ を そっち へ もって ゆけ と ゲジョ に いった。 ゲジョ は、 どこ へ もって まいります か と ききかえした。 どこ へ でも カッテ に もって ゆけ と どなりつけたら、 おどろいて ダイドコロ の ほう へ もって いった。
 しばらく する と ウラニワ で、 コドモ が ブンチョウ を うめる ん だ うめる ん だ と さわいで いる。 ニワソウジ に たのんだ ウエキヤ が、 オジョウサン、 ここいら が いい でしょう と いって いる。 ジブン は すすまぬ ながら、 ショサイ で ペン を うごかして いた。
 ヨクジツ は なんだか アタマ が おもい ので、 10 ジ-ゴロ に なって ようやく おきた。 カオ を あらいながら ウラニワ を みる と、 キノウ ウエキヤ の コエ の した アタリ に、 ちいさい コウサツ が、 あおい トクサ の ヒトカブ と ならんで たって いる。 タカサ は トクサ より も ずっと ひくい。 ニワゲタ を はいて、 ヒカゲ の シモ を ふみくだいて、 ちかづいて みる と、 コウサツ の オモテ には、 この ドテ のぼる べからず と あった。 フデコ の シュセキ で ある。
 ゴゴ ミエキチ から ヘンジ が きた。 ブンチョウ は かわいそう な こと を いたしました と ある ばかり で ウチ の モノ が わるい とも ザンコク だ とも いっこう かいて なかった。

ある オンナ (ゼンペン)

 ある オンナ  (ゼンペン)  アリシマ タケオ  1  シンバシ を わたる とき、 ハッシャ を しらせる 2 バンメ の ベル が、 キリ と まで は いえない 9 ガツ の アサ の、 けむった クウキ に つつまれて きこえて きた。 ヨウコ は ヘイキ で それ ...