2015/04/17

ロセイ

 ロセイ

 コウダ ロハン

 イマ を さる こと 30 ヨネン も マエ の こと で あった。
 イマ に おいて カイコ すれば、 その コロ の ジブン は ジュウニブン の コウフク と いう ほど では なく とも、 すくなくも アンコウ の セイカツ に ひたって、 チョウセキ を ココロ に かかる クモ も なく すがすがしく おくって いた の で あった。
 シンシン ともに セイキ に みちて いた の で あった から、 マイニチ マイニチ の アサ を、 まだ ウスモヤ が ムラ の タノモ や クロ の キ の コズエ を こめて いる ほど の ハヤサ に おきでて、 そして 9 ジ か 9 ジ ハン か と いう コロ まで には、 もう イッカ の セイカツ を ささえる ため の シゴト は おえて しまって、 それから アト は おちついた ゆるやか な キブン で、 ドクショ や ケンキュウ に ジュウジ し、 あるいは ホウキャク に せっして ダンロン したり、 ゴゴ の うんだ ジブン には、 そこら を サンサク したり した もの で あった。
 カワゾイ の チ に いた ので、 いつ と なく チョウギョ の シュミ を ガテン した。 ナニゴト でも オボエタテ と いう もの は、 それ に ココロ の ひかれる こと の つよい もの で ある。 ちょうど その コロ イッカン を テ に して チョウリュウ に たいする アジ を おぼえて から 1 ネン か そこら で あった ので、 マイニチ の よう に ナカガワ-ベリ へ でかけた。 ナカガワ エンガン も イマ で こそ カクシュ の コウジョウ の エントツ や タテモノ など も みえ、 ヒト の ユキキ も しげく ジンカ も おおく なって いる が、 その ジブン は スミダガワ-ゾイ の テラジマ や スミダ の ムラムラ で さえ さほど に にぎやか では なくて、 のどか な ベッソウチ-テキ の コウケイ を そんして いた の だ から、 まして ナカガワ-ゾイ、 しかも ヒライバシ から カミ の、 オクド、 タテイシ なんど と いう アタリ は、 まことに カンジャク な もの で、 ミズ ただ ゆるやか に ながれ、 クモ ただ しずか に たむろして いる のみ で、 コウボウ ハクロ の シュウショ、 ときに スイキン の カゲ を みる に すぎぬ と いう よう な こと で あった。 ツリ も ツリ で おもしろい が、 ジブン は その ヘイヤ の ナカ の ゆるい ナガレ の フキン の、 ヘイボン と いえば ヘイボン だ が、 なんら トクイ の こと の ない ワイ あんかん たる ケシキ を このもしく かんじて、 そうして シゼン に いだかれて イク-ジカン を すごす の を、 トウキョウ の がやがや した きらびやか な キョウガイ に シンケイ を ショウコウ させながら キョウジュ する カンラク など より も はるか に うれしい こと と おもって いた。 そして また ジッサイ に おいて、 そういう ナカガワ-ベリ に ユギョウ したり ねころんだり して ウオ を つったり、 ウオ の こぬ とき は セツ な ウタ の イック ハンク でも つりえて から かえって、 うつくしい うまい ケイビ の ヒロウ から さそわれる あわい きよらか な ユメ に いる こと が、 ヨクチョウ の すがすがしい メザメ と いきいき した チカラ と に なる こと を、 しぜん フゲン フゴ に さとらされて いた。
 ちょうど アキ の ヒガン の すこし マエ-ゴロ の こと だ と おぼえて いる。 その ジブン マイニチ の よう に ゴゴ の 2 ジ ハン-ゴロ から イエ を いでて は、 ナカガワ-ベリ の ニシブクロ と いう ところ へ あそび に でかけた。 ニシブクロ も イマ は その ヘン に ヒリョウ-ガイシャ など の タテモノ が みえる よう に なり、 カワ の ナガレ の サマ も トチ の ヨウス も おおいに ヘンカ した が、 その コロ は アタリ に ナニ が ある でも ない エドガタ の イチ キョクワン なの で あった。 ナカガワ は シジュウク マガリ と いわれる ほど えんえん クッキョク して ながれる カワ で、 ニシブクロ は ちょうど ニシ の ほう、 すなわち エド の ホウメン へ クッキョク しこんで、 それから また ヒガシ の ほう へ てんじながら ミナミ へ ゆく ところ で、 ニシ へ はいって フクロ の ごとく に なって いる から ニシブクロ と いう ショウ も しょうじた の で あろう。 ミズ は わんわん と まがりこんで、 そして テンセツ して ながれさる、 あたかも ひらいた オウギ の サユウ の オヤボネ を カワ の ナガレ と みる ならば その カニメ の ところ が すなわち ニシブクロ で ある。 そこで そこ は ツリイト を たれがたい チ では ある が、 ウオ は たちまわる こと の おおい シゼン に オカヅリ の コウテキチ で ある。 また その テイボウ の クサハラ に コシ を おろして ヒトミ を はなてば、 ジョウリュウ から の ミズ は ワレ に むかって きたり、 カリュウ の ミズ は ワレ より して いずる が ごとく に みえて、 ココロモチ の よい ナガメ で ある。 で、 ジブン は そこ の ミズギワ に うずくまって つったり、 そこ の テイジョウ に ねころがって、 たまたま えた ナニ か を ザッキチョウ に 1 ギョウ 2 ギョウ しるしつけたり して マイニチ たのしんだ。 ことに その イクニチ と いう もの は そこ で よい リョウ を した ので、 イエ を でる とき には すでに ニシブクロ の ケイ を おもいうかべ、 ミチ を ゆく とき にも はやく ウンエイ スイコウ の わが マエ に ある が ごとき ココチ さえ した の で あった。
 その ヒ も ゴゼン から ゴゴ へ かけて すこし アタマ の つかれる ナンドク の ショ を よんだ アト で あった。 その ショ を キジョウ に とじて しまって、 ハンサン の バンチャ を キツリョウ しさって から、
 また いって くる よ。
と カナイ に イチゴン して、 エサオケ と アミビク と を もって、 ツバビロ の オオムギワラボウ を ひっかぶり、 コシ に テヌグイ、 フトコロ に テチョウ、 スアシ に うすく なった サツマ ゲタ、 まだ ひくく ならぬ ヒ の ヒカリ の きらきら する ナカ を、 コガネイロ に かがやく イナダ を わたる カゼ に ふかれながら、 すこし あつい とは かんじつつ も さわやか な キブン で あるきだした。
 カワ ちかく なって、 イナカミチ の ツジ の ある コシカケ-ヂャヤ に たちよった。 それ は フジ の タナ の チャヤ と いって、 シゼン に そこ に ある ふるい フジ の タナ、 と いって さまで おおきく も ない が、 それ に ミセ の ハンブン は おおわれて いる ので ヒトビト に そう よびならされて いる チャヤ で ある。 ミチ ゆく ヒト や ノウフ や ギョウショウ や、 ヤサイ の ニ を トウキョウ へ だした カエリ の カラグルマ を ひいた オトコ なんど の ちょっと やすむ ウチ で、 いわゆる サンモンガシ が すこし に、 あまり しぶく も ない チャ より ほか ナニ を テイキョウ する の でも ない が、 チョウホウ に なって いる ウチ なの だ。 ジブン も ツリ の ユキカエリ に たちよって カオナジミ に なって いた ので、 オカヅリ に もちいる サオ の ツギザオ とは いえ 3 ゲン ハン も あって ながい の を その たびたび に たずさえて オウフク する の は このましく ない から、 ここ へ たのんで あずけて おく こと に して あった。 で、 イマ ユキガケ に レイ の ごとく ここ へ よって、
 やあ、 こんにちわ、 また きました。
と アイサツ して、 ウラ へ まわって みずから サオ を とりだして タマ と ともに ひっかついで くる と、 チャヤ の バアサン は、
 おたのしみ なさいまし。 よい の が でましたら ちと オフクワケ を なすって くださいまし。
と わらって セジ を いって くれた。 その コトバ を セナカ に きかせながら、
 ああ、 いい とも。 だが まだ ボク ツリシ だ から ね、 ははは。
と こたえて さっさと あるく と、
 でも アテ に して まって ます よ、 ははは。
と ウシロ から おおきな コエ で、 なかなか チョウシ が よい。 セコ に なれて いる と いう まで で なくて も ゼンリョウ の ロウジン は ヒト に よい カンジ を もたせる、 こう いわれて わるい キ は しない。 ダバ にも シノ の ムチ、 と いう カク で、 すこし は ココロ に イサミ を そえられる。 もちろん ミジュクモノ と いう イミ の ボク ツリシ と みずから いった の は ケンソンテキ で、 ナイシン に ヘタ ツリシ と みずから しんじて いる チョウカク は ない の で ある し、 ジブン も この フツカ ばかり は フケッカ だった が、 キョウ は よい ケッカ を えたい と ねんじて いた の で ある。
 バショ へ ついた。 と みる と、 いつも ジブン の すわる ところ に ちいさな コ が ちゃんと すわって いた。 よごれた テヌグイ で ホオカムリ を して、 オトナ の よう な アイ の こまかい シマモノ の ツツソデ ヒトエ の スソミジカ なの の よごれかえって いる の を きて、 ほそい テアシ の シブカミイロ なの を ヒンソウ に むきだして、 みすぼらしく しゃがんで いる の で あった。 トウキョウモノ では ない、 イナカ の ここら の、 しかも あまり よい ウチ で ない イエ の コ で ある とは ヒトメ に おもいとられた。 カミノケ が のびすぎて エリクビ が むさく なって いる の が テヌグイ の シタ から みえて、 そこ へ ヒ が じりじり あたって いる ので、 ほそい クビスジ の あかぐろい ところ に アセ が にえて でも いる よう に きたならしく すこし ひかって いた。 ソバ へ よったら ぷんと くさそう に おもえた の で ある。
 ジブン は ジブン の シカケ を とりだして、 ホザオ の ヘビクチ に つけ、 ツリザオ を じゅんに つないで つる べく ジュンビ した。 シカケ とは サオ イガイ の イト ソノタ の イチグ を しょうする チョウカク の ゴ で ある。 その アイダ に ちょいちょい ショウネン の ほう を みた。 12~13 サイ か と おもわれた が、 カオ が ひねて ませて みえる ので そう おもう の だ が、 じつは 11 か たかだか 12 サイ ぐらい か とも おもわれた。 だまって その コ は しんに なって ウキ を みつめて つって いる。 シオ は イマ ソコリ に なって いて これから ひっかえそう と いう ところ で ある から、 ミズ も うごかず ウキ も ながれない が、 みる と その ウキ も ウリモノ ウキ では ない、 キ の ハシ か なんぞ の よう な もの を、 あきらか に ショウネン の テワザ で、 ツリイト に トックリ ムスビ に した の に すぎなかった。 サオ も 2 ケン ばかり しか なくて、 ダレ か の アガリザオ を もらい か なんぞ した の で あろう か、 ホサキ が ホサキ に なって ない、 けだし アタマ が 3~4 スン おれて うせて しまった もの で ある。
 この コ は ツリ に なれて いない。 だいいち ここ は ウキヅリ に てきして いない バ で ある。 やがて シオ が うごきだせば ウキ は オモリ が おもければ ミズ に しおられて ながれて しずんで しまう し、 オモリ が かるければ ミズ と ともに ながれて しまう で あろう。 また 2 ケン ばかり の サオ では、 ここ では ハリサキ が よい ウオ の まわる べき ところ に たっしない。 キシヂカ に まわる ホソ の コザカナ しか ハリ には きたらぬ で あろう。 とは おもった が、 それ は コドモ の ツリ で ある と すれば トカク を いう にも およばぬ こと で ある と して カンカ す べき で ある から よい。 ただ ジブン に とって こまった こと は その コ の イバショ で あった。 それ は ジブン が すわりたい ところ で ある。 いや すわらねば ならぬ ところ で ある、 いや とうぜん すわる べき ところ で ある、 と いう こと で あった。
 ジブン が エサ を ハリ に よそおいつけた とき で あった。 グウゼン に ショウネン は ジブン の ほう に オモテ を むけた。 そして コウトウショク を した イトメ と いう ムシ を 5 ヒキ や 6 ピキ では なく タクサン に ハリ に よそおう ところ を みつめて いた。 その カオ は ただ チュウイ した と いう ホカ に なんの ヒョウジョウ が ある の では なかった。 しかし おもいのほか に メハナダチ の ととのった、 そして リコウ だ か キショウ が よい か ナニ か は わからない が、 ただ あほげて は いない、 こすい か ゼンリョウ か どう か は わからない が、 ただ ムチャ では ない、 と いう こと だけ は よみとれた。
 すこし キノドク な よう な カンジ が せぬ では なかった が、 これ が ショウネン で なくて オトナ で あった なら とっく に ジブン は いいだす はず の こと だった から、 シカタ が ない と ジブン に きめて、
 ニイサン、 すまない けれども ね、 オマエ の すわって いる ところ を、 ミギ へ でも ヒダリ へ でも いい から、 1 ケン ハン か 2 ケン ばかり どいて おくれ で ない か。 そこ は ワタシ が すわる つもり に して ある ところ だ から。
と、 ジブン では できる だけ コトバ を やさしく して いった の で あった。
 すると ショウネン の メンジョウ には あきらか に ハンコウ の イロ が あがった。 コトバ は なにも ださなかった が、 メ の ウチ には イ を あらわした。 コトバ が はっされた なら あきらか に それ は キョゼツ の コトバ で なくて、 なんの コトバ が その メ の ウチ の ある もの に ともなおう や と かんじられた。 シカタ が ない から ジブン は ジブン の イ を てっしよう と する ため に ふたたび コトバ を ついやさざる を えなかった。
 ニイサン、 シッケイ な こと を いう カッテ な ヤツ だ と おこって くれない で おくれ。 オマエ の サオ の サキ の ケントウ の マッスグ の ところ を ごらん。 そら あすこ に ふるい 「ダシグイ」 が ならんで、 ラングイ に なって いる だろう。 その ナカ の 1 ポン の クイ の ヨコ に おおきな ナンキン クギ が うって ある の が みえる だろう。 あの クギ は ワタシ が うった の だよ。 あすこ へ クギ を うって、 それ へ サオ を もたせる と よい と かんがえた ので、 ワタシ が ウチ から クギ と ゲンノウ と を もって きて、 わざわざ フネ を かりて あすこ へ いって、 そして かんがえさだめた ところ へ あの クギ を うった の だよ。 それから ここ へ くる たび に ワタシ は あの クギ へ ワタシ の サオ を かけて あの ラングイ の ソト へ ハリ を だして つる の だよ。 で、 また ワタシ は つれた ヒ でも つれない ヒ でも、 かえる とき には きっと いつでも もって きた エサ を ツチ と ヒトツ に こねまるめて タドン の よう に して、 そして あすこ を ねらって フタツ も ミッツ も ほうりこんで は かえる の だよ。 それ は ミズ の ナガレ の アゲサゲ に つれて、 その ツチ が とけ、 エサ が でる、 それ を サカナ が おぼえて、 そして シゼン に サカナ を そこ へ まわって こさせよう と いう ため なの だよ。 だから こういう こと を オマエ に しらせる の は ワタシ に とって トク な こと では ない けれども、 ワタシ が それ だけ の こと を あすこ に たいして して ある の だ から、 それ が わかったら ワタシ に そこ を ゆずって くれて も いい だろう。 オマエ の サオ では そこ に すわって いて も べつに カイ が ある もの でも ない し、 かえって 2 ケン ばかり ヒダリ へ よって、 それ そこ に ちいさい ウズ が できて いる あの ウズ の シタバ を つった ほう が トク が ありそう に おもう よ。 どう だね、 ニイサン、 ワタシ は オマエ を だます の でも しいる の でも ない の だよ。 たって オマエ が そこ を どかない と いう の なら、 それ も シカタ は ない がね、 そんな イジワル に しなくて も いい だろう、 ネ が アソビ だ から ね。
と いって きかせて いる うち に、 ショウネン の メ の ウチ は だんだん に ヘイワ に なって きた。 しかし スエ に いたって ジブン は あきらか に また あらた に シッパイ した。 ショウネン は キュウ に フキゲン に なった。
 オジサン が アソビ だ とって、 オレ が アソビ だ とは きまって や しない。
と カン に さわった らしく なげつける よう に いった。 なるほど これ は アクイ で いった の では なかった が、 オノレ を もって ヒト を りっする と いう もの で、 ジブン が アソビ でも ヒト も アソビ と きまって いる コトワリ は ない の で あった。 コウヘイ を うしなった ジョウカイ を もって いなかった ジブン は イッポン うちこまれた と ゼニン しない わけ には ゆかなかった。 が、 この フカンゼン な セツビ と フマンゾク な チシキ と を もって カワ に のぞんで いる ショウネン の フルマイ が アソビ で なくて そもそも ナン で あろう。 と おどろく と ドウジ に、 アソビ では ない と いって も アソビ にも なって おらぬ よう な こと を して いながら、 アソビ では ない よう に タカビシャ に でた ショウネン の その ムチ ムシリョ を ジセイ せぬ テン を ビンショウ せざる を えぬ ココロ が おこる と、 ほとんど また ドウジ に ひきつづいて この ショウネン を して かく の ごとき ゴ を トッサ に はっする に いたらしめた の は、 この ショウネン の するどい セイシツ から か、 あるいは また ある ジジョウ が ソンザイ して しからしむる もの あって か、 と おどろかされた。
 この キョウガク は ジブン を して トウメン の ツリバ の こと より は ジブン を ジブン の シンリ に おこった こと に ひきつけた から、 ジブン は ショウネン との オウシュウ を わすれて、 ショウネン への カンサツ を あえて する に いたった。
 まいった。 そりゃ そう だった。 なにも オマエ アソビ とは きまって いなかった が……
と、 ただ ムイシキ で ショウジキ な アイサツ を しながら、 ジブン は じっと ショウネン を みつめて いた。 その アイダ に ショウネン は ジブン が みつめられて いる の も なんにも キ が つかない の で あろう、 べつに なんら の ゲンゴ も ヒョウジョウ も なく、 ジブン の サオ を あげ、 ジブン の ザ を ワタシ に ゆずり、 そして おしえて やった バショ に たって、 その ハリ を おろした。
 や、 ありがとう。
と ジブン は アイサツ して、 ラングイ の ムコウ に ハリ を とうじ、 ジブン の サオ を ジブン の うった クギ に のせて、 しずか に サオサキ を ながめた。
 ショウネン も だまって いる。 ジブン も だまって いる。 ヒ の ヒカリ は セ に あつい が、 カワカゼ は ボウ の シタ に そよふく。 テイゴ の ジュカ に ないて いる の だろう、 アキゼミ の コエ が しおらしく きこえて きた。
 シオ は ようやく うごいて きた。 ウオ は まさに きたらん と する の で ある が いまだ こない。 カワムコウ の ロシュウ から バンガモ が たって ひくく とんだ。
 ショウネン は と みる と、 ソコリ と ことなって きた ミズ の チョウシ の ヘンカ に、 ササイ の イタオモリ と オレバシ の ウキ と では、 うまく アンテイ が とれない ので、 ときどき サオ を あげて は ハリ を うちかえして いる。 それ は ザ を かえた ため では ない の で ある が、 そう おもって いられる と おもう と フカイ で シカタ が ない。 で、 ジブン は コエ を かけた。
 ニイサン、 ここ は シオ の つっかけて くる ところ だ から ね、 ウキヅリ では うまく いかない よ。 オモリヅリ に おし よ。
 ウキヅリ では つれない かい。
 つれない とは かぎらない が、 もすこし シオ が きいて きたら エサ が ふらふら しすぎる し、 つりづらくて シカタ が ない だろう。
 イマ でも つりづらい よ。
 そう だろう。 オモリ を もって いない なら、 ここ へ おいで。 オモリ も あげよう し、 シカケ も なおして あげよう。
 オモリ を くれる?
 ああ。
 ジブン の キモチ も タンイ で、 けっして シンセツ で ない もの では なかった。 それ が ショウネン に カンチ された から で あろう、 ショウネン も ヘイワ で、 そして カンシャ に みちた やすらか な カオ を して、 サオ を あげて こちら へ やって きた。 はじめて この とき ショウネン の メンボウ フウサイ の ゼンプク を メ に して みる と、 サッキ から この ショウネン に たいして ジブン の いだいて いた カンソウ は まったく あやまって いて、 この ショウネン も また タ の おなじ くらい の ネンレイ の ジドウ と ドウヨウ に シンソツ で オンワ で ショウネン-らしい あいらしい ムジャキ な カンジョウ の ショユウシャ で あり、 そして その うえ に ソウメイサ の ある こと が カンジュ された。 その メ は きよらか に すみ、 その オモテ は あきらか に はれて いた。 ジブン は コブクロ から オモリ を だして あたえ、 かつ その シカケ を あらためて やろう と した。 ところが ショウネン は、
 いい よ、 ボク、 できる から。
と いって、 みずから シカケ を なおした。 ヒトトオリ の オモリヅリ の ソウチ の シカタ ぐらい は しって いる の で あった が、 オモリ の なかった ため に ウキヅリ を して いた の で あった こと が しられた。
 ショウネン の もちいて いた エサ は けだし ジブン で ほりとった らしい ミミズ で あった から、 いささか その フリ な こと が キノドク に かんじられた。 で、 ジブン の エサオケ を さししめして、
 この エサ を おつかい よ、 それ では サカナ の アタリ が とおい だろう から。
 ショウネン は エンリョ した ヨウス を ちょっと みせた が、 それでも エサ の こと も しって いた と みえて、 うれしそう な カオ に なって エサ を あらためた。 が、 わずか に 1 ピキ の ムシ を ハリ に つけた に すぎなかった から、
 もっと おつけ、 サカナ は エサ で つる の だ から ね。
 ショウネン は また 2 ヒキ ばかり つけたした。
 イマ まで どこ で つって いた の だい、 ここ は ウキヅリ なんぞ では うまく いかない バ だよ。
 イマ まで は オクド の イケ で つってた よ、 キノウ も オトトイ も。
 つれた かい。
 ああ、 フナ が 7~8 ヒキ。
 オクド と いう の は タイガン で、 なるほど そこ には ウキヅリ に てきす べき イケ が ある こと を ジブン も しって いた。 しかし イマジブン の フナ を つって も、 それ が ツリ と いう アソビ の ため で なくって なんの イミ を なそう。 サクラ の ハナ-ゴロ から キク の ハナ-スギ まで の アイダ の フナ は まったく シカタ の ない もの で ある。 ジブン には ガテン が ゆかなかった から、
 アソビ じゃ ない よう に さっき オイイ だった が、 イマ の フナ なんか なんにも なり は しない、 やっぱり アソビ じゃ ない か。
と いう と、 ショウネン は キュウ に かなしそう な カオ を して ケシキ を くもらせた が、
 でも ボク には フナ の ホカ の もの は つれそう に おもえなかった から ね。 オスモウサン の フネ に タダ で のせて もらって ユキカエリ して あすこ で つった の だよ。
 タダ で のせて もらって の イチゴ は グウゼン に その ジッサイ を かたった の だろう が、 ジブン の ミミ に たって きこえた。 オスモウサン と いう の は、 トウジ オクド の ワタシモリ を して いた スモウ アガリ の オトコ で あった の で ある。 ショウネン の ハナシ の ナカ には リメン に ナニ か そんして いる こと が メイハク に しられた。
 そう かい。 そして また キョウ は どうして ここ へ きた の だい。
 だって せっかく つって かえって も、 イマ オジサン の いった とおり に ね、 キノウ は、 こんな フナ なんか まずくて シヨウ が ない、 もすこし キ の きいた サカナ でも つって こい って しかられた の だ もの。
 ダレ に。
 オッカサン に。
 じゃ オッカサン に いいつけられて ツリ に でて いる の かい。
 ああ。 くだらなく あそんで いる より サカナ でも つって こい って ね。 ボク くだらなく あそんで いた ん じゃ ない、 ガッコウ の フクシュウ や シュクダイ なんか して いた ん だ けれど。
 ここ に いたって ガテン が できた。 ゆうぜん と して ドウジョウシン が マノアタリ の カワ の シオ の よう に つっかけて きた。
 むむう。 ホント の オッカサン じゃ ない ね。
 ショウネン は びっくり して メ を みはって ジブン の カオ を みた。 が、 キュウ に ムゴン に なって、 ぽっくり ちょっと カシラ を さげて ありがとう と いう イ を ひょうした まま、 サオ を もって マエ の イチ に かえった。 その とき あたかも ジブン の ハリ に ウオ が あたった。 カタ の よい セイゴ が あがって きた。
 ショウネン は うらやましそう に ヨ の ほう を みた。
 つづいて また 2 ヒキ、 おなじ よう なの が ハリ に きた。 ショウネン は あせる よう な キンチョウ した カオ に なって、 うらやましげ に、 また すこし は ジブン の ハリ に なにも こぬ の を かなしむ よう な ココロ を おおいきれず に ジブン の ほう を みた。
 しばらく カレ も ワレ も しんに なって サオサキ を みまもった が、 ウオ の アタリ は ちょっと とだえた。
 ふと ショウネン の ほう を みる と、 ショウネン は まじまじ と ヨ の ほう を みて いた。 ナニ か いいたい よう な ふう で あった が、 ダンワ の チョ を えない と いう の らしい、 ただ オンワ な したしみよりたい と いう が ごとき ビショウ を かすか に たたえて ヨ と あいみた。 と ドウジ に ヨ は ショウネン の サオサキ に ウオ の きたった の を みとめた。
 それ、 オマエ の サオ に ナニ か きた よ。
 ケイコク する と、 ショウネン は あわてて むきなおった が はやい か ビンショウ に うまい シオ に サオ を あげた。 かなり おもい ウオ で あった が、 ひきあげる と それ は おおきな フナ で あった。 ちいさい フゴ に それ を いれて、 カワヤナギ の ほそい エダ を おりとって はねださぬ よう に おさえおおった ショウネン は、 その テ を オグサ で ふきながら ヨ の ほう を みて、
 オジサン、 また エサ を くれる?
と いかにも ほしそう に いった。
 ああ、 あげる。
 ショウネン は サオ を テ に して ヨ の カタエ へ きた。
 いい フナ だった ね。
 よくって も フナ だ から。 せっかく ここ へ きた ん だ けれども ねえ。
と シツボウ した クチブリ には、 よくよく フナ を えたく ない ココロ で ムネ が いっぱい に なって いる の を あらわして いた。
 どうも オマエ の サオ では、 ワンド の ウチガワ しか つれない の だ から。
と なぐさめて やった。 ワンド とは ミズ の ワンキョク した ハンエンケイ を いう の だ。 が、 かえって それ は ショウネン に ナグサメ には ならず に ケッテイテキ に シツボウ を あたえた こと に なった の を きづいた トタン に、 ヨ の サオサキ は つよく うごいた。 ジブン は もう ショウネン には かまって いられなく なった。 サオ を テ に して、 イッシン に ウオ の シメコミ を うかがった。 ウオ は カタ の ごとく に やがて くいしめた。 こっち は あわせた。 ムコウ は テイコウ した。 サオ は ツキ の ごとく に なった。 イト は ハリガネ の ごとく に なった。 スイメン に サザナミ は たった。 ついで また ミズ の アヤ が みだれた。 しかし ついに ウオ は くるいつかれた。 その しろい ヒラ を みせる ダン に なって とうとう こっち へ ひきよせられた。 その とき ヨ の シリエ に あって タマ を いつか テ に して いた ショウネン は キビン に つと その ウオ を すくった。
 ウオ は いう ほど も ない フクコ で あった が、 アキクダリ の こと で ある し、 ソダチ の よい の で あった から、 フタリ の ゼン に のぼす に じゅうぶん たりる もの で あった。 ショウネン は イマ は もう ウラヤミ の イロ より も、 ただ ショウネン-らしい ムジャキ の キショク に あふれて、 ホオ を そめ メ を かがやかして、 いかにも オトコ の コ-らしい ウツクシサ を あらわして いた。
 それから つづいて ジブン は 2 ヒキ の セイゴ を えた が、 ショウネン は ついに ナニ をも えなかった。
 トキ は たった。 ヒ は ツツミ の カゲ に おちた。 ジブン は カエリジタク に かかって、 シカケ を おさめ、 サオ を おさめはじめた。
 ショウネン は それ を みる と、
 オジサン もう かえる の?
と ヨ に ちからない コエ を かけた が、 その カオ は くらかった。
 ああ、 もう かえる よ。 まだ つれる かも しれない が、 そんな に よくばって も シカタ は ない し、 シオ も いい ところ を すぎた から ね。
と ジブン は こたえた が、 まだ あまって いる エサ を、 イツモ なら ツチ に あえて なげこむ の だ けれど、 キョウ は この コ に のこそう か と おもって、
 エサ が あまって いる が、 あげよう か。
と いった。 ショウネン は だまって たって こちら へ きた。 しかし カレ は エサ を もる べき ナニモノ をも もって いなかった。 カレ は フル-シンブンシ の イッペン に ジブン の エサ を くるんで きた の で あった から。 さしあたって カレ も ショウネン-らしい トウワク の イロ を うかめた が、 ヨ にも よい シアン は なかった。 イトメ は ミズ を たもつ に たる もの の ナカ に いれて おかねば おもしろく ない の で ある。
 やっぱり オジサン が さっき はなした よう に した ほう が いい。 アシタ また オジサン に あったら、 オジサン その とき に すこし おくれ。
と いって のこりおしそう に エサ を みた カレ の すなお な、 そして かしこい タイド と フンベツ は、 すくなからず ヨ を カンドウ させた。 よしんば エサイレ が なくて エサ を たもてぬ に して も、 さしあたり つかう だけ つかって、 そこら に すてて しまいそう な もの で ある。 それ が ショウネン-らしい トウゼン な タイド で ありそう な もの で あらねば ならぬ の で ある。
 オマエ も キョウ は もう かえる の かい。
 ああ、 ユウガタ の いろんな ヨウ を しなくて は いけない もの。
 ユウガタ の カジ ザツエキ を する と いう こと は、 サッキ の アソビ に ツリ を する の で ない と いう コトバ に ハンエイ しあって、 ジブン の ココロ を うごかさせた。
 ホント の オッカサン で ない の だね。 アス の コメ を といだり、 バン の ソウジ を したり する の だね。
 カレ は また だまった。
 キョウ も フナ を 1 ピキ ばかり もって かえったら しかられ や しない かね。
 カレ は あんぜん と した カオ に なった が、 やはり だまって いた。 その だまって いる ところ が かえって ジブン の ムネ の ウチ に つよい ショウドウ を あたえた。
 オトッサン は いる の かい。
 うん、 いる よ。
 ナニ を して いる の だい。
 マイニチ カメアリ の ほう へ かよって シゴト して いる。
 ドコウ か あるいは それ に るいした こと を して いる もの と ソウゾウ された。
 オマエ の オッカサン は なくなった の だね。
 ここ に いたって わが テ は カレ の ツウショ に ふれた の で ある。 なお だまって は いた が、 こっくり と テントウ して ゼニン した カレ の メ の ウチ には ツユ が うるんで、 おりから マッカ に ユウヤケ した ソラ の ヒカリ が はなばなしく あかるく おちて、 その うすぎたない ホオカムリ の テヌグイ、 その シタ から すこし もれて いる ヒタイ の ボウボウバエ の カミサキ、 あかじみた あかい カオ、 それら の スベテ を ムザン に バクロ した。
 オッカサン は いつ なくなった の だい。
 キョネン。
と いった とき には、 その あかい ホオ に ナミダ の タマ が イナバ を すべる ツユ の よう に ぽろり と コンテン し くだって いた。
 イマ の オッカサン は オマエ を いじめる の だな。
 なーに、 オレ が バカ なん だ。
 みた わけ では ない が ジョウタイ は スイサツ できる。 それだのに、 なーに、 オレ が バカ なん だ、 と いう この イチゴ で もって ジブン の トイ に こたえた この コ の キ の ウゴキカタ と いう もの は、 なんと いう ウツクシサ で あろう、 ワレ はずかしい こと だ と、 がくぜん と して ジブン は おおいに おどろいて、 ダイテッツイ で うたれた よう な キ が した。 ツリ の ザ を ゆずれ と いって、 ジブン が その ワケ を はなした とき に、 その ワケ が すらり と のみこめて、 すなお に ザ を ゆずって くれた の も、 こういう コ で あったれば こそ と サッキ の こと を ハンコ せざる を えなく も なり、 また イマ ノコリエ を カワ に なげる ほう が いい と いった この コ の ゴ も おもいあわされて、 デンヤ の カン にも こういう セイシツ の ビ を もって うまれる モノ も ある もの か と おもう と、 ムゲン の カン が ヨウキ せず には おられなかった。
 ジブン は もう フカイリ して この コ の イエ の ジジョウ を とう こと を さしひかえる の を シトウ の レイギ の よう に おもった。
 では ニイサン、 この ノコリエ を ツチ で まるめて おくれ で ない か、 なるべく かたく まるめる の だよ、 そうして おくれ。 そうして おくれ なら、 ワタシ が つった サカナ を すっかり でも いくらでも オマエ の よい だけ オマエ に あげる。 そして オマエ が オッカサン に キゲン を わるく されない よう に。 そう したら ワタシ は たいへん うれしい の だ から。
 ジブン は ジブン の おもう よう に する こと が できた。 ショウネン は エサ の ツチダンゴ を こしらえて くれた。 ジブン は それ を なげた。 ショウネン は ジブン の つった ウオ の ナカ から セイゴ 2 ヒキ を とって、 ジブン に たいして コトバ は すくない が カンシャ の イ は ふかく しゃした。
 フタリ とも ドテ へ あがった。 ショウネン は ドテ を カワカミ の ほう へ、 ジブン は ドテ の ニシ の ほう へ と おりる わけ だ。 ワカレ の コトバ が かわされた とき には、 ヒ は すでに おさまって、 ユウカゼ が タモト すずしく ふいて きた。 ショウネン は カワカミ へ テイジョウ を たどって いった。 ボショク は ようやく せまった。 カタ に した サオ、 テ に した フゴ、 ツツソデ の スソミジカ な ホオカムリ スガタ の ちいさな カゲ は、 ながい ドテ の オグサ の ミチ の あなた に だんだん と ちいさく なって ゆく くくぜん たる その サマ。 ジブン は しばらく たって みおくって いる と、 カレ も また ふと ふりかえって こちら を みた。 ジブン を みて、 ちょっと カシラ を ひくく して アイサツ した が、 その ビモク は すでに ブンミョウ には みえなかった。 ゴイサギ が ぎゃあ と ユウゾラ を ないて すぎた。
 その ヨクジツ も ヨクヨクジツ も ジブン は おなじ ニシブクロ へ でかけた。 しかし どうした こと か その ショウネン に ふたたび あう こと は なかった。
 ニシブクロ の ツリ は その トシ ぎり で やめた。 が、 イマ でも ときどき その ヒ その バ の ジョウケイ を おもいだす。 そして ゲン-シャカイ の どこ か に その ショウネン が すでに リッパ な、 シャカイ に たいして の リカイ ある シンシ と なって ソンザイ して いる よう に おもえて ならぬ の で ある。

ある オンナ (ゼンペン)

 ある オンナ  (ゼンペン)  アリシマ タケオ  1  シンバシ を わたる とき、 ハッシャ を しらせる 2 バンメ の ベル が、 キリ と まで は いえない 9 ガツ の アサ の、 けむった クウキ に つつまれて きこえて きた。 ヨウコ は ヘイキ で それ ...