2014/09/24

テブクロ を かい に

 テブクロ を かい に

 ニイミ ナンキチ

 さむい フユ が ホッポウ から、 キツネ の オヤコ の すんで いる モリ へも やって きました。
 ある アサ ホラアナ から コドモ の キツネ が でよう と しました が、
「あっ」 と さけんで メ を おさえながら カアサン-ギツネ の ところ へ ころげて きました。
「カアチャン、 メ に ナニ か ささった、 ぬいて ちょうだい はやく はやく」 と いいました。
 カアサン-ギツネ が びっくり して、 あわてふためきながら、 メ を おさえて いる コドモ の テ を おそるおそる とりのけて みました が、 なにも ささって は いません でした。 カアサン-ギツネ は ホラアナ の イリグチ から ソト へ でて はじめて ワケ が わかりました。 サクヤ の うち に、 マッシロ な ユキ が どっさり ふった の です。 その ユキ の ウエ から オヒサマ が きらきら と てらして いた ので、 ユキ は まぶしい ほど ハンシャ して いた の です。 ユキ を しらなかった コドモ の キツネ は、 あまり つよい ハンシャ を うけた ので、 メ に ナニ か ささった と おもった の でした。
 コドモ の キツネ は あそび に いきました。 マワタ の よう に やわらかい ユキ の ウエ を かけまわる と、 ユキ の コ が、 シブキ の よう に とびちって ちいさい ニジ が すっと うつる の でした。
 すると とつぜん、 ウシロ で、
「どたどた、 ざーっ」 と ものすごい オト が して、 パンコ の よう な コナユキ が、 ふわーっと コギツネ に おっかぶさって きました。 コギツネ は びっくり して、 ユキ の ナカ に ころがる よう に して 10 メートル も ムコウ へ にげました。 ナン だろう と おもって ふりかえって みました が なにも いません でした。 それ は モミ の エダ から ユキ が なだれおちた の でした。 まだ エダ と エダ の アイダ から しろい キヌイト の よう に ユキ が こぼれて いました。
 まもなく ホラアナ へ かえって きた コギツネ は、
「オカアチャン、 オテテ が つめたい、 オテテ が ちんちん する」 と いって、 ぬれて ボタンイロ に なった リョウテ を カアサン-ギツネ の マエ に さしだしました。 カアサン-ギツネ は、 その テ に、 は――っと イキ を ふっかけて、 ぬくとい カアサン の テ で やんわり つつんで やりながら、
「もう すぐ あたたかく なる よ、 ユキ を さわる と、 すぐ あたたかく なる もん だよ」 と いいました が、 かあいい ボウヤ の テ に シモヤケ が できて は かわいそう だ から、 ヨル に なったら、 マチ まで いって、 ボウヤ の オテテ に あう よう な ケイト の テブクロ を かって やろう と おもいました。
 くらい くらい ヨル が フロシキ の よう な カゲ を ひろげて ノハラ や モリ を つつみ に やって きました が、 ユキ は あまり しろい ので、 つつんで も つつんで も しろく うかびあがって いました。
 オヤコ の ギンギツネ は ホラアナ から でました。 コドモ の ほう は オカアサン の オナカ の シタ へ はいりこんで、 そこ から マンマル な メ を ぱちぱち させながら、 あっち や こっち を みながら あるいて いきました。
 やがて、 ユクテ に ぽっつり アカリ が ヒトツ みえはじめました。 それ を コドモ の キツネ が みつけて、
「カアチャン、 オホシサマ は、 あんな ひくい ところ にも おちてる のねえ」 と ききました。
「あれ は オホシサマ じゃ ない のよ」 と いって、 その とき カアサン-ギツネ の アシ は すくんで しまいました。
「あれ は マチ の ヒ なん だよ」
 その マチ の ヒ を みた とき、 カアサン-ギツネ は、 ある とき マチ へ オトモダチ と でかけて いって、 とんだ メ に あった こと を おもいだしました。 およしなさい って いう の も きかない で、 オトモダチ の キツネ が、 ある イエ の アヒル を ぬすもう と した ので、 オヒャクショウ に みつかって、 さんざ おいまくられて、 いのちからがら にげた こと でした。
「カアチャン ナニ してん の、 はやく いこう よ」 と コドモ の キツネ が オナカ の シタ から いう の でした が、 カアサン-ギツネ は どうしても アシ が すすまない の でした。 そこで、 シカタ が ない ので、 ボウヤ だけ を ヒトリ で マチ まで いかせる こと に なりました。
「ボウヤ オテテ を カタホウ おだし」 と オカアサン-ギツネ が いいました。 その テ を、 カアサン-ギツネ は しばらく にぎって いる アイダ に、 かわいい ニンゲン の コドモ の テ に して しまいました。 ボウヤ の キツネ は その テ を ひろげたり にぎったり、 つねって みたり、 かいで みたり しました。
「なんだか ヘン だな カアチャン、 これ ナアニ?」 と いって、 ユキアカリ に、 また その、 ニンゲン の テ に かえられて しまった ジブン の テ を しげしげ と みつめました。
「それ は ニンゲン の テ よ。 いい かい ボウヤ、 マチ へ いったら ね、 たくさん ニンゲン の イエ が ある から ね、 まず オモテ に まるい シャッポ の カンバン の かかって いる イエ を さがす ん だよ。 それ が みつかったら ね、 とんとん と ト を たたいて、 こんばんわ って いう ん だよ。 そう する と ね、 ナカ から ニンゲン が、 すこうし ト を あける から ね、 その ト の スキマ から、 こっち の テ、 ほら この ニンゲン の テ を さしいれて ね、 この テ に ちょうど いい テブクロ ちょうだい って いう ん だよ、 わかった ね、 けっして、 こっち の オテテ を だしちゃ ダメ よ」 と カアサン-ギツネ は いいきかせました。
「どうして?」 と ボウヤ の キツネ は ききかえしました。
「ニンゲン は ね、 アイテ が キツネ だ と わかる と、 テブクロ を うって くれない ん だよ、 それ どころ か、 つかまえて オリ の ナカ へ いれちゃう ん だよ、 ニンゲン って ホント に こわい もの なん だよ」
「ふーん」
「けっして、 こっち の テ を だしちゃ いけない よ、 こっち の ほう、 ほら ニンゲン の テ の ほう を さしだす ん だよ」 と いって、 カアサン の キツネ は、 もって きた フタツ の ハクドウカ を、 ニンゲン の テ の ほう へ にぎらせて やりました。
 コドモ の キツネ は、 マチ の ヒ を メアテ に、 ユキアカリ の ノハラ を よちよち やって いきました。 ハジメ の うち は ヒトツ きり だった ヒ が フタツ に なり ミッツ に なり、 ハテ は トオ にも ふえました。 キツネ の コドモ は それ を みて、 ヒ には、 ホシ と おなじ よう に、 あかい の や きい の や あおい の が ある ん だな と おもいました。 やがて マチ に はいりました が トオリ の イエイエ は もう みんな ト を しめて しまって、 たかい マド から あたたかそう な ヒカリ が、 ミチ の ユキ の ウエ に おちて いる ばかり でした。
 けれど オモテ の カンバン の ウエ には たいてい ちいさな デントウ が ともって いました ので、 キツネ の コ は、 それ を みながら、 ボウシヤ を さがして いきました。 ジテンシャ の カンバン や、 メガネ の カンバン や その ホカ いろんな カンバン が、 ある もの は、 あたらしい ペンキ で かかれ、 ある もの は、 ふるい カベ の よう に はげて いました が、 マチ に はじめて でて きた コギツネ には それら の もの が いったい ナン で ある か わからない の でした。
 とうとう ボウシヤ が みつかりました。 オカアサン が みちみち よく おしえて くれた、 くろい おおきな シルク ハット の ボウシ の カンバン が、 あおい デントウ に てらされて かかって いました。
 コギツネ は おしえられた とおり、 とんとん と ト を たたきました。
「こんばんわ」
 すると、 ナカ では ナニ か ことこと オト が して いました が やがて、 ト が 1 スン ほど ごろり と あいて、 ヒカリ の オビ が ミチ の しろい ユキ の ウエ に ながく のびました。
 コギツネ は その ヒカリ が まばゆかった ので、 めんくらって、 まちがった ほう の テ を、 ――オカアサマ が だしちゃ いけない と いって よく きかせた ほう の テ を スキマ から さしこんで しまいました。
「この オテテ に ちょうど いい テブクロ ください」
 すると ボウシヤ さん は、 おやおや と おもいました。 キツネ の テ です。 キツネ の テ が テブクロ を くれ と いう の です。 これ は きっと コノハ で かい に きた ん だな と おもいました。 そこで、
「サキ に オカネ を ください」 と いいました。 コギツネ は すなお に、 にぎって きた ハクドウカ を フタツ ボウシヤ さん に わたしました。 ボウシヤ さん は それ を ヒトサシユビ の サキ に のっけて、 かちあわせて みる と、 ちんちん と よい オト が しました ので、 これ は コノハ じゃ ない、 ホント の オカネ だ と おもいました ので、 タナ から コドモヨウ の ケイト の テブクロ を とりだして きて コギツネ の テ に もたせて やりました。 コギツネ は、 オレイ を いって また、 もと きた ミチ を かえりはじめました。
「オカアサン は、 ニンゲン は おそろしい もの だ って おっしゃった が ちっとも おそろしく ない や。 だって ボク の テ を みて も どうも しなかった もの」 と おもいました。 けれど コギツネ は いったい ニンゲン なんて どんな もの か みたい と おもいました。
 ある マド の シタ を とおりかかる と、 ニンゲン の コエ が して いました。 なんと いう やさしい、 なんと いう うつくしい、 なんと いう おっとり した コエ なん でしょう。
 「ねむれ、 ねむれ
  ハハ の ムネ に、
  ねむれ、 ねむれ
  ハハ の テ に――」
 コギツネ は その ウタゴエ は、 きっと ニンゲン の オカアサン の コエ に ちがいない と おもいました。 だって、 コギツネ が ねむる とき にも、 やっぱり カアサン-ギツネ は、 あんな やさしい コエ で ゆすぶって くれる から です。
 すると コンド は、 コドモ の コエ が しました。
「カアチャン、 こんな さむい ヨル は、 モリ の コギツネ は さむい さむい って ないてる でしょう ね」
 すると カアサン の コエ が、
「モリ の コギツネ も オカアサン-ギツネ の オウタ を きいて、 ホラアナ の ナカ で ねむろう と して いる でしょう ね。 さあ ボウヤ も はやく ネンネ しなさい。 モリ の コギツネ と ボウヤ と どっち が はやく ネンネ する か、 きっと ボウヤ の ほう が はやく ネンネ します よ」
 それ を きく と コギツネ は キュウ に オカアサン が こいしく なって、 オカアサン-ギツネ の まって いる ほう へ とんで いきました。
 オカアサン-ギツネ は、 シンパイ しながら、 ボウヤ の キツネ の かえって くる の を、 イマ か イマ か と ふるえながら まって いました ので、 ボウヤ が くる と、 あたたかい ムネ に だきしめて なきたい ほど よろこびました。
 2 ヒキ の キツネ は モリ の ほう へ かえって いきました。 ツキ が でた ので、 キツネ の ケナミ が ギンイロ に ひかり、 その アシアト には、 コバルト の カゲ が たまりました。
「カアチャン、 ニンゲン って ちっとも こわか ない や」
「どうして?」
「ボウ、 まちがえて ホントウ の オテテ だしちゃった の。 でも ボウシヤ さん、 つかまえ や しなかった もの。 ちゃんと こんな いい あたたかい テブクロ くれた もの」
と いって テブクロ の はまった リョウテ を ぱんぱん やって みせました。 オカアサン-ギツネ は、
「まあ!」 と あきれました が、 「ホントウ に ニンゲン は いい もの かしら。 ホントウ に ニンゲン は いい もの かしら」 と つぶやきました。

ある オンナ (ゼンペン)

 ある オンナ  (ゼンペン)  アリシマ タケオ  1  シンバシ を わたる とき、 ハッシャ を しらせる 2 バンメ の ベル が、 キリ と まで は いえない 9 ガツ の アサ の、 けむった クウキ に つつまれて きこえて きた。 ヨウコ は ヘイキ で それ ...