2015/06/11

カイン の マツエイ

 カイン の マツエイ

 アリシマ タケオ

 1

 ながい カゲ を チ に ひいて、 ヤセウマ の タヅナ を とりながら、 カレ は だまりこくって あるいた。 おおきな きたない フロシキヅツミ と イッショ に、 タコ の よう に アタマ ばかり おおきい アカンボウ を おぶった カレ の ツマ は、 すこし チンバ を ひきながら 3~4 ケン も はなれて その アト から とぼとぼ と ついて いった。
 ホッカイドウ の フユ は ソラ まで せまって いた。 エゾ フジ と いわれる マッカリ ヌプリ の フモト に つづく イブリ の ダイソウゲン を、 ニホンカイ から ウチウラ ワン に ふきぬける ニシカゼ が、 うちよせる ウネリ の よう に アト から アト から ふきはらって いった。 さむい カゼ だ。 みあげる と 8 ゴウメ まで ユキ に なった マッカリ ヌプリ は すこし アタマ を マエ に こごめて カゼ に はむかいながら だまった まま つったって いた。 コンブダケ の シャメン に ちいさく あつまった クモ の カタマリ を めがけて ヒ は しずみかかって いた。 ソウゲン の ウエ には 1 ポン の ジュモク も はえて いなかった。 こころぼそい ほど マッスグ な ヒトスジミチ を、 カレ と カレ の ツマ だけ が、 よろよろ と あるく 2 ホン の タチキ の よう に うごいて いった。
 フタリ は コトバ を わすれた ヒト の よう に いつまでも だまって あるいた。 ウマ が イバリ を する とき だけ カレ は ふしょうぶしょう に たちどまった。 ツマ は その ヒマ に ようやく おいついて セナカ の ニ を ゆすりあげながら タメイキ を ついた。 ウマ が イバリ を すます と フタリ は また だまって あるきだした。
「ここら オヤジ (クマ の こと) が でる ずら」
 4 リ に わたる この ソウゲン の ウエ で、 たった イチド ツマ は これ だけ の こと を いった。 なれた モノ には ジコク と いい、 トコロガラ と いい クマ の シュウライ を おそれる リユウ が あった。 カレ は いまいましそう に クサ の ナカ に ツバ を はきすてた。
 ソウゲン の ナカ の ミチ が だんだん ふとく なって コクドウ に つづく ところ まで きた コロ には ヒ は くれて しまって いた。 モノ の リンカク が マルミ を おびず に、 かたい まま で くろずんで ゆく こちん と した さむい バンシュウ の ヨル が きた。
 キモノ は うすかった。 そして フタリ は うえきって いた。 ツマ は キ に して ときどき アカンボウ を みた。 いきて いる の か しんで いる の か、 とにかく アカンボウ は イビキ も たてない で クビ を ミギ の カタ に がくり と たれた まま だまって いた。
 コクドウ の ウエ には さすが に ヒトカゲ が ヒトリ フタリ うごいて いた。 タイテイ は シガイチ に でて イッパイ のんで いた の らしく、 ユキチガイ に したたか サケ の カ を おくって よこす モノ も あった。 カレ は サケ の カ を かぐ と キュウ に えぐられる よう な カワキ と ショクヨク と を おぼえて、 すれちがった オトコ を みおくったり した が、 イマイマシサ に はきすてよう と する ツバ は もう でて こなかった。 ノリ の よう に ねばった もの が クチビル の アワセメ を とじつけて いた。
 ナイチ ならば コウシンヅカ か イシジゾウ でも ある はず の ところ に、 マックロ に なった 1 ジョウ も ありそう な ヒョウジグイ が ナナメ に なって たって いた。 そこ まで くる と ヒザカナ を やく ニオイ が かすか に カレ の ハナ を うった と おもった。 カレ は はじめて たちどまった。 ヤセウマ も あるいた シセイ を ソノママ に のそり と うごかなく なった。 タテガミ と シリッポ だけ が カゼ に したがって なびいた。
「なんて いう だ ノウジョウ は」
 セタケ の ずぬけて たかい カレ は ツマ を みおろす よう に して こう つぶやいた。
「マツカワ ノウジョウ たら いう だ が」
「たら いう だ? コケ」
 カレ は ツマ と コトバ を かわした の が シャク に さわった。 そして ウマ の ハナ を ぐんと タヅナ で しごいて また あるきだした。 くらく なった タニ を へだてて すこし こっち より も たかい くらい の ヘイチ に、 わすれた よう に アイダ を おいて ともされた シガイチ の かすか な ホカゲ は、 ヒトケ の ない ところ より も かえって シゼン を さびしく みせた。 カレ は その ヒ を みる と もう イッシュ の オビエ を おぼえた。 ヒト の ケハイ を かぎつける と カレ は なんとか ミヅクロイ を しない では いられなかった。 シゼンサ が その シュンカン に うしなわれた。 それ を イシキ する こと が カレ を いやがうえにも ブッチョウヅラ に した。 「カタキ が メノマエ に きた ぞ。 バカ な ツラ を して いやがって、 シリコダマ でも ひっこぬかれるな」 と でも いいそう な カオ を ツマ の ほう に むけて おいて、 あるきながら オビ を しめなおした。 オット の カオツキ には キ も つかない ほど メ を おとした ツマ は クチ を だらり と あけた まま いっさい ムトンジャク で ただ ウマ の アト に ついて あるいた。
 K シガイチ の マチハズレ には アキヤ が 4 ケン まで ならんで いた。 ちいさな マド は ドクロ の それ の よう な マックラ な メ を オウライ に むけて あいて いた。 5 ケン-メ には ヒト が すんで いた が うごめく ヒトカゲ の アイダ に イロリ の ネソダ が ちょろちょろ と もえる の が みえる だけ だった。 6 ケン-メ には テイテツヤ が あった。 あやしげ な エントウ から は カゼ に こきおろされた ケムリ の ナカ に まじって ヒバナ が とびちって いた。 ミセ は ヨウロ の ヒグチ を ひらいた よう に あかるくて、 ばかばかしく だだっびろい ホッカイドウ の 7 ケン ドウロ が ムコウガワ まで はっきり と てらされて いた。 カタガワマチ では ある けれども、 とにかく ヤナミ が ある だけ に、 しいて ムキ を かえさせられた カゼ の アシ が イシュ に スナ を まきあげた。 スナ は テイテツヤ の マエ の ヒ の ヒカリ に てりかえされて もうもう と うずまく スガタ を みせた。 シゴトバ の フイゴ の マワリ には 3 ニン の オトコ が はたらいて いた。 カナシキ に あたる カナヅチ の オト が たかく ひびく と つかれはてた カレ の ウマ さえ が ミミ を たてなおした。 カレ は この ミセサキ に ジブン の ウマ を ひっぱって くる とき の こと を おもった。 ツマ は すいとられる よう に あたたかそう な ヒ の イロ に みとれて いた。 フタリ は ミョウ に わくわく した ココロモチ に なった。
 テイテツヤ の サキ は キュウ に ヤミ が こまかく なって タイテイ の イエ は もう トジマリ を して いた。 アラモノヤ を かねた イザカヤ らしい 1 ケン から クイモノ の ニオイ と ダンジョ の ふざけかえった ダミゴエ が もれる ホカ には、 マッスグ な ヤナミ は ハイソン の よう に サムサ の マエ に ちぢこまって、 デンシンバシラ だけ が、 けうとい ウナリ を たてて いた。 カレ と ウマ と ツマ とは マエ の とおり に おしだまって あるいた。 あるいて は ときおり おもいだした よう に たちどまった。 たちどまって は また ムイミ-らしく あるきだした。
 4~5 チョウ あるいた と おもう と カレラ は もう マチハズレ に きて しまって いた。 ミチ が へしおられた よう に まがって、 その サキ は、 マックラ な クボチ に、 キュウ な コウバイ を とって くだって いた。 カレラ は その トッカク まで いって また たちどまった。 はるか シタ の ほう から は、 うざうざ する ほど しげりあった カツヨウジュリン に カゼ の はいる オト の ホカ に、 シリベシ-ガワ の かすか な ミズ の オト だけ が きこえて いた。
「きいて みずに」
 ツマ は サムサ に ミ を ふるわしながら こう うめいた。
「ワレ きいて み べし」
 いきなり そこ に しゃごんで しまった カレ の コエ は チ の ナカ から でも でて きた よう だった。 ツマ は ニ を ゆりあげて ハナ を すすりすすり とって かえした。 1 ケン の イエ の ト を たたいて、 ようやく マツカワ ノウジョウ の アリカ を おしえて もらった とき は、 カレ の スガタ を みわけかねる ほど トオク に きて いた。 おおきな コエ を だす こと が なんとなく おそろしかった。 おそろしい ばかり では ない、 コエ を だす チカラ さえ なかった。 そして チンバ を ひきひき また かえって きた。
 カレラ は ねむく なる ほど つかれはてながら また 3 チョウ ほど あるかねば ならなかった。 そこ に シタミガコイ、 イタブキ の マシカク な 2 カイ-ダテ が ホカ の ヤナミ を あっして たって いた。
 ツマ が だまった まま たちどまった ので、 カレ は それ が マツカワ ノウジョウ の ジムショ で ある こと を しった。 ホントウ を いう と カレ は ハジメ から この タテモノ が それ に ちがいない と おもって いた が、 はいる の が いや な ばかり に しらん フリ を して とおりぬけて しまった の だ。 もう シンタイ きわまった。 カレ は ミチ の ムコウガワ の タチキ の ミキ に ウマ を つないで、 カラスムギ と ザッソウ と を きりこんだ アマブクロ を クラワ から ほどいて ウマ の クチ に あてがった。 ぼりり ぼりり と いう ハギレ の いい オト が すぐ きこえだした。 カレ と ツマ とは また ミチ を よこぎって、 ジムショ の イリグチ の ところ まで きた。 そこ で フタリ は フアン-らしく カオ を みあわせた。 ツマ が ぎごちなそう に テ を あげて カミ を いじって いる アイダ に カレ は おもいきって ハンブン ガラス に なって いる ヒキド を あけた。 カッシャ が けたたましい オト を たてて テツ の ミゾ を すべった。 がたぴし する ト ばかり を あつかいなれて いる カレ の テ の チカラ が あまった の だ。 ツマ が ぎょっと する ハズミ に セナカ の アカンボウ も メ を さまして なきだした。 チョウバ に いた フタリ の オトコ は とびあがらん ばかり に おどろいて こちら を みた。 そこ には カレ と ツマ と が なく アカンボウ の シマツ も せず に のそり と つったって いた。
「ナン だ テメエタチ は、 ト を アケッパナシ に しくさって カゼ が ふきこむ で ねえ か。 はいる の なら はやく はいって こう」
 コン の アツシ を セル の マエダレ で あわせて、 カシ の カクヒバチ の ヨコザ に すわった オトコ が マユ を しかめながら こう どなった。 ニンゲン の カオ―― ことに どこ か ジブン より ウワテ な ニンゲン の カオ を みる と カレ の ココロ は すぐ ふてくされる の だった。 ヤイバ に はむかう ケモノ の よう に ステバチ に なって カレ は のさのさ と ずぬけて おおきな ゴタイ を ドマ に はこんで いった。 ツマ は おずおず と ト を しめて コガイ に たって いた、 アカンボウ の なく の も わすれはてる ほど に キ を テントウ させて。
 コエ を かけた の は 30 ゼンゴ の、 メ の するどい、 クチヒゲ の フニアイ な、 ナガガオ の オトコ だった。 ノウミン の アイダ で ナガガオ の オトコ を みる の は、 ブタ の ナカ で ウマ の カオ を みる よう な もの だった。 カレ の ココロ は キンチョウ しながら も その オトコ の カオ を めずらしげ に みいらない わけ には ゆかなかった。 カレ は ジギ ヒトツ しなかった。
 アカンボウ が くびりころされそう に ト の ソト で なきたてた。 カレ は それ にも キ を とられて いた。
 アガリガマチ に コシ を かけて いた もう ヒトリ の オトコ は やや しばらく カレ の カオ を みつめて いた が、 ナニワブシ カタリ の よう な ミョウ に ハリ の ある コエ で とつぜん クチ を きった。
「オヌシ は カワモリ さん の ユカリ の モノ じゃ ない ん かの。 どうやら カオ が にとる じゃ が」
 コンド は カレ の ヘンジ も またず に ナガガオ の オトコ の ほう を むいて、
「チョウバ さん にも カワモリ から はないた はず じゃ がの。 ヌシ が の チスジ を イワタ が アト に いれて もらいたい いうて な」
 また カレ の ほう を むいて、
「そう じゃろ がの」
 それ に ちがいなかった。 しかし カレ は その オトコ を みる と ムシズ が はしった。 それ も ヒャクショウ に めずらしい ながい カオ の オトコ で、 はげあがった ヒタイ から ヒダリ の ハンメン に かけて ヤケド の アト が てらてら と ひかり、 シタマブタ が あかく ベッカンコ を して いた。 そして クチビル が カミ の よう に うすかった。
 チョウバ と よばれた オトコ は その こと なら のみこめた と いう ふう に、 ときどき ウワメ で にらみにらみ、 イロイロ な こと を カレ に ききただした。 そして チョウバヅクエ の ナカ から、 ミノガミ に こまごま と カツジ を すった ショルイ を だして、 それ に ヒロオカ ニンエモン と いう カレ の ナ と ウマレコキョウ と を キニュウ して、 よく よんで から ハン を おせ と いって 2 ツウ つきだした。 ニンエモン (これから カレ と いう カワリ に ニンエモン と よぼう) は もとより アキメクラ だった が、 ノウジョウ でも ギョバ でも コウザン でも メシ を くう ため には そういう カミ の ハシ に メクラバン を おさなければ ならない と いう こと は こころえて いた。 カレ は ハラガケ の ドンブリ の ナカ を さぐりまわして ぼろぼろ の カミ の カタマリ を つかみだした。 そして タケノコ の カワ を はぐ よう に イクマイ も の カミ を はがす と マックロ に なった サンモンバン が ころがりでた。 カレ は それ に イキ を ふきかけて ショウショ に アナ の あく ほど おしつけた。 そして わたされた 1 マイ を ハン と イッショ に ドンブリ の ソコ に しまって しまった。 これ だけ の こと で メシ の タネ に ありつける の は ありがたい こと だった。 コガイ では アカンボウ が まだ なきやんで いなかった。
「オラ ゼニコ イチモン も もたねえ から ちょっぴり かりたい だ が」
 アカンボウ の こと を おもう と、 キュウ に コゼニ が ほしく なって、 カレ が こう いいだす と、 チョウバ は あきれた よう に カレ の カオ を みつめた、 ――コイツ は バカ な ツラ を して いる くせ に ユダン の ならない ヨコガミヤブリ だ と おもいながら。 そして ジムショ では カネ の カリカシ は いっさい しない から エンジャ に なる カワモリ から でも かりる が いい し、 コンヤ は なにしろ そこ に いって とめて もらえ と チュウイ した。 ニンエモン は もう ムカッパラ を たてて しまって いた。 だまりこくって でて ゆこう と する と、 そこ に いあわせた オトコ が イッショ に いって やる から まて と とめた。 そう いわれて みる と カレ は ジブン の コヤ が どこ に ある の か を しらなかった。
「それじゃ チョウバ さん なにぶん よろしゅう たのむ がに、 あんばいよう オヤカタ の ほう にも いうて な。 ヒロオカ さん、 それじゃ いく べえ かの。 なんと まあ ヤヤ の いたましく さかぶ ぞい。 じゃ まあ おやすみ」
 カレ は キヨウ に コゴシ を かがめて ふるい テサゲカバン と ボウシ と を とりあげた。 スソ を からげて ホウヘイ の フルグツ を はいて いる ヨウス は コサクニン と いう より も ザッコクヤ の サヤトリ だった。
 ト を あけて ソト に でる と ジムショ の ボンボンドケイ が 6 ジ を うった。 びゅうびゅう と カゼ は ふきつのって いた。 アカンボウ の なく の に こうじはてて ツマ は ぽつり と さびしそう に トウキビガラ の ユキガコイ の カゲ に たって いた。
 アシバ が わるい から キ を つけろ と いいながら かの オトコ は サキ に たって コクドウ から アゼミチ に はいって いった。
 オオナミ の よう な ウネリ を みせた シュウカクゴ の ハタチ は、 ひろく とおく こうりょう と して ひろがって いた。 メ を さえぎる もの は ハ を おとした ボウフウリン の ほそながい コダチ だけ だった。 ぎらぎら と またたく ムスウ の ホシ は ソラ の ジ を ことさら さむく くらい もの に して いた。 ニンエモン を アンナイ した オトコ は カサイ と いう コサクニン で、 テンリキョウ の セワニン も して いる の だ と いって きかせたり した。
 7 チョウ も 8 チョウ も あるいた と おもう のに アカンボウ は まだ なきやまなかった。 くびりころされそう な ナキゴエ が ハンキョウ も なく カゼ に ふきちぎられて とおく ながれて いった。
 やがて アゼミチ が フタツ に なる ところ で カサイ は たちどまった。
「この ミチ を な、 こう いく と ヒダリテ に さえて コヤ が みえよう がの。 な」
 ニンエモン は くろい チヘイセン を すかして みながら、 ミミ に テ を おきそえて カサイ の コトバ を ききもらすまい と した。 それほど さむい カゼ は はげしい オト で つのって いた。 カサイ は くどくど と そこ に ゆきつく チュウイ を くりかえして、 シマイ に カネ が いる なら カワモリ の ホショウ で すこし ぐらい は ユウズウ する と つけくわえる の を わすれなかった。 しかし ニンエモン は コヤ の ショザイ が しれる と アト は きいて いなかった。 ウエ と サムサ が ひしひし と こたえだして がたがた ミ を ふるわしながら、 アイサツ ヒトツ せず に さっさと わかれて あるきだした。
 トウキビガラ と イタドリ の クキ で カコイ を した 2 ケン ハン シホウ ほど の コヤ が、 マエノメリ に かしいで、 クラゲ の よう な ひくい コウバイ の コヤマ の ハンプク に たって いた。 モノ の すえた ニオイ と ツミゴエ の ニオイ が ほしいまま に ただよって いた。 コヤ の ナカ には どんな ヤジュウ が ひそんで いる かも しれない よう な キミワルサ が あった。 アカンボウ の なきつづける クラヤミ の ナカ で ニンエモン が ウマノセ から どすん と おもい もの を ジメン に おろす オト が した。 ヤセウマ は ニ が かるく なる と ウッセキ した イカリ を イチジ に ぶちまける よう に いなないた。 はるか の トオク で それ に こたえた ウマ が あった。 アト は カゼ だけ が ふきすさんだ。
 フウフ は かじかんだ テ で ニモツ を さげながら コヤ に はいった。 ながく ヒノケ は たえて いて も、 フキサラシ から はいる と さすが に キモチ よく あたたかかった。 フタリ は マックラ な ナカ を テサグリ で アリアワセ の フルムシロ や ワラ を よせあつめて どっかと コシ を すえた。 ツマ は おおきな タメイキ を して セ の ニ と イッショ に アカンボウ を おろして ムネ に だきとった。 チブサ を あてがって みた が チチ は かれて いた。 アカンボウ は かたく なりかかった ハグキ で いや と いう ほど それ を かんだ。 そして なきつのった。
「クサレニガ! タタラ くいちぎる に」
 ツマ は ケンドン に こう いって、 フトコロ から シオセンベイ を 3 マイ だして、 ぽりぽり と かみくだいて は アカンボウ の クチ に あてがった。
「オラ が にも くせ」
 いきなり ニンエモン が エンピ を のばして ノコリ を うばいとろう と した。 フタリ は だまった まま で ホンキ に あらそった。 たべる もの と いって は 3 マイ の センベイ しか ない の だ から。
「タワケ」
 はきだす よう に オット が こう いった とき ショウブ は きまって いた。 ツマ は あらそいまけて ダイブブン を リャクダツ されて しまった。 フタリ は また おしだまって ヤミ の ナカ で たしない ショクモツ を むさぼりくった。 しかし それ は けっきょく ショクヨク を そそる ナカダチ に なる ばかり だった。 フタリ は くいおわって から イクド も カタズ を のんだ が ヒダネ の ない ところ では カボチャ を にる こと も できなかった。 アカンボウ は ナキヅカレ に つかれて ほっぽりだされた まま に いつのまにか ねいって いた。
 いしずまって みる と スキマ もる カゼ は ヤイバ の よう に するどく きりこんで きて いた。 フタリ は もうしあわせた よう に リョウホウ から ちかづいて、 アカンボウ を アイダ に いれて、 ダキネ を しながら ワラ の ナカ で がつがつ と ふるえて いた。 しかし やがて ヒロウ は スベテ を セイフク した。 シ の よう な ネムリ が 3 ニン を おそった。
 エンリョ エシャク も なく ハヤテ は ヤマ と ノ と を こめて ふきすさんだ。 ウルシ の よう な ヤミ が タイガ の ごとく ヒガシ へ ヒガシ へ と ながれた。 マッカリ ヌプリ の ゼッテン の ユキ だけ が リンコウ を はなって かすか に ひかって いた。 あらくれた おおきな シゼン だけ が そこ に よみがえった。
 こうして ニンエモン フウフ は、 どこ から とも なく K ムラ に あらわれでて、 マツカワ ノウジョウ の コサクニン に なった。

 2

 ニンエモン の コヤ から 1 チョウ ほど はなれて、 K ムラ から クッチャン に かよう ミチゾイ に、 サトウ ヨジュウ と いう コサクニン の コヤ が あった。 ヨジュウ と いう オトコ は コガラ で カオイロ も あおく、 ナンネン たって も トシ を とらない で、 ハタラキ も かいなそう に みえた が、 コドモ の おおい こと だけ は ノウジョウ イチ だった。 あすこ の カカア は コダネ を ヨソ から もらって でも いる ん だろう と ノウジョウ の わかい モノ など が よる と ジョウダン を いいあった。 ニョウボウ と いう の は カラダ の がっしり した サケグライ の オンナ だった。 オオニンズウ な ため に かせいで も かせいで も ビンボウ して いる ので、 ダラシ の ない きたない フウ は して いた が、 その カオツキ は わりあい に ととのって いて、 フシギ に オトコ に せまる イントウ な イロ を たたえて いた。
 ニンエモン が この ノウジョウ に はいった ヨクアサ はやく、 ヨジュウ の ツマ は アワセ 1 マイ に ぼろぼろ の ソデナシ を きて、 イド ――と いって も ミソダル を うめた の に アカサビ の ういた ウワミズ が 4 ブンメ ほど たまってる―― の ところ で アネチョコ と いいならわされた ハクライ の ザッソウ の ネ に できる イモ を あらって いる と、 そこ に ヒトリ の オトコ が のそり と やって きた。 6 シャク ちかい セイ を すこし マエコゴミ に して、 エイヨウ の わるい ツチケイロ の カオ が マッスグ に カタ の ウエ に のって いた。 トウワク した ヤジュウ の よう で、 ドウジ に どこ か わるがしこい おおきな メ が ふとい マユ の シタ で ぎろぎろ と ひかって いた。 それ が ニンエモン だった。 カレ は ヨジュウ の ツマ を みる と ちょっと ほほえましい キブン に なって、
「オッカア、 ヒダネ べ あったら ちょっぴり わけて くれずに」
と いった。 ヨジュウ の ツマ は イヌ に であった ネコ の よう な テキイ と オチツキ を もって カレ を みた。 そして みつめた まま で だまって いた。
 ニンエモン は ヤニ の つまった おおきな メ を テノコウ で こどもらしく こすりながら、
「オラ あすこ の コヤ さ きた モン だ のし。 ホイト では ねえ だよ」
と いって にこにこ した。 ツミ の ない カオ に なった。 ヨジュウ の ツマ は だまって コヤ に ひきかえした が、 マックラ な コヤ の ナカ に ねみだれた コドモ を のりこえ のりこえ イロリ の ところ に いって ソダ を 1 ポン さげて でて きた。 ニンエモン は うけとる と、 クチ を ふくらまして それ を ふいた。 そして ナニ か ヒトコト フタコト はなしあって コヤ の ほう に かえって いった。
 この ヒ も ユウベ の カゼ は ふきおちて いなかった。 ソラ は スミ から スミ まで そこきみわるく はれわたって いた。 その ため に カゼ は ジメン に ばかり ふいて いる よう に みえた。 サトウ の ハタケ は とにかく アキオコシ を すまして いた のに、 それ に となった ニンエモン の ハタケ は みわたす かぎり カマドガエシ と ミズヒキ と アカザ と トビツカ と で ぼうぼう と して いた。 ひきのこされた ダイズ の カラ が カゼ に ふかれて ヒョウキン な オト を たてて いた。 あちこち に ひょろひょろ と たった シラカバ は おおかた ハ を ふるいおとして なよなよ と した しろい ミキ が カゼ に たわみながら ひかって いた。 コヤ の マエ の アマ を こいだ ところ だけ は、 コボレダネ から はえた ほそい クキ が あおい イロ を みせて いた。 アト は コヤ も ハタケ も シモ の ため に しらちゃけた にぶい キツネイロ だった。 ニンエモン の さびしい コヤ から は それでも やがて しろい スイエン が かすか に もれはじめた。 ヤネ から とも なく カコイ から とも なく ユゲ の よう に もれた。
 チョウショク を すます と フウフ は 10 ネン も マエ から すみなれて いる よう に、 ヘイキ な カオ で ハタケ に でかけて いった。 フタリ は シゴト の テハイ も きめず に はたらいた。 しかし、 フユ を メノマエ に ひかえて ナニ を サキ に すれば いい か を フタリ ながら ホンノウ の よう に しって いた。 ツマ は、 モヨウ も わからなく なった フロシキ を サンカク に おって ロシアジン の よう に ホオカムリ を して、 アカンボウ を セナカ に しょいこんで、 せっせと コエダ や ネッコ を ひろった。 ニンエモン は 1 ポン の クワ で 4 チョウ に あまる ハタケ の イチグウ から ほりおこしはじめた。 ホカ の コサクニン は ノラシゴト に カタ を つけて、 イマ は ユキガコイ を したり マキ を きったり して コヤ の マワリ で はたらいて いた から、 ハタケ の ナカ に たって いる の は ニンエモン フウフ だけ だった。 すこし たかい ところ から は どこまでも みわたされる ひろい ヘイタン な コウサクチ の ウエ で フタリ は ス に かえりそこねた 2 ヒキ の アリ の よう に きりきり と はたらいた。 はかない ロウリョク に クテン を うって、 クワ の サキ が ヒ の カゲン で ぎらっぎらっ と ひかった。 ツナミ の よう な オト を たてて カゼ の こもる シモガレ の ボウフウリン には カラス も いなかった。 あれはてた ハタケ に ミキリ を つけて サケ の ギョバ に でも うつって いって しまった の だろう。
 ヒル すこし まわった コロ ニンエモン の ハタケ に フタリ の オトコ が やって きた。 ヒトリ は ユウベ ジムショ に いた チョウバ だった。 いま ヒトリ は ニンエモン の エンジャ と いう カワモリ ジイサン だった。 メ を しょぼしょぼ させた イッテツ らしい カワモリ は ニンエモン の スガタ を みる と、 おこった らしい カオツキ を して ずかずか と その ソバ に よって いった。
「ワリャ ジギ ヒトツ しらねえ ヤツ の、 なんじょう いうて オラ が には きくさらぬ。 チョウバ さん のう しらして くさずば、 いつまでも シンヨウ も ねえ だった。 まずもって コヤ さ いぐ べし」
 3 ニン は コヤ に はいった。 イリグチ の ミギテ に ネワラ を しいた ウマ の イドコロ と、 カワイタ を 2~3 マイ ならべた コクモツ オキバ が あった。 ヒダリ の ほう には イリグチ の ホッタテバシラ から オク の ホッタテバシラ に かけて 1 ポン の マルタ を ツチ の ウエ に わたして ドマ に ムギワラ を しきならした その ウエ に、 ところどころ ムシロ が ひろげて あった。 その マンナカ に きられた イロリ には それでも マックロ に すすけた テツビン が かかって いて、 カボチャ の こびりついた カケワン が フタツ ミッツ ころがって いた。 カワモリ は はじいる ごとく、
「やばっちい ところ で」
と いいながら チョウバ を ロ の ヨコザ に しょうじた。
 そこ に ツマ も おずおず と はいって きて、 おそるおそる アタマ を さげた。 それ を みる と ニンエモン は ドマ に むけて かっと ツバ を はいた。 ウマ は びくん と して ミミ を たてた が、 やがて クビ を のばして その ニオイ を かいだ。
 チョウバ は ツマ の さしだす サユ の チャワン を うけ は した が そのまま のまず に ムシロ の ウエ に おいた。 そして むずかしい コトバ で ユウベ の ケイヤクショ の ナイヨウ を いいきかしはじめた。 コサクリョウ は 3 ネン ごと に カキカエ の 1 タンブ 2 エン 20 セン で ある こと、 タイノウ には ネン 2 ワリ 5 ブ の リシ を ふする こと、 ソンゼイ は コサク に わりあてる こと、 ニンエモン の コヤ は マエ の コサク から 15 エン で かって ある の だ から ライネンジュウ に ショウカン す べき こと、 サクアト は ウマオコシ して おく べき こと、 アマ は カシツケ チセキ の 5 ブン の 1 イジョウ つくって は ならぬ こと、 バクチ を して は ならぬ こと、 リンポ あいたすけねば ならぬ こと、 ホウサク にも コサクリョウ は ワリマシ を せぬ カワリ どんな キョウサク でも ワリビキ は きんずる こと、 ジョウシュ に ジキソ-がましい こと を して は ならぬ こと、 リャクダツ ノウギョウ を して は ならぬ こと、 それから ウンヌン、 それから ウンヌン。
 ニンエモン は いわれる こと が よく のみこめ は しなかった が、 ハラ の ナカ では クソ を くらえ と おもいながら、 イマ まで はたらいて いた ハタケ を キ に して イリグチ から ながめて いた。
「オマエ は ウマ を もってる くせ に なんだって ウマオコシ を しねえ だ。 イクンチ も なく ユキ に なる だに」
 チョウバ は チュウショウロン から ジッサイロン に きりこんで いった。
「ウマ は ある が、 プラオ が ねえ だ」
 ニンエモン は ハナ の サキ で あしらった。
「かりれば いい で ねえ か」
「ゼニコ が ねえ かん な」
 カイワ は ぷつん と とぎれて しまった。 チョウバ は 2 ド の カイケン で この ヤバンジン を どう とりあつかわねば ならぬ か を のみこんだ と おもった。 メン と むかって ラチ の あく ヤツ では ない。 うっかり ニョウボウ に でも アイソ を みせれば オオゴト に なる。
「まあ シンボウ して やる が いい。 ここ の オヤカタ は ハコダテ の マルモチ で モノ の わかった ヒト だ かん な」
 そう いって コヤ を でて いった。 ニンエモン も オモテ に でて チョウバ の ゲンキ そう な ウシロスガタ を みおくった。 カワモリ は サイフ から 50 セン ギンカ を だして それ を ツマ の テ に わたした。 なにしろ チョウバ に ツケトドケ を して おかない と バンジ に ソン が いく から コンヤ にも サケ を かって アイサツ に いく が いい し、 プラオ なら ジブン の ところ の もの を かして やる と いって いた。 ニンエモン は カワモリ の コトバ を ききながら チョウバ の スガタ を みまもって いた が、 やがて それ が サトウ の コヤ に きえる と、 とつぜん ばからしい ほど ふかい シット が アタマ を おそって きた。 カレ は かっと ノド を からして タン を ジベタ に いや と いう ほど はきつけた。
 フウフ きり に なる と フタリ は また ベツベツ に なって せっせと はたらきだした。 ヒ が かたむきはじめる と サムサ は ひとしお に つのって きた。 アセ に なった トコロドコロ は こおる よう に つめたかった。 ニンエモン は しかし ゲンキ だった。 カレ の マックラ な アタマ の ナカ の イチダン たかい ところ とも おぼしい アタリ に 50 セン ギンカ が まんまるく ひかって どうしても はなれなかった。 カレ は クワ を うごかしながら マユ を しかめて それ を はらいおとそう と こころみた。 しかし いくら こころみて も ひかった ギンカ が おちない の を しる と バカ の よう に にったり と ヒトリワライ を もらして いた。
 コンブダケ の イッカク には ユウガタ に なる と また ヒトムラ の クモ が わいて、 それ を めがけて ヒ が しずんで いった。
 ニンエモン は ジブン の たがやした ハタケ の ヒロサ を ひとわたり マンゾク そう に みやって コヤ に かえった。 てばしこく クワ を あらい、 バリョウ を つくった。 そして ハチマキ の シタ に にじんだ アセ を ソデグチ で ぬぐって、 スイジ に かかった ツマ に サッキ の 50 セン ギンカ を もとめた。 ツマ が それ を わたす まで には 2~3 ド ヨコツラ を なぐられねば ならなかった。 ニンエモン は やがて ぶらり と コヤ を でた。 ツマ は ヒトリ で さびしく ユウメシ を くった。 ニンエモン は イッペン の ギンカ を ハラガケ の ドンブリ に いれて みたり、 だして みたり、 オヤユビ で ソラ に はじきあげたり しながら シガイチ の ほう に でかけて いった。
 9 ジ ――9 ジ と いえば ノウジョウ では ヨフケ だ―― を すぎて から ニンエモン は いい サカキゲン で とつぜん サトウ の トグチ に あらわれた。 サトウ の ツマ も バンシャク に よいしれて いた。 ヨジュウ と テイザ に なって 3 ニン は イロリ を かこんで また のみながら うちとけた バカバナシ を した。 ニンエモン が ジブン の コヤ に ついた とき には 11 ジ を すぎて いた。 ツマ は もえかすれる イロリビ に セ を むけて、 ワタ の はみでた フトン を カシワ に きて ぐっすり ねこんで いた。 ニンエモン は イタズラモノ-らしく よろけながら ちかよって わっ と いって のりかかる よう に ツマ を だきすくめた。 おどろいて メ を さました ツマ は しかし わらい も しなかった。 サワギ に アカンボウ が メ を さました。 ツマ が だきあげよう と する と、 ニンエモン は さえぎりとめて ツマ を ヨコダキ に だきすくめて しまった。
「そうれ まんだ キモ べ やける か。 こう めんこがられて も キモ べ やける か。 めんこい ケダモノ ぞい ワレ は。 みずに。 いんまに な オラ ワレ に キヌ の イショウ べ きせて こす ぞ。 チョウバ の ワロ (カレ は トコロ きらわず ツバ を はいた) が ネゴト べ こく ヒマ に、 オラ オヤカタ と ヒザ つきあわして はなして みせる かん な。 コケ め。 オラ が こと ダレ しる もん で。 ワリャ めんこい ぞ。 しんから めんこい ぞ。 よし。 よし。 ワリャ これ きらい で なかん べさ」
と いいながら フトコロ から ヘギ に つつんだ ダイフク を とりだして、 その ヒトツ を ぐちゃぐちゃ に おしつぶして イキ の つまる ほど ツマ の クチ に あてがって いた。

 3

 カラカゼ の イクニチ も ふきぬいた アゲク に クモ が アオゾラ を かきみだしはじめた。 ミゾレ と ヒ の ヒカリ と が おいつ おわれつ して、 やがて どこ から とも なく ユキ が ふる よう に なった。 ニンエモン の ハタケ は そう なる まで に イチブブン しか すきおこされなかった けれども、 それでも アキマキ コムギ を まきつける だけ の チセキ は できた。 ツマ の キンロウ の おかげ で ヒトフユ ブン の ネンリョウ にも さしつかえない ジュンビ は できた。 ただ こまる の は ショクリョウ だった。 ウマノセ に つんで きた だけ では イクニチ ブン の タシ にも ならなかった。 ニンエモン は ある ヒ ウマ を シガイチ に ひいて いって うりとばした。 そして ムギ と アワ と ダイズ と を かなり たかい ソウバ で かって かえらねば ならなかった。 ウマ が ない ので バシャオイ にも なれず、 カレ は イグイ を して ユキ が すこし かたく なる まで ぼんやり と すごして いた。
 ネユキ に なる と カレ は サイシ を のこして キコリ に でかけた。 マッカリ ヌプリ の フモト の ハライサゲ カンリン に はいりこんで カレ は ホネミ を おしまず はたらいた。 ユキ が とけかかる と カレ は イワナイ に でて ニシンバ カセギ を した。 そして ヤマ の ユキ が とけて しまう コロ に、 カレ は ユキヤケ と シオヤケ で マックロ に なって かえって きた。 カレ の フトコロ は じゅうぶん おもかった。 ニンエモン は ノウジョウ に かえる と すぐ たくましい 1 トウ の ウマ と、 プラオ と、 ハーロー と、 ヒツヨウ な タネ を かいととのえた。 カレ は マイニチ マイニチ コヤ の マエ に ニオウダチ に なって、 5 カゲツ-カン つもりかさなった ユキ の とけた ため に ウミホウダイ に うんだ ハタケ から、 めぐみぶかい ヒ の ヒカリ に てらされて スイジョウキ の もうもう と たちのぼる サマ を まちどおしげ に ながめやった。 マッカリ ヌプリ は マイニチ ムラサキイロ に あたたかく かすんだ。 ハヤシ の ナカ の ユキ の ムラギエ の アイダ には フクジュソウ の クキ が まず ミドリ を つけた。 ツグミ と シジュウカラ と が カレエダ を わたって しめやか な ササナキ を つたえはじめた。 くさる べき もの は コノハ と いわず コヤ と いわず ぞんぶん に くさって いた。
 ニンエモン は メジ の カギリ に みえる コサクゴヤ の イクケン か を ながめやって クソ でも くらえ と おもった。 ミライ の ユメ が はっきり と アタマ に うかんだ。 3 ネン たった ノチ には カレ は ノウジョウ イチ の オオコサク だった。 5 ネン の ノチ には ちいさい ながら イッコ の ドクリツ した ノウミン だった。 10 ネン-メ には かなり ひろい ノウジョウ を ゆずりうけて いた。 その とき カレ は 37 だった。 ボウシ を かぶって ニジュウ マント を きた、 ゴム ナガグツ-バキ の カレ の スガタ が、 ジブン ながら こはずかしい よう に ソウゾウ された。
 とうとう タネマキドキ が きた。 ヤマカジ で やけた クマザサ の ハ が マックロ に こげて キセキ の ゴフ の よう に どこ から とも なく ふって くる タネマキドキ が きた。 ハタケ の ウエ は キュウ に カッキ-だった。 シガイチ にも タネモノショウ や ヒリョウショウ が はいりこんで、 たった 1 ケン の ゴケヤ から は ヨゴト に シャミセン の トオネ が ひびく よう に なった。
 ニンエモン は たくましい ウマ に、 とぎすました プラオ を つけて、 ハタケ に おりたった。 すきおこされる ドジョウ は テキド の シッケ を もって、 うらがえる に つれて むせる よう な ツチ の ニオイ を おくった。 それ が ニンエモン の チ に ぐんぐん と チカラ を おくって よこした。
 スベテ が ジュントウ に いった。 まいた タネ は ノビ を する よう に ずんずん おいそだった。 ニンエモン は アタリキンジョ の コサクニン に たいして フタコトメ には ケンカヅラ を みせた が 6 シャク ゆたか の カレ に たてつく モノ は ヒトリ も なかった。 サトウ なんぞ は カレ の スガタ を みる と こそこそ と スガタ を かくした。 「それ 『まだ か』 が きおった ぞ」 と いって ヒトビト は カレ を おそれはばかった。 もう カオ が ありそう な もの だ と みあげて も、 まだ カオ は その ウエ の ほう に ある と いう ので、 ヒトビト は カレ を 「まだ か」 と アダナ して いた の だ。
 ときどき サトウ の ツマ と カレ との カンケイ が、 ヒトビト の ウワサ に のぼる よう に なった。

 イチニチ はたらきくらす と さすが ロウドウ に なれきった ノウミン たち も、 メ の まわる よう な この キセツ の イソガシサ に つかれはてて、 ユウメシ も そこそこ に ねこんで しまった が、 ニンエモン ばかり は ヒ が いって も テ が かゆくて シヨウ が なかった。 カレ は ホシ の ヒカリ を タヨリ に ヤジュウ の よう に ハタケ の ナカ で はたらきまわった。 ユウメシ は イロリ の ヒ の ヒカリ で そこそこ に したためた。 そうして は ぶらり と コヤ を でた。 そして ノウジョウ の チンジュ の ヤシロ の ソバ の コサクニン シュウカイジョ で オンナ と あった。
 チンジュ は こだかい ミツジュリン の ナカ に あった。 ある バン ニンエモン は そこ で オンナ を まちあわして いた。 カゼ も ふかず アメ も ふらず、 オト の ない ヨル だった。 オンナ の キヨウ は おもいのほか はやい こと も ハラ の たつ ほど おそい こと も あった。 ニンエモン は だだっぴろい タテモノ の イリグチ の ところ で ヒザ を だきながら ミミ を そばだてて いた。
 エダ に のこった カレハ が ワカメ に せきたてられて、 ときどき かさっと チ に おちた。 ビロード の よう に なめらか な クウキ は うごかない まま に カレ を いたわる よう に おしつつんだ。 あらくれた カレ の シンケイ も それ を かんじない わけ には ゆかなかった。 ものなつかしい よう な なごやか な ココロ が カレ の ムネ にも わいて きた。 カレ は ヤミ の ナカ で フシギ な ゲンカク に おちいりながら あわく ほほえんだ。
 アシオト が きこえた。 カレ の シンケイ は イチジ に むらだった。 しかし やがて カレ の マエ に たった の は たしか に オンナ の カタチ では なかった。
「ダレ だ ワリャ」
 ひくかった けれども ヤミ を すかして メ を すえた カレ の コエ は イカリ に ふるえて いた。
「オヌシ こそ ダレ だ と おもうたら ヒロオカ さん じゃ な。 なんしに イマドキ こない な ところ に いる の ぞい」
 ニンエモン は コエ の ヌシ が カサイ の シコクザル め だ と しる と かっと なった。 カサイ は ノウジョウ イチ の モノシリ で マルモチ だ。 それ だけ で カンシャク の タネ には ジュウブン だ。 カレ は いきなり カサイ に とびかかって ムナグラ を ひっつかんだ。 かーっ と いって だした ツバ を あぶなく その カオ に はきつけよう と した。
 コノゴロ フロウニン が でて マイバン シュウカイジョ に あつまって タキビ なぞ を する から ヨウジン が わるい、 と ヒトビト が いう ので ジンジャ の セワヤク を して いた カサイ は、 おどかしつける つもり で ミマワリ に きた の だった。 カレ は もとより カシ の ボウ ぐらい の ミジタク は して いた が、 アイテ が 「まだ か」 では クチ も きけない ほど ちぢんで しまった。
「ワリャ オラ が アイビキ の ジャマ べ こく キ だな、 オラ が する こと に ワレ が テダシ は いんねえ だ。 クビネッコ べ ひんぬかれんな」
 カレ の コトバ は せきあげる イキ の アイダ に おしひしゃげられて がらがら ふるえて いた。
「そりゃ ジャスイ じゃ がな オヌシ」
と カサイ は クチバヤ に そこ に きあわせた シサイ と、 ちょうど いい キカイ だ から おりいって たのむ こと が ある ムネ を いいだした。 ニンエモン は ヒゲ して でた カサイ に ちょっと キョウミ を かんじて ムナグラ から テ を はなして、 シキイ に コシ を すえた。 クラヤミ の ナカ でも、 カサイ が メ を きょとん と させて ヤケド の ほう の ハンメン を ヒラテ で なでまわして いる の が ソウゾウ された。 そして やがて コシ を おろして、 イマ まで の アワテカタ にも にず ゆうゆう と タバコイレ を だして マッチ を すった。 おりいって たのむ と いった の は コサク イチドウ の ジヌシ に たいする クジョウ に ついて で あった。 1 タンブ 2 エン 20 セン の ハタケ-ダイ は この チホウ に ない タカソウバ で ある のに、 どんな キョウネン でも ワリビキ を しない ため に、 コサク は ヒトリ と して シャッキン を して いない モノ は ない。 カネ では とれない と みる と チョウバ は タチケ の うち に オウシュウ して しまう。 したがって シガイチ の ショウニン から は メ の とびでる よう な ウワマエ を はねられて クイシロ を かわねば ならぬ。 だから コンド ジヌシ が きたら イチドウ で ぜひとも コサクリョウ の ネサゲ を ヨウキュウ する の だ。 カサイ は その ソウダイ に なって いる の だ が ヒトリ では こころぼそい から ニンエモン も でて チカラ に なって くれ と いう の で あった。
「コケ な こと こくな てえば。 2 リョウ 2 カン が ナニ たかい べ。 ワレタチ が ホネップシ は かせぐ よう には つくって ねえ の か。 オヤカタ には ハンモン の カリ も した オボエ は ねえ から な、 オラ その クジ には のんねえ だ。 ワレ まず オヤカタ に べ なって み べし。 ここ の が より も ヨク に かかる べえ に。 ……ゲイ も ねえ こん に めんこく も ねえ ツラ つんだすな てば」
 ニンエモン は また カサイ の てかてか した カオ に ツバ を はきかけたい ショウドウ に さいなまれた が、 ガマン して それ を イタノマ に はきすてた。
「そう まあ イチガイ には いう もん で ない ぞい」
「イチガイ に いった が なじょう わるい だ。 いね。 いね べし」
「そう いえど ヒロオカ さん……」
「ワリャ ゲンコ こと くらいてい が か」
 オンナ を まちうけて いる ニンエモン に とって は、 この ジャマモノ の ナガイ して いる の が いまいましい ので、 コトバ も シウチ も だんだん あららか に なった。
 シュウチャク の つよい カサイ も たたなければ ならなく なった。 その バ を とりつくろう セジ を いって おこった フウ も みせず に サカ を おりて いった。 ミチ の フタマタ に なった ところ で ヒダリ に ゆこう と する と、 ヤミ を すかして いた ニンエモン は ほえる よう に 「ミギ さ いく だ」 と ゲンメイ した。 カサイ は それ にも そむかなかった。 ヒダリ の ミチ を とおって オンナ が かよって くる の だ。
 ニンエモン は また ヒトリ に なって ヤミ の ナカ に うずくまった。 カレ は イキドオリ に ぶるぶる ふるえて いた。 あいにく オンナ の キヨウ が おそかった。 おこった カレ には ガマン が でききらなかった。 オンナ の コヤ に あばれこむ イキオイ で たちあがる と カレ は ハクチュウ ダイドウ を ゆく よう な アシドリ で、 ヤブミチ を ぐんぐん あるいて いった。 ふと ある ボサ の ところ で カレ は ヤジュウ の ビンカンサ を もって モノ の ケハイ を かぎしった。 カレ は はたと たちどまって その オク を すかして みた。 しんと した ヨル の シズカサ の ナカ で からかう よう な みだら な オンナ の ヒソミワライ が きこえた。 ジャマ の はいった の を けどって オンナ は そこ に かくれて いた の だ。 かぎなれた オンナ の ニオイ が ハナ を おそった と ニンエモン は おもった。
「ヨツアシ め が」
 サケビ と ともに カレ は ボサ の ナカ に とびこんだ。 とげとげ する ショッカン が、 ねる とき の ホカ ぬいだ こと の ない ワラジ の ソコ に フタアシ ミアシ かんじられた と おもう と、 ヨアシ-メ は やわらかい むっちり した ニクタイ を ふみつけた。 カレ は おもわず その アシ の チカラ を ぬこう と した が、 ドウジ に キョウボウ な ショウドウ に かられて、 マンシン の オモミ を それ に たくした。
「いたい」
 それ が ききたかった の だ。 カレ の ニクタイ は イチド に アブラ を そそぎかけられて、 そそりたつ チ の キオイ に メ が くるめいた。 カレ は いきなり オンナ に とびかかって、 トコロ きらわず なぐったり アシゲ に したり した。 オンナ は いたい と いいつづけながら も カレ に からまりついた。 そして かみついた。 カレ は とうとう オンナ を だきすくめて ドウロ に でた。 オンナ は カレ の カオ に するどく のびた ツメ を たてて のがれよう と した。 フタリ は いがみあう イヌ の よう に くみあって たおれた。 たおれながら あらそった。 カレ は とうとう オンナ を とりにがした。 はねおきて おい に かかる と イチモクサン に にげた と おもった オンナ は、 ハンタイ に だきついて きた。 フタリ は たがいに ジョウ に たえかねて また なぐったり ひっかいたり した。 カレ は オンナ の タブサ を つかんで ミチ の ウエ を ずるずる ひっぱって いった。 シュウカイジョ に きた とき は フタリ とも キズダラケ に なって いた。 ウチョウテン に なった オンナ は イッカイ の ヒ の ニク と なって ぶるぶる ふるえながら ユカ の ウエ に ぶったおれて いた。 カレ は ヤミ の ナカ に つったちながら やく よう な コウフン の ため に よろめいた。

 4

 ハル の テンキ の ジュントウ で あった の に はんして、 その トシ は 6 ガツ の ハジメ から カンキ と インウ と が ホッカイドウ を おそって きた。 カンバツ に キキン なし と いいならわした の は スイデン の おおい ナイチ の こと で、 ハタケ ばかり の K ムラ なぞ は アメ の おおい ほう は まだ しやすい と した もの だ が、 その トシ の ナガアメ には タメイキ を もらさない ノウミン は なかった。
 モリ も ハタケ も みわたす かぎり マッサオ に なって、 ホッタテゴヤ ばかり が イロ を かえず に シゼン を よごして いた。 シグレ の よう な さむい アメ が とざしきった ニビイロ の クモ から トメド なく ふりそそいだ。 ヒクミ の アゼミチ に しきならべた スリッパ-ザイ は ぶかぶか と ミズ の ため に うきあがって、 その アイダ から マコモ が ながく のびて でた。 オタマジャクシ が ハタケ の ナカ を およぎまわったり した。 ホトトギス が モリ の ナカ で さびしく ないた。 アズキ を イタ の ウエ に トオク で ころがす よう な アメ の オト が アサ から バン まで きこえて、 それ が おやむ と シッケ を ふくんだ カゼ が キ でも クサ でも しぼましそう に さむく ふいた。
 ある ヒ ノウジョウシュ が ハコダテ から きて シュウカイジョ で よりあう と いう シラセ が クミチョウ から まわって きた。 ニンエモン は そんな こと には トンジャク なく アサ から バリキ を ひいて シガイチ に でた。 ウンソウテン の マエ には もう 2 ダイ の バリキ が あって、 アシ を つまだてる よう に しょんぼり と たつ ヒキウマ の タテガミ は、 イクホン か の ムチ を さげた よう に アメ に よれて、 その サキ から スイテキ が たえず おちて いた。 ウマノセ から は スイジョウキ が たちのぼった。 ト を あけて ナカ に はいる と バシャオイ を ナイショク に する わかい ノウフ が 3 ニン ドマ に タキビ を して あたって いた。 バシャオイ を する くらい の ノウフ は ノウフ の ナカ でも ボウケンテキ な キ の あらい テアイ だった。 カレラ は カオ に あたる タキビ の ホテリ を テ や アシ を あげて ふせぎながら、 ナガアメ に つけこんで ムラ に はいって きた バクト の ムレ の ウワサ を して いた。 まきあげよう と して はいりこみながら さんざん テ を やいて エキテイ から おいたてられて いる よう な こと も いった。
「オマエ も イチバン のって もうかれ や」
と その ナカ の ヒトリ は ニンエモン を けしかけた。 ミセ の ナカ は どんより と くらく しめって いた。 ニンエモン は くらい カオ を して ツバ を はきすてながら、 タキビ の ザ に わりこんで だまって いた。 ぴしゃぴしゃ と けうとい ワラジ の オト を たてて、 オウライ を とおる モノ が たまさか に ある ばかり で、 この キセツ の にぎわいだった ヨウス は どこ にも みられなかった。 チョウバ の わかい モノ は フデ を もった テ を ホオヅエ に して いねむって いた。 こうして カレラ は ニ の くる の を ぼんやり して 2 ジカン あまり も まちくらした。 きく に たえない よう な ワカモノ ども の バカバナシ も しぜん と インキ な キブン に おさえつけられて、 ややともすると、 チンモク と アクビ が ひろがった。
「ヒトハタリ はたらずに」
 とつぜん ニンエモン が そう いって イチザ を みまわした。 カレ は その めずらしい ムジャキ な ホホエミ を ほほえんで いた。 イチドウ は カレ の にこやか な カオ を みる と、 すいよせられる よう に なって、 いう こと を きかない では いられなかった。 ムシロ が もちだされた。 4 ニン は クルマザ に なった。 ヒトリ は きがるく わかい モノ の ツクエ の ウエ から ユノミ-ヂャワン を もって きた。 もう ヒトリ の オトコ の ハラガケ の ナカ から は サイ が フタツ とりだされた。
 ミセ の わかい モノ が メ を さまして みる と、 カレラ は コウフン した コエ を おしつぶしながら、 ムキ に なって ショウブ に ふけって いた。 わかい モノ は ちょっと ユウワク を かんじた が キ を とりなおして、
「こまる で ねえ か、 そうした こと ミセサキ で おっぴろげて」
と いう と、
「こまったら ツミニ こと さがして こう」
と ニンエモン は とりあわなかった。
 ヒル に なって も ニ の カイソウ は なかった。 ニンエモン は ジブン から いいだしながら、 おもしろく ない ショウブ ばかり して いた。 どっち に かわる か ジブン でも わからない よう な キブン が まっしぐら に わるい ほう に かたむいて きた。 キ を くさらせれば くさらす ほど カレ の ヤマ は はずれて しまった。 カレ は くさくさ して ふいと ザ を たった。 アイテ が なんとか いう の を ふりむき も せず に ミセ を でた。 アメ は おやみなく ふりつづけて いた。 ヒルゲ の ケムリ が おもく ジメン の ウエ を はって いた。
 カレ は むしゃくしゃ しながら バリキ を ひっぱって コヤ の ほう に かえって いった。 だらしなく ふりつづける アメ に クサキ も ツチ も ふやけきって、 ソラ まで が ぽとり と ジメン の ウエ に おちて きそう に だらけて いた。 おもしろく ない ショウブ を して いらだった ニンエモン の ハラ の ナカ とは まったく ウラアワセ な にえきらない ケシキ だった。 カレ は ナニ か おもいきった こと を して でも ムネ を すかせたく おもった。 ちょうど ジブン の ハタケ の ところ まで くる と サトウ の トシカサ の コドモ が 3 ニン ガッコウ の カエリ と みえて、 ニモツ を ハス に セナカ に しょって、 アタマ から ぐっしょり ぬれながら、 チカミチ する ため に ハタケ の ナカ を あるいて いた。 それ を みる と ニンエモン は 「まて」 と いって よびとめた。 ふりむいた コドモ たち は 「まだ か」 の たって いる の を みる と 3 ニン とも オソロシサ に カオ の イロ を かえて しまった。 なぐりつけられる とき する よう に ウデ を まげて メハチブ の ところ に やって、 にげだす こと も しえない で いた。
「ワラシ づれ は なじょう いうて ヒト の ハタケ さ ふみこんだ。 ヒャクショウ の ガキ だに ハタケ のう ダイジ-がる ミチ しんねえ だな。 こう」
 ニオウダチ に なって にらみすえながら カレ は どなった。 コドモ たち は もう おびえる よう に なきだしながら おずおず ニンエモン の ところ に あるいて きた。 まちかまえた ニンエモン の テッケン は いきなり 12 ほど に なる チョウジョ の やせた ホオ を ゆがむ ほど たたきつけた。 3 ニン の コドモ は イチド に イタミ を かんじた よう に コエ を あげて わめきだした。 ニンエモン は チョウヨウ の ヨウシャ なく てあたりしだい に なぐりつけた。
 コヤ に かえる と ツマ は ムシロ の ウエ に ぺったんこ に すわって ウマ に やる ワラ を ざくり ざくり きって いた。 アカンボウ は インチコ の ナカ で タコ の よう な アタマ を ボロ から だして、 ノキ から したたりおちる アマダレ を みやって いた。 カレ の キブン に ふさわない オモクルシサ が みなぎって、 ウンソウテン の ミセサキ に くらべて は ナニ から ナニ まで ベンジョ の よう に きたなかった。 カレ は だまった まま で ツバ を はきすてながら ウマ の シマツ を する と すぐ また ソト に でた。 アメ は ハダ まで しみとおって ぞくぞく さむかった。 カレ の カンシャク は さらに つのった。 カレ は すたすた と サトウ の コヤ に でかけた。 が、 ふと シュウカイジョ に いってる こと に キ が つく と その アシ で すぐ ジンジャ を さして いそいだ。
 シュウカイジョ には アサ の うち から 50 ニン ちかい コサクシャ が あつまって ジョウシュ の くる の を まって いた が、 ヒルスギ まで マチボケ を くわされて しまった。 ジョウシュ は やがて チョウバ を トモ に つれて あつい ガイトウ を きて やって きた。 カミザ に すわる と もったいらしく ジンジャ の ほう を むいて カシワデ を うって モクハイ を して から、 いあわせてる モノラ には ハンブン も わからない よう な こと を シタリガオ に いいきかした。 コサクシャ ら は ケゲン な カオ を しながら も、 ジョウシュ の コトバ が とぎれる と もっともらしく うなずいた。 やがて コサクシャ ら の ヨウキュウ が カサイ に よって テイシュツ せらる べき ジュンバン が きた。 カレ は まず オヤカタ は オヤ で コサク は コ だ と ときだして、 コサクシャ-ガワ の ヨウキュウ を かなり つよく いいはった アト で、 それ は しかし ムリ な オネガイ だ とか、 モノ の わからない ジブン たち が かんがえる こと だ から だ とか、 そんな こと は まず アトマワシ でも いい こと だ とか、 ジブン の いいだした こと を ジブン で うちこわす よう な ソエコトバ を つけくわえる の を わすれなかった。 ニンエモン は ちょうど そこ に ゆきあわせた。 カレ は イリグチ の ハメイタ に ミ を よせて じっと きいて いた。
「こう まあ いろいろ と おねがい した じゃ から は、 オタガイ も ココロ を しめて チョウバ さん にも メイワク を かけぬ だけ には せずば なあ (ここ で カレ は イチドウ を みわたした ヨウス だった)。 『バンコク ココロ を あわせて な』 と テンリキョウ の オウタサマ にも ある とおり、 きまった こと は きまった よう に せん と ならん じゃ が、 おおい ナカ じゃ に ムリ も ない よう な ものの、 アマ など を オヤカタ、 ぎょうさん つけた モノ も あって、 まこと すまん シダイ じゃ が、 ムリ が とおれば ドウリ も ひっこみよる で、 なりません じゃ もし」
 ニンエモン は ジョウキ も かまわず ハタケ の ハンブン を アマ に して いた。 で、 その コトバ は カレ に たいする アテコスリ の よう に きこえた。
「キョウ など も カオ を だしよらん ヨコシマモノ も あります じゃ で……」
 ニンエモン は イカリ の ため に ミミ が かぁん と なった。 カサイ は まだ ナニ か なめらか に しゃべって いた。
 ジョウシュ が まだ ナニ か クンジ-めいた こと を いう らしかった が、 やがて ざわざわ と ヒト の たつ ケハイ が した。 ニンエモン は イキ を ころして でて くる ヒトビト を うかがった。 ジョウシュ が チョウバ と イッショ に、 アト から カサイ に カサ を さしかけさせて でて いった。 ロウドウ で ジャクネン の ニク を きたえた らしい ガンジョウ な ジョウシュ の スガタ は、 どこ か ヒト を はばからした。 ニンエモン は カサイ を にらみながら みおくった。 やや しばらく する と ジョウナイ から キュウ に くつろいだ ダンショウ の コエ が おこった。 そして 2~3 ニン ずつ ナニ か かたりあいながら コサクシャ ら は コヤ を さして かえって いった。 やや おくれて ツレ も なく でて きた の は サトウ だった。 ちいさな ウシロスガタ は わかわかしくって アンコ の よう だった。 ニンエモン は コノハ の よう に ふるえながら ずかずか と ちかづく と、 とつぜん ウシロ から その ミギ の ミミ の アタリ を なぐりつけた。 フイ を くらって たおれん ばかり に よろけた サトウ は、 アト も みず に ミミ を おさえながら、 モウジュウ の トオボエ を きいた ウサギ の よう に、 マエ に ゆく 2~3 ニン の ほう に イチモクサン に かけだして その ヒトビト を タテ に とった。
「ワリャ ホイト か ヌスット か チクショウ か。 よくも ワレ が ガキ ども さ しかけて ヒト の ハタケ こと ふみあらした な。 うちのめして くれずに。 こ」
 ニンエモン は ヒノタマ の よう に なって とびかかった。 とうの フタリ と 2~3 ニン の トメオトコ とは マリ に なって アカツチ の ドロ の ナカ を ころげまわった。 おりかさなった ヒトビト が ようやく フタリ を ひきわけた とき は、 サトウ は どこ か したたか キズ を おって しんだ よう に あおく なって いた。 チュウサイ した モノ は カカリアイ から やむなく、 ニンエモン に つきそって ハナシ を つける ため に サトウ の コヤ まで マワリミチ を した。 コヤ の ナカ では サトウ の チョウジョ が スミ の ほう に まるまって いたい いたい と いいながら まだ なきつづけて いた。 ロ を アイダ に おいて サトウ の ツマ と ヒロオカ の ツマ とは サシムカイ に ののしりあって いた。 サトウ の ツマ は アグラ を かいて ながい ヒバシ を ミギテ に にぎって いた。 ヒロオカ の ツマ も セ に アカンボウ を しょって、 ハヤクチ に いいつのって いた。 カオ を チダラケ に して ドロマミレ に なった サトウ の アト から ニンエモン が はいって くる の を みる と、 サトウ の ツマ は ワケ を きく こと も せず に がたがた ふるえる ハ を かみあわせて サル の よう に クチビル の アイダ から むきだしながら ニンエモン の マエ に たちはだかって、 とびだしそう な イカリ の メ で にらみつけた。 モノ が いえなかった。 いきなり ヒバシ を ふりあげた。 ニンエモン は タワイ も なく それ を うばいとった。 かみつこう と する の を おしのけた。 そして チュウサイシャ が イッパイ のもう と すすめる の も きかず に ツマ を うながして ジブン の コヤ に かえって いった。 サトウ の ツマ は スハダシ の まま ニンエモン の セ に バリ を あびせながら フューリー の よう に ついて きた。 そして コヤ の マエ に たちはだかって、 さえずる よう に なかば ムチュウ で ニンエモン フウフ を ののしりつづけた。
 ニンエモン は おしだまった まま イロリ の ヨコザ に すわって サトウ の ツマ の キョウタイ を みつめて いた。 それ は ニンエモン には イガイ の ケッカ だった。 カレ の キブン は ミョウ に かたづかない もの だった。 カレ は サトウ の ツマ の ジブン から とつぜん はなれた の を おこったり おかしく おもったり おしんだり して いた。 ニンエモン が とりあわない ので カノジョ は さすが に コヤ の ナカ には はいらなかった。 そして しわがれた コエ で おめきさけびながら アメ の ナカ を かえって いって しまった。 ニンエモン の クチ の ヘン には いかにも ニンゲン-らしい ヒニク な ユガミ が あらわれた。 カレ は けっきょく ジブン の チエ の タリナサ を かんじた。 そして ままよ と おもって いた。
 スベテ の キョウミ が まったく さった の を カレ は おぼえた。 カレ は すこし つかれて いた。 はじめて ホントウ の ジジョウ を しった ツマ から シット-がましい しつこい コトバ でも きいたら すこし の ドウラクゲ も なく、 どれほど な ザンギャク な こと でも やりかねない の を しる と、 カレ は すこし ジブン の ココロ を おそれねば ならなかった。 カレ は ツマ に モノ を いう キカイ を あたえない ため に ツギ から ツギ へ と メイレイ を レンパツ した。 そして おそい ヒルメシ を したたか くった。 がらっと ハシ を おく と ドロダラケ な ビショヌレ な キモノ の まま で また ぶらり と コヤ を でた。 この ムラ に はいりこんだ バクト ら の はって いた トバ を さして カレ の アシ は しょうことなし に むいて いった。

 5

 よく これほど ある もん だ と おもわせた ナガアメ も 1 カゲツ ほど ふりつづいて ようやく はれた。 イッソクトビ に ナツ が きた。 いつのまに ハナ が さいて ちった の か、 テンキ に なって みる と ハヤシ の アイダ に ある ヤマザクラ も、 コブシ も あおあお と した ヒロバ に なって いた。 ムシブロ の よう な キモチ の わるい アツサ が おそって きて、 ハタケ の ナカ の ザッソウ は サクモツ を のりこえて ムグラ の よう に のびた。 アメ の ため いためられた に ソウイ ない と、 ナガアメ の ただ ヒトツ の クドク に ノウフ ら の いいあった コンチュウ も、 すさまじい イキオイ で ハッセイ した。 キャベツ の マワリ には エゾ シロチョウ が おびただしく とびまわった。 ダイズ には クチカキムシ の セイチュウ が うざうざ する ほど あつまった。 ムギルイ には クロボ の、 バレイショ には ベトビョウ の チョウコウ が みえた。 アブ と ブヨ とは シゼン の セッコウ の よう に もやもや と とびまわった。 ぬれた まま に つみかさねて おいた ヨゴレモノ を かけわたした コヤ の ナカ から は、 あらん カギリ の ノウフ の カゾク が エモノ を もって ハタケ に でた。 シゼン に はむかう ヒッシ な ソウトウ の マク は ひらかれた。
 ハナウタ も うたわず に、 アセ を ヒリョウ の よう に ハタケ の ツチ に したたらしながら、 ノウフ は コシ を フタツ に おって ジメン に かじりついた。 コウバ は クビ を さげられる だけ さげて、 かわききらない ツチ の ナカ に アシ を ふかく ふみこみながら、 たえず シリッポ で アブ を おった。 しゅっ と オト を たてて おそって くる ケ の タバ に したたか うたれた アブ は、 チ を すって まるく なった まま、 ウマ の ハラ から ぽとり と チ に おちた。 アオムケ に なって ハリガネ の よう な アシ を のばしたり ちぢめたり して もがく サマ は イノチ の うすれる もの の よう に みえた。 しばらく する と しかし それ は また キヨウ に ハネ を つかって おきかえった。 そして よろよろ と クサ の ハウラ に はいよった。 そして 14~15 フン の ノチ には また ハネ を はって ウナリ を たてながら、 メ を いる よう な ヒ の ヒカリ の ナカ に いさましく とびたって いった。
 ナツモノ が みな ムサク と いう ほど の フデキ で ある のに、 アマ だけ は ヘイネンサク ぐらい には まわった。 アオ ビロード の ウミ と なり、 ルリイロ の ジュウタン と なり、 あらくれた シゼン の ナカ の ヒメギミ なる アマ の ハタケ は やがて コモン の よう な ミ を その センサイ な クキ の サキ に むすんで うつくしい キツネイロ に かわった。
「こんな に アマ を つけて は シヨウ が ねえ で ねえ か。 ハタケ が かれて アトチ には なんだって でき は しねえ ぞ。 こまる な」
 ある とき チョウバ が みまわって きて、 ニンエモン に こう いった。
「オラ が も こまる だ。 ワレ が こまる と オラ が こまる とは コマリヨウ が どだい ちがわい。 クチ が ひあがる ん だあぞ オラ が の は」
 ニンエモン は つっけんどん に こう いいはなった。 カレ の マエ に ある オキテ は まず くう こと だった。
 カレ は ある ヒ アマ の タバ を みあげる よう に バリキ に つみあげて クッチャン の セイセンジョ に でかけた。 セイセンジョ では わりあい に ハカリ を よく かって くれた ばかり で なく、 タ の チホウ が フサク な ため に ケツジツ が なかった ので、 アマダネ を ヒジョウ な タカネ で ひきとる ヤクソク を して くれた。 ニンエモン の フトコロ の ナカ には テドリ 100 エン の カネ が あたたかく しまわれた。 カレ は ハタケ に まだ しこたま のこって いる アマ の こと を かんがえた。 カレ は イザカヤ に はいった。 そこ には K ムラ では みられない よう な きれい な カオ を した オンナ も いた。 ニンエモン の サケ は かならずしも カレ を きまった カタ には よわせなかった。 ある とき は カレ を おこりっぽく、 ある とき は ユウウツ に、 ある とき は ランボウ に、 ある とき は キゲン よく した。 その ヒ の サケ は もちろん カレ を ジョウキゲン に した。 イッショ に のんで いる モノ が リガイ カンケイ の ない の も カレ には ココロオキ が なかった。 カレ は よう まま に おおきな コエ で ジョウダングチ を きいた。 そういう とき の カレ は おおきな おろか な コドモ だった。 いあわせた モノ は つりこまれて カレ の シュウイ に あつまった。 オンナ まで ひっぱられる まま に カレ の ヒザ に よりかかって、 カレ の ホオズリ を ムジャキ に うけた。
「ワレ が の ホオ に オラ が ヒゲコ おえたら おかしかん べ なし」
 カレ は そんな こと を いった。 おもい その クチ から これ だけ の ジョウダン が でる と オンナ なぞ は ハラ を かかえて わらった。 ヒ が かげる コロ に カレ は イザカヤ を でて タンモノヤ に よって ハデ な モスリン の ハギレ を かった。 また ビール の コビン を 3 ボン と アブラカス と を バシャ に つんだ。 クッチャン から K ムラ に かよう コクドウ は マッカリ ヌプリ の ヤマスソ の トドマツ-タイ の アイダ を ぬって いた。 カレ は バリキ の ウエ に アグラ を かいて ビン から クチウツシ に ビール を あおりながら ダミウタ を コダマ に ひびかせて いった。 イクカカエ も ある トドマツ は シダ の ナカ から マッスグ に テン を ついて、 わずか に のぞかれる ソラ には ヒルヅキ が すこし ひかって ミエガクレ に ながめられた。 カレ は ついに バリキ の ウエ に よいたおれた。 ものなれた ウマ は デコボコ の ヤマミチ を ジョウズ に ひろいながら あるいて いった。 バシャ は かしいだり はねたり した。 その ナカ で カレ は こころよい ユメ に はいったり、 おもしろい ウツツ に でたり した。
 ニンエモン は ふと ジュクスイ から やぶられて メ を さました。 その メ には すぐ カワモリ ジイサン の まじめくさった イッテツ な カオ が うつった。 ニンエモン の かるい キブン には その カオ が いかにも おかしかった ので、 カレ は おきあがりながら コエ を たてて わらおう と した。 そして ジブン が バリキ の ウエ に いて ジブン の コヤ の マエ に きて いる こと に キ が ついた。 コヤ の マエ には チョウバ も サトウ も クミチョウ の ナニガシ も いた。 それ は この コヤ の マエ では みなれない コウケイ だった。 カワモリ は ニンエモン が メ を さました の を みる と、
「はよう ウチ さ いく べし。 ワレ が ニガ は おっちぬ べえ ぞ。 セキリ さ とっつかれた だ」
と いった。 タワイ の ない ユメ から イッソクトビ に この おそろしい ゲンジツ に よびさまされた カレ の ココロ は、 サイショ に カレ の カオ を タカワライ に くずそう と した が、 すぐ ツギ の シュンカン に、 カレ の カオ の キンニク を いちどきに ひきしめて しまった。 カレ は カオジュウ の チ が イチジ に アタマ の ナカ に とびのいた よう に おもった。 ニンエモン は ヨイ が イチジ に さめて しまって バリキ から とびおりた。 コヤ の ナカ には まだ 2~3 ニン ヒト が いた。 ツマ は と みる と ムシ の イキ に よわった アカンボウ の ソバ に うずくまって おいおい ないて いた。 カサイ が レイ の フルカバン を ヒザ に ひっつけて その ナカ から ゴフ の よう な もの を とりだして いた。
「お、 ヒロオカ さん ええ ところ に かえった ぞな」
 カサイ が いちはやく ニンエモン を みつけて こう いう と、 ニンエモン の ツマ は おそれる よう に うらむ よう に うったえる よう に オット を みかえって、 だまった まま なきだした。 ニンエモン は すぐ アカンボウ の ところ に いって みた。 タコ の よう な おおきな アタマ だけ が カレ の アカンボウ-らしい ただ ヒトツ の もの だった。 たった ハンニチ の うち に こう も かわる か と うたがわれる まで に その ちいさな もの は おとろえほそって いた。 ニンエモン は それ を みる と ハラ が たつ ほど さびしく こころもとなく なった。 イマ まで ケイケン した こと の ない ナツカシサ カワイサ が やく よう に ココロ に せまって きた。 カレ は もった こと の ない もの を しいて おしつけられた よう に トウワク して しまった。 その おしつけられた もの は おそろしく おもい つめたい もの だった。 ナニ より も まず カレ は ハラ の チカラ の ぬけて ゆく よう な ココロモチ を いまいましく おもった が どう シヨウ も なかった。
 もったいぶって カサイ が ゴフ を おしいただき、 それ で アカンボウ の フクブ を ジュモン を となえながら なでまわす の が ユイイツ の チカラ に おもわれた。 ソバ に いる ヒトタチ も キセキ の あらわれる の を まつ よう に カサイ の する こと を みまもって いた。 アカンボウ は チカラ の ない あわれ な コエ で なきつづけた。 ニンエモン は ハラワタ を むしられる よう だった。 それでも ないて いる アイダ は まだ よかった。 アカンボウ が なきやんで おおきな メ を ひっつらした まま マバタキ も しなく なる と、 ニンエモン は おぞましく も おがむ よう な メ で カサイ を みまもった。 コヤ の ナカ は ヒトイキレ で むす よう に あつかった。 カサイ の はげあがった ヒタイ から は アセ の タマ が たらたら と ながれでた。 それ が ニンエモン には とうとく さえ みえた。 コハントキ アカンボウ の ハラ を なでまわす と、 カサイ は また フルカバン の ナカ から カミヅツミ を だして おしいただいた。 そして クチ に テヌグイ を くわえて それ を ひらく と、 1 スン シホウ ほど な ナニ か ジ の かいて ある カミキレ を つまみだして ユビ の サキ で まるめた。 ミズ を もって こさして それ を その ナカ へ ひたした。 ニンエモン は それ を アカンボウ に のませろ と さしだされた が、 のませる だけ の ユウキ も なかった。 ツマ は かいがいしく オット に かわった。 かわききって いた アカンボウ は よろこんで それ を のんだ。 ニンエモン は ありがたい と おもって いた。
「ワシ も コ は なくした オボエ が ある で、 オヌシ の ココロモチ は よう わかる。 この コ を たすけよう と おもったら なんせ イッシン に テンリオウ サマ に たのまっしゃれ。 な。 ガッテン か。 ニンゲンワザ では およばぬ こと じゃ でな」
 カサイ は そう いって シタリガオ を した。 ニンエモン の ツマ は なきながら テ を あわせた。
 アカンボウ は ツヅケサマ に チ を くだした。 そして コヤ の ナカ が マックラ に なった ヒ の クレグレ に、 ナニモノ に か タスケ を もとめる オトナ の よう な ヒョウジョウ を メ に あらわして、 アテド も なく そこら を みまわして いた が、 しだいしだい に イキ が たえて しまった。
 アカンボウ が しんで から ソンイ は ジュンサ に つれられて ようやく やって きた。 コウデン-ガワリ の カミヅツミ を もって チョウバ も きた。 チョウチン と いう みなれない モノ が コヤ の ナカ を でたり はいったり した。 ニンエモン フウフ の かぎつけない セキタンサン の ニオイ は フタリ を コヤ から おいだして しまった。 フタリ は カワモリ に つきそわれて ニシ に まわった ツキ の ヒカリ の シタ に しょんぼり たった。
 セワ に きた ヒトタチ は ヒトリ さり フタリ さり、 やがて カワモリ も カサイ も さって しまった。
 ミズ を うった よう な ヨル の スズシサ と シズカサ との ナカ に かすか な ムシ の ネ が して いた。 ニンエモン は なんと いう こと なし に ツマ が シャク に さわって たまらなかった。 ツマ は また なんと いう こと なし に オット が にくまれて ならなかった。 ツマ は バリキ の ソバ に うずくまり、 ニンエモン は アテ も なく ツバ を はきちらしながら コヤ の マエ を いったり かえったり した。 ヨソ の ノウカ で この キョウジ が あったら すくなくとも トナリキンジョ から 2~3 ニン の モノ が よりあって、 かって だした サケ でも のみちらしながら、 なにかと ハナシ でも して ヨ を ふかす の だろう。 ニンエモン の ところ では カワモリ さえ いのこって いない の だ。 ツマ は それ を ココロ から さびしく おもって しくしく と ないて いた。 ものの 3 ジカン も フタリ は そうした まま で なにも せず に ぼんやり コヤ の マエ で ツキ の ヒカリ に あわれ な スガタ を さらして いた。
 やがて ニンエモン は ナニ を おもいだした の か のそのそ と コヤ の ナカ に はいって いった。 ツマ は メ に カド を たてて クビ だけ ウシロ に まわして ホラアナ の よう な コヤ の イリグチ を みかえった。 しばらく する と ニンエモン は アカンボウ を せおって、 1 チョウ の クワ を ミギテ に さげて コヤ から でて きた。
「ついて こう」
 そう いって カレ は すたすた と コクドウ の ほう に でて いった。 カンタン な ナキゴエ で ドウブツ と ドウブツ と が タガイ を リカイ しあう よう に、 ツマ は ニンエモン の しよう と する こと が のみこめた らしく、 のっそり と たちあがって その アト に したがった。 そして めそめそ と なきつづけて いた。
 フウフ が ゆきついた の は コクドウ を 10 チョウ も クッチャン の ほう に きた ヒダリテ の オカ の ウエ に ある ムラ の キョウドウ ボチ だった。 そこ の ウエ から は マツカワ ノウジョウ を イチメン に みわたして、 ルベシベ、 ニセコアン の レンザン も カワムカイ の コンブダケ も テ に とる よう だった。 ナツ の ヨル の トウメイ な クウキ は あおみわたって、 ツキ の ヒカリ が リン の よう に スベテ の ひかる もの の ウエ に やどって いた。 カ の ムレ が わんわん うなって フタリ に おそいかかった。
 ニンエモン は シタイ を せおった まま、 ちいさな ボヒョウ や セキトウ の たちつらなった アイダ の アキチ に アナ を ほりだした。 クワ の ツチ に くいこむ オト だけ が ケシキ に すこしも チョウワ しない にぶい オト を たてた。 ツマ は しゃがんだ まま で ときどき ホオ に くる カ を たたきころしながら ないて いた。 3 ジャク ほど の アナ を ほりおわる と ニンエモン は クワ の テ を やすめて ヒタイ の アセ を テノコウ で おしぬぐった。 ナツ の ヨル は しずか だった。 その とき とつぜん おそろしい カンガエ が カレ の トムネ を ついて うかんだ。 カレ は その カンガエ に ジブン ながら おどろいた よう に あきれて メ を みはって いた が、 やがて オオゴエ を たてて ガンドウ の ごとく なきおめきはじめた。 その コエ は みにくく ものすごかった。 ツマ は きょとん と して、 カオジュウ を ナミダ に しながら おそろしげ に オット を みまもった。
「カサイ の シコクザル め が、 ニガ こと ころした だ。 ころした だあ」
 カレ は みにくい ナキゴエ の ナカ から そう さけんだ。
 ヨクジツ カレ は また アマ の タバ を バリキ に つもう と した。 そこ には ハデ な モスリン の ハギレ が ランウン の ナカ に あらわれた ニジ の よう に しっとり アサツユ に しめった まま きたない バリキ の ウエ に しまいわすれられて いた。

 6

 キョウボウ な ニンエモン は アカンボウ を なくして から テ が つけられない ほど キョウボウ に なった。 その キョウボウ を つのらせる よう に はげしい セイカ が きた。 ハルサキ の ナガアメ を つぐなう よう に アメ は イッテキ も ふらなかった。 アキ に シュウカク す べき サクモツ は ウラハ が カタッパシ から キイロ に かわった。 シゼン に テイコウ しきれない シツボウ の コエ が、 だまりこくった ノウフ の スガタ から さけばれた。
 イッコク の ヒマ も ない ノウハン の マッサイチュウ に ウマイチ が シガイチ に たった。 フダン ならば ヒトビト は ミムキ も しない の だ が、 ハタサク を なげて しまった ノウフ ら は、 ステバチ な キブン に なって、 ウマ の バイバイ に でも タショウ の モウケ を みよう と した から、 マエゲイキ は おもいのほか つよかった。 トウジツ には キンソン から さえ ケンブツ が きた ほど にぎわった。 ちょうど ノウジョウ ジムショ ウラ の アキチ に カリゴヤ が たてられて、 ツメ まで みがきあげられた コウバ が 30 トウ ちかく あつまった。 その ナカ で ニンエモン の だした ウマ は ことに ヒト の メ を ひいた。
 その ヨクジツ には ケイバ が あった。 ジョウシュ まで わざわざ ハコダテ から やって きた。 ヤタイミセ や ミセモノゴヤ が かかって、 サイレイ に ツウユウ な ニオイ の むしむし する アイダ を きかざった ムスメ たち が、 シゲキ の つよい イロ を ふりまいて あるいた。
 ケイバジョウ の ラチ の シュウイ は ヒトガキ で うまった。 3~4 ケン の ノウジョウ の シュジン たち は ケッショウテン の ところ に イチダン たかく サジキ を しつらえて そこ から ケンブツ した。 マツカワ ジョウシュ の ソバ には コドモ に つきそって カサイ の ムスメ が すわって いた。 その ムスメ は 2~3 ネン マエ から ハコダテ に でて マツカワ の イエ に ホウコウ して いた の だ。 チチ に にて ホソオモテ の カノジョ は ハコダテ の セイカツ に ミガキ を かけられて、 この ヘン では きわだって アカヌケ が して いた。 ケイバ に くわわる わかい モノ は その ミョウレイ な ムスメ の マエ で テガラ を みせよう と あらそった。 ヒト の メカケ に メボシ を つけて ナン に なる と ヒニク を いう モノ も あった。
 なにしろ ケイバ は ヒジョウ な ケイキ だった。 ショウブ が つく たび に あがる カッサイ の コエ は かわいた クウキ を つたわって、 ヒトビト を イエ の ウチ に じっと さして は おかなかった。
 ニンエモン は その コロ バクチ に ふけって いた。 ハジメ の うち は わざと まけて みせる バクト の シュダン に うまうま と のせられて、 いきおいこんだ の が シッパイ の モト で、 フカイリ する ほど ソン を した が、 ソン を する ほど フカイリ しない では いられなかった。 アマ の シュウリ は とうの ムカシ に けしとんで いた。 それでも ウマ は こんりんざい うる キ が なかった。 あます ところ は カラスムギ が ある だけ だった が、 これ は タネマキドキ から ジムショ と ケイヤク して、 ジムショ から イッテ に リクグン リョウマツショウ に おさめる こと に なって いた。 その ほう が キョウソウ して ショウニン に うる の より も ワリ が よかった の だ。 ショウニン ども は この ボイコット を どうして みすごして いよう。 カレラ は ノウカ の コベツ ホウモン を して リョウマツショウ より も はるか に コウカ に ひきうける と カンユウ した。 リョウマツショウ から カイイレ ダイキン が さがって も それ は いちおう ジムショ に まとまって さがる の だ。 その ナカ から コサクリョウ だけ を さしひいて コサクニン に わたす の だ から、 ノウジョウ と して は コサクリョウ を カイシュウ する うえ に これほど ベンリ な こと は ない。 コサクリョウ を はらうまい と ケッシン して いる ニンエモン は バカ な ハナシ だ と おもった。 カレ は ハラ を きめた。 そして ケイバ の ため に ヒト の チュウイ が おろそか に なった キカイ を みすまして、 ショウニン と ケッタク して、 ジムショ へ まわす べき カラスムギ を どんどん ショウニン に わたして しまった。
 ニンエモン は この トリヒキ を すまして から ケイバジョウ に やって きた。 カレ は ジブン の ウマ で キョウソウ に くわわる はず に なって いた から だ。 カレ は ハダカノリ の メイジン だった。
 ジブン の バン が くる と カレ は クラ も おかず に ジブン の ウマ に のって でて いった。 ヒトビト は その ウマ を みる と ケイイ を はらう よう に たがいに うなずきあって コトシ の セリ では イチバンモノ だ と ほめあった。 ニンエモン は そういう ササヤキ を きく と いい キモチ に なって、 いや でも かって みせる ぞ と おもった。 6 トウ の ウマ が スタート に ちかづいた。 さっと ハタ が おりた とき ニンエモン は わざと でおくれた。 カレ は ホカ の ウマ の アト から ウチワ へ ウチワ へ と よって、 すこし タヅナ を ひきしめる よう に して かけさした。 ほてった カレ の カオ から ミミ に かけて ホコリ を ふくんだ カゼ が イキ の つまる ほど ふきかかる の を カレ は こころよく おもった。 やがて ババ を 8 ブンメ ほど まわった コロ を はかって タヅナ を ゆるめる と ウマ は おもいぞんぶん クビ を のばして ずんずん おくれた ウマ から ぬきだした。 カレ が ムチ と アオリ で ウマ を せめながら サイショ から メボシ を つけて いた セントウ の ウマ に おいせまった とき には ケッショウテン が ちかかった。 カレ は いらだって びしびし と ムチ を くれた。 ハジメ は ジブン の ウマ の ハナ が アイテ の ウマ の シリ と スレスレ に なって いた が、 やがて イッポ イッポ 2 トウ の キョリ は ちぢまった。 キョウキ の よう な カンコ が ムチュウ に なった カレ の ミミ にも あきらか に ひびいて きた。 もう ヒトイキ と カレ は おもった。 ――その とき とつぜん サジキ の シタ で あそんで いた マツカワ ジョウシュ の コドモ が よたよた と ラチ の ナカ へ はいった。 それ を みた カサイ の ムスメ は ワレ を わすれて かけこんだ。 「あぶねえ」 ――カンシュウ は イチド に カタズ を のんだ。 その とき セントウ に いた ウマ は ムスメ の ハデ な キモノ に おどろいた の か、 さっと きれて ニンエモン の ウマ の マエ に でた。 と おもう ヒマ も なく ニンエモン は クウチュウ に とびあがって、 やがて たたきつけられる よう に ジメン に ころがって いた。 カレ は キジョウ にも ころがりながら すっくと おきあがった。 すぐ カレ の ウマ の ところ に とんで いった。 ウマ は まだ おきて いなかった。 アトアシ で ハンドウ を とって おきそう に して は、 マエアシ を おって たおれて しまった。 クンレン の ない ケンブツニン は ウシオ の よう に ニンエモン と ウマ との マワリ に おしよせた。
 ニンエモン の ウマ は マエアシ を フタアシ とも おって しまって いた。 ニンエモン は ぼんやり した まま、 フシギ そう な カオ を して おしよせた ヒトナミ を みまもって たってる ホカ は なかった。
 ジュウイ の ココロエ も ある テイテツヤ の カオ を グンシュウ の ナカ に みいだして ようやく ショウキ に かえった ニンエモン は、 ウマ の シマツ を たのんで すごすご と ケイバジョウ を でた。 カレ は ジブン で ナニ が なんだか ちっとも わからなかった。 カレ は ムユウビョウシャ の よう に ヒト の アイダ を おしわけて あるいて いった。 ジムショ の カド まで くる と なんと いう こと なし に いきなり ミチ の コイシ を フタツ ミッツ つかんで イリグチ の ガラスド に たたきつけた。 3 マイ ほど の ガラス は ミジン に くだけて とびちった。 カレ は その オト を きいた。 それ は しかし ミミ を おさえて きく よう に トオク の ほう で きこえた。 カレ は ゆうゆう と して また そこ を あゆみさった。
 カレ が キ が ついた とき には、 どっち を どう あるいた の か、 コンブダケ の シタ を ながれる シリベシ-ガワ の カワギシ の マルイシ に こしかけて ぼんやり カワヅラ を ながめて いた。 カレ の メノマエ を トウメイ な ミズ が アト から アト から おなじ よう な カモン を えがいて は けし えがいて は けして ながれて いた。 カレ は じっと その タワムレ を みつめながら、 とおい カコ の キオク でも おう よう に キョウ の デキゴト を アタマ の ナカ で おもいうかべて いた。 スベテ の こと が ヒトゴト の よう に ジュンジョ よく テ に とる よう に キオク に よみがえった。 しかし ジブン が ほうりだされる ところ まで くる と キオク の イト は ぷっつり きれて しまった。 カレ は そこ の ところ を イクド も ムカンシン に くりかえした。 カサイ の ムスメ―― カサイ の ムスメ―― カサイ の ムスメ が どうした ん だ―― カレ は ジモン ジトウ した。 だんだん メ が かすんで きた。 カサイ の ムスメ…… カサイ…… カサイ だな ウマ を カタワ に した の は。 そう かんがえて も カサイ は カレ に まったく カンケイ の ない ニンゲン の よう だった。 その ナ は カレ の カンジョウ を すこしも うごかす チカラ には ならなかった。 カレ は そうした まま で ふかい ネムリ に おちて しまった。
 カレ は ヨナカ に なって から ひょっくり コヤ に かえって きた。 イリグチ から ぷんと セキタンサン の ニオイ が した。 それ を かぐ と カレ は はじめて ショウキ に かえって あらためて ジブン の コヤ を ものめずらしげ に ながめた。 そう なる と カレ は ユメ から さめる よう に つまらない ゲンジツ に かえった。 にぶった イシキ の ハンドウ と して こまかい こと にも するどく シンケイ が はたらきだした。 セキタンサン の ニオイ は ナニ より も まず しんだ アカンボウ を カレ に おもいださした。 もし ツマ に ケガ でも あった の では なかった か―― カレ は ロ の きえて マックラ な コヤ の ナカ を テサグリ で ツマ を たずねた。 メ を さまして おきかえった ツマ の ケハイ が した。
「イマゴロ まで どこ さ いた だ。 ウマ は ムラ の シュウ が つれて かえった に。 いたわしい こと べ おっびろげて はあ」
 ツマ は ねむって いなかった よう な はっきり した コエ で こう いった。 カレ は ヤミ に なれて きた メ で コヤ の カタスミ を すかして みた。 ウマ は マエアシ に オモミ が かからない よう に、 ハラ に ムシロ を あてがって ムネ の ところ を ハリ から つるして あった。 リョウホウ の ヒザガシラ は しろい キレ で まいて あった。 その しろい イロ が すべて くろい ナカ に はっきり と ニンエモン の メ に うつった。 セキタンサン の ニオイ は そこ から ただよって くる の だった。 カレ は ヒノケ の ない イロリ の マエ に、 ワラジバキ で アタマ を たれた まま アグラ を かいた。 ウマ も こそっ とも オト を させず に だまって いた。 カ の なく コエ だけ が クウキ の ササヤキ の よう に かすか に きこえて いた。 ニンエモン は ヒザガシラ で ウデ を くみあわせて、 ねよう とは しなかった。 ウマ と カレ は たがいに あわれむ よう に みえた。
 しかし ヨクジツ に なる と カレ は また この ダゲキ から はねかえって いた。 カレ は マエ の とおり な キョウボウ な カレ に なって いた。 カレ は プラオ を うって カネ に かえた。 ザッコクヤ から は、 カラスムギ が うれた とき ジムショ から チョクセツ に ダイカ を しはらう よう に する から と いって、 ムギ や ダイズ の マエガリ を した。 そして バリキ を たのんで それ を ジブン の コヤ に はこばして おいて、 トバ に でかけた。
 ケイバ の ヒ の バン に ムラ では イチダイジ が おこった。 その バン おそく まで カサイ の ムスメ は マツカワ の ところ に かえって こなかった。 こんな バン に わかい ダンジョ が ハタケ の オク や モリ の ナカ に スガタ を かくす の は めずらしい こと でも ない ので ハジメ の うち は うちすてて おいた が、 あまり おそく なる ので、 カサイ の コヤ を たずねさす と そこ にも いなかった。 カサイ は おどろいて とんで きた。 しかし ひろい サンヤ を どう サガシヨウ も なかった。 ヨ の アケアケ に ダイソウサク が おこなわれた。 ムスメ は カワゾイ の クボチ の ハヤシ の ナカ に シッシン して たおれて いた。 ショウキ-づいて から ききただす と、 おおきな オトコ が むりやり に ムスメ を そこ に つれて いって ザンギャク を きわめた ハズカシメカタ を した の だ と わかった。 カサイ は ヒロオカ の ナ を いって シタリガオ に コクビ を かたむけた。 ジムショ の ガラス を ヒロオカ が こわす の を みた と いう モノ が でて きた。
 ハンニン の ソウサク は きわめて ヒミツ に、 ドウジ に こんな イナカ に して は ゲンジュウ に おこなわれた。 ジョウシュ の マツカワ は すくなからざる ケンショウ まで した。 しかし テガカリ は かいもく つかなかった。 ウタガイ は ミョウ に ヒロオカ の ほう に かかって いった。 アカンボウ を ころした の は カサイ だ と ヒロオカ の しじゅう いう の は ダレ でも しって いた。 ヒロオカ の ウマ を つまずかした の は カンセツ ながら カサイ の ムスメ の シワザ だった。 テイテツヤ が ウマ を ヒロオカ の ところ に つれて いった の は ヨル の 10 ジ-ゴロ だった が ヒロオカ は コヤ に いなかった。 その バン ヒロオカ を ムラ で みかけた モノ は ヒトリ も なかった。 トバ に さえ いなかった。 ニンエモン に フリエキ な イロイロ な ジジョウ は イロイロ に かぞえあげられた が、 グタイテキ な ショウコ は すこしも あがらない で ナツ が くれた。
 アキ の シュウカクジ に なる と また アメ が きた。 カンソウ が できない ため に、 せっかく みのった もの まで くさる シマツ だった。 コサク は わやわや と ジムショ に あつまって コサクリョウ ワリビキ の タンガン を した が ムエキ だった。 カレラ は あんのじょう カラスムギ ウリアゲ ダイキン の ナカ から ゲンミツ に コサクリョウ を コウジョ された。 ライシュン の タネ は おろか、 フユ の アイダ を ささえる ショクリョウ も マンゾク に えられない ノウフ が たくさん できた。
 その アイダ に あって ニンエモン だけ は カラスムギ の こと で ジムショ に ハヤク した ばかり で なく、 イチモン の コサクリョウ も おさめなかった。 きれい に おさめなかった。 ハジメ の アイダ チョウバ は なだめつ すかしつ して いくらか でも おさめさせよう と した が、 どうしても おうじない ので、 ザイサン を さしおさえる と おどかした。 ニンエモン は ヘイキ だった。 おさえよう と いって ナニ を おさえよう ぞ、 コヤ の ダイキン も まだ ジムショ に おさめて は なかった。 カレ は それ を しりぬいて いた。 ジムショ から は サイゴ の シュダン と して タショウ の ソン は して も タイジョウ さす と せまって きた。 しかし カレ は がん と して うごかなかった。 ペテン に かけられた ザッコクヤ を ハジメ ショ-ショウニン は カシキン の ガンキン は おろか リシ さえ ださせる こと が できなかった。

 7

「まだ か」、 この ナ は ムラジュウ に キョウフ を まいた。 カレ の カオ を だす ところ には ヒトビト は スガタ を かくした。 カワモリ さえ とうの ムカシ に ニンエモン の ホショウ を とりけして、 ニンエモン に タイジョウ を せまる ヒト と なって いた。 シガイチ でも ノウジョウ-ナイ でも カレ に ユウズウ を しよう と いう モノ は ヒトリ も なくなった。 サトウ の フウフ は イクド も ジムショ に いって はやく ヒロオカ を タイジョウ させて くれなければ ジブン たち が タイジョウ する と もうしでた。 チュウザイ ジュンサ すら ヒロオカ の ジケン に カンケイ する こと を ていよく さけた。 カサイ の ムスメ を おかした モノ は ――なんら の ショウコ が ない にも かかわらず―― ニンエモン に ソウイ ない と きまって しまった。 すべて ムラ の ナカ で おこった いかがわしい デキゴト は ヒトツ のこらず ニンエモン に なすりつけられた。
 ニンエモン は おしぶとく ハラ を すえた。 カレ は ジブン の ユメ を まだ とりけそう とは しなかった。 カレ の コウカイ して いる もの は バクチ だけ だった。 ライネン から それ に さえ テ を ださなければ、 そして コトシ ドウヨウ に はたらいて コトシ ドウヨウ の シュダン を とり さえ すれば、 3~4 ネン の アイダ に ひとかど まとまった カネ を つくる の は なんでも ない と おもった。 いまに みかえして くれる から―― そう おもって カレ は フユ を むかえた。
 しかし かんがえて みる と イロイロ な コンナン が カレ の マエ には よこたわって いた。 ショクリョウ は ヒトフユ ことかかぬ だけ は あって も、 カネ は あわれ な ほど より タクワエ が なかった。 ウマ は ケイバ イライ ハイブツ に なって いた。 フユ の アイダ カセギ に でれば、 その ルス に キ の よわい ツマ が コヤ から オイタテ を くう の は しれきって いた。 と いって コヤ に いのこれば イグイ を して いる ホカ は ない の だ。 ライネン の タネ さえ クメン の シヨウ の ない の は イマ から しれきって いた。
 タキビ に あたって、 きかなく なった ウマ の マエアシ を じっと みつめながら も かんがえこんだ まま くらす よう な ヒ が イクニチ も つづいた。
 サトウ を ハジメ カレ の ケイベツ しきって いる ジョウナイ の コサクシャ ども は、 おめおめ と コサクリョウ を しぼりとられ、 ショウニン に おもい マエガリ を して いる にも かかわらず、 とにかく さした クッタク も しない で フユ を むかえて いた。 ソウトウ の ユキガコイ の できない よう な コヤ は ヒトツ も なかった。 まずしい なり に あつまって サケ も のみあえば、 タスケアイ も した。 ニンエモン には ニンゲン が よって たかって カレ ヒトリ を テキ に まわして いる よう に みえた。
 フユ は エンリョ なく すすんで いった。 みわたす オオゾラ が まず ユキ に うめられた よう に どこ から どこ まで マッシロ に なった。 そこ から ユキ は こんこん と して トメド なく ふって きた。 ニンゲン の あわれ な ハイザン の アト を ものがたる ハタケ も、 かちほこった シゼン の リョウド で ある シンリン も ヒトシナミ に ユキ の シタ に うもれて いった。 イチヤ の うち に 1 シャク も 2 シャク も つもりかさなる ヒ が あった。 コヤ と コダチ だけ が ソラ と チ との アイダ に あって きたない シミ だった。
 ニンエモン は ある ヒ ヒザ まで はいる ユキ の ナカ を こいで ジムショ に でかけて いった。 いくらでも いい から ウマ を かって くれろ と たのんで みた。 チョウバ は あざわらって アシ の たたない ウマ は、 カネ を くう キカイ みたい な もの だ と いった。 そして シッペガエシ に アトガマ が できた から コヤ を たちのけ と せまった。 ぐずぐず して いる と イマ まで の よう な にえきらない こと は して おかない、 この ムラ の ジュンサ で まにあわなければ クッチャン から でも たのんで ショブン する から そう おもえ とも いった。 ニンエモン は チョウバ に モノ を いわれる と ミョウ に ムカッパラ が たった。 ハナ を あかして くれる から みて おれ と いいすてて コヤ に かえった。
 カネ を くう キカイ―― それ に ちがいなかった。 ニンエモン は フビンサ から イマ まで ウマ を いかして おいた の を コウカイ した。 カレ は ユキ の ナカ に ウマ を ひっぱりだした。 おいぼれた よう に なった ウマ は なつかしげ に シュジン の テ に ハナサキ を もって いった。 ニンエモン は ミギテ に かくして もって いた オノ で ミケン を くらわそう と おもって いた が、 どうしても それ が できなかった。 カレ は また ウマ を ひいて コヤ に かえった。
 その ヨクジツ カレ は ミジタク を して ハコダテ に でかけた。 カレ は ジョウシュ と ヒトケンカ して カサイ の しおおせなかった コサクリョウ の ケイゲン を ジッコウ させ、 ジブン も ノウジョウ に いつづき、 コサクシャ の カンジョウ をも やわらげて すこし は ジブン を イゴコチ よく しよう と おもった の だ。 カレ は キシャ の ナカ で ジブン の イイブン を ジュウブン に かんがえよう と した。 しかし レッシャ の ナカ の タクサン の ヒト の カオ は もう カレ の ココロ を フアン に した。 カレ は テキイ を ふくんだ メ で ヒトリヒトリ ねめつけた。
 ハコダテ の テイシャバ に つく と カレ は もう その タテモノ の コウダイ も ない のに キモ を つぶして しまった。 ブカッコウ な 2 カイ-ダテ の イタヤ に すぎない の だ けれども、 その 1 ポン の ハシラ にも カレ は おどろく べき ヒヨウ を ソウゾウ した。 カレ は また ユキ の かきのけて ある ひろい オウライ を みて おどろいた。 しかし カレ の ホコリ は そんな こと に まけて は いまい と した。 ややともすると おびえて ムネ の ナカ で すくみそう に なる ココロ を はげまし はげまし カレ は キョジン の よう に いたけだか に のそり のそり と ミチ を あるいた。 ヒトビト は ふりかえって シゼン から イマ きりとった ばかり の よう な この オトコ を みおくった。
 やがて カレ は マツカワ の ヤシキ に はいって いった。 ノウジョウ の ジムショ から ソウゾウ して いた の とは ハナシ に ならない ほど ちがった コウダイ な テイタク だった。 シキダイ を あがる とき に、 カレ は ツマゴ を ぬいで から、 ワレ にも なく テヌグイ を コシ から ぬいて アシ の ウラ を きれい に おしぬぐった。 すんだ ミズ の ヒョウメン の ホカ に、 シゼン には けっして ない なめらか に ひかった イタノマ の ウエ を、 カレ は キミ の わるい ツメタサ を かんじながら、 オク に アンナイ されて いった。 うつくしく きかざった ジョチュウ が シュジン の ヘヤ の フスマ を あける と、 イキ の つまる よう な キョウレツ な フカイ な ニオイ が カレ の ハナ を つよく おそった。 そして ヘヤ の ナカ は ナツ の よう に あつかった。
 イタ より も かたい タタミ の ウエ には トコロドコロ に ケモノ の カワ が しきつめられて いて、 ショウジ に ちかい おおきな シロクマ の ケガワ の ウエ の もりあがる よう な ザブトン の ウエ に、 ハッタン の ドテラ を きこんだ ジョウシュ が、 オオヒバチ に テ を かざして アグラ を かいて いた。 ニンエモン の スガタ を みる と ぎろっと にらみつけた メ を そのまま トコ の ほう に ふりむけた。 ニンエモン は ジョウシュ の ヒトメ で どやしつけられて はいる こと も え せず に シリゴミ して いる と、 ジョウシュ の メ が また トコノマ から こっち に かえって きそう に なった。 ニンエモン は 2 ド にらみつけられる の を おそれる あまり に、 ブキヨウ な アシドリ で タタミ の ウエ に にちゃっ にちゃっ と オト を させながら ジョウシュ の ハナサキ まで のそのそ あるいて いって、 できる だけ ちいさく キュウクツ そう に すわりこんだ。
「なにしに きた」
 ソコヂカラ の ある コエ に もう イチド どやしつけられて、 ニンエモン は おもわず カオ を あげた。 ジョウシュ は マックロ な おおきな マキタバコ の よう な もの を クチ に くわえて あおい ケムリ を ほがらか に ふいて いた。 そこ から は いきづまる よう な フカイ な ニオイ が カレ の ハナ の オク を つんつん シゲキ した。
「コサクリョウ の イチモン も おさめない で、 どの ツラ さげて きくさった。 ライネン から は タマシイ を いれかえろ。 そして ジギ の ヒトツ も する こと を おぼえて から でなおす なら でなおして こい。 バカ」
 そして ヘヤ を ゆする よう な タカワライ が きこえた。 ニンエモン が ジブン でも わからない こと を ネゴト の よう に いう の を、 ハジメ の アイダ は ききなおしたり、 おぎなったり して いた が、 やがて ジョウシュ は カンニンブクロ を きらした と いう ふう に こう どなった の だ。 ニンエモン は タカワライ の ヒトクギリ ごと に、 たたかれる よう に アタマ を すくめて いた が、 ジギ も せず に ムチュウ で たちあがった。 カレ の カオ は ヘヤ の アツサ の ため と、 のぼせあがった ため に ユゲ を ださん ばかり あかく なって いた。
 ニンエモン は すっかり うちくだかれて ジブン の ちいさな コヤ に かえった。 カレ には ノウジョウ の ソラ の ウエ まで も ジヌシ の ガンジョウ そう な おおきな テ が ひろがって いる よう に おもえた。 ユキ を ふくんだ クモ は いきぐるしい まで に カレ の アタマ を おさえつけた。 「バカ」 その コエ は ややともすると カレ の ミミ の ナカ で どなられた。 なんと いう クラシ の チガイ だ。 なんと いう ニンゲン の チガイ だ。 オヤカタ が ニンゲン なら オレ は ニンゲン じゃ ない。 オレ が ニンゲン なら オヤカタ は ニンゲン じゃ ない。 カレ は そう おもった。 そして ただ あきれて だまって かんがえこんで しまった。
 ソダ が ぶしぶし と いぶる その ムコウザ には、 ツマ が ボロ に つつまれて、 カミ を ぼうぼう と みだした まま、 おろか な メ と クチ と を フシアナ の よう に あけはなして ぼんやり すわって いた。 しんしん と ユキ は トメド なく ふりだして きた。 ツマ の ヒザ の ウエ には アカンボウ も いなかった。
 その バン から テンキ は ゲキヘン して フブキ に なった。 あくる アサ ニンエモン が メ を さます と、 ふきこんだ ユキ が アシ から コシ に かけて うっすら つもって いた。 するどい クチブエ の よう な ウナリ を たてて ふきまく カゼ は、 コヤ を めきり めきり と ゆすぶりたてた。 カゼ が おなぐ と めいる よう な シズカサ が イロリ まで せまって きた。
 ニンエモン は アサ から サケ を ほっした けれども イッテキ も アリヨウ は なかった。 ネオキ から ミョウ に おもいいって いる よう だった カレ は、 ナニ か の キッカケ に イキオイ よく たちあがって、 オノ を とりあげた。 そして ウマ の マエ に たった。 ウマ は なつかしげ に ハナサキ を つきだした。 ニンエモン は ムヒョウジョウ な カオ を して クチ を もごもご させながら ウマ の メ と メ との アイダ を おとなしく なでて いた が、 いきなり カラダ を うかす よう に ウシロ に そらして オノ を ふりあげた と おもう と、 チカラマカセ に その ミケン に うちこんだ。 うとましい オト が カレ の ハラ に こたえて、 ウマ は コエ も たてず に マエヒザ を ついて ヨコダオシ に どうと たおれた。 ケイレンテキ に アトアシ で ける よう な マネ を して、 ウルミ を もった メ は カレン にも ナニ か を みつめて いた。
「やれ こわい こと する で ねえ、 いたましい まあ」
 ススギモノ を して いた ツマ は、 ふりかえって この サマ を みる と、 おそろしい メツキ を して おびえる よう に たちあがりながら こう いった。
「だまれ ってば、 モノ いう と ワレ も たたきころされっぞ」
 ニンエモン は サツジンシャ が いきのこった モノ を おびやかす よう な ひくい しわがれた コエ で たしなめた。
 アラシ が キュウ に やんだ よう に フタリ の ココロ には かーん と した チンモク が おそって きた。 ニンエモン は だらん と さげた ミギテ に オノ を ぶらさげた まま、 ツマ は ゾウキン の よう に きたない フキン を ムネ の ところ に おしあてた まま、 はばかる よう に カオ を みあわせて つったって いた。
「ここ へ こう」
 やがて ニンエモン は うめく よう に オノ を ちょっと うごかして ツマ を よんだ。
 カレ は ツマ に てつだわせて ウマ の カワ を はぎはじめた。 なまぐさい ニオイ が コヤ いっぱい に なった。 あつい シタ を だらり と ヨコ に だした カオ だけ の カワ を のこして、 ウマ は やがて ハダカミ に されて ワラ の ウエ に かたく なって よこたわった。 しろい スジ と あかい ニク と が ブキミ な シマ と なって そこ に さらされた。 ニンエモン は カワ を ボウ の よう に まいて ワラナワ で しばりあげた。
 それから ニンエモン の いう まま に ツマ は コヤ の ナカ を かたづけはじめた。 せおえる だけ は ザッコク も ニヅクリ して ダイショウ フタツ の ニ が できた。 ツマ は オット の ココロモチ が わかる と また ながい くるしい ヒョウロウ の セイカツ を おもいやって おろおろ と なかん ばかり に なった が、 オット の あらだった キブン を おそれて ナミダ を のみこみ のみこみ した。 ニンエモン は コヤ の マンナカ に つったって スミ から スミ まで モクソク でも する よう に みまわした。 フタリ は だまった まま で ツマゴ を はいた。 ツマ が フロシキ を かぶって ニ を せおう と ニンエモン は ウシロ から たすけおこして やった。 ツマ は とうとう ミ を ふるわして なきだした。 イガイ にも ニンエモン は しかりつけなかった。 そして ジブン は おおきな ニ を かるがる と せおいあげて その ウエ に ウマ の カワ を のせた。 フタリ は いいあわせた よう に もう イチド コヤ を みまわした。
 コヤ の ト を あける と カオムケ も できない ほど ユキ が ふきこんだ。 ニ を せおって おもく なった フタリ の カラダ は まだ かたく ならない しろい ドロ の ナカ に コシ の アタリ まで うまった。
 ニンエモン は いったん ソト に でて から まて と いって ひきかえして きた。 ニモツ を せおった まま で、 カレ は ワラナワ の カタッポウ の ハシ を イロリ に くべ、 もう ヒトツ の ハシ を カベギワ に もって いって その ウエ に こまかく きざんだ バリョウ の ワラ を ふりかけた。
 テン も チ も ヒトツ に なった。 さっと カゼ が ふきおろした と おもう と、 セキセツ は ジブン の ほう から まいあがる よう に まいあがった。 それ が ヨコナグリ に なびいて ヤ より も はやく ソラ を とんだ。 サトウ の コヤ や その マワリ の コダチ は みえたり かくれたり した。 カゼ に むかった フタリ の ハンシン は たちまち しろく そまって、 こまかい ハリ で たえまなく さす よう な シゲキ は フタリ の カオ を マッカ に して カンカク を うしなわしめた。 フタリ は マツゲ に こおりつく ユキ を うちふるい うちふるい ユキ の ナカ を こいだ。
 コクドウ に でる と ユキミチ が ついて いた。 ふみかためられない フカミ に おちない よう に ニンエモン は サキ に たって セブミ を しながら あるいた。 おおきな ニ を せおった フタリ の スガタ は まろびがち に すこし ずつ うごいて いった。 キョウドウ ボチ の シタ を とおる とき、 ツマ は テ を あわせて そっち を おがみながら あるいた―― わざとらしい ほど たかい コエ を あげて なきながら。 フタリ が この ムラ に はいった とき は 1 トウ の ウマ も もって いた。 ヒトリ の アカンボウ も いた。 フタリ は それら の もの すら シゼン から うばいさられて しまった の だ。
 その ヘン から ジンカ は たえた。 ふきつける ユキ の ため に へしおられる カレエダ が ややともすると ナゲヤリ の よう に おそって きた。 ふきまく カゼ に もまれて キ と いう キ は マジョ の カミ の よう に みだれくるった。
 フタリ の ダンジョ は オモニ の シタ に くるしみながら すこし ずつ クッチャン の ほう に うごいて いった。
 トドマツ-タイ が ムコウ に みえた。 スベテ の キ が ハダカ に なった ナカ に、 この キ だけ は ユウウツ な アンリョク の ハイロ を あらためなかった。 マッスグ な ミキ が みわたす かぎり テン を ついて、 ドトウ の よう な カゼ の オト を こめて いた。 フタリ の ダンジョ は アリ の よう に ちいさく その ハヤシ に ちかづいて、 やがて その ナカ に のみこまれて しまった。

ある オンナ (ゼンペン)

 ある オンナ  (ゼンペン)  アリシマ タケオ  1  シンバシ を わたる とき、 ハッシャ を しらせる 2 バンメ の ベル が、 キリ と まで は いえない 9 ガツ の アサ の、 けむった クウキ に つつまれて きこえて きた。 ヨウコ は ヘイキ で それ ...