2015/12/06

ホウジョウキ

 ホウジョウキ

 カモ ノ チョウメイ

 ゆく カハ の ナガレ は たえず して、 しかも、 モト の ミヅ に あらず。 ヨドミ に うかぶ ウタカタ は、 かつ きえ、 かつ むすびて、 ひさしく とどまりたる タメシ なし。 ヨノナカ に ある ヒト と スミカ と、 また かく の ごとし。
 タマシキ の ミヤコ の ウチ に、 ムネ を ならべ、 イラカ を あらそへる、 たかき、 いやしき、 ヒト の スマヒ は、 ヨヨ を へて つきせぬ もの なれど、 これ を マコト か と たづねれば、 ムカシ ありし イヘ は まれ なり。 あるいは コゾ やけて コトシ つくれり。 あるいは オホイヘ ほろびて コイヘ と なる。 すむ ヒト も これ に おなじ。 トコロ も かはらず、 ヒト も おほかれど、 イニシヘ みし ヒト は、 20~30 ニン が ウチ に、 わづか に ヒトリ フタリ なり。 アシタ に しに、 ユフベ に うまるる ナラヒ、 ただ、 ミヅ の アワ にぞ にたりける。
 しらず、 うまれ しぬる ヒト、 いづかた より きたりて、 いづかた へ か さる。 また しらず、 カリ の ヤドリ、 タ が ため に か ココロ を なやまし、 ナニ に よりて か メ を よろこばしむる。 そ の アルジ と スミカ と、 ムジャウ を あらそふ サマ、 いはば アサガホ の ツユ に こと ならず。 あるいは ツユ おちて ハナ のこれり。 のこる と いへど も アサヒ に かれぬ。 あるいは ハナ しぼみて ツユ なほ きえず。 きえず と いへど も ユフベ を まつ こと なし。
 ワレ、 モノ の ココロ を しれりし より、 ヨソヂ あまり の ハルアキ を おくれる アヒダ に、 ヨ の フシギ を みる こと、 やや たびたび に なりぬ。
 いんじ アンゲン 3 ネン ウヅキ 28 ニチ か とよ。 カゼ はげしく ふきて、 しづか ならざりし ヨ、 イヌ ノ トキ ばかり、 ミヤコ の タツミ より ヒ いできて、 イヌヰ に いたる。 ハテ には スザクモン、 ダイコクデン、 ダイガクレウ、 ミンブ シャウ など まで うつりて、 イチヤ の うち に チリハヒ と なりにき。
 ホモト は、 ヒグチ トミ ノ コウヂ とか や。 マヒビト を やどせる カリヤ より いできたりける と なん。 ふきまよふ カゼ に、 とかく うつりゆく ほど に、 アフギ を ひろげたる が ごとく スヱヒロ に なりぬ。 とほき イヘ は ケブリ に むせび、 ちかき アタリ は ひたすら ホノホ を チ に ふきつけたり。 ソラ には ハヒ を ふきたてたれば、 ヒ の ヒカリ に えいじて、 あまねく クレナヰ なる ナカ に、 カゼ に たへず、 ふききられたる ホノホ、 とぶ が ごとく して 1~2 チャウ を こえつつ うつりゆく。 そ の ナカ の ヒト、 ウツシゴコロ あらん や。 あるいは ケブリ に むせびて たふれふし、 あるいは ホノホ に まぐれて たちまち に しぬ。 あるいは ミヒトツ、 からうじて のがるる も、 シザイ を とりいづる に およばず、 シッチン マンボウ さながら クヮイジン と なりにき。 そ の ツヒエ、 いくそばく ぞ。 そ の タビ、 クギャウ の イヘ 16 やけたり。 まして そ の ホカ、 かぞへしる に およばず。 すべて ミヤコ の ウチ、 3 ブ が 1 に およべり とぞ。 ナンニョ しぬる モノ スジフニン、 ウマ、 ウシ の タグヒ ヘンサイ を しらず。
 ヒト の イトナミ、 みな おろか なる ナカ に、 さしも あやふき キャウヂュウ の イヘ を つくる とて、 タカラ を つひやし、 ココロ を なやます こと は、 すぐれて あぢきなく ぞ はべる。
 また、 ヂショウ 4 ネン ウヅキ の コロ、 ナカミカド キャウゴク の ホド より おほき なる ツジカゼ おこりて、 ロクデウ ワタリ まで ふける こと はべりき。
 3~4 チャウ を ふきまくる アヒダ に、 こもれる イヘ ども、 おほき なる も ちひさき も、 ヒトツ と して やぶれざる は なし。 さながら ひら に たふれたる も あり、 ケタ、 ハシラ ばかり のこれる も あり。 カド を ふきはなちて、 4~5 チャウ が ホカ に おき、 また、 カキ を ふきはらひて、 トナリ と ヒトツ に なせり。 いはんや、 イヘ の ウチ の シザイ、 カズ を つくして ソラ に あり、 ヒハダ、 フキイタ の タグヒ、 フユ の コノハ の カゼ に みだるる が ごとし。 チリ を ケブリ の ごとく ふきたてたてれば、 すべて メ も みえず、 おびたたしく なりどよむ ほど に、 モノ いふ コヱ も きこえず。 か の ヂゴク の ゴフ の カゼ なり とも、 かばかり に こそ は とぞ おぼゆる。 イヘ の ソンマウ せる のみ に あらず、 これ を とりつくろふ アヒダ に、 ミ を そこなひ、 かたはづける ヒト、 カズ も しらず。 こ の カゼ、 ヒツジ の カタ に うつりゆきて、 オホク の ヒト の ナゲキ を なせり。
 ツジカゼ は つねに ふく もの なれど、 かかる こと や ある、 タダゴト に あらず、 さるべき もの の サトシ か、 など ぞ うたがひはべりし。
 また、 ヂショウ 4 ネン ミナヅキ の コロ、 にはか に ミヤコウツリ はべりき。 いと おもひのほか なりし こと なり。 おほかた、 こ の キャウ の ハジメ を きける こと は、 サガ ノ テンワウ の オントキ、 ミヤコ と さだまりにける より ノチ、 すでに 400 ヨサイ を へたり。 こと なる ユヱ なくて、 たやすく あらたまる べく も あらねば、 これ を ヨ の ヒト やすからず うれへあへる、 げに コトワリ にも すぎたり。
 されど、 とかく いふかひなくて、 ミカド より はじめたてまつりて、 ダイジン、 クギャウ ミナ ことごとく うつろひたまひぬ。 ヨ に つかふる ホド の ヒト、 タレ か ヒトリ フルサト に のこりをらむ。 ツカサ、 クラヰ に オモヒ を かけ、 シュクン の カゲ を たのむ ホド の ヒト は、 ヒトヒ なり とも とく うつろはむ と はげみ、 トキ を うしなひ、 ヨ に あまされて、 ごする ところ なき モノ は、 うれへながら とまりをり。 ノキ を あらそひし ヒト の スマヒ、 ヒ を へつつ あれゆく。 イヘ は こぼたれて ヨドガハ に うかび、 チ は メノマヘ に ハタケ と なる。 ヒト の ココロ みな あらたまりて、 ただ ウマ、 クラ を のみ おもく す。 ウシ、 クルマ を ようする ヒト なし。 サイナンカイ の リャウショ を ねがひて、 トウホク の シャウヱン を このまず。
 そ の トキ、 おのづから コト の タヨリ ありて、 ツ ノ クニ の イマ の キャウ に いたれり。 トコロ の アリサマ を みる に、 そ の チ、 ホド せばくて デウリ を わる に たらず。 キタ は ヤマ に そひて たかく、 ミナミ は ウミ ちかくて くだれり。 ナミ の オト つねに かまびすしく、 シホカゼ ことに はげし。 ダイリ は ヤマ の ナカ なれば、 か の キノマロドノ も かく や と、 なかなか ヤウ かはりて、 イウ なる カタ も はべり。 ヒビ に こぼち、 カハ も せに はこびくだす イヘ、 いづく に つくれる に か ある らん。 なほ むなしき チ は おほく、 つくれる ヤ は すくなし。 コキャウ は すでに あれて、 シント は いまだ ならず。 あり とし ある ヒト は ミナ ウキグモ の オモヒ を なせり。 もとより こ の トコロ に をる モノ は、 チ を うしなひて うれふ。 イマ うつれる ヒト は、 ドボク の ワヅラヒ ある こと を なげく。 ミチ の ホトリ を みれば、 クルマ に のる べき は ウマ に のり、 イクヮン、 ホイ なる べき は、 おほく ヒタタレ を きたり。 ミヤコ の テブリ たちまち に あらたまりて、 ただ ひなびたる モノノフ に こと ならず。 ヨ の みだるる ズイサウ とか きける も しるく、 ヒ を へつつ ヨノナカ うきたちて、 ヒト の ココロ も をさまらず、 タミ の ウレヘ、 つひに むなしからざりければ、 おなじき トシ の フユ、 なほ こ の キャウ に かへりたまひにき。 されど、 こぼちわたせりし イヘ ども は、 いかに なりにける に か、 ことごとく モト の やう に しも つくらず。
 つたへきく、 イニシヘ の かしこき ミヨ には、 アハレミ を もちて クニ を をさめたまふ。 すなはち、 トノ に カヤ ふきて、 そ の ノキ を だに ととのへず、 ケブリ の ともしき を みたまふ トキ は、 カギリ ある ミツキモノ を さへ ゆるされき。 これ、 タミ を めぐみ、 ヨ を たすけたまふ に よりて なり。 イマ の ヨ の アリサマ、 ムカシ に なぞらへて しりぬ べし。
 また、 ヤウワ の コロ とか、 ひさしく なりて おぼえず、 フタトセ が アヒダ、 ヨノナカ ケカツ して、 あさましき こと はべりき。 あるいは ハル、 ナツ ヒデリ、 あるいは アキ、 オホカゼ、 オホミヅ など、 よからぬ こと ども うちつづきて、 ゴコク ことごとく ならず。 むなしく ハル かへし、 ナツ ううる イトナミ ありて、 アキ かり、 フユ をさむる ゾメキ は なし。
 これ に よりて、 クニグニ の タミ、 あるいは チ を すてて サカヒ を いで、 あるいは イヘ を わすれて ヤマ に すむ。 サマザマ の オンイノリ はじまりて、 なべて ならぬ ノリ ども おこなはるれど、 さらに そ の シルシ なし。 キャウ の ナラヒ、 ナニワザ に つけて も、 ミナモト は ヰナカ を こそ たのめる に、 たえて のぼる もの なければ、 さのみ やは ミサヲ も つくりあへん。 ねんじわびつつ、 サマザマ の タカラモノ、 カタハシ より すつる が ごとく すれど も、 さらに、 メ みたつる ヒト なし。 たまたま かふる モノ は コガネ を かろく し、 ゾク を おもく す。 コツジキ、 ミチ の ホトリ に おほく、 うれへかなしむ コヱ ミミ に みてり。
 マヘ の トシ、 かく の ごとく からうじて くれぬ。 あくる トシ は たちなほる べき か と おもふ ほど に、 あまりさへ エキレイ うちそひて、 まさざま に アトカタ なし。 ヨ の ヒト ミナ けいしぬれば、 ヒ を へつつ きはまりゆく サマ、 セウスイ の イヲ の タトヘ に かなへり。 ハテ には、 カサ うちき、 アシ ひきつつみ、 よろしき スガタ したる モノ、 ひたすら に イヘ ごと に こひありく。 かく わびしれたる モノドモ の、 ありく か と みれば、 すなはち たふれふしぬ。 ツイヒジ の ツラ、 ミチ の ホトリ に、 うゑしぬる モノ の タグヒ、 カズ も しらず。 とりすつる ワザ も しらねば、 くさき カ セカイ に みちみちて、 かはりゆく カタチ アリサマ、 メ も あてられぬ こと おほかり。 いはんや、 カハラ など には、 ウマ、 クルマ の ゆきかふ ミチ だに なし。 あやしき シヅ、 ヤマガツ も チカラ つきて、 タキギ さへ ともしく なりゆけば、 たのむ カタ なき ヒト は、 ミヅカラ が イヘ を こぼちて、 イチ に いでて うる。 ヒトリ が もちて いでたる アタヒ、 イチニチ が イノチ に だに およばず とぞ。 あやしき こと は、 タキギ の ナカ に、 あかき ニ つき、 ハク など トコロドコロ に みゆる キ、 あひまじはりける を たづねれば、 す べき カタ なき モノ、 フルデラ に いたりて ホトケ を ぬすみ、 ダウ の モノノグ を やぶりとりて、 わりくだける なりけり。 ヂョクアク の ヨ に しも うまれあひて、 かかる こころうき ワザ を なん みはべりし。
 また、 いと あはれ なる こと も はべりき。 さりがたき メ、 ヲトコ もちたる モノ は、 そ の オモヒ まさりて ふかき モノ、 かならず さきだちて しぬ。 そ の ユヱ は、 ワガミ は ツギ に して、 ヒト を いたはしく おもふ アヒダ に、 まれまれ えたる クヒモノ をも、 カレ に ゆづる に よりて なり。 されば、 オヤコ ある モノ は、 さだまれる こと にて、 オヤ ぞ さきだちける。 また、 ハハ の イノチ つきたる を しらず して、 いとけなき コ の、 なほ チ を すひつつ ふせる など も ありけり。
 ニンナジ に リュウゲウ ホフイン と いふ ヒト、 かく しつつ カズ も しらず しぬる こと を かなしみて、 そ の カウベ の みゆる ごと に、 ヒタヒ に アジ を かきて、 エン を むすばしむる ワザ を なん せられける。 ヒトカズ を しらん とて、 4、 5 リャウゲツ を かぞへたりければ、 キャウ の ウチ、 イチデウ より は ミナミ、 クデウ より は キタ、 キャウゴク より は ニシ、 スザク より は ヒンガシ の、 ミチ の ホトリ なる カシラ、 すべて 4 マン 2300 あまり なん ありける。 いはんや、 そ の ゼンゴ に しぬる モノ おほく、 また カハラ、 シラカハ、 ニシ ノ キャウ、 モロモロ の ヘンヂ など を くはへて いはば、 サイゲン も ある べからず。 いかに いはんや、 シチダウ ショコク をや。
 ストクヰン の オホンクラヰ の トキ、 チャウジョウ の コロ とか、 かかる タメシ ありけり と きけど、 そ の ヨ の アリサマ は しらず。 まのあたり めづらか なりし こと なり。
 また、 おなじ コロ か とよ。 おびたたしく オホナヰ ふる こと はべりき。 そ の サマ、 ヨ の ツネ ならず。 ヤマ は くづれて カハ を うづみ、 ウミ は かたぶきて クガチ を ひたせり。 ツチ さけて ミヅ わきいで、 イハホ われて タニ に まろびいる。 ナギサ こぐ フネ は ナミ に ただよひ、 ミチ ゆく ウマ は アシ の タチド を まどはす。 ミヤコ の ホトリ には、 ザイザイ ショショ、 ダウシャ タフメウ、 ヒトツ と して またからず。 あるいは くづれ、 あるいは たふれぬ。 チリハヒ たちのぼりて、 さかり なる ケブリ の ごとし。 チ の うごき、 イヘ の やぶるる オト、 イカヅチ に こと ならず。 イヘ の ウチ に おれば、 たちまち に ひしげなん と す。 はしりいづれば、 チ われさく。 ハネ なければ、 ソラ をも とぶ べからず。 リュウ ならば や、 クモ にも のらん。 オソレ の ナカ に おそる べかりける は、 ただ ナヰ なりけり と こそ おぼえはべりしか。
 かく、 おびたたしく ふる こと は、 しばし にて やみにしかど も、 そ の ナゴリ しばし は たえず。 ヨ の ツネ、 おどろく ホド の ナヰ、 20~30 ド ふらぬ ヒ は なし。 トヲカ、 ハツカ すぎにしかば、 やうやう まどほ に なりて、 あるいは 4~5 ド、 2~3 ド、 もしは ヒトヒマゼ、 2~3 ニチ に イチド など、 おほかた そ の ナゴリ、 ミツキ ばかり や はべりけん。
 シダイシュ の ナカ に、 スイ、 クヮ、 フウ は つねに ガイ を なせど、 ダイチ に いたりて は こと なる ヘン を なさず。 ムカシ、 サイカウ の コロ とか、 オホナヰ ふりて、 トウダイジ の ホトケ の ミグシ おち など、 いみじき こと ども はベりけれど、 なほ コノタビ には しかず とぞ。 スナハチ は、 ヒトミナ あぢきなき こと を のべて、 いささか ココロ の ニゴリ も うすらぐ と みえしかど、 ツキヒ かさなり、 トシ へにし ノチ は、 コトバ に かけて いひいづる ヒト だに なし。
 すべて ヨノナカ の ありにくく、 ワガミ と スミカ と の、 はかなく、 あだ なる サマ、 また かく の ごとし。 いはんや、 トコロ に より、 ミノホド に したがひつつ、 ココロ を なやます こと は、 あげて かぞふ べからず。
 もし、 オノレ が ミ、 カズ ならず して、 ケンモン の カタハラ に をる モノ は、 ふかく よろこぶ こと あれど も、 おほき に たのしむ に あたはず。 ナゲキ せち なる トキ も、 コヱ を あげて なく こと なし。 シンダイ やすからず、 タチヰ に つけて、 おそれをののく サマ、 たとえば、 スズメ の タカ の ス に ちかづける が ごとし。 もし、 まづしくて、 とめる イヘ の トナリ に をる モノ は、 アサユフ すぼき スガタ を はぢて、 へつらひつつ いでいる。 サイシ、 ドウボク の うらやめる サマ を みる にも、 フクカ の ヒト の ないがしろ なる ケシキ を きく にも、 ココロ ネンネン に うごきて、 ときとして やすからず。 もし、 せばき チ に をれば、 ちかく エンシャウ ある トキ、 そ の サイ を のがるる こと なし。 もし、 ヘンヂ に あれば、 ワウバン ワヅラヒ おほく、 タウゾク の ナン はなはだし。 また、 イキホヒ ある モノ は トンヨク ふかく、 ヒトリミ なる モノ は ヒト に かろめらる。 タカラ あれば オソレ おほく、 まづしければ ウラミ せち なり。 ヒト を たのめば、 ミ、 タ の イウ なり。 ヒト を はぐくめば、 ココロ、 オンアイ に つかはる。 ヨ に したがへば、 ミ くるし。 したがはねば、 きゃうせる に にたり。 いづれ の トコロ を しめて、 いかなる ワザ を して か、 しばし も こ の ミ を やどし、 たまゆら も ココロ を やすむ べき。
 ワガミ、 チチカタ の オホバ の イヘ を つたへて、 ひさしく か の トコロ に すむ。 そ の ノチ、 エン かけて ミ おとろへ、 しのぶ カタガタ しげかりしかど、 つひに アト とむる こと を えず。 ミソヂ あまり に して、 さらに ワ が ココロ と、 ヒトツ の イホリ を むすぶ。 これ を ありし スマヒ に ならぶる に、 10 ブ が 1 なり。 ただ ヰヤ ばかり を かまへて、 はかばかしく ヤ を つくる に およばず。 わづか に ツイヒヂ を つけり と いへど も、 カド を たつる たづきなし。 タケ を ハシラ と して クルマ を やどせり。 ユキ ふり、 カゼ ふく ごと に、 あやふからず しも あらず。 トコロ、 カハラ ちかければ、 ミヅ の ナン も ふかく、 シラナミ の オソレ も さわがし。
 すべて、 あられぬ ヨ を ねんじすぐしつつ、 ココロ を なやませる こと、 30 ヨネン なり。 そ の アイダ、 ヲリヲリ の タガヒメ、 おのづから みじかき ウン を さとりぬ。 すなはち、 イソヂ の ハル を むかへて、 イヘ を いで、 ヨ を そむけり。 もとより サイシ なければ、 すてがたき ヨスガ も なし。 ミ に クヮンロク あらず。 ナニ に つけて か シフ を とどめん。 むなしく オホハラヤマ の クモ に ふして、 また イツカヘリ の ハルアキ を なん へにける。
 ここ に、 ムソヂ の ツユ キエガタ に およびて、 さらに スヱハ の ヤドリ を むすべる こと あり。 いはば、 タビビト の ヒトヨ の ヤド を つくり、 おいたる カヒコ の マユ を いとなむ が ごとし。 これ を ナカゴロ の スミカ に ならぶれば、 また 100 ブ が 1 に およばず。 とかく いふ ほど に、 ヨハヒ は トシドシ に たかく、 スミカ は をりをり に せばし。 そ の イヘ の アリサマ、 ヨ の ツネ にも にず。 ヒロサ は わづか に ハウヂャウ、 タカサ は 7 シャク が ウチ なり。 トコロ を おもひさだめざる が ゆゑ に、 チ を しめて つくらず。 ツチヰ を くみ、 ウチオホヒ を ふきて、 ツギメ ごと に カケガネ を かけたり。 もし、 ココロ に かなはぬ こと あらば、 やすく ホカ へ うつさん が ため なり。 そ の、 あらためつくる こと、 いくばく の ワヅラヒ か ある。 つむ ところ、 わづか に 2 リョウ、 クルマ の チカラ を むくふ ホカ には、 さらに タ の ヨウトウ いらず。
 イマ、 ヒノヤマ の オク に アト を かくして ノチ、 ヒンガシ に 3 ジャク あまり の ヒサシ を さして、 シバ をりくぶる ヨスガ と す。 ミナミ に タケ の スノコ を しき、 そ の ニシ に アカダナ を つくり、 キタ に よせて、 シャウジ を へだてて、 アミダ の ヱザウ を アンヂ し、 ソバ に フゲン を かき、 マヘ に ホケキャウ を おけり。 ヒンガシ の キハ に ワラビ の ホドロ を しきて、 ヨル の ユカ と す。 ニシミナミ に タケ の ツリダナ を かまへて、 くろき カハゴ 3 ガフ を おけり。 すなはち、 ワカ、 クヮンゲン、 ワウジャウ エウシフ ごとき の セウモツ を いれたり。 カタハラ に、 コト、 ビハ おのおの 1 チャウ を たつ。 いはゆる ヲリゴト、 ツギビハ これ なり。 カリ の イホリ の アリヤウ、 かく の ごとし。
 そ の トコロ の サマ を いはば、 ミナミ に カケヒ あり。 イハ を たてて、 ミヅ を ためたり。 ハヤシ の キ ちかければ、 ツマギ を ひろふ に ともしからず。 ナ を トヤマ と いふ。 マサキノカヅラ、 アト うづめり。 タニ しげけれど、 ニシ はれたり。 クヮンネン の タヨリ、 なき に しも あらず。 ハル は フヂナミ を みる。 シウン の ごとく して、 サイハウ に にほふ。 ナツ は ホトトギス を きく。 かたらふ ごと に、 シデ の ヤマヂ を ちぎる。 アキ は ヒグラシ の コエ、 ミミ に みてり。 ウツセミ の ヨ を かなしむ か と きこゆ。 フユ は ユキ を あはれぶ。 つもり きゆる サマ、 ザイシャウ に たとへつ べし。 もし、 ネンブツ ものうく、 ドキャウ まめ ならぬ トキ は、 みづから やすみ、 みづから おこたる。 さまたぐる ヒト も なく、 また はづ べき ヒト も なし。 ことさら に ムゴン を せざれど も、 ヒトリ をれば、 クゴフ を をさめつ べし。 かならず キンカイ を まもる と しも なく とも、 キャウガイ なければ、 ナニ に つけて か やぶらん。 もし、 アト の シラナミ に、 こ の ミ を よする アシタ には、 ヲカノヤ に ゆきかふ フネ を ながめて、 マンシャミ が フゼイ を ぬすみ、 もし、 カツラ の カゼ、 ハ を ならす ユフベ には、 ジンヤウ ノ エ を おもひやりて、 ゲン トトク の オコナヒ を ならふ。 もし、 ヨキョウ あれば、 しばしば マツ の ヒビキ に シウフウラク を たぐへ、 ミヅ の オト に リウセン の キョク を あやつる。 ゲイ は これ つたなけれど も、 ヒト の ミミ を よろこばしめん と には あらず。 ヒトリ しらべ、 ヒトリ えいじて、 みづから ココロ を やしなふ ばかり なり。
 また、 フモト に ヒトツ の シバ の イホリ あり。 すなはち、 こ の ヤマモリ が をる トコロ なり。 かしこ に コワラハ あり。 ときどき きたりて あひとぶらふ。 もし、 ツレヅレ なる トキ は、 これ を トモ と して ユギャウ す。 カレ は トトセ、 コレ は ムソヂ。 そ の ヨハヒ、 ことのほか なれど、 ココロ を なぐさむる こと、 これ おなじ。 あるいは ツバナ を ぬき、 イハナシ を とり、 ヌカゴ を もり、 セリ を つむ。 あるいは スソワ の タヰ に いたりて、 オチボ を ひろひて、 ホグミ を つくる。 もし、 うららか なれば、 ミネ に よぢのぼりて、 はるか に フルサト の ソラ を のぞみ、 コハタヤマ、 フシミ の サト、 トバ、 ハツカシ を みる。 ショウチ は ヌシ なければ、 ココロ を なぐさむる に サハリ なし。 アユミ ワヅラヒ なく、 ココロ とほく いたる トキ は、 これ より ミネツヅキ、 スミヤマ を こえ、 カサトリ を すぎて、 あるいは イハマ に まうで、 あるいは イシヤマ を をがむ。 もしは また、 アハヅ ノ ハラ を わけつつ、 セミウタ の オキナ が アト を とぶらひ、 タナカミガハ を わたりて、 サルマル マウチギミ が ハカ を たづぬ。 カヘルサ には、 ヲリ に つけつつ、 サクラ を かり、 モミヂ を もとめ、 ワラビ を をり、 コノミ を ひろひて、 かつは ホトケ に たてまつり、 かつは イヘヅト と す。 もし、 ヨ しづか なれば、 マド の ツキ に コジン を しのび、 サル の コヱ に ソデ を うるほす。 クサムラ の ホタル は とほく マキノシマ の カガリビ に まがひ、 アカツキ の アメ は おのづから コノハ ふく アラシ に にたり。 ヤマドリ の ほろほろ と なく を ききて も、 チチ か ハハ か と うたがひ、 ミネ の カセギ の ちかく なれたる に つけて も、 ヨ に とほざかる ホド を しる。 あるいは また、 ウヅミビ を かきおこして、 オイ の ネザメ の トモ と す。 おそろしき ヤマ ならねば、 フクロフ の コヱ を あはれむ に つけて も、 ヤマナカ の ケイキ、 ヲリ に つけて、 つくる こと なし。 いはんや、 ふかく おもひ、 ふかく しらん ヒト の ため には、 これ に しも かぎる べからず。
 おほかた、 こ の トコロ に すみはじめし トキ は、 あからさま と おもひしかど も、 イマ すでに、 イツトセ を へたり。 カリ の イホリ も やや フルサト と なりて、 ノキ に クチバ ふかく、 ツチヰ に こけむせり。 おのづから、 コト の タヨリ に ミヤコ を きけば、 こ の ヤマ に こもりゐて ノチ、 やんごとなき ヒト の かくれたまへる も あまた きこゆ。 まして、 そ の カズ ならぬ タグヒ、 つくして これ を しる べからず。 たびたび の エンシャウ に ほろびたる イヘ、 また いくそばく ぞ。 ただ カリ の イホリ のみ、 のどけく して オソレ なし。 ホド せばし と いへど も、 ヨル ふす ユカ あり、 ヒル ゐる ザ あり。 イッシン を やどす に フソク なし。 ガウナ は ちいさき カヒ を このむ。 これ ミ しれる に よりて なり。 ミサゴ は アライソ に ゐる。 すなはち、 ヒト を おそるる が ゆゑ なり。 ワレ また かく の ごとし。 ミ を しり、 ヨ を しれれば、 ねがはず、 わしらず。 ただ しづか なる を ノゾミ と し、 ウレヘ なき を タノシミ と す。 すべて ヨ の ヒト の スミカ を つくる ナラヒ、 かならずしも、 ミ の ため に せず。 あるいは サイシ、 ケンゾク の ため に つくり、 あるいは シンヂツ、 ホウイウ の ため に つくる。 あるいは シュクン、 シシャウ および ザイホウ、 ギウバ の ため に さへ これ を つくる。 ワレ イマ、 ミ の ため に むすべり。 ヒト の ため に つくらず。 ユヱ いかん と なれば、 イマ の ヨ の ナラヒ、 こ の ミ の アリサマ、 ともなふ べき ヒト も なく、 たのむ べき ヤツコ も なし。 たとひ、 ひろく つくれり とも、 タレ を やどし、 タレ を か すゑん。
 それ、 ヒト の トモ と ある モノ は、 とめる を たふとみ、 ねんごろ なる を サキ と す。 かならずしも、 ナサケ ある と、 すなほ なる と をば あいせず。 ただ、 シチク、 クヮゲツ を トモ と せん には しかじ。 ヒト の ヤツコ たる モノ は、 シャウバツ はなはだしく、 オンコ あつき を サキ と す。 さらに、 はぐくみ あはれむ と、 やすく しづか なる と をば ねがはず。 ただ、 ワガミ を ヌヒ と する には しかず。 いかが ヌヒ と する と ならば、 もし、 なす べき こと あれば、 すなはち オノ が ミ を つかふ。 たゆからず しも あらねど、 ヒト を したがへ、 ヒト を かへりみる より やすし。 もし、 ありく べき こと あれば、 みづから あゆむ。 くるし と いへど も、 ウマ、 クラ、 ウシ、 クルマ と、 ココロ を なやます には しかず。 イマ、 イッシン を わかちて、 フタツ の ヨウ を なす。 テ の ヤツコ、 アシ の ノリモノ、 よく ワ が ココロ に かなへり。 ココロ、 ミ の クルシミ を しれれば、 くるしむ トキ は やすめつ、 まめ なれば つかふ。 つかふ とて も、 たびたび すぐさず。 ものうし とて も、 ココロ を うごかす こと なし。 いかに いはんや、 つねに ありき、 つねに はたらく は、 ヤウジャウ なる べし。 なんぞ いたづら に やすみをらん。 ヒト を なやます、 ザイゴフ なり。 いかが タ の チカラ を かる べき。 イショク の タグヒ、 また おなじ。 フヂ の コロモ、 アサ の フスマ、 うる に したがひて、 ハダヘ を かくし、 ノベ の オハギ、 ミネ の コノミ、 わづか に イノチ を つぐ ばかり なり。 ヒト に まじはらざれば、 スガタ を はづる クイ も なし。 カテ ともしければ、 おろそか なる ムクイ を あまく す。 すべて、 かやう の タノシミ、 とめる ヒト に たいして いふ には あらず。 ただ、 ワガミ ヒトツ に とりて、 ムカシ と イマ と を なぞらふる ばかり なり。
 それ、 サンガイ は ただ ココロ ヒトツ なり。 ココロ もし やすからず は、 ザウメ、 シッチン も よしなく、 クウデン、 ロウカク も ノゾミ なし。 イマ、 さびしき スマヒ、 ヒトマ の イホリ、 みづから これ を あいす。 おのづから ミヤコ に いでて、 ミ の コツガイ と なれる こと を はづ と いへど も、 かへりて ここ に をる トキ は、 タ の ゾクヂン に はする こと を あはれむ。 もし、 ヒト こ の いへる こと を うたがはば、 イヲ と トリ との アリサマ を みよ。 イヲ は ミヅ に あかず。 イヲ に あらざれば、 そ の ココロ を しらず。 トリ は ハヤシ を ねがふ。 トリ に あらざれば、 そ の ココロ を しらず。 カンキョ の キビ も また おなじ。 すまず して タレ か さとらん。
 そもそも、 イチゴ の ツキカゲ かたぶきて、 ヨサン、 ヤマノハ に ちかし。 たちまち に サンヅ の ヤミ に むかはん と す。 ナニ の ワザ を か かこたん と する。 ホトケ の をしへたまふ オモムキ は、 コト に ふれて シフシン なかれ と なり。 イマ、 サウアン を あいする も トガ と す。 カンセキ に ぢゃくする も サハリ なる べし。 いかが エウ なき タノシミ を のべて、 あたら トキ を すぐさん。
 しづか なる アカツキ、 こ の コトワリ を おもひつづけて、 みづから ココロ に とひて いはく、 ヨ を のがれて、 サンリン に まじはる は、 ココロ を をさめて ミチ を おこなはん と なり。 しかるを、 ナンヂ、 スガタ は ヒジリ にて、 ココロ は ニゴリ に しめり。 スミカ は すなはち、 ジャウミャウ コジ の アト を けがせり と いへど も、 たもつ ところ は、 わづか に シュリ ハンドク が オコナヒ に だに およばず。 もし これ、 ヒンセン の ムクイ の みづから なやます か、 はたまた マウシン の いたりて きゃうせる か。 そ の トキ、 ココロ さらに こたふる こと なし。 ただ、 カタハラ に ゼッコン を やとひて、 フシャウ の アミダブツ、 リャウサンベン まうして やみぬ。
 ときに、 ケンリャク の フタトセ、 ヤヨヒ の ツゴモリゴロ、 サウモン の レンイン、 トヤマ の イホリ に して、 これ を しるす。

ある オンナ (ゼンペン)

 ある オンナ  (ゼンペン)  アリシマ タケオ  1  シンバシ を わたる とき、 ハッシャ を しらせる 2 バンメ の ベル が、 キリ と まで は いえない 9 ガツ の アサ の、 けむった クウキ に つつまれて きこえて きた。 ヨウコ は ヘイキ で それ ...