2013/05/27

ヨダカ の ホシ

 ヨダカ の ホシ

 ミヤザワ ケンジ

 ヨダカ は、 じつに みにくい トリ です。
 カオ は、 ところどころ、 ミソ を つけた よう に マダラ で、 クチバシ は、 ひらたくて、 ミミ まで さけて います。
 アシ は、 まるで よぼよぼ で、 1 ケン とも あるけません。
 ホカ の トリ は、 もう、 ヨダカ の カオ を みた だけ でも、 いや に なって しまう と いう グアイ でした。
 たとえば、 ヒバリ も、 あまり うつくしい トリ では ありません が、 ヨダカ より は、 ずっと ウエ だ と おもって いました ので、 ユウガタ など、 ヨダカ に あう と、 さもさも いや そう に、 しんねり と メ を つぶりながら、 クビ を ソッポ へ むける の でした。 もっと ちいさな オシャベリ の トリ など は、 いつでも ヨダカ の マッコウ から ワルクチ を しました。
「へん。 また でて きた ね。 まあ、 あの ザマ を ごらん。 ホントウ に、 トリ の ナカマ の ツラヨゴシ だよ」
「ね、 まあ、 あの クチ の おおきい こと さ。 きっと、 カエル の シンルイ か ナニ か なん だよ」
 こんな チョウシ です。 おお、 ヨダカ で ない タダ の タカ ならば、 こんな ナマハンカ の ちいさい トリ は、 もう ナマエ を きいた だけ でも、 ぶるぶる ふるえて、 カオイロ を かえて、 カラダ を ちぢめて、 コノハ の カゲ に でも かくれた でしょう。 ところが ヨダカ は、 ホントウ は タカ の キョウダイ でも シンルイ でも ありません でした。 かえって、 ヨダカ は、 あの うつくしい カワセミ や、 トリ の ナカ の ホウセキ の よう な ハチスズメ の ニイサン でした。 ハチスズメ は ハナ の ミツ を たべ、 カワセミ は オサカナ を たべ、 ヨダカ は ハムシ を とって たべる の でした。 それに ヨダカ には、 するどい ツメ も するどい クチバシ も ありません でした から、 どんな に よわい トリ でも、 ヨダカ を こわがる はず は なかった の です。
 それなら、 タカ と いう ナ の ついた こと は フシギ な よう です が、 これ は、 ヒトツ は ヨダカ の ハネ が むやみ に つよくて、 カゼ を きって かける とき など は、 まるで タカ の よう に みえた こと と、 も ヒトツ は ナキゴエ が するどくて、 やはり どこ か タカ に にて いた ため です。 もちろん、 タカ は、 これ を ヒジョウ に キ に かけて、 いやがって いました。 それ です から、 ヨダカ の カオ さえ みる と、 カタ を いからせて、 はやく ナマエ を あらためろ、 ナマエ を あらためろ と、 いう の でした。
 ある ユウガタ、 とうとう、 タカ が ヨダカ の ウチ へ やって まいりました。
「おい、 いる かい。 まだ オマエ は ナマエ を かえない の か。 ずいぶん オマエ も ハジシラズ だな。 オマエ と オレ では、 よっぽど ジンカク が ちがう ん だよ。 たとえば オレ は、 あおい ソラ を どこ まで でも とんで いく。 オマエ は、 くもって うすぐらい ヒ か、 ヨル で なくちゃ、 でて こない。 それから、 オレ の クチバシ や ツメ を みろ。 そして、 よく オマエ の と くらべて みる が いい」
「タカ さん。 それ は あんまり ムリ です。 ワタシ の ナマエ は ワタシ が カッテ に つけた の では ありません。 カミサマ から くださった の です」
「いいや。 オレ の ナ なら、 カミサマ から もらった の だ と いって も よかろう が、 オマエ の は、 いわば、 オレ と ヨル と、 リョウホウ から かりて ある ん だ。 さあ かえせ」
「タカ さん。 それ は ムリ です」
「ムリ じゃ ない。 オレ が いい ナ を おしえて やろう。 イチゾウ と いう ん だ。 イチゾウ と な。 いい ナ だろう。 そこで、 ナマエ を かえる には、 カイメイ の ヒロウ と いう もの を しない と いけない。 いい か。 それ は な、 クビ へ イチゾウ と かいた フダ を ぶらさげて、 ワタシ は イライ イチゾウ と もうします と、 コウジョウ を いって、 ミンナ の ところ を オジギ して まわる の だ」
「そんな こと は とても できません」
「いいや。 できる。 そう しろ。 もし アサッテ の アサ まで に、 オマエ が そう しなかったら、 もう すぐ、 つかみころす ぞ。 つかみころして しまう から、 そう おもえ。 オレ は アサッテ の アサ はやく、 トリ の ウチ を 1 ケン ずつ まわって、 オマエ が きた か どう か を きいて あるく。 1 ケン でも こなかった と いう ウチ が あったら、 もう キサマ も その とき が オシマイ だぞ」
「だって それ は あんまり ムリ じゃ ありません か。 そんな こと を する くらい なら、 ワタシ は もう しんだ ほう が まし です。 イマ すぐ ころして ください」
「まあ、 よく、 アト で かんがえて ごらん。 イチゾウ なんて そんな に わるい ナ じゃ ない よ」 タカ は おおきな ハネ を いっぱい に ひろげて、 ジブン の ス の ほう へ とんで かえって いきました。
 ヨダカ は、 じっと メ を つぶって かんがえました。
(いったい ボク は、 なぜ こう ミンナ に いやがられる の だろう。 ボク の カオ は、 ミソ を つけた よう で、 クチ は さけてる から なあ。 それだって、 ボク は イマ まで、 なんにも わるい こと を した こと が ない。 アカンボウ の メジロ が ス から おちて いた とき は、 たすけて ス へ つれて いって やった。 そしたら メジロ は、 アカンボウ を まるで ヌスビト から でも とりかえす よう に ボク から ひきはなした ん だなあ。 それから ひどく ボク を わらったっけ。 それに ああ、 コンド は イチゾウ だ なんて、 クビ へ フダ を かける なんて、 つらい ハナシ だなあ。)
 アタリ は、 もう うすくらく なって いました。 ヨダカ は ス から とびだしました。 クモ が いじわるく ひかって、 ひくく たれて います。 ヨダカ は まるで クモ と スレスレ に なって、 オト なく ソラ を とびまわりました。
 それから にわか に ヨダカ は クチ を おおきく ひらいて、 ハネ を マッスグ に はって、 まるで ヤ の よう に ソラ を よこぎりました。 ちいさな ハムシ が イクヒキ も イクヒキ も その ノド に はいりました。
 カラダ が ツチ に つく か つかない うち に、 ヨダカ は ひらり と また ソラ へ はねあがりました。 もう クモ は ネズミイロ に なり、 ムコウ の ヤマ には ヤマヤケ の ヒ が マッカ です。
 ヨダカ が おもいきって とぶ とき は、 ソラ が まるで フタツ に きれた よう に おもわれます。 1 ピキ の カブトムシ が、 ヨダカ の ノド に はいって、 ひどく もがきました。 ヨダカ は すぐ それ を のみこみました が、 その とき なんだか セナカ が ぞっと した よう に おもいました。
 クモ は もう まっくろく、 ヒガシ の ほう だけ ヤマヤケ の ヒ が あかく うつって、 おそろしい よう です。 ヨダカ は ムネ が つかえた よう に おもいながら、 また ソラ へ のぼりました。
 また 1 ピキ の カブトムシ が、 ヨダカ の ノド に、 はいりました。 そして まるで ヨダカ の ノド を ひっかいて ばたばた しました。 ヨダカ は それ を ムリ に のみこんで しまいました が、 その とき、 キュウ に ムネ が どきっと して、 ヨダカ は オオゴエ を あげて なきだしました。 なきながら ぐるぐる ぐるぐる ソラ を めぐった の です。
(ああ、 カブトムシ や、 タクサン の ハムシ が、 マイバン ボク に ころされる。 そして その ただ ヒトツ の ボク が コンド は タカ に ころされる。 それ が こんな に つらい の だ。 ああ、 つらい、 つらい。 ボク は もう ムシ を たべない で うえて しのう。 いや その マエ に もう タカ が ボク を ころす だろう。 いや、 その マエ に、 ボク は トオク の トオク の ソラ の ムコウ に いって しまおう。)
 ヤマヤケ の ヒ は、 だんだん ミズ の よう に ながれて ひろがり、 クモ も あかく もえて いる よう です。
 ヨダカ は マッスグ に、 オトウト の カワセミ の ところ へ とんで いきました。 きれい な カワセミ も、 ちょうど おきて トオク の ヤマカジ を みて いた ところ でした。 そして ヨダカ の おりて きた の を みて いいました。
「ニイサン。 こんばんわ。 ナニ か キュウ の ゴヨウ です か」
「いいや、 ボク は コンド とおい ところ へ いく から ね、 その マエ ちょっと オマエ に あい に きた よ」
「ニイサン。 いっちゃ いけません よ。 ハチスズメ も あんな トオク に いる ん です し、 ボク ヒトリボッチ に なって しまう じゃ ありません か」
「それ は ね。 どうも しかたない の だ。 もう キョウ は なにも いわない で くれ。 そして オマエ も ね、 どうしても とらなければ ならない とき の ホカ は いたずらに オサカナ を とったり しない よう に して くれ。 ね、 さよなら」
「ニイサン。 どうした ん です。 まあ もう ちょっと おまちなさい」
「いや、 いつまで いて も おんなじ だ。 ハチスズメ へ、 アト で よろしく いって やって くれ。 さよなら。 もう あわない よ。 さよなら」
 ヨダカ は なきながら ジブン の オウチ へ かえって まいりました。 みじかい ナツ の ヨ は もう あけかかって いました。
 シダ の ハ は、 ヨアケ の キリ を すって、 あおく つめたく ゆれました。 ヨダカ は たかく きし きし きし と なきました。 そして ス の ナカ を きちんと かたづけ、 きれい に カラダジュウ の ハネ や ケ を そろえて、 また ス から とびだしました。
 キリ が はれて、 オヒサマ が ちょうど ヒガシ から のぼりました。 ヨダカ は ぐらぐら する ほど まぶしい の を こらえて、 ヤ の よう に、 そっち へ とんで いきました。
「オヒサン、 オヒサン。 どうぞ ワタシ を アナタ の ところ へ つれてって ください。 やけて しんで も かまいません。 ワタシ の よう な みにくい カラダ でも やける とき には ちいさな ヒカリ を だす でしょう。 どうか ワタシ を つれてって ください」
 いって も いって も、 オヒサマ は ちかく なりません でした。 かえって だんだん ちいさく とおく なりながら オヒサマ が いいました。
「オマエ は ヨダカ だな。 なるほど、 ずいぶん つらかろう。 コンヤ ソラ を とんで、 ホシ に そう たのんで ごらん。 オマエ は ヒル の トリ では ない の だ から な」
 ヨダカ は オジギ を ヒトツ した と おもいました が、 キュウ に ぐらぐら して とうとう ノハラ の クサ の ウエ に おちて しまいました。 そして まるで ユメ を みて いる よう でした。 カラダ が ずうっと アカ や キ の ホシ の アイダ を のぼって いったり、 どこまでも カゼ に とばされたり、 また タカ が きて カラダ を つかんだり した よう でした。
 つめたい もの が にわか に カオ に おちました。 ヨダカ は メ を ひらきました。 1 ポン の わかい ススキ の ハ から ツユ が したたった の でした。 もう すっかり ヨル に なって、 ソラ は あおぐろく、 イチメン の ホシ が またたいて いました。 ヨダカ は ソラ へ とびあがりました。 コンヤ も ヤマヤケ の ヒ は マッカ です。 ヨダカ は その ヒ の かすか な テリ と、 つめたい ホシアカリ の ナカ を とびめぐりました。 それから もう イッペン とびめぐりました。 そして おもいきって ニシ の ソラ の あの うつくしい オリオン の ホシ の ほう に、 マッスグ に とびながら さけびました。
「オホシサン。 ニシ の あおじろい オホシサン。 どうか ワタシ を アナタ の ところ へ つれてって ください。 やけて しんで も かまいません」
 オリオン は いさましい ウタ を つづけながら ヨダカ など は てんで アイテ に しません でした。 ヨダカ は なきそう に なって、 よろよろ と おちて、 それから やっと ふみとまって、 もう イッペン とびめぐりました。 それから、 ミナミ の オオイヌ-ザ の ほう へ マッスグ に とびながら さけびました。
「オホシサン。 ミナミ の あおい オホシサン。 どうか ワタシ を アナタ の ところ へ つれてって ください。 やけて しんで も かまいません」
 オオイヌ は アオ や ムラサキ や キ や うつくしく せわしく またたきながら いいました。
「バカ を いうな。 オマエ なんか いったい どんな もの だい。 たかが トリ じゃ ない か。 オマエ の ハネ で ここ まで くる には、 オクネン チョウネン オクチョウネン だ」 そして また ベツ の ほう を むきました。
 ヨダカ は がっかり して、 よろよろ おちて、 それから また 2 ヘン とびめぐりました。 それから また おもいきって キタ の オオグマボシ の ほう へ マッスグ に とびながら さけびました。
「キタ の あおい オホシサマ、 アナタ の ところ へ どうか ワタシ を つれてって ください」
 オオグマボシ は しずか に いいました。
「ヨケイ な こと を かんがえる もの では ない。 すこし アタマ を ひやして きなさい。 そういう とき は、 ヒョウザン の ういて いる ウミ の ナカ へ とびこむ か、 チカク に ウミ が なかったら、 コオリ を うかべた コップ の ミズ の ナカ へ とびこむ の が イットウ だ」
 ヨダカ は がっかり して、 よろよろ おちて、 それから また、 4 ヘン ソラ を めぐりました。 そして もう イチド、 ヒガシ から イマ のぼった アマノガワ の ムコウギシ の ワシ の ホシ に さけびました。
「ヒガシ の しろい オホシサマ、 どうか ワタシ を アナタ の ところ へ つれてって ください。 やけて しんで も かまいません」
 ワシ は オオフウ に いいました。
「いいや、 とても とても、 ハナシ にも なんにも ならん。 ホシ に なる には、 それ ソウオウ の ミブン で なくちゃ いかん。 また よほど カネ も いる の だ」
 ヨダカ は もう すっかり チカラ を おとして しまって、 ハネ を とじて、 チ に おちて いきました。 そして もう 1 シャク で ジメン に その よわい アシ が つく と いう とき、 ヨダカ は にわか に ノロシ の よう に ソラ へ とびあがりました。 ソラ の ナカホド へ きて、 ヨダカ は まるで ワシ が クマ を おそう とき する よう に、 ぶるっと カラダ を ゆすって ケ を さかだてました。
 それから きし きし きし きし きしっ と たかく たかく さけびました。 その コエ は まるで タカ でした。 ノハラ や ハヤシ に ねむって いた ホカ の トリ は、 みんな メ を さまして、 ぶるぶる ふるえながら、 いぶかしそう に ホシゾラ を みあげました。
 ヨダカ は、 どこまでも、 どこまでも、 マッスグ に ソラ へ のぼって いきました。 もう ヤマヤケ の ヒ は タバコ の スイガラ の くらい に しか みえません。 ヨダカ は のぼって のぼって いきました。
 サムサ に イキ は ムネ に しろく こおりました。 クウキ が うすく なった ため に、 ハネ を それ は それ は せわしく うごかさなければ なりません でした。
 それだのに、 ホシ の オオキサ は、 サッキ と すこしも かわりません。 つく イキ は フイゴ の よう です。 サムサ や シモ が まるで ケン の よう に ヨダカ を さしました。 ヨダカ は ハネ が すっかり しびれて しまいました。 そして なみだぐんだ メ を あげて もう イッペン ソラ を みました。 そう です。 これ が ヨダカ の サイゴ でした。 もう ヨダカ は おちて いる の か、 のぼって いる の か、 サカサ に なって いる の か、 ウエ を むいて いる の か も、 わかりません でした。 ただ ココロモチ は やすらか に、 その チ の ついた おおきな クチバシ は、 ヨコ に まがって は いました が、 たしか に すこし わらって おりました。
 それから しばらく たって ヨダカ は はっきり マナコ を ひらきました。 そして ジブン の カラダ が イマ リン の ヒ の よう な あおい うつくしい ヒカリ に なって、 しずか に もえて いる の を みました。
 すぐ トナリ は、 カシオピア-ザ でした。 アマノガワ の あおじろい ヒカリ が、 すぐ ウシロ に なって いました。
 そして ヨダカ の ホシ は もえつづけました。 いつまでも いつまでも もえつづけました。
 イマ でも まだ もえて います。

2013/05/07

サイゴ の イック

 サイゴ の イック

 モリ オウガイ

 ゲンブン 3 ネン 11 ガツ 23 ニチ の こと で ある。 オオサカ で、 フナノリ-ギョウ カツラヤ タロベエ と いう モノ を、 キヅガワグチ で ミッカ-カン さらした うえ、 ザンザイ に しょする と、 コウサツ に かいて たてられた。 シチュウ いたる ところ タロベエ の ウワサ ばかり して いる ナカ に、 それ を もっとも ツウセツ に かんぜなくて は ならぬ タロベエ の カゾク は、 ミナミグミ ホリエバシ-ギワ の イエ で、 もう マル-2 ネン ほど、 ほとんど まったく セケン との コウツウ を たって くらして いる の で ある。
 この ヨキ す べき デキゴト を、 カツラヤ へ しらせ に きた の は、 ほどとおからぬ ヒラノマチ に すんで いる タロベエ が ニョウボウ の ハハ で あった。 この シラガアタマ の オウナ の こと を カツラヤ では ヒラノマチ の オバアサマ と いって いる。 オバアサマ とは、 カツラヤ に いる 5 ニン の コドモ が いつも いい もの を オミヤゲ に もって きて くれる ソボ に なづけた ナ で、 それ を シュジン も よび、 ニョウボウ も よぶ よう に なった の で ある。
 オバアサマ を したって、 オバアサマ に あまえ、 オバアサマ に ねだる マゴ が、 カツラヤ に 5 ニン いる。 その 4 ニン は、 オバアサマ が 17 に なった ムスメ を カツラヤ へ ヨメ に よこして から、 コトシ 16 ネン-メ に なる まで の アイダ に うまれた の で ある。 チョウジョ イチ が 16 サイ、 ジジョ マツ が 14 サイ に なる。 その ツギ に、 タロベエ が ムスメ を ヨメ に だす カクゴ で、 ヒラノマチ の ニョウボウ の サトカタ から、 アカゴ の うち に もらいうけた、 チョウタロウ と いう 12 サイ の ダンシ が ある。 その ツギ に また うまれた タロベエ の ムスメ は、 トク と いって 8 サイ に なる。 サイゴ に タロベエ の はじめて もうけた ダンシ の ハツゴロウ が いて、 これ が 6 サイ に なる。
 ヒラノマチ の サトカタ は ユウフク なので、 オバアサマ の オミヤゲ は いつも マゴ たち に マンゾク を あたえて いた。 それ が イッサクネン タロベエ の ニュウロウ して から は、 とかく マゴ たち に シツボウ を おこさせる よう に なった。 オバアサマ が クラシムキ の ヨウ に たつ もの を おもに もって くる ので、 オモチャ や オカシ は すくなく なった から で ある。
 しかし これから おいたって ゆく コドモ の ゲンキ は さかん な もの で、 ただ オバアサマ の オミヤゲ が とぼしく なった ばかり で なく、 オッカサマ の フキゲン に なった の にも、 ほどなく なれて、 かくべつ しおれた ヨウス も なく、 あいかわらず ちいさい ソウトウ と ちいさい ワボク との こっこく に コウタイ する、 にぎやか な セイカツ を つづけて いる。 そして 「とおい とおい ところ へ いって かえらぬ」 と いいきかされた チチ の カワリ に、 この オバアサマ の くる の を カンゲイ して いる。
 これ に はんして、 ヤクナン に あって から コノカタ、 いつも おなじ よう な カイコン と ヒツウ との ホカ に、 ナニモノ をも ココロ に うけいれる こと の できなく なった タロベエ の ニョウボウ は、 てあつく みついで くれ シンセツ に なぐさめて くれる ハハ に たいして も、 ろくろく カンシャ の イ をも ひょうする こと が ない。 ハハ が いつ きて も、 おなじ よう な クリゴト を きかせて かえす の で ある。
 ヤクナン に あった ハジメ には、 ニョウボウ は ただ ぼうぜん と メ を みはって いて、 ショクジ も コドモ の ため に、 キカイテキ に セワ を する だけ で、 ジブン は ほとんど なにも くわず に、 しきり に ノド が かわく と いって は、 ユ を すこし ずつ のんで いた。 ヨル は つかれて ぐっすり ねた か と おもう と、 たびたび メ を さまして タメイキ を つく。 それから おきて、 ヨナカ に サイホウ など を する こと が ある。 そんな とき は、 ソバ に ハハ の ねて いぬ の に キ が ついて、 サイショ に 4 サイ に なる ハツゴロウ が メ を さます。 ついで 6 サイ に なる トク が メ を さます。 ニョウボウ は コドモ に よばれて トコ に はいって、 コドモ が アンシン して ねつく と、 また おおきく メ を あいて タメイキ を ついて いる の で あった。 それから 2~3 ニチ たって、 ようよう トマリガケ に きて いる ハハ に クリゴト を いって なく こと が できる よう に なった。 それから マル-2 ネン ほど の アイダ、 ニョウボウ は キカイテキ に たちはたらいて は、 おなじ よう に クリゴト を いい、 おなじ よう に ないて いる の で ある。
 コウサツ の たった ヒ には、 ヒルスギ に ハハ が きて、 ニョウボウ に タロベエ の ウンメイ の きまった こと を はなした。 しかし ニョウボウ は、 ハハ の おそれた ほど おどろき も せず、 きいて しまって、 また イツモ と おなじ クリゴト を いって ないた。 ハハ は あまり テゴタエ の ない の を ものたらなく おもう くらい で あった。 この とき チョウジョ の イチ は、 フスマ の カゲ に たって、 オバアサマ の ハナシ を きいて いた。

 カツラヤ に かぶさって きた ヤクナン と いう の は こう で ある。 シュジン タロベエ は フナノリ とは いって も、 ジブン が フネ に のる の では ない。 ホッコクガヨイ の フネ を もって いて、 それ に シンシチ と いう オトコ を のせて、 ウンソウ の ギョウ を いとなんで いる。 オオサカ では この タロベエ の よう な オトコ を イセンドウ と いって いた。 イセンドウ の タロベエ が オキセンドウ の シンシチ を つかって いる の で ある。
 ゲンブン ガンネン の アキ、 シンシチ の フネ は、 デワ ノ クニ アキタ から コメ を つんで シュッパン した。 その フネ が フコウ にも コウカイチュウ に フウハ の ナン に あって、 ハンナンセン の スガタ に なって、 ツミニ の ハンブン イジョウ を リュウシツ した。 シンシチ は のこった コメ を うって カネ に して、 オオサカ へ もって かえった。
 さて シンシチ が タロベエ に いう には、 ナンセン を した こと は ミナトミナト で しって いる。 のこった ツミニ を うった この カネ は、 もう コメヌシ に かえす には およぶまい。 これ は アト の フネ を したてる ヒヨウ に あてよう じゃ ない か と いった。
 タロベエ は それまで ショウジキ に エイギョウ して いた の だ が、 エイギョウジョウ に おおきい ソンシツ を みた チョクゴ に、 ゲンキン を メノマエ に ならべられた ので、 ふと リョウシン の カガミ が くもって、 その カネ を うけとって しまった。
 すると、 アキタ の コメヌシ の ほう では、 ナンセン の シラセ を えた ノチ に、 ノコリニ の あった こと やら、 それ を かった ヒト の あった こと やら を、 ヒトヅテ に きいて、 わざわざ ヒト を しらべ に だした。 そして シンシチ の テ から タロベエ に わたった カネダカ まで を さぐりだして しまった。
 コメヌシ は オオサカ へ でて うったえた。 シンシチ は トウソウ した。 そこで タロベエ が ニュウロウ して とうとう シザイ に おこなわれる こと に なった の で ある。

 ヒラノマチ の オバアサマ が きて、 おそろしい ハナシ を する の を アネムスメ の イチ が タチギキ を した バン の こと で ある。 カツラヤ の ニョウボウ は いつも クリゴト を いって ないた アト で でる ツカレ が でて、 ぐっすり ねいった。 ニョウボウ の リョウワキ には、 ハツゴロウ と、 トク と が ねて いる。 ハツゴロウ の トナリ には チョウタロウ が ねて いる。 トク の トナリ に マツ、 それ に ならんで イチ が ねて いる。
 しばらく たって、 イチ が なにやら フトン の ナカ で ヒトリゴト を いった。 「ああ、 そう しよう。 きっと できる わ」 と、 いった よう で ある。
 マツ が それ を ききつけた。 そして 「ネエサン、 まだ ねない の」 と いった。
「おおきい コエ を おし で ない。 ワタシ いい こと を かんがえた から」 イチ は まず こう いって イモウト を せいして おいて、 それから コゴエ で こういう こと を ささやいた。 オトッサン は アサッテ ころされる の で ある。 ジブン は それ を ころさせぬ よう に する こと が できる と おもう。 どう する か と いう と、 ネガイショ と いう もの を かいて オブギョウ サマ に だす の で ある。 しかし ただ ころさない で おいて ください と いったって、 それ では きかれない。 オトッサン を たすけて、 その カワリ に ワタクシドモ コドモ を ころして ください と いって たのむ の で ある。 それ を オブギョウ サマ が きいて くだすって、 オトッサン が たすかれば、 それ で いい。 コドモ は ホントウ に ミナ ころされる やら、 ワタシ が ころされて、 ちいさい モノ は たすかる やら、 それ は わからない。 ただ オネガイ を する とき、 チョウタロウ だけ は イッショ に ころして くださらない よう に かいて おく。 あれ は オトッサン の ホントウ の コ で ない から、 しななくて も いい。 それに オトッサン が この イエ の アト を とらせよう と いって いらっしゃった の だ から、 ころされない ほう が いい の で ある。 イチ は イモウト に それ だけ の こと を はなした。
「でも こわい わねえ」 と、 マツ が いった。
「そんなら、 オトッサン が たすけて もらいたく ない の」
「それ は たすけて もらいたい わ」
「それ ごらん。 マツ さん は ただ ワタシ に ついて きて おなじ よう に さえ して いれば いい の だよ。 ワタシ が コンヤ ネガイショ を かいて おいて、 アシタ の アサ はやく もって いきましょう ね」
 イチ は おきて、 テナライ の セイショ を する ハンシ に、 ヒラガナ で ガンショ を かいた。 チチ の イノチ を たすけて、 その カワリ に ジブン と イモウト の マツ、 トク、 オトウト の ハツゴロウ を オシオキ に して いただきたい、 ジッシ で ない チョウタロウ だけ は おゆるし くださる よう に と いう だけ の こと では ある が、 どう かきつづって いい か わからぬ ので、 イクド も かきそこなって、 セイショ の ため に もらって あった シラカミ が のこりすくな に なった。 しかし とうとう イチバンドリ の なく コロ に ガンショ が できた。
 ガンショ を かいて いる うち に、 マツ が ねいった ので、 イチ は コゴエ で よびおこして、 トコ の ワキ に たたんで あった フダンギ に きかえさせた。 そして ジブン も シタク を した。
 ニョウボウ と ハツゴロウ とは しらず に ねて いた が、 チョウタロウ が メ を さまして、 「ネエサン、 もう ヨ が あけた の」 と いった。
 イチ は チョウタロウ の トコ の ソバ へ いって ささやいた。 「まだ はやい から、 オマエ は ねて おいで。 ネエサン たち は、 オトッサン の ダイジ な ゴヨウ で、 そっと いって くる ところ が ある の だ から ね」
「そんなら オイラ も ゆく」 と いって、 チョウタロウ は むっくり おきあがった。
 イチ は いった。 「じゃあ、 おおき、 キモノ を きせて あげよう。 チョウ さん は ちいさくて も オトコ だ から、 イッショ に いって くれれば、 その ほう が いい のよ」 と いった。
 ニョウボウ は ユメ の よう に アタリ の さわがしい の を きいて、 すこし フアン に なって ネガエリ を した が、 メ は さめなかった。
 3 ニン の コドモ が そっと イエ を ぬけだした の は、 ニバンドリ の なく コロ で あった。 ト の ソト は シモ の アカツキ で あった。 チョウチン を もって、 ヒョウシギ を たたいて くる ヨマワリ の ジイサン に、 オブギョウ サマ の ところ へは どう いったら ゆかれよう と、 イチ が たずねた。 ジイサン は シンセツ な、 モノワカリ の いい ヒト で、 コドモ の ハナシ を マジメ に きいて、 ツキバン の ニシ ブギョウショ の ある ところ を、 テイネイ に おしえて くれた。 トウジ の マチブギョウ は、 ヒガシ が イナガキ アワジ ノ カミ タネノブ で、 ニシ が ササ マタシロウ ナリムネ で ある。 そして 11 ガツ には ニシ の ササ が ツキバン に あたって いた の で ある。
 ジイサン が おしえて いる うち に、 それ を きいて いた チョウタロウ が、 「そん なら、 オイラ の しった マチ だ」 と いった。 そこで キョウダイ は チョウタロウ を サキ に たてて あるきだした。
 ようよう ニシ ブギョウショ に たどりついて みれば、 モン が まだ しまって いた。 モンバンショ の マド の シタ に いって、 イチ が 「もしもし」 と たびたび くりかえして よんだ。
 しばらく して マド の ト が あいて、 そこ へ 40-ガッコウ の オトコ の カオ が のぞいた。 「やかましい。 ナン だ」
「オブギョウ サマ に オネガイ が あって まいりました」 と、 イチ が テイネイ に コシ を かがめて いった。
「ええ」 と いった が、 オトコ は ヨウイ に コトバ の イミ を かいしかねる ヨウス で あった。
 イチ は また おなじ こと を いった。
 オトコ は ようよう わかった らしく、 「オブギョウ サマ には コドモ が モノ を もうしあげる こと は できない、 オヤ が でて くる が いい」 と いった。
「いいえ、 チチ は アシタ オシオキ に なります ので、 それ に ついて オネガイ が ございます」
「ナン だ。 アシタ オシオキ に なる。 それじゃあ、 オマエ は カツラヤ タロベエ の コ か」
「はい」 と イチ が こたえた。
「ふん」 と いって、 オトコ は すこし かんがえた。 そして いった。 「けしからん。 コドモ まで が カミ を おそれん と みえる。 オブギョウ サマ は オマエタチ に オアイ は ない。 かえれ かえれ」 こう いって、 マド を しめて しまった。
 マツ が アネ に いった。 「ネエサン、 あんな に しかる から かえりましょう」
 イチ は いった。 「だまって おいで。 しかられたって かえる の じゃ ありません。 ネエサン の する とおり に して おいで」 こう いって、 イチ は モン の マエ に しゃがんだ。 マツ と チョウタロウ とは ついて しゃがんだ。
 3 ニン の コドモ は モン の あく の を だいぶ ひさしく まった。 ようよう カンノキ を はずす オト が して、 モン が あいた。 あけた の は、 さきに マド から カオ を だした オトコ で ある。
 イチ が サキ に たって モンナイ に すすみいる と、 マツ と チョウタロウ と が ウシロ に つづいた。
 イチ の タイド が あまり ヘイキ なので、 モンバン の オトコ は キュウ に ささえとどめよう とも せず に いた。 そして しばらく 3 ニン の コドモ の ゲンカン の ほう へ すすむ の を、 メ を みはって みおくって いた が、 ようよう ワレ に かえって、 「これこれ」 と コエ を かけた。
「はい」 と いって、 イチ は おとなしく たちどまって ふりかえった。
「どこ へ ゆく の だ。 さっき かえれ と いった じゃ ない か」
「そう おっしゃいました が、 ワタクシドモ は オネガイ を きいて いただく まで は、 どうしても かえらない つもり で ございます」
「ふん。 しぶとい ヤツ だな。 とにかく そんな ところ へ いって は いかん。 こっち へ こい」
 コドモ たち は ひきかえして、 モンバン の ツメショ へ きた。 それ と ドウジ に ゲンカンワキ から、 「ナン だ、 ナン だ」 と いって、 2~3 ニン の ツメシュウ が でて きて、 コドモ たち を とりまいた。 イチ は ほとんど こう なる の を まちかまえて いた よう に、 そこ に うずくまって、 カイチュウ から カキツケ を だして、 マッサキ に いる ヨリキ の マエ に さしつけた。 マツ と チョウタロウ とも イッショ に うずくまって レイ を した。
 カキツケ を マエ へ だされた ヨリキ は、 それ を うけとった もの か、 どうした もの か と まよう らしく、 だまって イチ の カオ を みおろして いた。
「オネガイ で ございます」 と、 イチ が いった。
「コイツラ は キヅガワグチ で サラシモノ に なって いる カツラヤ タロベエ の コドモ で ございます。 オヤ の イノチゴイ を する の だ と いって います」 と、 モンバン が カタワラ から セツメイ した。
 ヨリキ は ドウヤク の ヒトタチ を かえりみて、 「では とにかく カキツケ を あずかって おいて、 うかがって みる こと に しましょう かな」 と いった。 それ には タレ も イギ が なかった。
 ヨリキ は ガンショ を イチ の テ から うけとって、 ゲンカン に はいった。

 ニシ マチブギョウ の ササ は、 リョウ-ブギョウ の ナカ の シンザン で、 オオサカ に きて から、 まだ 1 ネン たって いない。 ヤクムキ の こと は すべて ドウヤク の イナガキ に ソウダン して、 ジョウダイ に うかがって ショチ する の で あった。 それ で ある から、 カツラヤ タロベエ の クジ に ついて、 マエヤク の モウシツギ を うけて から、 それ を ジュウヨウ ジケン と して キ に かけて いて、 ようよう ショケイ の テツヅキ が すんだ の を オモニ を おろした よう に おもって いた。
 そこ へ ケサ に なって、 シュクチョク の ヨリキ が でて、 イノチゴイ の ネガイ に でた モノ が ある と いった ので、 ササ は まず せっかく はこばせた こと に ジャマ が はいった よう に かんじた。
「まいった の は どんな モノ か」 ササ の コエ は フキゲン で あった。
「タロベエ の ムスメ リョウニン と セガレ と が まいりまして、 トシウエ の ムスメ が ガンショ を さしあげたい と もうします ので、 これ に あずかって おります。 ゴラン に なりましょう か」
「それ は メヤスバコ をも おもうけ に なって おる ゴシュイ から、 シダイ に よって は うけとって も よろしい が、 いちおう は それぞれ テツヅキ の ある こと を もうしきかせん では なるまい。 とにかく あずかって おる なら、 ナイケン しよう」
 ヨリキ は ガンショ を ササ の マエ に だした。 それ を ひらいて みて ササ は フシン-らしい カオ を した。 「イチ と いう の が その トシウエ の ムスメ で あろう が、 ナンサイ に なる」
「トリシラベ は いたしません が、 14~15 サイ ぐらい に みうけまする」
「そう か」 ササ は しばらく カキツケ を みて いた。 ふつつか な カナ モジ で かいて は ある が、 ジョウリ が よく ととのって いて、 オトナ でも これ だけ の タンブン に、 これ だけ の コトガラ を かく の は、 ヨウイ で あるまい と おもわれる ほど で ある。 オトナ が かかせた の では あるまい か と いう ネン が、 ふと きざした。 つづいて、 カミ を いつわる オウチャクモノ の ショイ では ない か と シギ した。 それから いちおう の ショチ を かんがえた。 タロベエ は ミョウニチ の ユウガタ まで さらす こと に なって いる。 ケイ を シッコウ する まで には、 まだ トキ が ある。 それまで に ガンショ を ジュリ しよう とも、 すまい とも、 ドウヤク に ソウダン し、 ウワヤク に うかがう こと も できる。 また よしや その アイダ に ジョウギ が ある と して も、 ソウトウ の テツヅキ を させる うち には、 それ を さぐる こと も できよう。 とにかく コドモ を かえそう と、 ササ は かんがえた。
 そこで ヨリキ には こう いった。 この ガンショ は ナイケン した が、 これ は ブギョウ に だされぬ から、 もって かえって マチドシヨリ に だせ と いえ と いった。
 ヨリキ は、 モンバン が かえそう と した が、 どうしても かえらなかった と いう こと を、 ササ に いった。 ササ は、 そんなら カシ でも やって、 すかして かえせ、 それでも きかぬ なら ひきたてて かえせ と めいじた。
 ヨリキ の ザ を たった アト へ、 ジョウダイ オオタ ビッチュウ ノ カミ スケハル が たずねて きた。 セイシキ の ミマワリ では なく、 ワタクシ の ヨウジ が あって きた の で ある。 オオタ の ヨウジ が すむ と、 ササ は ただいま かよう かよう の こと が あった と つげて、 ジブン の カンガエ を のべ、 サシズ を こうた。
 オオタ は べつに シアン も ない ので、 ササ に ドウイ して、 ヒルスギ に ヒガシ マチブギョウ イナガキ をも シュッセキ させて、 マチドシヨリ 5 ニン に カツラヤ タロベエ が コドモ を めしつれて でさせる こと に した。 ジョウギ が あろう か と いう、 ササ の ケネン も もっとも だ と いう ので、 シラス へは セメドウグ を ならべさせる こと に した。 これ は コドモ を おどして ジツ を はかせよう と いう シュダン で ある。
 ちょうど この ソウダン が すんだ ところ へ、 マエ の ヨリキ が でて、 イリグチ に ひかえて ケシキ を うかがった。
「どう じゃ、 コドモ は かえった か」 と、 ササ が コエ を かけた。
「ギョイ で ござりまする。 オカシ を つかわしまして かえそう と いたしました が、 イチ と もうす ムスメ が どうしても ききませぬ。 とうとう ガンショ を フトコロ へ おしこみまして、 ひきたてて かえしました。 イモウトムスメ は しくしく なきました が、 イチ は なかず に かえりました」
「よほど ジョウ の こわい ムスメ と みえます な」 と、 オオタ が ササ を かえりみて いった。

 11 ガツ 24 ニチ の ヒツジ ノ ゲコク で ある。 ニシ マチブギョウショ の シラス は はればれしい コウケイ を ていして いる。 ショイン には リョウ-ブギョウ が レツザ する。 おくまった ところ には ベッセキ を もうけて、 オモテムキ の シュツザ では ない が、 ジョウダイ が トリシラベ の モヨウ を よそながら み に きて いる。 エンガワ には トリシラベ を めいぜられた ヨリキ が、 カキヤク を したがえて チャクザ する。
 ドウシン ら が ミツドウグ を つきたてて、 いかめしく ケイゴ して いる ニワ に、 ゴウモン に もちいる、 あらゆる ドウグ が ならべられた。 そこ へ カツラヤ タロベエ の ニョウボウ と 5 ニン の コドモ と を つれて、 マチドシヨリ 5 ニン が きた。
 ジンモン は ニョウボウ から はじめられた。 しかし ナ を とわれ、 トシ を とわれた とき に、 かつがつ ヘンジ を した ばかり で、 その ホカ の こと を とわれて も、 「いっこう に ぞんじませぬ」、 「おそれいりました」 と いう より ほか、 なにひとつ もうしたてない。
 ツギ に チョウジョ イチ が しらべられた。 トウネン 16 サイ に して は、 すこし おさなく みえる、 ヤセジシ の コムスメ で ある。 しかし これ は ちと の おくする ケシキ も なし に、 イチブ シジュウ の チンジュツ を した。 ソボ の ハナシ を モノカゲ から きいた こと、 ヨル に なって トコ に はいって から、 シュツガン を おもいたった こと、 イモウト マツ に うちあけて カンユウ した こと、 ジブン で ガンショ を かいた こと、 チョウタロウ が メ を さました ので ドウコウ を ゆるし、 ブギョウショ の チョウメイ を きいて から、 アンナイ を させた こと、 ブギョウショ に きて モンバン と オウタイ し、 ついで ツメシュウ の ヨリキ に ガンショ の トリツギ を たのんだ こと、 ヨリキ ら に キョウヨウ せられて かえった こと、 およそ ゼンジツライ ケイレキ した こと を とわれる まま に、 はっきり こたえた。
「それでは マツ の ホカ には ダレ にも ソウダン は いたさぬ の じゃ な」 と、 トリシラベヤク が とうた。
「ダレ にも もうしません。 チョウタロウ にも くわしい こと は もうしません。 オトッサン を たすけて いただく よう に、 おねがい し に いく と もうした だけ で ございます。 オヤクショ から かえりまして、 トシヨリシュウ の オメ に かかりました とき、 ワタクシドモ 4 ニン の イノチ を さしあげて、 チチ を おたすけ くださる よう に ねがう の だ と もうしましたら、 チョウタロウ が、 それでは ジブン も イノチ が さしあげたい と もうして、 とうとう ワタクシ に ジブン だけ の オネガイショ を かかせて、 もって まいりました」
 イチ が こう もうしたてる と、 チョウタロウ が フトコロ から カキツケ を だした。
 トリシラベヤク の サシズ で、 ドウシン が ヒトリ チョウタロウ の テ から カキツケ を うけとって、 エンガワ に だした。
 トリシラベヤク は それ を ひらいて、 イチ の ガンショ と ひきくらべた。 イチ の ガンショ は マチドシヨリ の テ から、 トリシラベ の はじまる マエ に、 ださせて あった の で ある。
 チョウタロウ の ガンショ には、 ジブン も アネ や キョウダイ と イッショ に、 チチ の ミガワリ に なって しにたい と、 マエ の ガンショ と おなじ シュセキ で かいて あった。
 トリシラベヤク は 「マツ」 と よびかけた。 しかし マツ は よばれた の に キ が つかなかった。 イチ が 「および に なった の だよ」 と いった とき、 マツ は はじめて おそるおそる うなだれて いた コウベ を あげて、 エンガワ の ウエ の ヤクニン を みた。
「オマエ は アネ と イッショ に しにたい の だな」 と、 トリシラベヤク が とうた。
 マツ は 「はい」 と いって うなずいた。
 ツギ に トリシラベヤク は 「チョウタロウ」 と よびかけた。
 チョウタロウ は すぐに 「はい」 と いった。
「オマエ は カキツケ に かいて ある とおり に、 キョウダイ イッショ に しにたい の じゃ な」
「ミンナ しにます のに、 ワタシ が ヒトリ いきて いたく は ありません」 と、 チョウタロウ は はっきり こたえた。
「トク」 と トリシラベヤク が よんだ。 トク は アネ や アニ が ジュンジョ に よばれた ので、 コンド は ジブン が よばれた の だ と キ が ついた。 そして ただ メ を みはって ヤクニン の カオ を あおぎみた。
「オマエ も しんで も いい の か」
 トク は だまって カオ を みて いる うち に、 クチビル に ケッショク が なくなって、 メ に ナミダ が いっぱい たまって きた。
「ハツゴロウ」 と トリシラベヤク が よんだ。
 ようよう 6 サイ に なる バッシ の ハツゴロウ は、 これ も だまって ヤクニン の カオ を みた が、 「オマエ は どう じゃ、 しぬる の か」 と とわれて、 カッパツ に カブリ を ふった。 ショイン の ヒトビト は おぼえず、 それ を みて ほほえんだ。
 この とき ササ が ショイン の シキイギワ まで すすみでて、 「イチ」 と よんだ。
「はい」
「オマエ の モウシタテ には ウソ は あるまい な。 もし すこし でも もうした こと に マチガイ が あって、 ヒト に おしえられたり、 ソウダン を したり した の なら、 イマ すぐに もうせ。 かくして もうさぬ と、 そこ に ならべて ある ドウグ で、 マコト の こと を もうす まで せめさせる ぞ」 ササ は セメドウグ の ある ホウガク を ゆびさした。
 イチ は さされた ホウガク を ヒトメ みて、 すこしも たゆたわず に、 「いえ、 もうした こと に マチガイ は ございません」 と いいはなった。 その メ は ひややか で、 その コトバ は しずか で あった。
「そんなら いま ヒトツ オマエ に きく が、 ミガワリ を おききとどけ に なる と、 オマエタチ は すぐに ころされる ぞよ。 チチ の カオ を みる こと は できぬ が、 それでも いい か」
「よろしゅう ございます」 と、 おなじ よう な、 ひややか な チョウシ で こたえた が、 すこし マ を おいて、 ナニ か ココロ に うかんだ らしく、 「オカミ の こと には マチガイ は ございますまい から」 と いいたした。
 ササ の カオ には、 フイウチ に あった よう な、 キョウガク の イロ が みえた が、 それ は すぐに きえて、 けわしく なった メ が、 イチ の オモテ に そそがれた。 ゾウオ を おびた キョウイ の メ と でも いおう か。 しかし ササ は なにも いわなかった。
 ついで ササ は なにやら トリシラベヤク に ささやいた が、 まもなく トリシラベヤク が マチドシヨリ に、 「ゴヨウ が すんだ から、 ひきとれ」 と いいわたした。
 シラス を さがる コドモ ら を みおくって、 ササ は オオタ と イナガキ と に むいて、 「オイサキ の おそろしい モノ で ござります な」 と いった。 ココロ の ウチ には、 あわれ な コウコウ ムスメ の カゲ も のこらず、 ヒト に キョウサ せられた、 おろか な コドモ の カゲ も のこらず、 ただ コオリ の よう に ひややか に、 ヤイバ の よう に するどい、 イチ の サイゴ の コトバ の サイゴ の イック が ハンキョウ して いる の で ある。 ゲンブン-ゴロ の トクガワ-ケ の ヤクニン は、 もとより 「マルチリウム」 と いう ヨウゴ も しらず、 また トウジ の ジショ には ケンシン と いう ヤクゴ も なかった ので、 ニンゲン の セイシン に、 ロウニャク ナンニョ の ベツ なく、 ザイニン タロベエ の ムスメ に あらわれた よう な サヨウ が ある こと を、 しらなかった の は ムリ も ない。 しかし ケンシン の ウチ に ひそむ ハンコウ の ホコサキ は、 イチ と コトバ を まじえた ササ のみ では なく、 ショイン に いた ヤクニン イチドウ の ムネ をも さした。

 ジョウダイ も リョウ-ブギョウ も イチ を 「ヘン な コムスメ だ」 と かんじて、 その カンジ には モノ でも ついて いる の では ない か と いう メイシン さえ くわわった ので、 コウジョ に たいする ドウジョウ は うすかった が、 トウジ の ギョウセイ シホウ の、 ゲンシテキ な キカン が シゼン に カツドウ して、 イチ の ガンイ は きせず して カンテツ した。 カツラヤ タロベエ の ケイ の シッコウ は、 「エド へ ウカガイチュウ ヒノベ」 と いう こと に なった。 これ は トリシラベ の あった ヨクジツ、 11 ガツ 25 ニチ に マチドシヨリ に たっせられた。 ついで ゲンブン 4 ネン 3 ガツ フツカ に、 「キョウト に おいて ダイジョウエ ゴシッコウ あいなりそうろうて より ニチゲン も あいたたざる ギ に つき、 タロベエ こと、 シザイ ゴシャメン おおせいだされ、 オオサカ キタ、 ミナミグミ、 テンマ の ミクチ オカマイ の うえ ツイホウ」 と いう こと に なった。 カツラヤ の カゾク は、 ふたたび ニシ ブギョウショ に よびだされて、 チチ に ワカレ を つげる こと が できた。 ダイジョウエ と いう の は、 ジョウキョウ 4 ネン に ヒガシヤマ テンノウ の セイギ が あって から、 カツラヤ タロベエ の こと を かいた コウサツ の たった ゲンブン 3 ネン 11 ガツ 23 ニチ の チョクゼン、 おなじ ツキ の 19 ニチ に、 51 ネン-メ に、 サクラマチ テンノウ が キョコウ したまう まで、 チュウゼツ して いた の で ある。

ある オンナ (ゼンペン)

 ある オンナ  (ゼンペン)  アリシマ タケオ  1  シンバシ を わたる とき、 ハッシャ を しらせる 2 バンメ の ベル が、 キリ と まで は いえない 9 ガツ の アサ の、 けむった クウキ に つつまれて きこえて きた。 ヨウコ は ヘイキ で それ ...