2017/12/24

ロウギ-ショウ

 ロウギ-ショウ

 オカモト カノコ

 ヒライデ ソノコ と いう の が ロウギ の ホンミョウ だ が、 これ は カブキ ハイユウ の コセキメイ の よう に トウニン の カンジ に なずまない ところ が ある。 そう か と いって ショクギョウジョウ の ナ の コソノ と だけ では、 だんだん シロウト の ソボク な キモチ に かえろう と して いる コンニチ の カノジョ の キヒン に そぐわない。
 ここ では ただ なんとなく ロウギ と いって おく ほう が よかろう と おもう。
 ヒトビト は マヒル の ヒャッカテン で よく カノジョ を みかける。
 めだたない ヨウハツ に むすび、 イチラク の キモノ を カタギフウ に つけ、 コオンナ ヒトリ つれて、 ユウウツ な カオ を して テンナイ を あるきまわる。 カップク の よい チョウシン に リョウテ を だらり と たらし、 なげだして ゆく よう な アシドリ で、 ヒトツトコロ を ナンド も まわりかえす。 そう か と おもう と、 カミダコ の イト の よう に すっと のして いって、 おもいがけない よう な とおい ウリバ に たたずむ。 カノジョ は マヒル の サビシサ イガイ、 なにも イシキ して いない。
 こう やって ジブン を マヒル の サビシサ に いこわして いる、 その こと さえ も イシキ して いない。 ひょっと めぼしい シナ が シヤ から カノジョ を よびさます と、 カノジョ の あおみがかった ヨコナガ の メ が ゆったり と ひらいて、 タイショウ の シナモノ を ユメ の ナカ の ボタン の よう に ながめる。 クチビル が ムスメジダイ の よう に マクレギミ に、 カタスミ へ よる と そこ に ビショウ が うかぶ。 また ユウウツ に かえる。
 だが、 カノジョ は ショクギョウ の バショ に でて、 コウテキシュ が みつかる と、 ハジメ は ちょっと ほうけた よう な ヒョウジョウ を した アト から、 いくらでも カイカツ に しゃべりだす。
 シンキラク の マエ の オカミ の いきて いた ジブン に、 この オカミ と カノジョ と、 もう ヒトリ シンバシ の ヒサゴ アタリ が ヒトツセキ に おちあって、 ザツダン でも はじめる と、 この シャカイジン の ミミ には テンケイテキ と おもわれる、 キチ と ヒヤク に とんだ カイワ が テンカイ された。 ソウトウ な ネンパイ の ゲイギ たち まで 「ハナシブリ を ならおう」 と いって、 キャク を すてて ロウジョ たち の シュウイ に あつまった。
 カノジョ ヒトリ の とき でも、 キ に いった わかい ドウギョウ の オンナ の ため には、 ケイレキダン を よく はなした。
 なにも しらない オシャク ジダイ に、 ザシキ の キャク と センパイ との アイダ に かわされる ロコツ な ハナシ に わらいすぎて タタミ の ウエ に ソソウ を して しまい、 ザ が たてなく なって なきだして しまった こと から はじめて、 カコイモノ ジダイ に、 ジョウジン と にげだして、 ダンナ に オフクロ を ヒトジチ に とられた ハナシ や、 もはや カカエッコ の フタリ 3 ニン も おく よう な カンバンヌシ に なって から も、 ナイジツ の クルシミ は、 5 エン の ゲンキン を かりる ため に、 ヨコハマ オウフク 12 エン の ゲツマツバライ の クルマ に のって いった こと や、 カノジョ は アイテ の わかい オンナ たち を ワライ で へとへと に つからせず には おかない まで、 ハナシ の スジ は おなじ でも、 シュコウ は かえて、 その セマリカタ は カノジョ に モノノケ が つき、 われしらず に ミワク の ツメ を アイテ の オンナ に つきたてて ゆく よう に みえる。 ワカサ を シット して、 オイ が コウカツ な ホウホウ で たくみ に せめさいなんで いる よう に さえ みえる。
 わかい ゲイギ たち は、 とうとう カミ を ふりみだして、 リョウ-ワキバラ を おさえあえいで いう の だった。
「ネエサン、 たのむ から もう よして よ。 このうえ わらわせられたら しんで しまう」
 ロウギ は、 いきてる ヒト の こと は けっして かたらない が、 コジン で ナジミ の あった ヒト に ついて は ヒトカワ むいた カノジョ ドクトク の カンサツ を かたった。 それら の ヒト の ナカ には おもいがけない シロウト や ゲイニン も あった。
 チュウゴク の メイユウ の メイ ランファン が テイコク ゲキジョウ に シュツエン し に きた とき、 その キモイリ を した ボウ-フゴウ に むかって、 ロウギ は 「ヒヨウ は いくら かかって も かまいません から、 イチド の オリ を つくって ほしい」 と たのみこんで、 その フゴウ に なだめかえされた と いう ハナシ が、 ウソ か ホントウ か、 カノジョ の イツワ の ヒトツ に なって いる。
 わらいくるしめられた ゲイギ の ヒトリ が、 その フクシュウ の つもり も あって、
「ネエサン は、 その とき、 ギンコウ の ツウチョウ を オビアゲ から だして、 オカネ なら これだけ あります と、 その カタ に みせた と いう が、 ホントウ です か」 と きく。
 すると、 カノジョ は、
「ばかばかしい。 コドモ じゃ あるまい し、 オビアゲ の なんの って……」
 コドモ の よう に なって、 ぷんぷん おこる の で ある。 その シンギ は とにかく、 カノジョ から こういう ウブ な タイド を みたい ため にも、 わかい オンナ たち は しばしば きいた。
「だが ね。 オマエサンタチ」 と コソノ は スベテ を かたった ノチ に いう、 「ナンニン オトコ を かえて も つづまる ところ、 たった ヒトリ の オトコ を もとめて いる に すぎない の だね。 イマ こう やって おもいだして みて、 この オトコ、 あの オトコ と ブブン ブブン に ひかれる もの の のこって いる ところ は、 その もとめて いる オトコ の イチブ イチブ の キレハシ なの だよ。 だから、 どれ も これ も ヒトリ では ながく は つづかなかった のさ」
「そして、 その もとめて いる オトコ と いう の は」 と わかい ゲイギ たち は ききかえす と、
「それ が はっきり わかれば、 クロウ なんか し や しない やね」 それ は ハツコイ の オトコ の よう でも あり、 また、 このさき、 みつかって くる オトコ かも しれない の だ と、 カノジョ は ニチジョウ セイカツ の バアイ の ユウウツ な ウツクシサ を キジ で だして いった。
「そこ へ いく と、 カタギ さん の オンナ は うらやましい ねえ。 オヤ が きめて くれる、 ショウガイ ヒトリ の オトコ を もって、 なにも まよわず に コドモ を もうけて、 その コドモ の セワ に なって しんで いく」
 ここ まで きく と、 わかい ゲイギ たち は、 ネエサン の ハナシ も いい が アト が ヒト を くさらして いけない と ひょうする の で あった。

 コソノ が ナガネン の シンク で ヒトトオリ の ザイサン も でき、 ザシキ の ツトメ も ジユウ な センタク が ゆるされる よう に なった 10 ネン ほど マエ から、 なんとなく ケンコウ で ジョウシキテキ な セイカツ を のぞむ よう に なった。 ゲイシャヤ を して いる オモテダナ と カノジョ の すまって いる ウラ の クラツキ の ザシキ とは カクリ して しまって、 シモタヤ-フウ の デイリグチ を ベツ に ロジ から オモテドオリ へ つける よう に ゾウサク した の も、 その アラワレ の ヒトツ で ある し、 トオエン の コドモ を もらって、 ヨウジョ に して ジョガッコウ へ かよわせた の も その アラワレ の ヒトツ で ある。 カノジョ の ケイコゴト が シンジダイテキ の もの や チシキテキ の もの に うつって いった の も、 あるいは また その アラワレ の ヒトツ と いえる かも しれない。 この モノガタリ を かきしるす サクシャ の モト へは、 シタマチ の ある チジン の ショウカイ で ワカ を まなび に きた の で ある が、 その とき カノジョ は こういう イミ の こと を いった。
 ゲイシャ と いう もの は、 チョウホウ ナイフ の よう な もの で、 これ と いって トクベツ に よく きく こと も いらない が、 タイガイ な こと に まにあう もの だけ は もって いなければ ならない。 どうか その テイド に おしえて いただきたい。 コノゴロ は ジブン の トシカッコウ から、 しぜん ジョウヒン-ムキ の オキャクサン の オアイテ を する こと が おおく なった から。
 サクシャ は 1 ネン ほど この ハハ ほど も トシウエ の ロウジョ の ギノウ を こころみた が、 ワカ は ない ソシツ では なかった が、 むしろ ハイク に てきする セイカク を もって いる の が わかった ので、 やがて ジョリュウ ハイジン の ボウジョ に ショウカイ した。 ロウギ は それまで の シドウ の レイ だ と いって、 デイリ の ショクニン を サクシャ の イエ へ よこして、 ナカニワ に シタマチフウ の ちいさな イケ と フンスイ を つくって くれた。
 カノジョ が ジブン の オモヤ を ワヨウ セッチュウ-フウ に カイチク して、 デンカ ソウチ に した の は、 カノジョ が ショクギョウサキ の リョウテイ の それ を みて きて、 マケズギライ から の オモイタチ に ちがいない が、 セツビ して みて、 カノジョ は この ブンメイ の リキ が あらわす ハタラキ には、 ケンコウテキ で シンピ な もの を かんずる の だった。
 ミズ を クチ から そそぎこむ と たちまち ユ に なって セングチ から でる ギザー や、 キセル の サキ で おす と、 すぐ タネビ が てんじて タバコ に もえつく デンキ タバコボン や、 それら を つかいながら、 カノジョ の ココロ は シンセン に ふるえる の だった。
「まるで イキモノ だね、 ふーむ、 モノゴト は バンジ こう いかなくっちゃ……」
 その カンジ から ソウゾウ に うまれて くる、 タンテキ で ソクリョクテキ な セカイ は、 カノジョ に ジブン の して きた ショウガイ を かえりみさせた。
「アタシタチ の して きた こと は、 まるで アンドン を つけて は けし、 けして は つける よう な まどろい ショウガイ だった」
 カノジョ は メートル の ヒヨウ の かさむ の に すくなからず ヘキエキ しながら、 デンキ ソウチ を いじる の を タノシミ に、 しばらく は マイアサ コドモ の よう に ハヤオキ した。
 デンキ の シカケ は よく そんじた。 キンジョ の マキタ と いう デンキ キグ-ショウ の シュジン が きて シュウゼン した。 カノジョ は その シュウゼン する ところ に つきまとって、 めずらしそう に みて いる うち に、 カノジョ に いくらか の デンキ の チシキ が とりいれられた。
「イン の デンキ と ヨウ の デンキ が ガッタイ する と、 そこ に イロイロ の ハタラキ を おこして くる。 ふーむ、 こりゃ ニンゲン の アイショウ と そっくり だねえ」
 カノジョ の ブンカ に たいする キョウイ は いっそう ふかく なった。
 オンナ だけ の イエ では オトコデ の ほしい デキゴト が しばしば あった。 それで、 この ホウメン の シベン も かねて マキタ が デイリ して いた が、 ある とき、 マキタ は ヒトリ の セイネン を ともなって きて、 これから デンキ の ほう の こと は この オトコ に やらせる と いった。 ナマエ は ユキ と いった。 カイカツ で こともなげ な セイネン で、 イエ の ナカ を みまわしながら、
「ゲイシャヤ に しちゃあ、 シャミセン が ない なあ」 など と いった。 たびたび きて いる うち、 その こともなげ な ヨウス と、 それから ヒト の キサキ を はねかえす さっそう と した わかい キブン が、 いつのまにか ロウギ の テゴロ な コトバガタキ と なった。
「ユキ クン の シゴト は ちゃち だね。 1 シュウカン と もった ためし は ない ぜ」 カノジョ は こんな コトバ を つかう よう に なった。
「そりゃ そう さ、 こんな つまらない シゴト は。 パッション が おこらない から ねえ」
「パッション て ナン だい」
「パッション かい。 ははは、 そう さなあ、 キミタチ の シャカイ の コトバ で いう なら、 うん、 そう だ、 イロケ が おこらない と いう こと だ」
 ふと、 ロウギ は ジブン の ショウガイ に アワレミ の ココロ が おこった。 パッション と やら が おこらず に、 ほとんど ショウガイ つとめて きた ザシキ の カズカズ、 アイテ の カズカズ が おもいうかべられた。
「ふむ。 そう かい。 じゃ、 キミ、 どういう シゴト なら イロケ が おこる ん だい」
 セイネン は ハツメイ を して、 センバイ トッキョ を とって、 カネ を もうける こと だ と いった。
「なら、 はやく それ を やれば いい じゃ ない か」
 ユキ は ロウギ の カオ を みあげた が、
「やれば いい じゃ ない か って、 そう コト が カンタン に…… (ユキ は ここ で シタウチ を した) だから キミタチ は アソビメ と いわれる ん だ」
「いや そう で ない ね。 こう いいだした から には、 こっち に ソウダン に のろう と いう ハラ が ある から だよ。 たべる ほう は ひきうける から、 キミ、 おもうぞんぶん に やって みちゃ どう だね」
 こうして、 ユキ は マキタ の ミセ から、 コソノ が もって いる カサク の ヒトツ に うつった。 ロウギ は ユキ の いう まま に イエ の イチブ を コウボウ に しかえ、 タショウ の ケンキュウ の キカイルイ も かって やった。

 ちいさい とき から クガク を して やっと デンキ ガッコウ を ソツギョウ は した が、 モクテキ の ある ユキ は、 カラダ を しばられる ツトメニン に なる の は さけて、 ほとんど ヒヨウトリ ドウヨウ の リンジヤトイ に なり、 シチュウ の デンキ キグ-テン マワリ を して いた が、 ふと マキタ が ドウキョウ の チュウガク の センパイ で、 そのうえ セワズキ の オトコ なの に ほだされ、 しばらく その テンム を てつだう こと に なって すみこんだ。 だが マキタ の イエ には コドモ が おおい し、 こまこま した シゴト は ツギ から ツギ と ある し、 ヘキエキ して いた ヤサキ だった ので すぐに ロウギ の コウエン を うけいれた。 しかし、 カレ は たいして ありがたい とは おもわなかった。 さんざん アブクゼニ を オトコ たち から しぼって、 スキホウダイ な こと を した ショウバイ オンナ が、 としおいて リョウシン への ツグナイ の ため、 ダレ でも こんな こと は したい の だろう。 こっち から オンケイ を ほどこして やる の だ と いう ふてぶてしい カンガエ は もたない まで も、 ロウギ の コウイ を フタン には かんじられなかった。 うまれて はじめて、 ヒビ の カテ の シンパイ なく、 センシン に ショモツ の ナカ の こと と、 ジッケンシツ の セイセキ と つきあわせながら、 つかえる ブブン を ジブン の クフウ の ナカ へ なめしとって、 ヨノナカ に ない もの を つくりだして ゆこう と する しずか で アシドリ の たしか な セイカツ は コウフク だった。 ユキ は ジブン ながら ソウク と おもわれる カラダ に、 アサヌノ の ブルーズ を きて、 アタマ を コテ で ちぢらし、 イス に ナナメ に よって、 タバコ を くゆらして いる ジブン の スガタ を、 ハシラカケ の カガミ の ナカ に みて、 マエ とは ベツジン の よう に おもい、 また わかき ハツメイカ に ふさわしい もの に ジブン ながら おもった。 コウボウ の ソト は マワリエン に なって いて、 クケイ の ほそながい ニワ には ウエキ も すこし は あった。 カレ は シゴト に つかれる と、 この エン へ でて アオムケ に ねころび、 トカイ の すこし よどんだ アオゾラ を ながめながら、 イロイロ の クウソウ を マドロミ の ユメ に うつしいれた。
 コソノ は 4~5 ニチ-メ ごと に みまって きた。 ずらり と イエ の ナカ を みまわして、 クラシ に フジユウ そう な ブブン を おぼえて おいて、 アト で ジタク の モノ の ダレ か に はこばせた。
「アンタ は わかい ヒト に しちゃ セワ の かからない ヒト だね。 いつも ウチ の ナカ は きちんと して いる し、 ヨゴレモノ ヒトツ ためて ない ね」
「そりゃ そう さ。 ハハオヤ が はやく なくなっちゃった から、 アカンボウ の うち から オムツ を ジブン で センタク して、 ジブン で あてがった」
 ロウギ は 「まさか」 と わらった が、 かなしい カオツキ に なって、 こう いった。
「でも、 オトコ が あんまり こまかい こと に キ の つく の は えらく なれない ショウブン じゃ ない の かい」
「ボク だって、 ねっから こんな ショウブン でも なさそう だ が、 しぜん と ならされて しまった の だね。 ちっと でも ジブン に ダラシ が ない ところ が メ に つく と、 ジブン で フアン なの だ」
「なんだか しらない が、 ほしい もの が あったら、 エンリョ なく いくらでも そう おいい よ」
 ハツウマ の ヒ には イナリズシ など とりよせて、 オヤコ の よう な クツロギカタ で たべたり した。
 ヨウジョ の ミチコ の ほう は キマグレ で あった。 きはじめる と マイニチ の よう に きて、 ユキ を アソビアイテ に しよう と した。 ちいさい ジブン から ジョウジ を ショウヒン の よう に とりあつかいつけて いる この シャカイ に そだって、 いくら ヨウボ が シャダン した つもり でも、 ショウヒンテキ の ジョウジ が シンジョウ に しみない わけ は なかった。 はやく から ませて しまって、 しかも、 それ を ケイシキ だけ に おぼえて しまった。 セイシュン など は スドオリ して しまって、 ココロ は コドモ の まま かたまって、 その ウワカワ に ほんの ヒトエ オトナ の フンベツ が ついて しまった。 ユキ は アソビゴト には キ が のらなかった。 キョウミ が はずまない まま ミチコ は くる の が とだえて、 ひさしく して から また のっそり と くる。 ジブン の イエ で セワ を して いる ニンゲン に わかい オトコ が ヒトリ いる、 あそび に いかなくちゃ ソン だ と いう くらい の キモチ だった。 ロウボ が エン も ユカリ も ない ニンゲン を ひろって きて、 フフク-らしい ところ も あった。
 ミチコ は ユキ の ヒザ の ウエ へ ムゾウサ に コシ を かけた。 ヨウシキ だけ は カンゼン な ナガシメ を して、
「どの くらい メカタ が ある か はかって みて よ」
 ユキ は 2~3 ド ヒザ を アゲサゲ した が、
「ケッコン テキレイキ に しちゃあ、 ジョウソウ の カンカン が たりない ね」
「そんな こと は なくって よ、 ガッコウ で ソウコウテン は A だった わよ」
 ミチコ は ユキ の いう ジョウソウ と いう コトバ の イミ を わざと ちがえて とった の か、 ホントウ に とりちがえた もの か――
 ユキ は イフク の ウエ から ムスメ の タイカク を さぐって いった。 それ は エイヨウ フリョウ の コドモ が イチニンマエ の オンナ の キョウタイ を する ショウタイ を ハッケン した よう な、 オカシミ が あった ので、 カレ は つい シッショウ した。
「ずいぶん シツレイ ね」
「どうせ アナタ は えらい のよ」 ミチコ は おこって たちあがった。
「まあ、 せいぜい ウンドウ でも して、 オッカサン ぐらい な タイカク に なる ん だね」
 ミチコ は それ イゴ なぜ とも しらず、 しきり に ユキ に ニクシミ を もった。

 ハントシ ほど の アイダ、 ユキ の コウフクカン は つづいた。 しかし、 それから サキ、 カレ は なんとなく ぼんやり して きた。 モクテキ の ハツメイ が クウソウ されて いる うち は、 たしか に すばらしく おもった が、 ジッチ に しらべたり、 ケンキュウ する ダン に なる と、 ジブン と ドウシュ の コウアン は すでに イクツ も トッキョ されて いて、 たとえ ジブン の クフウ の ほう が ずっと すすんで いる に して も、 キキョ の もの との テイショク を さける ため、 かなり モヨウ を かえねば ならなく なった。 そのうえ こういう ハツメイキ が はたして シャカイ に ジュヨウ される もの やら どう か も うたがわれて きた。 じっさい センモンカ から みれば いい もの なの だ が、 いっこう シャカイ に おこなわれない ケッコウ な ハツメイ が ある か と おもえば、 ちょっと した オモイツキ の もの で、 ヒジョウ に あたる こと も ある。 ハツメイ には スペキュレーション を ともなう と いう こと も、 ユキ は かねがね ショウチ して いる こと では あった が、 その ハコビ が これほど オモイドオリ すなお に ゆかない もの だ とは、 ジッサイ に やりだして はじめて ツウカン する の だった。
 しかし、 それ より も ユキ に この セイカツ への ネツイ を うしなわしめた ゲンイン は、 ジブン ジシン の キモチ に あった。 マエ に ヒト に つかわれて はたらいて いた ジブン は、 セイカツ の シンパイ を はなれて、 センシン に クフウ に ボットウ したら、 さぞ こころよい だろう と いう、 その ドウケイ から ヒビ の ザツエキ も しのべて いた の だ が、 その とおり に アサユウ を おくれる こと に なって みる と、 タンチョウ で クジュウ な もの だった。 ときどき あまり しずか で、 そのうえ まったく ダレ にも ソウダン せず、 ジブン ヒトリ だけ の カンガエ を つきすすめて いる ジョウタイ は、 なんだか ケントウチガイ な こと を して いる ため、 とんでもない ホウコウ へ それて いて、 シャカイ から ジブン ヒトリ が とりのこされた の では ない か と いう オビエ さえ しばしば おこった。
 カネモウケ と いう こと に ついて も ギモン が おこった。 コノゴロ の よう に クラシ に シンパイ が なくなり ほんの キバラシ に ソト へ でる に して も、 エイガ を みて、 サカバ へ よって、 ビスイ を おびて、 エンタク に のって かえる ぐらい の こと で じゅうぶん すむ。 そのうえ その くらい な ヒヨウ なら、 そう いえば ロウギ は こころよく くれた。 そして それ だけ で ジブン の イラク は じゅうぶん マンゾク だった。 ユキ は 2~3 ド ショクギョウ ナカマ に さそわれて、 オンナ ドウラク を した こと も ある が、 ウリモノ、 カイモノ イジョウ に もとめる キ は おこらず、 それ より、 はやく キママ の できる ジブン の ウチ へ かえって、 のびのび と ジブン の コノミ の トコ に ねたい キ が しきり に おこった。 カレ は あそび に いって も ガイハク は イチド も しなかった。 カレ は シング だけ は ミブン フソウオウ の もの を つくって いて、 ハネブトン など、 ジブン で トリヤ から ハネ を かって きて キヨウ に こしらえて いた。
 いくら さがして みて も これ イジョウ の ヨク が ジブン に おこりそう も ない、 ミョウ に チュウワ されて しまった ジブン を ハッケン して ユキ は こころざむく なった。
 これ は、 ジブン ら の トシゴロ の セイネン に して は ヘンタイ に なった の では ない かしらん とも かんがえた。
 それ に ひきかえ、 あの ロウギ は なんと いう オンナ だろう。 ユウウツ な カオ を しながら、 ネ に わからない たくましい もの が あって、 ケイコゴト ヒトツ だって、 ツギ から ツギ へ と、 ミチ の もの を むさぼりくって ゆこう と して いる。 つねに マンゾク と フマン が かわるがわる カノジョ を おしすすめて いる。
 コソノ が また ミマワリ に きた とき に、 ユキ は こんな こと から きく ハナシ を もちだした。
「フランス レビュー の オオダテモノ の ジョユウ で、 ミスタンゲット と いう の が ある がね」
「ああ そん なら しってる よ。 レコード で…… あの フシマワシ は たいした もん だね」
「あの オバアサン は カラダジュウ の シワ を アシ の ウラ へ、 くくって ためて いる と いう ヒョウバン だ が、 アンタ なんか まだ その ヒツヨウ は なさそう だなあ」
 ロウギ の メ は ぎろり と ひかった が、 すぐ ビショウ して、
「アタシ かい、 さあ、 もう だいぶ トシコシ の マメ の カズ も ふえた から、 マエ の よう には いくまい が、 まあ ためしに」 と いって、 ロウギ は ヒダリ の ウデ の ソデグチ を まくって ユキ の マエ に つきだした。
「アンタ が だね。 ここ の ウデ の カワ を オヤユビ と ヒトサシユビ で ちからいっぱい つねって おさえてて ごらん」
 ユキ は いう とおり に して みた。 ユキ に そう させて おいて から、 ロウギ は その ハンタイガワ の ウデ の ヒフ を ジブン の ミギ の 2 ホン の ユビ で つねって ひく と、 ユキ の ユビ に はさまって いた ヒフ は じいわり すべりぬけて、 モト の ウデ の カタチ に おさまる の で ある。 もう イチド ユキ は チカラ を こめて ためして みた が、 ロウギ に ひかれる と すべりさって つねりとめて いられなかった。 ウナギ の ハラ の よう な つよい ナメラカサ と、 ヨウヒシ の よう な シンピ な しろい イロ と が、 ユキ の カンカク に いつまでも のこった。
「キモチ の わるい……。 だが、 おどろいた なあ」
 ロウギ は ウデ に ユビアト の チノケ が さした の を、 チリメン の ジュバン の ソデ で こすりちらして から、 ウデ を おさめて いった。
「ちいさい とき から、 うったり たたかれたり して オドリ で きたえられた おかげ だよ」
 だが、 カノジョ は その ヨウネン ジダイ の クロウ を おもいおこして、 あんたん と した カオツキ に なった。
「オマエサン は、 コノゴロ、 どうか おし かえ」
 と ロウギ は しばらく ユキ を じろじろ みながら いった。
「いいえ さ、 ベンキョウ しろ とか、 はやく セイコウ しろ とか、 そんな こと を いう ん じゃ ない よ。 まあ、 サカナ に したら、 イキ が わるく なった よう に おもえる ん だ が、 どう かね。 ジブン の こと だけ だって かんがえあまって いる はず の わかい トシゴロ の オトコ が、 トシヨリ の オンナ に むかって ネンレイ の こと を きづかう の など も、 もう ヒニク に キモチ が こずんで きた ショウコ だね」
 ユキ は ドウサツ の スルドサ に シタ を まきながら、 ショウジキ に ハクジョウ した。
「ダメ だな、 ボク は、 なにも ヨノナカ に イロケ が なくなった よ。 いや、 ひょっと したら ハジメ から ない ウマレツキ だった かも しれない」
「そんな こと も なかろう が、 しかし、 もし そう だったら こまった もの だね。 キミ は みちがえる ほど カラダ など ふとって きた よう だ がね」
 じじつ、 ユキ は もとより いい タイカク の セイネン が、 ふーっと ふくれる よう に シボウ が ついて、 ボッチャン-らしく なり、 チャイロ の ヒトミ の メ の ウワマブタ の ハレグアイ や、 アゴ が ニジュウ に くびれて きた ところ に つやめいた イロ さえ つけて いた。
「うん、 カラダ は とても いい ジョウタイ で、 ただ こう やって いる だけ で、 とろとろ した いい キモチ で、 よっぽど キ を はりつめて いない と、 キ に かけなくちゃ ならない こと も すぐ わすれて いる ん だ。 それだけ、 また、 ふだん、 いつも フアン なの だよ。 うまれて こんな こと はじめて だ」
「ムギトロ の タベスギ かね」 ロウギ は ユキ が よく キンジョ の ムギメシ と トロロ を カンバン に して いる ミセ から、 それ を とりよせて たべる の を しって いる もの だ から、 こう まぜっかえした が、 すぐ マジメ に なり 「そんな とき は、 なんでも いい から クロウ の タネ を みつける ん だね。 クロウ も ホドホド の ブンリョウ にゃ もちあわせて いる もん だよ」

 それから 2~3 ニチ たって、 ロウギ は ユキ を ガイシュツ に さそった。 ツレ には ミチコ と ロウギ の イエ の カカエ で ない ユキ の みしらぬ わかい ゲイギ が フタリ いた。 わかい ゲイギ たち は、 ちょっと した セイソウ を して いて、 ロウギ に、
「ネエサン、 キョウ は ありがとう」 と テイネイ に レイ を いった。
 ロウギ は ユキ に、
「キョウ は キミ の タイクツ の イロウカイ を する つもり で、 これら の ゲイギ たち にも、 ちゃんと トオデ の ヒヨウ を はらって ある の だ」 と いった。 「だから、 キミ は ダンナ に なった つもり で、 エンリョ なく ユカイ を すれば いい」
 なるほど、 フタリ の わかい ゲイギ たち は、 よく はたらいた。 タケヤ の ワタシ を ワタシブネ に のる とき には トシシタ の ほう が ユキ に 「オニイサン、 ちょっと テ を とって ください な」 と いった。 そして フネ の ナカ へ うつる とき、 わざと よろけて ユキ の セ を かかえる よう に して つかまった。 ユキ の ハナ に コウユ の ニオイ が して、 ムネ の マエ に ウシロエリ の あかい ウラ から ふとった しろい クビ が むっくり ぬきでて、 ボンノクボ の カミ の ハエギワ が、 あおく かすめる ところ まで、 つきつけた よう に みせた。 カオ は すこし ヨコムキ に なって いた ので、 あつく オシロイ を つけて、 しろい エナメル ほど テリ を もつ ホオ から ナカダカ の ハナ が チョウコク の よう に はっきり みえた。
 ロウギ は フネ の ナカ の シキリ に こしかけて いて、 オビ の アイダ から タバコイレ と ライター を とりだしかけながら、
「いい ケシキ だね」 と いった。
 エンタク に のったり、 あるいたり して、 イッコウ は アラカワ ホウスイロ の ミズ に ちかい ショカ の ケシキ を みて まわった。 コウジョウ が ふえ、 カイシャ の シャタク が たちならんだ が、 ムカシ の カネガフチ や、 アヤセ の オモカゲ は セキタンガラ の ジメン の アイダ に、 ほんの キレハシ に なって トコロドコロ に のこって いた。 アヤセガワ の メイブツ の ネムノキ は すこし ばかり のこり、 タイガン の アシズ の ウエ に フナダイク だけ イマ も いた。
「アタシ が ムコウジマ の リョウ に かこわれて いた ジブン、 ダンナ が とても ヤキモチヤキ で ね、 この カイワイ から ソト へは けっして だして くれない。 それで アタシ は この ヘン を サンポ する と いって リョウ を でる し、 オトコ は また コイツリ に ばけて、 この ドテシタ の ネム の ナミキ の カゲ に フネ を もやって、 そこ で イマ いう ランデブー を した もの さね」
 ユウガタ に なって ネム の ハナ が つぼみかかり、 フナダイク の ツチ の オト が いつのまにか きえる と、 あおじろい カワモヤ が うっすり ただよう。
「ワタシタチ は イチド シンジュウ の ソウダン を した こと が あった のさ。 なにしろ フナバタ ヒトツ またげば コト が すむ こと なの だ から、 ちょっと あぶなかった」
「どうして それ を おもいとどまった の か」 と ユキ は せまい フネ の ナカ を のしのし あるきながら きいた。
「いつ しのう か と あう たび ごと に ソウダン しながら、 ノビノビ に なって いる うち に、 ある ヒ カワ の ムコウ に シンジュウ-テイ の ドザエモン が ながれて きた の だよ。 ヒトダカリ の アイダ から つくづく ながめて きて オトコ は いった のさ。 シンジュウ って もの も、 あれ は ザマ の わるい もの だ。 やめよう って」
「アタシ は しんで しまったら、 この オトコ には よかろう が、 アト に のこる ダンナ が かわいそう だ と いう キ が して きて ね。 どんな ミノケ の よだつ よう な オトコ に しろ、 ヤキモチ を あれほど やかれる と アト に ココロ が のこる もの さ」
 わかい ゲイギ たち は 「ネエサン の ジダイ の ノンキ な ハナシ を きいて いる と、 ワタシタチ キョウビ の ハタラキカタ が つくづく がつがつ に おもえて、 いや ん なっちゃう」 と いった。
 すると ロウギ は 「いや、 そう で ない ねえ」 と テ を ふった。 「コノゴロ は コノゴロ で いい ところ が ある よ。 それに コノゴロ は なんでも ハナシ が てっとりばやくて、 まるで デンキ の よう で さ、 そして イロイロ の テ が あって おもしろい じゃ ない か」
 そういう コトバ に とりなされた アト で、 トシシタ の ゲイギ を シュ に トシウエ の ゲイギ が カイゾエ に なって、 しきり に なまめかしく ユキ を とりもった。
 ミチコ は と いう と ナニ か ヒジョウ に ドウヨウ させられて いる よう に みえた。
 ハジメ は ケイベツ した ちょうぜん と した タイド で、 ヒトリ はなれて、 ケイタイ の ライカ で ケシキ など うつして いた が、 にわか に ユキ に なれなれしく して、 ユキ の カンシン を うる こと に かけて、 ゲイギ たち に かちこそう と する タイド を ロコツ に みせたり した。
 そういう バアイ、 ナマ の ムスメ の シンシン から、 キカンキ を わずか に しぼりだす、 ヤマイドリ の ササミ ほど の ニッカンテキ な ニオイ が、 ユキ には ミョウ に カンカク に こたえて、 おもわず ハイ の ソコ へ イキ を すわした。 だが、 それ は セツナテキ の もの だった。 ココロ に うちこむ もの は なかった。
 わかい ゲイギ たち は、 ムスメ の チョウセン を こころよく は おもわなかった らしい が、 オオネエサン の ヨウジョ の こと では あり、 ジブン たち は ショクギョウテキ に きて いる の だ から、 ムリ な ホネオリ を さけて、 ムスメ が つとめる うち は コビ を さしひかえ、 ムスメ の テ が ゆるむ と、 また サービス する。 ミチコ には それ が ジブン の カシ の ウエ に たかる ハエ の よう に うるさかった。
 なんとなく その フマン の キモチ を はらす らしく、 ミチコ は ロウギ に あたったり した。
 ロウギ は スベテ を たいして キ に かけず、 ゆうゆう と ドテ で カナリヤ の エ の ハコベ を つんだり、 ショウブエン で キヌカツギ を サカナ に ビール を のんだり した。
 ユウグレ に なって、 イッコウ が スイジン の ヤオマツ へ バンサン を とり に はいろう と する と、 ミチコ は、 ユキ を じろり と ながめて、
「アタシ、 ワショク の ゴハン タクサン、 ヒトリ で ウチ に かえる」 と いいだした。 ゲイギ たち が おどろいて、 では おくろう と いう と、 ロウギ は わらって、
「ジドウシャ に のせて やれば、 なんでも ない よ」 と いって トオリガカリ の クルマ を よびとめた。
 ジドウシャ の ウシロスガタ を みて ロウギ は いった。
「あの コ も、 おつ な マネ を する こと を、 ちょんぼり おぼえた ね」

 ユキ には だんだん ロウギ の する こと が わからなく なった。 ムカシ の オトコ たち への ツミホロボシ の ため に わかい モノ の セワ でも して キ を とりなおす つもり か と おもって いた が、 そう でも ない。 チカゴロ この カイワイ に ウワサ が たちかけて きた、 ロウギ の わかい ツバメ と いう そんな ケハイ は もちろん、 ロウギ は ジブン に たいして あらわさない。
 なんで イチニンマエ の オトコ を こんな ホウタン な カイカタ を する の だろう。 ユキ は チカゴロ コウボウ へは すこしも はいらず、 ハツメイ の クフウ も ダンネン した カタチ に なって いる。 そして、 その こと を ロウギ は とくに しって いる くせ に、 それ に ついて は ヒトコト も いわない だけ に、 いよいよ パトロン の モクテキ が うたがわれて きた。 エンガワ に むいて いる ガラスマド から、 コウボウ の ナカ が みえる の を、 なるべく メ を そらして、 エンガワ に でて アオムケ に ねころぶ。 ナツ ちかく なって ニワ の コボク は アオバ を イッセイ に つけ、 イケ を うめた ナギサ の ノコリイシ から、 イチハツ や ツツジ の ハナ が アブ を よんで いる。 ソラ は こごって あおく すみ、 タイリク の よう な クモ が すこし アマケ で イロ を にごしながら ゆるゆる うつって ゆく。 トナリ の ホシモノ の カゲ に キリ の ハナ が さいて いる。
 ユキ は カコ に イロイロ の イエ に シゴト の ため に デイリ して、 ショウユダル の かびくさい トダナ の スミ に クビ を つっこんで キュウクツ な シゴト を した こと や、 シュフ や ジョチュウ に ヒル の ニモノ を わけて もらって ベントウ を つかった こと や、 その コロ は いや だった こと が イマ では むしろ なつかしく おもいだされる。 マキタ の せまい 2 カイ で、 チュウモンサキ から の セッケイ の ヨサンヒョウ を つくって いる と、 コドモ が かわるがわる きて、 クビスジ が あかく はれる ほど とりついた。 ちいさい クチ から ナメカケ の アメダマ を とりだして、 ヨダレ の イト を ひいた まま ジブン の クチ に おしこんだり した。
 カレ は ジブン は ハツメイ なんて だいそれた こと より、 フツウ の セイカツ が ほしい の では ない か と かんがえはじめたり した。 ふと、 ミチコ の こと が アタマ に のぼった。 ロウギ は たかい ところ から なにも しらない カオ を して、 オウヨウ に みて いる が、 じつは できる こと なら ジブン を ミチコ の ムコ に でも して、 ゆくゆく ロウゴ の メンドウ でも みて もらおう との ハラ で ある の かも しれない。 だが また そう と ばかり ハンダン も しきれない。 あの キガサ な ロウギ が そんな しみったれた ケイカク で、 ヒト に コウイ を する の では ない こと も わかる。
 ミチコ を かんがえる とき、 ケイシキ だけ は ジュウニブン に ととのって いて、 ナカミ は ミ が はいらず-ジマイ に なった ムスメ、 ユキ は ミナシ ユデグリ の みずっぽく ぺちゃぺちゃ な ナカミ を レンソウ して クショウ した が、 コノゴロ ミチコ が ジブン に ニクシミ の よう な もの や、 ハンカン を もちながら、 ミョウ に ねばって くる タイド が ココロ に とまった。
 カノジョ の コノゴロ の キカタ は キマグレ で なく、 1 ニチ か フツカ-オキ ぐらい な テイキテキ な もの に なった。
 ミチコ は ウラグチ から はいって きた。 カノジョ は チャノマ の 4 ジョウ ハン と コウボウ が ザシキ の ナカ に しきって こしらえて ある 12 ジョウ の キャクザシキ との フスマ を あける と、 そこ の シキイ の ウエ に たった。 カタテ を ハシラ に もたせ カラダ を すこし ひねって キョウタイ を みせ、 カタテ を ひろげた ソデ の シタ に いれて、 シャシン を とる とき の よう な ポーズ を つくった。 ウツムキ カゲン に メ を フキゲン-らしく ヒタイゴシ に のぞかして、
「アタシ きて よ」 と いった。
 エンガワ に ねて いる ユキ は ただ 「うん」 と いった だけ だった。
 ミチコ は もう イチド おなじ こと を いって みた が、 おなじ よう な ヘンジ だった ので、 ホントウ に ハラ を たて、
「なんて ぶしょうったらしい ヘンジ なん だろう、 もう ニド と きて やらない から」 と いった。
「シヨウ の ない ワガママ ムスメ だな」 と いって、 ユキ は ジョウタイ を おきあがらせつつ、 アシ を アグラ に くみながら、
「ほほう、 キョウ は ニホンガミ か」 と じろじろ ながめた。
「しらない」 と いって、 ミチコ は くるり と ウシロムキ に なって キモノ の セスジ に すねた セン を つくった。 ユキ は、 はなやか な オビ の ムスビメ の ウエ は すぐ、 ツキエリ の ウシログチ に なり、 クビ の ツケネ を まっしろく フジガタ に のぞかせて コチョウ した ビタイ を しめす モノモノシサ に くらべて、 オビ の シタ の コシツキ から スソ は、 イッポンバナ の よう に キュウ に そげて いて アジ も ソッケ も ない ショウジョ の まま なの を イヨウ に ながめながら、 この ムスメ が ジブン の ツマ に なって、 ナニゴト も ジブン に キ を ゆるし、 ナニゴト も ジブン に たよりながら、 こうるさく セワ を やく アイダガラ に なった バアイ を ソウゾウ した。 それ では ジブン の イッショウ も あんがい こぢんまり した ヘイボン に キテイ されて しまう セキバク の カンジ は あった が、 しかし、 また ナニ か そう なって みて の うえ の こと で なければ わからない フメイ な めずらしい ミライ の ソウゾウ が、 ゲンザイ の ジブン の シンジョウ を ひきつけた。
 ユキ は ヒタイ を ちいさく みせる まで たわわ に マエガミ や ビン を はりだした ナカ に ととのいすぎた ほど カタドオリ の うつくしい ムスメ に ケショウ した ミチコ の ちいさい カオ に、 もっと ジブン を ムチュウ に させる ミリョク を みいだしたく なった。
「もう イッペン こっち を むいて ごらん よ、 とても にあう から」
 ミチコ は ミギカタ を ヒトツ ゆすった が、 すぐ くるり と むきなおって、 ちょっと テ を ムネ と ビン へ やって かいつくろった。 「うるさい のね、 さあ、 これ で いい の」 カノジョ は ユキ が ホンキ に ジブン を みいって いる の に マンゾク しながら、 クスダマ の カンザシ の タレ を ぴらぴら させて いった。
「ゴチソウ を もって きて やった のよ。 あてて ごらんなさい」
 ユキ は こんな コムスメ に なぶられる アマサ が ジブン に みすかされた の か と、 シンガイ に おもいながら、
「あてる の めんどうくさい。 もって きた の なら、 はやく だしたまえ」 と いった。
 ミチコ は ユキ の ケンペイズク に たちまち ハンコウシン を おこして 「ヒト が シンセツ に もって きて やった の を、 そんな に いばる の なら、 もう やらない わよ」 と ヨコムキ に なった。
「だせ」 と いって ユキ は たちあがった。 カレ は ジブン でも、 ジブン が イマ、 しかかる ソブリ に おどろきつつ、 カレ は ケンイシャ の よう に 「だせ と いったら、 ださない か」 と カラダ を かさばらせて、 のそのそ と ミチコ に むかって いった。
 ジブン の イッショウ を ちいさい オトシアナ に はめこんで しまう キケン と、 ナニ か フメイ の ケンインリョク の ため に、 キケン と わかりきった もの へ このんで ミ を ていして ゆく ゼッタイ ゼツメイ の キモチ と が、 うまれて はじめて の キョクド の キンチョウカン を カレ から ひきだした。 ジコ ケンオ に うちまかされまい と おもって、 カレ の ヒタイ から アブラアセ が たらたら と ながれた。
 ミチコ は その コウドウ を まだ カレ の ジョウダン ハンブン の ケンペイズク の ツヅキ か と おもって、 ふざけて ケイベツ する よう に ながめて いた が、 だいぶ モヨウ が ちがう ので トチュウ から キュウ に おそろしく なった。
 カノジョ は やや チャノマ の ほう へ すさりながら、
「ダレ が だす もん か」 と ちいさく つぶやいて いた が、 ユキ が カノジョ の メ を ヒ の でる よう に みつめながら、 じょじょ に カイチュウ から ヒトツ ずつ テ を だして カノジョ の カタ に かける と、 キョウフ の あまり 「あっ」 と 2 ド ほど ちいさく さけび、 カノジョ の なんの シュウソウ も ない キジ の カオ が カンジョウ を ロシュツ して、 メハナ や クチ が ばらばら に ハイチ された。 「だしたまえ」 「はやく だせ」 その コトバ の イミ は クウキョ で、 ユキ の ウデ から ふとい センリツ が つたわって きた。 ユキ の おおきい ノドボトケ が ゆっくり ナマツバ を のむ の が かんじられた。
 カノジョ は メ を さける よう に みひらいて 「ごめんなさい」 と ナキゴエ に なって いった が、 ユキ は まるで カンデンシャ の よう に、 カオ を チホウ に して、 にぶく あおざめ、 メ を モト の よう に すえた まま、 ただ センリツ だけ を いよいよ はげしく リョウテ から ミチコ の カラダ に つたえて いた。
 ミチコ は ついに ナニモノ か を ユキ から よみとった。 ふだん 「オトコ は あんがい オクビョウ な もの だ」 と ヨウボ の いった コトバ が ふと おもいだされた。
 リッパ な イチニンマエ の オトコ が、 そんな こと で オクビョウ と たたかって いる の か と おもう と、 カノジョ は ユキ が ヒト の よい おおきい カチク の よう に かわゆく おもえて きた。
 カノジョ は ばらばら に なった カオ の ドウグ を たちまち まとめて、 アイキョウ したたる よう な コビ の エガオ に つくりなおした。
「バカ、 そんな に しない だって、 ゴチソウ あげる わよ」
 ユキ の ヒタイ の アセ を テノヒラ で しゅっと はらいすてて やり、
「こっち に ある から、 いらっしゃい よ。 さあ ね」
 ふと なって とおった ニワキ の セイラン を ふりかえって から、 ユキ の がっしり した ウデ を とった。
 サミダレ が けむる よう に ふる ユウガタ、 ロウギ は カサ を さして、 ゲンカン ヨコ の シオリド から ニワ へ はいって きた。 しぶい ザシキギ を きて、 ザシキ へ あがって から、 ツマ を おろして すわった。
「オザシキ の デガケ だ が、 ちょっと アンタ に いっとく こと が ある ので よった ん だ がね」
 タバコイレ を だして、 キセル で タバコボン-ガワリ の セイヨウザラ を ひきよせて、
「コノゴロ、 ウチ の ミチコ が しょっちゅう くる よう だ が、 なに、 それ に ついて、 とやかく いう ん じゃ ない がね」
 わかい モノ ドウシ の こと だ から、 もしや と いう こと も カノジョ は いった。
「その もしや も だね」
 ホントウ に ショウ が あって、 ココロ の ソコ から ほれあう と いう の なら、 それ は ジブン も ダイサンセイ なの で ある。
「けれども、 もし、 オタガイ が キレッパシ だけ の ホレアイカタ で、 ただ ナニ か の ヒョウシ で できあう と いう こと でも ある なら、 そんな こと は セケン には いくらも ある し、 つまらない。 かならずしも ミチコ を あいてどる にも あたるまい。 ワタシ ジシン も ながい イッショウ そんな こと ばかり で クロウ して きた。 それなら ナンド やって も おなじ こと なの だ」
 シゴト で あれ、 ダンジョ の アイダガラ で あれ、 マジリケ の ない ボットウ した イチズ な スガタ を みたい と おもう。
 ワタシ は そういう もの を ミヂカ に みて、 すなお に しにたい と おもう。
「なにも いそいだり、 あせったり する こと は いらない から、 シゴト なり コイ なり、 ムダ を せず、 イッキ で ココロノコリ ない もの を いとめて ほしい」 と いった。
 ユキ は 「そんな ジュンスイ な こと は いまどき でき も しなけりゃ、 ある もの でも ない」 と ライラク に わらった。 ロウギ も わらって、
「いつ の ジダイ だって、 こころがけなきゃ めった に ない さ。 だから、 ゆっくり かまえて、 まあ、 すき なら ムギトロ でも たべて、 ウン の クジ の セイシツ を よく みさだめなさい と いう のさ。 さいわい カラダ が いい から ね。 コンキ も つづきそう だ」
 クルマ が むかえ に きて、 ロウギ は でて いった。

 ユキ は その バン ふらふら と タビ に でた。
 ロウギ の イシ は かなり わかって きた。 それ は カノジョ に できなかった こと を ジブン に させよう と して いる の だ。 しかし、 カノジョ が カノジョ に できなくて ジブン に させよう と して いる こと なぞ は、 カノジョ とて ジブン とて、 また いかに ウン の クジ の よき もの を ひいた ニンゲン とて、 ゲンジツ では できない ソウダン の もの なの では あるまい か。 ゲンジツ と いう もの は、 キレハシ は あたえる が、 ゼンブ は いつも メノマエ に ちらつかせて つぎつぎ と ニンゲン を つって ゆく もの では なかろう か。
 ジブン は いつでも、 その こと に ついて は あきらめる こと が できる。 しかし カノジョ は アキラメ と いう こと を しらない。 その テン カノジョ に フビン な ところ が ある よう だ。 だが ある バアイ には フビン な もの の ほう に ツヨミ が ある。
 タイヘン な ロウジョ が いた もの だ、 と ユキ は おどろいた。 なんだか コウラ を へて ばけかかって いる よう にも おもわれた。 ヒソウ な カンジ にも うたれた が、 また、 ジブン が ムボウ な その クワダテ に まきこまれる いや な キモチ も あった。 できる こと なら ロウジョ が ジブン を のせかけて いる ハテシ も しらぬ エスカレーター から まぬがれて、 つんもり した テセイ の ハネブトン の よう な セイカツ の ナカ に もぐりこみたい もの だ と おもった。 カレ は そういう カンガエ を さばく ため に、 トウキョウ から キシャ で 2 ジカン ほど で ゆける カイガン の リョカン へ きた。 そこ は マキタ の アニ が ケイエイ して いる リョカン で、 マキタ に たのまれて デンキ ソウチ を ミマワリ に きて やった こと が ある。 ひろい ウミ を ひかえ クモ の オウライ の たえまない ヤマ が あった。 こういう シゼン の アイダ に セイシ して カンガエ を まとめよう と いう こと など、 カレ には イマ まで に ついぞ なかった こと だ。
 カラダ の よい ため か、 ここ へ くる と、 シンセン な サカナ は うまく、 シオ を あびる こと は こころよかった。 しきり に コウショウ が ナイブ から わきあがって きた。
 ダイイチ に そういう ムゲン な ドウケイ に ひかれて いる ロウジョ が それ を イシキ しない で、 コッコク の ちまちま した セイカツ を して いる の が おかしかった。 それから ある シュ の ドウブツ は、 ただ その シュウイ の チジョウ に ワ の スジ を ひかれた だけ で、 それ を こしえない と いう それ の よう に、 ユキ は ここ へ きて も ロウギ の フンイキ から だっしえられない ジブン が おかしかった。 その ナカ に こめられて いる とき は おもくるしく タイクツ だ が、 はなれる と なる と さびしく なる。 それゆえに、 しぜん と さがしだして もらいたい ソコシン の うえ に、 わかりやすい タビサキ を えらんで ダッソウ の ケイシキ を とって いる ジブン の ゲンジョウ が おかしかった。
 ミチコ との カンケイ も おかしかった。 ナニ が なにやら わからない で、 イチド イナズマ の よう に かすれあった。
 タイザイ 1 シュウカン ほど する と、 デンキ キグ-テン の マキタ が、 ロウギ から たのまれて、 カネ を もって むかえ に きた。 マキタ は 「おもしろく ない こと も ある だろう。 はやく シュウニュウ の ミチ を こうじて ドクリツ する ん だね」 と いった。
 ユキ は つれられて かえった。 しかし、 カレ は この ノチ、 たびたび シュッポンヘキ が ついた。

「オッカサン また ユキ さん が にげだして よ」
 ウンドウフク を きた ヨウジョ の ミチコ が、 クラ の イリグチ に たって そう いった。 ジブン の カンジョウ は ソッチノケ に、 ヨウボ が ドウヨウ する の を きみよし と する ヒニク な ところ が あった。 「ユンベ も オトトイ の バン も ジブン の ウチ へ かえって きません とさ」
 シン ニホン オンガク の センセイ の かえった アト、 ケイコバ に して いる ドゾウ の ナカ の タタミジキ の こぢんまり した ヘヤ に なお ヒトリ のこって、 サライナオシ を して いた ロウギ は、 シャミセン を すぐ シタ に おく と、 ナイシン クヤシサ が みなぎりかける の を キ にも みせず、 けろり と した カオ を ヨウジョ に むけた。
「あの オトコ。 また、 オキマリ の クセ が でた ね」
 ナガギセル で タバコ を イップク すって、 ヒダリ の テ で ソデグチ を つかみひらき、 きて いる オオシマ の オトコジマ が にあう か にあわない か ためして みる ヨウス を した ノチ、
「うっちゃって おおき、 そうそう は こっち も あまく なって は いられない ん だ から」
 そして ヒザ の ハイ を ぽん ぽん ぽん と たたいて、 ガクフ を ゆっくり しまいかけた。 イキリタチ でも する か と おもった キタイ を はずされた ヨウボ の タイド に ミチコ は つまらない と いう カオ を して、 ラケット を もって キンジョ の コート へ でかけて いった。 すぐ その アト で ロウギ は デンキ キグ-ヤ に デンワ を かけ、 イツモドオリ マキタ に ユキ の タンサク を イライ した。 エンリョ の ない アイテ に むかって はなつ その コエ には ジブン が セワ を して いる セイネン の テマエ-ガッテ を なじる はげしい スルドサ が、 ハッセイグチ から チョウワキ を にぎって いる ジブン の テ に つたわる まで に ひびいた が、 カノジョ の ココロ の ナカ は フアン な オビエ が やや ジョウチョテキ に ハッコウ して サビシサ の ホロヨイ の よう な もの に なって、 セイシン を カッパツ に して いた。 デンワキ から はなれる と カノジョ は、
「やっぱり わかい モノ は ゲンキ が ある ね。 そう なくちゃ」 つぶやきながら メガシラ に ちょっと ソデグチ を あてた。 カノジョ は ユキ が にげる たび に、 ユキ に ソンケイ の ネン を もって きた。 だが また カノジョ は、 ユキ が もし かえって こなく なったら と ソウゾウ する と、 マイド の こと ながら トリカエシ の つかない キ が する の で ある。
 マナツ の コロ、 すでに ボウジョ に ショウカイ して ハイク を ならって いる はず の ロウギ から この モノガタリ の サクシャ に めずらしく、 ワカ の テンサク の エイソウ が とどいた。 サクシャ は その とき ぐうぜん ロウギ が イゼン、 ワカ の シドウ の レイ に サクシャ に こしらえて くれた ナカニワ の イケ の フンスイ を ながめる エンガワ で ショクゴ の リョウ を いれて いた ので、 そこ で トリツギ から エイソウ を うけとって、 イケ の ミズオト を ききながら、 ヒジョウ な コウキシン を もって ヒサシブリ の ロウギ の エイソウ を しらべて みた。 その ナカ に サイキン の ロウギ の シンキョウ が うかがえる 1 シュ が ある ので ショウカイ する。 もっとも ゲンサク に タショウ の カイサク を くわえた の は、 シテイ の サホウ と いう より、 よむ ヒト への イミ の ソツウ を より よく する ため に ほかならない。 それ は わずか に シュウジジョウ の カショ に とどまって、 ナイヨウ は ゲンサク を きずつけない こと を ホショウ する。
   トシドシ に わが カナシミ は ふかく して
        いよよ はなやぐ イノチ なりけり

ある オンナ (ゼンペン)

 ある オンナ  (ゼンペン)  アリシマ タケオ  1  シンバシ を わたる とき、 ハッシャ を しらせる 2 バンメ の ベル が、 キリ と まで は いえない 9 ガツ の アサ の、 けむった クウキ に つつまれて きこえて きた。 ヨウコ は ヘイキ で それ ...