2014/06/03

ノギク の ハカ

 ノギク の ハカ

 イトウ サチオ

 ノチ の ツキ と いう ジブン が くる と、 どうも おもわず には いられない。 おさない わけ とは おもう が ナニブン にも わすれる こと が できない。 もう 10 ネン-ヨ も すぎさった ムカシ の こと で ある から、 こまかい ジジツ は オオク は おぼえて いない けれど、 ココロモチ だけ は いまなお キノウ の ごとく、 その とき の こと を かんがえてる と、 まったく トウジ の ココロモチ に たちかえって、 ナミダ が トメド なく わく の で ある。 かなしく も あり たのしく も あり と いう よう な アリサマ で、 わすれよう と おもう こと も ない では ない が、 むしろ くりかえし くりかえし かんがえて は、 ムゲンテキ の キョウミ を むさぼって いる こと が おおい。 そんな ワケ から ちょっと モノ に かいて おこう か と いう キ に なった の で ある。
 ボク の イエ と いう の は、 マツド から 2 リ ばかり さがって、 ヤギリ の ワタシ を ヒガシ へ わたり、 こだかい オカ の ウエ で やはり ヤギリ ムラ と いってる ところ。 ヤギリ の サイトウ と いえば、 この カイワイ での キュウカ で、 サトミ の クズレ が 2~3 ニン ここ へ おちて ヒャクショウ に なった ウチ の ヒトリ が サイトウ と いった の だ と ソフ から きいて いる。 ヤシキ の ニシガワ に 1 ジョウ 5~6 シャク も まわる よう な シイ の キ が 4~5 ホン かさなりあって たって いる。 ムラ イチバン の イモリ で ムラジュウ から うらやましがられて いる。 ムカシ から なにほど アラシ が ふいて も、 この シイモリ の ため に、 ボク の イエ ばかり は ヤネ を はがれた こと は ただ の イチド も ない との ハナシ だ。 イエ など も ずいぶん と ふるい、 ハシラ が のこらず シイ の キ だ。 それ が また スス やら アカ やら で なんの キ か ミワケ が つかぬ くらい、 オクノマ の もっとも ケブリ に とおい とこ でも、 テンジョウイタ が まるで アブラズミ で ぬった よう に、 イタ の モクメ も わからぬ ほど くろい。 それでも タチ は わりあい に たかくて、 カンタン な ランマ も あり ドウ の クギカクシ など も うって ある。 その クギカクシ が バカ に おおきい ガン で あった。 もちろん ちょっと みた の では キ か カネ か も しれない ほど ふるびて いる。
 ボク の ハハ など も センゾ の イイツタエ だ から と いって、 この センゴク ジダイ の イブツテキ フルイエ を、 タイヘン に ジマン されて いた。 その コロ ハハ は チノミチ で ひさしく わずらって おられ、 クロヌリ-テキ な オク の ヒトマ が いつも ハハ の ビョウジョク と なって いた。 その ツギ の 10 ジョウ の マ の ミナミスミ に、 2 ジョウ の コザシキ が ある。 ボク が いない とき は ハタオリバ で、 ボク が いる うち は ボク の ドクショシツ に して いた。 テスリマド の ショウジ を あけて アタマ を だす と、 シイ の エダ が アオゾラ を さえぎって キタ を おおうて いる。
 ハハ は ながらく ぶらぶら して いた から、 イチカワ の シンルイ で ボク には エン の イトコ に なって いる、 タミコ と いう オンナ の コ が シゴト の テツダイ やら ハハ の カンゴ やら に きて おった。 ボク が イマ わすれる こと が できない と いう の は、 その タミコ と ボク との カンケイ で ある。 その カンケイ と いって も、 ボク は タミコ と ゲレツ な カンケイ を した の では ない。
 ボク は ショウガッコウ を ソツギョウ した ばかり で 15 サイ、 ツキ を かぞえる と 13 サイ ナン-カゲツ と いう コロ、 タミコ は 17 だ けれど それ も ウマレ が おそい から、 15 と すこし に しか ならない。 ヤセギス で あった けれども カオ は まるい ほう で、 すきとおる ほど しろい ヒフ に アカミ を おんだ、 まことに ツヤ の いい コ で あった。 いつでも いきいき と して ゲンキ が よく、 そのくせ キ は よわくて ニクゲ の すこしも ない コ で あった。
 もちろん ボク とは だいの ナカヨシ で、 ザシキ を はく と いって は ボク の ところ を のぞく、 ショウジ を はたく と いって は ボク の ザシキ へ はいって くる、 ワタシ も ホン が よみたい の テナライ が したい の と いう、 たまに は ハタキ の エ で ボク の セナカ を ついたり、 ボク の ミミ を つまんだり して にげて ゆく。 ボク も タミコ の スガタ を みれば こい こい と いうて フタリ で あそぶ の が ナニ より おもしろかった。
 ハハ から いつでも しかられる。
「また タミ や は マサ の ところ へ はいってる な。 こらぁ さっさと ソウジ を やって しまえ。 これから は マサ の ドクショ の ジャマ など して は いけません。 タミ や は トシウエ の くせ に……」
 など と しきり に コゴト を いう けれど、 そのじつ ハハ も タミコ をば ヒジョウ に かわいがって いる の だ から、 いっこう に コゴト が きかない。 ワタシ にも すこし テナライ を さして…… など と ときどき タミコ は ダダ を いう。 そういう とき の ハハ の コゴト も きまって いる。
「オマエ は テナライ よか サイホウ です。 キモノ が マンゾク に ぬえなくて は オンナ イチニンマエ と して ヨメ に ゆかれません」
 この コロ ボク に イッテン の ジャネン が なかった は もちろん で あれど、 タミコ の ほう にも、 いや な カンガエ など は すこしも なかった に ソウイ ない。 しかし ハハ が よく コゴト を いう にも かかわらず、 タミコ は なお アサ の ゴハン だ ヒル の ゴハン だ と いうて は ボク を よび に くる。 よび に くる たび に、 いそいで はいって きて、 ホン を みせろ の フデ を かせ の と いって は しばらく あそんで いる。 その ヒマ にも ハハ の クスリ を もって きた カエリ や、 ハハ の ヨウ を たした カエリ には、 きっと ボク の ところ へ はいって くる。 ボク も タミコ が のぞかない ヒ は なんとなく さびしく ものたらず おもわれた。 キョウ は タミ さん は ナニ を して いる かな と おもいだす と、 ふらふらっ と ショシツ を でる。 タミコ を み に ゆく と いう ほど の ココロ では ない が、 ちょっと タミコ の スガタ が メ に ふれれば キ が おちつく の で あった。 なんの こった やっぱり タミコ を み に きた ん じゃ ない か と、 ジブン で ジブン を あざけった よう な こと が しばしば あった の で ある。
 ムラ の ある イエ さ ゴゼ が とまった から きき に ゆかない か、 サイモン が きた から きき に ゆこう の と キンジョ の オンナ ども が さそうて も、 タミコ は ナニ とか コトワリ を いうて けっして イエ を でない。 トナリムラ の マツリ で ハナビ や カザリモノ が ある から との こと で、 レイ の ムコウ の オハマ や トナリ の オセン ら が オオサワギ して み に ゆく と いう に、 ウチ の モノラ まで タミ さん も イッショ に いって みて きたら と いうて も、 タミコ は ハハ の ビョウキ を イイマエ に して ゆかない。 ボク も あまり そんな ところ へ でる は いや で あった から ウチ に おる。 タミコ は こそこそ と ボク の ところ へ はいって きて、 コゴエ で、 ワタシ は ウチ に いる の が いちばん おもしろい わ と いって にっこり わらう。 ボク も なんとなし タミコ をば そんな ところ へ やりたく なかった。
 ボク が ミッカ-オキ ヨッカ-オキ に ハハ の クスリ を とり に マツド へ ゆく。 どうか する と カエリ が おそく なる。 タミコ は 3 ド も 4 ド も ウラザカ の ウエ まで でて ワタシ の ほう を みて いた そう で、 いつでも ウチジュウ の モノ に ひやかされる。 タミコ は マジメ に なって、 オカアサン が シンパイ して、 みて おいで みて おいで と いう から だ と イイワケ を する。 ウチ の モノ は ミナ ひそひそ わらって いる との ハナシ で あった。
 そういう シダイ だ から、 サクオンナ の オマス など は、 むしょう と タミコ を こづらにくがって、 ナニ か と いう と、
「タミコ さん は マサオ さん とこ へ ばかり ゆきたがる、 ヒマ さえ あれば マサオ さん に こびりついて いる」
 など と しきり に いいはやした らしく、 トナリ の オセン や ムコウ の オハマ ら まで かれこれ ウワサ を する。 これ を きいて か アニヨメ が ハハ に チュウイ した らしく、 ある ヒ ハハ は ツネ に なく むずかしい カオ を して、 フタリ を マクラモト へ よびつけ イミ ありげ な コゴト を いうた。
「オトコ も オンナ も 15~16 に なれば もはや コドモ では ない。 オマエラ フタリ が あまり ナカ が よすぎる とて ヒト が かれこれ いう そう じゃ。 キ を つけなくて は いけない。 タミコ が トシカサ の くせ に よく ない。 これから は もう けっして マサ の ところ へ など ゆく こと は ならぬ。 ワガコ を ゆるす では ない が マサ は まだ コドモ だ。 タミ や は 17 では ない か。 つまらぬ ウワサ を される と オマエ の カラダ に キズ が つく。 マサオ だって キ を つけろ……。 ライゲツ から チバ の チュウガク へ ゆく ん じゃ ない か」
 タミコ は トシ が おおい し かつは イミ あって ボク の ところ へ ゆく で あろう と おもわれた と キ が ついた か、 ヒジョウ に はじいった ヨウス に、 カオ マッカ に して うつむいて いる。 ツネ は ハハ に すこし ぐらい コゴト いわれて も ずいぶん ダダ を いう の だ けれど、 この ヒ は ただ リョウテ を ついて うつむいた きり ヒトコト も いわない。 なんの やましい ところ の ない ボク は すこぶる フヘイ で、
「オカアサン、 そりゃ あまり ゴムリ です。 ヒト が なんと いったって、 ワタシラ は なんの ワケ も ない のに、 ナニ か たいへん わるい こと でも した よう な オコゴト じゃ ありません か。 オカアサン だって いつも そう いってた じゃ ありません か。 タミコ と オマエ とは キョウダイ も おなじ だ、 オカアサン の メ から は オマエ も タミコ も すこしも ヘダテ は ない、 なかよく しろ よ と いつでも いった じゃ ありません か」
 ハハ の シンパイ も ドウリ の ある こと だ が、 ボクラ も そんな いやらしい こと を いわれよう とは すこしも おもって いなかった から、 ボク の フエイ も いくらか の リ は ある。 ハハ は にわか に やさしく なって、
「オマエタチ に なんの ワケ も ない こと は オカアサン も しってる がね、 ヒト の クチ が うるさい から、 ただ これから すこし キ を つけて と いう の です」
 イロ あおざめた ハハ の カオ にも いつしか ボクラ を しんから かわいがる エミ が たたえて いる。 やがて、
「タミ や は あの また クスリ を もって きて、 それから ヌイカケ の アワセ を キョウジュウ に しあげて しまいなさい……。 マサ は たった ツイデ に ハナ を きって ブツダン へ あげて ください。 キク は まだ さかない か、 そんなら シオン でも きって くれ よ」
 ホンニン たち は なんの キ なし で ある のに、 ヒト が かれこれ いう ので かえって ムジャキ で いられない よう に して しまう。 ボク は ハハ の コゴト も 1 ニチ しか おぼえて いない。 2~3 ニチ たって タミ さん は なぜ チカゴロ は こない の かしらん と おもった くらい で あった けれど、 タミコ の ほう では、 それから と いう もの は ヨウス が からっと かわって しもうた。
 タミコ は ソノゴ ボク の ところ へは いっさい カオダシ しない ばかり で なく、 ザシキ の ウチ で ゆきあって も、 ヒト の いる マエ など では ヨウイ に モノ も いわない。 なんとなく きまりわるそう に、 まぶしい よう な ふう で いそいで とおりすぎて しまう。 よんどころなく モノ を いう にも、 イマ まで の ブエンリョ に ヘダテ の ない フウ は なく、 いやに テイネイ に あらたまって クチ を きく の で ある。 ときには ボク が あまり にわか に あらたまった の を おかしがって わらえば、 タミコ も ついには ソデ で ワライ を かくして にげて しまう と いう ふう で、 とにかく ヒトエ の カキ が フタリ の アイダ に むすばれた よう な キアイ に なった。
 それでも ある ヒ の 4 ジ-スギ に、 ハハ の イイツケ で ボク が セド の ナスバタケ に ナス を もいで いる と、 いつのまにか タミコ が ザル を テ に もって、 ボク の ウシロ に きて いた。
「マサオ さん……」
 だしぬけ に よんで わらって いる。
「ワタシ も オカアサン から いいつかって きた のよ。 キョウ の ヌイモノ は カタ が こったろう、 すこし やすみながら ナス を もいで きて くれ、 アシタ コウジヅケ を つける から って。 オカアサン が そう いう から、 ワタシ とんで きました」
 タミコ は ヒジョウ に うれしそう に ゲンキ いっぱい で、 ボク が、
「それでは ボク が サキ に きて いる の を タミ さん は しらない で きた の」
 と いう と タミコ は、
「しらなくて さ」
 にこにこ しながら ナス を とりはじめる。
 ナスバタケ と いう は、 シイモリ の シタ から ヒトエ の ヤブ を とおりぬけて、 イエ より ニシキタ に あたる ウラ の センザイバタケ。 ガケ の ウエ に なってる ので、 トネガワ は もちろん ナカガワ まで も かすか に みえ、 ムサシ イチエン が みわたされる。 チチブ から アシガラ ハコネ の ヤマヤマ、 フジ の タカネ も みえる。 トウキョウ の ウエノ の モリ だ と いう の も それ らしく みえる。 ミズ の よう に すみきった アキ の ソラ、 ヒ は 1 ケン ハン ばかり の ヘン に かたむいて、 ボクラ フタリ が たって いる ナスバタケ を ショウメン に てりかえして いる。 アタリ イッタイ に しんと して また いかにも はっきり と した ケシキ、 ワレラ フタリ は しんに ガチュウ の ヒト で ある。
「まあ なんと いう よい ケシキ でしょう」
 タミコ も しばらく テ を やめて たった。
 ボク は ここ で ハクジョウ する が、 この とき の ボク は たしか に トオカ イゼン の ボク では なかった。 フタリ は けっして この とき ムジャキ な トモダチ では なかった。 いつのまに そういう ココロモチ が おこって いた か、 ジブン には すこしも わからなかった が、 やはり ハハ に しかられた コロ から、 ボク の ムネ の ウチ にも ちいさな コイ の タマゴ が イクツ か わきそめて おった に ちがいない。 ボク の セイシン ジョウタイ が いつのまにか ヘンカ して きた は、 かくす こと の できない ジジツ で ある。 この ヒ はじめて タミコ を オンナ と して おもった の が、 ボク に ジャネン の メザシ ありし ナニ より の ショウコ じゃ。
 タミコ が カラダ を く の ジ に かがめて、 ナス を もぎつつ ある その ヨコガオ を みて、 いまさら の よう に タミコ の うつくしく カワイラシサ に キ が ついた。 これまで にも かわいらしい と おもわぬ こと は なかった が、 キョウ は しみじみ と その ウツクシサ が ミ に しみた。 しなやか に ツヤ の ある ビン の ケ に つつまれた ミミタボ、 ゆたか な ホオ の しろく あざやか な、 アゴ の ククシメ の アイラシサ、 クビ の アタリ いかにも きよげ なる、 フジイロ の ハンエリ や ハナゾメ の タスキ や、 それら が ことごとく ユウビ に メ に とまった。 そう なる と おそろしい もの で、 モノ を いう にも おもいきった こと は いえなく なる、 はずかしく なる、 キマリ が わるく なる、 みな レイ の タマゴ の サヨウ から おこる こと で あろう。
 ここ トオカ ほど ナカガキ の ヘダテ が できて、 ろくろく ハナシ も せなかった から、 これ も イマ まで ならば むろん そんな こと かんがえ も せぬ に きまって いる が、 キョウ は ここ で ナニ か はなさねば ならぬ よう な キ が した。 ボク は はじめ ムゾウサ に タミ さん と よんだ けれど、 アト は ムゾウサ に コトバ が つがない。 おかしく ノド が つまって コエ が でない。 タミコ は ナス を ヒトツ テ に もちながら カラダ を おこし、
「マサオ さん、 ナニ……」
「なんでも ない けど タミ さん は チカゴロ ヘン だ から さ。 ボク なんか すっかり きらい に なった よう だ もの」
 タミコ は さすが に ニョショウ で、 そういう こと には ボク など より はるか に シンケイ が エイビン に なって いる。 さも くちおしそう な カオ して、 つと ボク の ソバ へ よって きた。
「マサオ さん は あんまり だわ。 ワタシ が いつ マサオ さん に ヘダテ を しました……」
「なにさ、 コノゴロ タミ さん は、 すっかり かわっちまって、 ボク なんか には ヨウ は ない らしい から よ。 それだって タミ さん に フソク を いう わけ では ない よ」
 タミコ は せきこんで、
「そんな こと いう は そりゃ マサオ さん ひどい わ、 ゴムリ だわ。 コノアイダ は フタリ を ならべて おいて、 オカアサン に あんな に しかられた じゃ ありません か。 アナタ は オトコ です から ヘイキ で おいで だ けど、 ワタシ は トシ は おおい し オンナ です もの、 ああ いわれて は じつに メンボク が ない じゃ ありません か。 それ です から、 ワタシ は イッショウ ケンメイ に なって たしなんで いる ん でさ。 それ を マサオ さん へだてる の いや に なったろう の と いう ん だ もの、 ワタシ は ホント に つまらい……」
 タミコ は なきだしそう な カオツキ で ボク の カオ を じいっと みて いる。 ボク も ただ ハナシ の コグチ に そう いうた まで で ある から、 タミコ に なきそう に なられて は、 かわいそう に キノドク に なって、
「ボク は ハラ を たって いった では ない のに、 タミ さん は ハラ を たった の…… ボク は ただ タミ さん が にわか に かわって、 あって も クチ も きかず、 あそび にも こない から、 いやに さびしく かなしく なっちまった のさ。 それだから これから も ときどき は あそび に おいで よ。 オカアサン に しかられたら ボク が トガ を せおう から…… ヒト が なんと いったって よい じゃ ない か」
 なんと いうて も コドモ だけ に ムチャ な こと を いう。 ムチャ な こと を いわれて タミコ は シンパイ やら うれしい やら、 うれしい やら シンパイ やら、 シンパイ と うれしい と が ムネ の ナカ で、 ごった に なって あらそうた けれど、 とうとう うれしい ほう が カチ を しめて しまった。 なお ミコト ヨコト ハナシ を する うち に、 タミコ は あざやか な クモリ の ない モト の ゲンキ に なった。 ボク も もちろん ユカイ が あふれる……、 ウチュウカン に ただ フタリ きり いる よう な ココロモチ に おたがいに なった の で ある。 やがて フタリ は ナス の モギクラ を する。 おおきな ハタケ だ けれど、 10 ガツ の ナカバスギ では、 ナス も ちらほら しか なって いない。 フタリ で ようやく 2 ショウ ばかり ずつ を とりえた。
「まあ タミ さん、 ごらんなさい、 イリヒ の リッパ な こと」
 タミコ は いつしか ザル を シタ へ おき、 リョウテ を ハナ の サキ に あわせて タイヨウ を おがんで いる。 ニシ の ほう の ソラ は イッタイ に ウスムラサキ に ぼかした よう な イロ に なった。 ひたあかく あかい ばかり で コウセン の でない タイヨウ が イマ その ハンブン を ヤマ に うずめかけた ところ、 ボク は タミコ が イッシン イリヒ を おがむ しおらしい スガタ が ながく メ に のこってる。
 フタリ が ヨネン なく ハナシ を しながら かえって くる と、 セトグチ の ヨツメガキ の ソト に オマス が ぼんやり たって、 こっち を みて いる。 タミコ は コゴエ で、
「オマス が また なんとか いいます よ」
「フタリ とも オカアサン に いいつかって きた の だ から、 オマス なんか なんと いったって、 かま や しない さ」
 イチ ジケン を ふる たび に フタリ が キョウチュウ に わいた コイ の タマゴ は カサ を まして くる。 キ に ふれて コウカン する ソウホウ の イシ は、 ただちに タガイ の キョウチュウ に ある レイ の タマゴ に シダイ な ヨウブン を キュウヨ する。 キョウ の ヒグレ は たしか に その キ で あった。 ぞっと ミブルイ を する ほど、 いちじるしき チョウコウ を あらわした の で ある。 しかし なんと いうて も フタリ の カンケイ は タマゴ ジダイ で きわめて トリトメ が ない。 ヒト に みられて みぐるしい よう な こと も せず、 かえりみて みずから やましい よう な こと も せぬ。 したがって まだまだ ノンキ な もの で、 ヒトマエ を つくろう と いう よう な ココロモチ は きわめて すくなかった。 ボク と タミコ との カンケイ も、 この くらい で オシマイ に なった ならば、 10 ネン わすれられない と いう ほど には ならなかった だろう に。
 オヤ と いう もの は どこ の オヤ も おなじ で、 ワガコ を いつまでも コドモ の よう に おもうて いる。 ボク の ハハ など も その 1 ニン に もれない。 タミコ は ソノゴ ときおり ボク の ショシツ へ やって くる けれど、 よほど ヒトメ を はからって キボネ を おって くる よう な ふう で、 いつ きて も すこしも おちつかない。 さきに ボク に イヤミ を いわれた から しかたなし に くる か とも おもわれた が、 それ は まちがって いた。 ボクラ フタリ の セイシン ジョウタイ は 2~3 ニチ と いわれぬ ほど いちじるしき ヘンカ を とげて いる。 ボク の ヘンカ は もっとも はなはだしい。 ミッカ マエ には、 オカアサン が しかれば ワタシ が トガ を せおう から あそび に きて と まで ムチャ を いうた ボク が、 キョウ は とても そんな ワケ の もの で ない。 タミコ が すこし ナガイ を する と、 もう キ が とがめて シンパイ で ならなく なった。
「タミ さん、 また おいで よ、 あまり ながく いる と ヒト が つまらぬ こと を いう から」
 タミコ も ココロモチ は おなじ だ けれど、 ボク に もう ゆけ と いわれる と ミョウ に すねだす。
「あれ アナタ は このあいだ なんと いいました。 ヒト が なんと いったって よい から あそび に こい と いい は しません か。 ワタシ は もう ヒト に わらわれて も かまいません の」
 こまった こと に なった。 フタリ の カンケイ が ミッセツ する ほど、 ヒトメ を おそれて くる。 ヒトメ を おそれる よう に なって は、 もはや ザイアク を おかしつつ ある か の ごとく、 ココロ も おどおど する の で あった。 ハハ は クチ で こそ、 オトコ も オンナ も 15~16 に なれば コドモ では ない と いって も、 それ は リクツ の ウエ の こと で、 ココロモチ では まだまだ フタリ を まるで コドモ の よう に おもって いる から、 その ノチ タミコ が ボク の ヘヤ へ きて ホン を みたり ハナシ を したり して いる の を、 すぐ マエ を とおりながら いっこう キ に とめる ヨウス も ない。 コノアイダ の コゴト も じつは アニヨメ が いう から でた まで で、 ホントウ に ハラ から でた コゴト では ない。 ハハ の ほう は そう で あった けれど、 アニ や アニヨメ や オマス など は、 さかん に カゲゴト を いうて わらって いた らしく、 ムラジュウ の ヒョウバン には、 フタツ も トシ の おおい の を ヨメ に する キ かしらん など と もっぱら いうて いる との ハナシ。 それ や これ や の こと が うすうす フタリ に しれた ので、 ボク から いいだして とうぶん フタリ は とおざかる ソウダン を した。
 ニンゲン の ココロモチ と いう もの は フシギ な もの。 フタリ が すこしも カクイ なき トクシンジョウ の ソウダン で あった の だ けれど、 ボク の ほう から いいだした ばかり に、 タミコ は ミョウ に ふさぎこんで、 まるで ゲンキ が なくなり、 しょうぜん と して いる の で ある。 それ を みる と ボク も また たまらなく キノドク に なる。 カンジョウ の イッシン イッタイ は こんな ふう に もつれつつ あやうく なる の で ある。 とにかく フタリ は ヒョウメン だけ は リッパ に とおざかって 4~5 ニチ を ケイカ した。

 インレキ の 9 ガツ 13 ニチ、 コンヤ が マメ の ツキ だ と いう ヒ の アサ、 ツユシモ が おりた と おもう ほど つめたい。 そのかわり テンキ は きらきら して いる。 15 ニチ が この ムラ の マツリ で アシタ は ヨイマツリ と いう わけ ゆえ、 ノ の シゴト も キョウ ひとわたり キマリ を つけねば ならぬ ところ から、 ウチジュウ テワケ を して ノ へ でる こと に なった。 それで カンロテキ オンメイ が ボクラ フタリ に くだった の で ある。 アニフウフ と オマス と ホカ に オトコ 1 ニン とは ナカテ の カリノコリ を ぜひ かって しまわねば ならぬ。 タミコ は ボク を テツダイ と して ヤマバタケ の ワタ を とって くる こと に なった。 これ は もとより ハハ の サシズ で タレ にも イギ は いえない。
「まあ あの フタリ を ヤマ の ハタケ へ やる って、 オヤ と いう もの は よっぽど おめでたい もの だ」
 オクソコ の ない オマス と イジマガリ の アニヨメ とは クチ を そろえて そう いった に ちがいない。 ボクラ フタリ は もとより ココロ の ソコ では うれしい に ソウイ ない けれど、 この バアイ フタリ で ヤマバタケ へ ゆく と なって は、 ヒト に カオ を みられる よう な キ が して おおいに キマリ が わるい。 ギリ にも すすんで ゆきたがる よう な ソブリ は できない。 ボク は アサハン マエ は ショシツ を でない。 タミコ も ナニ か ぐずぐず して シタク も せぬ ヨウス。 もう うれしがって と いわれる が くちおしい の で ある。 ハハ は おきて きて、
「マサオ も シタク しろ。 タミ や も さっさと シタク して はやく ゆけ。 フタリ で ゆけば 1 ニチ には ラク な シゴト だ けれど、 ミチ が とおい の だ から、 はやく ゆかない と カエリ が ヨル に なる。 なるたけ ヒ の くれない うち に かえって くる よう に よ。 オマス は フタリ の ベントウ を こしらえて やって くれ。 オサイ は これこれ の もの で……」
 まことに オヤ の ココロ だ。 タミコ に ベントウ を こしらえさせて は、 ジブン の で ある から、 オサイ など は ろく な もの を もって ゆかない と キ が ついて、 ちゃんと オマス に めいじて こしらえさせた の で ある。 ボク は ズボンシタ に タビハダシ ムギワラボウ と いう イデタチ、 タミコ は テサシ を はいて モモヒキ も はいて ゆけ と ハハ が いう と、 テサシ ばかり はいて モモヒキ はく の に ぐずぐず して いる。 タミコ は ボク の ところ へ きて、 モモヒキ はかない でも よい よう に オカアサン に そう いって くれ と いう。 ボク は タミ さん が そう いいなさい と いう。 オシモンドウ を して いる うち に、 ハハ は ききつけて わらいながら、
「タミ や は マチバモノ だ から、 モモヒキ はく の は キマリ が わるい かい。 ワタシ は また オマエ が やわらかい テアシ へ、 イバラ や ススキ で キズ を つける が かわいそう だ から、 そう いった ん だ が、 いや だ と いう なら オマエ の すき に する が よい さ」
 それで タミコ は、 レイ の タスキ に マエカケ スガタ で アサウラ ゾウリ と いう シタク。 フタリ が イットザル ヒトツ ずつ を もち、 ボク が ベツ に バンニョ カタカゴ と テンビン と を カタ に して でかける。 タミコ が アト から スゲガサ を かむって でる と、 ハハ が ワライゴエ で よびかける。
「タミ や、 オマエ が スゲガサ を かむって あるく と、 ちょうど キノコ が あるく よう で みっともない。 アミガサ が よかろう。 あたらしい の が ヒトツ あった はず だ」
 イネカリ-レン は でて しまって べつに わらう モノ も なかった けれど、 タミコ は あわてて スゲガサ を ぬいで、 カオ を あかく した らしかった。 コンド は アミガサ を かむらず に テ に もって、 それじゃ オカアサン いって まいります と アイサツ して はしって でた。
 ムラ の モノラ も かれこれ いう と きいてる ので、 フタリ そろうて ゆく も ヒトマエ はずかしく、 いそいで ムラ を とおりぬけよう との カンガエ から、 ボク は ヒトアシ サキ に なって でかける。 ムラハズレ の サカ の オリクチ の おおきな イチョウ の キ の ネ で タミコ の くる の を まった。 ここ から みおろす と すこし の タンボ が ある。 いろよく きばんだ オシネ に ツユ を おんで、 しっとり と うちふした コウケイ は、 キ の せい か ことに すがすがしく、 ムネ の すく よう な ナガメ で ある。 タミコ は いつのまにか きて いて、 キノウ の アメ で あらいながした アカツチ の ウエ に、 フタハ ミハ イチョウ の ハ の おちる の を ひろって いる。
「タミ さん、 もう きた かい。 この テンキ の よい こと どう です、 ホント に ココロモチ の よい アサ だね」
「ホント に テンキ が よくて うれしい わ。 この まあ イチョウ の ハ の きれい な こと。 さあ でかけましょう」
 タミコ の うつくしい テ で もってる と イチョウ の ハ も ことに きれい に みえる。 フタリ は サカ を おりて ようやく キュウクツ な バショ から ヒロバ へ でた キ に なった。 キョウ は オオイソギ で ワタ を とりかたづけ、 さんざん おもしろい こと を して あそぼう など と ソウダン しながら あるく。 ミチ の マンナカ は かわいて いる が、 リョウガワ の タ に ついて いる ところ は、 ツユ に しとしと に ぬれて、 イロイロ の クサ が ハナ を ひらいてる。 タウコギ は すえがれて、 ミズソバタデ など いちばん おおく しげって いる。 ミヤコグサ も きいろく ハナ が みえる。 ノギク が よろよろ と さいて いる。 タミ さん これ ノギク が と ボク は われしらず アシ を とめた けれど、 タミコ は きこえない の か さっさと サキ へ ゆく。 ボク は ちょっと ワキ へ モノ を おいて、 ノギク の ハナ を ヒトニギリ とった。
 タミコ は 1 チョウ ほど サキ へ いって から、 キ が ついて ふりかえる や いなや、 あれっ と さけんで かけもどって きた。
「タミ さん は そんな に もどって きない っだって ボク が いく もの を……」
「まあ マサオ さん は ナニ を して いた の。 ワタシ びっくり して…… まあ きれい な ノギク、 マサオ さん、 ワタシ に ハンブン おくれ ったら、 ワタシ ホントウ に ノギク が すき」
「ボク は もとから ノギク が だいすき。 タミ さん も ノギク が すき……」
「ワタシ なんでも ノギク の ウマレカエリ よ。 ノギク の ハナ を みる と ミブルイ の でる ほど このもしい の。 どうして こんな か と、 ジブン でも おもう くらい」
「タミ さん は そんな に ノギク が すき…… どうりで どうやら タミ さん は ノギク の よう な ヒト だ」
 タミコ は わけて やった ハンブン の ノギク を カオ に おしあてて うれしがった。 フタリ は あるきだす。
「マサオ さん…… ワタシ ノギク の よう だ って どうして です か」
「さあ どうして と いう こと は ない けど、 タミ さん は なにがなし ノギク の よう な ふう だ から さ」
「それで マサオ さん は ノギク が すき だ って……」
「ボク だいすき さ」
 タミコ は これから は アナタ が サキ に なって と いいながら、 ミズカラ は アト に なった。 イマ の グウゼン に おこった カンタン な モンドウ は、 オタガイ の ムネ に つよく ユウイミ に かんじた。 タミコ も そう おもった こと は その ソブリ で わかる。 ここ まで ハナシ が せまる と、 もう その サキ を いいだす こと は できない。 ハナシ は ちょっと とぎれて しまった。
 なんと いって も おさない フタリ は、 イマ ツミ の カミ に ホンロウ せられつつ ある の で あれど、 ノギク の よう な ヒト だ と いった コトバ に ついで、 その ノギク を ボク は だいすき だ と いった とき すら、 ボク は すでに ムネ に ドウキ を おこした くらい で、 すぐに それ イジョウ を いいだす ほど に、 まだまだ ずうずうしく は なって いない。 タミコ も おなじ こと、 モノ に つきあたった よう な ココロモチ で つよく おたがいに かんじた とき に コエ は つまって しまった の だ。 フタリ は しばらく ムゴン で あるく。
 まことに タミコ は ノギク の よう な コ で あった。 タミコ は まったく の イナカフウ では あった が、 けっして ソヤ では なかった。 カレン で やさしくて そうして ヒンカク も あった。 イヤミ とか ニクゲ とか いう ところ は ツメ の アカ ほど も なかった。 どう みて も ノギク の ふう だった。
 しばらく は だまって いた けれど、 いつまで ハナシ も しない で いる は なお おかしい よう に おもって、 むり と ハナシ を かんがえだす。
「タミ さん は さっき ナニ を かんがえて あんな に ワキミ も しない で あるいて いた の」
「ワタシ なにも かんがえて い や しません」
「タミ さん は そりゃ ウソ だよ。 ナニ か カンガエゴト でも しなくて あんな フウ を する わけ は ない さ。 どんな こと を かんがえて いた の か しらない けれど、 かくさない だって よい じゃ ない か」
「マサオ さん、 すまない。 ワタシ さっき ホント に カンガエゴト して いました。 ワタシ つくづく かんがえて なさけなく なった の。 ワタシ は どうして マサオ さん よか トシ が おおい ん でしょう。 ワタシ は 17 だ と いう ん だ もの、 ホント に なさけなく なる わ……」
「タミ さん は なんの こと いう ん だろう。 サキ に うまれた から トシ が おおい、 17 ネン そだった から 17 に なった の じゃ ない か。 17 だ から なんで なさけない の です か。 ボク だって、 サライネン に なれば 17 サイ さ。 タミ さん は ホント に ミョウ な こと を いう ヒト だ」
 ボク も イマ タミコ が いった こと の ココロ を かいせぬ ほど の コドモ でも ない。 わかって は いる けど、 わざと タワムレ の よう に ききなして、 ふりかえって みる と、 タミコ は しんに かんがえこんで いる よう で あった が、 ボク と カオ あわせて きまりわるげ に にわか に ワキ を むいた。
 こう なって くる と ナニ を いうて も、 すぐ そこ へ もって くる ので ハナシ が ゆきつまって しまう。 フタリ の ウチ で どちら か ヒトリ が、 すこうし ほんの わずか に でも オシ が つよければ、 こんな に ハナシ が ゆきつまる の では ない。 おたがいに ココロモチ は オクソコ まで わかって いる の だ から、 ヨシノガミ を つきやぶる ほど にも チカラ が あり さえ すれば、 ハナシ の イッポ を すすめて おたがいに あけはなして しまう こと が できる の で ある。 しかし シンソコ から オボコ な フタリ は、 その ヨシノガミ を やぶる ほど の オシ が ない の で ある。 また ここ で ハナシ の カワ を きって しまわねば ならぬ と いう よう な、 はっきり した イシキ も もちろん ない の だ。 いわば まだ トリトメ の ない ランテキ の コイ で ある から、 すこしく ココロ の チカラ が ヒツヨウ な ところ へ くる と ハナシ が ゆきつまって しまう の で ある。
 おたがいに ジブン で はなしだして は ジブン が きまりわるく なる よう な こと を くりかえしつつ イクチョウ か の ミチ を あるいた。 コトバカズ こそ すくなけれ、 その コトバ の オク には フタリ ともに ムリョウ の オモイ を つつんで、 キマリ が わるい カンジョウ の ウチ には なんとも いえない ふかき ユカイ を たたえて いる。 それで いわゆる アシ も ソラ に、 いつしか タンボ も とおりこし、 ヤマジ へ はいった。 コンド は タミコ が ココロ を とりなおした らしく あざやか な コエ で、
「マサオ さん、 もう ハンブンミチ きましてしょう か。 オオナガ サク へは 1 リ に とおい って いいました ねえ」
「そう です、 1 リ ハン には ちかい そう だ が、 もう ハンブン の ヨ きましたろう よ。 すこし やすみましょう か」
「ワタシ やすまなく とも、 よう ございます が、 さっそく オカアサン の バチ が あたって、 ススキ の ハ で こんな に テ を きりました。 ちょいと これ で ゆわえて ください な」
 オヤユビ の ナカホド で キズ は すこし だ が、 チ が イガイ に でた。 ボク は さっそく カミ を さいて ゆわえて やる。 タミコ が リョウテ を あかく して いる の を みた とき ヒジョウ に かわいそう で あった。 こんな ヤマ の ナカ で やすむ より、 ハタケ へ いって から やすもう と いう ので、 コンド は タミコ を サキ に ボク が アト に なって いそぐ。 8 ジ すこし-スギ と おもう ジブン に オオナガ サク の ハタケ へ ついた。
 10 ネン ばかり マエ に オヤジ が まだ タッシャ な ジブン、 トナリムラ の シンセキ から たのまれて よぎなく かった の だ そう で、 ハタケ が 8 タン と サンリン が 2 チョウ ほど ここ に ある の で ある。 この ヘン イッタイ に タカダイ は みな サンリン で その アイダ の サク が ハタケ に なって いる。 コシコク を もって いる と いえば、 セケンテイ は よい けど、 テマ ばかり かかって ワリ に あわない と いつも ハハ が いってる ハタケ だ。
 サンポウ ハヤシ で かこまれ、 ミナミ が ひらいて ヨソ の ハタケ と つづいて いる。 キタ が たかく ミナミ が ひくい コウバイ に なって いる。 ハハ の スイサツドオリ、 ワタ は スエ には なって いる が、 カゼ が ふいたら あふれる か と おもう ほど ワタ は えんで いる。 てんてん と して ハタケジュウ しろく なって いる その ワタ に アサヒ が さして いる と まぶしい よう に きれい だ。
「まあ よく えんでる こと。 キョウ とり に きて よい こと しました」
 タミコ は オンナ だけ に、 ワタ の きれい に えんでる の を みて うれしそう に そう いった。 ハタケ の マンナカ ほど に キリ の キ が 2 ホン しげって いる。 ハ が おちかけて いる けれど、 10 ガツ の ネツ を しのぐ には ジュウブン だ。 ここ へ アタリ の キビガラ を よせて フタリ が じんどる。 ベントウヅツミ を エダ へ つる。 テンキ の よい のに ヤマジ を いそいだ から、 あせばんで あつい。 キモノ を 1 マイ ずつ ぬぐ。 カゼ を フトコロ へ いれ アシ を のばして やすむ。 あおぎった ソラ に ミドリ の マツバヤシ、 モズ も どこ か で ないて いる。 コエ の ひびく ほど ヤマ は しずか なの だ。 テン と チ との アイダ で ひろい ハタケ の マンナカ に フタリ が ハナシ を して いる の で ある。
「ホント に タミコ さん、 キョウ と いう キョウ は ゴクラク の よう な ヒ です ね」
 カオ から クビ から アセ を ふいた アト の ツヤツヤシサ、 いまさら に タミコ の ヨコガオ を みた。
「そう です ねえ、 ワタシ なんだか ユメ の よう な キ が する の。 ケサ ウチ を でる とき は ホント に キマリ が わるくて…… ネエサン には ヘン な メツキ で みられる、 オマス には ひやかされる、 ワタシ は のぼせて しまいました。 マサオ さん は ヘイキ で いる から にくらしかった わ」
「ボク だって ヘイキ な もん です か。 ムラ の ヤツラ に あう の が いや だ から、 ボク は ヒトアシ サキ に でて イチョウ の シタ で タミ さん を まって いた ん でさあ。 それ は そう と、 タミ さん、 キョウ は ホント に おもしろく あそぼう ね。 ボク は ライゲツ は ガッコウ へ ゆく ん だし、 コンゲツ とて 15 ニチ しか ない し、 フタリ で しみじみ ハナシ の できる よう な こと は これから サキ は むずかしい。 あわれっぽい こと いう よう だ けど、 フタリ の ナカ も キョウ だけ かしら と おもう のよ。 ねえ タミ さん……」
「そりゃあ マサオ さん、 ワタシ は みちみち それ ばかり かんがえて きました。 ワタシ が さっき、 ホント に なさけなく なって と いったら、 マサオ さん は わらって おしまい なした けど……」
 おもしろく あそぼう あそぼう いうて も、 ハナシ を はじめる と すぐに こう なって しまう。 タミコ は ナミダ を ぬぐうた よう で あった。 ちょうど よく そこ へ ウマ が みえて きた。 ニシガワ の ヤマジ から、 がさがさ ササ に さわる オト が して、 タキギ を つけた ウマ を ひいて ホオカムリ の オトコ が でて きた。 よく みる と イガイ にも ムラ の ツネキチ で ある。 この ヤツ は いつか ムコウ の オハマ に タミコ を あそび に つれだして くれ と しきり に たのんだ と いう ヤツ だ。 いや な ヤロウ が きやがった な と おもうて いる と、
「や マサオ さん、 こんちゃ どうも ケッコウ な オテンキ です な。 キョウ は ゴフウフ で ワタトリ かな。 しゃれて ます ね。 あははははは」
「おう ツネ さん、 キョウ は ダチン かな。 たいへん はやく ゴセイ が でます ね」
「はあ ワレワレ なんざあ ダチントリ でも して たまに イッパイ やる より ホカ に タノシミ も ない ん です から な。 タミコ さん、 いやに みせつけます ね。 あんまり ツミ です ぜ。 アハハハハハ」
 この ヤロウ シッケイ な と おもった けれど、 ワレワレ も あまり いばれる ミ でも なし、 わらいとぼけて ツネキチ を やりすごした。
「バカヤロウ、 じつに いや な ヤツ だ。 さあ タミ さん、 はじめましょう。 ホント に タミ さん、 ゲンキ を おなおし よ。 そんな に くよくよ おし で ない よ。 ボク は ガッコウ へ いったて チバ だ もの、 ボン ショウガツ の ホカ にも こよう と おもえば ドヨウ の バン かけて ニチヨウ に こられる さ……」
「ホント に すみません。 ナキツラ など して。 あの ツネ さん て オトコ、 なんと いう いや な ヒト でしょう」
 タミコ は タスキガケ ボク は シャツ に カタ を ぬいで イッシン に とって 3 ジカン ばかり の アイダ に 7 ブ-ドオリ かたづけて しまった。 もう アト は ワケ が ない から ベントウ に しよう と いう こと に して キリ の カゲ に もどる。 ボク は かねて ヨウイ の スイヅツ を もって、
「タミ さん、 ボク は ミズ を くんで きます から、 ルスバン を たのみます。 カエリ に 『エビヅル』 や 『アケビ』 を うんと ミヤゲ に とって きます」
「ワタシ は ヒトリ で いる の は いや だ。 マサオ さん、 イッショ に つれてって ください。 サッキ の よう な ヒト に でも こられたら タイヘン です もの」
「だって タミ さん、 ムコウ の ヤマ を ヒトツ こして サキ です よ、 シミズ の ある ところ は。 ミチ と いう よう な ミチ も なくて、 それこそ イバラ や ススキ で アシ が キズダラケ に なります よ。 ミズ が なくちゃ ベントウ が たべられない から こまった なあ。 タミ さん、 まって いられる でしょう」
「マサオ さん、 ゴショウ だ から つれて いって ください。 アナタ が あるける ミチ なら ワタシ にも あるけます。 ヒトリ で ここ に いる の は ワタシャ どうしても……」
「タミ さん は ヤマ へ きたら たいへん ダダッコ に なりました ねー。 それじゃ イッショ に ゆきましょう」
 ベントウ は ワタ の ナカ へ かくし、 キモノ は てんでに きて しまって でかける。 タミコ は しきり に、 にこにこ して いる。 ハタ から みた ならば、 ばかばかしく も みぐるしく も あろう けれど、 ホンニン ドウシ の ミ に とって は、 その ラチ も なき オシモンドウ の ウチ にも かぎりなき ウレシミ を かんずる の で ある。 たかく も ない けど ミチ の ない ところ を ゆく の で ある から、 ササハラ を おしわけ キ の ネ に つかまり、 ガケ を よずる。 しばしば タミコ の テ を とって ひいて やる。
 ちかく 2~3 ニチ イライ の フタリ の カンジョウ では、 タミコ が もとめる ならば ボク は どんな こと でも こばまれない、 また ボク が もとめる なら やはり どんな こと でも タミコ は けっして こばみ は しない。 そういう アイダガラ で ありつつ も、 あくまで オクビョウ に あくまで キ の ちいさな フタリ は、 かつて イチド も ユウイミ に テ など を とった こと は なかった。 しかるに キョウ は グウゼン の こと から しばしば テ を とりあう に いたった。 この ヘン の イッシュ いう べからざる ユカイ な カンジョウ は ケイケン ある ヒト に して はじめて かたる こと が できる。
「タミ さん、 ここ まで くれば、 シミズ は あすこ に みえます。 これから ボク が ヒトリ で いって くる から ここ に まって いなさい。 ボク が みえて いたら いられる でしょう」
「ホント に マサオ さん の ゴヤッカイ です ね…… そんな に ダダ を いって は すまない から、 ここ で まちましょう。 あらあ エビヅル が あった」
 ボク は ミズ を くんで の カエリ に、 スイヅツ は コシ に ゆいつけ、 アタリ を すこし ばかり さぐって、 「アケビ」 40~50 と エビヅル ヒトモクサ を とり、 リンドウ の ハナ の うつくしい の を 5~6 ポン みつけて かえって きた。 カエリ は クダリ だ から ムゾウサ に フタリ で おりる。 ハタケ へ デグチ で ボク は シュンラン の おおきい の を みつけた。
「タミ さん、 ボク は ちょっと 『アックリ』 を ほって ゆく から、 この 『アケビ』 と 『エビヅル』 を もって いって ください」
「『アックリ』 て ナニイ。 あらあ シュンラン じゃ ありません か」
「タミ さん は マチバモン です から、 シュンラン など と ヒン の よい こと おっしゃる の です。 ヤギリ の ヒャクショウ なんぞ は 『アックリ』 と もうしまして ね、 ヒビ の クスリ に いたします。 はははは」
「あらあ クチ の わるい こと。 マサオ さん は、 キョウ は ホント に クチ が わるく なった よ」
 ヤマ の ベントウ と いえば、 トチ の モノ は イッパン に タノシミ の ヒトツ と して ある。 ナニ か セイリジョウ の リユウ でも ある か しらん が、 とにかく、 ヤマ に シゴト を して やがて たべる ベントウ が ふしぎ と うまい こと は タレ も いう ところ だ。 イマ ワレワレ フタリ は あたらしき シミズ を くみきたり ハハ の ココロ を こめた ベントウ を わけつつ たべる の で ある。 キョウミ の ジンジョウ で ない は いう も おろか な シダイ だ。 ボク は 「アケビ」 を このみ タミコ は エビヅル を たべつつ しばらく ハナシ を する。
 タミコ は わらいながら、
「マサオ さん は ヒビ の クスリ に 『アックリ』 と やら を とって きて ガッコウ へ おもち に なる の。 ガッコウ で ヒビ が きれたら おかしい でしょう ね……」
 ボク は マジメ に、
「なあに これ は オマス に やる のさ。 オマス は もう とうに ヒビ を きらして いる でしょう。 コノアイダ も ユ に はいる とき に オマス が ヒ を たき に きて ヒジョウ に ヒビ を いたがって いる から、 その うち に ボク が ヤマ へ いったら 『アックリ』 を とって きて やる と いった のさ」
「まあ アナタ は シンセツ な ヒト です こと ね…… オマス は カゲヒナタ の ない ニクゲ の ない オンナ です から、 ワタシ も なかよく して いた ん です が、 コノゴロ は なんとなし ワタシ に つきあたる よう な こと ばかし いって、 なんでも ワタシ を にくんで います よ」
「あははは、 それ は オマス どん が ヤキモチ を やく の でさ。 つまらん こと にも すぐ ヤキモチ を やく の は、 オンナ の クセ さ。 ボク が そら 『アックリ』 を とって いって オマス に やる と いえば、 タミ さん が すぐに、 まあ アナタ は シンセツ な ヒト とか なんとか いう の と おなじ わけ さ」
「この ヒト は いつのまに こんな に クチ が わるく なった の でしょう。 ナニ を いって も マサオ さん には かない や しない。 いくら ワタシ だって オマス が ネ も ソコ も ない ヤキモチ だ ぐらい は ショウチ して います よ……」
「じつは オマス も フビン な オンナ よ。 リョウシン が あんな こと に なり さえ せねば、 ホウコウニン と まで なる の では ない。 オヤジ は センソウ で しぬ、 オフクロ は これ を なげいた が モト での ビョウシ、 ヒトリ の アニ が ハズレモノ と いう わけ で、 とうとう あの シマツ。 コッカ の ため に しんだ ヒト の ムスメ だ もの、 タミ さん、 いたわって やらねば ならない。 あれ でも タミ さん、 アナタ をば たいへん ほめて いる よ。 イジマガリ の アニヨメ に こきつかわれる の だ から いっそう かわいそう でさ」
「そりゃ マサオ さん ワタシ も そう おもって います さ。 オカアサン も よく そう おっしゃいました。 つまらない もの です けど なんとか かとか わけて やって ます が、 また マサオ さん の よう に なさけぶかく される と……」
 タミコ は いいさして また ハナシ を つまらした が、 キリ の ハ に つつんで おいた リンドウ の ハナ を テ に とって、 キュウ に ハナシ を てんじた。
「こんな うつくしい ハナ、 いつ とって おいで なして。 リンドウ は ホント に よい ハナ です ね。 ワタシ リンドウ が こんな に うつくしい とは しらなかった わ。 ワタシ キュウ に リンドウ が すき に なった。 おお ええ ハナ……」
 ハナズキ な タミコ は レイ の クセ で、 イロジロ の カオ に その シコン の ハナ を おしつける。 やがて ナニ を おもいだして か、 ヒトリ で にこにこ わらいだした。
「タミ さん、 ナン です、 そんな に ヒトリ で わらって」
「マサオ さん は リンドウ の よう な ヒト だ」
「どうして」
「さあ どうして と いう こと は ない けど、 マサオ さん は なにがなし リンドウ の よう な ふう だ から さ」
 タミコ は いいおわって カオ を かくして わらった。
「タミ さん も よっぽど ヒト が わるく なった。 それで サッキ の アダウチ と いう わけ です か。 クチマネ なんか おそれいります な。 しかし タミ さん が ノギク で ボク が リンドウ とは おもしろい ツイ です ね。 ボク は よろこんで リンドウ に なります。 それで タミ さん が リンドウ を すき に なって くれれば なお うれしい」
 フタリ は こんな ラチ も なき こと いうて よろこんで いた。 アキ の ヒアシ の ミジカサ、 ヒ は ようやく かたむきそめる。 さあ との カケゴエ で ワタモギ に かかる。 ゴゴ の ブン は わずか で あった から 1 ジカン ハン ばかり で もぎおえた。 なにやかや それぞれ まとめて バンニョ に のせ、 フタリ で サシアイ に かつぐ。 タミコ を サキ に ボク が アト に、 とぼとぼ ハタケ を でかけた とき は、 ヒ は はやく マツ の コズエ を かぎりかけた。
 ハンブンミチ も きた と おもう コロ は ジュウサンヤ の ツキ が、 コノマ から カゲ を さして オバナ に ゆらぐ カゼ も なく、 ツユ の おく さえ みえる よう な ヨ に なった。 ケサ は キ が つかなかった が、 ミチ の ニシテ に イチダン ひくい ハタケ には、 ソバ の ハナ が ウスギヌ を ひきわたした よう に しろく みえる。 コオロギ が さむげ に ないて いる にも ココロ とめず には いられない。
「タミ さん、 くたぶれた でしょう。 どうせ おそく なった ん です から、 この ケシキ の よい ところ で すこし やすんで ゆきましょう」
「こんな に おそく なる なら、 いますこし いそげば よかった に。 ウチ の ヒトタチ に きっと なんとか いわれる。 マサオ さん、 ワタシ は それ が シンパイ に なる わ」
「いまさら シンパイ して も おっつかない から、 まあ すこし やすみましょう。 こんな に ケシキ の よい こと は めった に ありません。 そんな に ヒト に モウシワケ の ない よう な わるい こと は しない もの、 タミ さん、 シンパイ する こと は ない よ」
 ツキアカリ が ナナメ に さしこんで いる ミチバタ の マツ の キリカブ に フタリ は コシ を かけた。 メ の サキ 7~8 ケン の ところ は キ の カゲ で うすぐらい が、 それ から ムコウ は ハタケ いっぱい に ツキ が さして、 ソバ の ハナ が きわだって しろい。
「なんと いう えい ケシキ でしょう。 マサオ さん ウタ とか ハイク とか いう もの を やったら、 こんな とき に おもしろい こと が いえる でしょう ね。 ワタシラ よう な ムヒツ でも こんな とき には シンパイ も なにも わすれます もの。 マサオ さん、 アナタ ウタ を おやんなさい よ」
「ボク は じつは すこし やって いる けど、 むつかしくて ヨウイ に できない のさ。 ヤマバタケ の ソバ の ハナ に ツキ が よくて、 コオロギ が なく など は じつに えい です なあ。 タミ さん、 これから フタリ で ウタ を やりましょう か」
 おたがいに ヒトツ の シンパイ を もつ ミ と なった フタリ は、 ウチ に おもう こと が おおくて かえって ハナシ は すくない。 なんとなく おぼつかない フタリ の ユクスエ、 ここ で すこしく ハナシ を したかった の だ。 タミコ は もちろん の こと、 ボク より も いっそう はなしたかった に ソウイ ない が、 トシ の いたらぬ の と ういた ココロ の ない フタリ は、 なかなか サシムカイ で そんな ハナシ は できなかった。 しばらく は ムゴン で ぼんやり ジカン を すごす うち に、 イチレツ の カリ が フタリ を うながす か の よう に ソラ ちかく ないて とおる。
 ようやく タンボ へ おりて イチョウ の キ が みえた とき に、 フタリ は また おなじ よう に イッシュ の カンジョウ が ムネ に わいた。 それ は ホカ でも ない、 なんとなく ウチ に はいりづらい と いう ココロモチ で ある。 はいりづらい わけ は ない と おもうて も、 どうしても はいりづらい。 チュウチョ する ヒマ も ない、 たちまち モンゼン ちかく きて しまった。
「マサオ さん…… アナタ サキ に なって ください。 ワタシ きまりわるくて シヨウ が ない わ」
「よし それじゃ ボク が サキ に なろう」
 ボク は すこぶる ユウキ を こし ことに ヘイキ な フウ を よそうて モン を はいった。 ウチ の ヒトタチ は イマ ユウハン サイチュウ で さかん に ハナシ が わいて いる らしい。 ニワバ の アマド は まだ あいた なり に ツキ が ノキグチ まで さしこんで いる。 ボク が セキバライ を ヒトツ やって ニワバ へ はいる と、 ダイドコロ の ハナシ は にわか に やんで しまった。 タミコ は ユビ の サキ で ボク の カタ を ついた。 ボク も ショウチ して いる の だ、 イマ ゴゼン カイギ で フタリ の ウワサ が いかに さかん で あった か。
 ヨイマツリ では あり ジュウサンヤ では ある ので、 ウチジュウ オモテザシキ へ そろうた とき、 ハハ も オク から おきて きた。 ハハ は ひととおり フタリ の あまり おそかった こと を とがめて ふかく は いわなかった けれど、 ツネ とは まったく ちがって いた。 ナニ か おもって いる らしく、 すこしも うちとけない。 これまで は クチ には コゴト を いうて も、 シンチュウ に ウタガイ は なかった の だ が、 コンヤ は クチ には あまり いわない が、 ココロ では ジュウブン に フタリ に ウタガイ を おこした に ちがいない。 タミコ は いよいよ ちいさく なって ザシキ ナカ へは でない。 ボク は ヤマ から とって きた、 アケビ や エビヅル や を たくさん ザシキ-ジュウ へ ならべたてて、 あんに ボク が こんな こと を して いた から おそく なった の だ との イ を しめし ムゴン の ベンカイ を やって も なんの キキメ も ない。 タレヒトリ それ を そう と みる モノ は ない。 コンヤ は なんの ハナシ にも ボクラ フタリ は ノケモノ に される シマツ で、 もはや フタリ は まったく ツミ ある もの と モッケツ されて しまった の で ある。
「オカアサン が あんまり あますぎる。 ああして いる フタリ を イッショ に ヤマバタケ へ やる とは メ の ない にも ホド が ある。 ハタ で いくら シンパイ して も オカアサン が あれ では ダメ だ」
 これ が ダイドコロ カイギ の ケッテイ で あった らしい。 ハハ の ほう でも いつまで コドモ と おもって いた が アヤマリ で、 ジブン が わるかった と いう よう な カンガエ に コンヤ は なった の で あろう。 いまさら フタリ を しかって みて も シカタ が ない。 なに マサオ を ガッコウ へ やって しまい さえ せば シサイ は ない と ハハ の ココロ は ちゃんと きまって いる らしく、
「マサ や、 オマエ は な 11 ガツ へ はいって すぐ ガッコウ へ やる つもり で あった けれど、 そうして ぶらぶら して いて も タメ に ならない から、 オマツリ が しまったら、 もう ガッコウ へ ゆく が よい。 17 ニチ に ゆく と しろ…… えい か、 その つもり で コジタク して おけ」
 ガッコウ へ ゆく は もとより ボク の ネガイ、 トオカ や ハツカ はやく とも おそく とも それ に シサイ は ない が、 この バアイ しかも コンヤ イイワタシ が あって みる と、 フタリ は すでに ツミ を おかした もの と きめられて の シオキ で ある から、 タミコ は もちろん ボク に とって も すこぶる こころぐるしい ところ が ある。 じっさい フタリ は それほど に ダラク した わけ で ない から、 アタマ から そう と きめられて は、 いささか ミョウ な ココロモチ が する。 さりとて ベンカイ の できる こと でも なし、 また つよい こと を いえる シカク も じつは ない の で ある。 これ が 1 カゲツ マエ で あったらば、 それ は オカアサン ゴムリ だ、 ガッコウ へ ゆく の は ノゾミ で ある けど、 トガ を きせられて の シオキ に ガッコウ へ ゆけ とは あんまり でしょう…… など と すぐ ダダ を いう の で ある が、 コンヤ は そんな ワガママ を いえる ほど ムジャキ では ない。 まったく の ところ、 コイ に おちいって しまって いる。
 あれほど かわいがられた ヒトリ の ハハ に カクシダテ を する、 なんとなく ヘダテ を つくって ココロ の アリタケ を いいえぬ まで に なって いる。 おのずから ヒトマエ を はばかり、 ヒトマエ では ことさら に フタリ が うとうとしく とりなす よう に なって いる。 かくまで ワタクシゴコロ が ちょうじて きて どうして リッパ な クチ が きけよう。 ボク は だだ イチゴン、
「はあ……」
 と こたえた きり なんにも いわず、 ハハ の イイツケ に モウジュウ する ホカ は なかった。
「ボク は ガッコウ へ いって しまえば それ で よい けど、 タミ さん は アト で どう なる だろう か」
 ふと そう おもって、 そっと タミコ の ほう を みる と、 オマス が エダマメ を あさってる ウシロ に、 タミコ は うつむいて ヒザ の ウエ に タスキ を こねくりつつ チンモク して いる。 いかにも ゲンキ の ない ふう で ヨル の せい か カオイロ も あおじろく みえた。 タミコ の フウ を みて ボク も にわか に かなしく なって なきたく なった。 ナミダ は マブタ を つたわって メ が くもった。 なぜ かなしく なった か リユウ は ハンゼン しない。 ただ タミコ が かわいそう で ならなく なった の で ある。 タミコ と ボク との たのしい カンケイ も この ヒ の ヨル まで は つづかなく、 13 ニチ の ヒル の ヒカリ と ともに まったく きえうせて しまった。 うれしい に つけて も オモイ の タケ は かたりつくさず、 うき かなしい こと に つけて は もちろん 100 ブン の 1 だも かたりあわない で、 フタリ の カンケイ は ヤミ の マク に はいって しまった の で ある。

 10 ヨッカ は マツリ の ショニチ で ただ ものせわしく ヒ が くれた。 おたがいに キ の ない フウ は して いて も、 テ に せわしい シゴト の ある ばかり に、 とにかく おもいまぎらす こと が できた。
 15 ニチ と 16 ニチ とは、 ショクジ の ホカ ヨウジ も ない まま に、 ショシツ へ こもりとおして いた。 ぼんやり ツクエ に もたれた なり ナニ を する でも なく、 また フタリ の カンケイ を どう しよう か と いう よう な こと すら も かんがえて は いない。 ただ タミコ の こと が アタマ に みちて いる ばかり で、 きわめて タンジュン に タミコ を おもうて いる ホカ に カンガエ は はたらいて おらぬ。 この フツカ の アイダ に タミコ と 3~4 カイ は あった けれど、 ハナシ も できず ビショウ を コウカン する ゲンキ も なく、 うらさびしい ココロモチ を たがいに メ に うったうる のみ で あった。 フタリ の ココロモチ が いますこし ませて おった ならば、 この フツカ の アイダ にも ショウライ の こと など ずいぶん はなしあう こと が できた の で あろう けれど、 しぶとい ココロモチ など は ケ ほど も なかった フタリ には、 その バアイ に なかなか そんな こと は できなかった。 それでも ボク は 16 ニチ の ゴゴ に なって、 なんとはなし に イカ の よう な こと を マキガミ へ かいて、 ヒグレ に ちょっと きた タミコ に ボク が いなく なって から みて くれ と いって わたした。

 アサ から ここ へ はいった きり、 ナニ を する キ にも ならない。 ソト へ でる キ にも ならず、 ホン を よむ キ にも ならず、 ただ くりかえし くりかえし タミ さん の こと ばかり おもって いる。 タミ さん と イッショ に いれば カミサマ に だかれて クモ に でも のって いる よう だ。 ボク は どうして こんな に なった ん だろう。 ガクモン を せねば ならない ミ だ から、 ガッコウ へは ゆく けれど、 ココロ では タミ さん と はなれたく ない。 タミ さん は ジブン の トシ の おおい の を キ に して いる らしい が、 ボク は そんな こと は なんとも おもわない。 ボク は タミ さん の おもう とおり に なる つもり です から、 タミ さん も そう おもって いて ください。 アシタ は はやく たちます。 トウキ の ヤスミ には かえって きて タミ さん に あう の を タノシミ に して おります。
 10 ガツ 16 ニチ          マサオ
 タミコ サマ

 ガッコウ へ ゆく とは いえ、 ツミ が あって はやく やられる と いう キョウグウ で ある から、 ヒト の ワライゴエ ハナシゴエ にも いちいち ヒガミゴコロ が おきる。 みな フタリ に たいする チョウショウ か の よう に きかれる。 いっそ はやく ガッコウ へ いって しまいたく なった。 ケッシン が きまれば ゲンキ も カイフク して くる。 この ヨ は アタマ も すこしく さえて ユウメシ も ココロモチ よく たべた。 ガッコウ の こと なにくれ と なく ハハ と ハナシ を する。 やがて シン に ついて から も、
「ナン だ ばかばかしい、 15 か そこら の コゾウ の くせ に、 オンナ の こと など ばかり くよくよ かんがえて…… そう だ そう だ、 アシタ は さっそく ガッコウ へ ゆこう。 タミコ は かわいそう だ けれど…… もう かんがえまい、 かんがえたって シカタ が ない、 ガッコウ ガッコウ……」
 ヒトリグチ ききつつ ネムリ に いった よう な わけ で あった。

 フネ で カワ から イチカワ へ でる つもり だ から、 17 ニチ の アサ、 コサメ の ふる の に、 イッサイ の モチモノ を カバン ヒトツ に つめこみ タミコ と オマス に おくられて ヤギリ の ワタシ へ おりた。 ムラ の モノ の ニブネ に ビンジョウ する わけ で もう フネ は きて いる。 ボク は タミ さん それじゃ…… と いう つもり でも ノド が つまって コエ が でない。 タミコ は ボク に ツツミ を わたして から は、 ジブン の テ の ヤリバ に こまって ムネ を なでたり エリ を なでたり して、 シタ ばかり むいて いる。 メ に もつ ナミダ を オマス に みられまい と して、 カラダ を ワキ へ そらして いる。 タミコ が あわれ な スガタ を みて は ボク も ナミダ が おさえきれなかった。 タミコ は キョウ を ワカレ と おもって か、 カミ は さっぱり と した イチョウガエシ に うすく ケショウ を して いる。 ススイロ と コン の こまかい ベンケイジマ で、 ハオリ も ナガギ も おなじい ヨネザワ ツムギ に、 ヒン の よい ユウゼン チリメン の オビ を しめて いた。 タスキ を かけた タミコ も よかった けれど キョウ の タミコ は また いっそう ひきたって みえた。
 ボク の キ の せい で でも ある か、 タミコ は 13 ニチ の ヨ から は ヒトヒ ヒトヒ と やつれて きて、 この ヒ の イタイタシサ、 ボク は なかず には いられなかった。 ムシ が しらせる と でも いう の か、 これ が ショウガイ の ワカレ に なろう とは、 ボク は もちろん タミコ とて、 よもや そう は おもわなかったろう けれど、 この とき の ツラサ カナシサ は、 とても タニン に はなして も しんじて くれる モノ は ない と おもう くらい で あった。
 もっとも タミコ の オモイ は ボク より ふかかった に ソウイ ない。 ボク は チュウガッコウ を ソツギョウ する まで にも、 4~5 ネン アイダ の ある カラダ で ある のに、 タミコ は 17 で コトシ の うち にも エンダン の ハナシ が あって リョウシン から そう いわれれば、 ムゾウサ に こばむ こと の できない ミ で ある から、 ユクスエ の こと を いろいろ かんがえて みる と シンパイ の おおい わけ で ある。 トウジ の ボク は そこ まで は かんがえなかった けれど、 したしく メ に しみた タミコ の いたいたしい スガタ は イクネン たって も キノウ の こと の よう に メ に うかんで いる の で ある。
 ヨソ から みた ならば、 わかい うち に よく ある イタズラ の カッテ な ナキガオ と みぐるしく も あった で あろう けれど、 フタリ の ミ に とって は、 しんに あわれ に かなしき ワカレ で あった。 たがいに テ を とって コウライ を かたる こと も できず、 コサメ の しょぼしょぼ ふる ワタシバ に、 ナキ の ナミダ も ヒトメ を はばかり、 ヒトコト の コトバ も かわしえない で エイキュウ の ワカレ を して しまった の で ある。 ムジョウ の フネ は ナガレ を くだって はやく、 10 プン-カン と たたぬ うち に 5 チョウ と さがらぬ うち に、 オタガイ の スガタ は アメ の クモリ に へだてられて しまった。 モノ も いいえない で、 しょんぼり と しおれて いた フビン な タミ さん の オモカゲ、 どうして わすれる こと が できよう。 タミ さん を おもう ため に カミ の イカリ に ふれて ソクザ に うちころさるる よう な こと が ある とて も ボク には タミ さん を おもわず に いられない。 トシ を とって の ノチ の カンガエ から いえば、 ああ も したら こう も したら と おもわぬ こと も なかった けれど、 トウジ の わかい ドウシ の シリョ には なんら の クフウ も なかった の で ある。 ヤオヤ オシチ は イエ を やいたらば、 ふたたび おもう ヒト に あわれる こと と クフウ を した の で ある が、 ワレワレ フタリ は ツマド 1 マイ を しのんで あける ほど の チエ も でなかった。 それほど に ムジャキ な カレン な コイ で ありながら、 なお オヤ に おじ キョウダイ に はばかり、 タニン の マエ にて ナミダ も ふきえなかった の は いかに キ の よわい ドウシ で あったろう。

 ボク は ガッコウ へ いって から も、 とかく タミコ の こと ばかり おもわれて シカタ が ない。 ガッコウ に おって こんな こと を かんがえて どう する もの か など と、 ジブン で ジブン を しかりはげまして みて も なんの カイ も ない。 そういう コトバ の シリ から すぐ タミコ の こと が わいて くる。 オオク の ヒトナカ に いれば どうにか まぎれる ので、 ヒノウチ は なるたけ ヒトリ で いない よう に こころがけて いた。 ヨ に なって も ねる と シカタ が ない から、 なるたけ ヒトナカ で さわいで いて つかれて ねる クフウ を して いた。 そういう シマツ で ようやく トシ も くれ トウキ キュウギョウ に なった。
 ボク が 12 ガツ 25 ニチ の ゴゼン に かえって みる と、 ニワ イチメン に モミ を ほして あって、 ハハ は マエ の エンガワ に フトン を しいて ヒナタボッコ を して いた。 チカゴロ は よほど カラダ の グアイ も よい。 キョウ は アニフウフ と オトコ と オマス とは ヤマ へ クズ を はき に いった との ハナシ で ある。 ボク は タミ さん は と クチ の サキ まで でた けれど ついに いいきらなかった。 ハハ も いじわるく なんとも いわない。 ボク は カエリ そうそう タミコ の こと を とう の が いかにも きまりわるく、 そのまま レイ の ショシツ を かたづけて ここ に おちついた。 しかし ヒグレ まで には タミコ も かえって くる こと と おもいながら、 おろおろ して まって いる。 ミナ が かえって いよいよ ユウメシ と いう こと に なって も タミコ の スガタ は みえない、 タレ も また タミコ の こと を ヒトコト も いう モノ も ない。 ボク は もう タミコ は イチカワ へ かえった もの と さっして、 ヒト に とう の も いまいましい から、 ホカ の ハナシ も せず、 メシ が すむ と それなり ショシツ へ はいって しまった。
 キョウ は かならず タミコ に あわれる こと と ヒトカタ ならず タノシミ に して かえって きた のに、 この シマツ で なんとも いえず チカラ が おちて さびしかった。 さりとて タレ に この クモン を ハナシヨウ も なく、 タミコ の シャシン など を とりだして みて おった けれど、 ちっとも キ が はれない。 また あの ヤツ タミコ が いない から かんがえこんで いやがる と おもわれる も くちおしく、 ようやく ココロ を とりなおし、 ハハ の マクラモト へ いって ヨル おそく まで ガッコウ の ハナシ を して きかせた。
 あくる ヒ は 9 ジ-ゴロ に ようやく おきた。 ハハ は まだ ねて いる。 ダイドコロ へ でて みる と ホカ の モノ は ミナ また ヤマ へ いった とか で、 オマス が ヒトリ ダイドコロ カタヅケ に のこって いる。 ボク は カオ を あらった なり メシ も くわず に、 セド の ハタケ へ でて しまった。 この アキ、 タミコ と フタリ で ナス を とった ハタケ が イマ は あおあお と ナ が ほきて いる。 ボク は しばらく たって いずこ を ながめる とも なく、 タミコ の オモカゲ を ノウチュウ に えがきつつ オモイ に しずんで いる。
「マサオ さん、 ナニ を そんな に かんがえて いる の」
 オマス が だしぬけ に ウシロ から そ いって、 チカク へ よって きた。 ボク が ヨイカゲン な こと を ヒトコト フタコト いう と、 オマス は いきなり ボク の テ を とって、 もすこし こっち へ きて ここ へ コシ を かけなさい まあ と いいつつ、 ワラ を つんで ある ところ へ ジブン も コシ を かけて ボク にも かけさせた。
「マサオ さん…… オタミ さん は ホント に かわいそう でした よ。 ウチ の ネエサン たら ホント に イジマガリ です から ね。 なんと いう コンジョウ の わるい ヒト だ か、 ワタシ も はあ ここ の ウチ に いる の は いや に なって しまった。 キノウ マサオ さん が くる の は わかりきって いる のに、 ネエサン が いろんな こと を いって、 オトトイ オタミ さん を イチカワ へ かえした ん です よ。 まつ ヒト が ある だっぺ とか あいたい ヒト が まちどおかっぺ とか、 アテコスリ を いって オタミ さん を なかせたり して ね、 オカアサン にも なんでも イロイロ な こと を いった らしい、 とうとう オトトイ オヒルマエ に かえして しまった の でさ。 マサオ さん が オトトイ きたら あわれた ん です よ。 マサオ さん、 ワタシ は オタミ さん が かわいそう で かわいそう で ならない だよ。 なんだって アナタ が いなく なって から は まるで ナキ の ナミダ で ヒ を くらして いる ん だ もの、 マサオ さん に テガミ を やりたい けれど、 それ が よく ジブン には できない から くやしい と いって ね。 ワタシ の ヘヤ へ ミバン も スズリ と カミ を もって きて は ないて いました。 オタミ さん も ハジマリ は ワタシ にも かくして いた けれど、 ノチ には かくして いられなく なった のさ。 ワタシ も オタミ さん の ため に いくら ないた か しれない……」
 みれば オマス は もう ぽろぽろ ナミダ を こぼして いる。 いったい オマス は ごく ヒト の よい シンセツ な オンナ で、 ボク と タミコ が メノマエ で ナカ よい フウ を する と、 シットシン を おこす けれど、 もとより シュウネン-ぶかい ショウ で ない から、 タミコ が ヒトリ に なれば タミコ と ナカ が よく、 ボク が ヒトリ に なれば ボク を オオサワギ する の で ある。
 それから なお オマス は、 ボク が いない アト で タミコ が ヒジョウ に ハハ に しかられた こと など を はなした。 それ は ガイリャク こう で ある。 イジワル の アニヨメ が ナニ を いうて も、 ハハ が タミコ を あいする こと は すこしも かわらない けれど、 フタツ も トシ の おおい タミコ を ボク の ヨメ に する こと は どうしても いけぬ と いう こと に なった らしく、 それ には アニヨメ も いろいろ いうて、 ヨメ に しない と すれば、 フタリ の ナカ は なるたけ さく よう な クフウ を せねば ならぬ。 ハハ も アニヨメ も そういう ココロモチ に なって いる から、 タミコ に たいする シムケ は、 マサオ の こと を おもうて いて も とうてい ダメ で ある と トオマワシ に フウジ して いた。 そこ へ きて タミコ が あけて も くれて も くよくよ して、 ヒト の メ にも とまる ほど で ある から、 ときどき は モノワスレ を したり、 よんで も ヘンジ が おそかったり して、 ハハ の カンシャク に さわった こと も たびたび あった。 ボク が いなく なって から ハツカ ばかり たって 11 ガツ の ツキハジメ の コロ、 タミコ も ホカ の モノ と ノ へ でる こと と なって、 ハハ が タミコ に オマエ は ヒトアシ アト に なって、 ザシキ の マワリ を ゾウキンガケ して それから ニワ に ひろげて ある ムシロ を クラ へ かたづけて から ノ へ ゆけ と いいつけた。 タミコ は ゾウキンガケ を して から うっかり わすれて しまって、 ムシロ を いれず に ノ へ でた ところ、 マ が わるく その ヒ アメ が ふった から、 その ムシロ 10 マイ ばかり を ぬらして しまった。 タミコ は アメ が ふって から キ が ついた けれど、 もう まにあわない。 ウチ へ かえって さっそく ハハ に わびた けれど ハハ は ヘイジツ の こと が ムネ に ある から、
「なにも 10 マイ ばかり の ムシロ が おしい では ない けれど、 いったい ワタシ の イイツケ を おろそか に きいて いる から おこった こと だ。 モト の タミコ は そう で なかった。 エテ カッテ な カンガエゴト など して いる から、 ヒト の いう こと も ミミ へ はいらない の だ……」
 と いう よう な ずいぶん いたい コゴト を いった。 タミコ は ハハ の マクラモト チカク へ いって、 どうか ワタシ が わるかった の です から カンニン して…… と リョウテ を ついて あやまった。 そう する と ハハ は また そう なにも タニン-らしく あらたまって あやまらなく とも だ と しかった そう で、 タミコ は たまらなく なって わっと なきふした。 そのまま タミコ が なきやんで しまえば なんの こと も なく すんだ で あろう が、 タミコ は とうとう ヒトバンジュウ なきとおした ので あくる アサ は メ を あかく して いた。 ハハ も ヨル ときどき メ を さまして みる と、 タミコ は いつでも、 すくすく ないて いる コエ が して いた と いう ので、 コンド は ハハ が ヒジョウ に リップク して、 オマス と タミコ と フタリ よんで ハハ が フルエゴエ に なって いう には、
「アイタイ では ワタシ が どんな ワガママ な こと を いう かも しれない から オマス は キキテ に なって くれ。 タミコ は ユウベ ヒトバンジュウ なきとおした。 さだめし ワタシ に いわれた こと が ムネン で たまらなかった から でしょう」
 タミコ は ここ で ワタシ は そう で ありません と ナキゴエ で いうた けれど、 ハハ は ミミ にも かけず に、
「なるほど ワタシ の コゴト も すこし イイスギ かも しれない が、 タミコ だって なにも それほど くやしがって くれなくて も よさそう な もの じゃ ない か。 ワタシ は ホント に かんがえる と なさけなく なって しまった。 かわいがった の を オン に きせる では ない が、 モト を いえば タニン だ けれど、 チノミゴ の とき から、 タミコ は しょっちゅう ウチ へ きて いて イマ の マサオ と フタツ の チブサ を ヒトツ ずつ ふくませて いた くらい、 オマス が きて から も あの とおり で、 フタツ の もの は ヒトツ ずつ ヨッツ の もの は フタツ ずつ、 キモノ を こしらえて も あれ に 1 マイ これ に 1 マイ と すこしも ワケヘダテ を せない で きた。 タミコ も シン の オヤ の よう に おもって くれ ワタシ も ワガコ と おもって ヨソ の ヒト は ダレ だって フタリ を キョウダイ と おもわない モノ は なかった ほど で ある のに、 アト にも サキ にも イチド の コゴト を あんな に くやしがって ヨジュウ ないて くれなく とも よさそう な もの。 イチカワ の ヒトタチ に きかれたらば、 サイトウ の バア が どんな ひどい こと を いった か と おもう だろう。 10 ナンネン と いう アイダ ワガコ の よう に おもって きた こと も ただ イチド の コゴト で わすれられて しまった か と おもう と ワタシ は くやしい。 ニンゲン と いう もの は そうした もの かしら。 オマス、 よく きいて くれ、 ワタシ が ムリ か タミコ が ムリ か。 なあ オマス」
 ハハ は メ に ナミダ を いっぱい に ためて そう いった。 タミコ は ミ も ヨ も あらぬ サマ で いきなり に オマス の ヒザ へ すがりついて なきなき、
「オマス や、 オカアサン に モウシワケ を して おくれ。 ワタシ は そんな だいそれた リョウケン では ない。 ユンベ あんな に ないた は まったく ワタシ が わるかった から、 まったく ワタシ が とどかなかった の だ から、 オマス や、 オマエ が よく モウシワケ を そう いって おくれ……」
 それから オマス が、
「オカアサン の ゴリップク も ごもっとも です けれど、 ワタシ が おもう にゃ オカアサン も すこし カンチガイ を して おいで なさいます。 オカアサン は ナガネン オタミ さん を かわいがって おいで です から、 オタミ さん の キダテ は わかって おりましょう。 ワタシ も こうして 1 ネン ゴヤッカイ に なって いて みれば、 オタミ さん は ホント やさしい おとなしい ヒト です。 オカアサン に すこし ばかり しかられたって、 それ を くやしがって ないたり なんぞ する よう な ヒト では ありますまい。 ワタシ が こんな こと もうして は おかしい です が、 マサオ さん と オタミ さん とは、 ああして なかよく して いた の を、 ナニ か の ゴツゴウ で キュウ に おわかれ なさった もん です から、 それから と いう もの、 オタミ さん は かわいそう な ほど ゲンキ が ない の です。 コノハ の そよぐ にも タメイキ を つき カラス の なく にも なみだぐんで、 さわれば なきそう な ふう で いた ところ へ、 オカアサン から すこし きつく しかられた から トメド なく ないた の でしょう。 オカアサン、 ワタシ は まったく そう おもいます わ。 オタミ さん は けっして アナタ に しかられた とて くやしがる よう な ヒト では ありません。 オタミ さん の よう な おとなしい ヒト を、 オカアサン の よう に ああ いって しかって は、 あんまり かわいそう です わ」
 オマス が トモナキ を して イイワケ を いうた ので、 もとより タミコ は にくく ない ハハ だ から、 にわか に カオイロ を なおして、
「なるほど オマス が そう いえば、 ワタシ も すこし カンチガイ を して いました。 よく オマス そう いうて くれた。 ワタシ は もう すっかり ココロモチ が なおった。 タミ や、 だまって おくれ、 もう ないて くれるな。 タミ や も かわいそう で あった。 なに マサオ は ガッコウ へ いった ん じゃ ない か、 クレ には かえって くる よ。 なあ オマス、 オマエ は キョウ は シゴト を やすんで、 うまい もの でも こしらえて くれ」
 その ヒ は 3 ニン が イクタビ も よりあって、 イロイロ な もの を こしらえて は チャゴト を やり、 イチニチ おもしろく ハナシ を した。 タミコ も この ヒ は いつ に なく タカワライ を し ゲンキ よく あそんだ。 なんと いって も ハハ の ほう は すぐ ハナシ が わかる けれど、 アニヨメ が まがなすきがな イロイロ な こと を いう ので、 とうとう ボク の かえらない うち に タミコ を イチカワ へ かえした との ハナシ で あった。 オマス は ながい ハナシ を おわる や いなや すぐ ウチ へ かえった。
 なるほど そう で あった か、 アネ は もちろん ハハ まで が そういう ココロ に なった では、 かよわい ノゾミ も たえた も ドウヨウ。 ココロボソサ の ヤルセ が なく、 なく より ホカ に セン が なかった の だろう。 そんな に ハハ に しかられた か…… ヒトバンジュウ なきとおした…… なるほど など と おもう と、 ふたたび あつい ナミダ が みなぎりだして トメド が ない。 ボク は しばらく の アイダ、 ナミダ の でる が まま に そこ に ぼんやり して おった。 その ヒ は とうとう アサハン も たべず、 ヒルスギ まで ハタケ の アタリ を うろついて しまった。
 そう なる と にわか に ウチ に いる の が いや で たまらない。 できる ならば クレ の うち に ガッコウ へ かえって しまいたかった けれど、 そう も ならない で ようやく こらえて、 トシ を こし ガンジツ 1 ニチ おいて フツカ の ヒ には アサ はやく ガッコウ へ たって しまった。
 コンド は リクロ イチカワ へ でて、 イチカワ から キシャ に のった から、 タミコ の キンジョ を とおった の で あれど、 ボク は キマリ が わるくて どうしても タミコ の イエ へ よれなかった。 また ボク に よられたらば、 タミコ が こまる だろう とも おもって、 イクタビ よろう と おもった けれど ついに よらなかった。
 おもえば じつに ヒト の キョウグウ は ヘンカ する もの で ある。 その 1 ネン マエ まで は、 タミコ が ボク の ところ へ きて いなければ、 ボク は ニチヨウ の たび に タミコ の イエ へ いった の で ある。 ボク は タミコ の イエ へ いって も ホカ の ヒト には ヨウ は ない。 いつでも、
「オバアサン、 タミ さん は」
 そら 「タミ さん は」 が きた と いわれる くらい で、 ある とき など は ボク が ゆく と、 タミコ は ニワ に キク の ハナ を つんで いた。 ボク は タミ さん ちょっと おいで と ムリ に セド へ ひっぱって いって、 ニケン-バシゴ を フタリ で にないだし、 カキ の キ へ かけた の を タミコ に おさえさせ、 ボク が のぼって カキ を ムッツ ばかり とる。 タミコ に ハンブン やれば タミコ は ヒトツ で タクサン と いう から、 ボク は その イツツ を もって そのまま ウラ から ぬけて かえって しまった。 さすが に この とき は トムラ の イエ でも ウチジュウ で ボク を わるく いった そう だ けれど、 タミコ ヒトリ は ただ にこにこ わらって いて、 けっして マサオ さん わるい とは いわなかった そう だ。 これ くらい ヘダテ なくした アイダガラ だに、 コイ と いう こと おぼえて から は、 イチカワ の マチ を とおる すら はずかしく なった の で ある。
 この トシ の ショチュウ ヤスミ には イエ に かえらなかった。 クレ にも かえるまい と おもった けれど、 トシ の クレ だ から 1 ニチ でも フツカ でも かえれ と いうて ハハ から テガミ が きた ゆえ、 オオミソカ の ヨル かえって きた。 オマス も コトシ きり で さがった との ハナシ で いよいよ ハナシアイテ も ない から、 また ガンジツ 1 ニチ で フツカ の ヒ に でかけよう と する と、 ハハ が オマエ にも いうて おく が タミコ は ヨメ に いった、 キョネン の シモツキ やはり イチカワ の ウチ で、 たいへん ユウフク な イエ だ そう だ、 と カンタン に いう の で あった。 ボク は はあ そう です か と ムゾウサ に こたえて でて しまった。
 タミコ は ヨメ に いった。 この イチゴ を きいた とき の ボク の ココロモチ は ジブン ながら フシギ と おもう ほど の ヘイキ で あった。 ボク が タミコ を おもって いる カンジョウ に なんら の ドウヨウ を おこさなかった。 これ には ナニ か ソウトウ の リユウ が ある かも しれねど、 ともかくも ジジツ は そう で ある。 ボク は ただ リクツ なし に タミコ は いかな キョウガイ に いろう とも、 ボク を おもって いる ココロ は けっして かわらぬ もの と しんじて いる。 ヨメ に いこう が どう しよう が、 タミコ は いぜん タミコ で、 ボク が タミコ を おもう ココロ に スンブン の カワリ ない よう に タミコ にも けっして カワリ ない よう に おもわれて、 その カンネン は ほとんど オオイシ の ウエ に ざして いる よう で ケ の サキ ほど の キグシン も ない。 それ で ある から タミコ は ヨメ に いった と きいて も すこしも おどろかなかった。 しかし その コロ から イマ まで に ない カンガエ も でて きた。 タミコ は ただただ すこしも ゲンキ が なく、 やせおとろえて ふさいで ばかり いる だろう と のみ おもわれて ならない。 かわいそう な タミ さん と いう カンネン ばかり たかまって きた の で ある。 そういう ワケ で ある から、 ガッコウ へ いって も イゼン とは ほとんど ハンタイ に なって、 イゼン は つとめて ヒトナカ へ はいって、 クモン を まぎらそう と した けれど、 コンド は なるべく ヒト を さけて、 ヒトリ で タミコ の ウエ に オモイ を はせて たのしんで おった。 ナスバタケ の こと や ワタバタケ の こと や、 13 ニチ の バン の さびしい カゼ や、 また ヤギリ の ワタシ で わかれた とき の こと や を、 くりかえし くりかえし かんがえて は ヒトリ なぐさんで おった。 タミコ の こと さえ かんがえれば いつでも キブン が よく なる。 もちろん かなしい ココロモチ に なる こと が しばしば ある けれど、 さんざん ナミダ を だせば やはり アト は キブン が よく なる。 タミコ の こと を おもって いれば かえって ガッカ の セイセキ も わるく ない の で ある。 これら も フシギ の ヒトツ で、 いかなる リユウ か しらねど、 ボク は じっさい そう で あった。

 いつしか ツキ も たって、 わすれ も せぬ 6 ガツ 22 ニチ、 ボク が サンジュツ の カイダイ に くるしんで かんがえて いる と、 コヅカイ が サイトウ さん オウチ から デンポウ です、 と いって ツクエ の ハタ へ おいて いった。 レイ の すぐ かえれ で ある から、 さっそく シャカン に ハナシ を して ソクジツ キセイ した。 ナニゴト が おこった か と ムネ に ドウキ を はずませて かえって みる と、 ヨイヤミ の イエ の アリサマ は イガイ に しずか だ。 ダイドコロ で ウチジュウ ユウメシドキ で あった が、 ただ そこ に ハハ が みえない ばかり、 なんの かわった ヨウス も ない。 ボク は ダイドコロ へは カオ も ださず、 すぐと ハハ の シンジョ へ きた。 アンドウ の ヒ も うすぐらく、 ハハ は ひったり マクラ に ついて ふせって いる。
「オカアサン、 どうか しました か」
「ああ マサオ、 よく はやく かえって くれた。 イマ ワタシ も おきる から オマエ ゴハン マエ なら ゴハン を すまして しまえ」
 ボク は なんの こと か しきり に キ に なる けれど、 ハハ が そう いう まま に そうそう に メシ を すまして ふたたび ハハ の ところ へ くる。 ハハ は オビ を ゆうて フトン の ウエ に おきて いた。 ボク が マエ に すわって も ただ ムゴン で いる。 みる と ハハ は アメ の よう に ナミダ を おとして うつむいて いる。
「オカアサン、 まあ どうした ん でしょう」
 ボク の コトバ に はげまされて ハハ は ようやく ナミダ を ふき、
「マサオ、 カンニン して くれ…… タミコ は しんで しまった…… ワタシ が ころした よう な もの だ……」
「そりゃ いつ です。 どうして タミ さん は しんだ ん です」
 ボク が ムチュウ に なって といかえす と、 ハハ は むせびかえって カオ を おさえて いる。
「シジュウ を きいたら、 さだめし ひどい オヤ だ と おもう だろう が、 こらえて くれ、 マサオ…… オマエ に イチゴン の ハナシ も せず、 たって いや だ と いう タミコ を ムリ に すすめて ヨメ に やった の が、 こういう こと に なって しまった…… たとい オンナ の ほう が トシウエ で あろう とも ホンニン ドウシ が トクシン で あらば、 なにも オヤ だ から とて ヨケイ な クチダシ を せなく も よい のに、 この ハハ が トシガイ も なく オヤ-だてら に いらぬ オセワ を やいて、 トリカエシ の つかぬ こと を して しまった。 タミコ は ワタシ が テ を かけて ころした も おなじ。 どうぞ カンニン して くれ、 マサオ…… ワタシ は タミコ の アト おって ゆきたい……」
 ハハ は もう おいおい おいおい コエ を たてて ないて いる。 タミコ の シ と いう こと だけ は わかった けれど、 ナニ が なにやら さらに わからぬ。 ボク とて タミコ の シ と きいて、 シッシン する ほど の オモイ で あれど、 イマ メノマエ で ハハ の ナゲキ の ヒトトオリ ならぬ を みて は、 なく にも なかれず、 ボク が おろおろ して いる ところ へ アニフウフ が でて きた。
「オカアサン、 まあ そう ないたって シカタ が ない」
 と いえば ハハ は、 かまわず に なかして おくれ なかして おくれ と いう の で ある、 どう シヨウ も ない。
 その アイダ で アニヨメ が わずか に はなす ところ を きけば、 イチカワ の ソレガシ と いう イエ で サキ の オトコ の キショウ も しれて いる に ザイサン も トムラ の イエ に バイ イジョウ で あり、 それ で ムコウ から タミコ を たって の ショモウ、 ナコウド と いう の も トムラ が セワ に なる ヒト で ある、 ぜひ やりたい ぜひ いって くれ と いう こと に なった。 タミコ は どうでも いや だ と いう。 タミコ の いや だ と いう ココロ は よく わかって いる けれど、 マサオ さん の ほう は トシ も ちがい サキ の ながい こと だ から、 どうでも ソレガシ の イエ へ やりたい とは、 トムラ の ヒトタチ は もちろん シンルイ まで の キボウ で あった。 それで いよいよ サイトウ の オッカサン に イケン を して もらう と いう こと に ソウダン が きまり、 それで ウチ の オカアサン が タミコ に イクタビ イケン を して も ないて ばかり ショウチ しない から、 トド の ツマリ、 オマエ が そう ゴウジョウ はる の も マサオ の ところ へ きたい カンガエ から だろう けれど、 それ は この ハハ が フショウチ で ならない よ、 オマエ は それでも コンド の エンダン が フショウチ か。 こんな ふう に いわれた から、 タミコ は すっかり ジブン を あきらめた らしく、 とうとう ミナサマ の よい よう に と いって ショウチ を した。 それから は なにもかも ヒト の イウナリ に なって、 シモツキ ナカバ に シュウギ を した けれど、 タミコ の ココロモチ が ホントウ の ショウチ で ない から、 ムコウ でも いくらか イヤキ に なり、 タミコ は ミモチ に なった が、 ムツキ で おりて しまった。 アト の ヒダチ が ヒジョウ に わるく ついに 6 ガツ 19 ニチ に イキ を ひきとった。 ビョウチュウ ボク に しらせよう との ハナシ も あった が、 いまさら マサオ に しらせる カオ も ない と いう ワケ から しらせなかった。 ウチ の オカアサン は タミコ が まだ クチ を きく とき から、 イチカワ へ いって おって、 タミコ が いけなく なる と、 もう ないて ないて なきぬいた。 ヒトクチマゼ に、 タミコ は ワタシ が ころした よう な もの だ、 と ばかり いって いて、 イチカワ へ おいた では どう なる か しれぬ と いう ワケ から、 キノウ クルマ で ウチ へ おくられて きた の だ。 はなし さえ すれば なく、 なけば ワタシ が わるかった わるかった と いって いる。 タレ にも シヨウ が ない から、 マサオ さん の ところ へ デンポウ を うった。 タミコ も かわいそう だし オカアサン も かわいそう だし、 とんだ こと に なって しまった。 マサオ さん、 どう したら よい でしょう。
 アニヨメ の ハナシ で オオカタ は わかった けれど、 ボク も どうして よい やら ほとんど トホウ に くれた。 ハハ は もう ハンキチガイ だ。 なにしろ ここ では ハハ の ココロ を しずめる の が ダイイチ とは おもった けれど、 ナグサメヨウ が ない。 ボク だって いっそ キチガイ に なって しまったら と おもった くらい だ から、 ハハ を なぐさめる ほど の キリョク は ない。 そうこう して いる うち に ようやく ハハ も すこし おちついて きて、 また はなしだした。
「マサオ や、 きいて くれ。 ワタシ は もう ジブン の アクトウ に あきれて しまった。 なんだって あんな ひどい こと を タミコ に いったっけ かしら。 いまさら なんぼ くいて も シカタ が ない けど、 ワタシ は マサオ…… タミコ に こう いった ん だ。 マサオ と フウフ に する こと は この ハハ が フショウチ だ から オマエ は ヨソ へ ヨメ に ゆけ。 なるほど タミコ は ワタシ に そう いわれて みれば ジブン の ミ を あきらめる ホカ は ない わけ だ。 どうして あんな むごたらしい こと を いった の だろう。 ああ かわいそう な こと を して しまった。 まったく ワタシ が アクトウ を いうた ため に タミコ は しんだ。 オマエ は ね、 アシタ は ヨ が あけたら すぐに いって よおく タミコ の ハカ に まいって くれ。 それで オカアサン の わるかった こと を よく わびて くれ。 ねえ マサオ」
 ボク も ようやく なく こと が できた。 たとい どういう ツゴウ が あった に せよ、 いよいよ ミコミ が なくなった とき には あわせて くれて も よかったろう に、 しんで から しらせる とは ずいぶん ひどい わけ だ。 タミ さん だって ボク には あいたかったろう。 ヨメ に いって しまって は モウシワケ が なく おもったろう けれど、 それでも いよいよ の マギワ に なって は ボク に あいたかった に ちがいない。 じつに なさけない こと だ。 かんがえて みれば ボク も あんまり コドモ で あった。 ソノゴ イチカワ を 3 カイ も とおりながら たずねなかった は、 いまさら ザンネン で ならぬ。 ボク は タミコ が ヨメ に ゆこう が ゆくまい が、 ただ タミコ に あい さえ せば よい の だ。 いま ヒトメ あいたかった…… ツギ から ツギ と はてしなく オモイ は あふれて くる。 しかし ハハ に そういう こと を いえば、 コンド は ボク が ハハ を ころす よう な こと に なる かも しれない。 ボク は きっと ココロ を とりなおした。
「オカアサン、 ホント に タミコ は かわいそう で ありました。 しかし とって かえらぬ こと を いくら くやんで も シカタ が ない です から、 アト の こと を ねんごろ に して やる ホカ は ない。 オカアサン は ただただ ゴジブン の わるい よう に ばかり とって いる けれど、 オカアサン とて ココロ は ただ タミコ の ため マサオ の ため と ヒトスジ に おもって くれた こと です から、 よし それ が おもう よう に ならなかった とて、 タミコ や ワタシラ が なにとて オカアサン を うらみましょう。 オカアサン の ココロ は どこまでも ナサケゴコロ で した もの を、 タミコ も けっして うらんで は い や しまい。 なにもかも こう なる ウンメイ で あった の でしょう。 ワタシ は もう あきらめました。 どうぞ このうえ オカアサン も あきらめて ください。 アス の アサ は ヨ が あけたら すぐ イチカワ へ まいります」
 ハハ は なお コトバ を ついで、
「なるほど なにもかも こう なる ウンメイ かも しらねど コンド と いう コンド ワタシ は よくよく コウカイ しました。 ぞくに オヤバカ と いう こと が ある が、 その オヤバカ が とんでもない わるい こと を した。 オヤ が いつまでも モノ の わかった つもり で いる が、 タイヘン な マチガイ で あった。 ジブン は アミダサマ に おすがり もうして すくうて いただく ホカ に たすかる ミチ は ない。 マサオ や、 オマエ は カラダ を ダイジ に して くれ。 おもえば タミコ は ナガネン の アイダ にも ついぞ ワタシ に さからった こと は なかった、 おとなしい コ で あった だけ、 ジブン の した こと が くいられて ならない、 どうしても かわいそう で たまらない。 タミコ が イマワ の トキ の こと も オマエ に はなして きかせたい けれど ワタシ には とても それ が できない」
 など と また コエ を くもらして きた。 もう はなせば はなす ほど かなしく なる から とて しいて イチドウ ねる こと に した。
 ハハ の テマエ アニフウフ の テマエ、 なくまい と こらえて ようやく こらえて いた ボク は、 ジブン の カヤ へ はいり フトン に たおれる と、 もう たまらなく イチド に こみあげて くる。 クチ へは テヌグイ を かんで、 ナンダ を しぼった。 どれだけ ナミダ が でた か、 リンシツ の ハハ から ヨ が あけた よう だよ と コエ を かけられる まで、 すこしも やまず ナミダ が でた。 きた まま で ねて いた ボク は そのまま おきて カオ を あらう や いなや、 まだ ほのぐらい のに イエ を でる。 ユメ の よう に 2 リ の ミチ を はしって、 タイヨウ が ようやく チヘイセン に あらわれた ジブン に トムラ の イエ の モンゼン まで きた。 この ヤ の カマド の ある ところ は ニワ から ショウメン に みとおして みえる。 アサダキ に ムギワラ を たいて ぱちぱち オト が する。 ボク が マエ の エンサキ に たつ と オク に いた オバアサン が、 めざとく みつけて でて くる。
「カネ や、 カネ や、 トミ や…… マサオ さん が きました。 まあ マサオ さん よく きて くれました。 たいそう はやく。 さあ おあがんなさい。 オキヌキ でしょう。 さあ…… カネ や……」
 タミコ の オトウサン と オカアサン、 タミコ の ネエサン も きた。
「まあ よく きて くれました。 アナタ の くる の を まって ました。 とにかくに あがって ゴハン を たべて……」
 ボク は あがり も せず コシ も かけず、 しばらく ムゴン で たって いた。 ようやく と、
「タミ さん の オハカ に まいり に きました」
 せつなる サマ は メ に あまった と みえ、 ヨッタリ とも クチ が きけなく なって しまった。 ……やがて オトウサン が、
「それでも まあ ちょっと ゴハン を すまして いったら…… ああ そう です か。 それでは ミナ して まいって くる が よかろう…… いや キモノ など きかえん で よい じゃ ない か」
 オンナ たち は、 もう ハナススリ を しながら、 それじゃあ とて たちあがる。 ミズ を もち、 センコウ を もち、 ニワ の ハナ を タクサン に とる。 オダマキソウ、 センニチソウ、 テンジク ボタン と てんでん テ に とりわけて でかける。 カキ の キ の シタ から セド へ ぬけ マキベイ の ウラモン を でる と マツバヤシ で ある。 モモバタケ ナシバタケ の アイダ を ゆく と わずか の タ が ある。 その サキ の マツバヤシ の カタスミ に ゾウキ の モリ が あって あまた の ハカ が みえる。 トムラ-ケ の ボチ は モチノキ 4~5 ホン を チュウシン と して ムツボ ばかり を クワケ して ある。 その ほどよい ところ の ニイハカ が タミコ が トワ の スミカ で あった。 ホウムリ を して から アメ にも あわない ので、 ほんの あたらしい まま で、 チカラガミ など も イマ むすんだ よう で ある。 オバアサン が サキ に いでて、
「さあ マサオ さん、 なにもかも アナタ の テ で やって ください。 タミコ の ため には ほんに センソウ の クヨウ に まさる アナタ の コウゲ、 どうぞ マサオ さん、 よおく オマイリ を して ください…… キョウ は タミコ も さだめて クサバ の カゲ で うれしかろう…… なあ この ヒト に せめて イチド でも、 メ を ねむらない タミコ に…… まあ せめて イチド でも あわせて やりたかった……」
 3 ニン は メ を こすって いる ヨウス。 ボク は コウ を あげ ハナ を あげ ミズ を そそいで から、 マエ に つくばって ココロ の ゆく まで おがんだ。 しんに なさけない わけ だ。 ジュミョウ で しぬ は しかたない に して も、 ながく わずらって いる マ に、 ああ みまって やりたかった。 ヒトメ あいたかった。 ボク も タミ さん に あいたかった もの、 タミ さん だって ボク に あいたかった に ちがいない。 むりむり に しいられた とは いえ、 ヨメ に いって は ボク に あわせる カオ が ない と おもった に ちがいない。 おもえば それ が ビンゼン で ならない。 あんな おとなしい タミ さん だ もの、 リョウシン から シンルイ-ジュウ かかって しいられて、 どうして それ が こばまれよう。 タミ さん が キ の つよい ヒト なら きっと ジサツ を した の だ けれど、 おとなしい ヒト だけ に それ も できなかった の だ。 タミ さん は ヨメ に いって も ボク の ココロ に カワリ は ない と、 せめて ボク の クチ から ヒトコト いって しなせたかった。 ヨノナカ に なさけない と いって こういう なさけない こと が あろう か。 もう ワタシ も いきて いたく ない…… われしらず コエ を だして ボク は リョウヒザ と リョウテ を ジベタ へ ついて しまった。
 ボク の ヨウス を みて、 ウシロ に いた 3 ニン が どんな に ないた か。 ボク も ワレ ヒトリ で ない に キ が ついて ようやく たちあがった。 3 ニン の ナカ の タレ が いう の か、
「なんだって タミコ は、 マサオ さん と いう こと をば ヒトコト も いわなかった の だろう……」
「それほど に おもいあってる ナカ と しったら あんな に すすめ は せぬ もの を」
「うすうす は しれて いた の だに、 この ヒト の ムネ も きいて みず、 タミコ も あれほど いやがった もの を…… いくら わかい から とて あんまり で あった…… かわいそう に……」
 3 ニン も コウゲ を たむけ ミズ を そそいだ。 オバアサン が また、
「マサオ さん、 アナタ チカラガミ を むすんで ください。 たくさん むすんで ください。 タミコ は アナタ が ナサケ の チカラ を タヨリ に アノヨ へ ゆきます。 ナム アミダブツ、 ナム アミダブツ」
 ボク は フトコロ に あった カミ の アリタケ を チカラヅエ に むすぶ。 この とき ふっと キ が ついた。 タミ さん は ノギク が たいへん すき で あった に ノギク を ほって きて うえれば よかった。 いや すぐ ほって きて うえよう。 こう かんがえて アタリ を みる と、 フシギ に ノギク が しげってる。 トブライ の ヒト に ふまれた らしい が なお くきだって あおあお と して いる。 タミ さん は ノギク の ナカ へ ほうむられた の だ。 ボク は ようやく すこし おちついて ヒトビト と ともに ハカバ を じした。

 ボク は なにも ほしく ありません。 ゴハン は もちろん チャ も ほしく ない です。 このまま オイトマ ねがいます、 アス は また はやく あがります から と いって かえろう と する と、 ウチジュウ で ひきとめる。 タミコ の オカアサン は もう たまらなそう な ふう で、
「マサオ さん、 アナタ に そうして かえられて は ワタシドモ は いて も たって も いられません。 アナタ が おもしろく ない オココロモチ は じゅうじゅう さっして います。 かんがえて みれば ワタシドモ の とどかなかった ため に、 タミコ にも フビン な シニヨウ を させ、 マサオ さん にも モウシワケ の ない こと を した の です。 ワタシドモ は いかよう にも アナタ に オワビ を いたします。 タミコ かわいそう と おぼしめしたら、 どうぞ タミコ が イマワ の ハナシ も きいて いって ください な。 アナタ が おいで に なったら、 おはなし もうす つもり で、 キョウ は オイデ か アス は オイデ か と、 じつは ウチジュウ が おまち もうした の です から どうぞ……」
 そう いわれて は ボク も かえる わけ に ゆかず、 ハハ も そう いった の に キ が ついて ザシキ へ あがった。 チャ や ゴハン や と だされた けれど マネ ばかり で すます。 その うち に ヒトビト ミナ オク へ あつまり オバアサン が はなしだした。
「マサオ さん、 タミコ の こと に ついて は、 ワタシドモ イチドウ まことに モウシワケ が なく、 アナタ に あわせる カオ は ない の です。 アナタ に いろいろ ゴムネン な ところ も ありましょう けれど、 どうぞ マサオ さん、 すぎさった こと と あきらめて、 ゴカンベン を ねがいます。 アナタ に オワビ を する の が ナニ より タミコ の クヨウ に なる の です」
 ボク は ただ もう ムネイッパイ で なにも いう こと が できない。 オバアサン は ハナシ を つづける。
「じつは と もうす と、 アナタ の オカアサン ハジメ、 ワタクシ また タミコ の リョウシン とも、 アナタ と タミコ が それほど ふかい ナカ で あった とは しらなかった もん です から」
 ボク は ここ で ヒトコト いいだす。
「タミ さん と ワタシ と ふかい ナカ と おっしゃって も、 タミ さん と ワタシ とは どうも し や しません」
「いいえ、 アナタ と タミコ が どうした と もうす では ない です。 もとから アナタ と タミコ は ヒジョウ な ナカヨシ でした から、 それ が わからなかった ん です。 それに タミコ は あの とおり の ウチキ な コ でした から、 アナタ の こと は ヒトコト も クチ に ださない。 それ は まるきり しらなかった とは もうされません。 それ です から オワビ を もうす よう な わけ……」
 ボク は ミナサン に そんな に オワビ を いわれる ワケ は ない と いう。 タミコ の オトウサン は オワビ を いわして くれ と いう。
「そりゃ マサオ さん の いう の は ごもっとも です、 ワタシドモ が カッテ な こと を して、 カッテ な こと を オマエサン に いう と いう もの です が、 マサオ さん きいて ください、 リクツ の ウエ の こと では ない です。 オトコオヤ の クチ から こんな こと いう も いかが です が、 タミコ は イノチ に かえられない オモイ を すてて フタオヤ の キボウ に したがった の です。 オヤ の イイツケ で そむかれない と おもうて も、 ドウリ で カンジョウ を おさえる は ムリ な ところ も ありましょう。 タミコ の シ は まったく それ ゆえ です から、 オヤ の ミ に なって みる と、 どうも ザンネン で ありまして、 どうも し や しません と マサオ さん が いう とおり、 オマエサンタチ フタリ に なんの ツミ も ない だけ、 オヤ の メ から は フビン が いっそう で な。 あの とおり おとなしかった タミコ は、 ジブン の しぬ の は ココロガラ と あきらめて か、 ついぞ イチド フソク-らしい フウ も みせなかった です。 それ や これ や を おもいます と な、 どう かんがえて も ちと オヤ が ムジヒ で あった よう で……。 マサオ さん、 さっして ください。 みる とおり ウチジュウ が もう、 カナシミ の ヤミ に とざされて いる の です。 おろか な こと でしょう が、 この バアイ オマエサン に タミコ の ハナシ を きいて もらう の が ナニ より の イセキ に おもわれます から、 トシガイ も ない こと もうす よう だ が、 どうぞ きいて ください」
 オバアサン が また ハナシ を つづける。 ケッコン の ハナシ から いよいよ むずかしく なった まで の ハナシ は アニヨメ が ウチ での ハナシ と おなじ で、 イマワ と いう ヒ の ハナシ は こう で あった。
「6 ガツ 17 ニチ の ゴゴ に イシャ が きて、 もう 1 ニチ フツカ の ところ だ から、 シンルイ など に しらせる ならば キョウジュウ にも しらせる が よい と いいます から、 それでは とて とりあえず アナタ の オカアサン に つげる と 18 ニチ の アサ とんで きました。 その ヒ は タミコ は カオイロ が よく、 はっきり と ハナシ も いたしました。 アナタ の オッカサン が きまして、 タミ や、 けっして キ を よわく して は ならない よ、 どうしても いま イチド なおる キ に なって おくれ よ、 タミ や…… タミコ は にっこり エガオ さえ みせて、 ヤギリ の オカアサン、 いろいろ ありがとう ございます。 ながなが かわいがって いただいた ゴオン は しんで も わすれません。 ワタクシ も、 もう ながい こと は ありますまい……。 タミ や、 そんな キ の よわい こと は おもって は いけない。 けっして そんな こと は ない から、 しっかり しなくて は いけない と、 アナタ の オカアサン が いいましたら、 タミコ は しばらく たって、 ヤギリ の オカアサン、 ワタシ は しぬ が ホンモウ で あります、 しねば それ で よい の です…… と いいまして から なお クチ の ウチ で ナニ か いった よう で、 なんでも、 マサオ さん、 アナタ の こと を いった に ちがいない です が、 よく ききとれません でした。 それきり クチ は きかない で、 その ヨ の アケガタ に イキ を ひきとりました……。 それから マサオ さん、 こういう ワケ です…… ヨ が あけて から、 マクラ を なおさせます とき、 あれ の ハハ が みつけました。 タミコ は ヒダリ の テ に モミ の キレ に つつんだ ちいさな もの を にぎって その テ を ムネ へ のせて いる の です。 それで ウチジュウ の ヒト が ミナ あつまって、 これ を どう しよう か と ソウダン しました が、 かわいそう な よう な キモチ も する けれど、 みず に おく の も キ に かかる、 とにかく ひらいて みる が よい と、 あれ の チチ が いいだしまして、 ミナ の いる ナカ で あけました。 それ が マサオ さん、 アナタ の シャシン と アナタ の オテガミ で ありまして……」
 オバアサン が なきだして、 そこ に いた ヒト ミナ ナミダ を ふいて いる。 ボク は イッシン に タタミ を みつめて いた。 やがて オバアサン が ようよう ハナシ を つぐ。
「その オテガミ を オトミ が よみましたら、 ダレ も カレ も イチド に コエ を たって なきました。 あれ の チチ は オトコ ながら オオゴエ して なく の です。 アナタ の オカアサン は、 キ が ふれ は しない か と おもう ほど、 くどいて なく。 オマエタチ フタリ が これほど の カタライ とは しらず に、 ムリ ムタイ に すすめて ヨメ に やった は わるかった。 ああ わるい こと を した、 フビン だった。 タミ や、 カンニン して、 ワタシ が わるかった から カンニン して くれ。 にわか の サワギ です から、 キンジョ の ヒトタチ が、 どう しました と いって たずね に きた くらい で ありました。 それで アナタ の オカアサン は どうしても なきやまない です。 カラダ に さわって は と おもいまして ソウシキ が すむ と クルマ で おおくり もうした シダイ です。 ミ を あきらめた タミコ の ココロモチ が、 こう わかって みる と、 ダレ も カレ も おなじ こと で いまさら の よう に ムリ に ヨメ に やった こと が コウカイ され、 たまらない です よ。 かんがえれば かんがえる ほど あの コ が かわいそう で かわいそう で いて も たって も いられない…… せめて アナタ に きて いただいて、 ミナ が わるかった こと を じゅうぶん アナタ に オワビ を し、 また あれ の ハカ にも コウゲ を アナタ の テ から たむけて いただいたら、 すこし は ウチジュウ の ココロモチ も やすまる か と おまいまして…… キョウ の こと を なんぼう まちましたろ。 マサオ さん、 どうぞ ききわけて ください。 ねえ タミコ は アナタ には そむいて は いません。 どうぞ フビン と おもうて やって ください……」
 イチゴ イック ミナ ナミダ で、 ボク も イチジ なきふして しまった。 タミコ は しぬ の が ホンモウ だ と いった か、 そう いった か…… ウチ の ハハ が あんな に ミ を せめて なかれる の も、 その はず で あった。 ボク は、
「オバアサン、 よく わかりました。 ワタシ は タミ さん の ココロモチ は よく しって います。 キョネン の クレ、 タミ さん が ヨメ に ゆかれた と きいた とき で さえ、 ワタシ は タミ さん を ケ ほど も うたがわなかった です もの。 どのよう な こと が あろう とも、 ワタシ が タミ さん を おもう ココロモチ は かわりません。 ウチ の ハハ など も ただ それ ばかり いって なげいて います が、 それ も みな ワルギ が あって の ワザ で ない の です から、 ワタシ は もちろん タミ さん だって けっして ウラミ に おも や しません。 なにもかも さだまった エン と あきらめます。 ワタシ は とうぶん マイニチ オハカ へ まいります……」
 はなして は なき ないて は はなし、 コウ イチゴ オツ イチゴ いくら ないて も ハテシ が ない。 ボク は ハハ の こと も キ に かかる ので、 もう オヒル だ と いう ジブン に トムラ の イエ を じした。 トムラ の オカアサン は、 タミコ の ハカ の マエ で ボク の ソブリ が あまり いたわしかった から、 トチュウ が シンパイ に なる とて、 ジブン で ヤギリ の イリグチ まで おくって きて くれた。 タミコ の ビンゼン な こと は いくら おもうて も おもいきれない。 いくら ないて も なききれない。 しかしながら また メノマエ の ハハ が、 カイゴ の ネン に せめられ、 みずから タイザイ を おかした と しんじて なげいて いる ビンゼンサ を みる と、 ボク は どうしても イマ は タミコ を ないて は いられない。 ボク が めそめそ して おった では、 ハハ の クルシミ は ます ばかり と キ が ついた。 それから イッシン に ジブン で ジブン を はげまし、 ゲンキ を よそおうて ひたすら ハハ を なぐさめる クフウ を した。 それでも ココロ に ない こと は シカタ の ない もの、 ハハ は いつしか それ と キ が ついてる ヨウス、 そう なって は ボク が ウチ に いない より ホカ は ない。
 マイニチ ナヌカ の アイダ イチカワ へ かよって、 タミコ の ハカ の シュウイ には ノギク が イチメン に うえられた。 その あくる ヒ に ボク は じゅうぶん ハハ の セイシン の やすまる よう に ジブン の ココロモチ を はなして、 けつぜん ガッコウ へ でた。

     *     *     *     *

 タミコ は よぎなき ケッコン を して ついに ヨ を さり、 ボク は よぎなき ケッコン を して ながらえて いる。 タミコ は ボク の シャシン と ボク の テガミ と を ムネ を はなさず に もって いよう。 ユウメイ はるけく へだつ とも ボク の ココロ は 1 ニチ も タミコ の ウエ を さらぬ。

ある オンナ (ゼンペン)

 ある オンナ  (ゼンペン)  アリシマ タケオ  1  シンバシ を わたる とき、 ハッシャ を しらせる 2 バンメ の ベル が、 キリ と まで は いえない 9 ガツ の アサ の、 けむった クウキ に つつまれて きこえて きた。 ヨウコ は ヘイキ で それ ...