2016/11/03

ニンゲン シッカク

 ニンゲン シッカク

 ダザイ オサム

 ハシガキ

 ワタシ は、 その オトコ の シャシン を 3 ヨウ、 みた こと が ある。
 1 ヨウ は、 その オトコ の、 ヨウネン ジダイ、 と でも いう べき で あろう か、 10 サイ ゼンゴ か と スイテイ される コロ の シャシン で あって、 その コドモ が オオゼイ の オンナ の ヒト に とりかこまれ、 (それ は、 その コドモ の アネ たち、 イモウト たち、 それから、 イトコ たち か と ソウゾウ される) テイエン の イケ の ホトリ に、 あらい シマ の ハカマ を はいて たち、 クビ を 30 ド ほど ヒダリ に かたむけ、 みにくく わらって いる シャシン で ある。 みにくく? けれども、 にぶい ヒトタチ (つまり、 ビシュウ など に カンシン を もたぬ ヒトタチ) は、 おもしろく も なんとも ない よう な カオ を して、
「かわいい ボッチャン です ね」
 と イイカゲン な オセジ を いって も、 まんざら カラオセジ に きこえない くらい の、 いわば ツウゾク の 「カワイラシサ」 みたい な カゲ も その コドモ の エガオ に ない わけ では ない の だ が、 しかし、 いささか でも、 ビシュウ に ついて の クンレン を へて きた ヒト なら、 ヒトメ みて すぐ、
「なんて、 いや な コドモ だ」
 と すこぶる フカイ そう に つぶやき、 ケムシ でも はらいのける とき の よう な テツキ で、 その シャシン を ほうりなげる かも しれない。
 まったく、 その コドモ の エガオ は、 よく みれば みる ほど、 なんとも しれず、 いや な うすきみわるい もの が かんぜられて くる。 どだい、 それ は、 エガオ で ない。 この コ は、 すこしも わらって は いない の だ。 その ショウコ には、 この コ は、 リョウホウ の コブシ を かたく にぎって たって いる。 ニンゲン は、 コブシ を かたく にぎりながら わらえる もの では ない の で ある。 サル だ。 サル の エガオ だ。 ただ、 カオ に みにくい シワ を よせて いる だけ なの で ある。 「シワクチャ ボッチャン」 と でも いいたく なる くらい の、 まことに キミョウ な、 そうして、 どこ か けがらわしく、 へんに ヒト を むかむか させる ヒョウジョウ の シャシン で あった。 ワタシ は これまで、 こんな フシギ な ヒョウジョウ の コドモ を みた こと が、 イチド も なかった。
 ダイ 2 ヨウ の シャシン の カオ は、 これ は また、 びっくり する くらい ひどく ヘンボウ して いた。 ガクセイ の スガタ で ある。 コウトウ ガッコウ ジダイ の シャシン か、 ダイガク ジダイ の シャシン か、 はっきり しない けれども、 とにかく、 おそろしく ビボウ の ガクセイ で ある。 しかし、 これ も また、 フシギ にも、 いきて いる ニンゲン の カンジ は しなかった。 ガクセイフク を きて、 ムネ の ポケット から しろい ハンケチ を のぞかせ、 トウイス に こしかけて アシ を くみ、 そうして、 やはり、 わらって いる。 コンド の エガオ は、 シワクチャ の サル の ワライ で なく、 かなり たくみ な ビショウ に なって は いる が、 しかし、 ニンゲン の ワライ と、 どこやら ちがう。 チ の オモサ、 と でも いおう か、 イノチ の シブサ、 と でも いおう か、 そのよう な ジュウジツカン は すこしも なく、 それこそ、 トリ の よう では なく、 ウモウ の よう に かるく、 ただ ハクシ 1 マイ、 そうして、 わらって いる。 つまり、 イチ から ジュウ まで ツクリモノ の カンジ なの で ある。 キザ と いって も たりない。 ケイハク と いって も たりない。 ニヤケ と いって も たりない。 オシャレ と いって も、 もちろん たりない。 しかも、 よく みて いる と、 やはり この ビボウ の ガクセイ にも、 どこ か カイダン-じみた きみわるい もの が かんぜられて くる の で ある。 ワタシ は これまで、 こんな フシギ な ビボウ の セイネン を みた こと が、 イチド も なかった。
 もう 1 ヨウ の シャシン は、 もっとも キカイ な もの で ある。 まるで もう、 トシ の コロ が わからない。 アタマ は いくぶん ハクハツ の よう で ある。 それ が、 ひどく きたない ヘヤ (ヘヤ の カベ が 3 カショ ほど くずれおちて いる の が、 その シャシン に はっきり うつって いる) の カタスミ で、 ちいさい ヒバチ に リョウテ を かざし、 コンド は わらって いない。 どんな ヒョウジョウ も ない。 いわば、 すわって ヒバチ に リョウテ を かざしながら、 シゼン に しんで いる よう な、 まことに いまわしい、 フキツ な ニオイ の する シャシン で あった。 キカイ なの は、 それ だけ で ない。 その シャシン には、 わりに カオ が おおきく うつって いた ので、 ワタシ は、 つくづく その カオ の コウゾウ を しらべる こと が できた の で ある が、 ヒタイ は ヘイボン、 ヒタイ の シワ も ヘイボン、 マユ も ヘイボン、 メ も ヘイボン、 ハナ も クチ も アゴ も、 ああ、 この カオ には ヒョウジョウ が ない ばかり か、 インショウ さえ ない。 トクチョウ が ない の だ。 たとえば、 ワタシ が この シャシン を みて、 メ を つぶる。 すでに ワタシ は この カオ を わすれて いる。 ヘヤ の カベ や、 ちいさい ヒバチ は おもいだす こと が できる けれども、 その ヘヤ の シュジンコウ の カオ の インショウ は、 すっと ムショウ して、 どうしても、 なんと して も おもいだせない。 エ に ならない カオ で ある。 マンガ にも なにも ならない カオ で ある。 メ を ひらく。 あ、 こんな カオ だった の か、 おもいだした、 と いう よう な ヨロコビ さえ ない。 キョクタン な イイカタ を すれば、 メ を ひらいて その シャシン を ふたたび みて も、 おもいだせない。 そうして、 ただ もう フユカイ、 いらいら して、 つい メ を そむけたく なる。
 いわゆる 「シソウ」 と いう もの に だって、 もっと ナニ か ヒョウジョウ なり インショウ なり が ある もの だろう に、 ニンゲン の カラダ に ダバ の クビ でも くっつけた なら、 こんな カンジ の もの に なる で あろう か、 とにかく、 どこ と いう こと なく、 みる モノ を して、 ぞっと させ、 いや な キモチ に させる の だ。 ワタシ は これまで、 こんな フシギ な オトコ の カオ を みた こと が、 やはり、 イチド も なかった。

 ダイイチ の シュキ

 ハジ の おおい ショウガイ を おくって きました。
 ジブン には、 ニンゲン の セイカツ と いう もの が、 ケントウ つかない の です。 ジブン は トウホク の イナカ に うまれました ので、 キシャ を はじめて みた の は、 よほど おおきく なって から でした。 ジブン は テイシャジョウ の ブリッジ を、 のぼって、 おりて、 そうして それ が センロ を またぎこえる ため に つくられた もの だ と いう こと には ぜんぜん きづかず、 ただ それ は テイシャジョウ の コウナイ を ガイコク の ユウギジョウ みたい に、 フクザツ に たのしく、 ハイカラ に する ため に のみ、 セツビ せられて ある もの だ と ばかり おもって いました。 しかも、 かなり ながい アイダ そう おもって いた の です。 ブリッジ の のぼったり おりたり は、 ジブン には むしろ、 ずいぶん アカヌケ の した ユウギ で、 それ は テツドウ の サーヴィス の ナカ でも、 もっとも キ の きいた サーヴィス の ヒトツ だ と おもって いた の です が、 ノチ に それ は ただ リョカク が センロ を またぎこえる ため の すこぶる ジツリテキ な カイダン に すぎない の を ハッケン して、 にわか に キョウ が さめました。
 また、 ジブン は コドモ の コロ、 エホン で チカ テツドウ と いう もの を みて、 これ も やはり、 ジツリテキ な ヒツヨウ から アンシュツ せられた もの では なく、 チジョウ の クルマ に のる より は、 チカ の クルマ に のった ほう が フウガワリ で おもしろい アソビ だ から、 と ばかり おもって いました。
 ジブン は コドモ の コロ から ビョウジャク で、 よく ねこみました が、 ねながら、 シキフ、 マクラ の カヴァ、 カケブトン の カヴァ を、 つくづく、 つまらない ソウショク だ と おもい、 それ が アンガイ に ジツヨウヒン だった こと を、 ハタチ ちかく に なって わかって、 ニンゲン の ツマシサ に あんぜん と し、 かなしい オモイ を しました。
 また、 ジブン は、 クウフク と いう こと を しりません でした。 いや、 それ は、 ジブン が イショクジュウ に こまらない イエ に そだった と いう イミ では なく、 そんな バカ な イミ では なく、 ジブン には 「クウフク」 と いう カンカク は どんな もの だ か、 さっぱり わからなかった の です。 ヘン な イイカタ です が、 オナカ が すいて いて も、 ジブン で それ に キ が つかない の です。 ショウガッコウ、 チュウガッコウ、 ジブン が ガッコウ から かえって くる と、 シュウイ の ヒトタチ が、 それ、 オナカ が すいたろう、 ジブン たち にも オボエ が ある、 ガッコウ から かえって きた とき の クウフク は まったく ひどい から な、 アマナットウ は どう? カステラ も、 パン も ある よ、 など と いって さわぎます ので、 ジブン は モチマエ の オベッカ セイシン を ハッキ して、 オナカ が すいた、 と つぶやいて、 アマナットウ を 10 ツブ ばかり クチ に ほうりこむ の です が、 クウフクカン とは、 どんな もの だ か、 ちっとも わかって い や しなかった の です。
 ジブン だって、 それ は もちろん、 おおいに モノ を たべます が、 しかし、 クウフクカン から、 モノ を たべた キオク は、 ほとんど ありません。 めずらしい と おもわれた もの を たべます。 ゴウカ と おもわれた もの を たべます。 また、 ヨソ へ いって だされた もの も、 ムリ を して まで、 たいてい たべます。 そうして、 コドモ の コロ の ジブン に とって、 もっとも クツウ な ジコク は、 じつに、 ジブン の イエ の ショクジ の ジカン でした。
 ジブン の イナカ の イエ では、 10 ニン くらい の カゾク ゼンブ、 メイメイ の オゼン を 2 レツ に ムカイアワセ に ならべて、 スエッコ の ジブン は、 もちろん いちばん シモ の ザ でした が、 その ショクジ の ヘヤ は うすぐらく、 ヒルゴハン の とき など、 10 イクニン の カゾク が、 ただ もくもく と して メシ を くって いる アリサマ には、 ジブン は いつも はださむい オモイ を しました。 それに イナカ の ムカシカタギ の イエ でした ので、 オカズ も、 たいてい きまって いて、 めずらしい もの、 ゴウカ な もの、 そんな もの は のぞむ べく も なかった ので、 いよいよ ジブン は ショクジ の ジコク を キョウフ しました。 ジブン は その うすぐらい ヘヤ の マッセキ に、 サムサ に がたがた ふるえる オモイ で クチ に ゴハン を ショウリョウ ずつ はこび、 おしこみ、 ニンゲン は、 どうして 1 ニチ に サンド サンド ゴハン を たべる の だろう、 じつに ミナ ゲンシュク な カオ を して たべて いる、 これ も イッシュ の ギシキ の よう な もの で、 カゾク が ヒ に サンド サンド、 ジコク を きめて うすぐらい ヒトヘヤ に あつまり、 オゼン を ジュンジョ ただしく ならべ、 たべたく なくて も ムゴン で ゴハン を かみながら、 うつむき、 イエジュウ に うごめいて いる レイ たち に いのる ため の もの かも しれない、 と さえ かんがえた こと が ある くらい でした。
 メシ を たべなければ しぬ、 と いう コトバ は、 ジブン の ミミ には、 ただ いや な オドカシ と しか きこえません でした。 その メイシン は、 (イマ でも ジブン には、 なんだか メイシン の よう に おもわれて ならない の です が) しかし、 いつも ジブン に フアン と キョウフ を あたえました。 ニンゲン は、 メシ を たべなければ しぬ から、 その ため に はたらいて、 メシ を たべなければ ならぬ、 と いう コトバ ほど ジブン に とって ナンカイ で カイジュウ で、 そうして キョウハク-めいた ヒビキ を かんじさせる コトバ は、 なかった の です。
 つまり ジブン には、 ニンゲン の イトナミ と いう もの が いまだに なにも わかって いない、 と いう こと に なりそう です。 ジブン の コウフク の カンネン と、 ヨ の スベテ の ヒトタチ の コウフク の カンネン と が、 まるで くいちがって いる よう な フアン、 ジブン は その フアン の ため に ヨヨ、 テンテン し、 シンギン し、 ハッキョウ しかけた こと さえ あります。 ジブン は、 いったい コウフク なの でしょう か。 ジブン は ちいさい とき から、 じつに しばしば、 シアワセモノ だ と ヒト に いわれて きました が、 ジブン では いつも ジゴク の オモイ で、 かえって、 ジブン を シアワセモノ だ と いった ヒトタチ の ほう が、 ヒカク にも なにも ならぬ くらい ずっと ずっと アンラク な よう に ジブン には みえる の です。
 ジブン には、 ワザワイ の カタマリ が 10 コ あって、 その ナカ の 1 コ でも、 リンジン が せおったら、 その 1 コ だけ でも ジュウブン に リンジン の イノチトリ に なる の では あるまい か と、 おもった こと さえ ありました。
 つまり、 わからない の です。 リンジン の クルシミ の セイシツ、 テイド が、 まるで ケントウ つかない の です。 プラクテカル な クルシミ、 ただ、 メシ を くえたら それ で カイケツ できる クルシミ、 しかし、 それ こそ もっとも つよい ツウク で、 ジブン の レイ の 10 コ の ワザワイ など、 ふっとんで しまう ほど の、 セイサン な アビジゴク なの かも しれない、 それ は、 わからない、 しかし、 それにしては、 よく ジサツ も せず、 ハッキョウ も せず、 セイトウ を ろんじ、 ゼツボウ せず、 くっせず セイカツ の タタカイ を つづけて ゆける、 くるしく ない ん じゃ ない か? エゴイスト に なりきって、 しかも それ を トウゼン の こと と カクシン し、 イチド も ジブン を うたがった こと が ない ん じゃ ない か? それなら、 ラク だ、 しかし、 ニンゲン と いう もの は、 ミナ そんな もの で、 また それ で マンテン なの では ない かしら、 わからない、 ……ヨル は ぐっすり ねむり、 アサ は ソウカイ なの かしら、 どんな ユメ を みて いる の だろう、 ミチ を あるきながら ナニ を かんがえて いる の だろう、 カネ? まさか、 それ だけ でも ない だろう、 ニンゲン は、 メシ を くう ため に いきて いる の だ、 と いう セツ は きいた こと が ある よう な キ が する けれども、 カネ の ため に いきて いる、 と いう コトバ は、 ミミ に した こと が ない、 いや、 しかし、 コト に よる と、 ……いや、 それ も わからない、 ……かんがえれば かんがえる ほど、 ジブン には、 わからなく なり、 ジブン ヒトリ まったく かわって いる よう な、 フアン と キョウフ に おそわれる ばかり なの です。 ジブン は リンジン と、 ほとんど カイワ が できません。 ナニ を、 どう いったら いい の か、 わからない の です。
 そこで かんがえだした の は、 ドウケ でした。
 それ は、 ジブン の、 ニンゲン に たいする サイゴ の キュウアイ でした。 ジブン は、 ニンゲン を キョクド に おそれて いながら、 それでいて、 ニンゲン を、 どうしても おもいきれなかった らしい の です。 そうして ジブン は、 この ドウケ の イッセン で わずか に ニンゲン に つながる こと が できた の でした。 オモテ では、 たえず エガオ を つくりながら も、 ナイシン は ヒッシ の、 それこそ センバン に イチバン の カネアイ と でも いう べき キキ イッパツ の、 アブラアセ ながして の サーヴィス でした。
 ジブン は コドモ の コロ から、 ジブン の カゾク の モノタチ に たいして さえ、 カレラ が どんな に くるしく、 また どんな こと を かんがえて いきて いる の か、 まるで ちっとも ケントウ つかず、 ただ おそろしく、 その キマズサ に たえる こと が できず、 すでに ドウケ の ジョウズ に なって いました。 つまり、 ジブン は、 いつのまにやら、 ヒトコト も ホントウ の こと を いわない コ に なって いた の です。
 その コロ の、 カゾク たち と イッショ に うつした シャシン など を みる と、 ホカ の モノタチ は ミナ マジメ な カオ を して いる のに、 ジブン ヒトリ、 かならず キミョウ に カオ を ゆがめて わらって いる の です。 これ も また、 ジブン の おさなく かなしい ドウケ の イッシュ でした。
 また ジブン は、 ニクシン たち に ナニ か いわれて、 クチゴタエ した こと は イチド も ありません でした。 その わずか な オコゴト は、 ジブン には ヘキレキ の ごとく つよく かんぜられ、 くるう みたい に なり、 クチゴタエ どころ か、 その オコゴト こそ、 いわば バンセイ イッケイ の ニンゲン の 「シンリ」 とか いう もの に ちがいない、 ジブン には その シンリ を おこなう チカラ が ない の だ から、 もはや ニンゲン と イッショ に すめない の では ない かしら、 と おもいこんで しまう の でした。 だから ジブン には、 イイアラソイ も ジコ ベンカイ も できない の でした。 ヒト から わるく いわれる と、 いかにも、 もっとも、 ジブン が ひどい オモイチガイ を して いる よう な キ が して きて、 いつも その コウゲキ を もくして うけ、 ナイシン、 くるう ほど の キョウフ を かんじました。
 それ は ダレ でも、 ヒト から ヒナン せられたり、 おこられたり して いい キモチ が する もの では ない かも しれません が、 ジブン は おこって いる ニンゲン の カオ に、 シシ より も ワニ より も リュウ より も、 もっと おそろしい ドウブツ の ホンショウ を みる の です。 フダン は、 その ホンショウ を かくして いる よう です けれども、 ナニ か の キカイ に、 たとえば、 ウシ が ソウゲン で おっとり した カタチ で ねて いて、 とつじょ、 シッポ で ぴしっと ハラ の アブ を うちころす みたい に、 フイ に ニンゲン の おそろしい ショウタイ を、 イカリ に よって バクロ する ヨウス を みて、 ジブン は いつも カミ の さかだつ ほど の センリツ を おぼえ、 この ホンショウ も また ニンゲン の いきて ゆく シカク の ヒトツ なの かも しれない と おもえば、 ほとんど ジブン に ゼツボウ を かんじる の でした。
 ニンゲン に たいして、 いつも キョウフ に ふるいおののき、 また、 ニンゲン と して の ジブン の ゲンドウ に、 ミジン も ジシン を もてず、 そうして ジブン ヒトリ の オウノウ は ムネ の ナカ の コバコ に ひめ、 その ユウウツ、 ナーヴァスネス を、 ヒタカクシ に かくして、 ひたすら ムジャキ の ラクテンセイ を よそおい、 ジブン は おどけた オヘンジン と して、 しだいに カンセイ されて ゆきました。
 なんでも いい から、 わらわせて おれば いい の だ、 そう する と、 ニンゲン たち は、 ジブン が カレラ の いわゆる 「セイカツ」 の ソト に いて も、 あまり それ を キ に しない の では ない かしら、 とにかく、 カレラ ニンゲン たち の メザワリ に なって は いけない、 ジブン は ム だ、 カゼ だ、 ソラ だ、 と いう よう な オモイ ばかり が つのり、 ジブン は オドウケ に よって カゾク を わらわせ、 また、 カゾク より も、 もっと フカカイ で おそろしい ゲナン や ゲジョ に まで、 ヒッシ の オドウケ の サーヴィス を した の です。
 ジブン は ナツ に、 ユカタ の シタ に あかい ケイト の セーター を きて ロウカ を あるき、 イエジュウ の モノ を わらわせました。 めった に わらわない チョウケイ も、 それ を みて ふきだし、
「それ あ、 ヨウ ちゃん、 にあわない」
 と、 かわいくて たまらない よう な クチョウ で いいました。 なに、 ジブン だって、 マナツ に ケイト の セーター を きて あるく ほど、 いくら なんでも、 そんな、 アツサ サムサ を しらぬ オヘンジン では ありません。 アネ の レギンス を リョウウデ に はめて、 ユカタ の ソデグチ から のぞかせ、 もって セーター を きて いる よう に みせかけて いた の です。
 ジブン の チチ は、 トウキョウ に ヨウジ の おおい ヒト でした ので、 ウエノ の サクラギ-チョウ に ベッソウ を もって いて、 ツキ の タイハン は トウキョウ の その ベッソウ で くらして いました。 そうして かえる とき には カゾク の モノタチ、 また シンセキ の モノタチ に まで、 じつに おびただしく オミヤゲ を かって くる の が、 まあ、 チチ の シュミ みたい な もの でした。
 いつか の チチ の ジョウキョウ の ゼンヤ、 チチ は コドモ たち を キャクマ に あつめ、 コンド かえる とき には、 どんな オミヤゲ が いい か、 ヒトリヒトリ に わらいながら たずね、 それ に たいする コドモ たち の コタエ を いちいち テチョウ に かきとめる の でした。 チチ が、 こんな に コドモ たち と したしく する の は、 めずらしい こと でした。
「ヨウゾウ は?」
 と きかれて、 ジブン は、 くちごもって しまいました。
 ナニ が ほしい と きかれる と、 トタン に、 なにも ほしく なくなる の でした。 どうでも いい、 どうせ ジブン を たのしく させて くれる もの なんか ない ん だ と いう オモイ が、 ちらと うごく の です。 と、 ドウジ に、 ヒト から あたえられる もの を、 どんな に ジブン の コノミ に あわなくて も、 それ を こばむ こと も できません でした。 いや な こと を、 いや と いえず、 また、 すき な こと も、 おずおず と ぬすむ よう に、 きわめて にがく あじわい、 そうして いいしれぬ キョウフカン に もだえる の でした。 つまり、 ジブン には、 ニシャ センイツ の チカラ さえ なかった の です。 これ が、 コウネン に いたり、 いよいよ ジブン の いわゆる 「ハジ の おおい ショウガイ」 の、 ジュウダイ な ゲンイン とも なる セイヘキ の ヒトツ だった よう に おもわれます。
 ジブン が だまって、 もじもじ して いる ので、 チチ は ちょっと フキゲン な カオ に なり、
「やはり、 ホン か。 アサクサ の ナカミセ に オショウガツ の シシマイ の オシシ、 コドモ が かぶって あそぶ の には テゴロ な オオキサ の が うって いた けど、 ほしく ない か」
 ほしく ない か、 と いわれる と、 もう ダメ なん です。 おどけた ヘンジ も なにも でき や しない ん です。 オドウケ ヤクシャ は、 カンゼン に ラクダイ でした。
「ホン が、 いい でしょう」
 チョウケイ は、 マジメ な カオ を して いいました。
「そう か」
 チチ は、 キョウザメガオ に テチョウ に かきとめ も せず、 ぱちと テチョウ を とじました。
 なんと いう シッパイ、 ジブン は チチ を おこらせた、 チチ の フクシュウ は、 きっと、 おそる べき もの に ちがいない、 イマ の うち に なんとか して トリカエシ の つかぬ もの か、 と その ヨ、 フトン の ナカ で がたがた ふるえながら かんがえ、 そっと おきて キャクマ に ゆき、 チチ が センコク、 テチョウ を しまいこんだ はず の ツクエ の ヒキダシ を あけて、 テチョウ を とりあげ、 ぱらぱら めくって、 オミヤゲ の チュウモン キニュウ の カショ を みつけ、 テチョウ の エンピツ を なめて、 シシマイ、 と かいて ねました。 ジブン は その シシマイ の オシシ を、 ちっとも ほしく は なかった の です。 かえって、 ホン の ほう が いい くらい でした。 けれども、 ジブン は、 チチ が その オシシ を ジブン に かって あたえたい の だ と いう こと に キ が つき、 チチ の その イコウ に ゲイゴウ して、 チチ の キゲン を なおしたい ばかり に、 シンヤ、 キャクマ に しのびこむ と いう ボウケン を、 あえて おかした の でした。
 そうして、 この ジブン の ヒジョウ の シュダン は、 はたして オモイドオリ の ダイセイコウ を もって むくいられました。 やがて、 チチ は トウキョウ から かえって きて、 ハハ に オオゴエ で いって いる の を、 ジブン は コドモベヤ で きいて いました。
「ナカミセ の オモチャヤ で、 この テチョウ を ひらいて みたら、 これ、 ここ に、 シシマイ、 と かいて ある。 これ は、 ワタシ の ジ では ない。 はてな? と クビ を かしげて、 おもいあたりました。 これ は、 ヨウゾウ の イタズラ です よ。 アイツ は、 ワタシ が きいた とき には、 にやにや して だまって いた が、 アト で、 どうしても オシシ が ほしくて たまらなく なった ん だね。 なにせ、 どうも、 あれ は、 かわった ボウズ です から ね。 しらん フリ して、 ちゃんと かいて いる。 そんな に ほしかった の なら、 そう いえば よい のに、 ワタシ は、 オモチャヤ の ミセサキ で わらいました よ。 ヨウゾウ を はやく ここ へ よびなさい」
 また イッポウ、 ジブン は、 ゲナン や ゲジョ たち を ヨウシツ に あつめて、 ゲナン の ヒトリ に めちゃくちゃ に ピアノ の キー を たたかせ、 (イナカ では ありました が、 その イエ には、 タイテイ の もの が、 そろって いました) ジブン は その デタラメ の キョク に あわせて、 インデヤン の オドリ を おどって みせて、 ミナ を オオワライ させました。 ジケイ は、 フラッシュ を たいて、 ジブン の インデヤン オドリ を サツエイ して、 その シャシン が できた の を みる と、 ジブン の コシヌノ (それ は サラサ の フロシキ でした) の アワセメ から、 ちいさい オチンポ が みえて いた ので、 これ が また イエジュウ の オオワライ でした。 ジブン に とって、 これ また イガイ の セイコウ と いう べき もの だった かも しれません。
 ジブン は マイツキ、 シンカン の ショウネン ザッシ を 10 サツ イジョウ も、 とって いて、 また その ホカ にも、 サマザマ の ホン を トウキョウ から とりよせて だまって よんで いました ので、 メチャラクチャラ ハカセ だの、 また、 ナンジャモンジャ ハカセ など とは、 タイヘン な ナジミ で、 また、 カイダン、 コウダン、 ラクゴ、 エド コバナシ など の タグイ にも、 かなり つうじて いました から、 ヒョウキン な こと を マジメ な カオ を して いって、 イエ の モノタチ を わらわせる の には コト を かきません でした。
 しかし、 ああ、 ガッコウ!
 ジブン は、 そこ では、 ソンケイ されかけて いた の です。 ソンケイ される と いう カンネン も また、 はなはだ ジブン を、 おびえさせました。 ほとんど カンゼン に ちかく ヒト を だまして、 そうして、 ある ヒトリ の ゼンチ ゼンノウ の モノ に みやぶられ、 コッパ ミジン に やられて、 しぬる イジョウ の アカハジ を かかせられる、 それ が、 「ソンケイ される」 と いう ジョウタイ の ジブン の テイギ で ありました。 ニンゲン を だまして、 「ソンケイ され」 て も、 ダレ か ヒトリ が しって いる、 そうして、 ニンゲン たち も、 やがて、 その ヒトリ から おしえられて、 だまされた こと に きづいた とき、 その とき の ニンゲン たち の イカリ、 フクシュウ は、 いったい、 まあ、 どんな でしょう か。 ソウゾウ して さえ、 ミノケ が よだつ ココチ が する の です。
 ジブン は、 カネモチ の イエ に うまれた と いう こと より も、 ぞくに いう 「できる」 こと に よって、 ガッコウ-ジュウ の ソンケイ を えそう に なりました。 ジブン は、 コドモ の コロ から ビョウジャク で、 よく ヒトツキ フタツキ、 また 1 ガクネン ちかく も ねこんで ガッコウ を やすんだ こと さえ あった の です が、 それでも、 ヤミアガリ の カラダ で ジンリキシャ に のって ガッコウ へ ゆき、 ガクネンマツ の シケン を うけて みる と、 クラス の ダレ より も いわゆる 「できて」 いる よう でした。 カラダグアイ の よい とき でも、 ジブン は、 さっぱり ベンキョウ せず、 ガッコウ へ いって も ジュギョウ ジカン に マンガ など を かき、 キュウケイ ジカン には それ を クラス の モノタチ に セツメイ して きかせて、 わらわせて やりました。 また、 ツヅリカタ には、 コッケイバナシ ばかり かき、 センセイ から チュウイ されて も、 しかし、 ジブン は、 やめません でした。 センセイ は、 じつは こっそり ジブン の その コッケイバナシ を タノシミ に して いる こと を ジブン は、 しって いた から でした。 ある ヒ、 ジブン は、 レイ に よって、 ジブン が ハハ に つれられて ジョウキョウ の トチュウ の キシャ で、 オシッコ を キャクシャ の ツウロ に ある タンツボ に して しまった シッパイダン (しかし、 その ジョウキョウ の とき に、 ジブン は タンツボ と しらず に した の では ありません でした。 コドモ の ムジャキ を てらって、 わざと、 そうした の でした) を、 ことさら に かなしそう な ヒッチ で かいて テイシュツ し、 センセイ は、 きっと わらう と いう ジシン が ありました ので、 ショクインシツ に ひきあげて ゆく センセイ の アト を、 そっと つけて ゆきましたら、 センセイ は、 キョウシツ を でる と すぐ、 ジブン の その ツヅリカタ を、 ホカ の クラス の モノタチ の ツヅリカタ の ナカ から えらびだし、 ロウカ を あるきながら よみはじめて、 くすくす わらい、 やがて ショクインシツ に はいって よみおえた の か、 カオ を マッカ に して オオゴエ を あげて わらい、 ホカ の センセイ に、 さっそく それ を よませて いる の を みとどけ、 ジブン は、 たいへん マンゾク でした。
 オチャメ。
 ジブン は、 いわゆる オチャメ に みられる こと に セイコウ しました。 ソンケイ される こと から、 のがれる こと に セイコウ しました。 ツウシンボ は ゼン-ガッカ とも 10 テン でした が、 ソウコウ と いう もの だけ は、 7 テン だったり、 6 テン だったり して、 それ も また イエジュウ の オオワライ の タネ でした。
 けれども ジブン の ホンショウ は、 そんな オチャメサン など とは、 およそ タイセキテキ な もの でした。 その コロ、 すでに ジブン は、 ジョチュウ や ゲナン から、 かなしい こと を おしえられ、 おかされて いました。 ヨウショウ の モノ に たいして、 そのよう な こと を おこなう の は、 ニンゲン の おこないうる ハンザイ の ナカ で もっとも シュウアク で カトウ で、 ザンコク な ハンザイ だ と、 ジブン は イマ では おもって います。 しかし、 ジブン は、 しのびました。 これ で また ヒトツ、 ニンゲン の トクシツ を みた と いう よう な キモチ さえ して、 そうして、 ちからなく わらって いました。 もし ジブン に、 ホントウ の こと を いう シュウカン が ついて いた なら、 わるびれず、 カレラ の ハンザイ を チチ や ハハ に うったえる こと が できた の かも しれません が、 しかし、 ジブン は、 その チチ や ハハ をも ゼンブ は リカイ する こと が できなかった の です。 ニンゲン に うったえる、 ジブン は、 その シュダン には すこしも キタイ できません でした。 チチ に うったえて も、 ハハ に うったえて も、 オマワリ に うったえて も、 セイフ に うったえて も、 けっきょく は ヨワタリ に つよい ヒト の、 セケン に トオリ の いい イイブン に いいまくられる だけ の こと では ない かしら。
 かならず カタテオチ の ある の が、 わかりきって いる、 しょせん、 ニンゲン に うったえる の は ムダ で ある、 ジブン は やはり、 ホントウ の こと は なにも いわず、 しのんで、 そうして オドウケ を つづけて いる より ほか、 ない キモチ なの でした。
 ナン だ、 ニンゲン への フシン を いって いる の か? へえ? オマエ は いつ クリスチャン に なった ん だい、 と チョウショウ する ヒト も あるいは ある かも しれません が、 しかし、 ニンゲン への フシン は、 かならずしも すぐに シュウキョウ の ミチ に つうじて いる とは かぎらない と、 ジブン には おもわれる の です けど。 げんに その チョウショウ する ヒト をも ふくめて、 ニンゲン は、 オタガイ の フシン の ナカ で、 エホバ も なにも ネントウ に おかず、 ヘイキ で いきて いる では ありません か。 やはり、 ジブン の ヨウショウ の コロ の こと で ありました が、 チチ の ぞくして いた ある セイトウ の ユウメイジン が、 この マチ に エンゼツ に きて、 ジブン は ゲナン たち に つれられて ゲキジョウ に きき に ゆきました。 マンイン で、 そうして、 この マチ の とくに チチ と したしく して いる ヒトタチ の カオ は ミナ、 みえて、 おおいに ハクシュ など して いました。 エンゼツ が すんで、 チョウシュウ は ユキ の ヨミチ を さんさんごご かたまって イエジ に つき、 くそみそ に コンヤ の エンゼツカイ の ワルクチ を いって いる の でした。 ナカ には、 チチ と とくに したしい ヒト の コエ も まじって いました。 チチ の カイカイ の ジ も ヘタ、 レイ の ユウメイジン の エンゼツ も ナニ が なにやら、 ワケ が わからぬ、 と その いわゆる チチ の 「ドウシ たち」 が ドセイ に にた クチョウ で いって いる の です。 そうして その ヒトタチ は、 ジブン の ウチ に たちよって キャクマ に あがりこみ、 コンヤ の エンゼツカイ は ダイセイコウ だった と、 しんから うれしそう な カオ を して チチ に いって いました。 ゲナン たち まで、 コンヤ の エンゼツカイ は どう だった と ハハ に きかれ、 とても おもしろかった、 と いって けろり と して いる の です。 エンゼツカイ ほど おもしろく ない もの は ない、 と かえる みちみち、 ゲナン たち が なげきあって いた の です。
 しかし、 こんな の は、 ほんの ささやか な イチレイ に すぎません。 たがいに あざむきあって、 しかも いずれ も フシギ に なんの キズ も つかず、 あざむきあって いる こと に さえ キ が ついて いない みたい な、 じつに あざやか な、 それこそ きよく あかるく ほがらか な フシン の レイ が、 ニンゲン の セイカツ に ジュウマン して いる よう に おもわれます。 けれども、 ジブン には、 あざむきあって いる と いう こと には、 さして トクベツ の キョウミ も ありません。 ジブン だって、 オドウケ に よって、 アサ から バン まで ニンゲン を あざむいて いる の です。 ジブン は、 シュウシン キョウカショ-テキ な セイギ とか なんとか いう ドウトク には、 あまり カンシン を もてない の です。 ジブン には、 あざむきあって いながら、 きよく あかるく ほがらか に いきて いる、 あるいは いきうる ジシン を もって いる みたい な ニンゲン が ナンカイ なの です。 ニンゲン は、 ついに ジブン に その ミョウテイ を おしえて は くれません でした。 それ さえ わかったら、 ジブン は、 ニンゲン を こんな に キョウフ し、 また、 ヒッシ の サーヴィス など しなくて、 すんだ の でしょう。 ニンゲン の セイカツ と タイリツ して しまって、 ヨヨ の ジゴク の これほど の クルシミ を なめず に すんだ の でしょう。 つまり、 ジブン が ゲナン ゲジョ たち の にくむ べき あの ハンザイ を さえ、 ダレ にも うったえなかった の は、 ニンゲン への フシン から では なく、 また もちろん クリスト シュギ の ため でも なく、 ニンゲン が、 ヨウゾウ と いう ジブン に たいして シンヨウ の カラ を かたく とじて いた から だった と おもいます。 フボ で さえ、 ジブン に とって ナンカイ な もの を、 ときおり、 みせる こと が あった の です から。
 そうして、 その、 ダレ にも うったえない、 ジブン の コドク の ニオイ が、 オオク の ジョセイ に、 ホンノウ に よって かぎあてられ、 コウネン さまざま、 ジブン が つけこまれる ユウイン の ヒトツ に なった よう な キ も する の です。
 つまり、 ジブン は、 ジョセイ に とって、 コイ の ヒミツ を まもれる オトコ で あった と いう わけ なの でした。

 ダイニ の シュキ

 ウミ の、 ナミウチギワ、 と いって も いい くらい に ウミ に ちかい キシベ に、 まっくろい キハダ の ヤマザクラ の、 かなり おおきい の が 20 ポン イジョウ も たちならび、 シンガクネン が はじまる と、 ヤマザクラ は、 カッショク の ねばっこい よう な ワカバ と ともに、 あおい ウミ を ハイケイ に して、 その けんらん たる ハナ を ひらき、 やがて、 ハナフブキ の とき には、 ハナビラ が おびただしく ウミ に ちりこみ、 カイメン を ちりばめて ただよい、 ナミ に のせられ ふたたび ナミウチギワ に うちかえされる、 その サクラ の スナハマ が、 そのまま コウテイ と して シヨウ せられて いる トウホク の ある チュウガッコウ に、 ジブン は ジュケン ベンキョウ も ろくに しなかった のに、 どうやら ブジ に ニュウガク できました。 そうして、 その チュウガク の セイボウ の キショウ にも、 セイフク の ボタン にも、 サクラ の ハナ が ズアンカ せられて さいて いました。
 その チュウガッコウ の すぐ チカク に、 ジブン の ウチ と とおい シンセキ に あたる モノ の イエ が ありました ので、 その リユウ も あって、 チチ が その ウミ と サクラ の チュウガッコウ を ジブン に えらんで くれた の でした。 ジブン は、 その イエ に あずけられ、 なにせ ガッコウ の すぐ チカク なので、 チョウレイ の カネ の なる の を きいて から、 はしって トウコウ する と いう よう な、 かなり タイダ な チュウガクセイ でした が、 それでも、 レイ の オドウケ に よって、 ヒイチニチ と クラス の ニンキ を えて いました。
 うまれて はじめて、 いわば タキョウ へ でた わけ なの です が、 ジブン には、 その タキョウ の ほう が、 ジブン の ウマレコキョウ より も、 ずっと キラク な バショ の よう に おもわれました。 それ は、 ジブン の オドウケ も その コロ には いよいよ ぴったり ミ に ついて きて、 ヒト を あざむく の に イゼン ほど の クロウ を ヒツヨウ と しなく なって いた から で ある、 と カイセツ して も いい でしょう が、 しかし、 それ より も、 ニクシン と タニン、 コキョウ と タキョウ、 そこ には ぬく べからざる エンギ の ナンイ の サ が、 どのよう な テンサイ に とって も、 たとい カミ の コ の イエス に とって も、 ソンザイ して いる もの なの では ない でしょう か。 ハイユウ に とって、 もっとも えんじにくい バショ は、 コキョウ の ゲキジョウ で あって、 しかも ロクシン ケンゾク ゼンブ そろって すわって いる ヒトヘヤ の ナカ に あって は、 いかな メイユウ も エンギ どころ では なくなる の では ない でしょう か。 けれども ジブン は えんじて きました。 しかも、 それ が、 かなり の セイコウ を おさめた の です。 それほど の クセモノ が、 タキョウ に でて、 マンガイチ にも えんじそこねる など と いう こと は ない わけ でした。
 ジブン の ニンゲン キョウフ は、 それ は イゼン に まさる とも おとらぬ くらい はげしく ムネ の ソコ で ゼンドウ して いました が、 しかし、 エンギ は じつに のびのび と して きて、 キョウシツ に あって は、 いつも クラス の モノタチ を わらわせ、 キョウシ も、 この クラス は オオバ さえ いない と、 とても いい クラス なん だ が、 と コトバ では たんじながら、 テ で クチ を おおって わらって いました。 ジブン は、 あの カミナリ の ごとき バンセイ を はりあげる ハイゾク ショウコウ を さえ、 じつに ヨウイ に ふきださせる こと が できた の です。
 もはや、 ジブン の ショウタイ を カンゼン に インペイ しえた の では あるまい か、 と ほっと しかけた ヤサキ に、 ジブン は じつに イガイ にも ハイゴ から つきさされました。 それ は、 ハイゴ から つきさす オトコ の ゴタブン に もれず、 クラス で もっとも ヒンジャク な ニクタイ を して、 カオ も アオブクレ で、 そうして たしか に フケイ の オフル と おもわれる ソデ が ショウトク タイシ の ソデ みたい に ながすぎる ウワギ を きて、 ガッカ は すこしも できず、 キョウレン や タイソウ は いつも ケンガク と いう ハクチ に にた セイト でした。 ジブン も さすが に、 その セイト に さえ ケイカイ する ヒツヨウ は みとめて いなかった の でした。
 その ヒ、 タイソウ の ジカン に、 その セイト (セイ は イマ キオク して いません が、 ナ は タケイチ と いった か と おぼえて います) その タケイチ は、 レイ に よって ケンガク、 ジブン たち は テツボウ の レンシュウ を させられて いました。 ジブン は、 わざと できる だけ ゲンシュク な カオ を して、 テツボウ めがけて、 えいっ と さけんで とび、 そのまま ハバトビ の よう に ゼンポウ へ とんで しまって、 スナジ に どすん と シリモチ を つきました。 すべて、 ケイカクテキ な シッパイ でした。 はたして ミナ の オオワライ に なり、 ジブン も クショウ しながら おきあがって ズボン の スナ を はらって いる と、 いつ そこ へ きて いた の か、 タケイチ が ジブン の セナカ を つつき、 ひくい コエ で こう ささやきました。
「ワザ。 ワザ」
 ジブン は シンカン しました。 わざと シッパイ した と いう こと を、 ヒト も あろう に、 タケイチ に みやぶられる とは まったく おもい も かけない こと でした。 ジブン は、 セカイ が イッシュン に して ジゴク の ゴウカ に つつまれて もえあがる の を ガンゼン に みる よう な ココチ が して、 わあっ! と さけんで ハッキョウ しそう な ケハイ を ヒッシ の チカラ で おさえました。
 それから の ヒビ の、 ジブン の フアン と キョウフ。
 ヒョウメン は あいかわらず かなしい オドウケ を えんじて ミナ を わらわせて いました が、 ふっと おもわず おもくるしい タメイキ が でて、 ナニ を したって すべて タケイチ に コッパ ミジン に みやぶられて いて、 そうして あれ は、 その うち に きっと ダレカレ と なく、 それ を いいふらして あるく に ちがいない の だ、 と かんがえる と、 ヒタイ に じっとり アブラアセ が わいて きて、 キョウジン みたい に ミョウ な メツキ で、 アタリ を きょろきょろ むなしく みまわしたり しました。 できる こと なら、 アサ、 ヒル、 バン、 シロクジチュウ、 タケイチ の ソバ から はなれず カレ が ヒミツ を くちばしらない よう に カンシ して いたい キモチ でした。 そうして、 ジブン が、 カレ に まつわりついて いる アイダ に、 ジブン の オドウケ は、 いわゆる 「ワザ」 では なくて、 ホンモノ で あった と いう よう おもいこませる よう に あらゆる ドリョク を はらい、 あわよくば、 カレ と ムニ の シンユウ に なって しまいたい もの だ、 もし、 その こと が みな、 フカノウ なら、 もはや、 カレ の シ を いのる より ホカ は ない、 と さえ おもいつめました。 しかし、 さすが に、 カレ を ころそう と いう キ だけ は おこりません でした。 ジブン は、 これまで の ショウガイ に おいて、 ヒト に ころされたい と ガンボウ した こと は イクド と なく ありました が、 ヒト を ころしたい と おもった こと は、 イチド も ありません でした。 それ は、 おそる べき アイテ に、 かえって コウフク を あたえる だけ の こと だ と かんがえて いた から です。
 ジブン は、 カレ を てなずける ため、 まず、 カオ に ニセ-クリスチャン の よう な 「やさしい」 ビショウ を たたえ、 クビ を 30 ド くらい ヒダリ に まげて、 カレ の ちいさい カタ を かるく だき、 そうして ネコナデゴエ に にた あまったるい コエ で、 カレ を ジブン の キシュク して いる イエ に あそび に くる よう しばしば さそいました が、 カレ は、 いつも、 ぼんやり した メツキ を して、 だまって いました。 しかし、 ジブン は、 ある ヒ の ホウカゴ、 たしか ショカ の コロ の こと でした、 ユウダチ が しろく ふって、 セイト たち は キタク に こまって いた よう でした が、 ジブン は イエ が すぐ チカク なので ヘイキ で ソト へ とびだそう と して、 ふと ゲタバコ の カゲ に、 タケイチ が しょんぼり たって いる の を みつけ、 いこう、 カサ を かして あげる、 と いい、 おくする タケイチ の テ を ひっぱって、 イッショ に ユウダチ の ナカ を はしり、 イエ に ついて、 フタリ の ウワギ を オバサン に かわかして もらう よう に たのみ、 タケイチ を 2 カイ の ジブン の ヘヤ に さそいこむ の に セイコウ しました。
 その イエ には、 50-スギ の オバサン と、 30 くらい の、 メガネ を かけて、 ビョウシン らしい セ の たかい アネムスメ (この ムスメ は、 イチド ヨソ へ オヨメ に いって、 それから また、 イエ へ かえって いる ヒト でした。 ジブン は、 この ヒト を、 ここ の イエ の ヒトタチ に ならって、 アネサ と よんで いました) それ と、 サイキン ジョガッコウ を ソツギョウ した ばかり らしい、 セッチャン と いう アネ に にず セ が ひくく マルガオ の イモウトムスメ と、 3 ニン だけ の カゾク で、 シタ の ミセ には、 ブンボウグ やら ウンドウ ヨウグ を しょうしょう ならべて いました が、 おも な シュウニュウ は、 なくなった シュジン が たてて のこして いった 5~6 ムネ の ナガヤ の ヤチン の よう でした。
「ミミ が いたい」
 タケイチ は、 たった まま で そう いいました。
「アメ に ぬれたら、 いたく なった よ」
 ジブン が、 みて みる と、 リョウホウ の ミミ が、 ひどい ミミダレ でした。 ウミ が、 いまにも ジカク の ソト に ながれでよう と して いました。
「これ は、 いけない。 いたい だろう」
 と ジブン は おおげさ に おどろいて みせて、
「アメ の ナカ を、 ひっぱりだしたり して、 ごめん ね」
 と オンナ の コトバ みたい な コトバ を つかって 「やさしく」 あやまり、 それから、 シタ へ いって ワタ と アルコール を もらって きて、 タケイチ を ジブン の ヒザ を マクラ に して ねかせ、 ネンイリ に ミミ の ソウジ を して やりました。 タケイチ も、 さすが に、 これ が ギゼン の アッケイ で ある こと には きづかなかった よう で、
「オマエ は、 きっと、 オンナ に ほれられる よ」
 と ジブン の ヒザマクラ で ねながら、 ムチ な オセジ を いった くらい でした。
 しかし これ は、 おそらく、 あの タケイチ も イシキ しなかった ほど の、 おそろしい アクマ の ヨゲン の よう な もの だった と いう こと を、 ジブン は コウネン に いたって おもいしりました。 ほれる と いい、 ほれられる と いい、 その コトバ は ひどく ゲヒン で、 ふざけて、 いかにも、 やにさがった もの の カンジ で、 どんな に いわゆる 「ゲンシュク」 の バ で あって も、 そこ へ この コトバ が ヒトコト でも ひょいと カオ を だす と、 みるみる ユウウツ の ガラン が ホウカイ し、 ただ ノッペラボウ に なって しまう よう な ココチ が する もの です けれども、 ほれられる ツラサ、 など と いう ゾクゴ で なく、 あいせられる フアン、 と でも いう ブンガクゴ を もちいる と、 あながち ユウウツ の ガラン を ぶちこわす こと には ならない よう です から、 キミョウ な もの だ と おもいます。
 タケイチ が、 ジブン に ミミダレ の ウミ の シマツ を して もらって、 オマエ は ほれられる と いう バカ な オセジ を いい、 ジブン は その とき、 ただ カオ を あからめて わらって、 なにも こたえません でした けれども、 しかし、 じつは、 ひそか に おもいあたる ところ も あった の でした。 でも、 「ほれられる」 と いう よう な ヤヒ な コトバ に よって しょうじる やにさがった フンイキ に たいして、 そう いわれる と、 おもいあたる ところ も ある、 など と かく の は、 ほとんど ラクゴ の ワカダンナ の セリフ に さえ ならぬ くらい、 おろかしい カンカイ を しめす よう な もの で、 まさか、 ジブン は、 そんな ふざけた、 やにさがった キモチ で、 「おもいあたる ところ も あった」 わけ では ない の です。
 ジブン には、 ニンゲン の ジョセイ の ほう が、 ダンセイ より も さらに スウバイ ナンカイ でした。 ジブン の カゾク は、 ジョセイ の ほう が ダンセイ より も カズ が おおく、 また シンセキ にも、 オンナ の コ が たくさん あり、 また レイ の 「ハンザイ」 の ジョチュウ など も いまして、 ジブン は おさない とき から、 オンナ と ばかり あそんで そだった と いって も カゴン では ない と おもって います が、 それ は、 また、 しかし、 じつに、 ハクヒョウ を ふむ オモイ で、 その オンナ の ヒトタチ と つきあって きた の です。 ほとんど、 まるで ケントウ が、 つかない の です。 ゴリムチュウ で、 そうして ときたま、 トラ の オ を ふむ シッパイ を して、 ひどい イタデ を おい、 それ が また、 ダンセイ から うける ムチ と ちがって、 ナイシュッケツ みたい に キョクド に フカイ に ナイコウ して、 なかなか チユ しがたい キズ でした。
 オンナ は ひきよせて、 つっぱなす、 あるいは また、 オンナ は、 ヒト の いる ところ では ジブン を さげすみ、 ジャケン に し、 ダレ も いなく なる と、 ひしと だきしめる、 オンナ は しんだ よう に ふかく ねむる、 オンナ は ねむる ため に いきて いる の では ない かしら、 その ホカ、 オンナ に ついて の サマザマ の カンサツ を、 すでに ジブン は、 ヨウネン ジダイ から えて いた の です が、 おなじ ジンルイ の よう で ありながら、 オトコ とは また、 まったく ことなった イキモノ の よう な カンジ で、 そうして また、 この フカカイ で ユダン の ならぬ イキモノ は、 キミョウ に ジブン を かまう の でした。 「ほれられる」 なんて いう コトバ も、 また 「すかれる」 と いう コトバ も、 ジブン の バアイ には ちっとも、 ふさわしく なく、 「かまわれる」 と でも いった ほう が、 まだしも ジツジョウ の セツメイ に てきして いる かも しれません。
 オンナ は、 オトコ より も さらに、 ドウケ には、 くつろぐ よう でした。 ジブン が オドウケ を えんじ、 オトコ は さすが に いつまでも げらげら わらって も いません し、 それに ジブン も オトコ の ヒト に たいし、 チョウシ に のって あまり オドウケ を えんじすぎる と シッパイ する と いう こと を しって いました ので、 かならず テキトウ の ところ で きりあげる よう に こころがけて いました が、 オンナ は テキド と いう こと を しらず、 いつまでも いつまでも、 ジブン に オドウケ を ヨウキュウ し、 ジブン は その かぎりない アンコール に おうじて、 へとへと に なる の でした。 じつに、 よく わらう の です。 イッタイ に、 オンナ は、 オトコ より も カイラク を ヨケイ に ほおばる こと が できる よう です。
 ジブン が チュウガク ジダイ に セワ に なった その イエ の アネムスメ も、 イモウトムスメ も、 ヒマ さえ あれば、 2 カイ の ジブン の ヘヤ に やって きて、 ジブン は その たび ごと に とびあがらん ばかり に ぎょっと して、 そうして、 ひたすら おびえ、
「オベンキョウ?」
「いいえ」
 と ビショウ して ホン を とじ、
「キョウ ね、 ガッコウ で ね、 コンボウ と いう チリ の センセイ が ね」
 と するする クチ から ながれでる もの は、 ココロ にも ない コッケイバナシ でした。
「ヨウ ちゃん、 メガネ を かけて ごらん」
 ある バン、 イモウトムスメ の セッチャン が、 アネサ と イッショ に ジブン の ヘヤ へ あそび に きて、 さんざん ジブン に オドウケ を えんじさせた アゲク の ハテ に、 そんな こと を いいだしました。
「なぜ?」
「いい から、 かけて ごらん。 アネサ の メガネ を かりなさい」
 いつでも、 こんな ランボウ な メイレイ クチョウ で いう の でした。 ドウケシ は、 すなお に アネサ の メガネ を かけました。 トタン に、 フタリ の ムスメ は、 わらいころげました。
「そっくり。 ロイド に、 そっくり」
 トウジ、 ハロルド ロイド とか いう ガイコク の エイガ の キゲキ ヤクシャ が、 ニホン で ニンキ が ありました。
 ジブン は たって カタテ を あげ、
「ショクン」
 と いい、
「このたび、 ニッポン の ファン の ミナサマガタ に、……」
 と イチジョウ の アイサツ を こころみ、 さらに オオワライ させて、 それから、 ロイド の エイガ が その マチ の ゲキジョウ に くる たび ごと に み に いって、 ひそか に カレ の ヒョウジョウ など を ケンキュウ しました。
 また、 ある アキ の ヨル、 ジブン が ねながら ホン を よんで いる と、 アネサ が トリ の よう に すばやく ヘヤ へ はいって きて、 いきなり ジブン の カケブトン の ウエ に たおれて なき、
「ヨウ ちゃん が、 アタシ を たすけて くれる の だ わね。 そう だ わね。 こんな ウチ、 イッショ に でて しまった ほう が いい の だわ。 たすけて ね。 たすけて」
 など と、 はげしい こと を くちばしって は、 また なく の でした。 けれども、 ジブン には、 オンナ から、 こんな タイド を みせつけられる の は、 これ が サイショ では ありません でした ので、 アネサ の カゲキ な コトバ にも、 さして おどろかず、 かえって その チンプ、 ムナイヨウ に キョウ が さめた ココチ で、 そっと フトン から ぬけだし、 ツクエ の ウエ の カキ を むいて、 その ヒトキレ を アネサ に てわたして やりました。 すると、 アネサ は、 しゃくりあげながら その カキ を たべ、
「ナニ か おもしろい ホン が ない? かして よ」
 と いいました。
 ジブン は ソウセキ の 「ワガハイ は ネコ で ある」 と いう ホン を、 ホンダナ から えらんで あげました。
「ごちそうさま」
 アネサ は、 はずかしそう に わらって ヘヤ から でて ゆきました が、 この アネサ に かぎらず、 いったい オンナ は、 どんな キモチ で いきて いる の か を かんがえる こと は、 ジブン に とって、 ミミズ の オモイ を さぐる より も、 ややこしく、 わずらわしく、 ウスキミ の わるい もの に かんぜられて いました。 ただ、 ジブン は、 オンナ が あんな に キュウ に なきだしたり した バアイ、 ナニ か あまい もの を てわたして やる と、 それ を たべて キゲン を なおす と いう こと だけ は、 おさない とき から、 ジブン の ケイケン に よって しって いました。
 また、 イモウトムスメ の セッチャン は、 その トモダチ まで ジブン の ヘヤ に つれて きて、 ジブン が レイ に よって コウヘイ に ミナ を わらわせ、 トモダチ が かえる と、 セッチャン は、 かならず その トモダチ の ワルクチ を いう の でした。 あの ヒト は フリョウ ショウジョ だ から、 キ を つける よう に、 と きまって いう の でした。 そんなら、 わざわざ つれて こなければ、 よい のに、 おかげで ジブン の ヘヤ の ライキャク の、 ほとんど ゼンブ が オンナ、 と いう こと に なって しまいました。
 しかし、 それ は、 タケイチ の オセジ の 「ほれられる」 こと の ジツゲン では まだ けっして なかった の でした。 つまり、 ジブン は、 ニホン の トウホク の ハロルド ロイド に すぎなかった の です。 タケイチ の ムチ な オセジ が、 いまわしい ヨゲン と して、 なまなま と いきて きて、 フキツ な ケイボウ を ていする よう に なった の は、 さらに それから、 スウネン たった ノチ の こと で ありました。
 タケイチ は、 また、 ジブン に もう ヒトツ、 ジュウダイ な オクリモノ を して いました。
「オバケ の エ だよ」
 いつか タケイチ が、 ジブン の 2 カイ へ あそび に きた とき、 ゴジサン の、 1 マイ の ゲンショクバン の クチエ を トクイ そう に ジブン に みせて、 そう セツメイ しました。
 おや? と おもいました。 その シュンカン、 ジブン の おちゆく ミチ が ケッテイ せられた よう に、 コウネン に いたって、 そんな キ が して なりません。 ジブン は、 しって いました。 それ は、 ゴッホ の レイ の ジガゾウ に すぎない の を しって いました。 ジブン たち の ショウネン の コロ には、 ニホン では フランス の いわゆる インショウハ の エ が ダイリュウコウ して いて、 ヨウガ カンショウ の ダイイッポ を、 たいてい この アタリ から はじめた もの で、 ゴッホ、 ゴーギャン、 セザンヌ、 ルナール など と いう ヒト の エ は、 イナカ の チュウガクセイ でも、 たいてい その シャシンバン を みて しって いた の でした。 ジブン など も、 ゴッホ の ゲンショクバン を かなり たくさん みて、 タッチ の オモシロサ、 シキサイ の アザヤカサ に キョウシュ を おぼえて は いた の です が、 しかし、 オバケ の エ、 だ とは、 イチド も かんがえた こと が なかった の でした。
「では、 こんな の は、 どう かしら。 やっぱり、 オバケ かしら」
 ジブン は ホンダナ から、 モジリアニ の ガシュウ を だし、 やけた シャクドウ の よう な ハダ の、 レイ の ラフ の ゾウ を タケイチ に みせました。
「すげえ なあ」
 タケイチ は メ を まるく して カンタン しました。
「ジゴク の ウマ みたい」
「やっぱり、 オバケ かね」
「オレ も、 こんな オバケ の エ が かきたい よ」
 あまり に ニンゲン を キョウフ して いる ヒトタチ は、 かえって、 もっと もっと、 おそろしい ヨウカイ を カクジツ に この メ で みたい と ガンボウ する に いたる シンリ、 シンケイシツ な、 モノ に おびえやすい ヒト ほど、 ボウフウウ の さらに つよからん こと を いのる シンリ、 ああ、 この イチグン の ガカ たち は、 ニンゲン と いう バケモノ に いためつけられ、 おびやかされた アゲク の ハテ、 ついに ゲンエイ を しんじ、 ハクチュウ の シゼン の ナカ に、 ありあり と ヨウカイ を みた の だ、 しかも カレラ は、 それ を ドウケ など で ごまかさず、 みえた まま の ヒョウゲン に ドリョク した の だ、 タケイチ の いう よう に、 かんぜん と 「オバケ の エ」 を かいて しまった の だ、 ここ に ショウライ の ジブン の、 ナカマ が いる、 と ジブン は、 ナミダ が でた ほど に コウフン し、
「ボク も かく よ。 オバケ の エ を かく よ。 ジゴク の ウマ を、 かく よ」
 と、 なぜ だ か、 ひどく コエ を ひそめて、 タケイチ に いった の でした。
 ジブン は、 ショウガッコウ の コロ から、 エ は かく の も、 みる の も すき でした。 けれども、 ジブン の かいた エ は、 ジブン の ツヅリカタ ほど には、 シュウイ の ヒョウバン が、 よく ありません でした。 ジブン は、 どだい ニンゲン の コトバ を いっこう に シンヨウ して いません でした ので、 ツヅリカタ など は、 ジブン に とって、 ただ オドウケ の ゴアイサツ みたい な もの で、 ショウガッコウ、 チュウガッコウ、 と つづいて センセイ たち を キョウキ させて きました が、 しかし、 ジブン では、 さっぱり おもしろく なく、 エ だけ は、 (マンガ など は ベツ です けれども) その タイショウ の ヒョウゲン に、 おさない ガリュウ ながら、 タショウ の クシン を はらって いました。 ガッコウ の ズガ の オテホン は つまらない し、 センセイ の エ は ヘタクソ だし、 ジブン は、 まったく デタラメ に サマザマ の ヒョウゲンホウ を ジブン で クフウ して こころみなければ ならない の でした。 チュウガッコウ へ はいって、 ジブン は アブラエ の ドウグ も ヒトソロイ もって いました が、 しかし、 その タッチ の テホン を、 インショウハ の ガフウ に もとめて も、 ジブン の かいた もの は、 まるで チヨガミ-ザイク の よう に のっぺり して、 モノ に なりそう も ありません でした。 けれども ジブン は、 タケイチ の コトバ に よって、 ジブン の それまで の カイガ に たいする ココロガマエ が、 まるで まちがって いた こと に キ が つきました。 うつくしい と かんじた もの を、 そのまま うつくしく ヒョウゲン しよう と ドリョク する アマサ、 オロカシサ。 マイスター たち は、 なんでも ない もの を、 シュカン に よって うつくしく ソウゾウ し、 あるいは みにくい もの に オウト を もよおしながら も、 それ に たいする キョウミ を かくさず、 ヒョウゲン の ヨロコビ に ひたって いる、 つまり、 ヒト の オモワク に すこしも たよって いない らしい と いう、 ガホウ の プリミチヴ な トラ の マキ を、 タケイチ から、 さずけられて、 レイ の オンナ の ライキャク たち には かくして、 すこし ずつ、 ジガゾウ の セイサク に とりかかって みました。
 ジブン でも、 ぎょっと した ほど、 インサン な エ が できあがりました。 しかし、 これ こそ ムナソコ に ヒタカクシ に かくして いる ジブン の ショウタイ なの だ、 オモテ は ヨウキ に わらい、 また ヒト を わらわせて いる けれども、 じつは、 こんな インウツ な ココロ を ジブン は もって いる の だ、 シカタ が ない、 と ひそか に コウテイ し、 けれども その エ は、 タケイチ イガイ の ヒト には、 さすが に ダレ にも みせません でした。 ジブン の オドウケ の ソコ の インサン を みやぶられ、 キュウ に けちくさく ケイカイ せられる の も いや でした し、 また、 これ を ジブン の ショウタイ とも きづかず、 やっぱり シンシュコウ の オドウケ と みなされ、 オオワライ の タネ に せられる かも しれぬ と いう ケネン も あり、 それ は ナニ より も つらい こと でした ので、 その エ は すぐに オシイレ の おくふかく しまいこみました。
 また、 ガッコウ の ズガ の ジカン にも、 ジブン は あの 「オバケ-シキ シュホウ」 は ひめて、 イマ まで-どおり の うつくしい もの を うつくしく かく-シキ の ボンヨウ な タッチ で かいて いました。
 ジブン は タケイチ に だけ は、 マエ から ジブン の いたみやすい シンケイ を ヘイキ で みせて いました し、 コンド の ジガゾウ も アンシン して タケイチ に みせ、 たいへん ほめられ、 さらに 2 マイ 3 マイ と、 オバケ の エ を かきつづけ、 タケイチ から もう ヒトツ の、
「オマエ は、 えらい エカキ に なる」
 と いう ヨゲン を えた の でした。
 ほれられる と いう ヨゲン と、 えらい エカキ に なる と いう ヨゲン と、 この フタツ の ヨゲン を バカ の タケイチ に よって ヒタイ に コクイン せられて、 やがて、 ジブン は トウキョウ へ でて きました。
 ジブン は、 ビジュツ ガッコウ に はいりたかった の です が、 チチ は、 マエ から ジブン を コウトウ ガッコウ に いれて、 スエ は カンリ に する つもり で、 ジブン にも それ を いいわたして あった ので、 クチゴタエ ヒトツ できない タチ の ジブン は、 ぼんやり それ に したがった の でした。 4 ネン から うけて みよ、 と いわれた ので、 ジブン も サクラ と ウミ の チュウガク は もう いいかげん あきて いました し、 5 ネン に シンキュウ せず、 4 ネン シュウリョウ の まま で、 トウキョウ の コウトウ ガッコウ に ジュケン して ゴウカク し、 すぐに リョウセイカツ に はいりました が、 その フケツ と ソボウ に ヘキエキ して、 ドウケ どころ では なく、 イシ に ハイシンジュン の シンダンショ を かいて もらい、 リョウ から でて、 ウエノ サクラギ-チョウ の チチ の ベッソウ に うつりました。 ジブン には、 ダンタイ セイカツ と いう もの が、 どうしても できません。 それに また、 セイシュン の カンゲキ だ とか、 ワコウド の ホコリ だ とか いう コトバ は、 きいて サムケ が して きて、 とても、 あの、 ハイ スクール スピリット とか いう もの には、 ついて ゆけなかった の です。 キョウシツ も リョウ も、 ゆがめられた セイヨク の、 ハキダメ みたい な キ さえ して、 ジブン の カンペキ に ちかい オドウケ も、 そこ では なんの ヤク にも たちません でした。
 チチ は ギカイ の ない とき は、 ツキ に 1 シュウカン か 2 シュウカン しか その イエ に タイザイ して いません でした ので、 チチ の ルス の とき は、 かなり ひろい その イエ に、 ベッソウバン の ロウフウフ と ジブン と 3 ニン だけ で、 ジブン は、 ちょいちょい ガッコウ を やすんで、 さりとて トウキョウ ケンブツ など を する キ も おこらず (ジブン は とうとう、 メイジ ジングウ も、 クスノキ マサシゲ の ドウゾウ も、 センガクジ の シジュウシチシ の ハカ も みず に おわりそう です) イエ で イチニチジュウ、 ホン を よんだり、 エ を かいたり して いました。 チチ が ジョウキョウ して くる と、 ジブン は、 マイアサ そそくさ と トウコウ する の でした が、 しかし、 ホンゴウ センダギ-チョウ の ヨウガカ、 ヤスダ シンタロウ シ の ガジュク に ゆき、 3 ジカン も 4 ジカン も、 デッサン の レンシュウ を して いる こと も あった の です。 コウトウ ガッコウ の リョウ から ぬけたら、 ガッコウ の ジュギョウ に でて も、 ジブン は まるで チョウコウセイ みたい な トクベツ の イチ に いる よう な、 それ は ジブン の ヒガミ かも しれなかった の です が、 なんとも ジブン ジシン で しらじらしい キモチ が して きて、 いっそう ガッコウ へ ゆく の が、 オックウ に なった の でした。 ジブン には、 ショウガッコウ、 チュウガッコウ、 コウトウ ガッコウ を つうじて、 ついに アイコウシン と いう もの が リカイ できず に おわりました。 コウカ など と いう もの も、 イチド も おぼえよう と した こと が ありません。
 ジブン は、 やがて ガジュク で、 ある ガガクセイ から、 サケ と タバコ と インバイフ と シチヤ と サヨク シソウ と を しらされました。 ミョウ な トリアワセ でした が、 しかし、 それ は ジジツ でした。
 その ガガクセイ は、 ホリキ マサオ と いって、 トウキョウ の シタマチ に うまれ、 ジブン より ムッツ ネンチョウシャ で、 シリツ の ビジュツ ガッコウ を ソツギョウ して、 イエ に アトリエ が ない ので、 この ガジュク に かよい、 ヨウガ の ベンキョウ を つづけて いる の だ そう です。
「5 エン、 かして くれない か」
 おたがい ただ カオ を みしって いる だけ で、 それまで ヒトコト も はなしあった こと が なかった の です。 ジブン は、 へどもど して 5 エン さしだしました。
「よし、 のもう。 オレ が、 オマエ に おごる ん だ。 よか チゴ じゃ のう」
 ジブン は キョヒ しきれず、 その ガジュク の チカク の、 ホウライ-チョウ の カフェ に ひっぱって ゆかれた の が、 カレ との コウユウ の ハジマリ でした。
「マエ から、 オマエ に メ を つけて いた ん だ。 それそれ、 その はにかむ よう な ビショウ、 それ が ミコミ の ある ゲイジュツカ トクユウ の ヒョウジョウ なん だ。 オチカヅキ の シルシ に、 カンパイ! キヌ さん、 コイツ は ビナンシ だろう? ほれちゃ いけない ぜ。 コイツ が ジュク へ きた おかげ で、 ザンネン ながら オレ は、 ダイ 2 バン の ビナンシ と いう こと に なった」
 ホリキ は、 イロ が あさぐろく タンセイ な カオ を して いて、 ガガクセイ には めずらしく、 ちゃんと した セビロ を きて、 ネクタイ の コノミ も ジミ で、 そうして トウハツ も ポマード を つけて マンナカ から ぺったり と わけて いました。
 ジブン は なれぬ バショ でも あり、 ただ もう おそろしく、 ウデ を くんだり ほどいたり して、 それこそ、 はにかむ よう な ビショウ ばかり して いました が、 ビール を 2~3 バイ のんで いる うち に、 ミョウ に カイホウ せられた よう な カルサ を かんじて きた の です。
「ボク は、 ビジュツ ガッコウ に はいろう と おもって いた ん です けど、……」
「いや、 つまらん。 あんな ところ は、 つまらん。 ガッコウ は、 つまらん。 ワレラ の キョウシ は、 シゼン の ナカ に あり! シゼン に たいする パートス!」
 しかし、 ジブン は、 カレ の いう こと に いっこう に ケイイ を かんじません でした。 バカ な ヒト だ、 エ も ヘタ に ちがいない、 しかし、 あそぶ の には、 いい アイテ かも しれない と かんがえました。 つまり、 ジブン は その とき、 うまれて はじめて、 ホンモノ の トカイ の ヨタモノ を みた の でした。 それ は、 ジブン と カタチ は ちがって いて も、 やはり、 コノヨ の ニンゲン の イトナミ から カンゼン に ユウリ して しまって、 トマドイ して いる テン に おいて だけ は、 たしか に ドウルイ なの でした。 そうして、 カレ は その オドウケ を イシキ せず に おこない、 しかも、 その オドウケ の ヒサン に まったく キ が ついて いない の が、 ジブン と ホンシツテキ に イショク の ところ でした。
 ただ あそぶ だけ だ、 アソビ の アイテ と して つきあって いる だけ だ、 と つねに カレ を ケイベツ し、 ときには カレ との コウユウ を はずかしく さえ おもいながら、 カレ と つれだって あるいて いる うち に、 けっきょく、 ジブン は、 この オトコ に さえ うちやぶられました。
 しかし、 ハジメ は、 この オトコ を コウジンブツ、 まれ に みる コウジンブツ と ばかり おもいこみ、 さすが ニンゲン キョウフ の ジブン も まったく ユダン を して、 トウキョウ の よい アンナイシャ が できた、 くらい に おもって いました。 ジブン は、 じつは、 ヒトリ では、 デンシャ に のる と シャショウ が おそろしく、 カブキザ へ はいりたくて も、 あの ショウメン ゲンカン の ヒ の ジュウタン が しかれて ある カイダン の リョウガワ に ならんで たって いる アンナイジョウ たち が おそろしく、 レストラン へ はいる と、 ジブン の ハイゴ に ひっそり たって、 サラ の あく の を まって いる キュウジ の ボーイ が おそろしく、 ことにも カンジョウ を はらう とき、 ああ、 ぎごちない ジブン の テツキ、 ジブン は カイモノ を して オカネ を てわたす とき には、 リンショク ゆえ で なく、 あまり の キンチョウ、 あまり の ハズカシサ、 あまり の フアン、 キョウフ に、 くらくら メマイ して、 セカイ が マックラ に なり、 ほとんど ハンキョウラン の キモチ に なって しまって、 ねぎる どころ か、 オツリ を うけとる の を わすれる ばかり で なく、 かった シナモノ を もちかえる の を わすれた こと さえ、 しばしば あった ほど なので、 とても、 ヒトリ で トウキョウ の マチ を あるけず、 それで しかたなく、 イチニチ いっぱい イエ の ナカ で、 ごろごろ して いた と いう ナイジョウ も あった の でした。
 それ が、 ホリキ に サイフ を わたして イッショ に あるく と、 ホリキ は おおいに ねぎって、 しかも アソビジョウズ と いう の か、 わずか な オカネ で サイダイ の コウカ の ある よう な シハライブリ を ハッキ し、 また、 たかい エンタク は ケイエン して、 デンシャ、 バス、 ポンポン ジョウキ など、 それぞれ リヨウ しわけて、 サイタン ジカン で モクテキチ へ つく と いう シュワン をも しめし、 インバイフ の ところ から アサ かえる トチュウ には、 ナニナニ と いう リョウテイ に たちよって アサブロ へ はいり、 ユドウフ で かるく オサケ を のむ の が、 やすい わり に、 ゼイタク な キブン に なれる もの だ と ジッチ キョウイク を して くれたり、 その ホカ、 ヤタイ の ギュウメシ ヤキトリ の アンカ に して ジヨウ に とむ もの たる こと を とき、 ヨイ の はやく はっする の は、 デンキ ブラン の ミギ に でる もの は ない と ホショウ し、 とにかく その カンジョウ に ついて は ジブン に、 ヒトツ も フアン、 キョウフ を おぼえさせた こと が ありません でした。
 さらに また、 ホリキ と つきあって すくわれる の は、 ホリキ が キキテ の オモワク など を てんで ムシ して、 その いわゆる パトス の フンシュツ する が まま に、 (あるいは、 パトス とは、 アイテ の タチバ を ムシ する こと かも しれません が) シロクジチュウ、 くだらない オシャベリ を つづけ、 あの、 フタリ で あるいて つかれ、 きまずい チンモク に おちいる キク が、 まったく ない と いう こと でした。 ヒト に せっし、 あの おそろしい チンモク が その バ に あらわれる こと を ケイカイ して、 もともと クチ の おもい ジブン が、 ここ を センド と ヒッシ の オドウケ を いって きた もの です が、 イマ この ホリキ の バカ が、 イシキ せず に、 その オドウケヤク を みずから すすんで やって くれて いる ので、 ジブン は、 ヘンジ も ろくに せず に、 ただ ききながし、 ときおり、 まさか、 など と いって わらって おれば、 いい の でした。
 サケ、 タバコ、 インバイフ、 それ は みな、 ニンゲン キョウフ を、 たとい イットキ でも、 まぎらす こと の できる ずいぶん よい シュダン で ある こと が、 やがて ジブン にも わかって きました。 それら の シュダン を もとめる ため には、 ジブン の モチモノ ゼンブ を バイキャク して も くいない キモチ さえ、 いだく よう に なりました。
 ジブン には、 インバイフ と いう もの が、 ニンゲン でも、 ジョセイ でも ない、 ハクチ か キョウジン の よう に みえ、 その フトコロ の ナカ で、 ジブン は かえって まったく アンシン して、 ぐっすり ねむる こと が できました。 ミンナ、 かなしい くらい、 じつに ミジン も ヨク と いう もの が ない の でした。 そうして、 ジブン に、 ドウルイ の シンワカン と でも いった よう な もの を おぼえる の か、 ジブン は、 いつも、 その インバイフ たち から、 キュウクツ で ない テイド の シゼン の コウイ を しめされました。 なんの ダサン も ない コウイ、 オシウリ では ない コウイ、 ニド と こない かも しれぬ ヒト への コウイ、 ジブン には、 その ハクチ か キョウジン の インバイフ たち に、 マリヤ の エンコウ を ゲンジツ に みた ヨル も あった の です。
 しかし、 ジブン は、 ニンゲン への キョウフ から のがれ、 かすか な イチヤ の キュウヨウ を もとめる ため に、 そこ へ ゆき、 それこそ ジブン と 「ドウルイ」 の インバイフ たち と あそんで いる うち に、 いつのまにやら ムイシキ の、 ある いまわしい フンイキ を シンペン に いつも ただよわせる よう に なった ヨウス で、 これ は ジブン にも まったく おもいもうけなかった いわゆる 「オマケ の フロク」 でした が、 しだいに その 「フロク」 が、 センメイ に ヒョウメン に うきあがって きて、 ホリキ に それ を シテキ せられ、 がくぜん と して、 そうして、 いや な キ が いたしました。 ハタ から みて、 ゾク な イイカタ を すれば、 ジブン は、 インバイフ に よって オンナ の シュギョウ を して、 しかも、 サイキン めっきり ウデ を あげ、 オンナ の シュギョウ は、 インバイフ に よる の が いちばん きびしく、 また それ だけ に コウカ の あがる もの だ そう で、 すでに ジブン には、 あの、 「オンナタッシャ」 と いう ニオイ が つきまとい、 ジョセイ は、 (インバイフ に かぎらず) ホンノウ に よって それ を かぎあて よりそって くる、 そのよう な、 ヒワイ で フメイヨ な フンイキ を、 「オマケ の フロク」 と して もらって、 そうして その ほう が、 ジブン の キュウヨウ など より も、 ひどく めだって しまって いる らしい の でした。
 ホリキ は それ を ハンブン は オセジ で いった の でしょう が、 しかし、 ジブン にも、 おもくるしく おもいあたる こと が あり、 たとえば、 キッサテン の オンナ から チセツ な テガミ を もらった オボエ も ある し、 サクラギ-チョウ の イエ の トナリ の ショウグン の ハタチ くらい の ムスメ が、 マイアサ、 ジブン の トウコウ の ジコク には、 ヨウ も なさそう なのに、 ゴジブン の イエ の モン を ウスゲショウ して でたり はいったり して いた し、 ギュウニク を くい に ゆく と、 ジブン が だまって いて も、 そこ の ジョチュウ が、 ……また、 いつも カイツケ の タバコヤ の ムスメ から てわたされた タバコ の ハコ の ナカ に、 ……また、 カブキ を み に いって トナリ の セキ の ヒト に、 ……また、 シンヤ の シデン で ジブン が よって ねむって いて、 ……また、 おもいがけなく コキョウ の シンセキ の ムスメ から、 おもいつめた よう な テガミ が きて、 ……また、 ダレ か わからぬ ムスメ が、 ジブン の ルスチュウ に オテセイ らしい ニンギョウ を、 ……ジブン が キョクド に ショウキョクテキ なので、 いずれ も、 それっきり の ハナシ で、 ただ ダンペン、 それ イジョウ の シンテン は ヒトツ も ありません でした が、 ナニ か オンナ に ユメ を みさせる フンイキ が、 ジブン の どこ か に つきまとって いる こと は、 それ は、 ノロケ だの ナン だの と いう イイカゲン な ジョウダン で なく、 ヒテイ できない の で ありました。 ジブン は、 それ を ホリキ ごとき モノ に シテキ せられ、 クツジョク に にた ニガサ を かんずる と ともに、 インバイフ と あそぶ こと にも、 にわか に キョウ が さめました。
 ホリキ は、 また、 その ミエボウ の モダニティ から、 (ホリキ の バアイ、 それ イガイ の リユウ は、 ジブン には いまもって かんがえられません の です が) ある ヒ、 ジブン を キョウサン シュギ の ドクショカイ とか いう (R.S とか いって いた か、 キオク が はっきり いたしません) そんな、 ヒミツ の ケンキュウカイ に つれて ゆきました。 ホリキ など と いう ジンブツ に とって は、 キョウサン シュギ の ヒミツ カイゴウ も、 レイ の 「トウキョウ アンナイ」 の ヒトツ くらい の もの だった の かも しれません。 ジブン は いわゆる 「ドウシ」 に ショウカイ せられ、 パンフレット を 1 ブ かわされ、 そうして カミザ の ひどい みにくい カオ の セイネン から、 マルクス ケイザイガク の コウギ を うけました。 しかし、 ジブン には、 それ は わかりきって いる こと の よう に おもわれました。 それ は、 そう に ちがいない だろう けれども、 ニンゲン の ココロ には、 もっと ワケ の わからない、 おそろしい もの が ある。 ヨク、 と いって も、 いいたりない、 ヴァニティ、 と いって も、 いいたりない、 イロ と ヨク、 と こう フタツ ならべて も、 いいたりない、 なんだか ジブン にも わからぬ が、 ニンゲン の ヨ の ソコ に、 ケイザイ だけ で ない、 へんに カイダン-じみた もの が ある よう な キ が して、 その カイダン に おびえきって いる ジブン には、 いわゆる ユイブツロン を、 ミズ の ひくき に ながれる よう に シゼン に コウテイ しながら も、 しかし、 それ に よって、 ニンゲン に たいする キョウフ から カイホウ せられ、 アオバ に むかって メ を ひらき、 キボウ の ヨロコビ を かんずる など と いう こと は できない の でした。 けれども、 ジブン は、 イチド も ケッセキ せず に、 その R.S (と いった か と おもいます が、 まちがって いる かも しれません) なる もの に シュッセキ し、 「ドウシ」 たち が、 いやに イチダイジ の ごとく、 こわばった カオ を して、 1 プラス 1 は 2、 と いう よう な、 ほとんど ショトウ の サンジュツ-めいた リロン の ケンキュウ に ふけって いる の が コッケイ に みえて たまらず、 レイ の ジブン の オドウケ で、 カイゴウ を くつろがせる こと に つとめ、 その ため か、 しだいに ケンキュウカイ の キュウクツ な ケハイ も ほぐれ、 ジブン は その カイゴウ に なくて かなわぬ ニンキモノ と いう カタチ に さえ なって きた よう でした。 この、 タンジュン そう な ヒトタチ は、 ジブン の こと を、 やはり この ヒトタチ と おなじ よう に タンジュン で、 そうして、 ラクテンテキ な オドケモノ の 「ドウシ」 くらい に かんがえて いた かも しれません が、 もし、 そう だったら、 ジブン は、 この ヒトタチ を イチ から ジュウ まで、 あざむいて いた わけ です。 ジブン は、 ドウシ では なかった ん です。 けれども、 その カイゴウ に、 いつも かかさず シュッセキ して、 ミナ に オドウケ の サーヴィス を して きました。
 すき だった から なの です。 ジブン には、 その ヒトタチ が、 キ に いって いた から なの です。 しかし、 それ は かならずしも、 マルクス に よって むすばれた シンアイカン では なかった の です。
 ヒゴウホウ。 ジブン には、 それ が ひそか に たのしかった の です。 むしろ、 イゴコチ が よかった の です。 ヨノナカ の ゴウホウ と いう もの の ほう が、 かえって おそろしく、 (それ には、 そこしれず つよい もの が ヨカン せられます) その カラクリ が フカカイ で、 とても その マド の ない、 ソコビエ の する ヘヤ には すわって おられず、 ソト は ヒゴウホウ の ウミ で あって も、 それ に とびこんで およいで、 やがて シ に いたる ほう が、 ジブン には、 いっそ キラク の よう でした。
 ヒカゲモノ、 と いう コトバ が あります。 ニンゲン の ヨ に おいて、 みじめ な、 ハイシャ、 アクトクシャ を ゆびさして いう コトバ の よう です が、 ジブン は、 ジブン を うまれた とき から の ヒカゲモノ の よう な キ が して いて、 セケン から、 あれ は ヒカゲモノ だ と ゆびさされて いる ほど の ヒト と あう と、 ジブン は、 かならず、 やさしい ココロ に なる の です。 そうして、 その ジブン の 「やさしい ココロ」 は、 ジシン で うっとり する くらい やさしい ココロ でした。
 また、 ハンニン イシキ、 と いう コトバ も あります。 ジブン は、 この ニンゲン の ヨノナカ に おいて、 イッショウ その イシキ に くるしめられながら も、 しかし、 それ は ジブン の ソウコウ の ツマ の ごとき コウハンリョ で、 そいつ と フタリ きり で わびしく あそびたわむれて いる と いう の も、 ジブン の いきて いる シセイ の ヒトツ だった かも しれない し、 また、 ぞくに、 スネ に キズ もつ ミ、 と いう コトバ も ある よう です が、 その キズ は、 ジブン の アカンボウ の とき から、 シゼン に カタホウ の スネ に あらわれて、 ちょうずる に およんで チユ する どころ か、 いよいよ ふかく なる ばかり で、 ホネ に まで たっし、 ヨヨ の ツウク は センペン バンカ の ジゴク とは いいながら、 しかし、 (これ は、 たいへん キミョウ な イイカタ です けど) その キズ は、 しだいに ジブン の ケツニク より も したしく なり、 その キズ の イタミ は、 すなわち キズ の いきて いる カンジョウ、 または アイジョウ の ササヤキ の よう に さえ おもわれる、 そんな オトコ に とって、 レイ の チカ ウンドウ の グループ の フンイキ が、 へんに アンシン で、 イゴコチ が よく、 つまり、 その ウンドウ の ホンライ の モクテキ より も、 その ウンドウ の ハダ が、 ジブン に あった カンジ なの でした。 ホリキ の バアイ は、 ただ もう アホウ の ヒヤカシ で、 イチド ジブン を ショウカイ し に その カイゴウ へ いった きり で、 マルキシスト は、 セイサンメン の ケンキュウ と ドウジ に、 ショウヒメン の シサツ も ヒツヨウ だ など と ヘタ な シャレ を いって、 その カイゴウ には よりつかず、 とかく ジブン を、 その ショウヒメン の シサツ の ほう に ばかり さそいたがる の でした。 おもえば、 トウジ は、 サマザマ の カタ の マルキシスト が いた もの です。 ホリキ の よう に、 キョエイ の モダニティ から、 それ を ジショウ する モノ も あり、 また ジブン の よう に、 ただ ヒゴウホウ の ニオイ が キ に いって、 そこ に すわりこんで いる モノ も あり、 もしも これら の ジッタイ が、 マルキシズム の シン の シンポウシャ に みやぶられたら、 ホリキ も ジブン も、 レッカ の ごとく おこられ、 ヒレツ なる ウラギリモノ と して、 たちどころに おいはらわれた こと でしょう。 しかし、 ジブン も、 また、 ホリキ で さえ も、 なかなか ジョメイ の ショブン に あわず、 ことにも ジブン は、 その ヒゴウホウ の セカイ に おいて は、 ゴウホウ の シンシ たち の セカイ に おける より も、 かえって のびのび と、 いわゆる 「ケンコウ」 に ふるまう こと が できました ので、 ミコミ の ある 「ドウシ」 と して、 ふきだしたく なる ほど カド に ヒミツ-めかした、 サマザマ の ヨウジ を たのまれる ほど に なった の です。 また、 じじつ、 ジブン は、 そんな ヨウジ を イチド も ことわった こと は なく、 ヘイキ で なんでも ひきうけ、 へんに ぎくしゃく して、 イヌ (ドウシ は、 ポリス を そう よんで いました) に あやしまれ フシン ジンモン など を うけて しくじる よう な こと も なかった し、 わらいながら、 また、 ヒト を わらわせながら、 その あぶない (その ウンドウ の レンチュウ は、 イチダイジ の ごとく キンチョウ し、 タンテイ ショウセツ の ヘタ な マネ みたい な こと まで して、 キョクド の ケイカイ を もちい、 そうして ジブン に たのむ シゴト は、 まことに、 アッケ に とられる くらい、 つまらない もの でした が、 それでも、 カレラ は、 その ヨウジ を、 さかん に、 あぶながって りきんで いる の でした) と、 カレラ の しょうする シゴト を、 とにかく セイカク に やって のけて いました。 ジブン の その トウジ の キモチ と して は、 トウイン に なって とらえられ、 たとい シュウシン、 ケイムショ で くらす よう に なった と して も、 ヘイキ だった の です。 ヨノナカ の ニンゲン の 「ジッセイカツ」 と いう もの を キョウフ しながら、 マイヨ の フミン の ジゴク で うめいて いる より は、 いっそ ロウヤ の ほう が、 ラク かも しれない と さえ かんがえて いました。
 チチ は、 サクラギ-チョウ の ベッソウ では、 ライキャク やら ガイシュツ やら、 おなじ イエ に いて も、 ミッカ も ヨッカ も ジブン と カオ を あわせる こと が ない ほど でした が、 しかし、 どうにも、 チチ が けむったく、 おそろしく、 この イエ を でて、 どこ か ゲシュク でも、 と かんがえながら も それ を いいだせず に いた ヤサキ に、 チチ が その イエ を うりはらう つもり らしい と いう こと を ベッソウバン の ロウヤ から ききました。
 チチ の ギイン の ニンキ も そろそろ マンキ に ちかづき、 いろいろ リユウ の あった こと に チガイ ありません が、 もう これきり センキョ に でる イシ も ない ヨウス で、 それに、 コキョウ に ヒトムネ、 インキョジョ など たてたり して、 トウキョウ に ミレン も ない らしく、 たかが、 コウトウ ガッコウ の イチ セイト に すぎない ジブン の ため に、 テイタク と メシツカイ を テイキョウ して おく の も、 ムダ な こと だ と でも かんがえた の か、 (チチ の ココロ も また、 セケン の ヒトタチ の キモチ と ドウヨウ に、 ジブン には よく わかりません) とにかく、 その イエ は、 まもなく ヒトデ に わたり、 ジブン は、 ホンゴウ モリカワ-チョウ の センユウカン と いう ふるい ゲシュク の、 うすぐらい ヘヤ に ひっこして、 そうして、 たちまち カネ に こまりました。
 それまで、 チチ から ツキヅキ、 きまった ガク の コヅカイ を てわたされ、 それ は もう、 2~3 ニチ で なくなって も、 しかし、 タバコ も、 サケ も、 チーズ も、 クダモノ も、 いつでも イエ に あった し、 ホン や ブンボウグ や ソノタ、 フクソウ に かんする もの など いっさい、 いつでも、 キンジョ の ミセ から いわゆる 「ツケ」 で もとめられた し、 ホリキ に オソバ か テンドン など を ゴチソウ して も、 チチ の ヒイキ の チョウナイ の ミセ だったら、 ジブン は だまって その ミセ を でて も かまわなかった の でした。
 それ が キュウ に、 ゲシュク の ヒトリズマイ に なり、 なにもかも、 ツキヅキ の テイガク の ソウキン で まにあわせなければ ならなく なって、 ジブン は、 まごつきました。 ソウキン は、 やはり、 2~3 ニチ で きえて しまい、 ジブン は りつぜん と し、 ココロボソサ の ため に くるう よう に なり、 チチ、 アニ、 アネ など へ コウゴ に オカネ を たのむ デンポウ と、 イサイ フミ の テガミ (その テガミ に おいて うったえて いる ジジョウ は、 ことごとく、 オドウケ の キョコウ でした。 ヒト に モノ を たのむ の に、 まず、 その ヒト を わらわせる の が ジョウサク と かんがえて いた の です) を レンパツ する イッポウ、 また、 ホリキ に おしえられ、 せっせと シチヤ-ガヨイ を はじめ、 それでも、 いつも オカネ に フジユウ を して いました。
 しょせん、 ジブン には、 なんの エンコ も ない ゲシュク に、 ヒトリ で 「セイカツ」 して ゆく ノウリョク が なかった の です。 ジブン は、 ゲシュク の その ヘヤ に、 ヒトリ で じっと して いる の が、 おそろしく、 いまにも ダレ か に おそわれ、 イチゲキ せられる よう な キ が して きて、 マチ に とびだして は、 レイ の ウンドウ の テツダイ を したり、 あるいは ホリキ と イッショ に やすい サケ を のみまわったり して、 ほとんど ガクギョウ も、 また エ の ベンキョウ も ホウキ し、 コウトウ ガッコウ へ ニュウガク して、 2 ネン-メ の 11 ガツ、 ジブン より トシウエ の ユウフ の フジン と ジョウシ ジケン など を おこし、 ジブン の ミノウエ は、 イッペン しました。
 ガッコウ は ケッセキ する し、 ガッカ の ベンキョウ も、 すこしも しなかった のに、 それでも、 ミョウ に シケン の トウアン に ヨウリョウ の いい ところ が ある よう で、 どうやら それまで は、 コキョウ の ニクシン を あざむきとおして きた の です が、 しかし、 もう そろそろ、 シュッセキ ニッスウ の フソク など、 ガッコウ の ほう から ナイミツ に コキョウ の チチ へ ホウコク が いって いる らしく、 チチ の ダイリ と して チョウケイ が、 いかめしい ブンショウ の ながい テガミ を、 ジブン に よこす よう に なって いた の でした。 けれども、 それ より も、 ジブン の チョクセツ の クツウ は、 カネ の ない こと と、 それから、 レイ の ウンドウ の ヨウジ が、 とても アソビ ハンブン の キモチ では できない くらい、 はげしく、 いそがしく なって きた こと でした。 チュウオウ チク と いった か、 ナニ チク と いった か、 とにかく ホンゴウ、 コイシカワ、 シタヤ、 カンダ、 あの ヘン の ガッコウ ゼンブ の、 マルクス ガクセイ の コウドウタイ タイチョウ と いう もの に、 ジブン は なって いた の でした。 ブソウ ホウキ、 と きき、 ちいさい ナイフ を かい (イマ おもえば、 それ は エンピツ を けずる にも たりない、 きゃしゃ な ナイフ でした) それ を、 レンコート の ポケット に いれ、 あちこち とびまわって、 いわゆる 「レンラク」 を つける の でした。 オサケ を のんで、 ぐっすり ねむりたい、 しかし、 オカネ が ありません。 しかも、 P (トウ の こと を、 そういう インゴ で よんで いた と キオク して います が、 あるいは、 ちがって いる かも しれません) の ほう から は、 つぎつぎ と イキ を つく ヒマ も ない くらい、 ヨウジ の イライ が まいります。 ジブン の ビョウジャク の カラダ では、 とても つとまりそう も なくなりました。 もともと、 ヒゴウホウ の キョウミ だけ から、 その グループ の テツダイ を して いた の です し、 こんな に、 それこそ ジョウダン から コマ が でた よう に、 いやに いそがしく なって くる と、 ジブン は、 ひそか に P の ヒトタチ に、 それ は オカドチガイ でしょう、 アナタタチ の チョッケイ の モノタチ に やらせたら どう です か、 と いう よう な いまいましい カン を いだく の を きんずる こと が できず、 にげました。 にげて、 さすが に、 いい キモチ は せず、 しぬ こと に しました。
 その コロ、 ジブン に トクベツ の コウイ を よせて いる オンナ が、 3 ニン いました。 ヒトリ は、 ジブン の ゲシュク して いる センユウカン の ムスメ でした。 この ムスメ は、 ジブン が レイ の ウンドウ の テツダイ で へとへと に なって かえり、 ゴハン も たべず に ねて しまって から、 かならず ヨウセン と マンネンヒツ を もって ジブン の ヘヤ に やって きて、
「ごめんなさい。 シタ では、 イモウト や オトウト が うるさくて、 ゆっくり テガミ も かけない の です」
 と いって、 なにやら ジブン の ツクエ に むかって 1 ジカン イジョウ も かいて いる の です。
 ジブン も また、 しらん フリ を して ねて おれば いい のに、 いかにも その ムスメ が ナニ か ジブン に いって もらいたげ の ヨウス なので、 レイ の ウケミ の ホウシ の セイシン を ハッキ して、 じつに ヒトコト も クチ を ききたく ない キモチ なの だ けれども、 くたくた に つかれきって いる カラダ に、 うむ と キアイ を かけて ハラバイ に なり、 タバコ を すい、
「オンナ から きた ラヴ レター で、 フロ を わかして はいった オトコ が ある そう です よ」
「あら、 いや だ。 アナタ でしょう?」
「ミルク を わかして のんだ こと は ある ん です」
「コウエイ だわ、 のんで よ」
 はやく この ヒト、 かえらねえ かなあ、 テガミ だ なんて、 みえすいて いる のに。 ヘヘノノモヘジ でも かいて いる の に ちがいない ん です。
「みせて よ」
 と しんで も みたく ない オモイ で そう いえば、 あら、 いや よ、 あら、 いや よ、 と いって、 その うれしがる こと、 ひどく みっともなく、 キョウ が さめる ばかり なの です。 そこで ジブン は、 ヨウジ でも いいつけて やれ、 と おもう ん です。
「すまない けど ね、 デンシャドオリ の クスリヤ に いって、 カルモチン を かって きて くれない? あんまり つかれすぎて、 カオ が ほてって、 かえって ねむれない ん だ。 すまない ね。 オカネ は、……」
「いい わよ、 オカネ なんか」
 よろこんで たちます。 ヨウ を いいつける と いう の は、 けっして オンナ を しょげさせる こと では なく、 かえって オンナ は、 オトコ に ヨウジ を たのまれる と よろこぶ もの だ と いう こと も、 ジブン は ちゃんと しって いる の でした。
 もう ヒトリ は、 ジョシ コウトウ シハン の ブンカセイ の いわゆる 「ドウシ」 でした。 この ヒト とは、 レイ の ウンドウ の ヨウジ で、 いや でも マイニチ、 カオ を あわせなければ ならなかった の です。 ウチアワセ が すんで から も、 その オンナ は、 いつまでも ジブン に ついて あるいて、 そうして、 やたら に ジブン に、 モノ を かって くれる の でした。
「ワタシ を ホントウ の アネ だ と おもって いて くれて いい わ」
 その キザ に ミブルイ しながら、 ジブン は、
「その つもり で いる ん です」
 と、 ウレエ を ふくんだ ビショウ の ヒョウジョウ を つくって こたえます。 とにかく、 おこらせて は、 こわい、 なんとか して、 ごまかさなければ ならぬ、 と いう オモイ ヒトツ の ため に、 ジブン は いよいよ その みにくい、 いや な オンナ に ホウシ を して、 そうして、 モノ を かって もらって は、 (その カイモノ は、 じつに シュミ の わるい シナ ばかり で、 ジブン は たいてい、 すぐに それ を、 ヤキトリヤ の オヤジ など に やって しまいました) うれしそう な カオ を して、 ジョウダン を いって は わらわせ、 ある ナツ の ヨル、 どうしても はなれない ので、 マチ の くらい ところ で、 その ヒト に かえって もらいたい ばかり に、 キス を して やりましたら、 あさましく キョウラン の ごとく コウフン し、 ジドウシャ を よんで、 その ヒトタチ の ウンドウ の ため に ヒミツ に かりて ある らしい ビル の ジムショ みたい な せまい ヨウシツ に つれて ゆき、 アサ まで オオサワギ と いう こと に なり、 とんでもない アネ だ、 と ジブン は ひそか に クショウ しました。
 ゲシュクヤ の ムスメ と いい、 また この 「ドウシ」 と いい、 どうしたって マイニチ、 カオ を あわせなければ ならぬ グアイ に なって います ので、 これまで の、 サマザマ の オンナ の ヒト の よう に、 うまく さけられず、 つい、 ずるずる に、 レイ の フアン の ココロ から、 この フタリ の ゴキゲン を ただ ケンメイ に とりむすび、 もはや ジブン は、 カナシバリ ドウヨウ の カタチ に なって いました。
 おなじ コロ また ジブン は、 ギンザ の ある ダイ カフェ の ジョキュウ から、 おもいがけぬ オン を うけ、 たった イチド あった だけ なのに、 それでも、 その オン に こだわり、 やはり ミウゴキ できない ほど の、 シンパイ やら、 ソラオソロシサ を かんじて いた の でした。 その コロ に なる と、 ジブン も、 あえて ホリキ の アンナイ に たよらず とも、 ヒトリ で デンシャ にも のれる し、 また、 カブキザ にも ゆける し、 または、 カスリ の キモノ を きて、 カフェ に だって はいれる くらい の、 タショウ の ズウズウシサ を よそおえる よう に なって いた の です。 ココロ では、 あいかわらず、 ニンゲン の ジシン と ボウリョク と を あやしみ、 おそれ、 なやみながら、 ウワベ だけ は、 すこし ずつ、 タニン と マガオ の アイサツ、 いや、 ちがう、 ジブン は やはり ハイボク の オドウケ の くるしい ワライ を ともなわず には、 アイサツ できない タチ なの です が、 とにかく、 ムガ ムチュウ の へどもど の アイサツ でも、 どうやら できる くらい の 「ギリョウ」 を、 レイ の ウンドウ で はしりまわった おかげ? または、 オンナ の? または、 サケ? けれども、 おもに キンセン の フジユウ の おかげ で シュウトク しかけて いた の です。 どこ に いて も、 おそろしく、 かえって ダイ カフェ で タクサン の スイキャク または ジョキュウ、 ボーイ たち に もまれ、 まぎれこむ こと が できたら、 ジブン の この たえず おわれて いる よう な ココロ も おちつく の では なかろう か、 と 10 エン もって、 ギンザ の その ダイ カフェ に、 ヒトリ で はいって、 わらいながら アイテ の ジョキュウ に、
「10 エン しか ない ん だ から ね、 その つもり で」
 と いいました。
「シンパイ いりません」
 どこ か に カンサイ の ナマリ が ありました。 そうして、 その ヒトコト が、 キミョウ に ジブン の、 ふるえおののいて いる ココロ を しずめて くれました。 いいえ、 オカネ の シンパイ が いらなく なった から では ありません、 その ヒト の ソバ に いる こと に シンパイ が いらない よう な キ が した の です。
 ジブン は、 オサケ を のみました。 その ヒト に アンシン して いる ので、 かえって オドウケ など えんじる キモチ も おこらず、 ジブン の ジガネ の ムクチ で インサン な ところ を かくさず みせて、 だまって オサケ を のみました。
「こんな の、 おすき か?」
 オンナ は、 サマザマ の リョウリ を ジブン の マエ に ならべました。 ジブン は クビ を ふりました。
「オサケ だけ か? ウチ も のもう」
 アキ の、 さむい ヨル でした。 ジブン は、 ツネコ (と いった と おぼえて います が、 キオク が うすれ、 たしか では ありません。 ジョウシ の アイテ の ナマエ を さえ わすれて いる よう な ジブン なの です) に いいつけられた とおり に、 ギンザ ウラ の、 ある ヤタイ の オスシヤ で、 すこしも おいしく ない スシ を たべながら、 (その ヒト の ナマエ は わすれて も、 その とき の スシ の マズサ だけ は、 どうした こと か、 はっきり キオク に のこって います。 そうして、 アオダイショウ の カオ に にた カオツキ の、 マルボウズ の オヤジ が、 クビ を ふりふり、 いかにも ジョウズ みたい に ごまかしながら スシ を にぎって いる サマ も、 ガンゼン に みる よう に センメイ に おもいだされ、 コウネン、 デンシャ など で、 はて みた カオ だ、 と いろいろ かんがえ、 ナン だ、 あの とき の スシヤ の オヤジ に にて いる ん だ、 と キ が つき クショウ した こと も さいさん あった ほど でした。 あの ヒト の ナマエ も、 また、 カオカタチ さえ キオク から とおざかって いる ゲンザイ なお、 あの スシヤ の オヤジ の カオ だけ は エ に かける ほど セイカク に おぼえて いる とは、 よっぽど あの とき の スシ が まずく、 ジブン に サムサ と クツウ を あたえた もの と おもわれます。 もともと、 ジブン は、 うまい スシ を くわせる ミセ と いう ところ に、 ヒト に つれられて いって くって も、 うまい と おもった こと は、 イチド も ありません でした。 おおきすぎる の です。 オヤユビ くらい の オオキサ に きちっと にぎれない もの かしら、 と いつも かんがえて いました) その ヒト を、 まって いました。
 ホンジョ の ダイク さん の 2 カイ を、 その ヒト が かりて いました。 ジブン は、 その 2 カイ で、 ヒゴロ の ジブン の インウツ な ココロ を すこしも かくさず、 ひどい ハイタ に おそわれて でも いる よう に、 カタテ で ホオ を おさえながら、 オチャ を のみました。 そうして、 ジブン の そんな シタイ が、 かえって、 その ヒト には、 キ に いった よう でした。 その ヒト も、 ミノマワリ に つめたい コガラシ が ふいて、 オチバ だけ が まいくるい、 カンゼン に コリツ して いる カンジ の オンナ でした。
 イッショ に やすみながら その ヒト は、 ジブン より フタツ トシウエ で ある こと、 コキョウ は ヒロシマ、 アタシ には シュジン が ある のよ、 ヒロシマ で トコヤ さん を して いた の、 サクネン の ハル、 イッショ に トウキョウ へ イエデ して にげて きた の だ けれども、 シュジン は、 トウキョウ で、 マトモ な シゴト を せず その うち に サギザイ に とわれ、 ケイムショ に いる のよ、 アタシ は マイニチ、 なにやら かやら サシイレ し に、 ケイムショ へ かよって いた の だ けれども、 アス から、 やめます、 など と ものがたる の でした が、 ジブン は、 どういう もの か、 オンナ の ミノウエバナシ と いう もの には、 すこしも キョウミ を もてない タチ で、 それ は オンナ の カタリカタ の ヘタ な せい か、 つまり、 ハナシ の ジュウテン の オキカタ を まちがって いる せい なの か、 とにかく、 ジブン には、 つねに、 バジ トウフウ なの で ありました。
 わびしい。
 ジブン には、 オンナ の センマンゲン の ミノウエバナシ より も、 その ヒトコト の ツブヤキ の ほう に、 キョウカン を そそられる に ちがいない と キタイ して いて も、 この ヨノナカ の オンナ から、 ついに イチド も ジブン は、 その コトバ を きいた こと が ない の を、 キカイ とも フシギ とも かんじて おります。 けれども、 その ヒト は、 コトバ で 「わびしい」 とは いいません でした が、 ムゴン の ひどい ワビシサ を、 カラダ の ガイカク に、 1 スン くらい の ハバ の キリュウ みたい に もって いて、 その ヒト に よりそう と、 こちら の カラダ も その キリュウ に つつまれ、 ジブン の もって いる たしょう とげとげ した インウツ の キリュウ と ほどよく とけあい、 「ミナソコ の イワ に おちつく カレハ」 の よう に、 ワガミ は、 キョウフ から も フアン から も、 はなれる こと が できる の でした。
 あの ハクチ の インバイフ たち の フトコロ の ナカ で、 アンシン して ぐっすり ねむる オモイ とは、 また、 まったく ことなって、 (だいいち、 あの プロステチュート たち は、 ヨウキ でした) その サギザイ の ハンニン の ツマ と すごした イチヤ は、 ジブン に とって、 コウフク な (こんな だいそれた コトバ を、 なんの チュウチョ も なく、 コウテイ して シヨウ する こと は、 ジブン の この ゼン-シュキ に おいて、 ふたたび ない つもり です) カイホウ せられた ヨル でした。
 しかし、 ただ イチヤ でした。 アサ、 メ が さめて、 はねおき、 ジブン は モト の ケイハク な、 よそおえる オドウケモノ に なって いました。 ヨワムシ は、 コウフク を さえ おそれる もの です。 ワタ で ケガ を する ん です。 コウフク に きずつけられる こと も ある ん です。 きずつけられない うち に、 はやく、 このまま、 わかれたい と あせり、 レイ の オドウケ の エンマク を はりめぐらす の でした。
「カネ の キレメ が エン の キレメ、 って の は ね、 あれ は ね、 カイシャク が ギャク なん だ。 カネ が なくなる と オンナ に ふられる って イミ、 じゃあ ない ん だ。 オトコ に カネ が なくなる と、 オトコ は、 ただ おのずから イキ ショウチン して、 ダメ に なり、 わらう コエ にも チカラ が なく、 そうして、 ミョウ に ひがんだり なんか して ね、 ついには やぶれかぶれ に なり、 オトコ の ほう から オンナ を ふる、 ハンキョウラン に なって ふって ふって ふりぬく と いう イミ なん だね、 カナザワ ダイジリン と いう ホン に よれば ね、 かわいそう に。 ボク にも、 その キモチ わかる がね」
 たしか、 そんな フウ の ばかげた こと を いって、 ツネコ を ふきださせた よう な キオク が あります。 ナガイ は ムヨウ、 オソレ あり と、 カオ も あらわず に すばやく ひきあげた の です が、 その とき の ジブン の、 「カネ の キレメ が エン の キレメ」 と いう デタラメ の ホウゲン が、 ノチ に いたって、 イガイ の ヒッカカリ を しょうじた の です。
 それから、 ヒトツキ、 ジブン は、 その ヨル の オンジン とは あいません でした。 わかれて、 ヒ が たつ に つれて、 ヨロコビ は うすれ、 カリソメ の オン を うけた こと が かえって そらおそろしく、 ジブン カッテ に ひどい ソクバク を かんじて きて、 あの カフェ の オカンジョウ を、 あの とき、 ゼンブ ツネコ の フタン に させて しまった と いう ゾクジ さえ、 しだいに キ に なりはじめて、 ツネコ も やはり、 ゲシュク の ムスメ や、 あの ジョシ コウトウ シハン と おなじく、 ジブン を キョウハク する だけ の オンナ の よう に おもわれ、 とおく はなれて いながら も、 たえず ツネコ に おびえて いて、 その うえ に ジブン は、 イッショ に やすんだ こと の ある オンナ に、 また あう と、 その とき に いきなり ナニ か レッカ の ごとく おこられそう な キ が して たまらず、 あう の に すこぶる オックウ-がる セイシツ でした ので、 いよいよ、 ギンザ は ケイエン の カタチ でした が、 しかし、 その オックウ-がる と いう セイシツ は、 けっして ジブン の コウカツサ では なく、 ジョセイ と いう もの は、 やすんで から の こと と、 アサ、 おきて から の こと との アイダ に、 ヒトツ の、 チリ ほど の、 ツナガリ をも もたせず、 カンゼン の ボウキャク の ごとく、 みごと に フタツ の セカイ を セツダン させて いきて いる と いう フシギ な ゲンショウ を、 まだ よく のみこんで いなかった から なの でした。
 11 ガツ の スエ、 ジブン は、 ホリキ と カンダ の ヤタイ で ヤスザケ を のみ、 この アクユウ は、 その ヤタイ を でて から も、 さらに どこ か で のもう と シュチョウ し、 もう ジブン たち には オカネ が ない のに、 それでも、 のもう、 のもう よ、 と ねばる の です。 その とき、 ジブン は、 よって ダイタン に なって いる から でも ありました が、
「よし、 そんなら、 ユメ の クニ に つれて いく。 おどろくな、 シュチ ニクリン と いう、……」
「カフェ か?」
「そう」
「いこう!」
 と いう よう な こと に なって フタリ、 シデン に のり、 ホリキ は、 はしゃいで、
「オレ は、 コンヤ は、 オンナ に うえかわいて いる ん だ。 ジョキュウ に キス して も いい か」
 ジブン は、 ホリキ が そんな スイタイ を えんじる こと を、 あまり このんで いない の でした。 ホリキ も、 それ を しって いる ので、 ジブン に そんな ネン を おす の でした。
「いい か。 キス する ぜ。 オレ の ソバ に すわった ジョキュウ に、 きっと キス して みせる。 いい か」
「かまわん だろう」
「ありがたい! オレ は オンナ に うえかわいて いる ん だ」
 ギンザ 4 チョウメ で おりて、 その いわゆる シュチ ニクリン の ダイ カフェ に、 ツネコ を タノミ の ツナ と して ほとんど ムイチモン で はいり、 あいて いる ボックス に ホリキ と むかいあって コシ を おろした トタン に、 ツネコ と もう ヒトリ の ジョキュウ が はしりよって きて、 その もう ヒトリ の ジョキュウ が ジブン の ソバ に、 そうして ツネコ は、 ホリキ の ソバ に、 どさん と こしかけた ので、 ジブン は、 はっと しました。 ツネコ は、 いまに キス される。
 おしい と いう キモチ では ありません でした。 ジブン には、 もともと ショユウヨク と いう もの は うすく、 また、 たまに かすか に おしむ キモチ は あって も、 その ショユウケン を かんぜん と シュチョウ し、 ヒト と あらそう ほど の キリョク が ない の でした。 ノチ に、 ジブン は、 ジブン の ナイエン の ツマ が おかされる の を、 だまって みて いた こと さえ あった ほど なの です。
 ジブン は、 ニンゲン の イザコザ に できる だけ さわりたく ない の でした。 その ウズ に まきこまれる の が、 おそろしい の でした。 ツネコ と ジブン とは、 イチヤ だけ の アイダガラ です。 ツネコ は、 ジブン の もの では ありません。 おしい、 など おもいあがった ヨク は、 ジブン に もてる はず は ありません。 けれども、 ジブン は、 はっと しました。
 ジブン の メノマエ で、 ホリキ の モウレツ な キス を うける、 その ツネコ の ミノウエ を、 フビン に おもった から でした。 ホリキ に よごされた ツネコ は、 ジブン と わかれなければ ならなく なる だろう、 しかも ジブン にも、 ツネコ を ひきとめる ほど の ポジティヴ な ネツ は ない、 ああ、 もう、 これ で オシマイ なの だ、 と ツネコ の フコウ に イッシュン はっと した ものの、 すぐに ジブン は ミズ の よう に すなお に あきらめ、 ホリキ と ツネコ の カオ を みくらべ、 にやにや と わらいました。
 しかし、 ジタイ は、 じつに おもいがけなく、 もっと わるく テンカイ せられました。
「やめた!」
 と ホリキ は、 クチ を ゆがめて いい、
「さすが の オレ も、 こんな びんぼうくさい オンナ には、……」
 ヘイコウ しきった よう に、 ウデグミ して ツネコ を じろじろ ながめ、 クショウ する の でした。
「オサケ を。 オカネ は ない」
 ジブン は、 コゴエ で ツネコ に いいました。 それこそ、 あびる ほど のんで みたい キモチ でした。 いわゆる ゾクブツ の メ から みる と、 ツネコ は スイカン の キス にも あたいしない、 ただ、 みすぼらしい、 びんぼうくさい オンナ だった の でした。 アンガイ とも、 イガイ とも、 ジブン には ヘキレキ に うちくだかれた オモイ でした。 ジブン は、 これまで レイ の なかった ほど、 いくらでも、 いくらでも、 オサケ を のみ、 ぐらぐら よって、 ツネコ と カオ を みあわせ、 かなしく ほほえみあい、 いかにも そう いわれて みる と、 コイツ は へんに つかれて びんぼうくさい だけ の オンナ だな、 と おもう と ドウジ に、 カネ の ない モノ ドウシ の シンワ (ヒンプ の フワ は、 チンプ の よう でも、 やはり ドラマ の エイエン の テーマ の ヒトツ だ と ジブン は イマ では おもって います が) そいつ が、 その シンワカン が、 ムネ に こみあげて きて、 ツネコ が いとしく、 うまれて この とき はじめて、 われから セッキョクテキ に、 ビジャク ながら コイ の ココロ の うごく の を ジカク しました。 はきました。 ゼンゴ フカク に なりました。 オサケ を のんで、 こんな に ワレ を うしなう ほど よった の も、 その とき が はじめて でした。
 メ が さめたら、 マクラモト に ツネコ が すわって いました。 ホンジョ の ダイク さん の 2 カイ の ヘヤ に ねて いた の でした。
「カネ の キレメ が エン の キレメ、 なんて おっしゃって、 ジョウダン か と おもうて いたら、 ホンキ か。 きて くれない の だ もの。 ややこしい キレメ やな。 ウチ が、 かせいで あげて も、 ダメ か」
「ダメ」
 それから、 オンナ も やすんで、 ヨアケガタ、 オンナ の クチ から 「シ」 と いう コトバ が はじめて でて、 オンナ も ニンゲン と して の イトナミ に つかれきって いた よう でした し、 また、 ジブン も、 ヨノナカ への キョウフ、 ワズラワシサ、 カネ、 レイ の ウンドウ、 オンナ、 ガクギョウ、 かんがえる と、 とても このうえ こらえて いきて ゆけそう も なく、 その ヒト の テイアン に キガル に ドウイ しました。
 けれども、 その とき には まだ、 ジッカン と して の 「しのう」 と いう カクゴ は、 できて いなかった の です。 どこ か に 「アソビ」 が ひそんで いました。
 その ヒ の ゴゼン、 フタリ は アサクサ の ロック を さまよって いました。 キッサテン に はいり、 ギュウニュウ を のみました。
「アナタ、 はろうて おいて」
 ジブン は たって、 タモト から ガマグチ を だし、 ひらく と、 ドウセン が 3 マイ、 シュウチ より も セイサン の オモイ に おそわれ、 たちまち ノウリ に うかぶ もの は、 センユウカン の ジブン の ヘヤ、 セイフク と フトン だけ が のこされて ある きり で、 アト は もう、 シチグサ に なりそう な もの の ヒトツ も ない こうりょう たる ヘヤ、 ホカ には ジブン の イマ きて あるいて いる カスリ の キモノ と、 マント、 これ が ジブン の ゲンジツ なの だ、 いきて ゆけない、 と はっきり おもいしりました。
 ジブン が まごついて いる ので、 オンナ も たって、 ジブン の ガマグチ を のぞいて、
「あら、 たった それ だけ?」
 ムシン の コエ でした が、 これ が また、 じんと ホネミ に こたえる ほど に いたかった の です。 はじめて ジブン が、 こいした ヒト の コエ だけ に、 いたかった の です。 それ だけ も、 これ だけ も ない、 ドウセン 3 マイ は、 どだい オカネ で ありません。 それ は、 ジブン が いまだかつて あじわった こと の ない キミョウ な クツジョク でした。 とても いきて おられない クツジョク でした。 しょせん その コロ の ジブン は、 まだ オカネモチ の ボッチャン と いう シュゾク から だっしきって いなかった の でしょう。 その とき、 ジブン は、 みずから すすんで も しのう と、 ジッカン と して ケツイ した の です。
 その ヨ、 ジブン たち は、 カマクラ の ウミ に とびこみました。 オンナ は、 この オビ は オミセ の オトモダチ から かりて いる オビ や から、 と いって、 オビ を ほどき、 たたんで イワ の ウエ に おき、 ジブン も マント を ぬぎ、 おなじ ところ に おいて、 イッショ に ジュスイ しました。
 オンナ の ヒト は、 しにました。 そうして、 ジブン だけ たすかりました。
 ジブン が コウトウ ガッコウ の セイト では あり、 また チチ の ナ にも いくらか、 いわゆる ニュース ヴァリュ が あった の か、 シンブン にも かなり おおきな モンダイ と して とりあげられた よう でした。
 ジブン は ウミベ の ビョウイン に シュウヨウ せられ、 コキョウ から シンセキ の モノ が ヒトリ かけつけ、 サマザマ の シマツ を して くれて、 そうして、 クニ の チチ を ハジメ イッカ-ジュウ が ゲキド して いる から、 これっきり セイカ とは ギゼツ に なる かも しれぬ、 と ジブン に もうしわたして かえりました。 けれども ジブン は、 そんな こと より、 しんだ ツネコ が こいしく、 めそめそ ないて ばかり いました。 ホントウ に、 イマ まで の ヒト の ナカ で、 あの びんぼうくさい ツネコ だけ を、 すき だった の です から。
 ゲシュク の ムスメ から、 タンカ を 50 も かきつらねた ながい テガミ が きました。 「いきくれよ」 と いう ヘン な コトバ で はじまる タンカ ばかり、 50 でした。 また、 ジブン の ビョウシツ に、 カンゴフ たち が ヨウキ に わらいながら あそび に きて、 ジブン の テ を きゅっと にぎって かえる カンゴフ も いました。
 ジブン の ヒダリハイ に コショウ の ある の を、 その ビョウイン で ハッケン せられ、 これ が たいへん ジブン に コウツゴウ な こと に なり、 やがて ジブン が ジサツ ホウジョザイ と いう ザイメイ で ビョウイン から ケイサツ に つれて ゆかれました が、 ケイサツ では、 ジブン を ビョウニン アツカイ に して くれて、 とくに ホゴシツ に シュウヨウ しました。
 シンヤ、 ホゴシツ の トナリ の シュクチョクシツ で、 ネズ の バン を して いた トシヨリ の オマワリ が、 アイダ の ドア を そっと あけ、
「おい!」
 と ジブン に コエ を かけ、
「さむい だろう。 こっち へ きて、 あたれ」
 と いいました。
 ジブン は、 わざと しおしお と シュクチョクシツ に はいって ゆき、 イス に こしかけて ヒバチ に あたりました。
「やはり、 しんだ オンナ が こいしい だろう」
「はい」
 ことさら に、 きえいる よう な ほそい コエ で ヘンジ しました。
「そこ が、 やはり ニンジョウ と いう もの だ」
 カレ は しだいに、 おおきく かまえて きました。
「はじめ、 オンナ と カンケイ を むすんだ の は、 どこ だ」
 ほとんど サイバンカン の ごとく、 もったいぶって たずねる の でした。 カレ は、 ジブン を コドモ と あなどり、 アキ の ヨ の ツレヅレ に、 あたかも カレ ジシン が トリシラベ の シュニン でも ある か の よう に よそおい、 ジブン から ワイダン-めいた ジュッカイ を ひきだそう と いう コンタン の よう でした。 ジブン は すばやく それ を さっし、 ふきだしたい の を こらえる の に ホネ を おりました。 そんな オマワリ の 「ヒコウシキ な ジンモン」 には、 いっさい コタエ を キョヒ して も かまわない の だ と いう こと は、 ジブン も しって いました が、 しかし、 アキ の ヨナガ に キョウ を そえる ため、 ジブン は、 あくまでも シンミョウ に、 その オマワリ こそ トリシラベ の シュニン で あって、 ケイバツ の ケイチョウ の ケッテイ も その オマワリ の オボシメシ ヒトツ に ある の だ、 と いう こと を かたく しんじて うたがわない よう な いわゆる セイイ を オモテ に あらわし、 カレ の スケベエ の コウキシン を、 やや マンゾク させる テイド の イイカゲン な 「チンジュツ」 を する の でした。
「うん、 それ で だいたい わかった。 なんでも ショウジキ に こたえる と、 ワシラ の ほう でも、 そこ は テゴコロ を くわえる」
「ありがとう ございます。 よろしく おねがい いたします」
 ほとんど ニュウシン の エンギ でした。 そうして、 ジブン の ため には、 なにも、 ヒトツ も、 トク に ならない リキエン なの です。
 ヨ が あけて、 ジブン は ショチョウ に よびだされました。 コンド は、 ホンシキ の トリシラベ なの です。
 ドア を あけて、 ショチョウシツ に はいった トタン に、
「おう、 いい オトコ だ。 これ あ、 オマエ が わるい ん じゃ ない。 こんな、 いい オトコ に うんだ オマエ の オフクロ が わるい ん だ」
 イロ の あさぐろい、 ダイガクデ みたい な カンジ の まだ わかい ショチョウ でした。 いきなり そう いわれて ジブン は、 ジブン の カオ の ハンメン に べったり アカアザ でも ある よう な、 みにくい フグシャ の よう な、 みじめ な キ が しました。
 この ジュウドウ か ケンドウ の センシュ の よう な ショチョウ の トリシラベ は、 じつに あっさり して いて、 あの シンヤ の ロウジュンサ の ひそか な、 シツヨウ きわまる コウショク の 「トリシラベ」 とは、 ウンデイ の サ が ありました。 ジンモン が すんで、 ショチョウ は、 ケンジ キョク に おくる ショルイ を したためながら、
「カラダ を ジョウブ に しなけりゃ、 いかん ね。 ケッタン が でて いる よう じゃ ない か」
 と いいました。
 その アサ、 へんに セキ が でて、 ジブン は セキ の でる たび に、 ハンケチ で クチ を おおって いた の です が、 その ハンケチ に あかい アラレ が ふった みたい に チ が ついて いた の です。 けれども、 それ は、 ノド から でた チ では なく、 サクヤ、 ミミ の シタ に できた ちいさい オデキ を いじって、 その オデキ から でた チ なの でした。 しかし、 ジブン は、 それ を いいあかさない ほう が、 ベンギ な こと も ある よう な キ が ふっと した もの です から、 ただ、
「はい」
 と、 フシメ に なり、 シュショウゲ に こたえて おきました。
 ショチョウ は ショルイ を かきおえて、
「キソ に なる か どう か、 それ は ケンジ ドノ が きめる こと だ が、 オマエ の ミモト ヒキウケニン に、 デンポウ か デンワ で、 キョウ ヨコハマ の ケンジ キョク に きて もらう よう に、 たのんだ ほう が いい な。 ダレ か、 ある だろう、 オマエ の ホゴシャ とか ホショウニン とか いう もの が」
 チチ の トウキョウ の ベッソウ に デイリ して いた ショガ コットウショウ の シブタ と いう、 ジブン たち と ドウキョウジン で、 チチ の タイコモチ みたい な ヤク も つとめて いた ずんぐり した ドクシン の シジュウ オトコ が、 ジブン の ガッコウ の ホショウニン に なって いる の を、 ジブン は おもいだしました。 その オトコ の カオ が、 ことに メツキ が、 ヒラメ に にて いる と いう ので、 チチ は いつも その オトコ を ヒラメ と よび、 ジブン も、 そう よびなれて いました。
 ジブン は ケイサツ の デンワチョウ を かりて、 ヒラメ の イエ の デンワ バンゴウ を さがし、 みつかった ので、 ヒラメ に デンワ して、 ヨコハマ の ケンジ キョク に きて くれる よう に たのみましたら、 ヒラメ は ヒト が かわった みたい な いばった クチョウ で、 それでも、 とにかく ひきうけて くれました。
「おい、 その デンワキ、 すぐ ショウドク した ほう が いい ぜ。 なんせ、 ケッタン が でて いる ん だ から」
 ジブン が、 また ホゴシツ に ひきあげて から、 オマワリ たち に そう いいつけて いる ショチョウ の おおきな コエ が、 ホゴシツ に すわって いる ジブン の ミミ に まで、 とどきました。
 オヒルスギ、 ジブン は、 ほそい アサナワ で ドウ を しばられ、 それ は マント で かくす こと を ゆるされました が、 その アサナワ の ハシ を わかい オマワリ が、 しっかり にぎって いて、 フタリ イッショ に デンシャ で ヨコハマ に むかいました。
 けれども、 ジブン には すこし の フアン も なく、 あの ケイサツ の ホゴシツ も、 ロウジュンサ も なつかしく、 ああ、 ジブン は どうして こう なの でしょう、 ザイニン と して しばられる と、 かえって ほっと して、 そうして ゆったり おちついて、 その とき の ツイオク を、 イマ かく に あたって も、 ホントウ に のびのび した たのしい キモチ に なる の です。
 しかし、 その ジキ の なつかしい オモイデ の ナカ にも、 たった ヒトツ、 ヒヤアセ サント の、 ショウガイ わすれられぬ ヒサン な シクジリ が あった の です。 ジブン は、 ケンジ キョク の うすぐらい イッシツ で、 ケンジ の カンタン な トリシラベ を うけました。 ケンジ は 40 サイ ゼンゴ の ものしずか な、 (もし ジブン が ビボウ だった と して も、 それ は いわば ジャイン の ビボウ だった に チガイ ありません が、 その ケンジ の カオ は、 ただしい ビボウ、 と でも いいたい よう な、 ソウメイ な セイヒツ の ケハイ を もって いました) こせこせ しない ヒトガラ の よう でした ので、 ジブン も まったく ケイカイ せず、 ぼんやり チンジュツ して いた の です が、 とつぜん、 レイ の セキ が でて きて、 ジブン は タモト から ハンケチ を だし、 ふと その チ を みて、 この セキ も また ナニ か の ヤク に たつ かも しれぬ と あさましい カケヒキ の ココロ を おこし、 ごほん、 ごほん と フタツ ばかり、 オマケ の ニセ の セキ を おおげさ に つけくわえて、 ハンケチ で クチ を おおった まま ケンジ の カオ を ちらと みた、 カンイッパツ、
「ホントウ かい?」
 ものしずか な ビショウ でした。 ヒヤアセ サント、 いいえ、 イマ おもいだして も、 キリキリマイ を したく なります。 チュウガク ジダイ に、 あの バカ の タケイチ から、 ワザ、 ワザ、 と いわれて セナカ を つかれ、 ジゴク に けおとされた、 その とき の オモイ イジョウ と いって も、 けっして カゴン では ない キモチ です。 あれ と、 これ と、 フタツ、 ジブン の ショウガイ に おける エンギ の ダイシッパイ の キロク です。 ケンジ の あんな ものしずか な ブベツ に あう より は、 いっそ ジブン は 10 ネン の ケイ を いいわたされた ほう が、 まし だった と おもう こと さえ、 ときたま ある ほど なの です。
 ジブン は キソ ユウヨ に なりました。 けれども いっこう に うれしく なく、 よにも みじめ な キモチ で、 ケンジ キョク の ヒカエシツ の ベンチ に こしかけ、 ヒキトリニン の ヒラメ が くる の を まって いました。
 ハイゴ の たかい マド から ユウヤケ の ソラ が みえ、 カモメ が、 「オンナ」 と いう ジ みたい な カタチ で とんで いました。

 ダイサン の シュキ

 1

 タケイチ の ヨゲン の、 ヒトツ は あたり、 ヒトツ は、 はずれました。 ほれられる と いう、 メイヨ で ない ヨゲン の ほう は、 あたりました が、 きっと えらい エカキ に なる と いう、 シュクフク の ヨゲン は、 はずれました。
 ジブン は、 わずか に、 ソアク な ザッシ の、 ムメイ の ヘタ な マンガカ に なる こと が できた だけ でした。
 カマクラ の ジケン の ため に、 コウトウ ガッコウ から は ツイホウ せられ、 ジブン は、 ヒラメ の イエ の 2 カイ の、 3 ジョウ の ヘヤ で ネオキ して、 コキョウ から は ツキヅキ、 きわめて ショウガク の カネ が、 それ も チョクセツ に ジブン-アテ では なく、 ヒラメ の ところ に ひそか に おくられて きて いる ヨウス でした が、 (しかも、 それ は コキョウ の アニ たち が、 チチ に かくして おくって くれて いる と いう ケイシキ に なって いた よう でした) それっきり、 アト は コキョウ との ツナガリ を ぜんぜん、 たちきられて しまい、 そうして、 ヒラメ は いつも フキゲン、 ジブン が アイソワライ を して も、 わらわず、 ニンゲン と いう もの は こんな にも カンタン に、 それこそ テノヒラ を かえす が ごとく に ヘンカ できる もの か と、 あさましく、 いや、 むしろ コッケイ に おもわれる くらい の、 ひどい カワリヨウ で、
「でちゃ いけません よ。 とにかく、 でない で ください よ」
 それ ばかり ジブン に いって いる の でした。
 ヒラメ は、 ジブン に ジサツ の オソレ あり と、 にらんで いる らしく、 つまり、 オンナ の アト を おって また ウミ へ とびこんだり する キケン が ある と みてとって いる らしく、 ジブン の ガイシュツ を かたく きんじて いる の でした。 けれども、 サケ も のめない し、 タバコ も すえない し、 ただ、 アサ から バン まで 2 カイ の 3 ジョウ の コタツ に もぐって、 フルザッシ なんか よんで アホウ ドウゼン の クラシ を して いる ジブン には、 ジサツ の キリョク さえ うしなわれて いました。
 ヒラメ の イエ は、 オオクボ の イセン の チカク に あり、 ショガ コットウショウ、 セイリュウエン、 だ など と カンバン の モジ だけ は ソウトウ に きばって いて も、 ヒトムネ 2 コ の、 その 1 コ で、 ミセ の マグチ も せまく、 テンナイ は ホコリダラケ で、 イイカゲン な ガラクタ ばかり ならべ、 (もっとも、 ヒラメ は その ミセ の ガラクタ に たよって ショウバイ して いる わけ では なく、 こっち の いわゆる ダンナ の ヒゾウ の もの を、 あっち の いわゆる ダンナ に その ショユウケン を ゆずる バアイ など に カツヤク して、 オカネ を もうけて いる らしい の です) ミセ に すわって いる こと は ほとんど なく、 たいてい アサ から、 むずかしそう な カオ を して そそくさ と でかけ、 ルス は 17~18 の コゾウ ヒトリ、 これ が ジブン の ミハリバン と いう わけ で、 ヒマ さえ あれば キンジョ の コドモ たち と ソト で キャッチ ボール など して いて も、 2 カイ の イソウロウ を まるで バカ か キチガイ くらい に おもって いる らしく、 オトナ の セッキョウ-くさい こと まで ジブン に いいきかせ、 ジブン は、 ヒト と イイアラソイ の できない タチ なので、 つかれた よう な、 また、 カンシン した よう な カオ を して それ に ミミ を かたむけ、 フクジュウ して いる の でした。 この コゾウ は シブタ の カクシゴ で、 それでも ヘン な ジジョウ が あって、 シブタ は いわゆる オヤコ の ナノリ を せず、 また シブタ が ずっと ドクシン なの も、 なにやら その ヘン に リユウ が あって の こと らしく、 ジブン も イゼン、 ジブン の イエ の モノタチ から それ に ついて の ウワサ を、 ちょっと きいた よう な キ も する の です が、 ジブン は、 どうも タニン の ミノウエ には、 あまり キョウミ を もてない ほう なので、 ふかい こと は なにも しりません。 しかし、 その コゾウ の メツキ にも、 ミョウ に サカナ の メ を レンソウ させる ところ が ありました から、 あるいは、 ホントウ に ヒラメ の カクシゴ、 ……でも、 それならば、 フタリ は じつに さびしい オヤコ でした。 ヨル おそく、 2 カイ の ジブン には ナイショ で、 フタリ で オソバ など を とりよせて ムゴン で たべて いる こと が ありました。
 ヒラメ の イエ では ショクジ は いつも その コゾウ が つくり、 2 カイ の ヤッカイモノ の ショクジ だけ は ベツ に オゼン に のせて コゾウ が サンド サンド 2 カイ に もちはこんで きて くれて、 ヒラメ と コゾウ は、 カイダン の シタ の じめじめ した 4 ジョウ ハン で なにやら、 かちゃかちゃ サラコバチ の ふれあう オト を させながら、 いそがしげ に ショクジ して いる の でした。
 3 ガツ スエ の ある ユウガタ、 ヒラメ は おもわぬ モウケグチ に でも ありついた の か、 または ナニ か ホカ に サクリャク でも あった の か、 (その フタツ の スイサツ が、 ともに あたって いた と して も、 おそらくは、 さらに また イクツ か の、 ジブン など には とても スイサツ の とどかない こまかい ゲンイン も あった の でしょう が) ジブン を カイカ の めずらしく オチョウシ など ついて いる ショクタク に まねいて、 ヒラメ ならぬ マグロ の サシミ に、 ゴチソウ の アルジ みずから カンプク し、 ショウサン し、 ぼんやり して いる イソウロウ にも すこしく オサケ を すすめ、
「どう する つもり なん です、 いったい、 これから」
 ジブン は それ に こたえず、 タクジョウ の サラ から タタミイワシ を つまみあげ、 その コザカナ たち の ギン の メダマ を ながめて いたら、 ヨイ が ほのぼの はっして きて、 あそびまわって いた コロ が なつかしく、 ホリキ で さえ なつかしく、 つくづく 「ジユウ」 が ほしく なり、 ふっと、 かぼそく なきそう に なりました。
 ジブン が この イエ へ きて から は、 ドウケ を えんずる ハリアイ さえ なく、 ただ もう ヒラメ と コゾウ の ベッシ の ナカ に ミ を よこたえ、 ヒラメ の ほう でも また、 ジブン と うちとけた ナガバナシ を する の を さけて いる ヨウス でした し、 ジブン も その ヒラメ を おいかけて ナニ か を うったえる キ など は おこらず、 ほとんど ジブン は、 マヌケヅラ の イソウロウ に なりきって いた の です。
「キソ ユウヨ と いう の は、 ゼンカ ナンパン とか、 そんな もの には、 ならない モヨウ です。 だから、 まあ、 アナタ の ココロガケ ヒトツ で、 コウセイ が できる わけ です。 アナタ が、 もし、 カイシン して、 アナタ の ほう から、 マジメ に ワタシ に ソウダン を もちかけて くれたら、 ワタシ も かんがえて みます」
 ヒラメ の ハナシカタ には、 いや、 ヨノナカ の ゼンブ の ヒト の ハナシカタ には、 このよう に ややこしく、 どこ か もうろう と して、 ニゲゴシ と でも いった みたい な ビミョウ な フクザツサ が あり、 その ほとんど ムエキ と おもわれる くらい の ゲンジュウ な ケイカイ と、 ムスウ と いって いい くらい の こうるさい カケヒキ と には、 いつも ジブン は トウワク し、 どうでも いい や と いう キブン に なって、 オドウケ で ちゃかしたり、 または ムゴン の シュコウ で いっさい オマカセ と いう、 いわば ハイボク の タイド を とって しまう の でした。
 この とき も ヒラメ が、 ジブン に むかって、 だいたい ツギ の よう に カンタン に ホウコク すれば、 それ で すむ こと だった の を ジブン は コウネン に いたって しり、 ヒラメ の フヒツヨウ な ヨウジン、 いや、 ヨノナカ の ヒトタチ の フカカイ な ミエ、 オテイサイ に、 なんとも インウツ な オモイ を しました。
 ヒラメ は、 その とき、 ただ こう いえば よかった の でした。
「カンリツ でも シリツ でも、 とにかく 4 ガツ から、 どこ か の ガッコウ へ はいりなさい。 アナタ の セイカツヒ は、 ガッコウ へ はいる と、 クニ から、 もっと ジュウブン に おくって くる こと に なって いる の です」
 ずっと アト に なって わかった の です が、 ジジツ は、 そのよう に なって いた の でした。 そうして、 ジブン も その イイツケ に したがった でしょう。 それなのに、 ヒラメ の いやに ヨウジン-ぶかく もって まわった イイカタ の ため に、 ミョウ に こじれ、 ジブン の いきて ゆく ホウコウ も まるで かわって しまった の です。
「マジメ に ワタシ に ソウダン を もちかけて くれる キモチ が なければ、 しょうがない です が」
「どんな ソウダン?」
 ジブン には、 ホントウ に なにも ケントウ が つかなかった の です。
「それ は、 アナタ の ムネ に ある こと でしょう?」
「たとえば?」
「たとえば って、 アナタ ジシン、 これから どう する キ なん です」
「はたらいた ほう が、 いい ん です か?」
「いや、 アナタ の キモチ は、 いったい どう なん です」
「だって、 ガッコウ へ はいる と いったって、……」
「そりゃ、 オカネ が いります。 しかし、 モンダイ は、 オカネ で ない。 アナタ の キモチ です」
 オカネ は、 クニ から くる こと に なって いる ん だ から、 と なぜ ヒトコト、 いわなかった の でしょう。 その ヒトコト に よって、 ジブン の キモチ も、 きまった はず なのに、 ジブン には、 ただ ゴリムチュウ でした。
「どう です か? ナニ か、 ショウライ の キボウ、 と でも いった もの が、 ある ん です か? いったい、 どうも、 ヒト を ヒトリ セワ して いる と いう の は、 どれだけ むずかしい もの だ か、 セワ されて いる ヒト には、 わかりますまい」
「すみません」
「そりゃ、 じつに、 シンパイ な もの です。 ワタシ も、 いったん アナタ の セワ を ひきうけた イジョウ、 アナタ にも、 ナマハンカ な キモチ で いて もらいたく ない の です。 リッパ に コウセイ の ミチ を たどる、 と いう カクゴ の ホド を みせて もらいたい の です。 たとえば、 アナタ の ショウライ の ホウシン、 それ に ついて アナタ の ほう から ワタシ に、 マジメ に ソウダン を もちかけて きた なら、 ワタシ も その ソウダン には おうずる つもり で います。 それ は、 どうせ こんな、 ビンボウ な ヒラメ の エンジョ なの です から、 イゼン の よう な ゼイタク を のぞんだら、 アテ が はずれます。 しかし、 アナタ の キモチ が しっかり して いて、 ショウライ の ホウシン を はっきり うちたて、 そうして ワタシ に ソウダン を して くれたら、 ワタシ は、 たとい わずか ずつ でも、 アナタ の コウセイ の ため に、 おてつだい しよう と さえ おもって いる ん です。 わかります か? ワタシ の キモチ が。 いったい、 アナタ は、 これから、 どう する つもり で いる の です」
「ここ の 2 カイ に、 おいて もらえなかったら、 はたらいて、……」
「ホンキ で、 そんな こと を いって いる の です か? イマ の この ヨノナカ に、 たとい テイコク ダイガッコウ を でたって、……」
「いいえ、 サラリーマン に なる ん では ない ん です」
「それじゃ、 ナン です」
「ガカ です」
 おもいきって、 それ を いいました。
「へええ?」
 ジブン は、 その とき の、 クビ を ちぢめて わらった ヒラメ の カオ の、 いかにも ずるそう な カゲ を わすれる こと が できません。 ケイベツ の カゲ にも にて、 それ とも ちがい、 ヨノナカ を ウミ に たとえる と、 その ウミ の チヒロ の フカサ の カショ に、 そんな キミョウ な カゲ が たゆとうて いそう で、 ナニ か、 オトナ の セイカツ の オクソコ を ちらと のぞかせた よう な ワライ でした。
 そんな こと では ハナシ にも なにも ならぬ、 ちっとも キモチ が しっかり して いない、 かんがえなさい、 コンヤ ヒトバン マジメ に かんがえて みなさい、 と いわれ、 ジブン は おわれる よう に 2 カイ に あがって、 ねて も、 べつに なんの カンガエ も うかびません でした。 そうして、 アケガタ に なり、 ヒラメ の イエ から にげました。
 ユウガタ、 マチガイ なく かえります。 サキ の ユウジン の モト へ、 ショウライ の ホウシン に ついて ソウダン に いって くる の です から、 ゴシンパイ なく。 ホントウ に。
 と、 ヨウセン に エンピツ で おおきく かき、 それから、 アサクサ の ホリキ マサオ の ジュウショ セイメイ を しるして、 こっそり、 ヒラメ の イエ を でました。
 ヒラメ に セッキョウ せられた の が、 くやしくて にげた わけ では ありません でした。 まさしく ジブン は、 ヒラメ の いう とおり、 キモチ の しっかり して いない オトコ で、 ショウライ の ホウシン も なにも ジブン には まるで ケントウ が つかず、 このうえ、 ヒラメ の イエ の ヤッカイ に なって いる の は、 ヒラメ にも キノドク です し、 その うち に、 もし まんいち、 ジブン にも ハップン の キモチ が おこり、 ココロザシ を たてた ところ で、 その コウセイ シキン を あの ビンボウ な ヒラメ から ツキヅキ エンジョ せられる の か と おもう と、 とても こころぐるしくて、 いたたまらない キモチ に なった から でした。
 しかし、 ジブン は、 いわゆる 「ショウライ の ホウシン」 を、 ホリキ ごとき に、 ソウダン に ゆこう など と ホンキ に おもって、 ヒラメ の イエ を でた の では なかった の でした。 それ は、 ただ、 わずか でも、 ツカノマ でも、 ヒラメ に アンシン させて おきたくて、 (その アイダ に ジブン が、 すこし でも トオク へ にげのびて いたい と いう タンテイ ショウセツ-テキ な サクリャク から、 そんな オキテガミ を かいた、 と いう より は、 いや、 そんな キモチ も かすか に あった に ちがいない の です が、 それ より も、 やはり ジブン は、 いきなり ヒラメ に ショック を あたえ、 カレ を コンラン トウワク させて しまう の が、 おそろしかった ばかり に、 と でも いった ほう が、 いくらか セイカク かも しれません。 どうせ、 ばれる に きまって いる のに、 その とおり に いう の が、 おそろしくて、 かならず なにかしら カザリ を つける の が、 ジブン の かなしい セイヘキ の ヒトツ で、 それ は セケン の ヒト が 「ウソツキ」 と よんで いやしめて いる セイカク に にて いながら、 しかし、 ジブン は ジブン に リエキ を もたらそう と して その カザリツケ を おこなった こと は ほとんど なく、 ただ フンイキ の きょうざめた イッペン が、 チッソク する くらい に おそろしくて、 アト で ジブン に フリエキ に なる と いう こと が わかって いて も、 レイ の ジブン の 「ヒッシ の ホウシ」 それ は たとい ゆがめられ ビジャク で、 ばからしい もの で あろう と、 その ホウシ の キモチ から、 つい イチゴン の カザリツケ を して しまう と いう バアイ が おおかった よう な キ も する の です が、 しかし、 この シュウセイ も また、 セケン の いわゆる 「ショウジキモノ」 たち から、 おおいに じょうぜられる ところ と なりました) その とき、 ふっと、 キオク の ソコ から うかんで きた まま に ホリキ の ジュウショ と セイメイ を、 ヨウセン の ハシ に したためた まで の こと だった の です。
 ジブン は ヒラメ の イエ を でて、 シンジュク まで あるき、 カイチュウ の ホン を うり、 そうして、 やっぱり トホウ に くれて しまいました。 ジブン は、 ミナ に アイソ が いい カワリ に、 「ユウジョウ」 と いう もの を、 イチド も ジッカン した こと が なく、 ホリキ の よう な アソビ トモダチ は ベツ と して、 イッサイ の ツキアイ は、 ただ クツウ を おぼえる ばかり で、 その クツウ を もみほぐそう と して ケンメイ に オドウケ を えんじて、 かえって、 へとへと に なり、 わずか に しりあって いる ヒト の カオ を、 それ に にた カオ を さえ、 オウライ など で みかけて も、 ぎょっと して、 イッシュン、 メマイ する ほど の フカイ な センリツ に おそわれる アリサマ で、 ヒト に すかれる こと は しって いて も、 ヒト を あいする ノウリョク に おいて は かけて いる ところ が ある よう でした。 (もっとも、 ジブン は、 ヨノナカ の ニンゲン に だって、 はたして、 「アイ」 の ノウリョク が ある の か どう か、 たいへん ギモン に おもって います) そのよう な ジブン に、 いわゆる 「シンユウ」 など できる はず は なく、 そのうえ ジブン には、 「ヴィジット」 の ノウリョク さえ なかった の です。 タニン の イエ の モン は、 ジブン に とって、 あの シンキョク の ジゴク の モン イジョウ に うすきみわるく、 その モン の オク には、 おそろしい リュウ みたい な なまぐさい キジュウ が うごめいて いる ケハイ を、 コチョウ で なし に、 ジッカン せられて いた の です。
 ダレ とも、 ツキアイ が ない。 どこ へも、 たずねて ゆけない。
 ホリキ。
 それこそ、 ジョウダン から コマ が でた カタチ でした。 あの オキテガミ に、 かいた とおり に、 ジブン は アサクサ の ホリキ を たずねて ゆく こと に した の です。 ジブン は これまで、 ジブン の ほう から ホリキ の イエ を たずねて いった こと は、 イチド も なく、 たいてい デンポウ で ホリキ を ジブン の ほう に よびよせて いた の です が、 イマ は その デンポウリョウ さえ こころぼそく、 それに おちぶれた ミ の ヒガミ から、 デンポウ を うった だけ では、 ホリキ は、 きて くれぬ かも しれぬ と かんがえて、 ナニ より も ジブン に ニガテ の 「ホウモン」 を ケツイ し、 タメイキ を ついて シデン に のり、 ジブン に とって、 この ヨノナカ で たった ヒトツ の タノミ の ツナ は、 あの ホリキ なの か、 と おもいしったら、 ナニ か セスジ の さむく なる よう な すさまじい ケハイ に おそわれました。
 ホリキ は、 ザイタク でした。 きたない ロジ の オク の、 ニカイヤ で、 ホリキ は 2 カイ の たった ヒトヘヤ の 6 ジョウ を つかい、 シタ では、 ホリキ の ロウフボ と、 それから わかい ショクニン と 3 ニン、 ゲタ の ハナオ を ぬったり たたいたり して セイゾウ して いる の でした。
 ホリキ は、 その ヒ、 カレ の トカイジン と して の あたらしい イチメン を ジブン に みせて くれました。 それ は、 ぞくに いう チャッカリショウ でした。 イナカモノ の ジブン が、 がくぜん と メ を みはった くらい の、 つめたく、 ずるい エゴイズム でした。 ジブン の よう に、 ただ、 トメド なく ながれる タチ の オトコ では なかった の です。
「オマエ には、 まったく あきれた。 オヤジサン から、 オユルシ が でた かね。 まだ かい」
 にげて きた、 とは、 いえません でした。
 ジブン は、 レイ に よって、 ごまかしました。 いまに、 すぐ、 ホリキ に きづかれる に ちがいない のに、 ごまかしました。
「それ は、 どうにか なる さ」
「おい、 ワライゴト じゃ ない ぜ。 チュウコク する けど、 バカ も この ヘン で やめる ん だな。 オレ は、 キョウ は、 ヨウジ が ある ん だ がね。 コノゴロ、 バカ に いそがしい ん だ」
「ヨウジ って、 どんな?」
「おい、 おい、 ザブトン の イト を きらない で くれ よ」
 ジブン は ハナシ を しながら、 ジブン の しいて いる ザブトン の トジイト と いう の か、 ククリヒモ と いう の か、 あの フサ の よう な ヨスミ の イト の ヒトツ を ムイシキ に ユビサキ で もてあそび、 ぐいと ひっぱったり など して いた の でした。 ホリキ は、 ホリキ の イエ の シナモノ なら、 ザブトン の イト 1 ポン でも おしい らしく、 はじる イロ も なく、 それこそ、 メ に カド を たてて、 ジブン を とがめる の でした。 かんがえて みる と、 ホリキ は、 これまで ジブン との ツキアイ に おいて なにひとつ うしなって は いなかった の です。
 ホリキ の ロウボ が、 オシルコ を フタツ オボン に のせて もって きました。
「あ、 これ は」
 と ホリキ は、 しんから の コウコウ ムスコ の よう に、 ロウボ に むかって キョウシュク し、 コトバヅカイ も フシゼン な くらい テイネイ に、
「すみません、 オシルコ です か。 ゴウギ だなあ。 こんな シンパイ は、 いらなかった ん です よ。 ヨウジ で、 すぐ ガイシュツ しなけりゃ いけない ん です から。 いいえ、 でも、 せっかく の ゴジマン の オシルコ を、 もったいない。 いただきます。 オマエ も ひとつ、 どう だい。 オフクロ が、 わざわざ つくって くれた ん だ。 ああ、 こいつ あ、 うめえ や。 ゴウギ だなあ」
 と、 まんざら シバイ でも ない みたい に、 ひどく よろこび、 おいしそう に たべる の です。 ジブン も それ を すすりました が、 オユ の ニオイ が して、 そうして、 オモチ を たべたら、 それ は オモチ で なく、 ジブン には わからない もの でした。 けっして、 その マズシサ を ケイベツ した の では ありません。 (ジブン は、 その とき それ を、 まずい とは おもいません でした し、 また、 ロウボ の ココロヅクシ も ミ に しみました。 ジブン には、 マズシサ への キョウフカン は あって も、 ケイベツカン は、 ない つもり で います) あの オシルコ と、 それから、 その オシルコ を よろこぶ ホリキ に よって、 ジブン は、 トカイジン の つましい ホンショウ、 また、 ウチ と ソト を ちゃんと クベツ して いとなんで いる トウキョウ の ヒト の カテイ の ジッタイ を みせつけられ、 ウチ も ソト も カワリ なく、 ただ のべつまくなし に ニンゲン の セイカツ から にげまわって ばかり いる ウスバカ の ジブン ヒトリ だけ カンゼン に とりのこされ、 ホリキ に さえ みすてられた よう な ケハイ に、 ロウバイ し、 オシルコ の はげた ヌリバシ を あつかいながら、 たまらなく わびしい オモイ を した と いう こと を、 しるして おきたい だけ なの です。
「わるい けど、 オレ は、 キョウ は ヨウジ が ある んで ね」
 ホリキ は たって、 ウワギ を きながら そう いい、
「シッケイ する ぜ、 わるい けど」
 その とき、 ホリキ に オンナ の ホウモンシャ が あり、 ジブン の ミノウエ も キュウテン しました。
 ホリキ は、 にわか に カッキ-づいて、
「や、 すみません。 イマ ね、 アナタ の ほう へ おうかがい しよう と おもって いた の です がね、 この ヒト が とつぜん やって きて、 いや、 かまわない ん です。 さあ、 どうぞ」
 よほど、 あわてて いる らしく、 ジブン が ジブン の しいて いる ザブトン を はずして ウラガエシ に して さしだした の を ひったくって、 また ウラガエシ に して、 その オンナ の ヒト に すすめました。 ヘヤ には、 ホリキ の ザブトン の ホカ には、 キャク ザブトン が たった 1 マイ しか なかった の です。
 オンナ の ヒト は やせて、 セ の たかい ヒト でした。 その ザブトン は ソバ に のけて、 イリグチ チカク の カタスミ に すわりました。
 ジブン は、 ぼんやり フタリ の カイワ を きいて いました。 オンナ は ザッシシャ の ヒト の よう で、 ホリキ に カット だ か、 なんだか を かねて たのんで いた らしく、 それ を ウケトリ に きた みたい な グアイ でした。
「いそぎます ので」
「できて います。 もう とっく に できて います。 これ です、 どうぞ」
 デンポウ が きました。
 ホリキ が、 それ を よみ、 ジョウキゲン の その カオ が みるみる ケンアク に なり、
「ちぇっ! オマエ、 こりゃ、 どうした ん だい」
 ヒラメ から の デンポウ でした。
「とにかく、 すぐに かえって くれ。 オレ が、 オマエ を おくりとどける と いい ん だろう が、 オレ には イマ、 そんな ヒマ は、 ねえ や。 イエデ して いながら、 その、 ノンキ そう な ツラ ったら」
「オタク は、 どちら なの です か?」
「オオクボ です」
 ふいと こたえて しまいました。
「そんなら、 シャ の チカク です から」
 オンナ は、 コウシュウ の ウマレ で 28 サイ でした。 イツツ に なる ジョジ と、 コウエンジ の アパート に すんで いました。 オット と シベツ して、 3 ネン に なる と いって いました。
「アナタ は、 ずいぶん クロウ して そだって きた みたい な ヒト ね。 よく キ が きく わ。 かわいそう に」
 はじめて、 オトコメカケ みたい な セイカツ を しました。 シヅコ (と いう の が、 その オンナ キシャ の ナマエ でした) が シンジュク の ザッシシャ に ツトメ に でた アト は、 ジブン と それから シゲコ と いう イツツ の ジョジ と フタリ、 おとなしく オルスバン と いう こと に なりました。 それまで は、 ハハ の ルス には、 シゲコ は アパート の カンリニン の ヘヤ で あそんで いた よう でした が、 「キ の きく」 オジサン が アソビアイテ と して あらわれた ので、 おおいに ゴキゲン が いい ヨウス でした。
 1 シュウカン ほど、 ぼんやり、 ジブン は そこ に いました。 アパート の マド の すぐ チカク の デンセン に、 ヤッコダコ が ヒトツ ひっからまって いて、 ハル の ホコリカゼ に ふかれ、 やぶられ、 それでも なかなか、 しつっこく デンセン に からみついて はなれず、 なにやら うなずいたり なんか して いる ので、 ジブン は それ を みる たび ごと に クショウ し、 セキメン し、 ユメ に さえ みて、 うなされました。
「オカネ が、 ほしい な」
「……いくら ぐらい?」
「タクサン。 ……カネ の キレメ が、 エン の キレメ、 って、 ホントウ の こと だよ」
「ばからしい。 そんな、 ふるくさい、……」
「そう? しかし、 キミ には、 わからない ん だ。 コノママ では、 ボク は、 にげる こと に なる かも しれない」
「いったい、 どっち が ビンボウ なの よ。 そうして、 どっち が にげる のよ。 ヘン ねえ」
「ジブン で かせいで、 その オカネ で、 オサケ、 いや、 タバコ を かいたい。 エ だって ボク は、 ホリキ なんか より、 ずっと ジョウズ な つもり なん だ」
 このよう な とき、 ジブン の ノウリ に おのずから うかびあがって くる もの は、 あの チュウガク ジダイ に かいた タケイチ の いわゆる 「オバケ」 の、 スウマイ の ジガゾウ でした。 うしなわれた ケッサク。 それ は、 たびたび の ヒッコシ の アイダ に、 うしなわれて しまって いた の です が、 あれ だけ は、 たしか に すぐれて いる エ だった よう な キ が する の です。 ソノゴ、 さまざま かいて みて も、 その オモイデ の ナカ の イッピン には、 とおく とおく およばず、 ジブン は いつも、 ムネ が カラッポ に なる よう な、 だるい ソウシツカン に なやまされつづけて きた の でした。
 のみのこした 1 パイ の アブサン。
 ジブン は、 その エイエン に つぐないがたい よう な ソウシツカン を、 こっそり そう ケイヨウ して いました。 エ の ハナシ が でる と、 ジブン の ガンゼン に、 その のみのこした 1 パイ の アブサン が ちらついて きて、 ああ、 あの エ を この ヒト に みせて やりたい、 そうして、 ジブン の ガサイ を しんじさせたい、 と いう ショウソウ に もだえる の でした。
「ふふ、 どう だ か。 アナタ は、 マジメ な カオ を して ジョウダン を いう から かわいい」
 ジョウダン では ない の だ、 ホントウ なん だ、 ああ、 あの エ を みせて やりたい、 と クウテン の ハンモン を して、 ふいと キ を かえ、 あきらめて、
「マンガ さ。 すくなくとも、 マンガ なら、 ホリキ より は、 うまい つもり だ」
 その、 ゴマカシ の ドウケ の コトバ の ほう が、 かえって マジメ に しんぜられました。
「そう ね。 ワタシ も、 じつは カンシン して いた の。 シゲコ に いつも かいて やって いる マンガ、 つい ワタシ まで ふきだして しまう。 やって みたら、 どう? ワタシ の シャ の ヘンシュウチョウ に、 たのんで みて あげて も いい わ」
 その シャ では、 コドモ アイテ の あまり ナマエ を しられて いない ゲッカン の ザッシ を ハッコウ して いた の でした。
 ……アナタ を みる と、 タイテイ の オンナ の ヒト は、 ナニ か して あげたくて、 たまらなく なる。 ……いつも、 おどおど して いて、 それでいて、 コッケイカ なん だ もの。 ……ときたま、 ヒトリ で、 ひどく しずんで いる けれども、 その サマ が、 いっそう オンナ の ヒト の ココロ を、 かゆがらせる。
 シヅコ に、 その ホカ サマザマ の こと を いわれて、 おだてられて も、 それ が すなわち オトコメカケ の けがらわしい トクシツ なの だ、 と おもえば、 それこそ いよいよ 「しずむ」 ばかり で、 いっこう に ゲンキ が でず、 オンナ より は カネ、 とにかく シヅコ から のがれて ジカツ したい と ひそか に ねんじ、 クフウ して いる ものの、 かえって だんだん シヅコ に たよらなければ ならぬ ハメ に なって、 イエデ の アトシマツ やら なにやら、 ほとんど ゼンブ、 この オトコマサリ の コウシュウ オンナ の セワ を うけ、 いっそう ジブン は、 シヅコ に たいし、 いわゆる 「おどおど」 しなければ ならぬ ケッカ に なった の でした。
 シヅコ の トリハカライ で、 ヒラメ、 ホリキ、 それに シヅコ、 3 ニン の カイダン が セイリツ して、 ジブン は、 コキョウ から まったく ゼツエン せられ、 そうして シヅコ と 「テンカ はれて」 ドウセイ と いう こと に なり、 これ また、 シヅコ の ホンソウ の おかげ で ジブン の マンガ も あんがい オカネ に なって、 ジブン は その オカネ で、 オサケ も、 タバコ も かいました が、 ジブン の ココロボソサ、 ウットウシサ は、 いよいよ つのる ばかり なの でした。 それこそ 「しずみ」 に 「しずみ」 きって、 シヅコ の ザッシ の マイツキ の レンサイ マンガ 「キンタ さん と オタ さん の ボウケン」 を かいて いる と、 ふいと コキョウ の イエ が おもいだされ、 あまり の ワビシサ に、 ペン が うごかなく なり、 うつむいて ナミダ を こぼした こと も ありました。
 そういう とき の ジブン に とって、 かすか な スクイ は、 シゲコ でした。 シゲコ は、 その コロ に なって ジブン の こと を、 なにも こだわらず に 「オトウチャン」 と よんで いました。
「オトウチャン。 オイノリ を する と、 カミサマ が、 なんでも くださる って、 ホントウ?」
 ジブン こそ、 その オイノリ を したい と おもいました。
 ああ、 ワレ に つめたき イシ を あたえたまえ。 ワレ に、 「ニンゲン」 の ホンシツ を しらしめたまえ。 ヒト が ヒト を おしのけて も、 ツミ ならず や。 ワレ に、 イカリ の マスク を あたえたまえ。
「うん、 そう。 シゲ ちゃん には なんでも くださる だろう けれども、 オトウチャン には、 ダメ かも しれない」
 ジブン は カミ に さえ、 おびえて いました。 カミ の アイ は しんぜられず、 カミ の バツ だけ を しんじて いる の でした。 シンコウ。 それ は、 ただ カミ の ムチ を うける ため に、 うなだれて シンパン の ダイ に むかう こと の よう な キ が して いる の でした。 ジゴク は しんぜられて も、 テンゴク の ソンザイ は、 どうしても しんぜられなかった の です。
「どうして、 ダメ なの?」
「オヤ の イイツケ に、 そむいた から」
「そう? オトウチャン は とても いい ヒト だ って、 ミンナ いう けど な」
 それ は、 だまして いる から だ、 この アパート の ヒトタチ ミナ に、 ジブン が コウイ を しめされて いる の は、 ジブン も しって いる、 しかし、 ジブン は、 どれほど ミナ を キョウフ して いる か、 キョウフ すれば する ほど すかれ、 そうして、 こちら は すかれる と すかれる ほど キョウフ し、 ミナ から はなれて ゆかねば ならぬ、 この フコウ な ビョウヘキ を、 シゲコ に セツメイ して きかせる の は、 シナン の こと でした。
「シゲ ちゃん は、 いったい、 カミサマ に ナニ を オネダリ したい の?」
 ジブン は、 なにげなさそう に ワトウ を てんじました。
「シゲコ は ね、 シゲコ の ホントウ の オトウチャン が ほしい の」
 ぎょっと して、 くらくら メマイ しました。 テキ。 ジブン が シゲコ の テキ なの か、 シゲコ が ジブン の テキ なの か、 とにかく、 ここ にも ジブン を おびやかす おそろしい オトナ が いた の だ、 タニン、 フカカイ な タニン、 ヒミツ-だらけ の タニン、 シゲコ の カオ が、 にわか に そのよう に みえて きました。
 シゲコ だけ は、 と おもって いた のに、 やはり、 この モノ も、 あの 「フイ に アブ を たたきころす ウシ の シッポ」 を もって いた の でした。 ジブン は、 それ イライ、 シゲコ に さえ おどおど しなければ ならなく なりました。
「シキマ! いる かい?」
 ホリキ が、 また ジブン の ところ へ たずねて くる よう に なって いた の です。 あの イエデ の ヒ に、 あれほど ジブン を さびしく させた オトコ なのに、 それでも ジブン は キョヒ できず、 かすか に わらって むかえる の でした。
「オマエ の マンガ は、 なかなか ニンキ が でて いる そう じゃ ない か。 アマチュア には、 こわい もの しらず の クソドキョウ が ある から かなわねえ。 しかし、 ユダン するな よ。 デッサン が、 ちっとも なって や しない ん だ から」
 オシショウ みたい な タイド を さえ しめす の です。 ジブン の あの 「オバケ」 の エ を、 コイツ に みせたら、 どんな カオ を する だろう、 と レイ の クウテン の ミモダエ を しながら、
「それ を いって くれるな。 ぎゃっ と いう ヒメイ が でる」
 ホリキ は、 いよいよ トクイ そう に、
「ヨワタリ の サイノウ だけ では、 いつかは、 ボロ が でる から な」
 ヨワタリ の サイノウ。 ……ジブン には、 ホントウ に クショウ の ホカ は ありません でした。 ジブン に、 ヨワタリ の サイノウ! しかし、 ジブン の よう に ニンゲン を おそれ、 さけ、 ごまかして いる の は、 レイ の ゾクゲン の 「さわらぬ カミ に タタリ なし」 とか いう レイリ コウカツ の ショセイクン を ジュンポウ して いる の と、 おなじ カタチ だ、 と いう こと に なる の でしょう か。 ああ、 ニンゲン は、 おたがい なにも アイテ を わからない、 まるっきり まちがって みて いながら、 ムニ の シンユウ の つもり で いて、 イッショウ、 それ に きづかず、 アイテ が しねば、 ないて チョウジ なんか を よんで いる の では ない でしょう か。
 ホリキ は、 なにせ、 (それ は シヅコ に おして たのまれて しぶしぶ ひきうけた に ちがいない の です が) ジブン の イエデ の アトシマツ に たちあった ヒト なので、 まるで もう、 ジブン の コウセイ の ダイオンジン か、 ゲッカ ヒョウジン の よう に ふるまい、 もっともらしい カオ を して ジブン に オセッキョウ-めいた こと を いったり、 また、 シンヤ、 よっぱらって ホウモン して とまったり、 また、 5 エン (きまって 5 エン でした) かりて いったり する の でした。
「しかし、 オマエ の、 オンナ ドウラク も この ヘン で よす ん だね。 これ イジョウ は、 セケン が、 ゆるさない から な」
 セケン とは、 いったい、 なんの こと でしょう。 ニンゲン の フクスウ でしょう か。 どこ に、 その セケン と いう もの の ジッタイ が ある の でしょう。 けれども、 なにしろ、 つよく、 きびしく、 こわい もの、 と ばかり おもって これまで いきて きた の です が、 しかし、 ホリキ に そう いわれて、 ふと、
「セケン と いう の は、 キミ じゃ ない か」
 と いう コトバ が、 シタ の サキ まで でかかって、 ホリキ を おこらせる の が いや で、 ひっこめました。
(それ は セケン が、 ゆるさない)
(セケン じゃ ない。 アナタ が、 ゆるさない の でしょう?)
(そんな こと を する と、 セケン から ひどい メ に あう ぞ)
(セケン じゃ ない。 アナタ でしょう?)
(いまに セケン から ほうむられる)
(セケン じゃ ない。 ほうむる の は、 アナタ でしょう?)
 ナンジ は、 ナンジ コジン の オソロシサ、 カイキ、 アクラツ、 フルダヌキ-セイ、 ヨウバ-セイ を しれ! など と、 サマザマ の コトバ が キョウチュウ に キョライ した の です が、 ジブン は、 ただ カオ の アセ を ハンケチ で ふいて、
「ヒヤアセ、 ヒヤアセ」
 と いって わらった だけ でした。
 けれども、 その とき イライ、 ジブン は、 (セケン とは コジン じゃ ない か) と いう、 シソウ-めいた もの を もつ よう に なった の です。
 そうして、 セケン と いう もの は、 コジン では なかろう か と おもいはじめて から、 ジブン は、 イマ まで より は たしょう、 ジブン の イシ で うごく こと が できる よう に なりました。 シヅコ の コトバ を かりて いえば、 ジブン は すこし ワガママ に なり、 おどおど しなく なりました。 また、 ホリキ の コトバ を かりて いえば、 へんに ケチ に なりました。 また、 シゲコ の コトバ を かりて いえば、 あまり シゲコ を かわいがらなく なりました。
 ムクチ で、 わらわず、 マイニチ マイニチ、 シゲコ の オモリ を しながら、 「キンタ さん と オタ さん の ボウケン」 やら、 また ノンキ な トウサン の れきぜん たる アリュウ の 「ノンキ オショウ」 やら、 また、 「セッカチ ピン ちゃん」 と いう ジブン ながら ワケ の わからぬ ヤケクソ の ダイ の レンサイ マンガ やら を、 カクシャ の ゴチュウモン (ぽつり ぽつり、 シヅコ の シャ の ホカ から も チュウモン が くる よう に なって いました が、 すべて それ は、 シヅコ の シャ より も、 もっと ゲヒン な いわば サンリュウ シュッパンシャ から の チュウモン ばかり でした) に おうじ、 じつに じつに インウツ な キモチ で、 のろのろ と、 (ジブン の エ の ウンピツ は、 ヒジョウ に おそい ほう でした) イマ は ただ、 サカダイ が ほしい ばかり に かいて、 そうして、 シヅコ が シャ から かえる と それ と コウタイ に ぷいと ソト へ でて、 コウエンジ の エキ チカク の ヤタイ や スタンド バー で やすくて つよい サケ を のみ、 すこし ヨウキ に なって アパート へ かえり、
「みれば みる ほど、 ヘン な カオ を して いる ねえ、 オマエ は。 ノンキ オショウ の カオ は、 じつは、 オマエ の ネガオ から ヒント を えた の だ」
「アナタ の ネガオ だって、 ずいぶん おふけ に なりまして よ。 シジュウ オトコ みたい」
「オマエ の せい だ。 すいとられた ん だ。 ミズ の ナガレ と、 ヒト の ミ はあ さ。 ナニ を くよくよ カワバタ ヤナアギイ さ」
「さわがない で、 はやく おやすみなさい よ。 それとも、 ゴハン を あがります か?」
 おちついて いて、 まるで アイテ に しません。
「サケ なら のむ がね。 ミズ の ナガレ と、 ヒト の ミ はあ さ。 ヒト の ナガレ と、 いや、 ミズ の ナガレエ と、 ミズ の ミ はあ さ」
 うたいながら、 シヅコ に イフク を ぬがせられ、 シヅコ の ムネ に ジブン の ヒタイ を おしつけて ねむって しまう、 それ が ジブン の ニチジョウ でした。

  して その あくる ヒ も おなじ こと を くりかえして、
  キノウ に かわらぬ シキタリ に したがえば よい。
  すなわち あらっぽい おおきな ヨロコビ を よけて さえ いれば、
  しぜん また おおきな カナシミ も やって こない の だ。
  ユクテ を ふさぐ ジャマ な イシ を
  ヒキガエル は まわって とおる。

 ウエダ ビン ヤク の ギー シャルル クロー とか いう ヒト の、 こんな シク を みつけた とき、 ジブン は ヒトリ で カオ を もえる くらい に あかく しました。
 ヒキガエル。
(それ が、 ジブン だ。 セケン が ゆるす も、 ゆるさぬ も ない。 ほうむる も、 ほうむらぬ も ない。 ジブン は、 イヌ より も ネコ より も レットウ な ドウブツ なの だ。 ヒキガエル。 のそのそ うごいて いる だけ だ)
 ジブン の インシュ は、 しだいに リョウ が ふえて きました。 コウエンジ エキ フキン だけ で なく、 シンジュク、 ギンザ の ほう に まで でかけて のみ、 ガイハク する こと さえ あり、 ただ もう 「シキタリ」 に したがわぬ よう、 バー で ブライカン の フリ を したり、 カタッパシ から キス したり、 つまり、 また、 あの ジョウシ イゼン の、 いや、 あの コロ より さらに すさんで ヤヒ な サケノミ に なり、 カネ に きゅうして、 シヅコ の イルイ を もちだす ほど に なりました。
 ここ へ きて、 あの やぶれた ヤッコダコ に クショウ して から 1 ネン イジョウ たって、 ハザクラ の コロ、 ジブン は、 またも シヅコ の オビ やら ジュバン やら を こっそり もちだして シチヤ に ゆき、 オカネ を つくって ギンザ で のみ、 フタバン つづけて ガイハク して、 ミッカ-メ の バン、 さすが に グアイ わるい オモイ で、 ムイシキ に アシオト を しのばせて、 アパート の シヅコ の ヘヤ の マエ まで くる と、 ナカ から、 シヅコ と シゲコ の カイワ が きこえます。
「なぜ、 オサケ を のむ の?」
「オトウチャン は ね、 オサケ を すき で のんで いる の では、 ない ん です よ。 あんまり いい ヒト だ から、 だから、……」
「いい ヒト は、 オサケ を のむ の?」
「そう でも ない けど、……」
「オトウチャン は、 きっと、 びっくり する わね」
「おきらい かも しれない。 ほら、 ほら、 ハコ から とびだした」
「セッカチ ピン ちゃん みたい ね」
「そう ねえ」
 シヅコ の、 しんから コウフク そう な ひくい ワライゴエ が きこえました。
 ジブン が、 ドア を ほそく あけて ナカ を のぞいて みます と、 シロウサギ の コ でした。 ぴょんぴょん ヘヤジュウ を、 はねまわり、 オヤコ は それ を おって いました。
(コウフク なん だ、 この ヒトタチ は。 ジブン と いう バカモノ が、 この フタリ の アイダ に はいって、 いまに フタリ を めちゃくちゃ に する の だ。 つつましい コウフク。 いい オヤコ。 コウフク を、 ああ、 もし カミサマ が、 ジブン の よう な モノ の イノリ でも きいて くれる なら、 イチド だけ、 ショウガイ に イチド だけ で いい、 いのる)
 ジブン は、 そこ に うずくまって ガッショウ したい キモチ でした。 そっと、 ドア を しめ、 ジブン は、 また ギンザ に ゆき、 それっきり、 その アパート には かえりません でした。
 そうして、 キョウバシ の すぐ チカク の スタンド バー の 2 カイ に ジブン は、 またも オトコメカケ の カタチ で、 ねそべる こと に なりました。
 セケン。 どうやら ジブン にも、 それ が ぼんやり わかりかけて きた よう な キ が して いました。 コジン と コジン の アラソイ で、 しかも、 その バ の アラソイ で、 しかも、 その バ で かてば いい の だ、 ニンゲン は けっして ニンゲン に フクジュウ しない、 ドレイ で さえ ドレイ-らしい ヒクツ な シッペガエシ を する もの だ、 だから、 ニンゲン には その バ の イッポン ショウブ に たよる ほか、 いきのびる クフウ が つかぬ の だ、 タイギ メイブン らしい もの を となえて いながら、 ドリョク の モクヒョウ は かならず コジン、 コジン を のりこえて また コジン、 セケン の ナンカイ は、 コジン の ナンカイ、 オーシャン は セケン で なくて、 コジン なの だ、 と ヨノナカ と いう タイカイ の ゲンエイ に おびえる こと から、 たしょう カイホウ せられて、 イゼン ほど、 あれこれ と サイゲン の ない ココロヅカイ する こと なく、 いわば さしあたって の ヒツヨウ に おうじて、 いくぶん ずうずうしく ふるまう こと を おぼえて きた の です。
 コウエンジ の アパート を すて、 キョウバシ の スタンド バー の マダム に、
「わかれて きた」
 それ だけ いって、 それ で ジュウブン、 つまり イッポン ショウブ は きまって、 その ヨル から、 ジブン は ランボウ にも そこ の 2 カイ に とまりこむ こと に なった の です が、 しかし、 おそろしい はず の 「セケン」 は、 ジブン に なんの キガイ も くわえません でした し、 また ジブン も 「セケン」 に たいして なんの ベンメイ も しません でした。 マダム が、 その キ だったら、 それ で スベテ が いい の でした。
 ジブン は、 その ミセ の オキャク の よう でも あり、 テイシュ の よう でも あり、 ハシリヅカイ の よう でも あり、 シンセキ の モノ の よう でも あり、 ハタ から みて はなはだ エタイ の しれない ソンザイ だった はず なのに、 「セケン」 は すこしも あやしまず、 そうして その ミセ の ジョウレン たち も、 ジブン を、 ヨウ ちゃん、 ヨウ ちゃん と よんで、 ひどく やさしく あつかい、 そうして オサケ を のませて くれる の でした。
 ジブン は ヨノナカ に たいして、 しだいに ヨウジン しなく なりました。 ヨノナカ と いう ところ は、 そんな に、 おそろしい ところ では ない、 と おもう よう に なりました。 つまり、 これまで の ジブン の キョウフカン は、 ハル の カゼ には ヒャクニチゼキ の バイキン が ナンジュウマン、 セントウ には メ の つぶれる バイキン が ナンジュウマン、 トコヤ には トクトウビョウ の バイキン が ナンジュウマン、 ショウセン の ツリカワ には カイセン の ムシ が うようよ、 または、 オサシミ、 ギュウ ブタニク の ナマヤケ には、 サナダムシ の ヨウチュウ やら、 ジストマ やら、 なにやら の タマゴ など が かならず ひそんで いて、 また、 ハダシ で あるく と アシ の ウラ から ガラス の ちいさい ハヘン が はいって、 その ハヘン が タイナイ を かけめぐり メダマ を ついて シツメイ させる こと も ある とか いう いわば 「カガク の メイシン」 に おびやかされて いた よう な もの なの でした。 それ は、 たしか に ナンジュウマン も の バイキン の うかび およぎ うごめいて いる の は、 「カガクテキ」 にも、 セイカク な こと でしょう。 と ドウジ に、 その ソンザイ を カンゼン に モクサツ さえ すれば、 それ は ジブン と ミジン の ツナガリ も なくなって たちまち きえうせる 「カガク の ユウレイ」 に すぎない の だ と いう こと をも、 ジブン は しる よう に なった の です。 オベントウバコ に タベノコシ の ゴハン ミツブ、 1000 マン-ニン が 1 ニチ に ミツブ ずつ たべのこして も すでに それ は、 コメ ナンピョウ を ムダ に すてた こと に なる、 とか、 あるいは、 1 ニチ に ハナガミ 1 マイ の セツヤク を 1000 マン-ニン が おこなう ならば、 どれ だけ の パルプ が うく か、 など と いう 「カガクテキ トウケイ」 に、 ジブン は、 どれだけ おびやかされ、 ゴハン を ヒトツブ でも たべのこす たび ごと に、 また ハナ を かむ たび ごと に、 やまほど の コメ、 やまほど の パルプ を クウヒ する よう な サッカク に なやみ、 ジブン が イマ ジュウダイ な ツミ を おかして いる みたい な くらい キモチ に なった もの です が、 しかし、 それ こそ 「カガク の ウソ」 「トウケイ の ウソ」 「スウガク の ウソ」 で、 ミツブ の ゴハン は あつめられる もの で なく、 カケザン ワリザン の オウヨウ モンダイ と して も、 まことに ゲンシテキ で テイノウ な テーマ で、 デンキ の ついて ない くらい オベンジョ の、 あの アナ に ヒト は ナンド に イチド カタアシ を ふみはずして ラッカ させる か、 または、 ショウセン デンシャ の デイリグチ と、 プラットホーム の ヘリ との あの スキマ に、 ジョウキャク の ナンニン-チュウ の ナンニン が アシ を おとしこむ か、 そんな プロバビリティ を ケイサン する の と おなじ テイド に ばからしく、 それ は いかにも ありうる こと の よう でも ありながら、 オベンジョ の アナ を またぎそこねて ケガ を した と いう レイ は、 すこしも きかない し、 そんな カセツ を 「カガクテキ ジジツ」 と して おしえこまれ、 それ を まったく ゲンジツ と して うけとり、 キョウフ して いた キノウ まで の ジブン を いとおしく おもい、 わらいたく おもった くらい に、 ジブン は、 ヨノナカ と いう もの の ジッタイ を すこし ずつ しって きた と いう わけ なの でした。
 そう は いって も、 やはり ニンゲン と いう もの が、 まだまだ、 ジブン には おそろしく、 ミセ の オキャク と あう の にも、 オサケ を コップ で 1 パイ ぐいと のんで から で なければ いけません でした。 こわい もの ミタサ。 ジブン は、 マイバン、 それでも オミセ に でて、 コドモ が、 じつは すこし こわがって いる ショウドウブツ など を、 かえって つよく ぎゅっと にぎって しまう みたい に、 ミセ の オキャク に むかって よって つたない ゲイジュツロン を ふきかける よう に さえ なりました。
 マンガカ。 ああ、 しかし、 ジブン は、 おおきな ヨロコビ も、 また、 おおきな カナシミ も ない ムメイ の マンガカ。 いかに おおきな カナシミ が アト で やって きて も いい、 あらっぽい おおきな ヨロコビ が ほしい と ナイシン あせって は いて も、 ジブン の ゲンザイ の ヨロコビ たる や、 オキャク と ムダゴト を いいあい、 オキャク の サケ を のむ こと だけ でした。
 キョウバシ へ きて、 こういう くだらない セイカツ を すでに 1 ネン ちかく つづけ、 ジブン の マンガ も、 コドモ アイテ の ザッシ だけ で なく、 エキウリ の ソアク で ヒワイ な ザッシ など にも のる よう に なり、 ジブン は、 ジョウシ イクタ (ジョウシ、 いきた) と いう、 ふざけきった トクメイ で、 きたない ハダカ の エ など かき、 それ に たいてい ルバイヤット の シク を ソウニュウ しました。

  ムダ な オイノリ なんか よせ ったら
  ナミダ を さそう もの なんか、 かなぐりすてろ
  まあ イッパイ いこう、 いい こと ばかり おもいだして
  ヨケイ な ココロヅカイ なんか わすれっちまい な

  フアン や キョウフ もて ヒト を おびやかす ヤカラ は
  ミズカラ の つくりし だいそれた ツミ に おびえ
  しにし モノ の フクシュウ に そなえん と
  ミズカラ の アタマ に たえず ハカライ を なす

  ヨベ、 サケ みちて わが ハート は ヨロコビ に みち
  ケサ、 さめて ただに こうりょう
  いぶかし、 ヒトヨサ の ナカ
  さまかわりたる この キブン よ

  タタリ なんて おもう こと やめて くれ
  トオク から ひびく タイコ の よう に
  なにがなし そいつ は フアン だ
  へひった こと まで いちいち ツミ に カンジョウ されたら たすからん わい

  セイギ は ジンセイ の シシン たり とや?
  さらば チ に ぬられたる センジョウ に
  アンサツシャ の キッサキ に
  なんの セイギ か やどれる や?

  いずこ に シドウ ゲンリ あり や?
  いかなる エイチ の ヒカリ あり や?
  うるわしく も おそろしき は ウキヨ なれ
  かよわき ヒト の コ は せおいきれぬ ニ をば おわされ

  どうにも できない ジョウヨク の タネ を うえつけられた ばかり に
  ゼン だ アク だ ツミ だ バツ だ と のろわるる ばかり
  どうにも できない ただ まごつく ばかり
  おさえくだく チカラ も イシ も さずけられぬ ばかり に

  どこ を どう うろつきまわってた ん だい
  なに ヒハン、 ケントウ、 サイニンシキ?
  へっ、 むなしき ユメ を、 あり も しない マボロシ を
  えへっ、 サケ を わすれた んで、 みんな コケ の シアン さ

  どう だ、 この ハテ も ない オオゾラ を ごらん よ
  この ナカ に ぽっちり うかんだ テン じゃい
  この チキュウ が なんで ジテン する の か わかる もん か
  ジテン、 コウテン、 ハンテン も カッテ です わい

  いたる ところ に、 シコウ の チカラ を かんじ
  あらゆる クニ に あらゆる ミンゾク に
  ドウイツ の ニンゲンセイ を ハッケン する
  ワレ は イタンシャ なり とか や

  ミンナ セイキョウ を よみちがえてん のよ
  で なきゃ ジョウシキ も チエ も ない のよ
  イキミ の ヨロコビ を きんじたり、 サケ を やめたり
  いい わ、 ムスタッファ、 ワタシ そんな の、 だいきらい

 けれども、 その コロ、 ジブン に サケ を やめよ、 と すすめる ショジョ が いました。
「いけない わ、 マイニチ、 オヒル から、 よって いらっしゃる」
 バー の ムカイ の、 ちいさい タバコヤ の 17~18 の ムスメ でした。 ヨシ ちゃん と いい、 イロ の しろい、 ヤエバ の ある コ でした。 ジブン が、 タバコ を かい に ゆく たび に、 わらって チュウコク する の でした。
「なぜ、 いけない ん だ。 どうして わるい ん だ。 ある だけ の サケ を のんで、 ヒト の コ よ、 ゾウオ を けせ けせ けせ、 って ね、 ムカシ ペルシャ の ね、 まあ よそう、 かなしみつかれたる ハート に キボウ を もちきたす は、 ただ ビクン を もたらす ギョクハイ なれ、 って ね。 わかる かい」
「わからない」
「この ヤロウ。 キス して やる ぞ」
「して よ」
 ちっとも わるびれず シタクチビル を つきだす の です。
「バカヤロウ。 テイソウ カンネン、……」
 しかし、 ヨシ ちゃん の ヒョウジョウ には、 あきらか に ダレ にも けがされて いない ショジョ の ニオイ が して いました。
 トシ が あけて ゲンカン の ヨル、 ジブン は よって タバコ を かい に でて、 その タバコヤ の マエ の マンホール に おちて、 ヨシ ちゃん、 たすけて くれえ、 と さけび、 ヨシ ちゃん に ひきあげられ、 ミギウデ の キズ の テアテ を、 ヨシ ちゃん に して もらい、 その とき ヨシ ちゃん は、 しみじみ、
「のみすぎます わよ」
 と わらわず に いいました。
 ジブン は しぬ の は ヘイキ なん だ けど、 ケガ を して シュッケツ して そうして フグシャ など に なる の は、 マッピラ ゴメン の ほう です ので、 ヨシ ちゃん に ウデ の キズ の テアテ を して もらいながら、 サケ も、 もう イイカゲン に よそう かしら、 と おもった の です。
「やめる。 アシタ から、 イッテキ も のまない」
「ホントウ?」
「きっと、 やめる。 やめたら、 ヨシ ちゃん、 ボク の オヨメ に なって くれる かい?」
 しかし、 オヨメ の ケン は ジョウダン でした。
「もち よ」
 もち とは、 「もちろん」 の リャクゴ でした。 モボ だの、 モガ だの、 その コロ いろんな リャクゴ が はやって いました。
「ようし。 ゲンマン しよう。 きっと やめる」
 そうして あくる ヒ、 ジブン は、 やはり ヒル から のみました。
 ユウガタ、 ふらふら ソト へ でて、 ヨシ ちゃん の ミセ の マエ に たち、
「ヨシ ちゃん、 ごめん ね。 のんじゃった」
「あら、 いや だ。 よった フリ なんか して」
 はっと しました。 ヨイ も さめた キモチ でした。
「いや、 ホントウ なん だ。 ホントウ に のんだ の だよ。 よった フリ なんか してる ん じゃ ない」
「からかわないで よ。 ヒト が わるい」
 てんで うたがおう と しない の です。
「みれば わかりそう な もの だ。 キョウ も、 オヒル から のんだ の だ。 ゆるして ね」
「オシバイ が、 うまい のねえ」
「シバイ じゃあ ない よ、 バカヤロウ。 キス して やる ぞ」
「して よ」
「いや、 ボク には シカク が ない。 オヨメ に もらう の も あきらめなくちゃ ならん。 カオ を みなさい、 あかい だろう? のんだ の だよ」
「それ あ、 ユウヒ が あたって いる から よ。 かつごう たって、 ダメ よ。 キノウ ヤクソク した ん です もの。 のむ はず が ない じゃ ない の。 ゲンマン した ん です もの。 のんだ なんて、 ウソ、 ウソ、 ウソ」
 うすぐらい ミセ の ナカ に すわって ビショウ して いる ヨシ ちゃん の しろい カオ、 ああ、 ヨゴレ を しらぬ ヴァジニティ は とうとい もの だ、 ジブン は イマ まで、 ジブン より も わかい ショジョ と ねた こと が ない、 ケッコン しよう、 どんな おおきな カナシミ が その ため に アト から やって きて も よい、 あらっぽい ほど の おおきな ヨロコビ を、 ショウガイ に イチド で いい、 ショジョセイ の ウツクシサ とは、 それ は バカ な シジン の あまい カンショウ の マボロシ に すぎぬ と おもって いた けれども、 やはり この ヨノナカ に いきて ある もの だ、 ケッコン して ハル に なったら フタリ で ジテンシャ で アオバ の タキ を み に ゆこう、 と、 その バ で ケツイ し、 いわゆる 「イッポン ショウブ」 で、 その ハナ を ぬすむ の に ためらう こと を しません でした。
 そうして ジブン たち は、 やがて ケッコン して、 それ に よって えた ヨロコビ は、 かならずしも おおきく は ありません でした が、 その アト に きた カナシミ は、 セイサン と いって も たりない くらい、 じつに ソウゾウ を ぜっして、 おおきく やって きました。 ジブン に とって、 「ヨノナカ」 は、 やはり そこしれず、 おそろしい ところ でした。 けっして、 そんな イッポン ショウブ など で、 ナニ から ナニ まで きまって しまう よう な、 なまやさしい ところ でも なかった の でした。

 2

 ホリキ と ジブン。
 たがいに ケイベツ しながら つきあい、 そうして たがいに ミズカラ を くだらなく して ゆく、 それ が コノヨ の いわゆる 「コウユウ」 と いう もの の スガタ だ と する なら、 ジブン と ホリキ との アイダガラ も、 まさしく 「コウユウ」 に チガイ ありません でした。
 ジブン が あの キョウバシ の スタンド バー の マダム の ギキョウシン に すがり、 (オンナ の ヒト の ギキョウシン なんて、 コトバ の キミョウ な ツカイカタ です が、 しかし、 ジブン の ケイケン に よる と、 すくなくとも トカイ の ダンジョ の バアイ、 オトコ より も オンナ の ほう が、 その、 ギキョウシン と でも いう べき もの を たっぷり と もって いました。 オトコ は たいてい、 おっかなびっくり で、 オテイサイ ばかり かざり、 そうして、 ケチ でした) あの タバコヤ の ヨシコ を ナイエン の ツマ に する こと が できて、 そうして、 ツキジ、 スミダガワ の チカク、 モクゾウ の 2 カイ-ダテ の ちいさい アパート の カイカ の イッシツ を かり、 フタリ で すみ、 サケ は やめて、 そろそろ ジブン の きまった ショクギョウ に なりかけて きた マンガ の シゴト に セイ を だし、 ユウショク-ゴ は フタリ で エイガ を み に でかけ、 カエリ には、 キッサテン など に はいり、 また、 ハナ の ハチ を かったり して、 いや、 それ より も ジブン を しんから シンライ して くれて いる この ちいさい ハナヨメ の コトバ を きき、 ドウサ を みて いる の が たのしく、 これ は ジブン も ひょっと したら、 いまに だんだん ニンゲン-らしい もの に なる こと が できて、 ヒサン な シニカタ など せず に すむ の では なかろう か と いう あまい オモイ を かすか に ムネ に あたためはじめて いた ヤサキ に、 ホリキ が また ジブン の ガンゼン に あらわれました。
「よう! シキマ。 おや? これ でも、 いくらか ふんべつくさい カオ に なりやがった。 キョウ は、 コウエンジ ジョシ から の オシシャ なん だ がね」
 と いいかけて、 キュウ に コエ を ひそめ、 オカッテ で オチャ の シタク を して いる ヨシコ の ほう を アゴ で しゃくって、 だいじょうぶ かい? と たずねます ので、
「かまわない。 ナニ を いって も いい」
 と ジブン は おちついて こたえました。
 じっさい、 ヨシコ は、 シンライ の テンサイ と いいたい くらい、 キョウバシ の バー の マダム との アイダ は もとより、 ジブン が カマクラ で おこした ジケン を しらせて やって も、 ツネコ との アイダ を うたがわず、 それ は ジブン が ウソ が うまい から と いう わけ では なく、 ときには、 あからさま な イイカタ を する こと さえ あった のに、 ヨシコ には、 それ が みな ジョウダン と しか ききとれぬ ヨウス でした。
「あいかわらず、 しょって いやがる。 なに、 たいした こと じゃ ない がね、 たまに は、 コウエンジ の ほう へも あそび に きて くれ って いう ゴデンゴン さ」
 わすれかける と、 ケチョウ が はばたいて やって きて、 キオク の キズグチ を その クチバシ で つきやぶります。 たちまち カコ の ハジ と ツミ の キオク が、 ありあり と ガンゼン に テンカイ せられ、 わあっ と さけびたい ほど の キョウフ で、 すわって おられなく なる の です。
「のもう か」
 と ジブン。
「よし」
 と ホリキ。
 ジブン と ホリキ。 カタチ は、 フタリ にて いました。 そっくり の ニンゲン の よう な キ が する こと も ありました。 もちろん それ は、 やすい サケ を あちこち のみあるいて いる とき だけ の こと でした が、 とにかく、 フタリ カオ を あわせる と、 みるみる おなじ カタチ の おなじ ケナミ の イヌ に かわり コウセツ の チマタ を かけめぐる と いう グアイ に なる の でした。
 その ヒ イライ、 ジブン たち は ふたたび キュウコウ を あたためた と いう カタチ に なり、 キョウバシ の あの ちいさい バー にも イッショ に ゆき、 そうして、 とうとう、 コウエンジ の シヅコ の アパート にも その デイスイ の 2 ヒキ の イヌ が ホウモン し、 シュクハク して かえる など と いう こと に さえ なって しまった の です。
 わすれ も、 しません。 むしあつい ナツ の ヨル でした。 ホリキ は ヒグレ-ゴロ、 よれよれ の ユカタ を きて ツキジ の ジブン の アパート に やって きて、 キョウ ある ヒツヨウ が あって ナツフク を シチイレ した が、 その シチイレ が ロウボ に しれる と まことに グアイ が わるい、 すぐ うけだしたい から、 とにかく カネ を かして くれ、 と いう こと でした。 あいにく ジブン の ところ にも、 オカネ が なかった ので、 レイ に よって、 ヨシコ に いいつけ、 ヨシコ の イルイ を シチヤ に もって ゆかせて オカネ を つくり、 ホリキ に かして も、 まだ すこし あまる ので その ザンキン で ヨシコ に ショウチュウ を かわせ、 アパート の オクジョウ に ゆき、 スミダガワ から ときたま かすか に ふいて くる どぶくさい カゼ を うけて、 まことに うすぎたない ノウリョウ の エン を はりました。
 ジブン たち は その とき、 キゲキ メイシ、 ヒゲキ メイシ の アテッコ を はじめました。 これ は、 ジブン の ハツメイ した ユウギ で、 メイシ には、 すべて ダンセイ メイシ、 ジョセイ メイシ、 チュウセイ メイシ など の ベツ が ある けれども、 それ と ドウジ に、 キゲキ メイシ、 ヒゲキ メイシ の クベツ が あって しかるべき だ、 たとえば、 キセン と キシャ は いずれ も ヒゲキ メイシ で、 シデン と バス は、 いずれ も キゲキ メイシ、 なぜ そう なの か、 それ の わからぬ モノ は ゲイジュツ を だんずる に たらん、 キゲキ に 1 コ でも ヒゲキ メイシ を さしはさんで いる ゲキサクカ は、 すでに それ だけ で ラクダイ、 ヒゲキ の バアイ も また しかり、 と いった よう な わけ なの でした。
「いい かい? タバコ は?」
 と ジブン が といます。
「トラ (トラジディ の リャク)」
 と ホリキ が ゲンカ に こたえます。
「クスリ は?」
「コナグスリ かい? ガンヤク かい?」
「チュウシャ」
「トラ」
「そう かな? ホルモン チュウシャ も ある し ねえ」
「いや、 だんぜん トラ だ。 ハリ が だいいち、 オマエ、 リッパ な トラ じゃ ない か」
「よし、 まけて おこう。 しかし、 キミ、 クスリ や イシャ は ね、 あれ で あんがい、 コメ (コメディ の リャク) なん だぜ。 シ は?」
「コメ。 ボクシ も オショウ も しかり じゃ ね」
「オオデキ。 そうして、 セイ は トラ だなあ」
「ちがう。 それ も、 コメ」
「いや、 それ では、 なんでも かでも みな コメ に なって しまう。 では ね、 もう ヒトツ おたずね する が、 マンガカ は? よもや、 コメ とは いえません でしょう?」
「トラ、 トラ。 ダイ ヒゲキ メイシ!」
「ナン だ、 オオトラ は キミ の ほう だぜ」
 こんな、 ヘタ な ダジャレ みたい な こと に なって しまって は、 つまらない の です けど、 しかし ジブン たち は その ユウギ を、 セカイ の サロン にも かつて そんしなかった すこぶる キ の きいた もの だ と トクイ-がって いた の でした。
 また もう ヒトツ、 これ に にた ユウギ を トウジ、 ジブン は ハツメイ して いました。 それ は、 アントニム の アテッコ でした。 クロ の アント (アントニム の リャク) は、 シロ。 けれども、 シロ の アント は、 アカ。 アカ の アント は、 クロ。
「ハナ の アント は?」
 と ジブン が とう と、 ホリキ は クチ を まげて かんがえ、
「ええっと、 カゲツ と いう リョウリヤ が あった から、 ツキ だ」
「いや、 それ は アント に なって いない。 むしろ、 シノニム だ。 ホシ と スミレ だって、 シノニム じゃ ない か。 アント で ない」
「わかった、 それ は ね、 ハチ だ」
「ハチ?」
「ボタン に、 ……アリ か?」
「なあん だ、 それ は モチーフ だ。 ごまかしちゃ いけない」
「わかった! ハナ に ムラクモ、……」
「ツキ に ムラクモ だろう」
「そう、 そう。 ハナ に カゼ。 カゼ だ。 ハナ の アント は、 カゼ」
「まずい なあ、 それ は ナニワブシ の モンク じゃ ない か。 オサト が しれる ぜ」
「いや、 ビワ だ」
「なお いけない。 ハナ の アント は ね、 ……およそ コノヨ で もっとも ハナ-らしく ない もの、 それ を こそ あげる べき だ」
「だから、 その、 ……まて よ、 なあん だ、 オンナ か」
「ついでに、 オンナ の シノニム は?」
「ゾウモツ」
「キミ は、 どうも、 ポエジー を しらん ね。 それじゃあ、 ゾウモツ の アント は?」
「ギュウニュウ」
「これ は、 ちょっと うまい な。 その チョウシ で もう ヒトツ。 ハジ。 オント の アント」
「ハジシラズ さ。 リュウコウ マンガカ ジョウシ イクタ」
「ホリキ マサオ は?」
 この ヘン から フタリ だんだん わらえなく なって、 ショウチュウ の ヨイ トクユウ の、 あの ガラス の ハヘン が アタマ に ジュウマン して いる よう な、 インウツ な キブン に なって きた の でした。
「ナマイキ いうな。 オレ は まだ オマエ の よう に、 ナワメ の チジョク など うけた こと が ねえ ん だ」
 ぎょっと しました。 ホリキ は ナイシン、 ジブン を、 マニンゲン アツカイ に して いなかった の だ、 ジブン を ただ、 シニゾコナイ の、 ハジシラズ の、 アホウ の バケモノ の、 いわば 「いける シカバネ」 と しか かいして くれず、 そうして、 カレ の カイラク の ため に、 ジブン を リヨウ できる ところ だけ は リヨウ する、 それっきり の 「コウユウ」 だった の だ、 と おもったら、 さすが に いい キモチ は しません でした が、 しかし また、 ホリキ が ジブン を そのよう に みて いる の も、 もっとも な ハナシ で、 ジブン は ムカシ から、 ニンゲン の シカク の ない みたい な コドモ だった の だ、 やっぱり ホリキ に さえ ケイベツ せられて シトウ なの かも しれない、 と かんがえなおし、
「ツミ。 ツミ の アントニム は、 ナン だろう。 これ は、むずかしい ぞ」
 と なにげなさそう な ヒョウジョウ を よそおって、 いう の でした。
「ホウリツ さ」
 ホリキ が へいぜん と そう こたえました ので、 ジブン は ホリキ の カオ を みなおしました。 チカク の ビル の メイメツ する ネオン サイン の あかい ヒカリ を うけて、 ホリキ の カオ は、 オニケイジ の ごとく イゲン ありげ に みえました。 ジブン は、 つくづく あきれかえり、
「ツミ って の は、 キミ、 そんな もの じゃ ない だろう」
 ツミ の タイギゴ が、 ホウリツ とは! しかし、 セケン の ヒトタチ は、 ミンナ それ くらい に カンタン に かんがえて、 すまして くらして いる の かも しれません。 ケイジ の いない ところ に こそ ツミ が うごめいて いる、 と。
「それじゃあ、 ナン だい、 カミ か? オマエ には、 どこ か ヤソ ボウズ-くさい ところ が ある から な。 イヤミ だぜ」
「まあ そんな に、 かるく かたづけるな よ。 もすこし、 フタリ で かんがえて みよう。 これ は でも、 おもしろい テーマ じゃ ない か。 この テーマ に たいする コタエ ヒトツ で、 その ヒト の ゼンブ が わかる よう な キ が する の だ」
「まさか。 ……ツミ の アント は、 ゼン さ。 ゼンリョウ なる シミン。 つまり、 オレ みたい な モノ さ」
「ジョウダン は、 よそう よ。 しかし、 ゼン は アク の アント だ。 ツミ の アント では ない」
「アク と ツミ とは ちがう の かい?」
「ちがう、 と おもう。 ゼンアク の ガイネン は ニンゲン が つくった もの だ。 ニンゲン が カッテ に つくった ドウトク の コトバ だ」
「うるせえ なあ。 それじゃ、 やっぱり、 カミ だろう。 カミ、 カミ。 なんでも、 カミ に して おけば マチガイ ない。 ハラ が へった なあ」
「イマ、 シタ で ヨシコ が ソラマメ を にて いる」
「ありがてえ。 コウブツ だ」
 リョウテ を アタマ の ウシロ に くんで、 アオムケ に ごろり と ねました。
「キミ には、 ツミ と いう もの が、 まるで キョウミ ない らしい ね」
「そりゃ そう さ、 オマエ の よう に、 ザイニン では ない ん だ から。 オレ は ドウラク は して も、 オンナ を しなせたり、 オンナ から カネ を まきあげたり なんか は しねえ よ」
 しなせた の では ない、 まきあげた の では ない、 と ココロ の どこ か で かすか な、 けれども ヒッシ の コウギ の コエ が おこって も、 しかし、 また、 いや ジブン が わるい の だ と すぐに おもいかえして しまう この シュウヘキ。
 ジブン には、 どうしても、 ショウメン きって の ギロン が できません。 ショウチュウ の インウツ な ヨイ の ため に こくいっこく、 キモチ が けわしく なって くる の を ケンメイ に おさえて、 ほとんど ヒトリゴト の よう に して いいました。
「しかし、 ロウヤ に いれられる こと だけ が ツミ じゃ ない ん だ。 ツミ の アント が わかれば、 ツミ の ジッタイ も つかめる よう な キ が する ん だ けど、 ……カミ、 ……スクイ、 ……アイ、 ……ヒカリ、 ……しかし、 カミ には サタン と いう アント が ある し、 スクイ の アント は クノウ だろう し、 アイ には ニクシミ、 ヒカリ には ヤミ と いう アント が あり、 ゼン には アク、 ツミ と イノリ、 ツミ と クイ、 ツミ と コクハク、 ツミ と、 ……ああ、 みんな シノニム だ、 ツミ の ツイゴ は ナン だ」
「ツミ の ツイゴ は、 ミツ さ。 ミツ の ごとく あまし だ。 ハラ が へった なあ。 ナニ か くう もの を もって こい よ」
「キミ が もって きたら いい じゃ ない か!」
 ほとんど うまれて はじめて と いって いい くらい の、 はげしい イカリ の コエ が でました。
「ようし、 それじゃ、 シタ へ いって、 ヨシ ちゃん と フタリ で ツミ を おかして こよう。 ギロン より ジッチ ケンブン。 ツミ の アント は、 ミツマメ、 いや、 ソラマメ か」
 ほとんど、 ロレツ の まわらぬ くらい に よって いる の でした。
「カッテ に しろ。 どこ か へ いっちまえ!」
「ツミ と クウフク、 クウフク と ソラマメ、 いや、 これ は シノニム か」
 デタラメ を いいながら おきあがります。
 ツミ と バツ。 ドストイエフスキー。 ちらと それ が、 ズノウ の カタスミ を かすめて とおり、 はっと おもいました。 もしも、 あの ドスト シ が、 ツミ と バツ を シノニム と かんがえず、 アントニム と して おきならべた もの と したら? ツミ と バツ、 ゼッタイ に あいつうぜざる もの、 ヒョウタン あいいれざる もの。 ツミ と バツ を アント と して かんがえた ドスト の アオミドロ、 くさった イケ、 ランマ の オクソコ の、 ……ああ、 わかりかけた、 いや、 まだ、 ……など と ズノウ に ソウマトウ が くるくる まわって いた とき に、
「おい! とんだ、 ソラマメ だ。 こい!」
 ホリキ の コエ も カオイロ も かわって います。 ホリキ は、 たったいま ふらふら おきて シタ へ いった、 か と おもう と また ひきかえして きた の です。
「ナン だ」
 イヨウ に サッキ-だち、 フタリ、 オクジョウ から 2 カイ へ おり、 2 カイ から、 さらに カイカ の ジブン の ヘヤ へ おりる カイダン の チュウト で ホリキ は たちどまり、
「みろ!」
 と コゴエ で いって ゆびさします。
 ジブン の ヘヤ の ウエ の コマド が あいて いて、 そこ から ヘヤ の ナカ が みえます。 デンキ が ついた まま で、 2 ヒキ の ドウブツ が いました。
 ジブン は、 ぐらぐら メマイ しながら、 これ も また ニンゲン の スガタ だ、 これ も また ニンゲン の スガタ だ、 おどろく こと は ない、 など はげしい コキュウ と ともに ムネ の ナカ で つぶやき、 ヨシコ を たすける こと も わすれ、 カイダン に たちつくして いました。
 ホリキ は、 おおきい セキバライ を しました。 ジブン は、 ヒトリ にげる よう に また オクジョウ に かけあがり、 ねころび、 アメ を ふくんだ ナツ の ヨゾラ を あおぎ、 その とき ジブン を おそった カンジョウ は、 イカリ でも なく、 ケンオ でも なく、 また、 カナシミ でも なく、 ものすさまじい キョウフ でした。 それ も、 ボチ の ユウレイ など に たいする キョウフ では なく、 ジンジャ の スギコダチ で ハクイ の ゴシンタイ に あった とき に かんずる かも しれない よう な、 しのごの いわさぬ コダイ の あらあらしい キョウフカン でした。 ジブン の ワカジラガ は、 その ヨ から はじまり、 いよいよ、 スベテ に ジシン を うしない、 いよいよ、 ヒト を そこしれず うたがい、 コノヨ の イトナミ に たいする イッサイ の キタイ、 ヨロコビ、 キョウメイ など から エイエン に はなれる よう に なりました。 じつに、 それ は ジブン の ショウガイ に おいて、 ケッテイテキ な ジケン でした。 ジブン は、 マッコウ から ミケン を わられ、 そうして それ イライ その キズ は、 どんな ニンゲン に でも セッキン する ごと に いたむ の でした。
「ドウジョウ は する が、 しかし、 オマエ も これ で、 すこし は おもいしったろう。 もう、 オレ は、 ニド と ここ へは こない よ。 まるで、 ジゴク だ。 ……でも、 ヨシ ちゃん は、 ゆるして やれ。 オマエ だって、 どうせ、 ろく な ヤツ じゃ ない ん だ から。 シッケイ する ぜ」
 きまずい バショ に、 ながく とどまって いる ほど マ の ぬけた ホリキ では ありません でした。
 ジブン は おきあがって、 ヒトリ で ショウチュウ を のみ、 それから、 おいおい コエ を はなって なきました。 いくらでも、 いくらでも なける の でした。
 いつのまにか、 ハイゴ に、 ヨシコ が、 ソラマメ を ヤマモリ に した オサラ を もって ぼんやり たって いました。
「なんにも、 しない から って いって、……」
「いい。 なにも いうな。 オマエ は、 ヒト を うたがう こと を しらなかった ん だ。 おすわり。 マメ を たべよう」
 ならんで すわって マメ を たべました。 ああ、 シンライ は ツミ なり や? アイテ の オトコ は、 ジブン に マンガ を かかせて は、 わずか な オカネ を もったいぶって おいて ゆく 30 サイ ゼンゴ の ムガク な コオトコ の ショウニン なの でした。
 さすが に その ショウニン は、 ソノゴ やって は きません でした が、 ジブン には、 どうして だ か、 その ショウニン に たいする ゾウオ より も、 サイショ に みつけた すぐ その とき に おおきい セキバライ も なにも せず、 そのまま ジブン に しらせ に また オクジョウ に ひきかえして きた ホリキ に たいする ニクシミ と イカリ が、 ねむられぬ ヨル など に むらむら おこって うめきました。
 ゆるす も、 ゆるさぬ も ありません。 ヨシコ は シンライ の テンサイ なの です。 ヒト を うたがう こと を しらなかった の です。 しかし、 それ ゆえ の ヒサン。
 カミ に とう。 シンライ は ツミ なり や。
 ヨシコ が けがされた と いう こと より も、 ヨシコ の シンライ が けがされた と いう こと が、 ジブン に とって その ノチ ながく、 いきて おられない ほど の クノウ の タネ に なりました。 ジブン の よう な、 いやらしく おどおど して、 ヒト の カオイロ ばかり うかがい、 ヒト を しんじる ノウリョク が、 ひびわれて しまって いる モノ に とって、 ヨシコ の ムク の シンライシン は、 それこそ アオバ の タキ の よう に すがすがしく おもわれて いた の です。 それ が イチヤ で、 きいろい オスイ に かわって しまいました。 みよ、 ヨシコ は、 その ヨ から ジブン の イッピン イッショウ に さえ キ を つかう よう に なりました。
「おい」
 と よぶ と、 ぴくっと して、 もう メ の ヤリバ に こまって いる ヨウス です。 どんな に ジブン が わらわせよう と して、 オドウケ を いって も、 おろおろ し、 びくびく し、 やたら に ジブン に ケイゴ を つかう よう に なりました。
 はたして、 ムク の シンライシン は、 ツミ の ゲンセン なり や。
 ジブン は、 ヒトヅマ の おかされた モノガタリ の ホン を、 いろいろ さがして よんで みました。 けれども、 ヨシコ ほど ヒサン な オカサレカタ を して いる オンナ は、 ヒトリ も ない と おもいました。 どだい、 これ は、 てんで モノガタリ にも なにも なりません。 あの コオトコ の ショウニン と、 ヨシコ との アイダ に、 すこし でも コイ に にた カンジョウ でも あった なら、 ジブン の キモチ も かえって たすかる かも しれません が、 ただ、 ナツ の イチヤ、 ヨシコ が シンライ して、 そうして、 それっきり、 しかも その ため に ジブン の ミケン は、 マッコウ から わられ コエ が しゃがれて ワカジラガ が はじまり、 ヨシコ は イッショウ おろおろ しなければ ならなく なった の です。 タイテイ の モノガタリ は、 その ツマ の 「コウイ」 を オット が ゆるす か どう か、 そこ に ジュウテン を おいて いた よう でした が、 それ は ジブン に とって は、 そんな に くるしい ダイモンダイ では ない よう に おもわれました。 ゆるす、 ゆるさぬ、 そのよう な ケンリ を リュウホ して いる オット こそ サイワイ なる かな、 とても ゆるす こと が できぬ と おもった なら、 なにも そんな に オオサワギ せず とも、 さっさと ツマ を リエン して、 あたらしい ツマ を むかえたら どう だろう、 それ が できなかったら、 いわゆる 「ゆるして」 ガマン する さ、 いずれ に して も オット の キモチ ヒトツ で シホウ ハッポウ が まるく おさまる だろう に、 と いう キ さえ する の でした。 つまり、 そのよう な ジケン は、 たしか に オット に とって おおいなる ショック で あって も、 しかし、 それ は 「ショック」 で あって、 いつまでも つきる こと なく うちかえし うちよせる ナミ と ちがい、 ケンリ の ある オット の イカリ で もって どう に でも ショリ できる トラブル の よう に ジブン には おもわれた の でした。 けれども、 ジブン たち の バアイ、 オット に なんの ケンリ も なく、 かんがえる と なにもかも ジブン が わるい よう な キ が して きて、 おこる どころ か、 オコゴト ヒトツ も いえず、 また、 その ツマ は、 その ショユウ して いる まれ な ビシツ に よって おかされた の です。 しかも、 その ビシツ は、 オット の かねて アコガレ の、 ムク の シンライシン と いう たまらなく カレン な もの なの でした。
 ムク の シンライシン は、 ツミ なり や。
 ユイイツ の タノミ の ビシツ に さえ、 ギワク を いだき、 ジブン は、 もはや なにもかも、 ワケ が わからなく なり、 おもむく ところ は、 ただ アルコール だけ に なりました。 ジブン の カオ の ヒョウジョウ は キョクド に いやしく なり、 アサ から ショウチュウ を のみ、 ハ が ぼろぼろ に かけて、 マンガ も ほとんど ワイガ に ちかい もの を かく よう に なりました。 いいえ、 はっきり いいます。 ジブン は その コロ から、 シュンガ の コピー を して ミツバイ しました。 ショウチュウ を かう オカネ が ほしかった の です。 いつも ジブン から シセン を はずして おろおろ して いる ヨシコ を みる と、 コイツ は まったく ケイカイ を しらぬ オンナ だった から、 あの ショウニン と イチド だけ では なかった の では なかろう か、 また、 ホリキ は? いや、 あるいは ジブン の しらない ヒト とも? と ギワク は ギワク を うみ、 さりとて おもいきって それ を といただす ユウキ も なく、 レイ の フアン と キョウフ に のたうちまわる オモイ で、 ただ ショウチュウ を のんで よって は、 わずか に ヒクツ な ユウドウ ジンモン みたい な もの を おっかなびっくり こころみ、 ナイシン おろかしく イッキ イチユウ し、 ウワベ は、 やたら に おどけて、 そうして、 それから、 ヨシコ に いまわしい ジゴク の アイブ を くわえ、 ドロ の よう に ねむりこける の でした。
 その トシ の クレ、 ジブン は ヨル おそく デイスイ して キタク し、 サトウミズ を のみたく、 ヨシコ は ねむって いる よう でした から、 ジブン で オカッテ に ゆき サトウツボ を さがしだし、 フタ を あけて みたら サトウ は なにも はいって なくて、 くろく ほそながい カミ の コバコ が はいって いました。 なにげなく テ に とり、 その ハコ に はられて ある レッテル を みて がくぜん と しました。 その レッテル は、 ツメ で ハンブン イジョウ も かきはがされて いました が、 ヨウジ の ブブン が のこって いて、 それ に はっきり かかれて いました。 DIAL。
 ジアール。 ジブン は その コロ もっぱら ショウチュウ で、 サイミンザイ を もちいて は いません でした が、 しかし、 フミン は ジブン の ジビョウ の よう な もの でした から、 タイテイ の サイミンザイ には オナジミ でした。 ジアール の この ハコ ヒトツ は、 たしか に チシリョウ イジョウ の はず でした。 まだ ハコ の フウ を きって は いません でした が、 しかし、 いつかは、 やる キ で こんな ところ に、 しかも レッテル を かきはがしたり など して かくして いた の に チガイ ありません。 かわいそう に、 あの コ には レッテル の ヨウジ が よめない ので、 ツメ で ハンブン かきはがして、 これ で だいじょうぶ と おもって いた の でしょう。 (オマエ に ツミ は ない)
 ジブン は、 オト を たてない よう に そっと コップ に ミズ を みたし、 それから、 ゆっくり ハコ の フウ を きって、 ゼンブ、 イッキ に クチ の ナカ に ほうり、 コップ の ミズ を おちついて のみほし、 デントウ を けして そのまま ねました。
 3 チュウヤ、 ジブン は しんだ よう に なって いた そう です。 イシャ は カシツ と みなして、 ケイサツ に とどける の を ユウヨ して くれた そう です。 カクセイ しかけて、 いちばん サキ に つぶやいた ウワゴト は、 ウチ へ かえる、 と いう コトバ だった そう です。 ウチ とは、 どこ の こと を さして いった の か、 とうの ジブン にも、 よく わかりません が、 とにかく、 そう いって、 ひどく ないた そう です。
 しだいに キリ が はれて、 みる と、 マクラモト に ヒラメ が、 ひどく フキゲン な カオ を して すわって いました。
「コノマエ も、 トシ の クレ の こと でして ね、 おたがい もう、 メ が まわる くらい いそがしい のに、 いつも、 トシ の クレ を ねらって、 こんな こと を やられた ヒ には、 こっち の イノチ が たまらない」
 ヒラメ の ハナシ の キキテ に なって いる の は、 キョウバシ の バー の マダム でした。
「マダム」
 と ジブン は よびました。
「うん、 ナニ? キ が ついた?」
 マダム は ワライガオ を ジブン の カオ の ウエ に かぶせる よう に して いいました。
 ジブン は、 ぽろぽろ ナミダ を ながし、
「ヨシコ と わかれさせて」
 ジブン でも おもいがけなかった コトバ が でました。
 マダム は ミ を おこし、 かすか な タメイキ を もらしました。
 それから ジブン は、 これ も また じつに おもいがけない コッケイ とも あほうらしい とも、 ケイヨウ に くるしむ ほど の シツゲン を しました。
「ボク は、 オンナ の いない ところ に いく ん だ」
 うわっはっは、 と まず、 ヒラメ が オオゴエ を あげて わらい、 マダム も くすくす わらいだし、 ジブン も ナミダ を ながしながら セキメン の テイ に なり、 クショウ しました。
「うん、 その ほう が いい」
 と ヒラメ は、 いつまでも だらしなく わらいながら、
「オンナ の いない ところ に いった ほう が よい。 オンナ が いる と、 どうも いけない。 オンナ の いない ところ とは、 いい オモイツキ です」
 オンナ の いない ところ。 しかし、 この ジブン の あほうくさい ウワゴト は、 ノチ に いたって、 ヒジョウ に インサン に ジツゲン せられました。
 ヨシコ は、 ナニ か、 ジブン が ヨシコ の ミガワリ に なって ドク を のんだ と でも おもいこんで いる らしく、 イゼン より も なお いっそう、 ジブン に たいして、 おろおろ して、 ジブン が ナニ を いって も わらわず、 そうして ろくに クチ も きけない よう な アリサマ なので、 ジブン も アパート の ヘヤ の ナカ に いる の が、 うっとうしく、 つい ソト へ でて、 あいかわらず やすい サケ を あおる こと に なる の でした。 しかし、 あの ジアール の イッケン イライ、 ジブン の カラダ が めっきり やせほそって、 テアシ が だるく、 マンガ の シゴト も なまけがち に なり、 ヒラメ が あの とき、 ミマイ と して おいて いった オカネ (ヒラメ は それ を、 シブタ の ココロザシ です、 と いって いかにも ゴジシン から でた オカネ の よう に して さしだしました が、 これ も コキョウ の アニ たち から の オカネ の よう でした。 ジブン も その コロ には、 ヒラメ の イエ から にげだした あの とき と ちがって、 ヒラメ の そんな もったいぶった シバイ を、 おぼろげ ながら みぬく こと が できる よう に なって いました ので、 こちら も ずるく、 まったく きづかぬ フリ を して、 シンミョウ に その オカネ の オレイ を ヒラメ に むかって もうしあげた の でした が、 しかし、 ヒラメ たち が、 なぜ、 そんな ややこしい カラクリ を やらかす の か、 わかるよう な、 わからない よう な、 どうしても ジブン には、 ヘン な キ が して なりません でした) その オカネ で、 おもいきって ヒトリ で ミナミ イズ の オンセン に いって みたり など しました が、 とても そんな ユウチョウ な オンセン メグリ など できる ガラ では なく、 ヨシコ を おもえば ワビシサ かぎりなく、 ヤド の ヘヤ から ヤマ を ながめる など の おちついた シンキョウ には はなはだ とおく、 ドテラ にも きがえず、 オユ にも はいらず、 ソト へ とびだして は うすぎたない チャミセ みたい な ところ に とびこんで、 ショウチュウ を、 それこそ あびる ほど のんで、 カラダグアイ を いっそう わるく して キキョウ した だけ の こと でした。
 トウキョウ に オオユキ の ふった ヨル でした。 ジブン は よって ギンザ ウラ を、 ここ は オクニ を ナンビャクリ、 ここ は オクニ を ナンビャクリ、 と コゴエ で くりかえし くりかえし つぶやく よう に うたいながら、 なおも ふりつもる ユキ を クツサキ で けちらして あるいて、 とつぜん、 はきました。 それ は ジブン の サイショ の カッケツ でした。 ユキ の ウエ に、 おおきい ヒノマル の ハタ が できました。 ジブン は、 しばらく しゃがんで、 それから、 よごれて いない カショ の ユキ を リョウテ で すくいとって、 カオ を あらいながら なきました。
 こうこ は、 どうこ の ホソミチ じゃ?
 こうこ は、 どうこ の ホソミチ じゃ?
 あわれ な ドウジョ の ウタゴエ が、 ゲンチョウ の よう に、 かすか に トオク から きこえます。 フコウ。 コノヨ には、 サマザマ の フコウ な ヒト が、 いや、 フコウ な ヒト ばかり、 と いって も カゴン では ない でしょう が、 しかし、 その ヒトタチ の フコウ は、 いわゆる セケン に たいして どうどう と コウギ が でき、 また 「セケン」 も その ヒトタチ の コウギ を ヨウイ に リカイ し ドウジョウ します。 しかし、 ジブン の フコウ は、 すべて ジブン の ザイアク から なので、 ダレ にも コウギ の シヨウ が ない し、 また くちごもりながら ヒトコト でも コウギ-めいた こと を いいかける と、 ヒラメ ならず とも セケン の ヒトタチ ゼンブ、 よくも まあ そんな クチ が きけた もの だ と あきれかえる に ちがいない し、 ジブン は いったい ぞくに いう 「ワガママモノ」 なの か、 または その ハンタイ に、 キ が よわすぎる の か、 ジブン でも ワケ が わからない けれども、 とにかく ザイアク の カタマリ らしい ので、 どこまでも おのずから どんどん フコウ に なる ばかり で、 ふせぎとめる グタイサク など ない の です。
 ジブン は たって、 とりあえず ナニ か テキトウ な クスリ を と おもい、 チカク の クスリヤ に はいって、 そこ の オクサン と カオ を みあわせ、 シュンカン、 オクサン は、 フラッシュ を あびた みたい に クビ を あげ メ を みはり、 ボウダチ に なりました。 しかし、 その みはった メ には、 キョウガク の イロ も ケンオ の イロ も なく、 ほとんど スクイ を もとめる よう な、 したう よう な イロ が あらわれて いる の でした。 ああ、 この ヒト も、 きっと フコウ な ヒト なの だ、 フコウ な ヒト は、 ヒト の フコウ にも ビンカン な もの なの だ から、 と おもった とき、 ふと、 その オクサン が マツバヅエ を ついて あぶなっかしく たって いる の に キ が つきました。 かけよりたい オモイ を おさえて、 なおも その オクサン と カオ を みあわせて いる うち に ナミダ が でて きました。 すると、 オクサン の おおきい メ から も、 ナミダ が ぽろぽろ と あふれて でました。
 それっきり、 ヒトコト も クチ を きかず に、 ジブン は その クスリヤ から でて、 よろめいて アパート に かえり、 ヨシコ に シオミズ を つくらせて のみ、 だまって ねて、 あくる ヒ も、 カゼギミ だ と ウソ を ついて イチニチ いっぱい ねて、 ヨル、 ジブン の ヒミツ の カッケツ が どうにも フアン で たまらず、 おきて、 あの クスリヤ に ゆき、 コンド は わらいながら、 オクサン に、 じつに すなお に イマ まで の カラダグアイ を コクハク し、 ソウダン しました。
「オサケ を およし に ならなければ」
 ジブン たち は、 ニクシン の よう でした。
「アルチュウ に なって いる かも しれない ん です。 イマ でも のみたい」
「いけません。 ワタシ の シュジン も、 テーベ の くせ に、 キン を サケ で ころす ん だ なんて いって、 サケビタリ に なって、 ジブン から ジュミョウ を ちぢめました」
「フアン で いけない ん です。 こわくて、 とても、 ダメ なん です」
「オクスリ を さしあげます。 オサケ だけ は、 およしなさい」
 オクサン (ミボウジン で、 オトコ の コ が ヒトリ、 それ は チバ だ か どこ だ か の イダイ に はいって、 まもなく チチ と おなじ ヤマイ に かかり、 キュウガク ニュウインチュウ で、 イエ には チュウフウ の シュウト が ねて いて、 オクサン ジシン は 5 サイ の オリ、 ショウニ マヒ で カタホウ の アシ が ぜんぜん ダメ なの でした) は、 マツバヅエ を ことこと と つきながら、 ジブン の ため に あっち の タナ、 こっち の ヒキダシ、 いろいろ と ヤクヒン を とりそろえて くれる の でした。
 これ は、 ゾウケツザイ。
 これ は、 ヴィタミン の チュウシャエキ。 チュウシャキ は、 これ。
 これ は、 カルシウム の ジョウザイ。 イチョウ を こわさない よう に、 ジアスターゼ。
 これ は、 ナニ。 これ は、 ナニ、 と 5~6 シュ の ヤクヒン の セツメイ を アイジョウ こめて して くれた の です が、 しかし、 この フコウ な オクサン の アイジョウ も また、 ジブン に とって ふかすぎました。 サイゴ に オクサン が、 これ は、 どうしても、 なんと して も オサケ を のみたくて、 たまらなく なった とき の オクスリ、 と いって すばやく カミ に つつんだ コバコ。
 モルヒネ の チュウシャエキ でした。
 サケ より は、 ガイ に ならぬ と オクサン も いい、 ジブン も それ を しんじて、 また ヒトツ には、 サケ の ヨイ も さすが に フケツ に かんぜられて きた ヤサキ でも あった し、 ヒサシブリ に アルコール と いう サタン から のがれる こと の できる ヨロコビ も あり、 なんの チュウチョ も なく、 ジブン は ジブン の ウデ に、 その モルヒネ を チュウシャ しました。 フアン も、 ショウソウ も、 ハニカミ も、 きれい に ジョキョ せられ、 ジブン は はなはだ ヨウキ な ノウベンカ に なる の でした。 そうして、 その チュウシャ を する と ジブン は、 カラダ の スイジャク も わすれて、 マンガ の シゴト に セイ が でて、 ジブン で かきながら ふきだして しまう ほど チンミョウ な シュコウ が うまれる の でした。
 1 ニチ 1 ポン の つもり が、 2 ホン に なり、 4 ホン に なった コロ には、 ジブン は もう それ が なければ、 シゴト が できない よう に なって いました。
「いけません よ、 チュウドク に なったら、 そりゃ もう、 タイヘン です」
 クスリヤ の オクサン に そう いわれる と、 ジブン は もう かなり の チュウドク カンジャ に なって しまった よう な キ が して きて、 (ジブン は、 ヒト の アンジ に じつに もろく ひっかかる タチ なの です。 この オカネ は つかっちゃ いけない よ、 と いって も、 オマエ の こと だ もの なあ、 なんて いわれる と、 なんだか つかわない と わるい よう な、 キタイ に そむく よう な、 ヘン な サッカク が おこって、 かならず すぐに その オカネ を つかって しまう の でした) その チュウドク の フアン の ため、 かえって ヤクヒン を たくさん もとめる よう に なった の でした。
「たのむ! もう ヒトハコ。 カンジョウ は ゲツマツ に きっと はらいます から」
「カンジョウ なんて、 いつでも かまいません けど、 ケイサツ の ほう が、 うるさい ので ねえ」
 ああ、 いつでも ジブン の シュウイ には、 なにやら、 にごって くらく、 うさんくさい ヒカゲモノ の ケハイ が つきまとう の です。
「そこ を なんとか、 ごまかして、 たのむ よ、 オクサン。 キス して あげよう」
 オクサン は、 カオ を あからめます。
 ジブン は、 いよいよ つけこみ、
「クスリ が ない と シゴト が ちっとも、 はかどらない ん だよ。 ボク には、 あれ は キョウセイザイ みたい な もの なん だ」
「それじゃ、 いっそ、 ホルモン チュウシャ が いい でしょう」
「バカ に しちゃ いけません。 オサケ か、 そう で なければ、 あの クスリ か、 どっち か で なければ シゴト が できない ん だ」
「オサケ は、 いけません」
「そう でしょう? ボク は ね、 あの クスリ を つかう よう に なって から、 オサケ は イッテキ も のまなかった。 おかげで、 カラダ の チョウシ が、 とても いい ん だ。 ボク だって、 いつまでも、 ヘタクソ な マンガ など を かいて いる つもり は ない、 これから、 サケ を やめて、 カラダ を なおして、 ベンキョウ して、 きっと えらい エカキ に なって みせる。 イマ が ダイジ な ところ なん だ。 だから さ、 ね、 おねがい。 キス して あげよう か」
 オクサン は わらいだし、
「こまる わねえ。 チュウドク に なって も しりません よ」
 ことこと と マツバヅエ の オト を させて、 その ヤクヒン を タナ から とりだし、
「ヒトハコ は、 あげられません よ。 すぐ つかって しまう の だ もの。 ハンブン ね」
「ケチ だなあ、 まあ、 シカタ が ない や」
 イエ へ かえって、 すぐに 1 ポン、 チュウシャ を します。
「いたく ない ん です か?」
 ヨシコ は、 おどおど ジブン に たずねます。
「それ あ いたい さ。 でも、 シゴト の ノウリツ を あげる ため には、 いや でも これ を やらなければ いけない ん だ。 ボク は コノゴロ、 とても ゲンキ だろう? さあ、 シゴト だ。 シゴト、 シゴト」
 と はしゃぐ の です。
 シンヤ、 クスリヤ の ト を たたいた こと も ありました。 ネマキスガタ で、 ことこと マツバヅエ を ついて でて きた オクサン に、 いきなり だきついて キス して、 なく マネ を しました。
 オクサン は、 だまって ジブン に ヒトハコ、 てわたしました。
 ヤクヒン も また、 ショウチュウ ドウヨウ、 いや、 それ イジョウ に、 いまわしく フケツ な もの だ と、 つくづく おもいしった とき には、 すでに ジブン は カンゼン な チュウドク カンジャ に なって いました。 しんに、 ハジシラズ の キワミ でした。 ジブン は その ヤクヒン を えたい ばかり に、 またも シュンガ の コピー を はじめ、 そうして、 あの クスリヤ の フグ の オクサン と モジドオリ の シュウカンケイ を さえ むすびました。
 しにたい、 いっそ、 しにたい、 もう トリカエシ が つかない ん だ、 どんな こと を して も、 ナニ を して も、 ダメ に なる だけ なん だ、 ハジ の ウワヌリ を する だけ なん だ、 ジテンシャ で アオバ の タキ など、 ジブン には のぞむ べく も ない ん だ、 ただ けがらわしい ツミ に あさましい ツミ が かさなり、 クノウ が ゾウダイ し キョウレツ に なる だけ なん だ、 しにたい、 しななければ ならぬ、 いきて いる の が ツミ の タネ なの だ、 など と おもいつめて も、 やっぱり、 アパート と クスリヤ の アイダ を ハンキョウラン の スガタ で オウフク して いる ばかり なの でした。
 いくら シゴト を して も、 クスリ の シヨウリョウ も したがって ふえて いる ので、 クスリダイ の カリ が おそろしい ほど の ガク に のぼり、 オクサン は、 ジブン の カオ を みる と ナミダ を うかべ、 ジブン も ナミダ を ながしました。
 ジゴク。
 この ジゴク から のがれる ため の サイゴ の シュダン、 これ が シッパイ したら、 アト は もう クビ を くくる ばかり だ、 と いう カミ の ソンザイ を かける ほど の ケツイ を もって、 ジブン は、 コキョウ の チチ-アテ に ながい テガミ を かいて、 ジブン の ジツジョウ イッサイ を (オンナ の こと は、 さすが に かけません でした が) コクハク する こと に しました。
 しかし、 ケッカ は いっそう わるく、 まてど くらせど なんの ヘンジ も なく、 ジブン は その ショウソウ と フアン の ため に、 かえって クスリ の リョウ を ふやして しまいました。
 コンヤ、 10 ポン、 イッキ に チュウシャ し、 そうして オオカワ に とびこもう と、 ひそか に カクゴ を きめた その ヒ の ゴゴ、 ヒラメ が、 アクマ の カン で かぎつけた みたい に、 ホリキ を つれて あらわれました。
「オマエ は、 カッケツ した ん だって な」
 ホリキ は、 ジブン の マエ に アグラ を かいて そう いい、 イマ まで みた こと も ない くらい に やさしく ほほえみました。 その やさしい ビショウ が、 ありがたくて、 うれしくて、 ジブン は つい カオ を そむけて ナミダ を ながしました。 そうして カレ の その やさしい ビショウ ヒトツ で、 ジブン は カンゼン に うちやぶられ、 ほうむりさられて しまった の です。
 ジブン は ジドウシャ に のせられました。 とにかく ニュウイン しなければ ならぬ、 アト は ジブン たち に まかせなさい、 と ヒラメ も、 しんみり した クチョウ で、 (それ は ジヒ-ぶかい と でも ケイヨウ したい ほど、 ものしずか な クチョウ でした) ジブン に すすめ、 ジブン は イシ も ハンダン も なにも ない モノ の ごとく、 ただ めそめそ なきながら いい だくだく と フタリ の イイツケ に したがう の でした。 ヨシコ も いれて 4 ニン、 ジブン たち は、 ずいぶん ながい こと ジドウシャ に ゆられ、 アタリ が うすぐらく なった コロ、 モリ の ナカ の おおきい ビョウイン の、 ゲンカン に トウチャク しました。
 サナトリアム と ばかり おもって いました。
 ジブン は わかい イシ の いやに ものやわらか な、 テイチョウ な シンサツ を うけ、 それから イシ は、
「まあ、 しばらく ここ で セイヨウ する ん です ね」
 と、 まるで、 はにかむ よう に ビショウ して いい、 ヒラメ と ホリキ と ヨシコ は、 ジブン ヒトリ を おいて かえる こと に なりました が、 ヨシコ は キガエ の イルイ を いれて ある フロシキヅツミ を ジブン に てわたし、 それから だまって オビ の アイダ から チュウシャキ と ツカイノコリ の あの ヤクヒン を さしだしました。 やはり、 キョウセイザイ だ と ばかり おもって いた の でしょう か。
「いや、 もう いらない」
 じつに、 めずらしい こと でした。 すすめられて、 それ を キョヒ した の は、 ジブン の それまで の ショウガイ に おいて、 その とき ただ イチド、 と いって も カゴン で ない くらい なの です。 ジブン の フコウ は、 キョヒ の ノウリョク の ない モノ の フコウ でした。 すすめられて キョヒ する と、 アイテ の ココロ にも ジブン の ココロ にも、 エイエン に シュウゼン しえない しらじらしい ヒビワレ が できる よう な キョウフ に おびやかされて いる の でした。 けれども、 ジブン は その とき、 あれほど ハンキョウラン に なって もとめて いた モルヒネ を、 じつに シゼン に キョヒ しました。 ヨシコ の いわば 「カミ の ごとき ムチ」 に うたれた の でしょう か。 ジブン は、 あの シュンカン、 すでに チュウドク で なくなって いた の では ない でしょう か。
 けれども、 ジブン は それから すぐに、 あの はにかむ よう な ビショウ を する わかい イシ に アンナイ せられ、 ある ビョウトウ に いれられて、 がちゃん と カギ を おろされました。 ノウビョウイン でした。
 オンナ の いない ところ へ いく と いう、 あの ジアール を のんだ とき の ジブン の おろか な ウワゴト が、 まことに キミョウ に ジツゲン せられた わけ でした。 その ビョウトウ には、 オトコ の キョウジン ばかり で、 カンゴニン も オトコ でした し、 オンナ は ヒトリ も いません でした。
 イマ は もう ジブン は、 ザイニン どころ では なく、 キョウジン でした。 いいえ、 だんじて ジブン は くるって など いなかった の です。 イッシュンカン と いえど も、 くるった こと は ない ん です。 けれども、 ああ、 キョウジン は、 たいてい ジブン の こと を そう いう もの だ そう です。 つまり、 この ビョウイン に いれられた モノ は キチガイ、 いれられなかった モノ は、 ノーマル と いう こと に なる よう です。
 カミ に とう。 ムテイコウ は ツミ なり や?
 ホリキ の あの フシギ な うつくしい ビショウ に ジブン は なき、 ハンダン も テイコウ も わすれて ジドウシャ に のり、 そうして ここ に つれて こられて、 キョウジン と いう こと に なりました。 いまに、 ここ から でて も、 ジブン は やっぱり キョウジン、 いや、 ハイジン と いう コクイン を ヒタイ に うたれる こと でしょう。
 ニンゲン、 シッカク。
 もはや、 ジブン は、 カンゼン に、 ニンゲン で なくなりました。
 ここ へ きた の は ショカ の コロ で、 テツ の コウシ の マド から ビョウイン の ニワ の ちいさい イケ に あかい スイレン の ハナ が さいて いる の が みえました が、 それから ミツキ たち、 ニワ に コスモス が さきはじめ、 おもいがけなく コキョウ の チョウケイ が、 ヒラメ を つれて ジブン を ヒキトリ に やって きて、 チチ が センゲツマツ に イカイヨウ で なくなった こと、 ジブン たち は もう オマエ の カコ は とわぬ、 セイカツ の シンパイ も かけない つもり、 なにも しなくて いい、 そのかわり、 いろいろ ミレン も ある だろう が すぐに トウキョウ から はなれて、 イナカ で リョウヨウ セイカツ を はじめて くれ、 オマエ が トウキョウ で しでかした こと の アトシマツ は、 だいたい シブタ が やって くれた はず だ から、 それ は キ に しない で いい、 と レイ の キマジメ な キンチョウ した よう な クチョウ で いう の でした。
 コキョウ の サンガ が ガンゼン に みえる よう な キ が して きて、 ジブン は かすか に うなずきました。
 まさに ハイジン。
 チチ が しんだ こと を しって から、 ジブン は いよいよ ふぬけた よう に なりました。 チチ が、 もう いない、 ジブン の キョウチュウ から イッコク も はなれなかった あの なつかしく おそろしい ソンザイ が、 もう いない、 ジブン の クノウ の ツボ が カラッポ に なった よう な キ が しました。 ジブン の クノウ の ツボ が やけに おもかった の も、 あの チチ の せい だった の では なかろう か と さえ おもわれました。 まるで、 ハリアイ が ぬけました。 クノウ する ノウリョク を さえ うしないました。
 チョウケイ は ジブン に たいする ヤクソク を セイカク に ジッコウ して くれました。 ジブン の うまれて そだった マチ から キシャ で 4~5 ジカン、 ナンカ した ところ に、 トウホク には めずらしい ほど あたたかい ウミベ の オンセンチ が あって、 その ムラハズレ の、 マカズ は イツツ も ある の です が、 かなり ふるい イエ らしく カベ は はげおち、 ハシラ は ムシ に くわれ、 ほとんど シュウリ の シヨウ も ない ほど の ボウオク を かいとって ジブン に あたえ、 60 に ちかい ひどい アカゲ の みにくい ジョチュウ を ヒトリ つけて くれました。
 それから 3 ネン と すこし たち、 ジブン は その アイダ に その テツ と いう ロウジョチュウ に スウド ヘン な オカサレカタ を して、 ときたま フウフ-ゲンカ みたい な こと を はじめ、 ムネ の ビョウキ の ほう は イッシン イッタイ、 やせたり ふとったり、 ケッタン が でたり、 キノウ、 テツ に カルモチン を かって おいで、 と いって、 ムラ の クスリヤ に オツカイ に やったら、 イツモ の ハコ と ちがう カタチ の ハコ の カルモチン を かって きて、 べつに ジブン も キ に とめず、 ねる マエ に 10 ジョウ のんで も いっこう に ねむく ならない ので、 おかしい な と おもって いる うち に、 オナカ の グアイ が ヘン に なり いそいで ベンジョ へ いったら モウレツ な ゲリ で、 しかも、 それから ひきつづき 3 ド も ベンジョ に かよった の でした。 フシン に たえず、 クスリ の ハコ を よく みる と、 それ は ヘノモチン と いう ゲザイ でした。
 ジブン は アオムケ に ねて、 オナカ に ユタンポ を のせながら、 テツ に コゴト を いって やろう と おもいました。
「これ は、 オマエ、 カルモチン じゃ ない、 ヘノモチン、 と いう」
 と いいかけて、 うふふふ と わらって しまいました。 「ハイジン」 は、 どうやら これ は、 キゲキ メイシ の よう です。 ねむろう と して ゲザイ を のみ、 しかも、 その ゲザイ の ナマエ は、 ヘノモチン。
 イマ は ジブン には、 コウフク も フコウ も ありません。
 ただ、 イッサイ は すぎて ゆきます。
 ジブン が イマ まで アビキョウカン で いきて きた いわゆる 「ニンゲン」 の セカイ に おいて、 たった ヒトツ、 シンリ らしく おもわれた の は、 それ だけ でした。
 ただ、 イッサイ は すぎて ゆきます。
 ジブン は コトシ、 27 に なります。 シラガ が めっきり ふえた ので、 タイテイ の ヒト から、 40 イジョウ に みられます。

 アトガキ

 この シュキ を かきつづった キョウジン を、 ワタシ は、 チョクセツ には しらない。 けれども、 この シュキ に でて くる キョウバシ の スタンド バー の マダム とも おぼしき ジンブツ を、 ワタシ は ちょっと しって いる の で ある。 コガラ で、 カオイロ の よく ない、 メ が ほそく つりあがって いて、 ハナ の たかい、 ビジン と いう より は、 ビセイネン と いった ほう が いい くらい の かたい カンジ の ヒト で あった。 この シュキ には、 どうやら、 ショウワ 5、 6、 7 ネン、 あの コロ の トウキョウ の フウケイ が おもに うつされて いる よう に おもわれる が、 ワタシ が、 その キョウバシ の スタンド バー に、 ユウジン に つれられて 2~3 ド、 たちより、 ハイボール など のんだ の は、 レイ の ニホン の 「グンブ」 が そろそろ ロコツ に あばれはじめた ショウワ 10 ネン ゼンゴ の こと で あった から、 この シュキ を かいた オトコ には、 オメ に かかる こと が できなかった わけ で ある。
 しかるに、 コトシ の 2 ガツ、 ワタシ は チバ ケン フナバシ シ に ソカイ して いる ある ユウジン を たずねた。 その ユウジン は、 ワタシ の ダイガク ジダイ の いわば ガクユウ で、 イマ は ボウ-ジョシダイ の コウシ を して いる の で ある が、 じつは ワタシ は この ユウジン に ワタシ の ミウチ の モノ の エンダン を イライ して いた ので、 その ヨウジ も あり、 かたがた ナニ か シンセン な カイサンブツ でも しいれて ワタシ の イエ の モノタチ に くわせて やろう と おもい、 リュックサック を せおって フナバシ シ へ でかけて いった の で ある。
 フナバシ シ は、 ドロウミ に のぞんだ かなり おおきい マチ で あった。 シン ジュウミン たる その ユウジン の イエ は、 その トチ の ヒト に トコロバンチ を つげて たずねて も、 なかなか わからない の で ある。 さむい うえ に、 リュックサック を せおった カタ が いたく なり、 ワタシ は レコード の ヴァイオリン の オト に ひかれて、 ある キッサテン の ドア を おした。
 そこ の マダム に ミオボエ が あり、 たずねて みたら、 まさに、 10 ネン マエ の あの キョウバシ の ちいさい バー の マダム で あった。 マダム も、 ワタシ を すぐに おもいだして くれた ヨウス で、 たがいに おおげさ に おどろき、 わらい、 それから こんな とき の オキマリ の、 レイ の、 クウシュウ で やけだされた オタガイ の ケイケン を とわれ も せぬ のに、 いかにも ジマン-らしく かたりあい、
「アナタ は、 しかし、 かわらない」
「いいえ、 もう オバアサン。 カラダ が、 がたぴし です。 アナタ こそ、 おわかい わ」
「とんでもない、 コドモ が もう 3 ニン も ある ん だよ。 キョウ は ソイツラ の ため に カイダシ」
 など と、 これ も また ヒサシブリ で あった モノ ドウシ の オキマリ の アイサツ を かわし、 それから、 フタリ に キョウツウ の チジン の ソノゴ の ショウソク を たずねあったり して、 その うち に、 ふと マダム は クチョウ を あらため、 アナタ は ヨウ ちゃん を しって いた かしら、 と いう。 それ は しらない、 と こたえる と、 マダム は、 オク へ いって、 3 サツ の ノートブック と、 3 ヨウ の シャシン を もって きて ワタシ に てわたし、
「ナニ か、 ショウセツ の ザイリョウ に なる かも しれません わ」
 と いった。
 ワタシ は、 ヒト から おしつけられた ザイリョウ で モノ を かけない タチ なので、 すぐに その バ で かえそう か と おもった が、 (3 ヨウ の シャシン、 その キカイサ に ついて は、 ハシガキ にも かいて おいた) その シャシン に ココロ を ひかれ、 とにかく ノート を あずかる こと に して、 カエリ には また ここ へ たちよります が、 ナニマチ ナン-バンチ の ナニ さん、 ジョシダイ の センセイ を して いる ヒト の イエ を ゴゾンジ ない か、 と たずねる と、 やはり シン ジュウミン ドウシ、 しって いた。 ときたま、 この キッサテン にも おみえ に なる と いう。 すぐ キンジョ で あった。
 その ヨル、 ユウジン と わずか な オサケ を くみかわし、 とめて もらう こと に して、 ワタシ は アサ まで イッスイ も せず に、 レイ の ノート に よみふけった。
 その シュキ に かかれて ある の は、 ムカシ の ハナシ では あった が、 しかし、 ゲンダイ の ヒトタチ が よんで も、 かなり の キョウミ を もつ に ちがいない。 ヘタ に ワタシ の フデ を くわえる より は、 これ は このまま、 どこ か の ザッシシャ に たのんで ハッピョウ して もらった ほう が、 なお、 ユウイギ な こと の よう に おもわれた。
 コドモ たち への ミヤゲ の カイサンブツ は、 ヒモノ だけ。 ワタシ は、 リュックサック を せおって ユウジン の モト を じし、 レイ の キッサテン に たちより、
「キノウ は、 どうも。 ところで、……」
 と すぐに きりだし、
「この ノート は、 しばらく かして いただけません か」
「ええ、 どうぞ」
「この ヒト は、 まだ いきて いる の です か?」
「さあ、 それ が、 さっぱり わからない ん です。 10 ネン ほど マエ に、 キョウバシ の オミセ-アテ に、 その ノート と シャシン の コヅツミ が おくられて きて、 サシダシニン は ヨウ ちゃん に きまって いる の です が、 その コヅツミ には、 ヨウ ちゃん の ジュウショ も、 ナマエ さえ も かいて いなかった ん です。 クウシュウ の とき、 ホカ の もの に まぎれて、 これ も フシギ に たすかって、 ワタシ は こないだ はじめて、 ゼンブ よんで みて、……」
「なきました か?」
「いいえ、 なく と いう より、 ……ダメ ね、 ニンゲン も、 ああ なって は、 もう ダメ ね」
「それから 10 ネン、 と する と、 もう なくなって いる かも しれない ね。 これ は、 アナタ への オレイ の つもり で おくって よこした の でしょう。 たしょう、 コチョウ して かいて いる よう な ところ も ある けど、 しかし、 アナタ も、 そうとう ひどい ヒガイ を こうむった よう です ね。 もし、 これ が ゼンブ ジジツ だったら、 そうして ボク が この ヒト の ユウジン だったら、 やっぱり ノウビョウイン に つれて いきたく なった かも しれない」
「あの ヒト の オトウサン が わるい の です よ」
 なにげなさそう に、 そう いった。
「ワタシタチ の しって いる ヨウ ちゃん は、 とても すなお で、 よく キ が きいて、 あれ で オサケ さえ のまなければ、 いいえ、 のんで も、 ……カミサマ みたい な いい コ でした」

ある オンナ (ゼンペン)

 ある オンナ  (ゼンペン)  アリシマ タケオ  1  シンバシ を わたる とき、 ハッシャ を しらせる 2 バンメ の ベル が、 キリ と まで は いえない 9 ガツ の アサ の、 けむった クウキ に つつまれて きこえて きた。 ヨウコ は ヘイキ で それ ...