2015/02/07

ハクチ

 ハクチ

 サカグチ アンゴ

 その イエ には ニンゲン と ブタ と イヌ と ニワトリ と アヒル が すんで いた が、 まったく、 すむ タテモノ も オノオノ の タベモノ も ほとんど かわって い や しない。 モノオキ の よう な ひんまがった タテモノ が あって、 カイカ には シュジン フウフ、 テンジョウウラ には ハハ と ムスメ が マガリ して いて、 この ムスメ は アイテ の わからぬ コドモ を はらんで いる。
 イザワ の かりて いる イッシツ は オモヤ から ブンリ した コヤ で、 ここ は ムカシ この イエ の ハイビョウ の ムスコ が ねて いた そう だ が、 ハイビョウ の ブタ にも ゼイタク-すぎる コヤ では ない。 それでも オシイレ と ベンジョ と トダナ が ついて いた。
 シュジン フウフ は シタテヤ で チョウナイ の オハリ の センセイ など も やり (それゆえ ハイビョウ の ムスコ を ベツ の コヤ へ いれた の だ) チョウカイ の ヤクイン など も やって いる。 マガリ の ムスメ は がんらい チョウカイ の ジムイン だった が、 チョウカイ ジムショ に ネトマリ して いて チョウカイチョウ と シタテヤ を のぞいた タ の ヤクイン の ゼンブ の モノ (10 スウニン) と コウヘイ に カンケイ を むすんだ そう で、 その ウチ の ダレ か の タネ を やどした わけ だ。 そこで チョウカイ の ヤクイン ども が キョキン して この ヤネウラ で コドモ の シマツ を つけさせよう と いう の だ が、 セケン は ムダ が ない もの で、 ヤクイン の ヒトリ に トウフヤ が いて、 この オトコ だけ ムスメ が ニンシン して この ヤネウラ に ひそんだ ノチ も かよって きて、 けっきょく ムスメ は この オトコ の メカケ の よう に きまって しまった。 タ の ヤクイン ども は これ が わかる と さっそく キョキン を やめて しまい、 この ワカレメ の 1 カゲツ ブン の セイカツヒ は トウフヤ が フタン す べき だ と シュチョウ して、 シハライ に おうじない ヤオヤ と トケイヤ と ジヌシ と ナニヤ だ か 7~8 ニン あり (ヒトリアタリ キン 5 エン) ムスメ は イマ に いたる まで ジダンダ ふんで いる。
 この ムスメ は おおきな クチ と おおきな フタツ の メノタマ を つけて いて、 そのくせ ひどく やせこけて いた。 アヒル を きらって、 ニワトリ に だけ タベモノ の ノコリ を やろう と する の だ が、 アヒル が ヨコ から まきあげる ので、 マイニチ ハラ を たてて アヒル を おっかけて いる。 おおきな ハラ と シリ を ゼンゴ に つきだして キミョウ な チョクリツ の シセイ で はしる カッコウ が アヒル に にて いる の で あった。
 この ロジ の デグチ に タバコヤ が あって、 55 と いう バアサン が オシロイ つけて すんで おり、 7 ニン-メ とか 8 ニン-メ とか の ジョウフ を おいだして、 その カワリ を チュウネン の ボウズ に しよう か やはり チュウネン の ナニヤ だ か に しよう か と ハンモンチュウ の ヨシ で あり、 わかい オトコ が ウラグチ から タバコ を かい に いく と イクツ か うって くれる ヨシ で (ただし ヤミネ) センセイ (イザワ の こと) も ウラグチ から いって ごらんなさい と シタテヤ が いう の だ が、 あいにく イザワ は ツトメサキ で トクハイ が ある ので バアサン の セワ に ならず に すんで いた。
 ところが その スジムカイ の コメ の ハイキュウジョ の ウラテ に コガネ を にぎった ミボウジン が すんで いて、 アニ (ショッコウ) と イモウト の フタリ の コドモ が ある の だ が、 この シンジツ の キョウダイ が フウフ の カンケイ を むすんで いる。 けれども ミボウジン は けっきょく その ほう が ヤスアガリ だ と モクニン して いる うち に、 アニ の ほう に オンナ が できた。 そこで イモウト の ほう を かたづける ヒツヨウ が あって シンセキ に あたる 50 とか 60 とか の ロウジン の ところ へ ヨメイリ と いう こと に なり、 イモウト が ネコイラズ を のんだ。 のんで おいて シタテヤ (イザワ の ゲシュク) へ オケイコ に きて くるしみはじめ、 けっきょく しんで しまった が、 その とき チョウナイ の イシャ が シンゾウ マヒ の シンダンショ を くれて ハナシ は そのまま きえて しまった。 え? どの イシャ が そんな ベンリ な シンダンショ を くれる ん です か、 と イザワ が ギョウテン して たずねる と、 シタテヤ の ほう が アッケ に とられた オモモチ で、 ナン です か、 ヨソ じゃ、 そう じゃ ない ん です か、 と きいた。
 この ヘン は ヤス-アパート が リンリツ し、 それら の ヘヤ の ナンブン の 1 か は メカケ と インバイ が すんで いる。 それら の オンナ たち には コドモ が なく、 また、 オノオノ の ヘヤ を きれい に する と いう キョウツウ の セイシツ を もって いる ので、 その ため に カンリニン に よろこばれて、 その シセイカツ の ランミャクサ ハイトクセイ など は モンダイ に なった こと が イチド も ない。 アパート の ハンスウ イジョウ は グンジュ コウジョウ の リョウ と なり、 そこ にも ジョシ テイシンタイ の シュウダン が すんで いて、 ナニ カ の ダレ さん の アイジン だの カチョウ ドノ の センジ フジン (と いう の は つまり ホンモノ の フジン は ソカイチュウ と いう こと だ) だの ジュウヤク の ニゴウ だの カイシャ を やすんで ゲッキュウ だけ もらって いる ニンシンチュウ の テイシンタイ だの が いる の で ある。 ナカ に ヒトリ 500 エン の メカケ と いう の が イッコ を かまえて いて センボウ の マト で あった。 ヒトゴロシ が ショウバイ だった と いう シナ ロウニン (この イモウト は シタテヤ の デシ) の トナリ は シアツ の センセイ で、 その トナリ は シタテヤ ギンジ の ナガレ を くむ その ミチ の タツジン だ と いう こと で あり、 その ウラ に カイグン ショウイ が いる の だ が、 マイニチ サカナ を くい コーヒー を のみ カンヅメ を あけ サケ を のみ、 この アタリ は 1 シャク ほる と ミズ が でる ので、 ボウクウゴウ の ツクリヨウ も ない と いう のに、 ショウイ だけ は セメント を もちいて ジタク より も リッパ な ボウクウゴウ を もって いた。 また、 イザワ が ツウキン に とおる ミチスジ の ヒャッカテン (モクゾウ 2 カイ-ダテ) は センソウ で ショウヒン が なく キュウギョウチュウ だ が、 2 カイ では レンジツ トバ が カイチョウ されて おり、 その カオヤク は イクツ か の コクミン サカバ を センリョウ して ギョウレツ の ジンミン ども を にらみつけて レンジツ デイスイ して いた。
 イザワ は ダイガク を ソツギョウ する と シンブン キシャ に なり、 つづいて ブンカ エイガ の エンシュツカ (まだ ミナライ で タンドク エンシュツ した こと は ない) に なった オトコ で、 27 の ネンレイ に くらべれば ウラガワ の ジンセイ に いくらか チシキ は ある はず で、 セイジカ、 グンジン、 ジツギョウカ、 ゲイニン など の ウチマク に タショウ の ショウソク は こころえて いた が、 バスエ の ショウコウジョウ と アパート に とりかこまれた ショウテンガイ の セイタイ が こんな もの だ とは ソウゾウ も して いなかった。 センソウ イライ ジンシン が すさんだ せい だろう と きいて みる と、 いえ、 ナン です よ、 この ヘン じゃ、 せんから こんな もの でした ねえ、 と シタテヤ は テツガクシャ の よう な オモモチ で しずか に こたえる の で あった。
 けれども サイダイ の ジンブツ は イザワ の リンジン で あった。
 この リンジン は キチガイ だった。 ソウトウ の シサン が あり、 わざわざ ロジ の ドンゾコ を えらんで イエ を たてた の も キチガイ の ココロヅカイ で、 ドロボウ ないし ムヨウ の モノ の シンニュウ を キョクド に きらった ケッカ だろう と おもわれる。 なぜなら、 ロジ の ドンゾコ に たどりつき この イエ の モン を くぐって みまわす けれども トグチ と いう もの が ない から で、 みわたす かぎり コウシ の はまった マド ばかり、 この イエ の ゲンカン は モン と セイハンタイ の ウラガワ に あって、 ようするに イッペン ぐるり と タテモノ を まわった うえ で ない と たどりつく こと が できない。 ムヨウ の シンニュウシャ は サジ を なげて ひきさがる シクミ で あり、 ないしは ゲンカン を さがして うろつく うち に ナニモノ か の シンニュウ を みやぶって ケイカイ カンセイ に はいる と いう シクミ でも あって、 リンジン は ウキヨ の ゾクブツ ども を このんで いない の だ。 この イエ は そうとう マカズ の ある 2 カイ-ダテ で あった が、 ナイブ の シカケ に ついて は モノシリ の シタテヤ も オオク を しらなかった。
 キチガイ は 30 ゼンゴ で、 ハハオヤ が あり、 25~26 の ニョウボウ が あった。 ハハオヤ だけ は ショウキ の ニンゲン の ブルイ に ぞくして いる はず だ と いう ハナシ で あった が、 キョウド の ヒステリー で、 ハイキュウ に フフク が ある と ハダシ で チョウカイ へ のりこんで くる チョウナイ ユイイツ の ジョケツ で あり、 キチガイ の ニョウボウ は ハクチ で あった。 ある サチ おおき トシ の こと、 キチガイ が ホッシン して シロショウゾク に ミ を かため シコク ヘンロ に たびだった が、 その とき シコク の どこかしら で ハクチ の オンナ と イキ トウゴウ し、 ヘンロ ミヤゲ に ニョウボウ を つれて もどって きた。 キチガイ は フウサイ どうどう たる コウダンシ で あり、 ハクチ の ニョウボウ は これ も しかるべき イエガラ の しかるべき ムスメ の よう な ヒン の ヨサ で、 メ の ほそぼそ と うっとうしい、 ウリザネガオ の コフウ の ニンギョウ か ノウメン の よう な うつくしい カオダチ で、 フタリ ならべて ながめた だけ では、 ビナン ビジョ、 それ も そうとう キョウヨウ シンエン な コウイッツイ と しか みうけられない。 キチガイ は ド の つよい キンガンキョウ を かけ、 つねに マンガン の ドクショ に つかれた よう な うれわしげ な カオ を して いた。
 ある ヒ この ロジ で ボウクウ エンシュウ が あって オカミサン たち が カツヤク して いる と、 キナガシ スガタ で げたげた わらいながら ケンブツ して いた の が この オトコ で、 そのうち にわか に ボウクウ フクソウ に きかえて あらわれて ヒトリ の バケツ を ひったくった か と おもう と、 えい とか、 やー とか、 ほーほー と いう スウ-シュルイ の キミョウ な コエ を かけて ミズ を くみ ミズ を なげ、 ハシゴ を かけて ヘイ に のぼり ヤネ に のぼり、 ヤネ の ウエ から ゴウレイ を かけ、 やがて イチジョウ の エンゼツ (クンジ) を はじめた。 イザワ は この とき に いたって はじめて キチガイ で ある こと に きづいた ので、 この リンジン は ときどき カキネ から シンニュウ して きて シタテヤ の ブタゴヤ で ザンパン の バケツ を ぶちまけ、 ついでに アヒル に イシ を ぶつけ、 ぜんぜん なに くわぬ カオ を して ニワトリ に エサ を やりながら とつぜん けとばしたり する の で あった が、 ソウトウ の ジンブツ と かんがえて いた ので、 しずか に モクレイ など を とりかわして いた の で あった。
 だが、 キチガイ と ジョウジン と どこ が ちがって いる と いう の だ。 ちがって いる と いえば、 キチガイ の ほう が ジョウジン より も ホンシツテキ に つつしみぶかい ぐらい の もの で、 キチガイ は わらいたい とき に げたげた わらい、 エンゼツ したい とき に エンゼツ を やり、 アヒル に イシ を ぶつけたり、 2 ジカン ぐらい ブタ の カオ や シリ を つついて いたり する。 けれども カレラ は ホンシツテキ に はるか に ヒトメ を おそれて おり、 シセイカツ の シュヨウ な ブブン は とくべつ サイシン の チュウイ を はらって タニン から ゼツエン しよう と フシン して いる。 モン から ぐるり と ヒトマワリ して ゲンカン を つけた の も その ため で あり、 カレラ の シセイカツ は がいして モノオト が すくなく、 タ に たいして ムヨウ なる ジョウゼツ に とぼしく、 シサクテキ な もの で あった。 ロジ の カタガワ は アパート で イザワ の コヤ に のしかかる よう に ネンジュウ ミズ の ながれる オト と ニョウボウ ども の ゲヒン な コエ が あふれて おり、 シマイ の インバイ が すんで いて、 アネ に キャク の ある ヨル は イモウト が ロウカ を あるきつづけて おり、 イモウト に キャク の ある とき は アネ が シンヤ の ロウカ を あるいて いる。 キチガイ が げたげた わらう と いう だけ で ヒトビト は ベツ の ジンシュ だ と おもって いた。
 ハクチ の ニョウボウ は とくべつ しずか で おとなしかった。 ナニ か おどおど と クチ の ナカ で いう だけ で、 その コトバ は よく ききとれず、 コトバ の ききとれる とき でも イミ が はっきり しなかった。 リョウリ も、 コメ を たく こと も しらず、 やらせれば できる の かも しれない が、 ヘマ を やって おこられる と おどおど して ますます ヘマ を やる ばかり、 ハイキュウブツ を とり に いって も ジシン では なにも できず、 ただ たって いる と いう だけ で、 みんな キンジョ の モノ が して くれる の だ。 キチガイ の ニョウボウ です もの ハクチ でも トウゼン、 その うえ の ヨク を いって は いけますまい と ヒトビト が いう が、 ハハオヤ は だいの フフク で、 オンナ が ゴハン ぐらい たけなくって、 と おこって いる。 それでも ツネ は タシナミ の ある ヒン の よい バアサン なの だ が、 ナニ が さて ヒトカタ ならぬ ヒステリー で、 くるいだす と キチガイ イジョウ に ドウモウ で 3 ニン の キチガイ の ウチ バアサン の キョウカン が ずぬけて さわがしく ビョウテキ だった。 ハクチ の オンナ は おびえて しまって、 ナニゴト も ない ヘイワ な ヒビ で すら つねに おどおど し、 ヒト の アシオト にも ぎくり と して、 イザワ が やあ と アイサツ する と かえって ぼんやり して たちすくむ の で あった。
 ハクチ の オンナ も ときどき ブタゴヤ へ やって きた。 キチガイ の ほう は ワガヤ の ごとく に どうどう と シンニュウ して きて アヒル に イシ を ぶつけたり ブタ の ホッペタ を つきまわしたり して いる の だ が、 ハクチ の オンナ は オト も なく カゲ の ごとく に にげこんで きて ブタゴヤ の カゲ に イキ を ひそめて いる の で あった。 いわば ここ は カノジョ の タイヒジョ で、 そういう とき には たいがい リンカ で オサヨ さん オサヨ さん と よぶ バアサン の チョウルイ-テキ な サケビ が おこり、 その たび に ハクチ の カラダ は すくんだり かたむいたり ハンキョウ を おこし、 しかたなく うごきだす には ムシ の テイコウ の ウゴキ の よう な ながい ハンプク が ある の で あった。
 シンブン キシャ だの ブンカ エイガ の エンシュツカ など は センギョウ-チュウ の センギョウ で あった。 カレラ の こころえて いる の は ジダイ の リュウコウ と いう こと だけ で、 うごく ジカン に のりおくれまい と する こと だけ が セイカツ で あり、 ジガ の ツイキュウ、 コセイ や ドクソウ と いう もの は この セカイ には ソンザイ しない。 カレラ の ニチジョウ の カイワ の ナカ には カイシャイン だの カンリ だの ガッコウ の キョウシ に くらべて、 ジガ だの ニンゲン だの コセイ だの ドクソウ だの と いう コトバ が ハンラン しすぎて いる の で あった が、 それ は コトバ の ウエ だけ の ソンザイ で あり、 アリガネ を はたいて オンナ を くどいて フツカヨイ の クツウ が ニンゲン の ナヤミ だ と いう よう な ばかばかしい もの なの だった。 ああ ヒノマル の カンゲキ だの、 ヘイタイ さん よ ありがとう、 おもわず メガシラ が あつく なったり、 ずど ずど ずど は バクゲキ の オト、 ムガ ムチュウ で チジョウ に ふし、 ぱん ぱん ぱん は キジュウ の オト、 およそ セイシン の タカサ も なければ 1 ギョウ の ジッカン すら も ない カクウ の ブンショウ に ウキミ を やつし、 エイガ を つくり、 センソウ の ヒョウゲン とは そういう もの だ と おもいこんで いる。 また ある モノ は グンブ の ケンエツ で カキヨウ が ない と いう けれども、 ホカ に シンジツ の ブンショウ の ココロアタリ が ある わけ で なく、 ブンショウ ジタイ の シンジツ や ジッカン は ケンエツ など には カンケイ の ない ソンザイ だ。 ようするに いかなる ジダイ にも この レンチュウ には ナイヨウ が なく クウキョ な ジガ が ある だけ だ。 リュウコウ-シダイ で ミギ から ヒダリ へ どう に でも なり、 ツウゾク ショウセツ の ヒョウゲン など から オテホン を まなんで ジダイ の ヒョウゲン だ と おもいこんで いる。 じじつ ジダイ と いう もの は ただ それ だけ の センパク グレツ な もの でも あり、 ニホン 2000 ネン の レキシ を くつがえす この センソウ と ハイボク が はたして ニンゲン の シンジツ に なんの カンケイ が あった で あろう か。 もっとも ナイセイ の キハク な イシ と シュウグ の モウドウ だけ に よって イッコク の ウンメイ が うごいて いる。 ブチョウ だの シャチョウ の マエ で コセイ だの ドクソウ だの と いいだす と カオ を そむけて バカ な ヤツ だ と いう ゲンガイ の ヒョウジ を みせて、 ヘイタイ さん よ ありがとう、 ああ ヒノマル の カンゲキ、 おもわず メガシラ が あつく なり、 OK、 シンブン キシャ とは それ だけ で、 じじつ、 ジダイ ソノモノ が それ だけ だ。
 シダンチョウ カッカ の クンジ を 3 プン-カン も かかって ながなが と うつす ヒツヨウ が あります か、 ショッコウ たち の マイアサ の ノリト の よう な へんてこ な ウタ を イチ から ジュウ まで うつす ヒツヨウ が ある の です か、 と きいて みる と、 ブチョウ は ぷいと カオ を そむけて シタウチ して、 やにわに ふりむく と キチョウヒン の タバコ を ぐしゃり ハイザラ へ おしつぶして にらみつけて、 おい、 ドトウ の ジダイ に ビ が ナニモノ だい、 ゲイジュツ は ムリョク だ! ニュース だけ が シンジツ なん だ! と どなる の で あった。 エンシュツカ ども は エンシュツカ ども で、 キカク ブイン は キカク ブイン で、 トトウ を くみ、 トクガワ ジダイ の ナガワキザシ と おなじ よう な ジョウギ の セカイ を つくりだし ギリ ニンジョウ で サイノウ を ショリ して、 カイシャイン より も カイシャイン-テキ な ジュンバン セイド を つくって いる。 それ に よって カクジ の ボンヨウサ を ヨウゴ し、 ゲイジュツ の コセイ と テンサイ に よる ソウハ を ザイアクシ し クミアイ イハン と こころえて、 ソウゴ フジョ の セイシン に よる サイノウ の ヒンコン の キュウサイ ソシキ を カンビ して いた。 ウチ に あって は サイノウ の ヒンコン の キュウサイ ソシキ で ある けれども ソト に いでて は アルコール の カクトク ソシキ で、 この トトウ は コクミン サカバ を センリョウ し 3~4 ホン ずつ ビール を のみ よっぱらって ゲイジュツ を ろんじて いる。 カレラ の ボウシ や チョウハツ や ネクタイ や ブルース は ゲイジュツカ で あった が、 カレラ の タマシイ や コンジョウ は カイシャイン より も カイシャイン-テキ で あった。 イザワ は ゲイジュツ の ドクソウ を しんじ、 コセイ の ドクジセイ を あきらめる こと が できない ので、 ギリ ニンジョウ の セイド の ナカ で アンソク する こと が できない ばかり か、 その ボンヨウサ と テイゾク ヒレツ な タマシイ を にくまず に いられなかった。 カレ は トトウ の ノケモノ と なり、 アイサツ して も ヘンジ も されず、 ナカ には にらむ モノ も ある。 おもいきって シャチョウシツ へ のりこんで、 センソウ と ゲイジュツセイ の ヒンコン と に リロンジョウ の ヒツゼンセイ が あります か、 それとも グンブ の イシ です か。 ただ ゲンジツ を うつす だけ なら カメラ と ユビ が 2~3 ボン ある だけ で タクサン です よ。 いかなる アングル に よって これ を サイダン し ゲイジュツ に コウセイ する か と いう トクベツ な シメイ の ため に ワレワレ ゲイジュツカ の ソンザイ が―― シャチョウ は トチュウ に カオ を そむけて にがりきって タバコ を ふかし、 オマエ は なぜ カイシャ を やめない の か、 チョウヨウ が こわい から か、 と いう カオツキ で クショウ を はじめ、 カイシャ の キカクドオリ セケンナミ の シゴト に セイ を だす だけ で、 それ で ゲッキュウ が もらえる なら ヨケイ な こと を かんがえるな、 ナマイキ-すぎる と いう カオツキ に なり、 ヒトコト も ヘンジ せず に、 かえれ と いう ミブリ を しめす の で あった。 センギョウ-チュウ の センギョウ で なくて ナニモノ で あろう か。 ひとおもいに ヘイタイ に とられ、 かんがえる クルシサ から すくわれる なら、 テキダン も キガ も むしろ タイヘイラク の よう に すら おもわれる とき が ある ほど だった。
 イザワ の カイシャ では 「ラバウル を おとすな」 とか 「ヒコウキ を ラバウル へ!」 とか キカク を たて コンテ を つくって いる うち に テキ は もう ラバウル を とおりこして サイパン に ジョウリク して いた。 「サイパン ケッセン!」 キカク カイギ も おわらぬ うち に サイパン ギョクサイ、 その サイパン から テッキ が ズジョウ に とびはじめて いる。 「ショウイダン の ケシカタ」 「ソラ の タイアタリ」 「ジャガイモ の ツクリカタ」 「1 キ も いきて かえす まじ」 「セツデン と ヒコウキ」 フシギ な ジョウネツ で あった。 そこしれぬ タイクツ を うえつける キミョウ な エイガ が つぎつぎ と つくられ、 ナマ フィルム は ケツボウ し、 うごく カメラ は すくなく なり、 ゲイジュツカ たち の ジョウネツ は ハクネツテキ に キョウソウ し 「カミカゼ トッコウタイ」 「ホンド ケッセン」 「ああ サクラ は ちりぬ」 ナニモノ か に つかれた ごとく カレラ の シジョウ は コウフン して いる。 そして あおざめた カミ の ごとく タイクツ ムゲン の エイガ が つくられ、 アス の トウキョウ は ハイキョ に なろう と して いた。
 イザワ の ジョウネツ は しんで いた。 アサ メ が さめる。 キョウ も カイシャ へ いく の か と おもう と ねむく なり、 うとうと する と ケイカイ ケイホウ が なりひびき、 おきあがり ゲートル を まき タバコ を 1 ポン ぬきだして ヒ を つける。 ああ カイシャ を やすむ と この タバコ が なくなる の だな、 と かんがえる の で あった。
 ある バン、 おそく なり、 ようやく シュウデン に とりつく こと の できた イザワ は、 すでに シセン が なかった ので、 ソウトウ の ヨミチ を あるいて ワガヤ へ もどって きた。 アカリ を つける と キミョウ に マンネンドコ の スガタ が みえず、 ルスチュウ ダレ か が ソウジ を した と いう こと も、 ダレ か が はいった こと すら も レイ が ない ので、 いぶかりながら オシイレ を あける と、 つみかさねた フトン の ヨコ に ハクチ の オンナ が かくれて いた。 フアン の メ で イザワ の カオイロ を うかがい フトン の アイダ へ カオ を もぐらして しまった が、 イザワ の おこらぬ こと を しる と、 アンド の ため に シタシサ が あふれ、 あきれる ぐらい おちついて しまった。 クチ の ナカ で ぶつぶつ と つぶやく よう に しか モノ を いわず、 その ツブヤキ も こっち の たずねる こと と なんの カンケイ も ない こと を ああ いい また こう いい ジブン ジシン の おもいつめた こと だけ を それ も しごく ばくぜん と ヨウヤク して ダンペンテキ に いいつづって いる。 イザワ は とわず に ジジョウ を さとり、 たぶん しかられて おもいあまって にげこんで きた の だろう と おもった から、 ムエキ な オビエ を なるべく あたえぬ ハイリョ に よって シツモン を ショウリャク し、 イツゴロ どこ から はいって きた か と いう こと だけ を たずねる と、 オンナ は ワケ の わからぬ こと を あれこれ ぶつぶつ いった アゲク、 カタウデ を まくりあげて、 その 1 カショ を なでて (そこ には カスリキズ が ついて いた) ワタシ、 いたい の、 とか、 イマ も いたむ の、 とか、 サッキ も いたかった の、 とか、 いろいろ ジカン を こまかく くぎって いって いる ので、 ともかく ヨル に なって から マド から はいった こと が わかった。 ハダシ で ソト を あるきまわって はいって きた から ヘヤ を ドロ で よごした、 ごめんなさい ね、 と いう イミ も いった けれども、 あれこれ ムスウ の フクロコウジ を うろつきまわる ツブヤキ の ナカ から イミ を まとめて ハンダン する ので、 ごめんなさい ね、 が どの ミチ に レンラク して いる の だ か ケッテイテキ な ハンダン は できない の だった。
 シンヤ に リンジン を たたきおこして おびえきった オンナ を かえす の も やりにくい こと で あり、 さりとて ヨ が あけて オンナ を かえして イチヤ とめた と いう こと が いかなる ゴカイ を うみだす か、 アイテ が キチガイ の こと だ から ソウゾウ すら も つかなかった。 ままよ、 イザワ の ココロ には キミョウ な ユウキ が わいて きた。 その ジッタイ は セイカツジョウ の カンジョウ ソウシツ に たいする コウキシン と シゲキ との ミリョク に ひかれた だけ の もの で あった が、 どう に でも なる が いい、 ともかく この ゲンジツ を ヒトツ の シレン と みる こと が オレ の イキカタ に ヒツヨウ な だけ だ、 ハクチ の オンナ の イチヤ を ホゴ する と いう ガンゼン の ギム イガイ に ナニ を かんがえ ナニ を おそれる ヒツヨウ も ない の だ と ジブン ジシン に いいきかした。 カレ は この トウトツ センバン な デキゴト に へんに カンドウ して いる こと を はず べき こと では ない の だ と ジブン ジシン に いいきかせて いた。
 フタツ の ネドコ を しき オンナ を ねせて デントウ を けして 1~2 フン も した か と おもう と、 オンナ は キュウ に おきあがり ネドコ を ぬけでて、 ヘヤ の どこ か カタスミ に うずくまって いる らしい。 それ が もし マフユ で なければ イザワ は しいて こだわらず ねむった かも しれなかった が、 とくべつ さむい ヨフケ で、 ヒトリ ブン の ネドコ を フタリ に ブンカツ した だけ でも ガイキ が じかに ハダ に せまり カラダ の フルエ が とまらぬ ぐらい つめたかった。 おきあがって デントウ を つける と、 オンナ は トグチ の ところ に エリ を かきあわせて うずくまって おり、 まるで ニゲバ を うしなって おいつめられた メ の イロ を して いる。 どうした の、 ねむりなさい、 と いえば あっけない ほど すぐ うなずいて ふたたび ネドコ に もぐりこんだ が、 デンキ を けして 1~2 フン も する と、 また、 おなじ よう に おきて しまう。 それ を ネドコ へ つれもどして、 シンパイ する こと は ない、 ワタシ は アナタ の カラダ に テ を ふれる よう な こと は しない から、 と いいきかせる と、 オンナ は おびえた メツキ を して ナニ か イイワケ-じみた こと を クチ の ナカ で ぶつぶつ いって いる の で あった。 そのまま ミタビ-メ の デンキ を けす と、 コンド は オンナ は すぐ おきあがり、 オシイレ の ト を あけて ナカ へ はいって ウチガワ から ト を しめた。
 この シツヨウ な ヤリカタ に イザワ は ハラ を たてた。 てあらく オシイレ を あけはなして、 アナタ は ナニ を カンチガイ を して いる の です か、 あれほど セツメイ も して いる のに オシイレ へ はいって ト を しめる など とは ヒト を ブジョク する も はなはだしい、 それほど シンヨウ できない ウチ へ なぜ にげこんで きた の です か、 それ は ヒト を グロウ し、 ワタシ の ジンカク に フトウ な ハジ を あたえ、 まるで アナタ が ナニ か ヒガイシャ の よう では ありません か、 チャバン も イイカゲン に したまえ。 けれども その コトバ の イミ も この オンナ には リカイ する ノウリョク すら も ない の だ と おもう と、 これ くらい ハリアイ の ない バカバカシサ も ない もの で、 オンナ の ヨコッツラ を なぐりつけて さっさと ねむる ほう が ナニ より キ が きいて いる と おもう の だった。 すると オンナ は ミョウ に わりきれぬ カオツキ を して ナニ か クチ の ナカ で ぶつぶつ いって いる。 ワタシ は かえりたい、 ワタシ は こなければ よかった、 と いう イミ の コトバ で ある らしい。 でも ワタシ は もう かえる ところ が なくなった から、 と いう ので、 その コトバ には イザワ も さすが に ムネ を つかれて、 だから アンシン して ここ で イチヤ を あかしたら いい でしょう、 ワタシ が アクイ を もたない のに まるで ヒガイシャ の よう な おもいあがった こと を する から ハラ を たてた だけ の こと です。 オシイレ の ナカ など に はいらず に フトン の ナカ で おやすみなさい。 すると オンナ は イザワ を みつめて ナニ か ハヤクチ に ぶつぶつ いう。 え? ナン です か、 そして イザワ は とびあがる ほど おどろいた。 なぜなら オンナ の ぶつぶつ の ナカ から、 ワタシ は アナタ に きらわれて います もの、 と いう ヒトコト が はっきり ききとれた から で ある。 え、 なんですって? イザワ が おもわず メ を みひらいて ききかえす と、 オンナ の カオ は しょうぜん と して、 ワタシ は こなければ よかった、 ワタシ は きらわれて いる、 ワタシ は そう は おもって いなかった、 と いう イミ の こと を くどくど と いい、 そして あらぬ 1 カショ を みつめて ホウシン して しまった。
 イザワ は はじめて リョウカイ した。
 オンナ は カレ を おそれて いる の では なかった の だ。 まるで ジタイ は アベコベ だ。 オンナ は しかられて ニゲバ に きゅうして それ だけ の リユウ に よって きた の では ない。 イザワ の アイジョウ を モクサン に いれて いた の で あった。 だが いったい オンナ が イザワ の アイジョウ を しんじる こと が おこりうる よう な ナニゴト が あった で あろう か。 ブタゴヤ の アタリ や ロジ や ロジョウ で やあ と いって 4~5 ヘン アイサツ した ぐらい、 おもえば スベテ が トウトツ で まったく チャバン に ほかならず、 イザワ の マエ に ハクチ の イシ や カンジュセイ や、 ともかく ニンゲン イガイ の もの が キョウヨウ されて いる だけ だった。 デントウ を けして 1~2 フン たち オトコ の テ が オンナ の カラダ に ふれない ため に きらわれた ジカク を いだいて、 その ハズカシサ に フトン を ぬけだす と いう こと が、 ハクチ の バアイ は それ が しんじつ ヒツウ な こと で ある の か、 イザワ が それ を しんじて いい の か、 これ も はっきり は わからない。 ついには オシイレ へ とじこもる。 それ が ハクチ の チジョク と ジヒ の ヒョウゲン と かいして いい の か、 それ を ハンダン する ため の コトバ すら も ない の だ から、 ジタイ は ともかく カレ が ハクチ と ドウカク に なりさがる イガイ に ホウ が ない。 なまじい に ニンゲン-らしい フンベツ が、 なぜ ヒツヨウ で あろう か。 ハクチ の ココロ の スナオサ を カレ ジシン も また もつ こと が ニンゲン の チジョク で あろう か。 オレ にも この ハクチ の よう な ココロ、 おさない、 そして すなお な ココロ が ナニ より ヒツヨウ だった の だ。 オレ は それ を どこ か へ わすれ、 ただ あくせく した ニンゲン ども の シコウ の ナカ で、 うすぎたなく よごれ、 キョモウ の カゲ を おい、 ひどく つかれて いた だけ だ。
 カレ は オンナ を ネドコ へ ねせて、 その マクラモト に すわり、 ジブン の コドモ、 ミッツ か ヨッツ の ちいさな ムスメ を ねむらせる よう に ヒタイ の カミノケ を なでて やる と、 オンナ は ぼんやり メ を あけて、 それ が まったく おさない コドモ の ムシンサ と かわる ところ が ない の で あった。 ワタシ は アナタ を きらって いる の では ない、 ニンゲン の アイジョウ の ヒョウゲン は けっして ニクタイ だけ の もの では なく、 ニンゲン の サイゴ の スミカ は フルサト で、 アナタ は いわば つねに その フルサト の ジュウニン の よう な もの なの だ から、 など と イザワ も ハジメ は ミョウ に しかつめらしく そんな こと も いいかけて みた が、 もとより それ が つうじる わけ では ない の だし、 いったい コトバ が ナニモノ で あろう か、 ナニホド の ネウチ が ある の だろう か、 ニンゲン の アイジョウ すら も それ だけ が シンジツ の もの だ と いう なんの アカシ も ありえない、 セイ の ジョウネツ を たくす に たる シンジツ な もの が はたして どこ に ありうる の か、 スベテ は キョモウ の カゲ だけ だ。 オンナ の カミノケ を なでて いる と、 ドウコク したい オモイ が こみあげ、 さだまる カゲ すら も ない この とらえがたい ちいさな アイジョウ が ジブン の イッショウ の シュクメイ で ある よう な、 その シュクメイ の カミノケ を ムシン に なでて いる よう な せつない オモイ に なる の で あった。
 この センソウ は いったい どう なる の で あろう。 ニホン は まけ、 テキ は ホンド に ジョウリク して、 ニホンジン の タイハン は シメツ して しまう の かも しれない。 それ は もう ヒトツ の チョウシゼン の ウンメイ、 いわば テンメイ の よう に しか おもわれなかった。 カレ には しかし もっと ヒショウ な モンダイ が あった。 それ は おどろく ほど ヒショウ な モンダイ で、 しかも メ の サキ に さしせまり、 つねに ちらついて はなれなかった。 それ は カレ が カイシャ から もらう 200 エン ほど の キュウリョウ で、 その キュウリョウ を いつまで もらう こと が できる か、 アス にも クビ に なり ロトウ に まよい は しない か と いう フアン で あった。 カレ は ゲッキュウ を もらう とき、 ドウジ に クビ の センコク を うけ は しない か と びくびく し、 ゲッキュウブクロ を うけとる と ヒトツキ のびた イノチ の ため に あきれる ぐらい コウフクカン を あじわう の だ が、 その ヒショウサ を かえりみて いつも なきたく なる の で あった。 カレ は ゲイジュツ を ゆめみて いた。 その ゲイジュツ の マエ では ただ ヒトツブ の ジンアイ で しか ない よう な 200 エン の キュウリョウ が、 どうして ホネミ に からみつき セイゾン の コンテイ を ゆさぶる よう な おおきな クモン に なる の で あろう か。 セイカツ の ガイケイ のみ の こと では なく その セイシン も タマシイ も 200 エン に ゲンテイ され、 その ヒショウサ を ギョウシ して キ も ちがわず に へいぜん と して いる こと が なおさら なさけなく なる ばかり で あった。 ドトウ の ジダイ に ビ が ナニモノ だい、 ゲイジュツ は ムリョク だ! と いう ブチョウ の ばかばかしい オオゴエ が、 イザワ の ムネ に まるで ちがった シンジツ を こめ するどい そして キョダイ な チカラ で くいこんで くる。 ああ ニホン は まける。 ドロニンギョウ の くずれる よう に ドウホウ たち が ばたばた たおれ、 ふきあげる コンクリート や レンガ の クズ と イッショクタ に ムスウ の アシ だの クビ だの ウデ だの まいあがり、 キ も タテモノ も なにも ない たいら な ボチ に なって しまう。 どこ へ にげ、 どの アナボコ へ おいつめられ、 どこ で アナ もろとも ふきとばされて しまう の だ か、 ユメ の よう な、 けれども それ は もし いきのこる こと が できたら、 その シンセン な サイセイ の ため に、 そして ぜんぜん ヨソク の つかない シンセカイ、 イシクズ-だらけ の ノハラ の ウエ の セイカツ の ため に、 イザワ は むしろ コウキシン が うずく の だった。 それ は ハントシ か 1 ネン サキ の とうぜん おとずれる ウンメイ だった が、 その オトズレ の トウゼンサ にも かかわらず、 ユメ の ナカ の セカイ の よう な はるか な タワムレ に しか イシキ されて いなかった。 メ の サキ の スベテ を ふさぎ、 いきる キボウ を ねこそぎ さらいさる たった 200 エン の ケッテイテキ な チカラ、 ユメ の ナカ に まで 200 エン に クビ を しめられ、 うなされ、 まだ 27 の セイシュン の あらゆる ジョウネツ が ヒョウハク されて、 ゲンジツ に すでに アンコク の コウヤ の ウエ を ぼうぼう と あるく だけ では ない か。
 イザワ は オンナ が ほしかった。 オンナ が ほしい と いう コエ は イザワ の サイダイ の キボウ で すら あった のに、 その オンナ との セイカツ が 200 エン に ゲンテイ され、 ナベ だの カマ だの ミソ だの コメ だの みんな 200 エン の ジュモン を おい、 200 エン の ジュモン に つかれた コドモ が うまれ、 オンナ が まるで テサキ の よう に ジュモン に つかれた オニ と かして ヒビ ぶつぶつ つぶやいて いる。 ムネ の トモシビ も ゲイジュツ も キボウ の ヒカリ も みんな きえて、 セイカツ ジタイ が ミチバタ の バフン の よう に ぐちゃぐちゃ に ふみしだかれて、 かわきあがって カゼ に ふかれて とびちり アトカタ も なくなって いく。 ツメ の アト すら、 なくなって いく。 オンナ の セ には そういう ジュモン が からみついて いる の で あった。 やりきれない ヒショウ な セイカツ だった。 カレ ジシン には この ゲンジツ の ヒショウサ を さばく チカラ すら も ない。 ああ センソウ、 この イダイ なる ハカイ、 キミョウ キテレツ な コウヘイサ で みんな さばかれ ニホンジュウ が イシクズ-だらけ の ノハラ に なり ドロニンギョウ が ばたばた たおれ、 それ は キョム の なんと いう せつない キョダイ な アイジョウ だろう か。 ハカイ の カミ の ウデ の ナカ で カレ は ねむりこけたく なり、 そして カレ は ケイホウ が なる と むしろ いきいき して ゲートル を まく の で あった。 セイメイ の フアン と あそぶ こと だけ が マイニチ の イキガイ だった。 ケイホウ が カイジョ に なる と がっかり して、 ゼツボウテキ な カンジョウ の ソウシツ が また はじまる の で あった。
 この ハクチ の オンナ は コメ を たく こと も ミソシル を つくる こと も しらない。 ハイキュウ の ギョウレツ に たって いる の が せいいっぱい で、 しゃべる こと すら も ジユウ では ない の だ。 まるで もっとも うすい 1 マイ の ガラス の よう に キド アイラク の ビフウ に すら ハンキョウ し、 ホウシン と オビエ の シワ の アイダ へ ヒト の イシ を うけいれ ツウカ させて いる だけ だ。 200 エン の アクリョウ すら も、 この タマシイ には やどる こと が できない の だ。 この オンナ は まるで オレ の ため に つくられた かなしい ニンギョウ の よう では ない か。 イザワ は この オンナ と だきあい、 くらい コウヤ を ひょうひょう と カゼ に ふかれて あるいて いる ムゲン の タビジ を メ に えがいた。
 それ にも かかわらず、 その ソウネン が ナニ か トッピ に かんじられ、 トホウ も ない ばかげた こと の よう に おもわれる の は、 そこ にも また ヒショウ きわまる ニンゲン の カラ が ココロ の シン を むしばんで いる せい なの だろう。 そして それ を しりながら、 しかも なお、 わきでる よう な この ソウネン と アイジョウ の スナオサ が ぜんぜん キョモウ の もの に しか かんじられない の は なぜ だろう。 ハクチ の オンナ より も あの アパート の インバイフ が、 そして どこ か の キフジン が より ニンゲンテキ だ と いう ナニ か ホンシツテキ な オキテ が ある の だろう か。 けれども まるで その オキテ が げん と して ソンザイ して いる ばかばかしい アリサマ なの で あった。
 オレ は ナニ を おそれて いる の だろう か。 まるで あの 200 エン の アクリョウ が―― オレ は イマ この オンナ に よって その アクリョウ と ゼツエン しよう と して いる のに、 そのくせ やはり アクリョウ の ジュモン に よって しばりつけられて いる では ない か。 おそれて いる の は ただ セケン の ミエ だけ だ。 その セケン とは アパート の インバイフ だの メカケ だの ニンシン した テイシンタイ だの アヒル の よう な ハナ に かかった コエ を だして わめいて いる オカミサン たち の ギョウレツ カイギ だけ の こと だ。 その ホカ に セケン など は どこ にも あり は しない のに、 そのくせ この わかりきった ジジツ を オレ は ぜんぜん しんじて いない。 フシギ な オキテ に おびえて いる の だ。
 それ は おどろく ほど みじかい (ドウジ に それ は ムゲン に ながい ) イチヤ で あった。 ながい ヨル の まるで ムゲン の ツヅキ だ と おもって いた のに、 いつかしら ヨ が しらみ、 ヨアケ の カンキ が カレ の ゼンシン を カンカク の ない イシ の よう に かたまらせて いた。 カレ は オンナ の マクラモト で、 ただ カミノケ を なでつづけて いた の で あった。

     *

 その ヒ から ベツ な セイカツ が はじまった。
 けれども それ は ヒトツ の イエ に オンナ の ニクタイ が ふえた と いう こと の ホカ には ベツ でも なければ かわって すら も いなかった。 それ は まるで ウソ の よう な ソラゾラシサ で、 たしか に カレ の シンペン に、 そして カレ の セイシン に、 あらた な メバエ の ただ 1 ポン の ホサキ すら みいだす こと が できない の だ。 その デキゴト の イジョウサ を ともかく リセイテキ に ナットク して いる と いう だけ で、 セイカツ ジタイ に ツクエ の オキバショ が かわった ほど の ヘンカ も おきて は いなかった。 カレ は マイアサ シュッキン し、 その ルスタク の オシイレ の ナカ に ヒトリ の ハクチ が のこされて カレ の カエリ を まって いる。 しかも カレ は ヒトアシ でる と、 もう ハクチ の オンナ の こと など は わすれて おり、 ナニ か そういう デキゴト が もう キオク にも さだか では ない 10 ネン 20 ネン マエ に おこなわれて いた か の よう な とおい キモチ が する だけ だった。
 センソウ と いう やつ が、 フシギ に ケンゼン な ケンボウセイ なの で あった。 まったく センソウ の おどろく べき ハカイリョク や クウカン の ヘンテンセイ と いう やつ は たった 1 ニチ が ナンビャクネン の ヘンカ を おこし、 1 シュウカン マエ の デキゴト が スウネン マエ の デキゴト に おもわれ、 1 ネン マエ の デキゴト など は、 キオク の もっとも ドンゾコ の シタヅミ の ソコ へ へだてられて いた。 イザワ の チカク の ドウロ だの コウジョウ の シイ の タテモノ など が とりこわされ マチ ゼンタイ が ただ まいあがる ホコリ の よう な ソカイ サワギ を やらかした の も つい サキゴロ の こと で あり、 その アト すら も かたづいて いない のに、 それ は もう 1 ネン マエ の サワギ の よう に とおざかり、 マチ の ヨウソウ を イッペン する おおきな ヘンカ が 2 ド-メ に それ を ながめる とき には ただ トウゼン な フウケイ で しか なくなって いた。 その ケンコウ な ケンボウセイ の ザッタ な カケラ の ヒトツ の ナカ に ハクチ の オンナ が やっぱり かすんで いる。 キノウ まで ギョウレツ して いた エキマエ の イザカヤ の ソカイ アト の ボウキレ だの バクダン に ハカイ された ビル の アナ だの マチ の ヤケアト だの、 それら の ザッタ の カケラ の アイダ に はさまれて ハクチ の カオ が ころがって いる だけ だった。
 けれども マイニチ ケイカイ ケイホウ が なる。 ときには クウシュウ ケイホウ も なる。 すると カレ は ヒジョウ に フユカイ な セイシン ジョウタイ に なる の で あった。 それ は カレ の ルスタク の ちかい ところ に クウシュウ が あり、 しらない ヘンカ が げんに おこって いない か と いう ケネン で あった が、 その ケネン の ユイイツ の リユウ は ただ オンナ が とりみだして とびだして、 スベテ が キンリン へ しれわたって いない か と いう フアン なの だった。 しらない ヘンカ の フアン の ため に、 カレ は マイニチ あかるい うち に イエ へ かえる こと が できなかった。 この テイゾク な フアン を コクフク しえぬ ミジメサ に イクタビ むなしく ハンコウ した か、 カレ は せめて シタテヤ に スベテ を うちあけて しまいたい と おもう の だった が、 その ヒレツサ に ゼツボウ して、 なぜなら それ は ヒガイ の もっとも ケイショウ な コクハク を おこなう こと に よって フアン を まぎらす みじめ な シュダン に すぎない ので、 カレ は ジブン の ホンシツ が テイゾク な セケンナミ に すぎない こと を のろいいきどおる のみ だった。
 カレ には わすれえぬ フタツ の ハクチ の カオ が あった。 マチカド を まがる とき だの、 カイシャ の カイダン を のぼる とき だの、 デンシャ の ヒトゴミ を ぬけでる とき だの、 はからざる ズイショ に フタツ の カオ を ふと おもいだし、 その たび に カレ の イッサイ の シネン が こおり、 そして イッシュン の ギャクジョウ が ゼツボウテキ に こおりついて いる の で あった。
 その カオ の ヒトツ は カレ が はじめて ハクチ の ニクタイ に ふれた とき の ハクチ の カオ だ。 そして その デキゴト ジタイ は その ヨクジツ には 1 ネン ムカシ の キオク の かなた へ とおざけられて いる の で あった が、 ただ カオ だけ が きりはなされて おもいだされて くる の で ある。
 その ヒ から ハクチ の オンナ は ただ まちもうけて いる ニクタイ で ある に すぎず、 その ホカ の なんの セイカツ も、 ただ ヒトキレ の カンガエ すら も ない の で あった。 つねに ただ まちもうけて いた。 イザワ の テ が オンナ の カラダ の イチブ に ふれる と いう だけ で、 オンナ の イシキ する ゼンブ の こと は ニクタイ の コウイ で あり、 そして カラダ も、 そして カオ も、 ただ まちもうけて いる のみ で あった。 おどろく べき こと に、 シンヤ、 イザワ の テ が オンナ に ふれる と いう だけ で、 ねむりしれた ニクタイ が ドウイツ の ハンノウ を おこし、 ニクタイ のみ は つねに いき、 ただ まちもうけて いる の で ある。 ねむりながら も! けれども、 めざめて いる オンナ の アタマ に ナニゴト が かんがえられて いる か と いえば、 もともと タダ の クウキョ で あり、 ある もの は ただ タマシイ の コンスイ と、 そして いきて いる ニクタイ のみ では ない か。 めざめた とき も タマシイ は ねむり、 ねむった とき も その ニクタイ は めざめて いる。 ある もの は ただ ムジカク な ニクヨク のみ。 それ は あらゆる ジカン に めざめ、 ムシ の ごとき うまざる ハンノウ の シュンドウ を おこす ニクタイ で ある に すぎない。
 も ヒトツ の カオ、 それ は おりから イザワ の ヤスミ の ヒ で あった が、 ハクチュウ とおからぬ チク に 2 ジカン に わたる バクゲキ が あり、 ボウクウゴウ を もたない イザワ は オンナ と ともに オシイレ に もぐり フトン を タテ に かくれて いた。 バクゲキ は イザワ の イエ から 400~500 メートル はなれた チク へ シュウチュウ した が、 チジク もろとも イエ は ゆれ、 バクゲキ の オト と ドウジ に コキュウ も シネン も チュウゼツ する。 おなじ よう に おちて くる バクダン でも ショウイダン と バクダン では スゴミ に おいて アオダイショウ と マムシ ぐらい の ソウイ が あり、 ショウイダン には がらがら と いう とくべつ ブキミ な オンキョウ が しかけて あって も チジョウ の バクハツオン が ない の だ から オト は ズジョウ で すうと きえうせ、 リュウトウ ダビ とは この こと で、 ダビ どころ か ぜんぜん シッポ が なくなる の だ から、 ケッテイテキ な キョウフカン に かけて いる。 けれども バクダン と いう やつ は、 ラッカオン こそ ちいさく ひくい が、 ざあ と いう アメフリ の オト の よう な ただ 1 ポン の ボウ を ひき、 こいつ が サイゴ に チジク もろとも ひきさく よう な バクハツオン を おこす の だ から、 ただ 1 ポン の ボウ に こもった ジュウジツ した スゴミ と いったら ロンガイ で、 ずど ずど ずど と バクハツ の アシ が ちかづく とき の ゼツボウテキ な キョウフ と きて は ガクメンドオリ に いきた ココロモチ が ない の で ある。 おまけに ヒコウキ の コウド が たかい ので、 ぶんぶん と いう ズジョウ ツウカ の テッキ の オト も しごく かすか に なに くわぬ ふう に ひびいて いて、 それ は まるで ヨソミ を して いる カイブツ に おおきな オノ で なぐりつけられる よう な もの だ。 コウゲキ する アイテ の ヨウス が ふたしか だ から バクオン の ウナリ の ヘン な トオサ が はなはだ フアン で ある ところ へ、 そこ から ざあ と アメフリ の ボウ 1 ポン の ラッカオン が のびて くる。 バクハツ を まつ マ の キョウフ、 まったく こいつ は コトバ も コキュウ も シネン も とまる。 いよいよ コンド は オダブツ だ と いう ゼツボウ が ハッキョウ スンゼン の ツメタサ で いきて ひかって いる だけ だ。
 イザワ の コヤ は さいわい シホウ が アパート だの キチガイ だの シタテヤ など の ニカイヤ で とりかこまれて いた ので、 キンリン の イエ は マドガラス が われ ヤネ の いたんだ イエ も あった が、 カレ の コヤ のみ ガラス に ヒビ すら も はいらなかった。 ただ ブタゴヤ の マエ の ハタケ に チダラケ の ボウクウ ズキン が おちて きた ばかり で あった。 オシイレ の ナカ で、 イザワ の メ だけ が ひかって いた。 カレ は みた。 ハクチ の カオ を。 コクウ を つかむ その ゼツボウ の クモン を。
 ああ ニンゲン には リチ が ある。 いかなる とき にも なお いくらか の ヨクセイ や テイコウ は カゲ を とどめて いる もの だ。 その カゲ ほど の リチ も ヨクセイ も テイコウ も ない と いう こと が、 これほど あさましい もの だ とは! オンナ の カオ と ゼンシン に ただ シ の マド へ ひらかれた キョウフ と クモン が こりついて いた。 クモン は うごき、 クモン は もがき、 そして クモン が イッテキ の ナミダ を おとして いる。 もし イヌ の メ が ナミダ を ながす なら、 イヌ が わらう と ドウヨウ に シュウカイ きわまる もの で あろう。 カゲ すら も リチ の ない ナミダ とは、 これほど も シュウアク な もの だ とは! バクゲキ の サナカ に おいて、 4~5 サイ ないし 6~7 サイ の ヨウジ たち は キミョウ に なかない もの で ある。 カレラ の シンゾウ は ナミ の よう な ドウキ を うち、 カレラ の コトバ は うしなわれ、 イヨウ な メ を おおきく みひらいて いる だけ だ。 ゼンシン に いきて いる の は メ だけ で ある が、 それ は イッケン した ところ、 ただ おおきく みひらかれて いる だけ で、 かならずしも フアン や キョウフ と いう もの の ちょくせつ ゲキテキ な ヒョウジョウ を きざんで いる と いう ほど では ない。 むしろ ホンライ の コドモ より も かえって リチテキ に おもわれる ほど ジョウイ を しずか に ころして いる。 その シュンカン には あらゆる オトナ も それ だけ で、 あるいは むしろ それ イカ で、 なぜなら むしろ ロコツ な フアン や シ への クモン を あらわす から で、 いわば コドモ が オトナ より も リチテキ に すら みえる の だった。
 ハクチ の クモン は コドモ たち の おおきな メ とは にて も につかぬ もの で あった。 それ は ただ ホンノウテキ な シ への キョウフ と シ への クモン が ある だけ で、 それ は ニンゲン の もの では なく、 ムシ の もの で すら も なく、 シュウアク な ヒトツ の ウゴキ が ある のみ だった。 やや にた もの が ある と すれば、 1 スン 5 ブ ほど の イモムシ が 5 シャク の ナガサ に ふくれあがって もがいて いる ウゴキ ぐらい の もの だろう。 そして メ に イッテキ の ナミダ を こぼして いる の で ある。
 コトバ も サケビ も ウメキ も なく、 ヒョウジョウ も なかった。 イザワ の ソンザイ すら も イシキ して は いなかった。 ニンゲン ならば かほど の コドク が ありうる はず は ない。 オトコ と オンナ と ただ フタリ オシイレ に いて、 その イッポウ の ソンザイ を わすれはてる と いう こと が、 ヒト の バアイ に ありう べき はず は ない。 ヒト は ゼッタイ の コドク と いう が、 タ の ソンザイ を ジカク して のみ ゼッタイ の コドク も ありうる ので、 かほど まで モウモクテキ な、 ムジカク な、 ゼッタイ の コドク が ありえよう か。 それ は イモムシ の コドク で あり、 その ゼッタイ の コドク の ソウ の アサマシサ。 ココロ の カゲ の ヘンリン も ない クモン の ソウ の みる に たえぬ シュウアクサ。
 バクゲキ が おわった。 イザワ は オンナ を だきおこした が、 イザワ の ユビ の 1 ポン が ムネ に ふれて も ハンノウ を おこす オンナ が、 その ニクヨク すら うしなって いた。 この ムクロ を だいて ムゲン に ラッカ しつづけて いる、 くらい、 くらい、 ムゲン の ラッカ が ある だけ だった。
 カレ は その ヒ バクゲキ チョクゴ に サンポ に でて、 なぎたおされた ミンカ の アイダ で ふきとばされた オンナ の アシ も、 チョウ の とびだした オンナ の ハラ も、 ねじきれた オンナ の クビ も みた の で あった。
 3 ガツ トオカ の ダイクウシュウ の ヤケアト も まだ ふきあげる ケムリ を くぐって イザワ は アテ も なく あるいて いた。 ニンゲン が ヤキトリ と おなじ よう に あっちこっち に しんで いる。 ヒトカタマリ に しんで いる。 まったく ヤキトリ と おなじ こと だ。 こわく も なければ、 きたなく も ない。 イヌ と ならんで おなじ よう に やかれて いる シタイ も ある が、 それ は まったく イヌジニ で、 しかし そこ には その イヌジニ の ヒツウサ も カンガイ すら も あり は しない。 ニンゲン が イヌ の ごとく に しんで いる の では なく、 イヌ と、 そして、 それ と おなじ よう な ナニモノ か が、 ちょうど ヒトサラ の ヤキトリ の よう に もられ ならべられて いる だけ だった。 イヌ でも なく、 もとより ニンゲン で すら も ない。
 ハクチ の オンナ が やけしんだら―― ツチ から つくられた ニンギョウ が ツチ に かえる だけ では ない か。 もし この マチ に ショウイダン の ふりそぞく ヨル が きたら…… イザワ は それ を かんがえる と、 へんに おちついて しずみかんがえて いる ジブン の スガタ と ジブン の カオ、 ジブン の メ を イシキ せず に いられなかった。 オレ は おちついて いる。 そして、 クウシュウ を まって いる。 よかろう。 カレ は せせらわらう の だった。 オレ は ただ シュウアク な もの が きらい な だけ だ。 そして、 もともと タマシイ の ない ニクタイ が やけて しぬ だけ の こと では ない か。 オレ は オンナ を ころし は しない。 オレ は ヒレツ で、 テイゾク な オトコ だ。 オレ には それ だけ の ドキョウ は ない。 だが、 センソウ が たぶん オンナ を ころす だろう。 その センソウ の レイコク な テ を オンナ の ズジョウ へ むける ため の ちょっと した テガカリ だけ を つかめば いい の だ。 オレ は しらない。 たぶん、 ナニ か、 ある シュンカン が、 それ を シゼン に カイケツ して いる に すぎない だろう。 そして イザワ は クウシュウ を きわめて レイセイ に まちかまえて いた。

     *

 それ は 4 ガツ 15 ニチ で あった。
 その フツカ マエ、 13 ニチ に、 トウキョウ では 2 ド-メ の ヤカン ダイクウシュウ が あり、 イケブクロ だの スガモ だの ヤマノテ ホウメン に ヒガイ が あった が、 たまたま その リサイ ショウメイ が テ に はいった ので、 イザワ は サイタマ へ カイダシ に でかけ、 いくらか の コメ を リュック に せおって かえって きた。 カレ が イエ へ つく と ドウジ に ケイカイ ケイホウ が なりだした。
 ツギ の トウキョウ の クウシュウ が この マチ の アタリ だろう と いう こと は、 ヤケノコリ の チイキ を かんがえれば ダレ にも ソウゾウ の つく こと で、 はやければ アス、 おそく とも 1 カゲツ とは かからない この マチ の ウンメイ の ヒ が ちかづいて いる。 はやければ アス と かんがえた の は、 これまで の クウシュウ の ソクド、 ヘンタイ ヤカン バクゲキ の ジュンビ キカン の カンカク が はやくて アス ぐらい で あった から で、 この ヒ が その ヒ に なろう とは イザワ は ヨソウ して いなかった。 それゆえ カイダシ にも でかけた ので、 カイダシ と いって も モクテキ は ホカ にも あり、 この ノウカ は イザワ の ガクセイ ジダイ に エンコ の あった イエ で あり、 カレ は フタツ の トランク と リュック に つめた ブッピン を あずける こと が むしろ シュヨウ な モクテキ で あった。
 イザワ は つかれきって いた。 リョソウ は ボウクウ フクソウ でも あった から、 リュック を マクラ に そのまま ヘヤ の マンナカ に ひっくりかえって、 カレ は じっさい この さしせまった ジカン に うとうと と ねむって しまった。 ふと メ が さめる と ショホウ の ラジオ が がんがん がなりたてて おり、 ヘンタイ の セントウ は もう イズ ナンタン に せまり、 イズ ナンタン を ツウカ した。 ドウジ に クウシュウ ケイホウ が なりだした。 いよいよ この マチ の サイゴ の ヒ だ、 イザワ は チョッカク した。 ハクチ を オシイレ の ナカ に いれ、 イザワ は タオル を ぶらさげ ハブラシ を くわえて イドバタ へ でかけた が、 イザワ は その スウジツ マエ に ライオン ネリハミガキ を テ に いれ ながい アイダ わすれて いた ネリハミガキ の クチジュウ に しみわたる ソウカイサ を なつかしんで いた ので、 ウンメイ の ヒ を チョッカク する と どういう ワケ だ か ハ を みがき カオ を あらう キ に なった が、 ダイイチ に その ネリハミガキ が とうぜん ある べき バショ から ほんの ちょっと うごいて いた だけ で ながい ジカン (それ は じつに ながい ジカン に おもわれた) みあたらず、 ようやく それ を みつける と コンド は セッケン (この セッケン も ホウコウ の ある ムカシ の ケショウ セッケン) が これ も ちょっと バショ が うごいて いた だけ で ながい ジカン みあたらず、 ああ オレ は あわてて いる な、 おちつけ、 おちつけ、 アタマ を トダナ に ぶつけたり ツクエ に つまずいたり、 その ため に カレ は ザンジ の アイダ イッサイ の ウゴキ と シネン を チュウゼツ させて セイシン トウイツ を はかろう と する が、 カラダ ジタイ が ホンノウテキ に あわてだして すべり うごいて いく の で ある。 ようやく セッケン を みつけだして イドバタ へ でる と シタテヤ フウフ が ハタケ の スミ の ボウクウゴウ へ ニモツ を なげこんで おり、 アヒル に よく にた ヤネウラ の ムスメ が ニモツ を ぶらさげて うろうろ して いた。 イザワ は ともかく ネリハミガキ と セッケン を ダンネン せず に つきとめた シツヨウサ を シュクフク し、 はたして この ヨル の ウンメイ は どう なる の だろう と おもった。 まだ カオ を ふきおわらぬ うち に コウシャホウ が なりはじめ、 アタマ を あげる と、 もう ズジョウ に 10 ナンボン の ショウクウトウ が いりみだれて マウエ を さして さわいで おり、 コウボウ の マンナカ に テッキ が ぽっかり ういて いる。 つづいて 1 キ、 また 1 キ、 ふと メ を カホウ へ おろしたら、 もう エキマエ の ホウガク が ヒ の ウミ に なって いた。
 いよいよ きた。 ジタイ が はっきり する と イザワ は ようやく おちついた。 ボウクウ ズキン を かぶり、 フトン を かぶって ノキサキ に たち 24 キ まで イザワ は かぞえた。 ぽっかり コウボウ の マンナカ に ういて、 みんな ズジョウ を ツウカ して いる。 コウシャホウ の オト だけ が キ が ちがった よう に なりつづけ、 バクゲキ の オト は いっこう に おこらない。 25 キ を かぞえる とき から レイ の がらがら と ガード の ウエ を カモツ レッシャ が かけさる とき の よう な ショウイダン の ラッカオン が なりはじめた が、 イザワ の ズジョウ を とおりこして、 コウホウ の コウジョウ チタイ へ シュウチュウ されて いる らしい。 ノキサキ から は みえない ので ブタゴヤ の マエ まで いって ウシロ を みる と、 コウジョウ チタイ は ヒ の ウミ で、 あきれた こと には、 イマ まで ズジョウ を ツウカ して いた ヒコウキ と セイハンタイ の ホウコウ から も つぎつぎ と テッキ が きて コウホウ イッタイ に バクゲキ を くわえて いる の だ。 すると もう ラジオ は とまり、 ソラ イチメン は あかあか と あつい ケムリ の マク に かくれて、 テッキ の スガタ も ショウクウトウ の コウボウ も まったく シカイ から うしなわれて しまった。 ホッポウ の イッカク を のこして シシュウ は ヒ の ウミ と なり、 その ヒ の ウミ が しだいに ちかづいて いた。
 シタテヤ フウフ は ヨウジン-ぶかい ヒトタチ で、 ツネ から ボウクウゴウ を ニモツ-ヨウ に つくって あり メバリ の ドロ も ヨウイ して おき、 バンジ テジュン-どおり に ボウクウゴウ に ニモツ を つめこみ メバリ を ぬり、 その また ウエ へ ハタケ の ツチ も かけおわって いた。 この ヒ じゃ とても ダメ です ね。 シタテヤ は ムカシ の ヒケシ の ショウゾク で ウデグミ を して ヒノテ を ながめて いた。 けせ ったって、 これ じゃ ムリ だ。 アタシャ もう にげます よ、 ケムリ に まかれて しんで みて も はじまらねえ や。 シタテヤ は リヤカー にも ヒトヤマ の ニモツ を つみこんで おり、 センセイ、 イッショ に ひきあげましょう。 イザワ は その とき、 そうぞうしい ほど フクザツ な キョウフカン に おそわれた。 カレ の カラダ は シタテヤ と イッショ に すべりだしかけて いる の で あった が、 カラダ の ウゴキ を ふりきる よう な ヒトツ の ココロ の テイコウ で スベリ を とめる と、 ココロ の ナカ の イッカク から はりさける よう な ヒメイ の コエ が ドウジ に おこった よう な キ が した。 この イッシュン の チエン の ため に やけて しぬ、 カレ は ほとんど キョウフ の ため に ホウシン した が、 ふたたび ともかく シゼン に よろめきだす よう な カラダ の スベリ を こらえて いた。
「ボク は ね、 ともかく、 もう ちょっと、 のこります よ。 ボク は ね、 シゴト が ある の だ。 ボク は ね、 ともかく ゲイニン だ から、 イノチ の トコトン の ところ で ジブン の スガタ を みつめうる よう な キカイ には、 その トコトン の ところ で サイゴ の トリヒキ を して みる こと を ヨウキュウ されて いる の だ。 ボク は にげたい が、 にげられない の だ。 この キカイ を のがす わけ に いかない の だ。 もう アナタガタ は にげて ください。 はやく、 はやく。 イッシュンカン が スベテ を テオクレ に して しまう」
 はやく、 はやく。 イッシュンカン が スベテ を テオクレ に。 スベテ とは、 それ は イザワ ジシン の イノチ の こと だ。 はやく はやく、 それ は シタテヤ を せきたてる コエ では なくて、 カレ ジシン が イッシュン も はやく にげたい ため の コエ だった。 カレ が この バショ を にげだす ため には、 アタリ の ヒトビト が ミンナ たちさった アト で なければ ならない の だ。 さも なければ、 ハクチ の スガタ を みられて しまう。
 じゃ センセイ、 オダイジ に。 リヤカー を ひっぱりだす と シタテヤ も あわてて いた。 リヤカー は ロジ の カドカド に ぶつかりながら たちさった。 それ が この ロジ の ジュウニン たち の サイゴ に にげさる スガタ で あった。 イワ を あらう ドトウ の ムゲン の オト の よう な、 ヤネ を うつ コウシャホウ の ムスウ の ハヘン の ムゲン の ラッカ の オト の よう な、 キュウシ と コウテイ の なにも ない ざあざあ と いう ブキミ な オト が ムゲン に レンゾク して いる の だ が、 それ が フドウ を ながれて いる ヒナンミン たち の ヒトカタマリ の アシオト なの だ。 コウシャホウ の オト など は もう マ が ぬけて、 アシオト の ナガレ の ナカ に キミョウ な イノチ が こもって いた。 この コウテイ と キュウシ の ない キカイ な オト の ムゲン の ナガレ を ヨ の ナンピト が アシオト と ハンダン しえよう。 テンチ は ただ ムスウ の オンキョウ で いっぱい だった。 テッキ の バクオン、 コウシャホウ、 ラッカオン、 バクハツ の オンキョウ、 アシオト、 ヤネ を うつ ダンペン、 けれども イザワ の シンペン の ナンジュウ メートル か の シュウイ だけ は あかい テンチ の マンナカ で ともかく ちいさな ヤミ を つくり、 ぜんぜん ひっそり して いる の だった。 へんてこ な セイジャク の アツミ と、 キ の ちがいそう な コドク の アツミ が とっぷり シシュウ を つつんで いる。 もう 30 ビョウ、 もう 10 ビョウ だけ まとう。 なぜ、 そして ダレ が メイレイ して いる の だ か、 どうして それ に したがわねば ならない の だ か、 イザワ は キチガイ に なりそう だった。 とつぜん、 もだえ、 なきわめいて モウモクテキ に はしりだしそう だった。
 その とき コマク の ナカ を かきまわす よう な ラッカオン が アタマ の マウエ へ おちて きた。 ムチュウ に ふせる と、 ズジョウ で オンキョウ は とつぜん きえうせ、 ウソ の よう な セイジャク が ふたたび シシュウ に もどって いる。 やれやれ、 おどかしやがる。 イザワ は ゆっくり おきあがって、 ムネ や ヒザ の ツチ を はらった。 カオ を あげる と、 キチガイ の イエ が ヒ を ふいて いる。 ナン だい、 とうとう おちた の か。 カレ は キミョウ に おちついて いた。 キ が つく と、 その サユウ の イエ も、 すぐ メノマエ の アパート も ヒ を ふきだして いる の だ。 イザワ は イエ の ナカ へ とびこんだ。 オシイレ の ト を はねとばして (じっさい それ は はずれて とんで ばたばた と たおれた) ハクチ の オンナ を だく よう に フトン を かぶって はしりでた。 それから 1 プン-カン ぐらい の こと が ぜんぜん ムチュウ で わからなかった。 ロジ の デクチ に ちかづいた とき、 また、 オンキョウ が ズジョウ めがけて おちて きた。 フセ から おきあがる と、 ロジ の デグチ の タバコヤ も ヒ を ふき、 ムカイ の イエ では ブツダン の ナカ から ヒ が ふきだして いる の が みえた。 ロジ を でて ふりかえる と、 シタテヤ も ヒ を ふきはじめ、 どうやら イザワ の コヤ も もえはじめて いる よう だった。
 シシュウ は まったく ヒ の ウミ で フドウ の ウエ には ヒナンミン の スガタ も すくなく、 ヒノコ が とびかい まいくるって いる ばかり、 もう ダメ だ と イザワ は おもった。 ジュウジロ へ くる と、 ここ から タイヘン な コンザツ で、 あらゆる ヒトビト が ただ イッポウ を めざして いる。 その ホウコウ が いちばん ヒノテ が とおい の だ。 そこ は もう ミチ では なくて、 ニンゲン と ニモツ と ヒメイ の かさなりあった ナガレ に すぎず、 おしあい へしあい つきすすみ ふみこえ おしながされ、 ラッカオン が ズジョウ に せまる と、 ナガレ は イチジ に チジョウ に ふして フシギ に ぴったり とまって しまい、 ナンニン か の オトコ だけ が ナガレ の ウエ を ふみつけて かけさる の だ が、 ナガレ の タイハン の ヒトビト は ニモツ と コドモ と オンナ と ロウジン の ツレ が あり、 よびかわし たちどまり もどり つきあたり はねとばされ、 そして ヒノテ は すぐ ミチ の サユウ に せまって いた。
 ちいさな ジュウジロ へ きた。 ナガレ の ゼンブ が ここ でも イッポウ を めざして いる の は やはり そっち が ヒノテ が もっとも とおい から だ が、 その ホウコウ には アキチ も ハタケ も ない こと を イザワ は しって おり、 ツギ の テッキ の ショウイダン が ユクテ を ふさぐ と この ミチ には シ の ウンメイ が ある のみ だった。 イッポウ の ミチ は すでに リョウガワ の イエイエ が もえくるって いる の だ が、 そこ を こす と オガワ が ながれ、 オガワ の ナガレ を スウチョウ のぼる と ムギバタケ へ でられる こと を イザワ は しって いた。 その ミチ を かけぬけて いく ヒトリ の カゲ すら も ない の だ から イザワ の ケツイ も にぶった が、 ふと みる と 150 メートル ぐらい サキ の ほう で モウカ に ミズ を かけて いる たった ヒトリ の オトコ の スガタ が みえる の で あった。 モウカ に ミズ を かける と いって も けっして いさましい スガタ では なく、 ただ バケツ を ぶらさげて いる だけ で、 たまに ミズ を かけて みたり、 ぼんやり たったり あるいて みたり へんに チドン な ウゴキ で、 その オトコ の シンリ の カイシャク に くるしむ よう な マ の ぬけた スガタ なの だった。 ともかく ヒトリ の ニンゲン が ヤケジニ も せず たって いられる の だ から と、 イザワ は おもった。 オレ の ウン を ためす の だ。 ウン。 まさに、 もう のこされた の は、 ヒトツ の ウン、 それ を えらぶ ケツダン が ある だけ だった。 ジュウジロ に ミゾ が あった。 イザワ は ミゾ に フトン を ひたした。
 イザワ は オンナ と カタ を くみ、 フトン を かぶり、 グンシュウ の ナガレ に ケツベツ した。 モウカ の まいくるう ミチ に むかって ヒトアシ あるきかける と、 オンナ は ホンノウテキ に たちどまり、 グンシュウ の ながれる ほう へ ひきもどされる よう に ふらふら と よろめいて いく。
「バカ!」
 オンナ の テ を ちからいっぱい にぎって ひっぱり、 ミチ の ウエ へ よろめいて でる オンナ の カタ を だきすくめて、
「そっち へ いけば しぬ だけ なの だ」 オンナ の カラダ を ジブン の ムネ に だきしめて、 ささやいた。
「しぬ とき は、 こうして、 フタリ イッショ だよ。 おそれるな。 そして、 オレ から はなれるな。 ヒ も バクダン も わすれて、 おい、 オレタチ フタリ の イッショウ の ミチ は な、 いつも この ミチ なの だよ。 この ミチ を ただ まっすぐ みつめて、 オレ の カタ に すがりついて くる が いい。 わかった ね」
 オンナ は ごくん と うなずいた。
 その ウナズキ は チセツ で あった が、 イザワ は カンドウ の ため に くるいそう に なる の で あった。 ああ、 ながい ながい イクタビ か の キョウフ の ジカン、 ヨルヒル の バクゲキ の シタ に おいて、 オンナ が あらわした はじめて の イシ で あり、 ただ イチド の コタエ で あった。 その イジラシサ に イザワ は ギャクジョウ しそう で あった。 イマ こそ ニンゲン を だきしめて おり、 その だきしめて いる ニンゲン に、 ムゲン の ホコリ を もつ の で あった。 フタリ は モウカ を くぐって はしった。 ネップウ の カタマリ の シタ を ぬけでる と、 ミチ の リョウガワ は まだ もえて いる ヒ の ウミ だった が、 すでに ムネ は やけおちた アト で カセイ は おとろえ ネッキ は すくなく なって いた。 そこ にも ミゾ が あふれて いた。 オンナ の アシ から カタ の ウエ まで ミズ を あびせ、 もう イチド フトン を ミズ に ひたして かぶりなおした。 ミチ の ウエ に やけた ニモツ や フトン が とびちり、 ニンゲン が フタリ しんで いた。 40 ぐらい の オンナ と オトコ の よう だった。
 フタリ は ふたたび カタ を くみ、 ヒ の ウミ を はしった。 フタリ は ようやく オガワ の フチ へ でた。 ところが ここ は オガワ の リョウガワ の コウジョウ が モウカ を ふきあげて もえくるって おり、 すすむ こと も しりぞく こと も たちどまる こと も できなく なった が、 ふと みる と オガワ に ハシゴ が かけられて いる ので、 フトン を かぶせて オンナ を おろし、 イザワ は イッキ に とびおりた。 ケツベツ した ニンゲン たち が さんさんごご カワ の ナカ を あるいて いる。 オンナ は ときどき ジハツテキ に カラダ を ミズ に ひたして いる。 イヌ で すら そう せざる を えぬ ジョウキョウ だった が、 ヒトリ の あらた な かわいい オンナ が うまれでた シンセンサ に イザワ は メ を みひらいて ミズ を あびる オンナ の シタイ を むさぼりみた。 オガワ は ホノオ の シタ を ではずれて クラヤミ の シタ を ながれはじめた。 ソラ イチメン の ヒ の イロ で シン の クラヤミ は ありえなかった が、 ふたたび いきて みる こと を えた クラヤミ に、 イザワ は むしろ エタイ の しれない おおきな ツカレ と、 はてしれぬ キョム との ため に ただ ホウシン が ひろがる サマ を みる のみ だった。 その ソコ に ちいさな アンド が ある の だ が、 それ は へんに けちくさい、 ばかげた もの に おもわれた。 なにもかも ばかばかしく なって いた。
 カワ を あがる と、 ムギバタケ が あった。 ムギバタケ は サンポウ オカ に かこまれて、 3 チョウ シホウ ぐらい の ヒロサ が あり、 その マンナカ を コクドウ が オカ を きりひらいて とおって いる。 オカ の ウエ の ジュウタク は もえて おり、 ムギバタケ の フチ の セントウ と コウジョウ と ジイン と ナニ か が もえて おり、 その オノオノ の ヒ の イロ が、 シロ、 アカ、 ダイダイ、 アオ、 ノウタン とりどり みんな ちがって いる の で ある。 にわか に カゼ が ふきだして、 ごうごう と クウキ が なり、 キリ の よう な こまかい スイテキ が イチメン に ふりかかって きた。
 グンシュウ は なお えんえん と コクドウ を ながれて いた。 ムギバタケ に やすんで いる の は スウヒャクニン で、 えんえん たる コクドウ の グンシュウ に くらべれば モノ の カズ では ない の で あった。 ムギバタケ の ツヅキ に ゾウキバヤシ の オカ が あった。 その オカ の ハヤシ の ナカ には ほとんど ヒト が いなかった。 フタリ は コダチ の シタ へ フトン を しいて ねころんだ。 オカ の シタ の ハタケ の フチ に 1 ケン の ノウカ が もえて おり、 ミズ を かけて いる スウニン の ヒト の スガタ が みえる。 その ウラテ に イド が あって ヒトリ の オトコ が ポンプ を がちゃがちゃ やり ミズ を のんで いる の で ある。 それ を めがけて ハタケ の シホウ から たちまち 20 ニン ぐらい の ロウヨウ ナンニョ が かけあつまって きた。 カレラ は ポンプ を がちゃがちゃ やり、 かわるがわる ミズ を のんで いる の で ある。 それから もえおちよう と する イエ の ヒ に テ を かざして、 ぐるり と ならんで ダン を とり、 くずれおちる ヒ の カタマリ に とびのいたり、 ケムリ に カオ を そむけたり、 ハナシ を したり して いる。 ダレ も ショウカ に てつだう モノ は いなかった。
 ねむく なった と オンナ が いい、 ワタシ つかれた の、 とか、 アシ が いたい の、 とか、 メ も いたい の、 とか の ツブヤキ の ウチ ミッツ に ヒトツ ぐらい は ワタシ ねむりたい の、 と いった。 ねむる が いい さ、 と イザワ は オンナ を フトン に くるんで やり、 タバコ に ヒ を つけた。 ナンボン-メ か の タバコ を すって いる うち に、 とおく かなた に カイジョ の ケイホウ が なり、 スウニン の ジュンサ が ムギバタケ の ナカ を あるいて カイジョ を しらせて いた。 カレラ の コエ は イチヨウ に つぶれ、 ニンゲン の コエ の よう では なかった。 カマタ ショ カンナイ の モノ は ヤグチ コクミン ガッコウ が やけのこった から あつまれ、 と ふれて いる。 ヒトビト が ハタケ の ウネ から おきあがり、 コクドウ へ おりて あるきはじめる。 コクドウ は ふたたび ヒト の ナミ だった。 しかし、 イザワ は うごかなかった。 カレ の マエ にも ジュンサ が きた。
「その ヒト は ナニ かね。 ケガ を した の かね」
「いいえ、 つかれて、 ねて いる の です」
「ヤグチ コクミン ガッコウ を しって いる かね」
「ええ、 ヒトヤスミ して、 アト から いきます」
「ユウキ を だしたまえ。 コレシキ の こと に」
 ジュンサ の コエ は もう つづかなかった。 ジュンサ の スガタ は きえさり、 ゾウキバヤシ の ナカ には とうとう フタリ の ニンゲン だけ が のこされた。 フタリ の ニンゲン だけ が―― けれども オンナ は やはり ただ ヒトツ の ニクカイ に すぎない では ない か。 オンナ は ぐっすり ねむって いた。 スベテ の ヒトビト が イマ ヤケアト の ケムリ の ナカ を あるいて いる。 スベテ の ヒトビト が イエ を うしない、 そして ミナ あるいて いる。 ネムリ の こと を かんがえて すら いない で あろう。 イマ ねむる こと が できる の は、 しんだ ニンゲン と この オンナ だけ だ。 しんだ ニンゲン は ふたたび めざめる こと が ない が、 この オンナ は やがて めざめ、 そして めざめる こと に よって ねむりこけた ニクカイ に ナニモノ を つけくわえる こと も ありえない の だ。
 オンナ は かすか で ある が イマ まで キキオボエ の ない イビキゴエ を たてて いた。 それ は ブタ の ナキゴエ に にて いた。 まったく この オンナ ジタイ が ブタ ソノモノ だ と イザワ は おもった。 そして カレ は コドモ の コロ の ちいさな キオク の ダンペン を ふと おもいだして いた。 ヒトリ の ガキダイショウ の メイレイ で 10 ナンニン か の コドモ たち が コブタ を おいまわして いた。 おいつめて、 ガキダイショウ は ジャックナイフ で いくらか の ブタ の シリニク を きりとった。 ブタ は いたそう な カオ も せず、 トクベツ の ナキゴエ も たてなかった。 シリ の ニク を きりとられた こと も しらない よう に、 ただ にげまわって いる だけ だった。 イザワ は テキ が ジョウリク して ジュウホウダン が ハッポウ に うなり コンクリート の ビル が ふきとび、 ズジョウ に テッキ が キュウコウカ して キジュウ ソウシャ を くわえる シタ で、 ツチケムリ と くずれた ビル と アナ の アイダ を ころげまわって にげあるいて いる ジブン と オンナ の こと を かんがえて いた。 くずれた コンクリート の カゲ で、 オンナ が ヒトリ の オトコ に おさえつけられ、 オトコ は オンナ を ねじたおして、 ニクタイ の コウイ に ふけりながら、 オトコ は オンナ の シリ の ニク を むしりとって たべて いる。 オンナ の シリ の ニク は だんだん すくなく なる が、 オンナ は ニクヨク の こと を かんがえて いる だけ だった。
 アケガタ に ちかづく と ひえはじめて、 イザワ は フユ の ガイトウ も きて いた し あつい ジャケツ も きて いる の だ が、 カンキ が たえがたかった。 シタ の ムギバタケ の フチ の ショホウ には なお もえつづけて いる イチメン の ヒ の ハラ が あった。 そこ まで いって ダン を とりたい と おもった が、 オンナ が メ を さます と こまる ので、 イザワ は ミウゴキ が できなかった。 オンナ の メ を さます の が なぜか たえられぬ オモイ が して いた。
 オンナ の ねむりこけて いる うち に オンナ を おいて たちさりたい とも おもった が、 それ すら も めんどうくさく なって いた。 ヒト が モノ を すてる には、 たとえば カミクズ を すてる にも、 すてる だけ の ハリアイ と ケッペキ ぐらい は ある だろう。 この オンナ を すてる ハリアイ も ケッペキ も うしなわれて いる だけ だ。 ミジン の アイジョウ も なかった し、 ミレン も なかった が、 すてる だけ の ハリアイ も なかった。 いきる ため の、 アス の キボウ が ない から だった。 アス の ヒ に、 たとえば オンナ の スガタ を すてて みて も、 どこ か の バショ に ナニ か キボウ が ある の だろう か。 ナニ を タヨリ に いきる の だろう。 どこ に すむ イエ が ある の だ か、 ねむる アナボコ が ある の だ か、 それ すら も わかり は しなかった。 テキ が ジョウリク し、 テンチ に あらゆる ハカイ が おこり、 その センソウ の ハカイ の キョダイ な アイジョウ が、 スベテ を さばいて くれる だろう。 かんがえる こと も なくなって いた。
 ヨ が しらんで きたら、 オンナ を おこして ヤケアト の ほう には ミムキ も せず、 ともかく ネグラ を さがして、 なるべく とおい テイシャジョウ を めざして あるきだす こと に しよう と イザワ は かんがえて いた。 デンシャ や キシャ は うごく だろう か。 テイシャジョウ の シュウイ の マクラギ の カキネ に もたれて やすんで いる とき、 ケサ は はたして ソラ が はれて、 オレ と オレ の トナリ に ならんだ ブタ の セナカ に タイヨウ の ヒカリ が そそぐ だろう か と イザワ は かんがえて いた。 あまり ケサ が さむすぎる から で あった。

ある オンナ (ゼンペン)

 ある オンナ  (ゼンペン)  アリシマ タケオ  1  シンバシ を わたる とき、 ハッシャ を しらせる 2 バンメ の ベル が、 キリ と まで は いえない 9 ガツ の アサ の、 けむった クウキ に つつまれて きこえて きた。 ヨウコ は ヘイキ で それ ...