2017/05/03

シセイ

 シセイ
 
 タニザキ ジュンイチロウ
 
それ は まだ ヒトビト が 「おろか」 と いう とうとい トク を もって いて、 ヨノナカ が イマ の よう に はげしく きしみあわない ジブン で あった。 トノサマ や ワカダンナ の のどか な カオ が くもらぬ よう に、 ゴテン ジョチュウ や オイラン の ワライ の タネ が つきぬ よう に と、 ジョウゼツ を うる オチャボウズ だの ホウカン だの と いう ショクギョウ が、 リッパ に ソンザイ して ゆけた ほど、 セケン が のんびり して いた ジブン で あった。 オンナ サダクロウ、 オンナ ジライヤ、 オンナ ナルカミ、 ―――トウジ の シバイ でも クサゾウシ でも、 すべて うつくしい モノ は キョウシャ で あり、 みにくい モノ は ジャクシャ で あった。 ダレ も カレ も こぞって うつくしからん と つとめた アゲク は、 テンピン の カラダ へ エノグ を つぎこむ まで に なった。 ホウレツ な、 あるいは ケンラン な、 セン と イロ と が その コロ の ヒトビト の ハダ に おどった。
ウマミチ を かよう オキャク は、 みごと な ホリモノ の ある カゴカキ を えらんで のった。 ヨシワラ、 タツミ の オンナ も うつくしい ホリモノ の オトコ に ほれた。 バクト、 トビ の モノ は もとより、 チョウニン から まれ には サムライ など も イレズミ を した。 ときどき リョウゴク で もよおされる ホリモノカイ では サンカイシャ おのおの ハダ を たたいて、 たがいに キバツ な イショウ を ほこりあい、 ひょうしあった。
セイキチ と いう わかい ホリモノシ の ウデキキ が あった。 アサクサ の チャリブン、 マツシマ-チョウ の ヤツヘイ、 コンコンジロウ など にも おとらぬ メイシュ で ある と もてはやされて、 ナンジュウニン の ヒト の ハダ は、 カレ の エフデ の モト に ヌメジ と なって ひろげられた。 ホリモノカイ で コウヒョウ を はくす ホリモノ の オオク は カレ の テ に なった もの で あった。 ダルマキン は ボカシボリ が トクイ と いわれ、 カラクサゴンタ は シュボリ の メイシュ と たたえられ、 セイキチ は また キケイ な コウズ と ヨウエン な セン と で ナ を しられた。
もと トヨクニ クニサダ の フウ を したって、 ウキヨエシ の トセイ を して いた だけ に、 ホリモノシ に ダラク して から の セイキチ にも さすが エカキ-らしい リョウシン と、 エイカン と が のこって いた。 カレ の ココロ を ひきつける ほど の ヒフ と ホネグミ と を もつ ヒト で なければ、 カレ の ホリモノ を あがなう わけ には ゆかなかった。 たまたま かいて もらえる と して も、 イッサイ の コウズ と ヒヨウ と を カレ の のぞむ が まま に して、 そのうえ たえがたい ハリサキ の クツウ を、 ヒトツキ も フタツキ も こらえねば ならなかった。
この わかい ホリモノシ の ココロ には、 ヒト しらぬ カイラク と シュクガン と が ひそんで いた。 カレ が ヒトビト の ハダ を ハリ で つきさす とき、 シンク に チ を ふくんで ふくれあがる ニク の ウズキ に たえかねて、 タイテイ の オトコ は くるしき ウメキゴエ を はっした が、 その ウメキゴエ が はげしければ はげしい ほど、 カレ は フシギ に いいがたき ユカイ を かんじる の で あった。 ホリモノ の ウチ でも ことに いたい と いわれる シュボリ、 ボカシボリ、 ―――それ を もちうる こと を カレ は ことさら よろこんだ。 1 ニチ ヘイキン 500~600 ポン の ハリ に さされて、 イロアゲ を よく する ため ユ へ つかって でて くる ヒト は、 ミナ ハンシ ハンショウ の テイ で セイキチ の アシモト に うちたおれた まま、 しばらく は ミウゴキ さえ も できなかった。 その ムザン な スガタ を いつも セイキチ は ひややか に ながめて、
「さぞ オイタミ で がしょう なあ」
と いいながら、 こころよさそう に わらって いる。
イクジ の ない オトコ など が、 まるで チシゴ の クルシミ の よう に クチ を ゆがめ ハ を くいしばり、 ひいひい と ヒメイ を あげる こと が ある と、 カレ は、
「オマエサン も エドッコ だ。 シンボウ しなさい。 ―――この セイキチ の ハリ は トビキリ に いてえ の だ から」
こう いって、 ナミダ に うるむ オトコ の カオ を ヨコメ で みながら、 かまわず ほって いった。 また ガマン-づよい モノ が ぐっと キモ を すえて、 マユ ヒトツ しかめず こらえて いる と、
「ふむ、 オマエサン は ミカケ に よらねえ ツッパリモノ だ。 ―――だが みなさい、 いまに そろそろ うずきだして、 どうにも こうにも たまらない よう に なろう から」
と、 しろい ハ を みせて わらった。
 
カレ の ネンライ の シュクガン は、 コウキ ある ビジョ の ハダ を えて、 それ へ オノレ の タマシイ を ほりこむ こと で あった。 その オンナ の ソシツ と ヨウボウ と に ついて は、 イロイロ の チュウモン が あった。 ただに うつくしい カオ、 うつくしい ハダ と のみ では、 カレ は なかなか マンゾク する こと が できなかった。 エド-ジュウ の イロマチ に ナ を ひびかせた オンナ と いう オンナ を しらべて も、 カレ の キブン に かなった アジワイ と チョウシ とは ヨウイ に みつからなかった。 まだ みぬ ヒト の スガタカタチ を ココロ に えがいて、 3 ネン 4 ネン は むなしく あこがれながら も、 カレ は なお その ネガイ を すてず に いた。
ちょうど 4 ネン-メ の ナツ の とある ユウベ、 フカガワ の リョウリヤ ヒラセイ の マエ を とおりかかった とき、 カレ は ふと カドグチ に まって いる カゴ の スダレ の カゲ から、 マッシロ な オンナ の スアシ の こぼれて いる の に キ が ついた。 するどい カレ の メ には、 ニンゲン の アシ は その カオ と おなじ よう に フクザツ な ヒョウジョウ を もって うつった。 その オンナ の アシ は、 カレ に とって は とうとき ニク の ホウギョク で あった。 オヤユビ から おこって コユビ に おわる センサイ な 5 ホン の ユビ の トトノイカタ、 エノシマ の ウミベ で とれる ウスベニイロ の カイ にも おとらぬ ツメ の イロアイ、 タマ の よう な キビス の マルミ、 セイレツ な イワマ の ミズ が たえず アシモト を あらう か と うたがわれる ヒフ の ジュンタク。 この アシ こそ は、 やがて オトコ の イキチ に こえふとり、 オトコ の ムクロ を ふみつける アシ で あった。 この アシ を もつ オンナ こそ は、 カレ が ナガネン たずねあぐんだ、 オンナ の ナカ の オンナ で あろう と おもわれた。 セイキチ は おどりたつ ムネ を おさえて、 その ヒト の カオ が ミタサ に カゴ の アト を おいかけた が、 2~3 チョウ ゆく と、 もう その カゲ は みえなかった。
セイキチ の アコガレゴコチ が、 はげしき コイ に かわって その トシ も くれ、 5 ネン-メ の ハル も なかば おいこんだ ある ヒ の アサ で あった。 カレ は フカガワ サガ-チョウ の グウキョ で、 フサヨウジ を くわえながら、 サビタケ の ヌレエン に オモト の ハチ を ながめて いる と、 ニワ の ウラキド を おとなう ケハイ が して、 ソデガキ の カゲ から、 ついぞ みなれぬ コムスメ が はいって きた。
それ は セイキチ が ナジミ の タツミ の ハオリ から よこされた ツカイ の モノ で あった。
「ネエサン から この ハオリ を オヤカタ へ オテワタシ して、 ナニ か ウラジ へ エモヨウ を かいて くださる よう に おたのみ もうせ って………」
と、 ムスメ は ウコン の フロシキ を ほどいて、 ナカ から イワイ トジャク の ニガオエ の タトウ に つつまれた オンナバオリ と、 1 ツウ の テガミ と を とりだした。
その テガミ には ハオリ の こと を くれぐれも たのんだ スエ に、 ツカイ の ムスメ は きんきん に ワタシ の イモウトブン と して オザシキ へ でる はず ゆえ、 ワタシ の こと も わすれず に、 この コ も ひきたてて やって ください と したためて あった。
「どうも ミオボエ の ない カオ だ と おもった が、 それじゃ オマエ は コノゴロ こっち へ きなすった の か」
こう いって セイキチ は、 しげしげ と ムスメ の スガタ を みまもった。 トシゴロ は ようよう 16 か 7 か と おもわれた が、 その ムスメ の カオ は、 フシギ にも ながい ツキヒ を イロザト に くらして、 イクジュウニン の オトコ の タマシイ を もてあそんだ トシマ の よう に ものすごく ととのって いた。 それ は クニジュウ の ツミ と タカラ との ながれこむ ミヤコ の ナカ で、 ナンジュウネン の ムカシ から いきかわり しにかわった みめうるわしい オオク の ダンジョ の、 ユメ の カズカズ から うまれいず べき キリョウ で あった。
「オマエ は キョネン の 6 ガツ-ゴロ、 ヒラセイ から カゴ で かえった こと が あろう がな」
こう たずねながら、 セイキチ は ムスメ を エン へ かけさせて、 ビンゴオモテ の ダイ に のった コウチ な スアシ を シサイ に ながめた。
「ええ、 あの ジブン なら、 まだ オトウサン が いきて いた から、 ヒラセイ へも たびたび まいりました のさ」
と、 ムスメ は キミョウ な シツモン に わらって こたえた。
「ちょうど これ で アシカケ 5 ネン、 オレ は オマエ を まって いた。 カオ を みる の は はじめて だ が、 オマエ の アシ には オボエ が ある。 ―――オマエ に みせて やりたい もの が ある から、 あがって ゆっくり あそんで いく が いい」
と、 セイキチ は イトマ を つげて かえろう と する ムスメ の テ を とって、 オオカワ の ミズ に のぞむ ニカイ ザシキ へ アンナイ した ノチ、 マキモノ を 2 ホン とりだして、 まず その ヒトツ を ムスメ の マエ に くりひろげた。
それ は イニシエ の ボウクン チュウオウ の チョウヒ、 バッキ を えがいた エ で あった。 ルリ サンゴ を ちりばめた キンカン の オモサ に え たえぬ なよやか な カラダ を、 ぐったり コウラン に もたれて、 ラリョウ の モスソ を キザハシ の チュウダン に ひるがえし、 ミギテ に タイハイ を かたむけながら、 いましも テイゼン に けいせられん と する イケニエ の オトコ を ながめて いる キサキ の フゼイ と いい、 テツ の クサリ で シシ を ドウチュウ へ ゆいつけられ、 サイゴ の ウンメイ を まちかまえつつ、 キサキ の マエ に コウベ を うなだれ、 メ を とじた オトコ の カオイロ と いい、 ものすごい まで に たくみ に えがかれて いた。
ムスメ は しばらく この キカイ な エ の オモテ を みいって いた が、 しらずしらず その ヒトミ は かがやき その クチビル は ふるえた。 あやしく も その カオ は だんだん と キサキ の カオ に にかよって きた。 ムスメ は そこ に かくれたる シン の 「オノレ」 を みいだした。
「この エ には オマエ の ココロ が うつって いる ぞ」
こう いって、 セイキチ は こころよげ に わらいながら、 ムスメ の カオ を のぞきこんだ。
「どうして こんな おそろしい もの を、 ワタシ に おみせ なさる の です」
と、 ムスメ は あおざめた ヒタイ を もたげて いった。
「この エ の オンナ は オマエ なの だ。 この オンナ の チ が オマエ の カラダ に まじって いる はず だ」
と、 カレ は さらに ホカ の 1 ポン の ガフク を ひろげた。
それ は 「ヒリョウ」 と いう ガダイ で あった。 ガメン の チュウオウ に、 わかい オンナ が サクラ の ミキ へ ミ を よせて、 アシモト に るいるい と たおれて いる オオク の オトコ たち の ムクロ を みつめて いる。 オンナ の シンペン を まいつつ カチドキ を うたう コトリ の ムレ、 オンナ の ヒトミ に あふれたる おさえがたき ホコリ と ヨロコビ の イロ。 それ は タタカイ の アト の ケシキ か、 ハナゾノ の ハル の ケシキ か。 それ を みせられた ムスメ は、 ワレ と わが ココロ の ソコ に ひそんで いた ナニモノ か を、 さぐりあてたる ココチ で あった。
「これ は オマエ の ミライ を エ に あらわした の だ。 ここ に たおれて いる ヒトタチ は、 ミナ これから オマエ の ため に イノチ を すてる の だ」
こう いって、 セイキチ は ムスメ の カオ と スンブン たがわぬ ガメン の オンナ を ゆびさした。
「ゴショウ だ から、 はやく その エ を しまって ください」
と、 ムスメ は ユウワク を さける が ごとく、 ガメン に そむいて タタミ の ウエ へ つっぷした が、 やがて ふたたび クチビル を わななかした。
「オヤカタ、 ハクジョウ します。 ワタシ は オマエサン の オサッシドオリ、 その エ の オンナ の よう な ショウブン を もって います のさ。 ―――だから もう カンニン して、 それ を ひっこめて おくんなさい」
「そんな ヒキョウ な こと を いわず と、 もっと よく この エ を みる が いい。 それ を おそろしがる の も、 まあ イマ の うち だろう よ」
こう いった セイキチ の カオ には、 イツモ の イジ の わるい ワライ が ただよって いた。
しかし ムスメ の ツムリ は ヨウイ に あがらなかった。 ジュバン の ソデ に カオ を おおうて いつまでも つっぷした まま、
「オヤカタ、 どうか ワタシ を かえして おくれ。 オマエサン の ソバ に いる の は おそろしい から」
と、 イクド か くりかえした。
「まあ まちなさい。 オレ が オマエ を リッパ な キリョウ の オンナ に して やる から」
と いいながら、 セイキチ は なにげなく ムスメ の ソバ に ちかよった。 カレ の フトコロ には かつて オランダ-イ から もらった マスイザイ の ビン が しのばせて あった。
 
ヒ は うららか に カワモ を いて、 8 ジョウ の ザシキ は もえる よう に てった。 スイメン から ハンシャ する コウセン が、 ムシン に ねむる ムスメ の カオ や、 ショウジ の カミ に コンジキ の ハモン を えがいて ふるえて いた。 ヘヤ の シキリ を たてきって ホリモノ の ドウグ を テ に した セイキチ は、 しばらく は ただ うっとり と して すわって いる ばかり で あった。 カレ は イマ はじめて オンナ の ミョウソウ を しみじみ あじわう こと が できた。 その うごかぬ カオ に あいたいして、 10 ネン 100 ネン この イッシツ に セイザ する とも、 なお あく こと を しるまい と おもわれた。 イニシエ の メムフィス の タミ が、 ソウゴン なる エジプト の テンチ を、 ピラミッド と スフィンクス と で かざった よう に、 セイキチ は セイジョウ な ニンゲン の ヒフ を、 ジブン の コイ で いろどろう と する の で あった。
やがて カレ は ヒダリテ の コユビ と クスリユビ と オヤユビ の アイダ に はさんだ エフデ の ホ を、 ムスメ の セ に ねかせ、 その ウエ から ミギテ で ハリ を さして いった。 わかい ホリモノシ の ココロ は ボクジュウ の ナカ に とけて、 ヒフ に にじんだ。 ショウチュウ に まぜて ほりこむ リュウキュウシュ の イッテキ イッテキ は、 カレ の イノチ の シタタリ で あった。 カレ は そこ に わが タマシイ の イロ を みた。
いつしか ヒル も すぎて、 のどか な ハル の ヒ は ようやく くれかかった が、 セイキチ の テ は すこしも やすまず、 オンナ の ネムリ も やぶれなかった。 ムスメ の カエリ の おそき を あんじて むかい に でた ハコヤ まで が、
「あの コ なら もう とうに かえって いきました よ」
と いわれて おいかえされた。 ツキ が タイガン の トシュウ ヤシキ の ウエ に かかって、 ユメ の よう な ヒカリ が エンガン イッタイ の イエイエ の ザシキ に ながれこむ コロ には、 ホリモノ は まだ ハンブン も できあがらず、 セイキチ は イッシン に ロウソク の シン を かきたてて いた。
イッテン の イロ を つぎこむ の も、 カレ に とって は ヨウイ な ワザ で なかった。 さす ハリ、 ぬく ハリ の たび ごと に ふかい トイキ を ついて、 ジブン の ココロ が さされる よう に かんじた。 ハリ の アト は しだいしだい に キョダイ な ジョロウグモ の カタチ を そなえはじめて、 ふたたび ヨ が しらしら と しらみそめた ジブン には、 この フシギ な マショウ の ドウブツ は、 8 ホン の アシ を のばしつつ、 セ イチメン に わだかまった。
ハル の ヨ は、 ノボリクダリ の カワフネ の ロゴエ に あけはなたれて、 アサカゼ を はらんで くだる シラホ の イタダキ から うすらぎはじめる カスミ の ナカ に、 ナカス、 ハコザキ、 レイガンジマ の イエイエ の イラカ が きらめく コロ、 セイキチ は ようやく エフデ を おいて、 ムスメ の セ に ほりこまれた クモ の カタチ を ながめて いた。 その ホリモノ こそ は カレ が セイメイ の スベテ で あった。 その シゴト を なしおえた アト の カレ の ココロ は うつろ で あった。
フタツ の ヒトカゲ は そのまま やや しばらく うごかなかった。 そうして、 ひくく、 かすれた コエ が ヘヤ の シヘキ に ふるえて きこえた。
「オレ は オマエ を ホントウ の うつくしい オンナ に する ため に、 ホリモノ の ナカ へ オレ の タマシイ を うちこんだ の だ。 もう イマ から は ニホンコク-ジュウ に、 オマエ に まさる オンナ は いない。 オマエ は もう イマ まで の よう な オクビョウ な ココロ は もって いない の だ。 オトコ と いう オトコ は、 ミンナ オマエ の コヤシ に なる の だ。………」
その コトバ が つうじた か、 かすか に、 イト の よう な ウメキゴエ が オンナ の クチビル に のぼった。 ムスメ は しだいしだい に チカク を カイフク して きた。 おもく ひきいれて は、 おもく ひきだす カタイキ に、 クモ の アシ は いける が ごとく ゼンドウ した。
「くるしかろう。 カラダ を クモ が だきしめて いる の だ から」
こう いわれて ムスメ は ほそく ムイミ な メ を ひらいた。 その ヒトミ は ユウヅキ の ヒカリ を ます よう に、 だんだん と かがやいて オトコ の カオ に てった。
「オヤカタ、 はやく ワタシ に セナカ の ホリモノ を みせて おくれ、 オマエサン の イノチ を もらった カワリ に、 ワタシ は さぞ うつくしく なったろう ねえ」
ムスメ の コトバ は ユメ の よう で あった が、 しかし その チョウシ には どこ か するどい チカラ が こもって いた。
「まあ、 これから ユドノ へ いって イロアゲ を する の だ。 くるしかろう が ちっと ガマン を しな」
と、 セイキチ は ミミモト へ クチ を よせて、 いたわる よう に ささやいた。
「うつくしく さえ なる の なら、 どんな に でも シンボウ して みせましょう よ」
と、 ムスメ は ミウチ の イタミ を おさえて、 しいて ほほえんだ。
 
「ああ、 ユ が しみて くるしい こと。 ………オヤカタ、 ゴショウ だ から ワタシ を うっちゃって、 2 カイ へ いって まって いて おくれ、 ワタシ は こんな みじめ な ザマ を オトコ に みられる の が くやしい から」
ムスメ は ユアガリ の カラダ を ぬぐい も あえず、 いたわる セイキチ の テ を つきのけて、 はげしい クツウ に ナガシ の イタノマ へ ミ を なげた まま、 うなされる ごとく に うめいた。 キチガイ-じみた カミ が なやましげ に その ホオ へ みだれた。 オンナ の ハイゴ には キョウダイ が たてかけて あった。 マッシロ な アシ の ウラ が フタツ、 その メン へ うつって いた。
キノウ とは うってかわった オンナ の タイド に、 セイキチ は ヒトカタ ならず おどろいた が、 いわれる まま に ヒトリ 2 カイ に まって いる と、 およそ ハントキ ばかり たって、 オンナ は アライガミ を リョウカタ へ すべらせ、 ミジマイ を ととのえて あがって きた。 そうして クルシミ の カゲ も とまらぬ はれやか な マユ を はって、 ランカン に もたれながら おぼろ に かすむ オオゾラ を あおいだ。
「この エ は ホリモノ と イッショ に オマエ に やる から、 それ を もって もう かえる が いい」
こう いって セイキチ は マキモノ を オンナ の マエ に さしおいた。
「オヤカタ、 ワタシ は もう イマ まで の よう な オクビョウ な ココロ を、 さらり と すてて しまいました。 ―――オマエサン は マッサキ に ワタシ の コヤシ に なった ん だねえ」
と、 オンナ は ツルギ の よう な ヒトミ を かがやかした。 その ミミ には ガイカ の コエ が ひびいて いた。
「かえる マエ に もう イッペン、 その ホリモノ を みせて くれ」
セイキチ は こう いった。
オンナ は だまって うなずいて ハダ を ぬいだ。 おりから アサヒ が ホリモノ の オモテ に さして、 オンナ の セナカ は さんらん と した。