2013/11/09

ゴンギツネ

 ゴンギツネ
 
 ニイミ ナンキチ
 
 1
 
 これ は、 ワタシ が ちいさい とき に、 ムラ の モヘイ と いう オジイサン から きいた オハナシ です。
 ムカシ は、 ワタシタチ の ムラ の チカク の、 ナカヤマ と いう ところ に ちいさな オシロ が あって、 ナカヤマ サマ と いう オトノサマ が、 おられた そう です。
 その ナカヤマ から、 すこし はなれた ヤマ の ナカ に、 「ゴンギツネ」 と いう キツネ が いました。 ゴン は、 ヒトリボッチ の コギツネ で、 シダ の いっぱい しげった モリ の ナカ に アナ を ほって すんで いました。 そして、 ヨル でも ヒル でも、 アタリ の ムラ へ でて きて、 イタズラ ばかり しました。 ハタケ へ はいって イモ を ほりちらしたり、 ナタネガラ の、 ほして ある の へ ヒ を つけたり、 ヒャクショウヤ の ウラテ に つるして ある トンガラシ を むしりとって、 いったり、 いろんな こと を しました。
 ある アキ の こと でした。 2~3 ニチ アメ が ふりつづいた その アイダ、 ゴン は、 ソト へも でられなくて アナ の ナカ に しゃがんで いました。
 アメ が あがる と、 ゴン は、 ほっと して アナ から はいでました。 ソラ は からっと はれて いて、 モズ の コエ が きんきん、 ひびいて いました。
 ゴン は、 ムラ の オガワ の ツツミ まで でて きました。 アタリ の、 ススキ の ホ には、 まだ アメ の シズク が ひかって いました。 カワ は イツモ は ミズ が すくない の です が、 ミッカ も の アメ で、 ミズ が、 どっと まして いました。 タダ の とき は ミズ に つかる こと の ない、 カワベリ の ススキ や、 ハギ の カブ が、 きいろく にごった ミズ に ヨコダオシ に なって、 もまれて います。 ゴン は カワシモ の ほう へ と、 ヌカルミミチ を あるいて いきました。
 ふと みる と、 カワ の ナカ に ヒト が いて、 ナニ か やって います。 ゴン は、 みつからない よう に、 そうっと クサ の ふかい ところ へ あるきよって、 そこ から じっと のぞいて みました。
「ヒョウジュウ だな」 と、 ゴン は おもいました。 ヒョウジュウ は ぼろぼろ の くろい キモノ を まくしあげて、 コシ の ところ まで ミズ に ひたりながら、 サカナ を とる、 ハリキリ と いう、 アミ を ゆすぶって いました。 ハチマキ を した カオ の ヨコッチョウ に、 まるい ハギ の ハ が 1 マイ、 おおきな ホクロ みたい に へばりついて いました。
 しばらく する と、 ヒョウジュウ は、 ハリキリアミ の いちばん ウシロ の、 フクロ の よう に なった ところ を、 ミズ の ナカ から もちあげました。 その ナカ には、 シバ の ネ や、 クサ の ハ や、 くさった キギレ など が、 ごちゃごちゃ はいって いました が、 でも ところどころ、 しろい もの が きらきら ひかって います。 それ は、 ふとい ウナギ の ハラ や、 おおきな キス の ハラ でした。 ヒョウジュウ は、 ビク の ナカ へ、 その ウナギ や キス を、 ゴミ と イッショ に ぶちこみました。 そして また、 フクロ の クチ を しばって、 ミズ の ナカ へ いれました。
 ヒョウジュウ は それから、 ビク を もって カワ から あがり ビク を ドテ に おいといて、 ナニ を さがし に か、 カワカミ の ほう へ かけて いきました。
 ヒョウジュウ が いなく なる と、 ゴン は、 ぴょいと クサ の ナカ から とびだして、 ビク の ソバ へ かけつけました。 ちょいと、 イタズラ が したく なった の です。 ゴン は ビク の ナカ の サカナ を つかみだして は、 ハリキリアミ の かかって いる ところ より シモテ の カワ の ナカ を めがけて、 ぽんぽん なげこみました。 どの サカナ も、 「とぼん」 と オト を たてながら にごった ミズ の ナカ へ もぐりこみました。
 いちばん シマイ に、 ふとい ウナギ を つかみ に かかりました が、 なにしろ ぬるぬる と すべりぬける ので、 テ では つかめません。 ゴン は じれったく なって、 アタマ を ビク の ナカ に つっこんで、 ウナギ の アタマ を クチ に くわえました。 ウナギ は、 きゅっ と いって、 ゴン の クビ へ まきつきました。 その トタン に ヒョウジュウ が、 ムコウ から、
「うわぁ ヌスト-ギツネ め」 と、 どなりたてました。 ゴン は、 びっくり して とびあがりました。 ウナギ を ふりすてて にげよう と しました が、 ウナギ は、 ゴン の クビ に まきついた まま はなれません。 ゴン は そのまま ヨコットビ に とびだして イッショウ ケンメイ に、 にげて いきました。
 ホラアナ の チカク の、 ハンノキ の シタ で ふりかえって みました が、 ヒョウジュウ は おっかけて は きません でした。
 ゴン は、 ほっと して、 ウナギ の アタマ を かみくだき、 やっと はずして アナ の ソト の、 クサ の ハ の ウエ に のせて おきました。
 
 2
 
 トオカ ほど たって、 ゴン が、 ヤスケ と いう オヒャクショウ の ウチ の ウラ を とおりかかります と、 そこ の、 イチジク の キ の カゲ で、 ヤスケ の カナイ が、 オハグロ を つけて いました。 カジヤ の シンベエ の ウチ の ウラ を とおる と、 シンベエ の カナイ が、 カミ を すいて いました。 ゴン は、
「ふふん、 ムラ に ナニ か ある ん だな」 と おもいました。
「ナン だろう、 アキマツリ かな。 マツリ なら、 タイコ や フエ の オト が しそう な もの だ。 それに だいいち、 オミヤ に ノボリ が たつ はず だ が」
 こんな こと を かんがえながら やって きます と、 いつのまにか、 オモテ に あかい イド の ある、 ヒョウジュウ の ウチ の マエ へ きました。 その ちいさな、 こわれかけた イエ の ナカ には、 オオゼイ の ヒト が あつまって いました。 ヨソイキ の キモノ を きて、 コシ に テヌグイ を さげたり した オンナ たち が、 オモテ の カマド で ヒ を たいて います。 おおきな ナベ の ナカ では、 ナニ か ぐずぐず にえて いました。
「ああ、 ソウシキ だ」 と、 ゴン は おもいました。
「ヒョウジュウ の ウチ の ダレ が しんだ ん だろう」
 オヒル が すぎる と、 ゴン は、 ムラ の ボチ へ いって、 ロクジゾウ さん の カゲ に かくれて いました。 いい オテンキ で、 とおく ムコウ には オシロ の ヤネガワラ が ひかって います。 ボチ には、 ヒガンバナ が、 あかい キレ の よう に さきつづいて いました。 と、 ムラ の ほう から、 かーん、 かーん と カネ が なって きました。 ソウシキ の でる アイズ です。
 やがて、 しろい キモノ を きた ソウレツ の モノタチ が やって くる の が ちらちら みえはじめました。 ハナシゴエ も ちかく なりました。 ソウレツ は ボチ へ はいって きました。 ヒトビト が とおった アト には、 ヒガンバナ が、 ふみおられて いました。
 ゴン は のびあがって みました。 ヒョウジュウ が、 しろい カミシモ を つけて、 イハイ を ささげて います。 イツモ は あかい サツマイモ みたい な ゲンキ の いい カオ が、 キョウ は なんだか しおれて いました。
「ははん、 しんだ の は ヒョウジュウ の オッカア だ」
 ゴン は そう おもいながら、 アタマ を ひっこめました。
 その バン、 ゴン は、 アナ の ナカ で かんがえました。
「ヒョウジュウ の オッカア は、 トコ に ついて いて、 ウナギ が たべたい と いった に ちがいない。 それで ヒョウジュウ が ハリキリアミ を もちだした ん だ。 ところが、 ワシ が イタズラ を して、 ウナギ を とって きて しまった。 だから ヒョウジュウ は、 オッカア に ウナギ を たべさせる こと が できなかった。 そのまま オッカア は、 しんじゃった に ちがいない。 ああ、 ウナギ が たべたい、 ウナギ が たべたい と おもいながら、 しんだ ん だろう。 ちょっ、 あんな イタズラ を しなけりゃ よかった」
 
 3
 
 ヒョウジュウ が、 あかい イド の ところ で、 ムギ を といで いました。
 ヒョウジュウ は イマ まで、 オッカア と フタリ きり で まずしい クラシ を して いた もの で、 オッカア が しんで しまって は、 もう ヒトリボッチ でした。
「オレ と おなじ ヒトリボッチ の ヒョウジュウ か」
 こちら の モノオキ の ウシロ から みて いた ゴン は、 そう おもいました。
 ゴン は モノオキ の ソバ を はなれて、 ムコウ へ いきかけます と、 どこ か で、 イワシ を うる コエ が します。
「イワシ の ヤスウリ だぁい。 イキ の いい イワシ だぁい」
 ゴン は、 その、 イセイ の いい コエ の する ほう へ はしって いきました。 と、 ヤスケ の オカミサン が ウラトグチ から、
「イワシ を おくれ」 と いいました。 イワシウリ は、 イワシ の カゴ を つんだ クルマ を、 ミチバタ に おいて、 ぴかぴか ひかる イワシ を リョウテ で つかんで、 ヤスケ の ウチ の ナカ へ もって はいりました。 ゴン は その スキマ に、 カゴ の ナカ から、 5~6 ピキ の イワシ を つかみだして、 もと きた ほう へ かけだしました。 そして、 ヒョウジュウ の ウチ の ウラグチ から、 ウチ の ナカ へ イワシ を なげこんで、 アナ へ むかって かけもどりました。 トチュウ の サカ の ウエ で ふりかえって みます と、 ヒョウジュウ が まだ、 イド の ところ で ムギ を といで いる の が ちいさく みえました。
 ゴン は、 ウナギ の ツグナイ に、 まず ヒトツ、 いい こと を した と おもいました。
 ツギ の ヒ には、 ゴン は ヤマ で クリ を どっさり ひろって、 それ を かかえて、 ヒョウジュウ の ウチ へ いきました。 ウラグチ から のぞいて みます と、 ヒョウジュウ は、 ヒルメシ を たべかけて、 チャワン を もった まま、 ぼんやり と かんがえこんで いました。 ヘン な こと には ヒョウジュウ の ホッペタ に、 カスリキズ が ついて います。 どうした ん だろう と、 ゴン が おもって います と、 ヒョウジュウ が ヒトリゴト を いいました。
「いったい ダレ が、 イワシ なんか を オレ の ウチ へ ほうりこんで いった ん だろう。 おかげで オレ は、 ヌスビト と おもわれて、 イワシヤ の ヤツ に、 ひどい メ に あわされた」 と、 ぶつぶつ いって います。
 ゴン は、 これ は しまった と おもいました。 かわいそう に ヒョウジュウ は、 イワシヤ に ぶんなぐられて、 あんな キズ まで つけられた の か。
 ゴン は こう おもいながら、 そっと モノオキ の ほう へ まわって その イリグチ に、 クリ を おいて かえりました。
 ツギ の ヒ も、 その ツギ の ヒ も ゴン は、 クリ を ひろって は、 ヒョウジュウ の ウチ へ もって きて やりました。 その ツギ の ヒ には、 クリ ばかり で なく、 マツタケ も 2~3 ボン もって いきました。
 
 4
 
 ツキ の いい バン でした。 ゴン は、 ぶらぶら あそび に でかけました。 ナカヤマ サマ の オシロ の シタ を とおって すこし いく と、 ほそい ミチ の ムコウ から、 ダレ か くる よう です。 ハナシゴエ が きこえます。 ちんちろりん、 ちんちろりん と マツムシ が ないて います。
 ゴン は、 ミチ の カタガワ に かくれて、 じっと して いました。 ハナシゴエ は だんだん ちかく なりました。 それ は、 ヒョウジュウ と、 カスケ と いう オヒャクショウ でした。
「そうそう、 なあ カスケ」 と、 ヒョウジュウ が いいました。
「ああん?」
「オレ あ、 コノゴロ、 とても、 フシギ な こと が ある ん だ」
「ナニ が?」
「オッカア が しんで から は、 ダレ だ か しらん が、 オレ に クリ や マツタケ なんか を、 マイニチ マイニチ くれる ん だよ」
「ふうん、 ダレ が?」
「それ が わからん の だよ。 オレ の しらん うち に、 おいて いく ん だ」
 ゴン は、 フタリ の アト を つけて いきました。
「ホント かい?」
「ホント だ とも。 ウソ と おもう なら、 アシタ み に こい よ。 その クリ を みせて やる よ」
「へえ、 ヘン な こと も ある もん だなぁ」
 それなり、 フタリ は だまって あるいて いきました。
 カスケ が ひょいと、 ウシロ を みました。 ゴン は びくっと して、 ちいさく なって たちどまりました。 カスケ は、 ゴン には キ が つかない で、 そのまま さっさと あるきました。 キチベエ と いう オヒャクショウ の ウチ まで くる と、 フタリ は そこ へ はいって いきました。 ぽんぽん ぽんぽん と モクギョ の オト が して います。 マド の ショウジ に アカリ が さして いて、 おおきな ボウズアタマ が うつって うごいて いました。 ゴン は、
「オネンブツ が ある ん だな」 と おもいながら イド の ソバ に しゃがんで いました。 しばらく する と、 また 3 ニン ほど、 ヒト が つれだって キチベエ の ウチ へ はいって いきました。 オキョウ を よむ コエ が きこえて きました。
 
 5
 
 ゴン は、 オネンブツ が すむ まで、 イド の ソバ に しゃがんで いました。 ヒョウジュウ と カスケ は また イッショ に かえって いきます。 ゴン は、 フタリ の ハナシ を きこう と おもって、 ついて いきました。 ヒョウジュウ の カゲボウシ を ふみふみ いきました。
 オシロ の マエ まで きた とき、 カスケ が いいだしました。
「サッキ の ハナシ は、 きっと、 そりゃあ、 カミサマ の シワザ だぞ」
「えっ?」 と、 ヒョウジュウ は びっくり して、 カスケ の カオ を みました。
「オレ は、 あれ から ずっと かんがえて いた が、 どうも、 そりゃ、 ニンゲン じゃ ない、 カミサマ だ、 カミサマ が、 オマエ が たった ヒトリ に なった の を あわれ に おもわっしゃって、 いろんな もの を めぐんで くださる ん だよ」
「そう かなあ」
「そう だ とも。 だから、 マイニチ カミサマ に オレイ を いう が いい よ」
「うん」
 ゴン は、 へえ、 こいつ は つまらない な と おもいました。 オレ が、 クリ や マツタケ を もって いって やる のに、 その オレ には オレイ を いわない で、 カミサマ に オレイ を いう ん じゃあ、 オレ は、 ひきあわない なあ。
 
 6
 
 その あくる ヒ も ゴン は、 クリ を もって、 ヒョウジュウ の ウチ へ でかけました。 ヒョウジュウ は モノオキ で ナワ を なって いました。 それで ゴン は ウチ の ウラグチ から、 こっそり ナカ へ はいりました。
 その とき ヒョウジュウ は、 ふと カオ を あげました。 と キツネ が ウチ の ナカ へ はいった では ありません か。 こないだ ウナギ を ぬすみやがった あの ゴンギツネ め が、 また イタズラ を し に きた な。
「ようし」
 ヒョウジュウ は、 たちあがって、 ナヤ に かけて ある ヒナワジュウ を とって、 カヤク を つめました。
 そして アシオト を しのばせて ちかよって、 イマ トグチ を でよう と する ゴン を、 どん と、 うちました。 ゴン は、 ばたり と たおれました。 ヒョウジュウ は かけよって きました。 ウチ の ナカ を みる と、 ドマ に クリ が、 かためて おいて ある の が メ に つきました。
「おや」 と ヒョウジュウ は、 びっくり して ゴン に メ を おとしました。
「ゴン、 オマイ だった の か。 いつも クリ を くれた の は」
 ゴン は、 ぐったり と メ を つぶった まま、 うなずきました。
 ヒョウジュウ は、 ヒナワジュウ を ばたり と、 とりおとしました。 あおい ケムリ が、 まだ ツツグチ から ほそく でて いました。